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自衛隊を正規軍化し、東アジアの不安定要因を払拭せよ!

2010.10.01(Fri)JBプレス 岡本智博

 国内治安さえも米軍に委ねていた1951年の日米安全保障条約(旧安保条約)が改定され、日米同盟の根幹として意義づけられた新安保条約が締結されてから50年が経過した。

 この間に発足した自衛隊では旧軍関係者は既に全員退官しており、その人々から直接の薫陶を受けた人々もほぼ退官してしまった。

  現在の自衛隊には、戦後教育を受け、ややもすると、世界一般の軍人ではない官僚化された人たちで運営されているという、好ましくない傾向が見え隠れする。

 さらに、警察予備隊として発足した自衛隊は、警察予備隊としてのDNAをしっかりと保持しつつ、また、50有余年にわたった政府の防衛・安全保障政策が反映された結果、軍隊的要素と警察的要素を併せ持つこととなった。

 現在の自衛隊は、鵺(ぬえ)のような存在として国際的にも国内的にも認識されているところである。

 そしてこの傾向は、「働く自衛隊」として部隊が海外に展開するにつれ、新たに具体的な制約が自衛隊に課せられ、そのたびに警察予備隊のDNAが掘り起こされていく感がある。

 このような状況下、日米同盟の根幹として締結された新安保条約の、“同盟としての深化”を図るにはどのような問題・課題が存在するのかを考察することは、極めて喫緊かつ重要なことと考える。以下、そのような問題意識に従い筆をすすめることとする。

存在する自衛隊から働く自衛隊へ!

 平成4(1992)年9月17日、自衛隊が初めてカンボジアにおいて平和維持活動(PKO)を実施してから既に18年の時が流れようとしている。これがいわば「存在する自衛隊から働く自衛隊へ」の変化の始まりであった。

 また平成16(2004)年3月、防衛庁(当時)・自衛隊および統合幕僚会議設立50周年を迎えた記念式典において石破茂防衛庁長官(当時)は、「ただ存在するだけの自衛隊の時代は終わった。いよいよ機能する自衛隊になった」という訓辞をされた。

 これもまた、自衛隊によるイラクにおける公共施設の復旧・整備等ならびに米軍に対する輸送支援の開始という変化の始まりであった。

 自衛隊のかかる変化の背景には、冷戦の終焉、伝統型脅威(State-actor)から非伝統型脅威(Non-state actor)へという脅威の変化が存在した。
 
 このような変化は、本来警察に付与されるべき任務と軍隊に付与されるべき任務の重なりを必然的に大きくすることを促し、世界各国は拡大された脅威のパラダイムに効率的に対応すべく、それぞれの国内法理に従って警察活動として対応したり、あるいは軍隊活動の一部として対応したりして今日に至っている。

 端的にいえば、軍事力の平時における活用が一般化し、世界各国は兵員の削減を抑制し多様な任務に対応しようとしている。そして、こうした経緯の中で多用されたのが、MOOTW(Military Operation Other Than War)という言葉であった。

 しかしその半面、「存在する自衛隊」の時代では演習や教育訓練がしっかりと行き届き、行往坐臥の間に“軍人とは”と自問自答する余裕があったが、「働く自衛隊」になった現在は、当面の実任務の遂行に追われて軍人魂を磨く余裕がなくなっている。

 もちろん国連の平和活動への貢献を通じて自衛隊の本来の任務を遂行する技量を練磨することは可能であるが、どうしても偏りが出て自衛官の士気に関わる問題も出始めている。


自衛隊は軍隊なのか警察なのか!

 他方、このような変化は自衛隊という実力組織に極めて深刻な問題、先に述べた問題とは別の問題を引き起こしている。

 国際貢献の必要性から自衛隊は海外において前述のような活動を実施してきたが、その都度、「本格軍隊ではない自衛隊」の軍隊活動をどこまで容認するのかという議論が国会論議の中心となった。

 もとより我が国は憲法第9条第2項に示す通り、「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」のであり、自衛隊は「専守防衛に徹した自衛隊」なのであって、世界各国の常識に従った軍隊ではなく、自衛権行使のための実力組織として存在している。

 例えば、日本の自衛隊には軍法、軍事法廷、軍法会議、軍営倉が存在しない。軍警察が存在しないのである。敵前逃亡など軍の規律違反に対する法的措置は、自衛隊法第123条に示される「懲役7年以下の懲役または禁固」といった類のものである。

 この条文も防衛出動が下令されている状態においての防衛出動命令を受けた者に対しての罰則であり、防衛出動下令以前であれば依願退職は可能となっている。

 こうした法体系が採られているのは、自衛隊が「警察予備隊」として発足したことに淵源する。自国民の犯罪者の取り締まりを任務とする警察の、しかも警察予備としての自衛隊であるから、世界に共通の軍隊としての文化は全く存在しないのである。
 
それに、まず、日本国憲法には「国民の国防に対する義務」規定が存在しない。

 また、警察予備を創設するという意図が発足当初から存在したことから、「武器の使用」についても自国民を対象とする警察よりも、さらに低い程度に抑えられている。その根本的な諸問題を抱えたまま、自衛隊は現在、多くの国際貢献に赴いているのである。

 鵺(ぬえ)のような存在の自衛隊! 

このような経緯から、自衛隊は時には軍隊として、またある時には警察予備隊として活動することを余儀なくされる。現在ソマリア沖で実施されている「海賊対処」活動では、「自衛隊は行政警察権を行使できるが司法警察権は行使できない」とされている。

 従って「司法警察権を保持する海上保安官が自衛艦に同乗して警察活動を実施する」のである。まさしく、自衛隊は警察予備隊なのである。

 任務を通じて海外に生活する機会が多かった筆者が所見するところ、世界各国の人々からすれば、まず全員が「自衛隊は軍隊である」と理解している。こういう筆者もそのような誤解を助長することに図らずも加担している1人であった。

 それは、「英語で説明する自衛隊は完全な軍隊となってしまう」からである。例えば自分の身分を「Lieutenant General」と言ったり、「Infantry」「Artillery」という職種説明をしてしまったりする。

 現実では自衛隊には「中将」も「歩兵」も「砲兵」も存在しない。しかも数年前に海上保安庁が「Japan Coast Guard」と英語名を変えたものだから、ある米軍高官は「いよいよ日本に準軍隊が整備されたね」と語り始めた。

 自衛隊は本格軍隊と理解していたからである。このような自衛隊であるから、前述のように「日本の自衛隊には軍法、軍事法廷、軍法会議、軍営倉が存在しない」と知った米軍中将は、「本当にそれで軍隊なのか」と真面目な顔で質問を返してきた。

 我が国の中でも、憲法9条が厳然として存在しているにもかかわらず、自衛隊は本格軍隊であると認識している者が大多数である。

 そして時の政府は、鵺のような自衛隊の存在を利用して、我が国の安全保障戦略――「あいまい戦略」(Ambiguity Strategy)を採り続けている。

しかし自由民主党は、平成15(2003)年7月に自衛隊を本格的な軍隊として位置づけ、国際貢献(国際活動)を新たな任務に加え、軍事裁判所の設置、国家緊急権の明示等を含む「安全保障についての要綱案」を提言している。

 また民主党の一部でも、自衛隊を本格的な軍隊として位置づけるとともに、通常戦レベルでの日本防衛の任務を段階的に自衛隊が主体的に実施していく中で、施設・区域提供規模の低減やいわゆる「思いやり予算」の見直しを実施していく方向を採ることで、日米安保条約の第5条に示された米国の日本防衛義務と第6条に示された日本の米軍に対する施設・区域の提供という日米両国の義務のバランスを健全化していこうとする考えを打ち出そうと検討しているようである。

 いずれにせよ、国家防衛を「あいまい戦略」に委ねる方法には既に限界が透けて見えているし、このような戦略は国家としての威信をあまりにも蔑ろにしている。

 自衛隊は鵺のような存在から脱却すべきときが来ているし、その方向が日米同盟“深化”の第一歩であると考える。自衛隊が鵺の存在である限り日本は国家としての信用が得られず、世界各国から尊敬の念や信用が得られない。

 最近の我が国経済停滞の根源には、日本という国家に対する世界各国の信用の程度にその類の揺らぎがあるという事実があることを、ここに指摘しておきたい。

 いずれにせよ、日本がこのような「あいまい戦略」を放棄し、自衛隊を本格軍隊と認知する方向が日米同盟の“深化”のための第一歩であることは言うまでもないことなのである。

 逆に自衛隊を警察予備隊DNAを堅持したままの組織として放置するのであれば、世界各国からの信用も、また、米国の日米同盟に対する姿勢も、決して肯定的にはならないと言えよう。

真の同盟のための「西太平洋相互防衛」構想!

 さて、我が国の憲法を改正して自衛隊を本格軍隊として位置づけることができれば、「同盟」の本質として日本および米国が個別的自衛権を行使することはもとより、集団的自衛権を行使することができることは「国連憲章」を引用するまでもなく明らかとなる。

 しかしながら、米国の軍事戦略の展開は地球規模であり、日本が米国と同一歩調を取って地球規模で米国との集団的自衛権行使を追求することになれば、これは日本の国家戦略を危うくすることにつながる。

 自衛隊の軍事力は国家防衛のための実力組織として専念すべきであり、在日米軍基地は東アジア・太平洋地域の平和と安定に貢献することに特化して存在すべきである。

 我が国が米国と一体となって地球規模で「同盟の本質」を全うする考え方は、米国としても望ましいとは思っていないであろう。



これらを考慮して「日米間の真の同盟」を追求するためには、昭和26(1951)年9月8日に「日米安全保障条約」(旧安保条約)が締結されるまでの間に我が国と米国が重ねた議論を改めて思い起こす必要があろう。

すなわちこの件に関し、ディーン・アチソン米国務長官(当時)は「日本はグアムまで防衛する。米国は日本を防衛する。その双務性が基本ではなかろうか」と提案した。

 我が国が第2次世界大戦の教訓として、決して他国を侵略しないという決意を有していることを斟酌して、アチソンは日米同盟の双務性を「西太平洋地域」に限定したのであろう。

 もしこの議論をよしとするのであれば、我が国は自衛隊の海・空戦力を西太平洋において発揮し、米国との「同盟の双務性」を全うするという選択肢が出てくる。

 すなわち、自衛隊の陸上戦力は日本領域および米国の要請があればグアムにおいてのみ発揮され、米国の軍事力展開が地球規模であってもこれを限界とし、日本の軍事力、主として海・空戦力は日本および米国の領域内およびその周辺の公海ならびに公海上空域において発揮されることに限定されることとなる。

 このような場合、日本は米国の実施する世界全般にわたる軍事力行使に「巻き込まれること」を阻止するための措置を明確にしておくことが肝要であろう。

 さらに敷衍すれば、「戦闘の最終的な決は陸上戦力が定める」ことは、先のイラク戦争の例を引くまでもなく当然のことである。

 このような選択肢であるならば、自衛隊は陸上も、海上も、そして航空も、しかるべきレベルにそれぞれの戦力を向上させ、米国との「共同戦闘」を可能にしなくてはならない。

 そして、このような方向が我が国の防衛・安全保障の基本として位置づけられるのであれば、「日米同盟」は明確に同盟関係となり、「同盟の深化」も雄大な一歩を進めていくこととなろう。

 去る平成22(2010)年6月28日(現地時間では27日)、菅直人首相はバラク・オバマ米大統領と会談し、米軍普天間飛行場移設問題を含む日米同盟の深化について合意した。しかし、現行の日米安全保障体制で、真の日米同盟は確立できるのであろうか。

日本からの施設・区域の提供と思いやり予算で米兵の血を当てにする安全保障体制が、本当に日米同盟の深化を生むのであろうか。

「周辺事態」対応措置の強化!

 我が国が有事を迎える前の段階、すなわち、周辺事態に対する対応措置を実施するための「周辺事態安全確保法」は、平成11(1999)年3月24日に施行されたが、自衛隊が本格軍隊として位置づけられるのであれば、当然、新たな「周辺事態安全確保法」の制定が必要となる。

 すなわち、自衛隊が正規の軍隊であれば、あえて後方地域と戦闘地域といった区分を考慮する必要もないし、公海上の捜索・救難も可能である。戦地に向かう戦闘機に対しても給油・弾薬補給・整備も可能となる。

 加えてこれまでのような制約を一切払拭し、国際基準に依拠した武器使用基準を制定し、米軍再展開部隊の受け入れのための民間空港・港湾の指定、戦闘機および艦船に対する給油支援を含む物資の補給・輸送支援等後方支援ならびに弾薬・武器の提供・整備の実施にかかる全面協力、公海を含む機雷の除去など、さらにはこれらを踏まえた「周辺事態下における日米実動演習」を具体化することができる。

 そしてまた、周辺事態において日本が主体的に実施する活動、すなわち、難民の保護、捜索・救難、船舶検査、海外邦人の救出についても公海上は当然のこと、敵の領海であっても実施できるし、実施しなければならない。

 加えて、航行する船舶に対する臨検も国際法に基づいて実施しなければならない。さらに、海外在住の邦人救出についても、事前の外交交渉によって各国と邦人救出のマニュアルを確立しておき、当該国との軍事的連携を確保することができるであろう。

 また、周辺事態として蓋然性が高まり始めている“第2次朝鮮戦争”が生起した場合、日本が締結しているいわゆる「国連軍地位協定」、すなわち、朝鮮戦争参加10カ国(現在8カ国:米国・英国・フランス・オーストラリア・カナダ・タイ・フィリピンなど)に対し、国連軍基地として指定されている横田・座間・横須賀・佐世保・嘉手納・普天間・ホワイトビーチの7カ所(現在は在日米軍基地)の使用を、政府の確固とした施策として推進することができる。

 そのほか、自衛隊と米軍の協力として考えられている「情報交換」「機雷の除去」「海・空域調整」についても、具体的な検討が可能となる。

 そして、特に「電波管理」の権限については、有事を基本とした形態に改めて日米の通信にかかる相互運用を高める施策が推進されることとなろう。

 米国はかつて、「周辺事態安全確保法」の成立を極めて高く評価した。しかし具体策を追求する過程において、多くの障害がその先に広がっていることを認識して落胆した。

従って米国は、本格軍隊としての自衛隊の下に成立する「新周辺事態安全確保法」がいかに東アジア・太平洋地域の安全・安定に寄与するかを十分理解している。

 「新周辺事態安全確保法」の成立とこれに基づく対応措置の具体化は、「日米同盟」の進化および深化に大きく貢献することとなろう。

 しかしその前に、立法化された「周辺事態安全確保法」に基づいた日米の実動訓練は、11年経過した今日でも全く実施されていない。

 日・米・中の三角関係が云々されているが、軍事面で言えば日米はここに述べたように既に緊密な関係にあり、決して正三角形にはならないと言うべきである。

兵器の相互共同運用性(Interoperability)の進化!

 1992年7月、冷戦終結に伴う「アジア・太平洋地域の戦略的枠組み」(EASI)が米国政府から公表された。これに示された4項目は、我が国が通常戦力レベルでの自衛能力を獲得し、併せて日米同盟の深化を推進するうえで極めて貴重な視点を与えてくれる。

 すなわち、米側は、
(1)可能な限りの在日米兵力の削減はあっても、北東アジアにおける安定と抑止に不可欠な基地を米国は確保する、
(2)日本の領海防衛能力と千哩海上交通路能力の向上は容認しても、日本のパワープロジェクション能力の造成は拒否する、
(3)日米間の技術還流は促進するが相互補完性(Non-Complementary)のない兵器体系の日本独自の開発は抑制する、
(4)日米のハードおよびソフト面の相互運用性の向上を図るというものである。

 これら4項目は、米国側から発信されたとはいえ我が国が取るべき方向を考えるうえで、また「日米同盟の深化」を考えるうえで極めて重要なメルクマールとなると考える。

 特に、東アジア・太平洋地域有事において日米共同作戦の実施が不可欠となる状況に至るのであれば、自衛隊および米軍の使用する兵器体系における相互運用性の確保は絶対に必要である。

 例えば海・空戦力の造成にあっては、「F-35」など第5世代戦闘機の導入や3万トン級のDDH(ヘリコプター搭載型護衛艦)の建造は必ず実現させなければならないし、潜水艦などによる米軍と自衛隊の役割分担なども考慮しなくてはならない。

 そして、定められた役割分担に応じた兵器体系の導入も、また、米国軍が推進するトランスフォーメーションにも可能な限り追随することも考慮しなくてはならないであろう。

加えて、相互運用性は単に兵器体系のみにとどまらず、作戦思想・教義(ドクトリン)・軍事教育・訓練の分野にまで深化させる必要がある。

 これらを効率的に実現するためには、日米防衛協議などを利用して日米間の軍事戦略にかかる協議が必要不可欠であるとともに、通常戦力レベルを超えた、いわゆる「米国の核の傘」の運用についても更なる具体化が進捗するであろう。

正規軍と準軍隊が存在するのが当たり前!

 以上、日米同盟の真の同盟化のために考慮すべき課題について縷々述べてきたが、現在の自衛隊はどう見ても軍隊の本質を欠いた準軍事組織でしかない。

 米国は約146万の正規軍と米国内および周辺海域の防衛を任務とする約50万の準軍隊を保持するが、このことはその他の先進諸国においても全く同様である。

 軍隊には正規軍と準軍隊が存在するという極めて初歩的な軍事知識さえ欠如した政治状況の下、自衛隊の実態が次第に明確になるにつれ、両国は「日米同盟」の深刻な再検討を余儀なくされるであろうことを、ここに大きな警鐘とともに注意を喚起する次第である。

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上海万博後に軍事行動に出る危険性も?

JBプレス 2010.09.27(Mon)織田邦男

 那覇地検は、9月7日の海上保安庁巡視船との衝突事件で拘束していた中国人船長を24日、急遽釈放した。船長逮捕以降、中国政府は即時無条件釈放を求め、ヒステリックなまでに次々と報復カードを切ってきた。

実に情けない!ベタ下りの日本外交?

日本大使に対する非礼な深夜の呼び出し、官製と思われるデモ、閣僚級交流停止、ガス田開発交渉延期、スポーツや旅行など民間交流停止、レアアースの輸出停止、挙句の果てには日本のゼネコン社員を軍事施設撮影容疑で拘束するに至った。

 日本政府は当初、法的手続きに従い粛々と対応するとしていたが、ここに至って脅しに屈し、腰砕けの格好だ。まさにマージャンでいう「ベタ下り」である。

 那覇地検が総合的に判断し船長釈放を決定したのであって、政府はこの決定を了としただけだと、政府はメンツを保つために責任回避に躍起であるが、誰も信じていない。政府の狼狽ぶりは見苦しい限りである。

 中国は日本の決定に対し、これまでの日本の「司法プロセスは、すべて違法で無効だ」とし、謝罪と賠償を要求するとさらに追い打ちをかけている。

 強硬措置で脅せば日本は原則を曲げてでも必ず下りるとの確信を中国に与えてしまったことは、今後の日中外交に大きな禍根を残した。

ポーランド侵攻を誘引したチェンバレンの宥和政策!

 中国との領有権問題を抱える東南アジア諸国も、日本の対応には失望したであろう。日本は法治国家としての矜持の欠片もなく、およそ主権を死守するという気概もないという印象を全世界に与えたことも大きな痛手だ。

 今後、尖閣にとどまらず、沖ノ鳥島など日本周辺海域において、中国海軍の無頼漢的傾向に拍車をかけることは間違いない。チェンバレンの宥和政策がヒトラーのポーランド侵攻の誘因となったように、このつけは大きく日本に跳ね返ってくるはずだ。

 そもそも今回の強硬な中国の態度に隠されたものは何であったのか。中国の真の意図が理解できない限り、今回のような戦略なき「その場しのぎ」の対応にならざるを得ない。

 今回の事件は決して偶発事案ではない。南シナ海での中国の動きと見比べてみると、中国の深謀遠慮が見えてくる。実は典型的な中国の領有権獲得パターンの1フェーズなのである。

1970年から80年代にかけて、中国は南沙諸島、西沙諸島を実効支配して南シナ海の支配権を獲得していった。そのパターンはだいたい4つの段階に分けられる。

中国の領土拡大、4つの法則!

第1段階として、領有権を主張し巧みな外交交渉に努める。

 第2段階は、調査船による海洋調査や資源開発等を実施する。

 第3段階は、周辺海域で海軍艦艇を活動させ軍事的プレゼンスを増大させる。

 最終段階の第4段階として、漁民に違法操業をさせたり文民を上陸させて主権碑等を設置させたりする。そして漁民、民間人保護の大義名分の下、最後は武力を背景に支配権を獲得する。

 中国は一党独裁の国であり、党の定めたパターン通りに行動する。ある意味、中国は分かりやすい国である。パターンさえつかめれば、次の一手が読める。今回の尖閣についてもまさにパターン通りの行動なのである。第1段階から振り返ってみよう。

 中国は1969年、東シナ海の海洋調査によって尖閣付近の石油埋蔵の可能性が取りざたされるまでは、全く尖閣諸島の領有権を問題にしていなかった。

1978年、甘すぎた日本外交が火種残した!

 1970年12月30日、中国外交部は突如次のように声明を出している。

 「中華人民共和国外交部は、おごそかに次のように声明するものである。釣魚島、黄尾嶼、赤尾嶼、南小島、北小島などの島嶼は台湾の付属島嶼である。これらの島嶼は台湾と同様、昔から中国領土の不可分の一部である」

 日中平和友好条約交渉時、中国は尖閣諸島の領有権を主張したが、日本は領土問題は存在しないと一貫して門前払いしていた。

 だが、条約締結直前の1978年8月10日、鄧小平は園田直外相との会見で「われわれの世代で解決方法を探し出せなくても、次の世代、次の次の世代が解決方法を探し出せるだろう」と述べた。

これに対し、日本側は「さすがは懐の深い鄧小平」と肯定的に受け入れてしまった。この瞬間から「次世代で解決すべき問題」の存在、つまり領土問題が存在するのを認めたことになってしまった。

50年、100年先を見越して着実に手を打ってくる中国!

まさに50年先、100年先を見通した鄧小平の巧みな外交交渉にやられてしまったわけだ。

 その後、断続的に調査船による海洋調査を実施し、周辺海域で海軍艦艇を活動させ軍事的プレゼンスを増大させるなどして、既成事実を積み重ねているのは報道の通りである。

 この支配権確保パターンからすると、尖閣領有権問題は第3段階まで終わり、第4段階に入りつつある。

 今後、漁民の不法操業がますます増加し、同時に中国海軍の行動がさらに活発になり、民間人、漁民が上陸して主権碑を設置するといったことが予想される。尖閣領有権問題での中国の次の一手を読むため、南シナ海での第4段階を参考に見てみよう。

 中国は南シナ海を支配するためには南沙諸島を確保しなければならないと考えた。南沙諸島には多量の石油資源、豊富な漁場が存在し、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア及びブルネイの6カ国が領有権を主張している。

南沙諸島を巡りベトナムとは軍事衝突に発展!


中国による南沙諸島、西沙諸島の違法な占領に反対して中国大使館の前でシュプレヒコールを挙げるベトナム人〔AFPBB News〕
 1980年代、まず海洋調査船による海洋調査を開始した。87年には海軍艦艇を行動させ、翌88年には南沙諸島の西方のある永暑礁に漁民を上陸させて、中国の領土の証拠になる主権碑を設置した。

 これに抗議したベトナムと軍事衝突になり、ベトナム海軍は3隻のボートを撃沈され、75人が戦死をして敗退に至った。

 中国政府は「自衛の行動であった」と声明を出し、永暑礁をはじめ付近の島を占領して永久施設を構築し、以後海軍部隊を駐留させている。

 1992年米軍がフィリピンから撤退したのを見届けたように、95年には南沙諸島東方に所在するミスチーフ礁に漁民避難目的と称して施設を構築。

 フィリピン政府は主権の侵害であると抗議したものの、中国海軍の方が優勢であり、中国は抗議を無視して中国艦艇や海洋調査船を派遣。強引に建設作業を行い、鉄筋コンクリートの建物、大型船舶が停泊可能な岸壁及びヘリポート等を建設して実効支配を確立している。

西沙群島については1974年、中国は海軍部隊を派遣し難なく実効支配を確保した。

尖閣諸島には次々と中国の漁船が入り込む!

特に紛争にならなかったのは、前年のベトナム戦争終結に伴う米軍の撤退により同海域に生じた力の空白に乗じたという中国の巧みな戦略が功を奏したこと、そして領有権を主張するベトナムも戦後の混乱で中国に抗議する余力がなかったことが挙げられる。

 日本は南シナ海の手口を教訓として中国の次の一手を予測し、対応準備をしておかねばならない。

 中国政府は今回、尖閣の領有権を主張し続けた結果として日本が折れたという事実を大いなる成果として、さらにこれにつけ込むはずである。

 まず、大量の中国漁船が尖閣の領海内に堂々と入り、違法操業をすることが予想される。報道を見ても帰国した船長は英雄扱いである。「彼に続け」そして「みんなで渡れば怖くない」的な民衆心理を中国政府は利用にかかるだろう。

 その際、中国漁船を守るという理由で中国海軍が尖閣周辺に接近してくることも予想しておかねばならない。時には尖閣の領海に入ったりして、日本の態度を瀬踏みすることも考えられる。

 また、民間人が尖閣に上陸し、主権碑を設置したり、灯台や見張り台などの設置を試みたりするかもしれない。これを海上保安庁が阻止し逮捕したりすると、今回以上の強硬な報復カードを持ち出すに違いない。その後はいよいよ中国海軍の出番となる。

日本は決して力の空白をつくってはいけない!

 日本は何を準備し、どう対応すべきか。先ずはパワーバランスに留意し、力の空白をつくらぬことである。

 中国は力の信奉者である。力の空白には躊躇なく入り込むのが力の信奉者の常套手段である。今回の事件も政権交代以降、日米関係がギクシャクし、日米同盟が漂流寸前なのを見透かしたうえでの中国の確信犯的行動と言える。

 領有権に関しては冷静かつ毅然とした態度で臨み、力には力をというファイティングポーズを崩さず、隙を見せぬことが大事である。

 次回また起こったら厳しい対応で臨むと警告を発し、揺るぎない姿勢を表明しておくとともに、挑発的行動をさせない対処力、抑止力を保持しておかねばならない。

問題は、日本は現在、独力で中国に対峙できるだけの外交力、軍事力に乏しいことである。自衛隊はあっても平時の領域警備の法的根拠は与えられておらず、外交の後ろ盾としての軍事力の役割は果たし得ない。



尖閣諸島について日米で早急な共同作戦計画を練れ!

菅直人政権も日本の弱さをつくづく思い知ったことと思う。今こそ、領域警備に係わる自衛隊行動の法的基盤を整備するとともに、日米同盟の再生に全力を傾注しなければならない。

 幸いにも、ヒラリー・クリントン米国務長官は「尖閣諸島には安保条約5条が適用される」と明言した。バラク・オバマ大統領も南シナ海における中国海軍の挑発的行動に対し懸念を表明したところである。

 日米の利害は一致している。早急に日米協議を開始し、尖閣諸島周辺における対応について共同作戦計画を詰め、島嶼防衛に関する日米共同訓練を実施することが求められる。

 その際、日本自身が犠牲を出してでも自国の領土、領海、主権を守るという揺るぎない意志と強い覚悟がなければならない。いかなる同盟であっても、自国を守ろうとしない国との同盟は成り立たない。

 再び事が起きた場合、まずは日本があらゆる手段を講じて初動対応しなければならない。国際法に照らし冷静かつ粛々と対応し、法治国家、民主主義国家としての威厳を示し、国際社会に対し成熟した民主主義国家日本をアピールできるよう行動することが大切である。

「国交断絶もありえた」と怯えては、戦争すら招く危険性がある!

 他力本願では米国は決して尊い若者の血を流してまで日本を守ろうとはしない。安保条約5条は自動参戦を義務づけたものではないことを理解しておかなければならない。

 「戦争になるよりはいい。このまま行けば駐日大使の引き上げ、国交断絶もありえた」と首相に近い政府筋が語ったとの報道があるが、これでは中国が戦争をちらつかせた途端、すべて譲歩しなければならなくなる。まさに中国の思うつぼである。

 こういう敗北主義は極めて危険であり、戦争を抑止するどころか、むしろ戦争を誘発する結果となることは多くの歴史が証明している。

 今回、国際社会はいかに中国が理不尽な国かということを自覚したと思う。長期的には中国を国際ルールや国際法を守らせるように誘導し、国際ルールを守る方が結果的に国益にかなうことを思い知らせなければならない。関与政策の絶好のチャンスでもある。

これを契機に中国を誘導する関与政策で国際社会を一致させ、外交、金融、貿易、軍事など、あらゆる手段をリンケージさせた対中国カードを国際社会として切れるよう巧みな外交が日本に求められる。

 関与政策には、関与する側が軍事力や経済力で圧倒されないことが重要である。1国では台頭する中国に圧倒される危険性がある。今こそ、自由民主主義国家による連携が試されている。

北京五輪、上海万博が終わり、中国には自重する必要がなくなった!

北京オリンピックも終わり、上海万博もあと少しで終了する。中国は当面国家的イベントは計画されておらず、国際的に自重した行動をする必要性はなくなった。

 20年にわたる大軍拡で自信をつけた中国が、今後国益をむき出しにして行動し始めることは十分に考えられる。台湾とチベットに対してしか使ってこなかった「核心的利益」という言葉を南シナ海に適用し始めたのもその兆候だろう。

 尖閣諸島も「台湾の付属島嶼」ゆえに中国領土だと主張するように、尖閣領有権問題は台湾問題でもあるのだ。

 尖閣諸島の実効支配が中国の手に落ちると、次は台湾であり沖縄である。

 今後、北東アジアに著しい不安定化を招来するか、日本が中華帝国の軍門に下るか、あるいは現状維持で平和を維持できるのか、今が分水嶺なのかもしれない。「寸土を失うものは全土を失う」の箴言を今一度思い出す時であろう。

胡錦濤
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%A1%E9%8C%A6%E6%BF%A4

習近平
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3

尖閣諸島事件を巡る中国の対応に権力闘争の影!

JBプレス 2010.09.27(Mon)阿部純一

 9月24日、沖縄の那覇地検は、海上保安庁の巡視船に衝突し逮捕された中国漁船船長・セン(「譫」のつくり)其雄容疑者を処分保留で釈放することを決定した。

 日中間の対立はこれで「幕引き」ということになるのだろうが、そこには何かしらの政治取引が行われたことが窺われる。

 準大手ゼネコン、フジタの社員4人が軍事管理区域立ち入り等の理由で中国当局に拘束されたという報道があって間もないだけに、「人質交換」の形で、日中当局者間で妥協が図られた可能性もあり得る。

 また、国連総会出席のため訪米中の菅直人首相、前原誠司外相がそれぞれオバマ米大統領、クリントン国務長官と会談し、オバマ大統領との間で日米同盟の重要性を確認するとともに、クリントン長官からは「尖閣諸島は日米安保が適用される対象」であるとの発言を取り付けた。

 さらにゲーツ国防長官も記者会見で「日米同盟における責任を果たす」と述べるなど、米国のバックアップを受け、尖閣諸島問題で日本のポジションが強化されたことも、日本政府の「政治決着」を後押ししたのかもしれない。


中国漁船は「逮捕されるため」にぶつかった?

 尖閣諸島海域での中国漁船の領海侵犯と海上保安庁の巡視船への「体当たり」による「公務執行妨害」は、どうも「仕組まれた」案件のように思える。当然ながら、仕組んだのは中国側であり、船長の「逮捕」も計算の上だったと思われる。想像をたくましくして分析してみたい。

 想像による分析だから、もちろん確証はない。しかし、尖閣海域での中国漁船の違法操業があとを絶たず、沖縄タイムズ(9月9日)によれば、この事件が起きた7日には、日本領海に30隻が侵入していたとされる。

 その数に対して海上保安庁の巡視船では対応に手が回らず、違法操業の漁船を見つけては警告し、退去を求めるという対応をしてきたようだ。

 要するに、中国漁船は違法操業だけでは逮捕されることはなかった。巡視船への「体当たり」は、「逮捕されるため」の行動と見られても仕方のないものと言える。

 漁業で生計を立てている普通の漁民が、わざわざ逮捕されるような無謀な行動を取るはずがない。だとすれば、海保に逮捕された漁船とその船長を含む乗組員は「仕立てられた」ものと見るべきだろう。


「仕立てられた」船長だから、一般の漁民とは違う。情報機関や軍とのつながりもあり得る。中国が執拗に船長の「即時、無条件の釈放」を要求し続けていることは、そうした可能性があることを逆に宣伝しているようなものだ。

 これがただの漁民で、事件も偶発的なものだったら、温家宝総理まで動員して日本に報復の脅しまでかけて釈放を要求するとは考えられない。勾留が長期化することで、身元が割れることを中国側が恐れたと考えられる。

胡錦濤政権を困惑させたい勢力がいる? では、誰がこれを仕立てたか。

 それは、事件を起こすことで中国国内に「反日」の機運を煽り、胡錦濤政権を困惑させることに利益を見出している勢力ということになろう。しかも、「反日」は愛国主義に絡んで政府当局も取り締まりにくい性質を持つ。

 10月の国慶節の休暇明けには、党中央委総会(17期5中全会)の開催が予定されている。2012年秋の第18回党大会で退陣する胡錦濤のあとを狙う党内権力闘争がすでに始まっているとしても、何ら不思議ではない。

 ここで個人的な昔話をすることを許していただきたい。

 1985年9月初め、筆者は北京大学に留学した。数日して大学内が騒然とし、反日デモが始まった。「日本軍国主義反対」などの垂れ幕が学生寮の窓から吊るされたり、東条英機の絵が描かれたボードが置かれたりし、そうした写真を撮りまくって日本の新聞社の北京支局に提供したことがあった。

 この年の9月3日は抗日戦争勝利40周年である。反日デモは、当時の中曽根首相の靖国神社公式参拝が直接のきっかけとされた。しかも、9月18日は満州事変の引き金となった柳条湖事件の記念日であり、9月は「反日」の機運が高まりやすい。

 しかし、この時の反日デモにも政治的な背景があった。

 親日路線をとった胡耀邦政権への揺さぶりであると同時に、同政権の推進する「改革開放」にブレーキをかけたい党内保守派の策謀があったのである。

中曽根首相は、胡耀邦の置かれた立場を考え、以後、靖国神社参拝を自粛したものの、胡耀邦は87年1月、同じ保守派によって、前年末に起きた学生による民主化要求デモの取り締まりが軟弱だったことを理由に、党総書記のポストから引き摺り下ろされてしまった。


日本の対応は胡錦濤政権に「貸し」をつくったのか? 話を元に戻そう。

 中国共産党内部の政治勢力といえば、共産主義青年団を出身母体とする「団派」と、党の高級幹部子弟という「血統」に物を言わせる「太子党」がよく知られている。

 「団派」の代表格はもちろん胡錦濤主席である。「太子党」はさしずめ国家副主席の習近平だろう。現在、この習近平がポスト胡錦濤の最右翼に位置しており、10月の中央委総会で党中央軍事委副主席に就任すれば、その足場をさらに固められる。

 ただし、そうした既定の路線があるとはいうものの、習近平体制が予定されている次期党大会での党指導部人事権は胡錦濤が握っている。

 胡錦濤体制がスタートしたのは、2002年の第16回党大会だ。その党大会で党総書記を引退した江沢民は、人事権に物を言わせ、政治局常務委員の過半数を江沢民につながる人脈で占める人事を行った。

 中央軍事委員会に至っては、江沢民は2004年まで主席に居座り、軍権を手放そうとしなかった。江沢民は自らの影響力を残すために手段を選ばなかったのである。

 胡錦濤は次期党大会でどのような人事を行うのだろうか。江沢民の前例をカサに、「団派」を政権中枢に多数押し込むのか、それとも「太子党」がそれを阻止するのか。

 「太子党」に連なる勢力が、「江沢民のような真似をさせない」ために胡錦濤に圧力をかけたいと考えたなら、今回のような事態を引き起こす動機にはなるだろう。

 だとすれば、「処分保留」で事件の早期幕引きを図った日本の対応は、胡錦濤政権に「貸し」をつくったことになったと言えるかもしれない。

産経新聞 9月27日(月)12時57分配信

 民主党の松原仁衆院議員らは27日午前、国会内で記者会見し、沖縄・尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件で中国人船長が釈放された問題を受け、尖閣諸島への自衛隊常駐の検討などを政府に求める声明を発表した。声明には同党の中堅・若手の国会議員有志12人が賛同した。

声明は、中国人船長の釈放について「祖国の主権を隣国に蹂躙されたという国民の思いは、日中友好の精神を一気に冷却化させるとともに、政権に対する期待を大きく裏切るものとなっている」と指摘した。

 そのうえで政府に対して、尖閣への自衛隊常駐と漁業中継基地の構築の検討や、海上保安庁が事件の際に撮影したビデオテープの公開などを要求した。

 民主党国会議員有志12人の声明の全文と、12人の顔ぶれは次の通り。

「今回の事案がわが国の国益に与える影響と対応について」

 平成22年9月27日 民主党国会議員有志

 1 今回の決定は、米国、韓国等のメディアの報道にみられるように、国際社会において日本の敗北と位置づけられており、このことによる今後のわが国外交の権威の失墜は耐えがたいものである。

 2 また、祖国の主権を隣国に蹂躙されたという国民の思いは、これまで国交回復以降40年近くかけて築き上げてきた日中友好の精神を一気に冷却化させるとともに、政権に対する期待を大きく裏切るものとなっている。

 3 同時に、中華人民共和国と南シナ海をはじめとする領有権の問題を抱える東南アジア諸国の日本に対する失望感は大きく、また自国の安全保障をより一層米国に依存せざるを得ない姿を晒(さら)したことは、今後のわが国のアジア外交においての権威を著しく失墜させるものである。

 4 こうしたわが国の危機的状況を打開するために、次のような対応をとることを強く求めるものである。

 (1)中国によるレアアースの禁輸についての事実関係や、中国国内におけるさまざまな邦人・企業に対する行為の事実関係について、直接責任ある丹羽大使から聴取する。

 (2)海上保安庁に対する中国漁船の不法行為を撮影したビデオをただちに公開し、東南アジア諸国をはじめとする国際世論を喚起する。

 (3)ガス田「白樺」の掘削の事実を早急に調査し、国際約束に反する事実が見受けられた場合、新たに搬入した機材の撤去を求めるなどあらゆる措置を講じる。

 (4)わが国への領海侵犯、漁業資源・鉱物資源等の不法取得等に対して迅速かつ実効的に対応するために必要な法制度・態勢を整備する。

 (5)尖閣諸島に自衛隊を常駐させるとともに、漁業中継基地などの経済的拠点構築することを検討する。

 有志12人 松原仁▽中津川博郷▽神風英男▽石関貴史▽米長晴信▽木村剛司▽空本誠喜▽柴橋正直▽高邑勉▽長尾敬▽福島伸享▽金子洋一(敬称略)

 以上


「中国の謝罪と賠償の要求は言語道断」民主党有志73人が緊急声明!

産経新聞 2010/09/27 13:05更新

 民主党の松原仁衆院議員らは27日午前、国会内で記者会見し、沖縄・尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件で中国人船長が釈放されたことに抗議する同党の国会議員有志73人の緊急声明を発表した。

 73人の緊急声明は、中国人船長の釈放について「他国からの発言や行動を考慮に入れる必要は法理上一切ない。外交問題を1つの理由とする判断は、検察の権限を大きく逸脱した極めて遺憾な判断」と非難した。

松原氏は会見で「多くの同僚議員が外交的敗北に憤っている」と強調した。

 民主党国会議員有志73人の緊急声明と、73人の顔ぶれは次の通り。

      ◇

 「那覇地検による中国人船長釈放問題についての緊急声明」 平成22年9月27日

 民主党国会議員有志


 24日夕刻にわれわれは「釈放の決定を撤回し、あくまで法と証拠にもとづき継続的な捜査の実施を求めるものである。」と声明を発した。それにも関わらず、那覇地方検察庁は独自の判断によるものとして中国人船長を釈放した。

 尖閣諸島がわが国固有の領土であることは疑いがなく、かつわが国は永年にわたって実効支配を行っており、そもそも領土問題は存在しない。こうしたことを踏まえると、今回の事件の処分にあたり、他国からの発言や行動を考慮に入れる必要は法理上一切ない。

 今回、中国人船長が「処分保留」で釈放されたことによってこの件の捜査は実質的に中断され、近い将来「不起訴」となることが予想される。しかし、容疑者の身柄を拘束し、そのうえで勾留を延長したということは、容疑者にそれ相応の違法行為があったと検察が判断し、刑事訴訟法第208条の「やむを得ない事由があると認め」たことによるはずである。

 にも関わらず、「国民への影響や今後の日中関係も考慮すると、これ以上容疑者の身柄拘束を継続して捜査を続けることは相当ではないと判断し(鈴木那覇地検次席検事)」、急遽釈放するという那覇地検の判断は、刑事訴訟法第248条の「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」とある要件に該当せず、法理的には適当ではない。

 すなわち、外交問題を一つの理由とする今回の判断は、刑事訴訟法の範疇を超える政治的判断であり、検察の権限を大きく逸脱した極めて遺憾な判断といわざるを得ない。このような判断が検察の独断によって行われることは、国民が選んだ政治家が国益を踏まえた政治的・外交的決断を行うという、わが国の議会制民主主義の原則を大きく揺るがすものである。

 われわれ民主党国会議員有志は「処分を保留し釈放」の判断を下したことに強く抗議すると同時に、今後、尖閣諸島近辺でのわが国の漁船などの船舶の安全、諸資源の確保に万全を期すための諸制度・法律の構築をめざす。もとより中華人民共和国からの謝罪と賠償の要求は言語道断であり、「一切応じない」という政府の判断を強く支持する。その上で、立法府に与えられたあらゆる権限を駆使して、真相の究明ならびにわが国の国益にそったあらゆる対応を今後行う決意である。

      ◇

 有志73人 石山敬貴▽畑浩治▽斎藤恭紀▽石森久嗣▽高邑勉▽今井雅人▽空本誠喜▽木内孝胤▽木村剛司▽村上史好▽渡辺義彦▽柳田和己▽向山好一▽福島伸享▽柴橋正直▽花咲宏基▽長尾敬▽中津川博郷▽石関貴史▽松原仁▽金子洋一▽福田昭夫▽神風英男▽中野譲▽加藤学▽小宮山泰子▽玉木雄一郎▽若泉征三▽川口浩▽中野渡詔子▽石原洋三郎▽牧義夫▽若井康彦▽皆吉稲生▽勝又恒一郎▽網屋信介▽高橋英行▽本村賢太郎▽松岡広隆▽福嶋健一郎▽大谷啓▽宮崎岳志▽仁木博文▽神山洋介▽山本剛正▽柿沼正明▽萩原仁▽太田和美▽和嶋未希▽山岡達丸▽石井登志郎▽米長晴信▽石井章▽谷田川元▽豊田潤多郎▽外山斎▽大久保潔重▽舟山康江▽友近聡朗▽行田邦子▽安井美紗子▽大石尚子▽河合孝典▽水戸将史▽打越明司▽梶原康弘▽川内博史▽平山泰朗▽岡本英子▽高松和夫▽小林正枝▽近藤和也▽吉田公一

      (敬称略)

仙石由人
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%99%E8%B0%B7%E7%94%B1%E4%BA%BA

2010.9.25 01:14 産経ニュース

沖縄・尖閣諸島沖での漁船衝突事件で、政府は中国の圧力に屈し、節を曲げた。日本は自ら中国より“格下”の国であることを内外に示し、失われた国益は計り知れない。中国人船長釈放の舞台裏を探った。


首相と外相の不在

 それは、実に奇妙な光景だった。那覇地検の鈴木亨次席検事は24日の記者会見で、中国人船長の釈放理由にわざわざ「日中関係への考慮」を挙げた。

 政府のトップである菅直人首相と外交責任者の前原誠司外相の2人が米ニューヨークでの国連総会出席のため不在中に、地検が外交的配慮に基づく判断を下したというのだ。

 「地検独自の判断だ。それを了とする」

 仙谷由人官房長官は24日午後の記者会見でこう繰り返した。柳田稔法相も「指揮権を行使した事実はない」と強調した。だが、誰が言葉通りに受け取るだろうか。

 政府関係者によると、仙谷氏は24日午前の閣議後、釈放を一部の閣僚ににおわせていた。地検の発表前に仙谷氏は柳田氏と官邸で会談している。

 「僕ら(前原氏を除く)政務三役5人は釈放決定を知らなかった。何でこのタイミングなのかと話し合ったぐらいだ」

 外務省政務三役の一人ですら事前には全く知らされていなかったと強調する。


「米の要請」口実に

 政府筋は29日の勾留(こうりゅう)期限を待たず24日に処分保留の決定が下った背景として、23日午前(日本時間同日夜)ニューヨークで行われた日米外相会談を挙げる。

 同筋によると、クリントン国務長官は尖閣諸島について「日米安保条約が明らかに適用される」と述べる一方で、尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件の早期解決を望む意向を伝えた。

中国側とのハイレベル協議を模索するなど事態打開を探っていた仙谷氏は、前原氏から連絡を受けた「米側の要請」(政府筋)をもっけの幸いとばかりに利用し、船長釈放の口実にした可能性があるというのだ。外務省幹部は「官邸の判断だろう。こういうことは政治判断だ」と吐き捨てた。

 「首相と外相を批判の矢面に立たせないために、2人の不在時に仙谷さんが泥をかぶったのだろう」

 民主党関係者はこう観測を述べる。だが、ことは泥をかぶるで済む問題ではない。これまで弁護士出身の仙谷氏は「司法、捜査と政治との関係について中国に理解を求めたい」と、司法権の独立に言及してきた。首相や外相が不在のなかで進んだ「仙谷氏主導」(政府筋)の釈放劇は、歪(ゆが)んだ政治主導といってもいい。


中国が掘削の可能性

 「日本は法治国家だ。そのことを簡単にゆるがせにできない。(日本が)超法規的措置をとれるのではないか、ということが前提にあるから(中国側は)よりエスカレートしていく」

 玄葉光一郎国家戦略担当相も24日午前の記者会見で胸を張った。だが、那覇地検の釈放方針発表後に官邸を出る際、玄葉氏は記者団に無言を通した。

 閣僚経験者は「地検が日中関係にわざわざ言及したのは、精いっぱいの抵抗ではないか」と解説してみせたが、中国が強く出るとひざを屈する弱い日本というイメージは世界に広まることになる。

 仙谷氏らは船長の釈放で事態の沈静化を期待しているのだろうが、資源エネルギー庁幹部は24日の自民党外交部会で、東シナ海の天然ガス田「白樺」(中国名・春暁)で、中国が掘削作業を開始した可能性が高いとの認識を明らかにした。

 今回の事件は中国が東シナ海での活動をますます活発化させるきっかけとなったかもしれない。

特例」再び

 「那覇地検の決定は、3~4時間後には(米ニューヨーク滞在中の)菅直人首相の耳に入るだろう」

 仙谷由人官房長官は24日午後の記者会見で、いったんはこう述べ、船長釈放決定は首相の耳には届いていないとの認識を示した。

 そしてその後、秘書官が差し入れたメモを見て「首相にはすぐに連絡が届いているということだ」と訂正した。まるで、首相の意思・判断には重きを置いていないかのようだった。

 船長釈放の一報が伝わる約5時間前。23日午後9時(日本時間24日午前10時)ごろ、首相は同行記者団との懇談で笑みを浮かべてみせた。

 「今いろんな人がいろんな努力をしているんだから」

 日中関係の改善策を問われた際の答えがこれだ。

 民主党政権には中国の圧力に屈してルールを曲げた“前科”がある。昨年12月の習近平国家副主席の来日時に「1カ月ルール」を破って天皇陛下との「特例会見」を実現させたことだ。

 「あのときは官邸がぐらついたが今回は仙谷氏をはじめきっちりやった。中国も驚いて交渉レベルを楊潔●(=簾の广を厂に、兼を虎に)外相から戴秉国国務委員に上げて圧力をかけたが政府は踏みとどまっている」

 8日の船長逮捕の数日後、外務省関係者はこう語っていた。だが、その評価は裏切られた。


テープ公開せず

 24日昼、自民党本部での党外交部会。海上保安庁の檜垣幸策刑事課長は中国漁船と海保の巡視船が衝突した瞬間を収めたビデオテープをなぜ公開しないのか、苦しい釈明に追われた。

 高村正彦元外相「ビデオを見たら、(中国漁船側が)ぶつかってきたことが一見して分かるのか」

 檜垣刑事課長「一見して分かります」

 ならばなぜ、貴重な証拠を国際社会にアピールしようとしなかったのか。白黒はっきりつけるのを嫌う事なかれ主義が垣間見える。

政府内でも公開すべきだとの意見はあったが、仙谷氏は「刑事事件捜査は密行性をもって旨とするというのは、刑事訴訟法のいろはの『い』だ」(21日の記者会見)と後ろ向きだった。

 刑事訴訟法47条は「公益上の必要が認められる場合」は証拠書類の公開を認めている。政府は、自国に有利なはずのビデオ公開を「公益」にかなわないと判断したことになる。


基盤揺るがす火種

 政府筋は今回の釈放決定について「電光石火の早業」と評するが、いかに仙谷氏とごく少数の人間にしか知らされていなかったかが分かる。

 「那覇地検(の鈴木亨次席検事)は『今後の日中関係を考慮して』と言ったがこんなことを検事が言っていいのか。あらゆる泥をかぶるというなら、首相臨時代理である仙谷氏が(自分の責任で)言えばいい」

 自民党の石破茂政調会長は24日夕、記者団にこう指摘し、10月1日召集の臨時国会で追及する考えを示した。日本の国際的地位低下を招いた仙谷氏らの独走は、国内でも新たに発足した菅内閣の基盤を揺るがす火種となりそうだ。(阿比留瑠比、ニューヨーク 酒井充)



【敗北 尖閣事件】(中)戦略なく思考停止の日本政府、「中国も冷静に」ばかり !

一片の報道官談話

 沖縄・尖閣諸島沖での漁船衝突事件で、「白旗」を掲げて中国人船長を釈放した日本に、中国はどう応えたか。和解の握手を交わすどころか、くみしやすしとみて、図に乗ってきた。

 中国外務省が日本に「強烈な抗議」として、謝罪と賠償を要求したのは25日未明。緊張に耐えられず、すぐ「落とし所」を探す日本と違い、中国は弱い相手には、より強く出た。

 日本政府の対応は鈍かった。「尖閣諸島がわが国固有の領土であることは、歴史的にも疑いない。領有権問題は存在しない。謝罪や賠償といった中国側の要求は何ら根拠がなく、全く受け入れられない」

 ようやく一片の外務報道官談話が出たのは、半日過ぎた25日午後。しかも訪米中の前原誠司外相は24日(日本時間25日)、ニューヨークでこれを聞かれると「コメントは差し控えたい」と言及を避けた。

 「政治主導」を掲げる政権で、菅直人首相はじめ政権幹部には、決定的に発信力が欠けている。


首相は“人ごと”

 24日午後(日本時間25日朝)、ニューヨーク市内で記者会見した菅直人首相は建前論を繰り返した。

 「(中国船長の釈放は)検察当局が、事件の性質などを総合的に考慮し、国内法に基づいて粛々と判断した結果だ」

 記者団との懇談で、準大手ゼネコン「フジタ」の社員4人が中国内で拘束されたことを聞かれた際も、人ごとのような反応だった。

 「なんか、そういうことがあるという知らせは、受けている」

 一方、中国はどうか。

  温家宝首相は23日の国連総会での一般演説で、国家主権や領土保全では「屈服も妥協もしない」と強調し、国際社会に明確なメッセージを発信した。

 国際社会では「沈黙は金」ではない。こんなありさまでは、尖閣諸島の歴史や事情を知らぬ諸外国に、中国側が正義だという誤解を生みかねない。

 今回の船長釈放劇で「判断に全然タッチしていない」(幹部)とされる外務省の中堅幹部がぼやく。

 「自民党政権時代なら、中国の次の行動に備え、対処方針を策定するよう政治家から指示があった。ところが今回は、ほとんど現場に話は来なかった」


政治主導機能不全

 官邸サイドは否定するが、首相が「超法規的措置はとれないのか」といらだっていたとの報道がある。実際のところ官邸には「ただ、早く沈静化させたいという思いが先行していた」(首相周辺)ようだ。

 政府には、問題解決に向けた見通しも方針もなく、衆知を集める能力もノウハウすらもなかったことになる。これでは「人災」だ。

 「証拠として早く(漁船が衝突した時の)ビデオをみせるべきだった」。鳩山由紀夫前首相も25日、京都市内で記者団に、政府の段取りの悪さを指摘した。

 鳩山氏は続けた。「私が首相当時は、温首相とのホットラインがあった。事件直後に菅首相が腹を割って議論すればよかった」。嫌味を言われる始末だ。

 民主党の岡田克也幹事長は25日、奈良市で記者団に中国の謝罪・賠償要求についてこう語った。「全く納得がいかない。中国にもプラスにならない。中国は冷静に対応した方がいい」

 政府・与党幹部が判で押したように中国に「冷静な対応」を求める。だが中国は日本の慌てぶりを「冷静に」観察し、どこまで押せば、どこまで引き下がるかを見極めながら、強硬姿勢を強めたのではないか。

 25日夜、訪米から帰国した首相を最初に出迎えたのは、首相官邸前に陣取った市民団体の抗議のシュプレヒコールだった。

 そして、仙谷由人官房長官らが公邸に駆け込んだ。尖閣問題の「今後」を協議する中で、メディアが伝える厳しい世論も報告されたという。(阿比留瑠比)


■首脳会議一転

 「証拠も十分で事案も悪質。起訴すべきです!」

 24日午前10時すぎ。東京・霞が関の法務・検察合同庁舎19階の最高検会議室。中国漁船衝突事件で逮捕、送検された中国人船長に対し、起訴を主張する幹部の声が響いた。那覇地検が中国人船長の釈放決定を発表する、わずか4時間前の出来事だった。

 集まったのは、大林宏検事総長、最高検の伊藤鉄男次長検事、勝丸充啓(みつひろ)・公安部長と担当検事に加え、那覇地検の上野友慈(ゆうじ)検事正と福岡高検の岩橋義明次席検事。国会議員の逮捕など重要案件を最終決定する際に開かれた「検察首脳会議」ともいえる顔ぶれだ。

 この時点では、方針が釈放で一致していたわけではない。1時間に及んだ会議。出席者の一人の発言を契機に全員一致での釈放決定への流れが強まった。

 「4人の人命はどうなるんですか。(起訴したら)危ないんじゃないですか」

 準大手ゼネコン「フジタ」の邦人社員4人が軍事管理区域で撮影した疑いで中国当局に拘束されたことが前夜に発覚していた。ある幹部は「人命をてんびんにかければ、起訴という判断はできなかった」と悔しさをにじませた。

 

 ■潮目変わった日

 船長の10日間の勾留(こうりゅう)延長が決定した19日の時点で、検察当局は「起訴」に向け意気軒高だった。「異論を唱える人は誰もいなかった」(幹部)という。

 実際、検察当局は公判に備え、石垣海上保安部が衝突時の様子を撮影したビデオ映像の公開に「待った」をかけていた。「手の内を明かすわけにはいかない」(同)からだ。詰めの捜査のため、最高検は公安部の担当検事を那覇地検へ派遣する方向で調整していた。

 潮目が変わったのは21日だった。中国の温家宝首相が「釈放しなければ、中国はさらなる対抗措置を取る用意がある」と揺さぶりをかけた。間もなく、邦人4人が中国で行方不明との情報がもたらされる。

 「すぐに身柄拘束を想像した」とある検察幹部。このころから検察内では「船長にいい弁護士がつき、容疑を認めさせれば略式起訴で済ませられるのに」と弱気な声が漏れ出した。

 しかし、船長は否認を続け、連日、中国の在日大使館員と接見した。「何か吹き込まれたのは間違いない」と海保関係者。否認のままでは略式起訴にできない。流れは釈放に傾いた。

 

 ■官邸に2度も

 23日には那覇地検が外務省の担当課長から参考人聴取として状況を聞いた。起訴したら日中関係はどうなるか、影響を中心に説明を受けたとみられる。首相官邸からも法務省側に早期解決を望む意向が非公式に伝えられたという。24日には柳田稔法相が2回も官邸に入り、2回目は慰労会を中座して仙谷由人官房長官と1時間面会。帰り際、報道陣からの「尖閣は?」との質問を無視した。

柳田法相が官邸を辞して1時間後の午後2時半すぎ、那覇地検の鈴木亨次席検事は釈放を発表。理由に「日中関係への考慮」を挙げた。検察当局が政治決断を負わされたこともにおわせる、異例の発言だった。

 一方、菅直人首相も仙谷長官も釈放は「検察の判断」と繰り返すのみだ。

 船長釈放から半日後の25日午後、拘束中の邦人4人は北京の日本大使館員と面会できた。検察が憂慮した人命の危機は脱した。

 しかし、検察当局に対し、「中国の圧力に屈した」との国民の失望感は広がっている。折しも大阪地検特捜部の押収資料改竄(かいざん)という前代未聞の事件も発覚。逆風にさらされる中で検察当局が下した今回の判断は、当面の危機を脱する役割は果たしても、さらなる国民の不信という禍根を残す結果となった。

(大竹直樹、千葉倫之)

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