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武器使用に関する制限の緩和と、不必要な武力行使を回避するためのROEが必要!
第6として、武器使用と武力行使の基準について述べる。自衛隊が行動するときの武器使用および武力行使についての制限や制約を緩和もしくは撤廃するべきだ。危機の未然防止・抑止の観点から、現場の状況に即した武器使用基準をつくる必要がある。
自衛隊法は防衛出動するときの武力行使について第88条2項において「(前略)武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする」と定めている。しかし、現実には「国際法および慣例の遵守」からかけ離れて大きな制約を受けている。武器を携帯することすらないまま、危険な海外派遣を強いられているのが現状である。このことは、現場の部隊指揮官および隊員の判断と任務遂行をより難しくし、場合によってはかえって毅然とした対処をためらわせて事態解決を困難に陥らせる可能性がある。武器の使用については、少なくとも国際常識のレベルに従うとするべきであろう。ともすると、これまでの武器使用に関する議論は教条主義的であり、政治的取引に使用されてきた。
このたび、パキスタンの災害救援に派遣された陸自ヘリ部隊は、武器を携行していない。パキスタンの国内情勢が極めて厳しい危険な状態にあることを考えると、あまりに「武器使用」に拘泥した措置である。政府は、ただ「ヘリを持っているから」という理由で自衛隊を派遣したのではないだろう。危険な地域での任務だから、自衛隊を選んだのである。ならば、事態によっては武器を使用することを念頭に置くべきであろう。
同時に、部隊運用基準ROE (Rule of Engagement)を確立するよう、防衛大綱に盛り込む必要がある。ROEは、軍事作戦を実行する現場部隊に対して、政府が発する簡潔な特定の指導である。国家・政府は、軍事活動において、不必要な破壊や殺傷を回避するために、国際法(特に、武力紛争法)を厳格に遵守しなければならない。国家が国際法を遵守するということは、部隊・部隊構成員が国際法を遵守しなければならないことを意味する。これを担保するための基準がROEだ。
冷戦崩壊後は「戦争以外の軍事作戦」(MOOTW:Military Operations Other Than War)が多様化し増加している。自衛隊も、国連による平和維持活動(PKO)や平和執行活動に参加する機会が増加する傾向にある。これらの活動を派遣目的の範囲内に限定し、かつ武器の使用を含めた任務遂行を円滑に行うためにもROEを確立する必要がある。
集団的自衛権の行使を認め日米安保体制の実効性を確保せよ!
第7は、日米同盟の実効性の確保、すなわち集団的自衛権の行使について述べる。
わが国の防衛において日米同盟は、見通しうる将来において最も重要な要件である。独立国として「対等な同盟」を希求するならば、集団的自衛権の行使は必然的に重要な条件となる。同盟は、相互の利益を確認するとともにリスクも共有する双務性を持って成立する。そして、自国の独力による防衛努力を超えた抑止力を構成するトータルパワーとなる。
同盟の真の信頼性は、集団的自衛権の行使を認めることによって、お互いを助け合う意思と行動を一体化できるかどうかにかかっている。基地の提供や思いやり予算という物的なものと米国青年の生命とを等価とするわが国政府の発想は、実際に日本が緊急事態に陥ったときに、同盟破綻を呼び起こすだろう。
安倍元首相が設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が2008年6月に発表した報告書は、以下の4類型について、集団的自衛権の行使を認めるなど政府解釈を変更すれば、現憲法のまま実施できると結論づけた。1)公海における米艦防護、2)米国を狙った弾道ミサイルの迎撃、3)国際的な平和活動における武器使用、4)PKO活動における他国への後方支援。
さらに同報告書は、基本的安全保障政策について、2つの基本方針を策定した。第1は、同盟国たる米国に協力する場合は、それが日米同盟の信頼性を維持・増進する上で必要不可欠であり、わが国の安全保障に資するものに限ること。第2は「集団的自衛権は保有すれども、行使できない」とする現在の政府解釈の変更だ。北朝鮮の長距離弾道ミサイルへの対処や海賊対策の本格化は、集団的自衛権を行使できるようにする憲法解釈変更が必要なことを示している。
集団的自衛権を「持っているが行使できない」とする奇妙な解釈に固執すれば、中国の軍事的台頭と米国の国力の相対的低下、在日米軍基地問題の混乱と不安定化などが積み重なり、いつの日か必ず日米同盟は危機に瀕するだろう。
自衛隊だけで日本は守れない、国民の参加が欠かせない!
ここからは、防衛大綱に示すべき項目の3番め、すなわち自衛隊の役割と運用指針について提案をしたい(前編を参照)。
わが国の憲法は国の防衛について一言も触れておらず、自衛隊に関する条文は全く存在しない。
自衛隊法第3条は、自衛隊の任務を「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする」と定めている。蓋然性の大小は情勢によって異なるが、自衛隊の存在意義は、わが国の主権、国土の保全、国民の安全と財産の保護であり、加えて、海洋国家日本の国益であるシーレーンの保護にある。自衛隊は、この国益を防護するため、第一線に立つ役割を負うプロの実力集団として位置づけられる。
ただし、国を防衛することは、日本国民全体の基本的責任である。ひとり、自衛隊のみの責任ではない。もし侵略を受けたならば、わずか25万人の自衛隊で国防を全うできるものではない。よって、国の防衛に直接・間接にかかわるべき義務を国民に課すための法規的根拠が必要であろう。このため、国家安全保障基本法(仮称)の制定を進めるべきであろう。
国防に命をささげる自衛隊員に名誉を!
自衛官の責任と権限を明確にするために、名誉制度と軍事裁判制度が必要である。自衛官は入隊するときに、「安全第一」ではなく「任務第一」と宣誓する。時には生死にかかわる決断を強いられる職務である。自分個人の安全よりも国家国民の安全を優先して任務を遂行することを求められているだけに、名誉と慰霊の制度について検討する必要がある。
国家の守りに命を捧げた兵士の魂を祭る靖国神社に国家の最高指導者が感謝の念も表わさない現実を国民は見ている。任務に殉じる覚悟をしている多くの隊員の名誉についても良く考えるべきである。
いっぽう、軍事裁判制度について、今後の議論が必要であると考えられる。有事において厳正な規律が保てる自衛隊の体制確保に努める必要がある。わが国の憲法は特別裁判所の設置は認めていない。憲法上無理ならば、「有事における特別な刑法」を制定してもよいだろう。
緊急事態に対処するため、自衛隊に優先権限を認めよ!
自衛隊の役割は有事だけではない。有事に至らないテロ、パンデミック(全世界的流行病)、大規模騒擾、大規模災害、原子力発電所の事故など広域非常事態に対応するのも任務のうちである。しかし、これらに対する法制は未整備だ。いわゆる「緊急事態基本法」の早期の制定が必要である。
緊急事態基本法においては、各種出動および行動発令、または同待機命令を受けたときに自衛隊が優先的に行使できる権限について明確に示すことが重要である。即応態勢が論議されることが多いが、必要な電波の使用周波数の拡大など優先権限が伴わないと即応が不可能な場合がある。特に大規模災害などの緊急事態を予測している段階で待機命令が出た場合における自衛隊の優先権限については、整理して明確にしておく必要がある。
加えて、海上保安庁の統制についての矛盾を解決する必要がある。自衛隊法80条は「(前略)出動命令があつた場合において、特別の必要があると認めるときは、海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れることができる」と定めている。いっぽう海上保安庁法25条は「(前略)海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と規定する。2つの条文の間には実行上の矛盾がある。
4つの理由で必要となる統合運用態勢!
首相をトップとする国家安全保障会議など、軍事に対する政治の指導指揮系統を明確にする必要があることを先に述べた。同時に、「軍令」に相当する自衛隊の指揮運用の系統を明確にするとともに、「一元化」する必要もある。
一元化は、以下の4つの理由から重要となる。第1は、陸海空の3自衛隊が総合力を発揮できるようにするため。いかなる危機事態にも即応できる任務遂行能力を高め、国家国民の安寧を確保・維持することが、自衛隊の存在意義であり目的である。そのためには、一つの目的に3つの自衛隊の戦力を集中する必要がある。
第2の理由は、「専守防衛」から脱皮して、冒頭に述べた「先守防衛」態勢を確立するためである。常設の統合部隊指揮官・統合作戦司令部(PJHQ:Permanent Joint Headquarter)において平時から危機管理・有事に対処するための計画を研究策定し、演錬し、即応できる準備を整えておくことが必要である。最近の危機事態は、突発的であり、事態の推移も速く、多岐にわたる。複合化・多様化しているために、「初期消火」――事態に即応して初期段階で鎮静化し、危害が拡散することを防止すること――が重要な意義を持つようになった。
第3の理由は、民主主義国家である日本において、政治と軍事との適切な関係を維持し、シビリアンコントロールを機能させるためである。国家の安全保障・国防の方針や戦略は、政権によってその都度変化するようであってはならない。「統合幕僚長」が政治の要求をキチンととらえて防衛任務の実務につなげるとともに、自衛隊が持つ「軍事力」の能力と限界を率直・正確に助言することで、的確な政軍関係を確立する役割を果たすべきだ。加えて「統合部隊指揮官」が、最高指揮官である首相の意思決定を速やかに受令して、指揮下にある部隊の作戦指揮につなげる役割を遂行する。
第4の理由は、日米共同作戦を効率的に遂行するためである。米軍は陸海空および海兵隊において、統合運用の実績を既に積み上げている。これに機能的にマッチする態勢を整備する必要がある。
「行政系統」と「軍令系統」が混在している現状から脱し、首相→防衛大臣→統合部隊指揮官→作戦部隊という具合に、一元的に指揮系統を整理した軍事の専門的な指揮・指導組織が必要である。
自衛隊の人材確保、国民の自衛隊理解!
ここからは、防衛大綱に盛り込むべき5点の5番め、防衛力整備の方向性について提言する(前編を参照)。この項では、人材の育成、サイバー戦対応、対潜水艦・機雷戦、策源地攻撃、宇宙、離島、研究開発、シンクタンクに触れる。
自衛隊の任務は、国の防衛を基本としながらも多種多様な方面に拡大・増加している。しかし、任務が増えるいっぽうで、予算と隊員が削減されている。「当面見通しうる将来において、大規模な侵略の蓋然性は低い」(16大綱)という前提で、隊員は与えられた任務を黙々と遂行している。しかし、そろそろヤリクリのゆがみが出てきていないだろうか。隊員は、1人2役、3役をこなしながらギリギリの状態で任務に当たっている。この現実を政治はどう見ているのだろうか?
自衛隊の職務の特殊性故に、人材の養成には、特殊なOJTと術科教育を繰り返す必要がある。したがって教育には相当の時間が必要となる。人的に余裕が無くなると、部隊の実員にシワ寄せするか、一部の隊員に過重な負担を強いるか、教育訓練を削減するか、せざるを得なくなるだろう。人的余裕を確保する施策と相応の予算の確保が必要である。また、人材を育てるためには、訓練演習に使用する燃料・弾薬・機材と訓練海域・空域、演習場の確保がさらに必要である。
国民の自衛隊に対する理解は、これまでの実績の積み上げによって、かなり向上している。高い評価を受け、存在の必要性を認知されてきた。広報の成果も大きい。しかしながら小学校から大学に至る教育の現場では、自衛隊が国民の貴重な財産であり、重要な役割を果たしていることが相変わらず浸透していない。この現実は直視するべきであろう
集めた人材を育てるためには、訓練演習に使用する燃料・弾薬・機材と訓練海域・空域、演習場の確保がさらに必要である。
新たな戦闘領域としてサイバー戦が重要になる!
以下に挙げる様々な戦闘を想定し、準備することが肝要だ。第1は、サイバー戦である。これに備えて、攻撃と防御についてITの知識を持った専門部隊の編成と活動、人材の確保・育成が必要だ。サイバー戦に平時も有事も無い。軍事のみならず政治・経済・社会全体が、日進月歩のサイバー技術を駆使している。
第2は対潜水艦戦、対機雷戦能力である。日本海・東シナ海・黄海などの浅海面、日本列島東の深海域の作戦が重要になる。これに対処するための装備と戦術の開発、人材の育成、ドクトリンの整備が重要だ。中国、ロシア、北朝鮮は、潜水艦と機雷の装備を強化しつつある。日本周辺海域は、地形と海流が複雑にからみあっている。このため潜水艦および機雷などの水中武器や装備を使って攻める側にとっては極めて有利な条件が整っている。反対に対潜水艦戦、対機雷戦をする側(守る側)は複雑な対応が必要である。このため
第3は策源地攻撃だ。敵地攻撃能力として以下を充実させる必要がある――航空機の能力向上、精密誘導兵器の装備、潜水艦発射型の巡航ミサイル(トマホークなど)、地対地ミサイル、情報偵察衛星と情報指揮システム。
第4は宇宙である。北朝鮮の核兵器開発と弾道ミサイル実験は、わが国に深刻な脅威となりつつある。中国についても、台湾海峡問題や東シナ海の海洋進出問題などおいて、日本および米国との関係が厳しくなっている。中国が持つ核弾道ミサイルの影響は将来、深刻となろう。中国は同時に、衛星破壊技術も実用化の域に達したとみられている。
北朝鮮および中国の脅威に対処するための「早期警戒衛星」の整備を充実する必要がある。時間的な余裕はない。かつ莫大な経費を必要とする。各種衛星の整備とともに、C4ISR(指揮、管制、通信、コンピュター、捜索、救難)の再構築に着手することが必要である。
第5は国境離島における戦闘だ。当面の国境離島の防衛警備の重要性にかんがみ、無人島も含めた重要な離島に自衛隊が臨時に駐留もしくは待機するための小規模な施設および所用の機材を設置する。ヘリの臨時離発着場や小船艇の係留施設などが考えられる。
知恵を結集せよ~研究開発とシンクタンクに期待!
日進月歩の武器システムや装備の研究開発のため、人材と予算を配分することが必要である。特に、潜水艦の原子力推進機関の研究開発は、ぼう大な予算と時間と人材を要することから、早期に着手することが望ましい。また、巡航ミサイル、無人偵察機UAV(Unmanned Aerial Vehicle)、無人自走潜航艇UUV(Unmanned Undersea Vehicles)、戦術ロボット、各種宇宙衛星などの研究開発には、産官学の知恵と技術を融合することが必要である。
各種の分野の総合的知見、特に社会科学分野の知恵を結集するために、シンクタンクを育成する必要がある。国際情勢が複雑化し、将来への不確実性・不透明性が増している。こうした環境における安全保障と国防は、防衛省・自衛隊のみで全うできるものではない。世界の多くの国が、産官学に加えて民間のシンクタンクの知恵を借りながら、自国の安全保障態勢の整備を進めている。安全保障・防衛も、最後は人の問題となる。優秀なシンクタンクを育成する施策を検討するとともに、その知見を吸収する仕組みを整備する必要がある。
先を見据えた大綱を望む!
安全保障分野の展開は速い。2004年12月に閣議決定された「16大綱」(注:「16」は平成16年の意)ができて以降の情勢の変化は急激だった。さらに、新大綱の策定が政権交代によって1年間伸ばされた間にも、従来にないテンポで状況は激変した。冷戦崩壊後の国際情勢は冷戦期に比べて、むしろ不安定・不確実なものとなった。冷戦崩壊時には「平和の配当」を期待して明るいニュースに喜んだが、現在、見事に裏切られている。
オバマ米大統領がプラハで行った核廃絶の演説に、世界は再び期待を持った。特にわが国の世論は、明日にも核兵器が世界から一掃されるような幻想を持った。しかし、たぶん、未来の人々は、いっそう複雑で困難な問題を抱えることになるだろう。防衛大綱は、おおむね10年先の防衛事態を想定する。「10年先」は人知の及ぶ範囲であろう。しかし、長期的な洞察力と国家目標を掲げて、遠い将来を見据えた新しい大綱を練り上げてほしいものである。
わが国を防衛する固い決意と10年先の国際情勢をにらんだ防衛の基本方針!
2010年11月2日(火)日経ビジネス 古澤 忠彦(元海将)
菅直人内閣は、年末までに新しい防衛大綱を閣議決定する予定だ。防衛大綱は、日本の中期(5~10年)の安全保障政策の指針を示す重要な文書である。本来なら昨秋、改定する予定の文書だったが、政権に就いたばかりの民主党が1年延期した。
このコラムでは、外交官や自衛隊のOB、国際政治学者などの専門家が考える防衛大綱の「私案」を紹介する。日本は、集団的自衛権の行使を今後も 禁止し続けるべきなのか? 非核三原則、武器輸出三原則などの「原則」を今後も維持し続けるべきなのか? 日米同盟はいまのままでよいのか? 米軍基地は 日本に必要なのか?
安全保障政策に関する議論は、これまでタブー視されてきた。しかし、本来はみなで議論し決めていくものである。このコラムで紹介する私案は、ビジネスパーソンが自分のこととして安全保障政策を考える際の座標軸づくりに役立つはずだ。
昨年夏、自由民主党から民主党へと政権が交代した。「わが国は歴史的な転換点を迎えた」と騒がれた。自民党政権の末期的状況に嫌気のさした国民が非自民党政権を選択。そして、民主党・鳩山政権が生まれた。彼らが提示したマニュフエストは実現性に乏しいものであったが、宣伝戦が効を奏して順風満帆の出港であった。
だが、「鳩山丸」はいきなり「安全保障」という暗礁多い海域に流されて、際どい航海を強いられた。外交、安全保障政策は、政権交代によって急激に変えるべきものではない。しかし、鳩山政権は行き先を明確にしないまま、「日米同盟」の舵を大きく切った。自ら望んで暗礁多い海域に突入してしまった。普天間基地問題に象徴されるように、鳩山政権は、哲学や戦略を持たないままに、わが国の安全保障の基軸である「日米同盟」を破綻の危機にさらしている。そして、政権自身がそれに気付いていない。このことこそが、わが国の真の危機である。
国際情勢が急激に変化し、危機的状況が多様に複雑に生起する中で「21大綱」(注:「21」は平成21年の意)の策定が期待されていた。だが、鳩山政権は、「防衛計画大綱」と「中期防」の作成を1年間延期した。政権交代の成果をことさら強調したかったのであろう。自民党政権下で準備された大綱研究を蹴った。しかし現実には、民主党政権の確たる国家戦略や安全保障政策が出ないまま、大綱策定の期限が近付きつつある。
防衛計画の大綱は、おおむね10年先をめどに防衛力の整備の方向を決めるものであり、将来のわが国の安全保障の態勢を描くものである。10年後およびその先のわが国の国民が安泰に生活を営むことができる態勢を築くため、大綱への期待を述べる。
大綱の位置づけを改めて考えよ!
「防衛計画の大綱」(以下、防衛大綱)は、本来、わが国の安全保障の最高責任者である首相が国家目標と国益を明示し、それを実現するための国家安全保障戦略を示したことを受けて、政府が防衛政策の指針として提示するものである。外交・防衛政策は他の政策に優先して重視するべきものである。大綱は、国家主権の確保、領域の保全、国民の生命・財産の安全を守るという国家と政府の覚悟と決意の表明とも言える。
防衛大綱は、アジア太平洋および世界の安全保障環境の変化を見据えた当面10年間の防衛政策の基本的枠組みを規定する、この防衛政策を実施するために必要となる防衛力の量と質、および円滑な運用の基本的方針を明示しなければならない。しかしながら、これまで防衛大綱は、防衛政策の下位に位置づけられてきた。その理由には次の3つが考えられる。
現行の大綱が抱える3つの問題点!
一つは、「国益とは何か? どう守るのか?」を政治、学会、マスコミがキチンと議論してこなかったことによる。彼らは、先の大戦のトラウマ、周辺国への過剰な配慮、選挙の票にならない、といった理由からあえて触れることを忌避してきた。その結果、国家の存在意義や国益に対する国民の役割、自衛隊の存在意義などを真剣に本質論として論じることがほとんどなかった。
わが国の防衛政策の策定においては、「特異な軍事評論」がかかわってきた。そもそも国防・自衛隊のあり方を政治のレベルで論じるときには「自衛隊による安全確保」を主題にするべきだ。しかし日本では、「軍隊=平和に対する脅威」という視点から「自衛隊からの安全確保」を同時に論じてきた。「軍隊(=自衛隊)からの安全」は学問の世界の話題ならともかくも、実際に部隊や隊員を運用する立場の政治家が政策論として論じるべきではない。政治と軍隊(=自衛隊)の相互に熱い信頼があってこそ、軍隊は任務に邁進できるのである。政治に信頼されていない、常に警戒の目で見られていると感じた途端に、身命を賭して任務に邁進する士気は失せる。
2つ目は、自制的防衛政策が軍事的合理性を過剰に抑制したことである。「非核三原則」、「軍事大国にならない」、「専守防衛」、「攻撃兵器を保有しない」、「集団的自衛権を行使しない」――などの否定形の文言が、日本の防衛政策が自制的であることを顕著に示している。その最たるものが憲法9条の「戦力を保持しない」である。これらの政策的文言を前提にして、政府はこれまでの大綱を策定してきた。
3つ目は、大綱に添付される「別表」の存在である。これは、防衛力の整備規模を数値で表わしたもので、当面の情勢に対応するために保有するべき陸海空自の兵力が一覧表にしてある。。別表があるばかりに「理念なき防衛力整備」に走りがちである。大方の国民は、大綱の本文を読むことなく「別表」のリストのみを見て大綱を理解したつもりになり、これだけの兵力があればわが国は安泰と誤解する。戦車や護衛艦や戦闘機がわが国の防衛上なぜ必要か、どのような役割を果たすのかまで、思いを致すことがない。いわば、大綱は「買い物計画」に堕してきた。
防衛大綱を防衛政策の指針にするためには、まず国家目標および国益とは何かを明確にして国家戦略・国家安全保障戦略を確立することである。これこそ現政権が設置した国家戦略室が策定すべき重要事項である。そして、防衛省が作成する統合長期防衛戦略や中期能力見積もり等の諸検討作業を受けて、政府が大綱を作成する。その中心的役割も国家戦略室が担うべきである。そして、安全保障会議において、首相らが最終的に議決する。
次に、防衛大綱には、以下のことを示すことが重要だ。1)わが国を防衛する固い決意、2)当面10年先までの国際情勢の変化に対応できる防衛政策を策定するための基本的方針、3)自衛隊の役割と運用指針、4)自衛隊以外の組織・機関が果たすべき役割と自衛隊との協力関係、5)防衛力整備の方向性。したがって、別表は大綱から切り離すべきだ。別表に書かれてきた内容は、大綱を受けて策定する「中期防衛力整備計画」に取り入れるべきであろう。
専守防衛を主体的防衛に改めよ!
以下、上記の4つの項目として、具体的にどのような内容を盛り込むべきか、私案を述べる。まずは、先に述べた2)当面10年先までの国際情勢の変化に対応できる防衛政策を策定するための基本的方針に関して、7つの提案をする。
第1に、「専守防衛」を改め「主体的防衛」とするべきだ。「専守防衛」は、自衛隊の運用をきわめて狭く、限定的にしている。現行の大綱は「わが国は国防の基本方針の下に専守防衛に徹し、他国に脅威を与えないことを主眼に防衛力整備を進めている」(出典:16大綱)と定めている。つまり、専守防衛は、相手から攻撃を仕掛けられてから初めて対処する。保持する防衛力は、相手に被害を与えても相手に大きな打撃を与えない程度のものに限定する。作戦形態をもっぱら防勢的なものとし、攻勢的なものは取らない。軍事的合理性を無視して、武力行使、武器の使用あるいは戦術レベルの攻撃にまで過度の制約を課しているわけだ。
そもそも相手に脅威を与えない軍事力は世界に存在しないし無意味である。
専守防衛という考え方は、平和主義を強調するあまり、国家・政府が国民の犠牲を傍観することにつながる。
わが国がたびたび発言してきた「専守防衛」は、すでに周辺国に十分に伝わり、理解されているようだ。先の北朝鮮工作船の行動や尖閣諸島周辺の中国漁船群の傍若無人振りは、「(中国が)軍事的に攻撃しない限り、日本は強権を発動しない」と見透かしていると思われる。このような状態は、一方的な権利侵害を招く可能性が大きい。このことは、北方領土や竹島の不法占拠にも色濃く影を落としていると考えられる。
ミサイルなどによる攻撃からわが国を防護するのに、敵のミサイル基地などを攻撃することが自衛の範囲として認められている。1956年の衆院内閣委員会で、鳩山一郎首相(当時)が「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところではない」と答弁し(実際には船田中防衛庁長官(同)が答弁を代読した)、この考えが認められた。しかし、具体的な法律や装備を整備して国民を守ろうとする施策は実行してこなかった。「ICBM(大陸間弾道ミサイル)や爆撃機の保有はあり得ない」とする国会答弁はそのあかしだ。
中国および北朝鮮の核・弾道ミサイル、サイバー・テロを含むテロ攻撃、領域侵害などの新しい国際紛争環境に対して、米国が持つ攻撃力と抑止力に全面的に依存することはあまりにもリスクが大きい。米国は、国力および軍事力が相対的に低下する予兆があり、中東やアフガンなどに関与した場合には、西太平洋の危機に即応できるとは限らない。このような、論理的に成り立たない専守防衛に代えて、自国の防衛と国際的不正義に対処できる真の意味の「戦略守勢」を基にした「主体的防衛」戦略を打ち出す必要がある。もちろん、外征侵略戦争を行わないことは前提だ。
主体的防衛戦略は、必要な防衛力を自主的・積極的に保有し、反撃を含めた「攻勢的防衛」の態勢を準備することで、わが国の主体的抑止力を強化するものである。筆者はこの政策を、日本の生存にとって、日米同盟の深化とともに不可欠なものと信じている。
国家安全保障会議を設置すべし!
第2として、最高意思決定基盤の在り方について提案する。当面10年先までの防衛政策を策定するため、新防衛大綱は国家安全保障会議の設置を提唱するべきだ。先に述べたように、国家戦略室が策定した安全保障の基本戦略に基づいて防衛戦略すなわち防衛大綱の指針を練る組織である。安倍晋三元首相が「国家安全保障会議」すなわち日本版NSC(National Security Council)の創設を提唱し、関連法案を国会に提出したのは極めて意義のあることであった。同元首相は、官邸主導で能動的に外交・安保戦略を立案することや、首相官邸の情報収集・評価機能を強化すること、を図っていた。安全保障の基本戦略(グランドストラテジー)がまずあり、それを遂行するための下部戦略として外交・防衛戦略があるべきである※1。だが、国家安全保障会議の実現を目指した法案は2007年の国会で廃案となった。
その法案は9人の閣僚を中心とする現在の「安全保障会議」の機能は残すものの、この中から首相のほか外務、防衛、財務、官房の4閣僚を中心とする会議を設けて、ここで「国家安全保障に関する外交、防衛政策の基本方針や重要事項」などを審議するとした。加えて、この会議を補佐するものとして、「専門会議」と「事務局」を設ける案であった。
私が考える国家安全保障会議の役割は、わが国の安全保障に関して実行性のある実質的な議論をすること、それをふまえて長中期の防衛戦略を作成すること、関係各省庁・機関に対して基本的事項を指導すること、最高責任者であり指導者である首相の意思決定を補佐することなどだ。また、情報部門(例:防衛省情報本部)と密接に連携することにより、国家緊急事態に対処するため、刻々変化する情勢をフオローして状況に応じた決断をする。
これらの機能を実行性あるものにするためには、情報部門と政策企画担当部門(各省庁および政党の政策担当者など)の関係を緊密にするとともに、柔軟かつ機動性ある組織を構成する必要がある。加えて、首相に対して専門的かつ実務的な助言をする者として、国家安全保障担当補佐官および制服自衛官の補佐官を設けることも必要である。
島嶼および領域は、すなわち本土防衛である!
第3として島嶼および領域の防衛について述べる。
日本の政治経済の中枢に対して直接侵略が及ぶ蓋然性は低い。しかし、東アジアの海洋覇権をねらう中国、日本固有の領土である北方四島と竹島を不法占拠しているロシアおよび韓国の行動は、わが国の島嶼とその周辺の権益を侵害している。
わが国は戦後65年間、国境と領域の警備を実質的に軽視してきた。警備監視体制は即応性を持たず、極めて脆弱である。その結果、拉致、漁船拿捕・銃撃被害、竹島・北方領土の不法占領、尖閣諸島の紛争化、EEZ(排他的経済水域)海洋資源の争奪、領域侵犯を招いてきた。わが国は四面環海で、多くの島嶼に囲まれている。いっぽう縦深性に乏しく、バッフアの無い国土構成は、防衛上、脆弱な側面をさらけ出している。ちなみにバッファとは、第2次世界大戦時の英国にとってのフランスのような存在を指す。
特に、東シナ海・日本海に所在する離島は「国境の島」として、直接脅威にさらされている。竹島や北方四島のようにいったん侵略された島嶼は、外交的な話し合いで奪還することはほとんど不可能である。さらに、軍事的な奪還作戦は、多量の出血を覚悟する必要がある。国境離島は、国土防衛の「防波堤」ではない。いかなる島嶼もわが国を形成する「本土」である。その観点に立って領域警備防衛の態勢充実を図らなければならない。
その際に重視しなければならないのは、主体的に自力で領域警備に当たることである。日米同盟は日本の安全保障の基本の一つであるが、基本原則は、あくまでもわが国の国土の確保と国民の安全の確保を日本自身が全うすることである。「米国がいつでも即応して来てくれる」という期待と依存では、日本の安全を全うすることはできない。日米安保体制を機軸とするあまり、「自ら守る意識の希薄化」という負の部分を招いた。これを払拭することに、わが国独自で取り組まなければならない。
領域防衛は離島の防衛と密接不可分である。離島・領域の安全確保は、緊密な島嶼間ネットワークを構築する情報通信、海路空路の島嶼間シーレーン、人の流れと高い関心に大きく依存する。
離島に必要な防衛は、専守防衛でなく「先守防衛」である。わが国の国境に多数散在する島嶼とその周辺の領域の防衛警備は、部隊配備の制約と効率性の面から脆弱にならざるを得ない。したがって、予測される事態に先行して所用の部隊を配備する即応機動性が重要である。
わが国の地政学的特性を考えると、敵の侵攻を水際までに阻止できるよう陸海空自衛隊の機能を整備する必要がある。主な戦力は、島嶼防衛の場合、海兵隊化した陸上自衛隊となる。島嶼自身の自給自足、電気、燃料、医療、教育などの文化的な生活維持の機能が乏しいので、防衛警備の機能のほかに高速機動輸送、航空支援、後方支援、住民保護、医療支援など各種機能を複合的に持った任務部隊の編成が必要であろう。
EEZを含む領域の防衛警備は、海上・航空自衛隊を機動的に運用すべき分野能であろう。日本領域内のあらゆる地域に即応できる態勢を維持するために、高速機動支援能力を統合部隊として運用する。不慮に侵攻を受けやすい重要離島、無人島については常時監視、警備する態勢を維持するか、即応できるための施設と装備を準備する。
「先守防衛」を実現するためには、脅威が顕在化する前に防衛の態勢を強化充実する「防人」の態勢が必要である。そのためには関係省庁・機関が安全保障に総合的・積極的にかかわり、体制および態勢として役割分担を整理する必要がある。同時に、自衛隊や警察、海上保安庁その他の危機管理にかかわる「危機対処力」の統合運用・指揮・通信態勢の整備が必要である。そしてそれらの根拠法規として「国境警備法」を制定する必要がある。
シーレーンの安全確保は日本の死活問題!
第4として、シーレーンに触れる。わが国のシーレーンは世界に広がっており、「海のあるところすべてが日本の国益に関係している」といっても過言ではない。新大綱において、シーレーン防衛の重要性をうたうべきだ。
具体的には、米国を中心とした自由主義経済圏の関係国による海洋安全保障の有志同盟に積極的に関与し、地域の主導的立場を確保する必要がある。海洋の自由に対する米国の執念は絶大だ。世界の海を自由に利用するために払う政治的・軍事的・経済的な熱意と努力は、国益の防護と同等に頑なである。その恩恵に世界の海洋国家が依存している。日本が、世界第2の経済大国の源泉である海洋の自由な利用を維持するためには、米国との同盟関係を基軸にした海洋安全保障への積極的なかかわりが求められる。
特に、わが国にとって西太平洋とインド洋のシーレーンの確保は、死活的に重要だ。この海域における海洋情報・データの収集とプレゼンスを継続的に維持するとともに、沿岸国との関係醸成と友好関係の確立が必要である。
西太平洋における中国海軍のプレゼンス拡大は、見逃せない背景の一つだ。中国の空母戦力は、既に建造中の攻撃空母が2015年に就役する予定だ。逐次増勢し、戦力となっていくだろう。潜水艦勢力の拡充も急速である。沖縄・台湾・フィリピンを結ぶ第1列島線内の軍事的占有、および小笠原・グアム・パプアニューギニアを結ぶ第2列島線以西の西太平洋において、米軍に対するアクセス拒否・海域使用拒否の戦略を具体化させている。米国のQDR2010(注:QDRはQuadrennial Defense Reviewの略。4年ごとの国防計画の見直し)を読むと、近い将来に西太平洋における米軍の抑止力および打撃力に間隙が生じる可能性も否定できない。わが国としては、米軍来援と作戦遂行を円滑にするために、ハワイおよびグアムから日本列島までの軍事的なシーレーンを確保することが重要である。TGTトライアングル(東京・グアム・台湾を結ぶ西太平洋の三角海域)海域のシーレーンを掌握できるか否かは日米同盟の深化の要であり、わが国の生存に大きく影響するだろう。
加えて、東シナ海や台湾海峡、南シナ海のシーレーンは、太平洋とインド洋を結ぶシーレーンのチョークポイントであり、わが国のみならず世界の要衝である。この海域の制海権を中国が握り、海洋の自由を押さえることになれば、その影響は甚大だ。それを阻止するためには、キーストーンである台湾の独立または現状維持と、南シナ海と東シナ海の自由航行を確保・維持する必要がある。台湾については、台湾が自由民主主義の維持と確立、および中国からの干渉を排除する意味で独立を指向する意思があるときには積極的にこれを支援するべきであり、台湾が中国に統一されないように台湾を支援することが、シーレーンから見たわが国の国益である。
海洋の自由と海洋権益を確保するためには、海運と海洋戦力を同時に確保することが重要である。これらの海洋力が、日米同盟および有志連合の海洋安全保障を共有する基盤となるからだ。危機的状況にまで落ち込んだわが国の海運界の再興は焦眉の急であり、人材の確保と育成、港湾の整備、造船・運航システムなどの近代化と整備・充実が重要である。同時に、海運界と海上自衛隊との密接な連携と情報の共有が必要である。
インテリジェンスに携わる人材の育成と秘密保護法の制定が急務!
第5は情報機能の強化だ。人材育成と「秘密保護法」の制定を急ぐべきである。
国家安全保障にかかわる情報の収集・分析において、情報部門の組織的かつ機能的活動が重要であることは論をまたない。そして、情報収集・分析に携わる人材の養成には、経費と時間と経験が必要だ。わが国の取り組みは、まだまだの感が拭えない。「情報の軽視が情勢判断を誤らせた」というわが国の貴重な過去の経験を反芻して、情報に関する人材の育成・強化を図る必要がある。
加えて、秘密保護法の制定を急ぐべきである。わが国は、国家機密から企業情報、個人情報に至るまで情報を保全する努力を行っていない。国家・組織の機密情報が簡単に流失するばかりでなく、多くの工作員が隣人として暗躍していると言われている。
情報保全の不法行為に対しては、国家公務員の守秘義務とか外国人登録法とか出入国管理法など他の法律を適用している。政治家の守秘義務はほとんど無きに等しく、重要な国家情報が政治家を通じて不用意にマスコミに流出している現状にも歯止めをかける必要がある。
個別法による対応は限界に来ている。1985年6月、政府は「国家秘密に係わるスパイ行為等の防止に関する法律案」を国会に提出したが、けっきょく、陽の目を見なかった。これに再度、挑戦する必要がある。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20101101-00000013-nnn-soci |
中国人民解放軍
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E6%B0%91%E8%A7%A3%E6%94%BE%E8%BB%8D
我が国周辺の変化に対応できないシステムは脱ぎ捨てよ!
2010.10.27(Wed)JBプレス 樋口譲次
昨年8月、自民党から民主党へ政権が移行したが、同年末に予定されていた「防衛計画の大綱(以下「防衛大綱」)」の改定は、1年先送りされた。
政権は交代したものの、安全保障まで後退した!
65年の戦後政治の中で、政権交代という歴史的転換を果たしたものの、米国軽視・中国重視とも取られかねない「東アジア共同体」構想、「対等な日米関係」あるいは「日米中正三角形」論などを打ち出し、また基本的に自衛隊の存在や日米安保に否定的な社民党などと連立を組んだ民主党政権の安全保障・防衛政策が一向に定まらないことがその背景だ。
そして、沖縄の米軍普天間基地の移転問題では、迷走に次ぐ迷走を重ね、その一部始終を国民の面前に晒すことになり、我が国の安全保障あるいは日米同盟の行く末に、いたずらに不安や不信をかき立ててしまった。
そのこともあって、民主党政権は鳩山由紀夫氏から菅直人氏に首相の首をすげ替えたが、7月11日の参議院選挙には手痛い敗北を喫した。
そして、首相の諮問機関として設立されていた「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」は、ようやく、今年8月27日にその検討結果を報告するに至った。
この報告書は、「防衛計画の大綱(以下「防衛大綱」)」の改定と、それに基づく次期「中期防衛力整備計画(以下「中期防」)」策定に反映される手はずになっている。
そこで、今後、我が国の安全保障および防衛に重大な影響を及ぼすことになるであろう本報告書(PDF)について、一読し、感じるところをかい摘んで述べてみたい。
本報告書は「新たな時代」の要請に真っ直ぐに答えているか!
防衛大綱策定に際しては、今回もそうであるように、あらかじめ有識者による懇談会を立ち上げ、総理の諮問に答える形で報告書の提出を求めるのが恒例となっている。
昨年は、自民党・麻生太郎政権下で「安全保障と防衛力に関する懇談会」が、また2004(平成16)年の16防衛大綱策定時にも同じく「安全保障と防衛力に関する懇談会」が報告書(PDF)をまとめて答申した。
今般、菅政権下では、「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」が立ち上げられた。特徴は、懇談会に対し、「新たな時代」の認識を明確にしたうえで、それに基づいて「安全保障と防衛力」のあり方を問うている点である。
そこで、第1の問題は、これまでの諮問と違って特に強調された「新たな時代」をいかに認識し、それにいかに対処しようと考えたかである。
安全保障の主題は、いつの時代も、「何を何から守るか」である。「何を」は、広義においては国家および国民それ自体であるが、煎じ詰めれば、「我が国の生存と安全を確保し、独立と主権を守ること」の死活的価値(国益)である。
グローバルな安全保障環境、4つの趨勢!
一方、「何から」は、守るべき「何を」に対して国内外、主として外国から及ぼされる軍事的脅威である。その脅威を明快に描き出し、国民に提示して防衛(力)のあり方について広く論議を巻き起こすこと、それが本懇談会の果たすべき最も重要な役割に違いない。
本報告書は、グローバルな安全保障環境の趨勢として、以下の4つを挙げている。
(1)経済的・社会的グローバル化、それに伴う国境を越える安全保障問題、平時と有事のグレーゾーンにおける紛争の増加
(2)中国やインド、ロシアなどの新興国の台頭、米国の圧倒的優越の相対的後退による世界的なパワーバランスの変化と国際共有財の劣化
(3)大量破壊兵器とその運搬手段の拡散の危険の増大
(4)地域紛争、破綻国家、国際テロ、国際犯罪等の問題の継続
そして、この趨勢の下、日本の周辺地域と日本にとって次のような課題にどのように対処するかが重要であると指摘する。
●米国の抑止力の変化
●朝鮮半島情勢の不確実性の残存
●中国の台頭に伴う域内パワーバランスの変化
●中東・アフリカ地域から日本近海に至るシーレーンおよび沿岸諸国における不安定要因の継続
全般としては、必要な内容が網羅され、概ね妥当な指摘であると言えよう。
しかしながら、中国の台頭と米国の圧倒的な優越性の後退などに日本がいかに対処しなければならないかについては、我が国防衛政策の抑制的で、受動的な姿勢を改め、より能動的でなければならないとしながらも、「自衛隊と米軍の一層緊密な連携が必要」であり、「平和維持活動(PKO)など自衛隊が自らの責任で任務を遂行できる範囲を広げていくことも重要」と述べるにとどまっている。
日本の防衛は、我が国自らの防衛努力と日米同盟による相乗効果によって成り立っている。中国の脅威が拡大しつつ現実味を増す中で、本地域における米国の圧倒的優越が崩れて抑止力が低下する趨勢においては、我が国自らのさらなる防衛努力は不可避である。
米軍の相対的地位低下で、防衛体制の確立は急務に!
核の抑止・対処への対米依存の問題は依然として残るが、主権国家として最低限なすべき「自分の国は自分の力で守る」いわゆる自主防衛を基本とする安全保障・防衛体制の確立が急務である、との認識は間違いなかろう。
その意味で、今回も、旧来の抑制的で、受動的な姿勢を打破できない本報告書の態度は、きわめて残念と言わざるを得ない。
一方、中国の脅威については、1990年代以降の軍事力の急速な増強近代化に触れたうえで次のように述べている。
「台湾との軍事バランスは、全体として中国側に有利な方向に変化」し、「中国の海洋活動は、東シナ海、南シナ海を越えて太平洋にまで広がり、日本近海でも活発化している。その背景には、領土・領海の防衛のため可能な限り遠方の海域で敵(米海軍:筆者注)の作戦を阻止すること、台湾の独立を抑止・阻止すること、海洋権益を獲得・維持・保護すること、海上交通を保護することといった狙いがあると見られる」
「海洋権益の獲得」を例に述べると、中国は、我が国の固有の領土である尖閣諸島に関して、1970年代初め、東シナ海大陸棚石油開発に絡めて初めて領有権を主張した。
そして、排他的経済水域に関する我が国の中間線主張を拒否して資源(ガス田)開発を独断で進めている(なお、日中両政府は、2008年6月18日、東シナ海ガス田の共同開発で合意したと公表し、現在、両国で交渉中)。
日本への本格的武力侵攻は想定されない??
また、中国は沖ノ鳥島を島(領土)でなく岩であると主張して周辺海域の調査活動を行っている。
言うまでもなく、海洋権益は、海洋に無条件かつ任意に存在するものではなく、その国の領土に排他的に付随するものである。
つまり、中国が目標とする「海洋権益の獲得」は、台湾の解放あるいは中国が自国の「核心的利益」と称する南シナ海における南沙・西沙群島の領有権主張の動きなどにも見られる通り、最後は領土(および領土上に存在する人)の拡張的支配に向かうのが必然である。
本懇談会は、「予想される将来、日本の国家としての存立そのものを脅かすような本格的な武力侵攻は想定されないと判断している」と述べている。
しかし、なぜそのような断定的判断が可能であるのか。また、それは、どのくらいの時間的レンジで考えているのであろうか。
郷友総合研究所の研究によれば、2030年頃の中国の軍事能力予測は、以下の通りである。
中国は、今後引き続いて質量ともに軍備の増強・近代化を重点的に推進し、最も蓋然性の高い台湾有事と平行した対日侵攻の事態(2正面侵攻のケース)において、下記の戦力を指向することが可能と見積もられる。
2030年、中国の軍事力の質は日本と同水準に!
この際、中国の軍事力の質は、自衛隊とほぼ同水準に達している。
核戦力】
JL-2型S LBM×24基を搭載したオスカー級弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)が対日本向けに常時1隻哨戒し、地上配備の中距離弾道ミサイル(IRBM)と移動式固体燃料・短距離弾道ミサイル(SRBM)を合わせれば、約三百数十基の核戦力を指向できる。
そのほか、爆撃機の1部をもって巡航ミサイルなどによる核攻撃が可能となる。
【陸上戦力】
●2個海軍歩兵師団がACV(ホバークラフト、ACV=Air Cushion Viehcle)、ヘリコプター、上陸用水陸両用戦車などを用いて同時強襲上陸が可能であり、同時に4個機械化師団分を海上輸送しうる能力を保有する。
●2個空挺連隊の同時空輸が可能であり、1日以内に空挺師団全力を空輸できる。また、2個空中攻撃旅団を指向できる。
●特殊作戦を行う2個旅団が指向可能である。
以上合計すれば、日本に対して着上陸侵攻可能な陸上兵力は、第1段階の作戦において約18万人、引き続き作戦を拡大すれば総計65万人規模の戦力が指向可能である。
【海上戦力】
●北海艦隊と東海艦隊を基幹とし、軽空母2隻、潜水艦(静粛化)45隻、イージス艦4隻を含む駆逐艦20隻、ミサイルフリゲート艦40隻などが指向可能である。
また、戦車揚陸艦(LST)、中型揚陸艦などの強襲揚陸艦やRo-Ro船、貨物船などの徴用民間船舶などを動員して大規模な水陸両用作戦を遂行できる。
●第2列島線から米海軍に対する進出拒否戦力を縦深にわたり展開するため、第1列島線内への米海軍空母打撃部隊の進出は容易ではなく、第1列島線内の制海権を概ね確保できる。
【航空戦力】
●行動半径1500キロの第4世代機780機を主力とし、最新の第5世代機120機、爆撃機60機、合計960機の作戦機に加え、「Il‐96」などの大型輸送機約200機の航空戦力を指向可能である。
●航空自衛隊との航空撃滅戦を遂行して、西日本まで航空優勢を確保できる能力を保有する。
中国は、第2列島線からの米海軍に対する「接近拒否戦略」の能力を着々と構築中であり、既に台湾に対する経空・経海の侵攻能力を保有している。
この能力は、南シナ海方面にも向けられようとしており、我が国の、特に西日本から南西諸島に至る領土・領域に対して同様の侵攻の可能性を示すものと理解しておかなければならない。
あまりに無責任で近視眼的過ぎる主張!
本報告書は、「直面する多様な事態への対応」、つまり短期的に生起の公算が大きい事態への対処に関心を奪われてしまったかのようで、我が国に対する「本格的な武力侵攻対処のための最小限のノウハウ維持を考慮する必要があるが、(中略)重要度・緊急度の低い部隊、装備が温存されることがあってはならない」と述べている。
しかし、上記の見積もりに基づけば、今後の中長期的な脅威の趨勢(造成中の軍事能力とその狙い≒意図)を等閑した極めて無責任、かつ近視眼的主張であると言わざるを得ない。
本来、国の安全保障あるいは防衛は、情勢を見通し得る範囲で、可能な限り長期にわたって計画されなければならない。改訂される防衛大綱は、少なくとも2個中期防(約10年)以上をカバーすることになる。
例えば、来年度からスタートする新中期防(5カ年計画)の初年度にある装備品の研究開発が始まったとすると、その開発が終了するのは次期中期防の後半から次々期中期防の前半頃である。
すなわち、自衛隊の装備開発には、概ね10年を要する。その後、中期防の計画を基に調達が始まり、逐次第一線部隊へ配備されるが、その装備化が完了するには平均して20年程度かかっている。
その頃になると、後継の新装備の導入が始まることになろうが、これまでの主力装備は、新装備に換装が完了するまでのさらに20~30年あるいはそれ以上の間、自衛隊の装備として使用され続ける。
自衛隊の人材育成には20~30年はかかる!
今後、防衛予算の圧縮が続けば、一層の研究開発・導入期間の延長は免れ得ない。
また、自衛隊の戦力は装備と人(隊員)によって決まるが、組織を担う人材の育成にも20~30年の期間を要する。
つまり、本報告書は、本来、数十年の単位で我が国の安全保障と防衛に影響を及ぼす性格のものであるが、それに相応する長期的視点からの分析・考察に欠けており、致命的欠陥を露呈していると言えよう。
一方、本報告書は、「高度な技術力と情報力に支えられた防衛力の整備」を求めている。
その点に異論はないが、2030年頃の中国軍の軍事力の質は、自衛隊とほぼ同水準に達すると見積もられており、これまでのように、量の劣勢を質の優位で補うことが可能であると過信するのは危険である。
国土防衛上、必要な一定量の防衛力は何としても確保しなければならない。
以上述べた中国からの主要な脅威に加えて、北朝鮮による「眼前の危機」は、決して疎かにできない。
ロシアの軍事費は2000年比で6倍以上に!
また、ロシアは、軍事力強化に転じ、過去数年間、連続して対前年比15%以上の急激な伸び率で軍事費を増大し、その規模は2000年に比較して6倍以上になっている。
そして、未解決のままになっている我が国の北方領土で本格的な軍事演習を行うなど、陸海空にわたって軍事活動を活発化させており、その脅威度は警戒レベルにまで高まりつつある。中長期的には北への備えも周到に準備しなければならないのである。
イラク戦争が如実に物語るように、戦いは、いかに強大な航空・宇宙戦力また海上戦力をもってしても戦勝・終結に導くことは困難であり、最後は陸上戦力による土地(国土)と人(国民)の支配にまで行き着くものである。
これを専守防衛(戦略守勢)の日本の立場に置き換えて考えれば、我が国の安全保障・防衛政策は、あくまで敵の着上陸侵攻(離島・島嶼への侵攻を含む)の抑止を重視した国土防衛に基本をおいて構築すべきである、と本報告書は強調すべきではなかったのか。
第2の問題は、「安全保障と防衛力」について、我が国の安全保障の目的を明らかにするとともに、その中における防衛(力)の地位役割並びにそのあり方をいかに考えたかである。
言うまでもなく、我が国の安全保障(National Security)の目的は、世界の平和と安定を図りつつ、外部からの侵略などに対して、国家の生存を確保し、国家および国民の安全を保障することにある。
我が国への脅威の軽重をはっきり示すべき!
つまり、国家安全保障は、本来軍事的なものであるが、同時に、非軍事的脅威にまで対象を広げ、外交努力、経済協力、国内の民生安定、食料・資源エネルギーの確保などを通じて安全を保障するに必要な環境や基盤を整備し、総合的施策をもって国家の安全確保を図るものである。
が、その主体は、あくまで、防衛(力)であり、外敵に対する国防(National Defense)が最大の安全保障を形成することに相違ない。
本報告書は、「安全保障上の目標は、日本の安全と繁栄、日本周辺地域と世界の安定と繁栄、自由で開かれた国際システムの維持である」と述べている。
すなわち、我が国の安全保障を、日本、日本周辺地域および世界の3地域に区分するとともに、これをグローバルに覆う国際システムを加えた形で考えている。
この点で気になるのは、本報告書が、3地域および国際システムを並列・同格的に記述し、我が国の安全保障の目的を達成するうえで、それぞれの間における軽重や優先順位また相関関係はどのようになっているのか、明らかにしていないことである。
我が国の安全保障は、上記の3地域の中心に位置する「日本」の国土防衛(ホームランド・ディフェンス)が、その究極の目的である。
日本を取り巻く、中国、ロシア、米国の3軍事大国!
「日本周辺地域」は、地政学的に見て、日本を包囲する態勢にある大陸国家の中国とロシア、そして海洋国家の米国の3軍事大国を中心に構成され、我が国の安全保障に直接影響を及ぼす地域である。
その外側の「世界」は、邦人保護や食料・資源エネルギーの確保などの面で直接影響を及ぼす場合もあるが、基本的には間接的な影響を及ぼす地域である。
そして、安全保障のあり方は、3地域を網羅する地球規模で考え、各地域そして世界システムというソフトウエアを関連させながら総合一体的に構築しなければならない。
しかし、あくまで国土防衛が中心であり、日本周辺地域および世界における安全保障政策は、これに従属し、また集約させなければならない。
なぜならば、我が国の国土防衛が成り立たなければ、他地域における安全保障政策の存在理由は無に等しく、結局、国土防衛は我が国の安全保障あるいは防衛の核心であり、また、政策全般の骨格(フレームワーク)を決定するからである。
ややもすると、世界全体の平和を説けば、我が国自身の平和も確保できるような飛躍し、発散した論議に陥ったり、また、そのような誤解を与えやすいものである。
従って、我が国の安全保障や防衛の骨格を述べるに際しては、3地域および国際システムを並列し、あたかも同格のように展開するのではなく、外敵に対する国防、つまり国土防衛が最大の安全保障を形成することを明示し、それを中心に据えた安全保障政策の構築の必要性を強調すべきではなかったのではなかろうか。
基盤的防衛力構想は本当に有効性を失ったのか!
本報告書は、「軍事力の役割が多様化する中、防衛力の役割を侵略の拒否に限定してきた「基盤的防衛力」概念は有効性を失った」とし、「冷戦期に提唱され、冷戦終結後も継承されてきた『基盤的防衛力整備』の考え方を見直し、多様な事態が複合的に生起する『複合事態』への対応を念頭に置いた防衛力の整備を提唱した」と述べている。
基盤的防衛力構想は、16防衛大綱によって半否定され、本報告書によって全否定されたことになる。しかし、全否定する論拠については、必ずしも十分な説明はなく、「先に結論ありき」の感は否めない。
基盤的防衛力構想は、第4次防衛力整備計画が終了し、冷戦が一時的な緊張緩和(デタント)に入った時、防衛費(力)を抑制する目的で作られたものであるが、一方、平和時における最低限の防衛力を確保するヘッジ政策でもあった。
また、本構想は、情勢が変化した場合、それに対応して柔軟かつ機動的に防衛力をイクスパンド(強化・拡大)することを前提としている。
従って、本報告書が懸念している多様な「複合事態」への対応も、十分に可能とする考え方を取っており、いわゆる想定内と理解してよい。
情勢の変化に沿って強化・拡大の努力を怠ってはならない
そして、今後、我が国は、懲罰的抑止力の保持に努めなければならないが、拒否的抑止の体制は防衛政策の基本として維持されるべきものである。
国家の防衛は相対的であり、相手国(複数)の動向によって左右される。一方、防衛力の整備には20~30年の長期間を要し、また、その間の情勢の変化を見通すことは至難の業である。
これが国家防衛あるいは防衛力整備上の大きな課題であり、これらの点を考慮すれば、平和時における最低限の防衛力を一定的に確保するヘッジ政策としての基盤的防衛力構想は、それなりに意義あり、と認めなければならないのではないか。
問題は、基盤的防衛力構想下において、情勢の変化に対応してイクスパンド(強化・拡大)する努力を怠るのみならず、本構想が定める最低限の防衛力整備すら果たしてこなかったことにある。
そして、このような状態に陥る元凶は、我が国の防衛政策が財政主導によって決められているからだ。
我が国の防衛政策は、「経済重視・軽武装」の吉田(茂)ドクトリンに沿った財政主導(「最初に財政ありき」)のアプローチによって長年にわたり制約を受け、歪められてきた。
吉田ドクトリンによる歪が限界に達している!
もともと、基盤的防衛力構想もその延長線上にあるが、本報告書もその枠内の論議にとどまっている。
防衛費は、財政事情を理由に年々削減の一途をたどってきた。
つまり、ますます小さくなっているパイの中で、必要な既存の防衛力を削って、そこに新たに生ずる防衛所要を押し込もうとするあまり、随所に無理や綻びが生じ、結局、基本政策である最低限の拒否的抑止力の維持すら無視せざるを得なくなっているのが実情である。
本問題を打開するには、国政全般における安全保障あるいは防衛の位置づけならびに重要性を再評価したうえで、平和時における最低限の防衛力は維持しつつ、「我が国をどのような脅威からいかに守るか」の防衛戦略を確立して防衛政策の策定に導く防衛戦略主導のアプローチへ転換しなければならない。
そして、必要な防衛力を整備するために要する財源については、欧米主要国並み(GDPの2~3%程度)に確保する努力が不可欠である。
憲法解釈の見直しなどに関する提言はなぜ実現しないのか!
本報告書には、集団的自衛権、非核三原則、PKO参加五原則などに関する憲法第9条の解釈の見直し、武器輸出三原則、日本版NSCなどについての貴重な提言がなされている。
これらの提言について、宮家邦彦氏(=JBpressコラムニスト)(産経新聞9月2日版、World Watch、“変わらぬ議論、決めない政治”)は、「過去30年間日本の安全保障政策の問題点は既にほぼ出尽くしている。今の日本に必要なのは議論の継続ではなく、政治主導による決断と実行であるはずだ」と述べており、全く同感である。
民主党は、官僚主導から政治主導の政治への転換を公約して政権を獲得した。そして、自民党とは違う政治あるいは政策を模索している。また、政策決定に当たっては、「事業仕分け」を重要な手法とし、マスコミを通じて国民に大々的にアピールしている。
そうであるならば、戦後の長い自民党政治の中で保守政治の基本方針として固定化され、防衛政策を拘束してきた「経済重視・軽武装」の吉田ドクトリンについては、「事業仕分け」によって国政全般における安全保障あるいは防衛の位置付け・重要性の見直しを行い、再評価しなければならないだろう。
そして、財政主導、すなわち財務省の「最初に財政ありき」によって歪められてきた我が国の防衛政策を、省益ではなく国益にのっとり、政治主導によって立て直すことではないか。
まさに、民主党政権による政治の決断と実行が大いに試されるのが、本年末に予定されている新「防衛計画の大綱」である。
「国家安全保障基本法」の制定を急ぎ、新防衛大綱は防衛力の増強を!
以上、「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書を一読し、問題点などについて感じるところを述べてきた。いずれにしても、本報告書は大変な力作であり、新防衛大綱の策定に大いに資することを期待したい。
報告書は、「防衛大綱のような重要な政府の方針は継続的な見直し作業を要する。
今回も採用された懇談会方式はやめ、内閣官房のような組織に有識者会議を常設し、対話を行いながら継続的に作業するのも一案である」と述べており、懇談会の苦労のあとがうかがわれるとともに、前向きな提案として評価したい。
我が国の安全保障・防衛に関する法令・計画の体系によると、憲法の下に、「国防の基本方針」があり、この基本方針を受け、また、懇談会の答申を参考として「防衛計画の大綱」が策定されるものと理解される。
しかしながら、「国防の基本方針」は、制定から半世紀あまりが経過し、その非時代性(陳腐化)や戦後体制による拘束などの問題が表面化しており、全面的な見直しは避けて通ることができない。
国防なき憲法には主権国家としての欠落事項が多い!
この間、日本の国際的地位や責任は格段に高まるとともに、我が国を取り巻く国際情勢あるいは安全保障環境は大きく、そして急激に変化している。
一方、国家基本法としての現行憲法は、いわば「国防なき憲法」であり、「軍事(軍隊)なき安全保障」を求めており、安全保障・防衛に係わる欠落事項や多くの制約が内在する。
また、国際平和協力活動など自衛隊の国際的な活動の場が拡大しているが、列国と共同して国際標準の活動ができない法的基盤など体制整備上の問題がある。
さらに、「国益よりも省益」の縦割り行政が、国家安全保障あるいは防衛に求められる総合一体的な取り組みを大きく阻害している。
このように、我が国の安全保障あるいは防衛体制は、憲法問題をはじめとするいわゆる戦後体制の拘束などによって時代の進展や世界の潮流から大きく取り残されたまま今日に至っている。
つまり、我が国は、激変する国際情勢や脅威が増大する安全保障環境において、自国の安全を独力で保障する意思と能力を欠き、それがゆえに、世界の主要国家として、その地位に相応しい責任や役割を果たすことができない閉塞した状況下に自らを置いている。
喫緊の課題となった「国家安全保障基本法」の制定!
では、21世紀の新たな時代における我が国の安全保障あるいは防衛はどのようになければならないのか。
この問いに答えるため、現「国防の基本方針」の見直しなどを通じて我が国の安全保障あるいは防衛のあり方と基本方針を確立したうえで、それを明示する包括的基本法としての「国家安全保障基本法」の制定が、国家運営における喫緊の課題となっているのである。
昨年、我が国の政治に歴史的転換をもたらした民主党政権には、その早急な検討と法制化の実現を大いに期待したい。それが、本項冒頭の懇談会による懇談会方式の見直しの提言に応える1つの途でもあろう。
そして、新防衛大綱が、長年にわたる防衛力の縮減に完全に終止符を打ち、自主防衛を目指し、反転して防衛力の増強に転ずるターニングポイントになることを切に望むものである。
金正男
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E6%AD%A3%E7%94%B7
中央日報日本語版 10月26日(火)11時50分配信
北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の長男、金正男(キム・ジョンナム)氏も「北朝鮮の崩壊の可能性」を頭に置いているようである。
イ・ギテク民主平和統一諮問会議(民主平和統一)首席副議長は25日(現地時間)、ドイツの首都ベルリンのホテルで、韓人たちを相手にした対北政策講演会で「北朝鮮の権力継承過程で急変事態が発生するかもしれない」とし「金正男氏もこのような点を勘案していると聞いている」と述べたと韓国のオンラインメディアが伝えた。
イ副議長は「講演会で先月、マカオを訪問した際、金正男氏と親しい仲だという現地関係者から北朝鮮の権力世襲についての金正男氏の考えを間接的に聞く機会があった」と説明した。
イ副議長によると金正男氏はこの関係者が「父親が具合が悪いのにどうして平壌へ行かないのか。バトンタッチしに行かなければならないじゃないか」と問うと「私がなぜ行くのです? バトンタッチもしたくない。(北朝鮮は)亡びますよ。長続きしますか」と答えたというのだ。
また彼は北朝鮮政権の後継者に浮上した金正日国防委員長の三男、金正恩(キム・ジョンウン)氏が計画どおり権力を継承すれば「果敢に改革開放すればいい」とし「しかし軟着陸できない場合、権力闘争で急変事態が発生するかもしれないだけに、政府もこれに備えている」と述べた。
黄長ヨプ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%84%E9%95%B7%E3%83%A8%E3%83%97
亡命前の黄長ヨプ氏「金正日暗殺のために武器をくれ」(1)
1997年2月12日、黄長ヨプ(ファン・ジョンヨプ)元北朝鮮労働党秘書は中国北京の韓国総領事館に電撃亡命した。 北朝鮮労働党国際担当秘書、最高人民会議外交委員長、そして主体思想の創始者というタイトルが持つ重みを考えると、黄氏の亡命はまさに驚くべき事件だった。 北朝鮮当局も当惑しているのは同じだった。 北はすぐに「拉致」を主張した。
しかしすでにかなり以前から黄氏が亡命を決心していたとことを知っている人物がいた。 現在、金文洙(キム・ムンス)京畿道(キョンギド)知事の政策補佐官を務めているキム・ヨンサム元記者(52)だ。 キム氏は黄元秘書の亡命が伝えられると、親筆書信・対話録など黄長ヨプ氏と関連した文書および資料を次々と単独報道し、国内外に少なからず波紋を起こした。
時期的に敏感であり、キム氏がまだすべて明らかにしていない「亡命の真実」はないのか? キム氏に会って真実追跡を試みた。
◇1997年4月にバンコク・ニューデリー亡命計画
--黄長ヨプ元秘書の亡命に深く介入したと聞いている。
「亡命仲介人であるイ・ヨンギル氏(3月死去)と一緒に長いあいだ黄長ヨプ先生の亡命作業を準備した。 1996年5月にイ氏が北京で黄先生に会った。 その後、何度か会っていた。 その年の夏ごろには深刻な話が出てきた。 2人は北朝鮮の民主化のために『金正日(キム・ジョンイル)を暗殺しなければならない』『武器が必要だ』と言いながら手を組もうという提案をしていた。 こういう話が出てきたので、もうどうすることもできなかった。 従ってその年の9月、国家安全企画部(現国家情報院)にこの件を引き渡した」。
続いてキム氏は亡命実行時期について「予定とは違って早まった感がある」と語った。
「1997年4月、黄先生がインド・ニューデリーで開かれる非同盟会議に代表団を率いて出席することになっていた。 中間寄着地のタイ・バンコクまたはニューデリーで亡命を選択すると話した。 私はそのつもりで出張しようと準備していたが、突然、亡命事件が起きた」。
キム氏は「実際のところ私は黄先生の亡命に強く反対していた」とも語った。
「金賢姫(キム・ヒョンヒ)氏を見れば分かるが、黄先生が韓国に来ても幸せには生きられないという点を話した。 また韓国内の左翼のため自由に活動できないという点も強調した。 さらに北朝鮮に残される家族の問題もあった。 それで私は北朝鮮から出ずに、むしろその中に残って私たちと一緒に北朝鮮の民主化を図ろうと提案していた。 そう言ったところ、黄先生は『家族は一緒に出られなくても、殺されることはないだろう』と話した。 黄先生の夫人(パク・スンオク)が金正日の生母・金貞淑(キム・ジョンスク)が死んだ後、幼い金正日の世話をしたことがあるという理由だった。 また息子のファン・ギョンモ氏が張成沢(チャン・ソンテク)の親戚と結婚した点も勘案されると考えていた」
--黄長ヨプ元秘書は北朝鮮最高位級の人物だった。 平壌(ピョンヤン)高位層の中に黄元秘書と同じ考えを持った人物がいるという話を聞いたことはないのか。
「黄先生は北朝鮮の本当の民主化勢力、自分と深く対話をした人たちを中心に新しい権力を作り、南と平和な世界を開くための遠大な夢を抱いていた。 私が伝え聞いたところでは、かなりの高位層の人たちだ。 その話を初めて聞いたのは1996年12月だった」
◇「生存する‘親黄長ヨプ人物’は話せない」
この部分でキム元記者は非常に慎重になった。 仮に該当人物の名前が明らかになった場合に発生する問題、すなわち本人および関係者の粛清などが予想されるため絶対に明らかにできないという立場だった。 また黄元秘書の口から直接聞いたものではないという言葉も付け加えた。 結局、説得した末、すでに死亡した代表的な2人の人物の名前を聞き出すことができだ。
「そのうちの一人は黄先生が亡命した年の11月、公開銃殺された北朝鮮の徐寛熙(ソ・グァンヒ)農業担当秘書だ。 名目上は農業指導失敗の責任ということだった。 徐寛煕氏が逮捕された当時、日本の産経新聞や読売新聞に徐氏が韓国と接触した証拠が出たし、徐氏と一緒に仕事をした若い人たち11人も逮捕されたという報道が出た。 もう一人は2003年6月に平壌で疑問の交通事故で死亡した金容淳(キム・ヨンスン)対南担当秘書だ。 平壌に車が何台あるというのか。普通、独裁国家ではこのような方法で処理したりもする」
死亡した金容淳労働党秘書は北朝鮮の核心人物だった。 金正日の母方の親戚と知られる金容淳氏は、金正日の妹の金敬姫(キム・キョンヒ)現労働党軽工業部長と格別の仲だったと伝えられている。 長いあいだ国際担当秘書を務めた金容淳氏は1992年、対南担当秘書兼統一戦線部長に任命された。 その後、北朝鮮祖国平和統一委員長も務め、対南総責として活躍した。
--金容淳という名前は意外だ。
「韓国でいうと国家情報院長にあたる人物だが、そのような人が黄先生と共感していたとすれば、その波紋は相当なものだ。 このため金容淳氏の死後にも彼の名前を公開できなかった事情がある」
金相軫(キム・サンジン)「月刊中央」記者
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