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中国が犯した2つの誤算~中国株式会社の研究~

2010.09.17(Fri)JBプレス 宮家邦彦

9月7日に起きた中国漁船と海上保安庁巡視船との「衝突事件」は、日中間の大きな外交問題に発展しつつある。この間の日中両国政府の動きを詳しく追っていたら、ふと、日中間で厳しい軋轢が生じた小泉純一郎政権時代のことを思い出した。

 当時、筆者は在北京・日本大使館で広報を担当していたので、記憶は今も鮮明だ。今回は、誤解や批判を恐れず、こうした個人的体験に基づき、この事件を巡る日中当局間のやりとりを改めて検証してみたい。

日中外交について学んだこと!

1. 日中関係は本質的に脆弱である

 日中関係は意外に脆い。文化的な共通点こそ多いが、韓国とは異なり、政治的に共有できる価値観があまりないからだ。

 海辺に作った「砂の城」のように、大波一つでそれまで築いてきた関係は一瞬に崩れる。このことを皮膚感覚で思い知ったのが北京の大使館時代だった。

 評論家なら「けしからん」「砂の城など、なくてもいい」と書けばすむだろうが、現実はそれではすまない。

 13億の中国人と1億3000万の日本人が互いに引っ越せない以上、政府レベルでは、たとえ「砂」であっても「城」を作り続けなければならない。

2. 日中外交の9割は内政問題である

 日中関係では、一つ対応を誤れば国内の反対派が黙っていない。現政権に対する批判が瞬時に吹き出るという点でも両国はよく似ている。

 日中外交のエネルギーの9割は、外交交渉ではなく、国内の潜在的反対者への「丁寧な説明」に注がれるといっても過言ではない。

3. 中国人の面子が潰れれば、反日ナショナリズムに火がつく

 中国では健全なナショナリズムと過激な排外主義の間の「敷居」が日本ほど高くない。特に、公衆の面前でプライドが傷つけられたと感じれば、普段温厚な中国人でも態度を豹変させる。

 とにかく、これはもう「いつ」「なぜ」といった理屈の世界ではないのだ。

4.一度反日感情に火がつけば、収拾は容易ではない

 一党独裁の下で生きる中国人は、常に政治的「立ち位置」に敏感だ。個人同士ならともかく、集団の中で「日本批判」は事実上義務となる。

 下手に日本を擁護しようものなら、逆に袋叩きに遭うのが関の山だ。かくして、一度火のついた反日感情は限界まで拡大していく。

5. 反日運動は容易に反政府運動に転化する

 中国政府が最も恐れるのは、反日運動が制御不能となり、反政府運動に転化することだ。日中双方、特に中国側は、コントロールの限界を見極めつつ、常に政治的「落とし所」を探っている。

 不幸にも日中関係における失敗は、まさにこの「落とし所」の「読み違い」から生ずることが多い。

尖閣諸島付近で何が起きたのか!

続いて、今回の事件を改めて振り返ってみよう。9月7日から16日までの動きを時系列順にまとめたうえで、それぞれにつき筆者のコメントを付した。もちろん、これらは最近の報道・公開情報に基づく筆者の個人的見解である。

9月7日午前、違法操業の中国漁船が立ち入り検査妨害のため海上保安庁巡視船に衝突

9月7日夜、中国外交部次官、丹羽宇一郎大使を呼び(1回目)、「違法な妨害行為を停止すべし」と抗議

9月7日夜、外務省アジア大洋州局長、駐日中国大使に電話で「遺憾の意」を伝達

 発端は中国漁船の日本領海内での違法操業であり、この日も約30隻が領海侵犯したという。中国船に対する立ち入り検査は昨年までほとんどなかったが、本年、特に8月中ごろから急に増えたらしい。

 恐らく、その時点で中国国内の「誰か」が尖閣諸島周辺海域での操業を「解禁」したのだろう。

 今回の違法操業は決して偶発事件ではない。この事件の背景には、中国政府最高レベルとは言わないが、少なくとも政府の一部による明確な意図が感じられる。

 このことは、過去数カ月間、人民解放軍海軍が黄海や南シナ海において自己主張を強めていることと無関係ではなかろう。

 これとは別に、今回の日中外交当局間のやりとりについては、なぜ日本大使は夜の「呼び出し」に応じたのか、なぜ外務省は駐日中国大使を呼び出さず、電話だけで抗議したのかといった的外れの批判もあるようだ。

 そもそも日本側の立場は、「領土問題は存在せず」、領海内での違法行為には「国内法を適用」するということだ。アジア局長が粛々と駐日中国大使に「領海侵犯はけしからん」と伝えたことに問題があったとは思えない。

日本政府の対応を「弱腰」と批判する向きもあるが、「違反者を逮捕して拘束すること」のどこが弱腰なのか、筆者にはよく分からない。

 「強く抗議する」姿勢を外に見せる必要があったのは、漁船と乗組員を拘束されて「面子が潰れた」中国側であって、日本政府ではない。

 日本大使は呼び出しに安易に応じるべきでなかったという批判もちょっと違う。外務次官からの呼び出しには嫌でも応じるのが大使の宿命である。

 もちろん愉快な仕事ではないが、日本側に負い目は一切ないのだから、日本大使が自国の立場について堂々と反論するのはむしろ当然ではないか。

 閣僚以外に会うべきではないとの指摘もあるが、外交は相互主義である。駐日中国大使、米国大使だって、外務省の次官、外務審議官の呼び出しには基本的に応じている。過去には「逃げ回った」中国の大使もいたようだが、これこそプロの外交官のすることではないだろう。

中国側の第1の誤算

9月8日未明、海上保安庁、船長を公務執行妨害容疑で逮捕。外交部部長助理、丹羽大使を呼び(2回目)、中国人船長らの即時解放を要求

 船長の逮捕で中国側の面子は「丸潰れ」となった。恐らく中国側は、中国漁船が日本の巡視船に体当たりし、日本側が乗組員と漁船を拘束することまでは予想していなかったのではないか。これが中国側の第1の「誤算」である。

 日本大使が外交部の局長レベルの呼び出しに応じたのはおかしいとの批判もあるが、「部長助理」は局長クラスではなく、次官級の外務審議官に相当する。

 確かに中国の官庁には「次官級」ポストが多すぎるとは思うが、それが嫌なら日本も次官級ポストを増やせばよい。不愉快ではあるが、少なくとも8日の呼び出しに応じたことが「外交慣例上誤り」だったとは思わない。

 9月9日、外交部、無条件の乗組員解放などを要求、漁業監視船の派遣を発表。外交部副部長、丹羽大使を呼び(3回目)、中国人船長らの無条件釈放を要求

中国人の男が広州市にある日本総領事館の壁にビール瓶を投げつける

 9日、中国外交部副部長が再び丹羽大使を呼んでいるが、なぜかこのことを中国側は発表していないらしい。恐らく、中国外交部は「対日弱腰外交」を批判する中国国内の諸勢力を十分コントロールできていないのだろう。

 まさに中国側の右往左往と混乱が目に見えるではないか。

中国側の第2の誤算!

9月10日 北沢俊美防衛相、同日朝までに中国の漁業監視船が撤収したことを確認

中国外交部長、丹羽大使を呼び(4回目)、中国人船長らの無条件釈放を要求

岡田克也外相、「日本大使が呼ばれたことは遺憾だが、冷静に対応する」と発言

 中国側が漁業監視船の派遣を断念したということは、中国側内部の混乱が10日の時点でも続いていたことを意味する。内部で何らかの取引があったのかもしれない。

 いずれにせよ、単なる領海侵犯、違法操業事件で日本大使を4回も呼びつけたことが「けしからん」ことは、岡田外相のおっしゃる通りである。

 中国側の第2の「誤算」は、船長乗組員の拘束が予想以上に長引いたことだろう。今回日本側は従来のような「簡単な取り調べの後、早期に国外退去させる」という定番メニューを提示しなかった。

 それに対する中国側の「焦り」こそが、10日に「外交部長」を使わざるを得なかった最大の理由だと思う。

9月11日 中国国家海洋局調査船、尖閣付近で海上保安庁測量船に調査を中止するよう勧告。中国外交部、ガス田共同開発関連条約の局長級交渉を延期すると発表

9月12日未明、戴秉国・国務委員、丹羽大使を外交部に呼び(5回目)、「賢明な政治決断と中国人漁民と漁船の即時送還」を求める

夜、天津市にある日本人学校に何者かが金属球を打ち込み、窓ガラスが割れる

 中国国内の反日感情はますます高まりつつある。この時点で船員と漁船は拘束されたままだ。これを放置すれば反日デモ、暴動化、反政府行動にもつながりかねない。

 こう危惧した中国政府は、最後の手段として、「国務委員」を担ぎ出さざるを得なくなったのだろう。

未明の呼び出しは非礼か!

 日本国内で批判が集中したのは「呼び出し」の時間である。確かに「未明の呼び出し」は異例であり「けしからん」とは思う。

 だが、よく調べてみると、必ずしも真夜中に突然連絡が入り、直ちに外交部に「呼びつけられた」わけではないようだ。

 中国外交部から日本大使館に連絡があったのは前夜午後8時過ぎだという。双方で日程調整した結果、最終的に会談のタイミングが「未明」となったようだ。

 今回の会談時期が異例だったことはその通りだが、手続き的に異例なことはない。「未明の呼び出し」は、船員14人の釈放が近いことを知った中国側の焦燥感の表れと見るべきではないか。

9月13日 仙谷由人官房長官、深夜の丹羽大使呼び出しについて、「遺憾だ」と発言。中国人船員14人が帰国

中国外交部報道官、14人の帰国は「政府・国民の一体行動の成果」との談話を発表。中国側、全人代常務副委員長の訪日延期を通告

9月14日 外交部報道官、全人代常務副委員長の訪日延期を発表、船長の無条件釈放を要求。丹羽大使、外交部の劉振民部長助理(領海担当)に抗議

9月15日 北京の日本大使館、在留邦人らに注意喚起

9月16日 仙谷官房長官、国連での日中首脳会談見送りを表明

9月18日 反日デモ発生?

 以上の通り、本件を巡る日中双方の動きを冷静に振り返れば、誤算や判断ミスにより国内が必要以上に混乱し、政府内部も右往左往して場当たり的な外交を繰り返したのは日本ではなく、むしろ中国側である。

 そのことを正確に理解しない限り、日中関係の将来は語れないだろう。

 当面日中関係はギクシャクするだろうが、中国側はいずれ必ず折れてくる。日本政府はそれまで粛々と国内法に基づく手続きを進め、法治国家として司法判断を下せばよい。

 その間、国民はつまらない揚げ足取りなどやめて一致団結し、中国側に対し付け込む隙を一切与えないことだ。

 対中外交の最後の教訓は、やはりこの「官民一体」である。
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尖閣諸島領有権問題
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%96%E9%96%A3%E8%AB%B8%E5%B3%B6%E9%A0%98%E6%9C%89%E6%A8%A9%E5%95%8F%E9%A1%8C

サーチナ 9月19日(日)9時52分配信

中国網(チャイナネット)日本語版によると、香港『文匯報』は中国の海軍少将である葛衝氏による論文「外交的対応はここまで、中国最高レベルの警告」を発表した。以下、抜粋内容。

  北京の専門家によれば、12日早朝の中国国務委員による日本大使の緊急呼び出しは、中国の外交担当トップの高官が日本に発した最高レベルの厳しい警告であるという。日本は、14名の船員及び漁船を13日に解放こそしたが、それだけでは、まだ完結したとは言えない。中国が所有権を持つ尖閣諸島(中国名:釣魚島)の海域において、日本が自国の法律を執行したことは、それ自体、国際関連準則に大きく違反することであり、日本がその国内法によって中国側の船長を裁くなどはもってのほかである。中国側としては、領土やその主権についての原則問題においていかなる譲歩もありえないため、日本は直ちに無条件で船長を解放すべきである。

  中国国防大学戦略研究所所長で海軍少将の楊毅教授は、今回の中国漁船拘束事件を、昨今の日中間における一大危機だと言う。この期間中、中国側は最大限感情を抑えて行動していた。中国国務委員が日本大使を緊急に呼び出し、誤った情勢判断をしないよう要請したことについて、楊毅氏はこれを「外交における最終警告であることのアピールである」と考える。

  中国人民大学国際関係学院の金燦栄副院長は、日本が船長を解放しないのには、船長に対する裁判によってその「管轄権」をアピールするとともに国内法の有効性を証明し、中国との外交駆け引きにおける小さな勝利を手にするとともに、政治的摩擦を回避しようとする狙いがあると見ている。

  また、中国社会科学院日本問題専門家の王鍵氏は、船長を開放しないのは、日本が中国との「駆け引き」を行う余地を確保するためだが、日本のこの自国の法律によって日中漁業紛争を解決しようとするやり方が中国に受け入れられるわけがないとしている。(つづく 編集担当:米原裕子)

金燦栄氏は日本が今回見せている強硬姿勢は、長期的に見れば、日本にとっての何の利点もないと指摘する。このような強硬姿勢は、中国の国民の釣魚島問題に対する関心を高め、中国政府の将来的な決定に国内圧力がかかり、結果として中国の海上能力発展のスピードを加速させることにもなりかねない。

  楊毅海軍少将は、中国の反応が政治面に止まり、いまだ軍事的行動に出ていないことは、事態の収拾がつかなくなることを考慮して、日本に与えられた猶予である。日本は情勢を正しく判断し、日中の戦略的互恵関係から適切に事態を処理することが、結局は日本自身のためになるとしている。

  清華大学国際問題研究所の劉江永教授は、「漁船拘束事件に対する両国の反応はともに大きく、これは過去3年間比較的良好だった両国関係にとって大きなターニングポイントになるだろう」と語る。日本側が中国の船長を日本の刑法に基づいて起訴、拘束したこと自体、非常に「異例」のことである。「これにより、中国側は強行的な外交対応に出るしかない。なぜなら、それ以外のいかなる行動も、日本が主張する釣魚島所有権への黙認と見なされてしまうからである」

  すでに退役した元解放軍大佐は、次のように話す。「日本当局が船長を地方裁判所に引き渡すとき、それは、中国に対して、もう話し合いの余地はないという一種の合図になる」

  「実際には、米国がこの事件の裏側で大きな役割を果たしているのかもしれない。その目的は、中国に対する挑戦と抑止である」中国漁船拘束が引き起こした今回の紛争は、ここ最近、中国とその隣国間で起こっている一連の領土問題及び米国との各種論争における最新のものである。中国の固い権利主張を反映すると同時に、中国の影響力拡大に対する外界の警戒感を示している。(おわり 編集担当:米原裕子)
軍事力だけでなく外交力でも歯が立たない日本!

尖閣諸島領有権問題
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%96%E9%96%A3%E8%AB%B8%E5%B3%B6%E9%A0%98%E6%9C%89%E6%A8%A9%E5%95%8F%E9%A1%8C

2010.09.18(Sat)JBpress 川嶋 諭

 今週の感想は一言。よくもまぁ日本はなめられたものだな、である。この時期に必要かどうかも怪しい代表選挙に政権与党がうつつを抜かしている間に、為替市場は1ドル82円台にまで高騰していった。

民主党代表選の隙をつかれた日本!

一方、尖閣諸島では、中国のトロール船が海上保安庁の立ち入り検査を拒否しようと、体当たりを食らわせた。

 隙あらば尖閣諸島に上陸して既成事実を作ろうとの狙いも見え隠れする。実際、ここ数カ月その手の噂が飛び交った。

 しかし、世界の為替ディーラーが、日本の介入を一様に驚いてくれた結果、日本単独の介入にもかかわらずかなりな効果を得ることができた。

 また、尖閣諸島では、まさか日本が中国船を拿捕して船長を逮捕するとは思わなかったというサプライズが、中国政府を慌てさせた。

 その結果、中国へ赴任したばかりの丹羽宇一郎大使は気の毒にも、中国政府に5回も呼びつけられ、しかも5回目は深夜零時過ぎという異例な対応を迫られた。

 こうした事件は、裏を返せば、為替介入にしても中国船の船長逮捕にしても、優柔不断な日本に、しかも政権与党の代表選の最中にはできるわけがないという読みが中国や世界にはあったということだ。

 結果は適切な処置を実行できて、ことなきを得たということになるのだが、一歩対応を間違えれば、日本の国益を大きく損ねる危険性もあったわけで、手放しで喜べることではない。

 実際、今の日本は生き馬の目を抜くような為替ディーラーや日本の領土を虎視眈々と狙う中国からみれば、隙だらけに見えている。

とりわけ、尖閣諸島の問題は看過できない。領土は相手に一度でも実質支配されてしまえば取り戻すことは極めて困難だ。北方領土や竹島で日本は嫌というほど思い知らされているはずなのに、日本は隙を見せすぎる。


明らかに尖閣諸島を取りにきている中国!

 そうした危機感を顕にした記事が今週は多かった。「尖閣問題で日中関係は再び冬の時代に戻るのか」、「丹羽大使の『原罪』」、「尖閣諸島事件で、日中関係は過去最悪に?」など、いずれも高い視聴率を獲得した記事はすべてこの問題をテーマにしている。

 また、「軍事大国へ突き進む中国の暴走を抑えよ」は、直接に中国漁船の尖閣諸島への領海侵犯を扱ったものではないが、中国がいかにして尖閣諸島を我が物にしようとしているかを解説した記事である。

 また、少し毛色が違った英フィナンシャル・タイムズ紙による「9.11より9.15の方が世界を変えた理由」も、尖閣諸島の問題を直接には扱ってはいないが、中国の太平洋への進出が世界の脅威となっていることに警鐘を鳴らしている。

 具体的にはぜひ、個々の記事をお読みいただきたいと思う。しかし、これだけの記事が出てくること自体、日本には隙がありすぎるのだと思わざるを得ない。

 例えば、「丹羽大使の『原罪』」の記事では、中国政府が日本の隙を巧みに突いて、丹羽大使が中国政府の呼び出しにすべて応じ抗議を受けざるを得なくなった理由が説明されている。

政府要人と会うことは経済人として当然の行い
 初めは下級官僚の呼び出しから始め、それに応じたら少しずつ呼び出す側の階級を上げて、日本の丹羽大使が決して断れないように追い込んでいく。もしそれが本当だとすれば“敵ながら”何とも小癪な戦略である。

 しかも、政治という駆け引きに4000年の歴史を刻んでいる中国は、丹羽大使という民間出身の大使の弱点もよく心得ている。

 伊藤忠商事の社長、会長を歴任した丹羽大使は日本を代表するリーダーと言える。清廉潔白さ、決断力、コミュニケーション能力の高さなど、卓越した実力を発揮してきた。中国大使として恐らく完璧に近い人事なのだろう。

 しかし、いかに伊藤忠を離れて日本の代表となったとはいえ、その経歴は消せるものではない。中国側からすれば、丹羽大使が、もちろん日本の代表としてはもちろん、伊藤忠のトップだった人物として、中国政府の要人との会談を断れるはずがないと、その足元を見抜いていた可能性がある。

政府の要人と会うこと自体、企業人としてはプラスではあれ、決してマイナスにはならないからだ。


民間人出身大使の弱点とは何か!

 しかし、国と国との折衝では会わないことも大切な場合もある。今回がまさにそうだったとすれば、中国側の駆け引きが圧倒的に日本を上回っていたことになる。もちろん、丹羽大使に責任は全くない。彼を選んだ日本政府に隙があっただけだ。

 今回の尖閣諸島で発生した事件で、国民に人気の高い日本のある閣僚は「尖閣諸島の領土問題」という失言をした。東シナ海に領土問題はない。日本のメディアは勘違い程度の軽い扱いだったが、これもまた日本の隙としか考えられない。

 失言した閣僚が日本国籍を取得した日本人とはいえ、子供の頃からどのような教育を受けてきたか分からない。本当に無知による失言なのか、隠していた本音が出たものなのか。

 疑うつもりは全くない。しかし、領土問題に万が一はない。失った領土を取り返すことがいかに難しいかは歴史が証明している。隙があるから付け込まれる。

 隙をなくして脇を固めることには海外から文句を言われることは決してないのだから、それだけでも抜かりなく手を打ってほしい。

 いま、東シナ海のガス田に中国が新たな機材を持ち込んでいる。抜け目のない世界は隙を見ればそこを徹底的に叩く。弱いところを叩くのは兵法の原則であり不正ではない。やられてから犬の遠吠えをするようでは、私たちの子孫に申し訳ないと、日本の為政者にはぜひ思ってほしい。
第一列島線
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E4%B8%80%E5%88%97%E5%B3%B6%E7%B7%9A

中国人民解放軍海軍
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E6%B0%91%E8%A7%A3%E6%94%BE%E8%BB%8D%E6%B5%B7%E8%BB%8D


沖縄の基地は削減どころか、ますます重要に!

2010.09.16(Thu)JBプレス 鈴木 通彦

米国・前太平洋軍司令官のティモシー・キーティングが、2008年3月11日に開かれた米上院軍事委員会である証言をしたことがマスコミを賑わし、世間に驚きを与えた。(敬称略)

太平洋のハワイより東を米国、西は中国で分け合おう!

2007年5月の訪中時に中国のさる高官から「ハワイを基点に太平洋を東西に分け、米中で分割管理しよう」と提案されたことを明かしたからである。

 前司令官のキーティングは、中国高官の話を冗談と受け止めつつも、「中国が自国の影響下に置く地域の拡大を望んでいるのは明らかだ」としている。

 それから3年経った今、中国の狙いは現実味を帯び始めている。

 米国防総省は2010年の「4年ごとの国防計画見直し2010QDR」で、「統合エアシーバトル構想(Joint Air-Sea Battle concept)」を開発すると発表した。これは、急激に軍事力を強化し西太平洋支配を目論む中国を牽制する、新たな軍事戦略である。

 現在の中国が繁栄し軍事拡大路線を敷くとともに、混乱し将来どうなるか分からないので、今こそ軍事的な対処をしなければならないとの国防総省の考えが背景に存在する。

今、なぜエアシーバトル(空海戦)なのか
 現在、戦略の具体化段階で詳細も定かでないが、公式発言や信頼性の高い資料を基に分析すれば、かなりインパクトのある戦略で、日本に対する影響も極めて大きいようだ。

 あたかも、7月下旬に行われた日本海での米韓合同演習やこれに対抗して行われた中国軍による黄海での大規模演習、および間もなく黄海で行われる予定の米韓合同演習は、その前哨戦さながらである。

 構想の具体化を進めているのは、89歳になっても国防総省で現役を続けるアンドリュー・マーシャル率いる国防総省ネット評価室や統合参謀本部および海・空軍である。

 細部は明らかでないが、マーシャルの部下であったクレピネビッチほか多くの専門家が執筆した「何故海空戦か?(Why AirSea Battle?)」「海空戦;出発点(AirSea Battle; A Point of Departure)」などの報告資料が出されているので、ある程度推測できる。

1 シーバトル構想の誕生とその背景

 この構想は、マーシャルらが冷戦終結直後に「将来、米軍の前方展開戦略に脅威を与える国家が出現し、前方展開型戦力投射が困難になる」と警鐘を鳴らした1993年11月の報告を出発点にしている。

 それが、20年近く経過した今、米軍と同じような対称能力を西太平洋地域で保有しようとする中国、および核装備を目指しつつも非対称的な能力で狭隘なペルシャ湾支配を目論むイランの出現で再び注目されることになった。

 構想誕生の背景には、中国の対アクセス/地域拒否(Anti-Access / Area Denial:A2/AD)戦略により西太平洋における米軍の前方展開戦略が脅かされているとの認識がある。

軍事バランスを維持すべきか、失っても構わないか!

米国は、対決地域が中国に近い地政学的条件に加え、膨大な軍事投資が重なって徐々に軍事バランスが中国有利に傾斜し、死活的重要地域への軍事アクセスを失うか安定した軍事バランスを維持するかの選択を迫られていると考えている。

 また、強い財政的制約にもかかわらず、米陸海空各軍が整合性を欠きコスト効果の低い過剰な軍事投資を続けようとしているとの国内認識も強く存在する。

 これが、国防投資の非効率だけでなく、教義(ドクトリン)の不一致、装備の互換性や相互運用性の欠如、さらには陸海空の文化の違いによる軍種間摩擦に及んでいるとの認識である。

 特に2010QDRや2010年以降の国防予算で大規模投資を伴うプログラムが中止もしくは削減されつつある海空軍に対する、勢力拡大に躍起になるよりも軍事戦略主導の統一した構想を確立してほしいとの期待感もある。

 悪く言えば、陸軍と海兵隊のアフガニスタン向けの7万5000人の増員に対し、削減される一方の海空軍の不満を沈静化させる策だとの悪評につながるゆえんでもある。

 純軍事的な意味合いも大きい。

 冷戦時代、ソ連の膨大かつ縦深におよぶ機甲戦力に対し、戦術核の先制使用も視野に入れアクティブディフェンス(積極防御)で対抗しようとしていた米国・北大西洋条約機構(NATO)軍にとって、戦術核の全面核戦争への発展の懸念が最大の悩みであった。

 それが、核の敷居を越えることなく通常戦力でソ連の戦力を確実に減殺・阻止できる戦略・戦法と技術の開発、すなわち、陸空軍を中心に全縦深同時打撃によるエアランドバトル構想およびビッグファイブと言われる戦車・装甲戦闘車・攻撃ヘリ・戦闘ヘリ・地対空ミサイルの開発につながった。

 2度の湾岸戦争は、ネットワーク中心の「縦深を見る」目標情報と「縦深を射撃する」打撃手段を吻合させ敵部隊を正確に打撃するエアランドバトル構想の成果として、テレビを通じて世界を驚愕させた。これらの成功体験も拍車をかけている。

 そして、今やそれらすべてが重なって海空軍主導のエアシーバトル構想へとつながりつつあるのである。

2 構想の目的

 統合エアシーバトル構想の目的は、米軍の前方展開を拒否しようとする敵に対し、比類ない能力でこれに対抗し悪い気持ちを起こさせないようにする、すなわち抑止を維持することにある。

 中国は現在、対アクセス戦略と地域拒否戦略という、目的と手段が重複する2つの戦略を取っている。

 対アクセス戦略は、米軍の前方展開基地へのアクセスを拒否する戦略(前方にある陸海空基地への補給と増援の流れを阻止する戦略。最終的な狙いは、米前方航空基地から中国本土への攻撃能力の削減)で、焦点は沖縄の嘉手納やグアムのアンダーセン基地である。

 また、地域拒否戦略は、西太平洋など死活的に重要な地域における米海軍の行動の自由を拒否する戦略で、米空母などの主力目標を第2列島線内で活動させないことに焦点が置かれている。これは、艦載機による攻撃を阻止する狙いである。

中国に対抗心を抱かせないための圧倒的軍事力
 米ドナルド・レーガン政権が1983年にソ連を宇宙防衛構想(SDI)に誘い込む強硬姿勢を見せ、その財政負担の重さからソ連を崩壊させたと同様に、中国に対し、対抗困難なほどの軍事力の構築意思を示すことで対抗意思を殺ぐのが米国の狙いだ。

 一人っ子政策の影響で社会の高齢化が進み、2020年以降になると社会保障費が肥大化して、中国財政に及ぼす軍事費負担が過重になるとの計算も当然加味されている。

 しかし、財政負担に苦しむ米国にとっても、国防費の肥大は諸刃の剣となりかねない死活的な問題であり、コスト効果の高いプログラムの創出と財政負担の抑制が両立させられるかどうかが構想成功の鍵になる。

3 対象地域と対象領域

 対象地域は、第1列島線、第2列島線という中国の航空機の行動半径やミサイルの射程でカバーされる地域、および潜水艦の遊弋と射程1500キロメートルの対艦弾道ミサイル(開発中)で米空母を抑制する地域である。

 しかし、戦闘ネットワークを経由した情報を基に戦う現代の戦闘は、その地域だけでは完結せず、3次元は言うに及ばず、戦力発揮に不可欠な海、空、陸、宇宙、サイバーなど5次元領域に及ぶことになる。

 特に戦力発揮のための結節(ノード)は宇宙に多く存在し、そこが弱点となって狙われやすい。

 6月28日発表の米国の新宇宙政策は、ジョージ・W・ブッシュ大統領の「宇宙兵器の制限」を拒否する政策を転換し、中露の提案する宇宙空間における軍備管理の必要性に賛意を示すものとなった。宇宙を適切に管理しなければ、米国優位が脅かされると考え始めたのである。

今年10月、サイバー司令部が本格運用へ!

また、10月には戦略軍に仮編成したサイバー司令部を本格的に運用し始める。これも頻繁に繰り返される中国のサイバー攻勢をにらんだものである。

 米国優位の宇宙の軍事利用を脅かし、サイバー領域にも迫る中国を強く意識せざるを得ない米国の状況が目に見えるようだ。

 そして、8月16日公表の「中国の軍事力と安全保障の進展に関する年次報告書」は、宇宙やサイバーを含めた、中国海軍の外洋型海軍への転換による対アクセス/地域拒否戦略の強まりに強く警鐘を鳴らすものとなった。

 一方、エアシーバトル構想には協力(期待)国が必要で、その筆頭は日本とオーストラリアである。構想の具体化に伴い、最も地理的に重要な位置を占める日本に対する要求が強まるのは確実だろう。


4 構想が想定する米中の取り得る手段

 中国は、戦略を具体化する手段として、空爆やミサイル攻撃などの直接攻撃手段と、弱点となるノードの機能低下を狙う間接攻撃手段(対衛星攻撃=ASAT=やサイバー攻撃など)を併用する。

 前者の場合、中国は、第1列島線以西において、濃密な短距離ミサイルや短距離攻撃機による艦艇や基地に対する攻撃により地域の完全支配を目論み、第2列島線付近、場合によってそれ以東において、中距離ミサイルや潜水艦による米空母群およびグアムなどの固定基地への攻撃により米軍の地域支配を拒否しようと目論むだろう。

 後者は、先進社会や軍事組織の弱点を徹底的に攻撃し、米軍の機能発揮を殺ぐ殺手鐗(Sha-sou-jian)と言われる中国独自の弱者の戦法として奨励されている。結果として、後者を併用しながら対アクセス/地域拒否戦略を完成させることになる。

 これに対し米国は、先制奇襲の利が中国にあることを前提に、平時から前方基地の抗堪化や宇宙・サイバー領域の靭強化で開戦直後の指揮の断絶を回避し、早期主動権奪回のための攻撃を想定するとともに、次に説明するような、奪回後の長期戦を覚悟した戦略を立案するだろう。

5 2つの作戦段階と作戦方向および作戦行動の候補となる事項

 米軍の作戦は、(1)奇襲を受けることで始まる開戦から主動権奪回までの第1段階と、(2)奪回後、長期にわたる通常戦を有利に遂行する各種の選択肢を創出することにより米戦略を支援する第2段階からなる。

 特徴は、米国が奇襲を受けるものの、時間と総合戦力においては有利だとの認識の下に、徐々に総合戦力の増大を期待する長期戦を覚悟した軍事戦略である。

 第1段階の作戦軸は、(1)奇襲攻撃に耐え、部隊と基地の損害を局限する、(2)人民解放軍(PLA)の戦闘ネットワークへ目潰し攻撃を実施する、(3)PLAの目標評定・打撃のための情報・探知・偵察(ISR)能力や打撃システムを制圧する、(4)空・海・宇宙・サイバー領域で主動性を奪回・維持する、の4つである。

 第2段階の作戦軸は、(1)「遠距離封鎖」作戦を実施する、(2)作戦レベルにおける兵站を維持する、(3)工業生産、特に精密誘導兵器PGM生産を拡大する、である。

 これに伴って海空軍が共同実施する作戦行動は次に列挙するとおりで、これらの能力の開発は、今後新たな研究開発の対象として、コスト効果を踏まえつつ着手される。膨大な資金需要は明らかで、その実行が課題になるだろう。

●グアム、その他の基地や部隊に対するミサイルの脅威を削減する
●長距離攻撃能力の米中アンバランスを是正する(距離的条件の克服)

●水中作戦能力の向上により優位を確保する(潜水艦、水中ロボット、機雷など)
●宇宙配備の指揮・統制、通信、情報・探知・偵察能力の脆弱性を克服する

●装備やデータなどの標準化を進めるとともに、相互運用性を改善する(それぞれの軍種文化の調和も含む)
●軍種を超えて電子戦能力を向上する

●サイバー攻撃能力を向上する
●指向性エネルギー兵器の開発を促進する

6 日本への影響

 米国の掲げるエアシーバトル構想は、構想主導のインパクトの大きい戦略で、中国に対する政治的、軍事的刺激も大きい。今後、米中間では、経済・政治的な協調と並行しつつ、西太平洋地域における軍事的な綱引きも激化するだろう。

 それゆえ、狭間に立つ日本が、積極的な対米協力も対米協力の拒否もともに困難に陥る公算は小さくない。

 日本には、下に示す4つが求められるだろう。

(1)基地の提供と抗堪化
(2)自衛隊の能力強化(対潜戦能力、機雷敷設・処理能力、水中戦能力、ミサイル防衛能力、南西諸島の確保能力、戦略機動力、指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・探知・偵察=C4ISR能力)

(3)構想具体化のための資金の提供
(4)構想への積極的参加

そして、これらの提供の可否が、対米安全保障協力のリトマス試験紙になる。そのことは、普天間だけに限らない極東地域における安全保障そのものに対する日本の姿勢を問われる問題になる。

 同時に、沖縄の戦略地理的な位置に益々焦点が当たることになり、逆説のようにその重要性がますます高まるだろう。

 一方、米国にとって、この地域における支配権の確保こそ極めて重要であるが、これらの実現が戦略的、財政的に困難な場合、長期戦略的に防衛線を後方に下げる可能性(南西日本の一時的放棄)も否定できない。

 まさに、膨大な経費負担と同盟国なかんずく日本の協力がカギとなる、極めて難しい戦略に直面することになるわけである。

 折しも、米韓で外務・国防大臣による初の2+2会議が開催され、米韓関係が、日米、米豪同様に重要であることが明らかになった。

 さらに、7月25日から4日間にわたり、嘉手納を含む在日米軍基地も利用して今後数カ月かけて行われる演習の一部として、原子力空母ジョージワシントンほか20隻の艦艇、ステルス戦闘機「F-22」200機を含む合計8000人が参加して、米韓合同演習が日本海で行われた。

 いずれ日本の参加も求められようが、日本として、中国の台頭を踏まえ、地域の安全保障と繁栄のシステムをどう構想するかという大きな視点からの対応が必要になるだろう。
アイマン・ザワーヒリー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%92%E3%83%AA%E3%83%BC

世界貿易センター爆破事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E8%B2%BF%E6%98%93%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E7%88%86%E7%A0%B4%E4%BA%8B%E4%BB%B6


時事通信 9月15日(水)20時39分配信

【カイロ時事】テロ組織の情報収集・分析を行う米企業インテルセンターは15日までに、国際テロ組織アルカイダのナンバー2、ザワヒリ容疑者の声明を入手した。この中で同容疑者は米同時テロ9年に関連し、アフガニスタンやイラクでの戦争で「十字軍(欧米諸国)はムジャヒディン(イスラム戦士)の打撃により弱体化し、よろめいている」と述べ、欧米諸国が劣勢に立っていると主張した。
 同容疑者は「聖戦部隊の勝利が明確になり、十字軍は人的出血、財政損失による傷や消耗で弱体化が明確になった」と述べた。



9・11当時よりアメリカは安全だ!

ニューズウィーク日本版 9月13日(月)19時29分配信

同時多発テロから9年──アメリカを本当に弱体化させるのは、テロの脅威を誇大に叫ぶ右派のキャンペーンだ

ファリード・ザカリア(国際版編集長)

 9・11テロ当時に比べて、アメリカは安全になったのか──。簡単に答えが出そうに思えるかもしれない。しかし最近、アメリカの世論は大きく割れている。01年の9・11テロ直後よりむしろ、話が複雑になっている感もある。本稿では、出来る限り公平を期して、この問いに答えてみたい。

 ひとことで言えば、01年よりアメリカは安全になった。90年代、国際テロ組織アルカイダはテロリスト訓練キャンプを運営し、2万人もの戦闘員を送り出した可能性がある。その活動が成功していたのは、世界のほとんどの国がアルカイダを国家安全保障上の深刻な脅威と見なさず、軽く見ていたためだ。

 9・11テロを境に、世界の国々の態度は大きく変わった。各国が打ち出したテロ対策が効果を上げ始めている。例えば旅客機のコックピットのドアを封鎖するようになって、旅客機のハイジャックは極めて実行しにくくなった。

 アメリカはアフガニスタンで軍事作戦を展開し、アルカイダを支援していた政権を倒し、テロリスト訓練キャンプを壊し、山岳地帯に逃げた戦闘員を追跡。ほかの国々と手を携えて、テロ組織の通信網と移動ルート、そしてなにより金の流れを断ち切ってきた。

 こうした措置に関して、ブッシュ前政権の対応は評価できる。その後の行動はともかく、01年と02年の時点でアメリカ国内でテロ対策を強化したこと、そしてアルカイダの掃討に乗り出したことは賢明な判断だったし、成果も上がった。その後、オバマ政権がパキスタンでの戦いを強化したことにより、アルカイダはますます弱体化した。

■イスラム過激派の影響力は減退

 ウサマ・ビンラディン率いるアルカイダ「本体」は、戦闘員400人ほどに縮小。軍事・政治面で象徴的意味のあるアメリカ関係施設を標的に大規模テロを行うことは、もはやできない。

 9・11以降の国際テロは、アルカイダ系を自称する地域レベルの小規模なグループによって実行されるようになった。それに伴い、比較的狙いやすい場所が標的に選ばれる傾向が強まった。バリ島のナイトクラブ、カサブランカやイスタンブールのカフェ、アンマンのホテル、マドリードやロンドンの地下鉄などで起きたテロはその例だ。

 こうした新しいタイプのテロで犠牲になるのは、アメリカの兵士や外交官ではなく、普通の市民。そのため、地元の人々がイスラム過激派に反感を抱くようになった。

 世界の15億7000万人のイスラム教徒の何パーセントかを鼓舞し、とどまることなきジハード(聖戦)の波を生み出す可能性があることこそ、アルカイダの本当の脅威だった。しかし今や、イスラム世界で過激派に対する支持は急激に落ち込んでいる。

 選挙を実施しているイスラム諸国の約半数では、武装勢力となんらかの関わりのある政党が選挙で惨敗する傾向が表れている。世界で最もテロ問題が深刻な国であるパキスタンでさえ、例外でない。世界中のイスラム教指導者たちも近年、自爆攻撃やテロ、アルカイダを繰り返し非難している。

■テロリストの思惑どおりの展開

 もちろん、アメリカが100%安全になったわけではない。そんな状況は、この先も永久に訪れない。自由な社会と新しいテクノロジーが結びつくところに、テロの危険は常について回る。

 もっと安全を高めることも可能だが、そのためには移動、集会・結社、通信の自由の制約をもっと受け入れなくてはならない。極端な話、北朝鮮のような社会にすればテロはまず起きない。

 いま問うべきなのは、アメリカのテロ対策が行き過ぎていないかという点だ。9・11テロ後に政府の権限を大幅に拡大したのは、正しいことだったのか。400人ほどしかメンバーがおらず、国際的な影響力も弱まっている組織に対抗するために、現在のような恒久的なテロ対策機関が本当に必要なのか。

 私はここ数年、この問いを投げ掛け続けてきた。08年には本誌の記事で、アメリカの「大いなる過剰反応」を指摘したが、ほとんど効果はなかった。

 ブッシュ政権時代、アメリカの左派は、この政権がテロ対策で有意義な行動を取れるのだと認めようとしなかった。しかしそれに輪を掛けて問題なのは、大量のイスラム教徒テロリスト(その多くはアメリカ国内にいるという)によりアメリカの安全が重大な脅威にさらされていると、右派が信じ込んでいることだ。

 脅威が差し迫っていると人々に思わせようというキャンペーンのせいで、社会の不安と怒りが高まっている。アメリカで暮らすイスラム教徒たちが疑いの目で見られるようになった。実は、アメリカのイスラム教徒ほど、社会に溶け込んでいるイスラム教徒コミュニティーは世界でも類がないのだが。

 いま起きていることは、まさにテロリストの思惑どおりだ。建物や船舶をいくつか爆破しても、アメリカを直接的に弱体化させることはできない。しかし、ビンラディンは計算していたはずだ。社会の過剰反応を引き出せば、アメリカが自分で自分の首を絞め始めるだろう、と。
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