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毎日新聞 9月1日(水)7時19分配信

北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記の後継体制作りに直結するとみられる労働党代表者会が、9月上旬に開かれる。金総書記の三男、正銀(ジョンウン)氏が指導部入りし、後継者として登場する可能性があると見られている。だが、厳しい統制社会だった北朝鮮でも昨年のデノミネーション(通貨呼称単位の変更)失敗で生じた経済の混乱以降、国民の不満が表面化する兆しが出ているようだ。北朝鮮から合法・非合法に多くの人々が訪れてくる中国東北部の国境地帯で北朝鮮の内情を聞いた。【北京・米村耕一】

 「もう国を信じられない。われわれはだまされている。強盛大国の約束を信じてきたが何の変化もない」

 4月下旬ごろ、北朝鮮北部の村で政府への不満を書き連ねた手書きのビラがまかれた。村にある300軒ほどの住宅ほぼすべてに、夜から明け方にかけて投げ込まれたという。これまでの北朝鮮では考えられなかったことだ。

 商用で北朝鮮に行った際、ビラが自宅に投げ込まれた住民から話を聞いた中国人の貿易関係者は「一人でできることではない。北朝鮮にも変化を望み、命がけで世論を盛り上げようという動きがあるということだ」と語った。同地方の公安当局は必死になって首謀者を探しているという。

 昨年11月のデノミは、国内経済を混乱させると同時に国民の政府に対する信頼をも低下させた。旧通貨と新通貨の交換比率を100対1とする一方で、労働者の給料は従来通りの額を新通貨で支払うなどという整合性の取れない政策だった上、物資不足の中で強行されたために急激なインフレが起きた。

 中国を訪問した北朝鮮の男性は「商品価格が急に上がって、国からもらったお金ではコメ数キロも買えなくなった。貯金も何の意味もない金額になり、一生懸命働いてお金をためてきたのに大損した」と不満をぶちまけた。政府は、市場閉鎖などの措置を取ったが「商売なんて道端でできるから取り締まれるはずがない」という。

 道路や学校の補修などという名目で、くず鉄数十キロを拠出するノルマが課されることも珍しくない。北朝鮮南部出身の女性は「学校や軍隊の運営に足りないものが多く、国ができないから私たちが支援するほかない」とため息まじりに語った。

 後継体制への移行をスムーズに進めるには社会の安定が不可欠。北朝鮮政府も、経済不安が統制の緩みにつながることを警戒している模様だ。金総書記による今年2回目という異例の訪中も、代表者会前に後継者問題を中国に説明すると同時に、中国から経済協力を取り付けて社会不安の沈静化を図ることを狙ったとみられている。

 北朝鮮の国内情勢に詳しい中国の研究者は「代表者会では、後継体制だけでなく経済改革なども議論すべきだ。そうでなければ、さらなる経済難に見舞われ、国民の不満が噴出する可能性がある」と指摘。経済へのてこ入れがなければ、北朝鮮国内で混乱が起きかねないという見方を示した。


*対北心理戦は効果ある北朝鮮住民意識に関するレポート

2010/05/24 15:42 西岡力 ドットコム

韓国・北朝鮮最新情報と日本のなすべきことを発信します!

韓国政府は対南心理戦を再開するという。繰り返し強調してきたようにその効果は大きい。


そのことがよくわかる北朝鮮住民の意識に関するレポートを自由北朝鮮放送記者が書いている。


そのレポートを全訳した。


※    ※

北朝鮮はこのように変化した


 「北朝鮮の最も大きい変化は住民たちが洗脳から目覚めたという点だ。 また、その変化は今後、北朝鮮問題における大きな変数として浮び上がるだろう」

自由北朝鮮放送2010年5月18日

 90年代初め東西冷戦が終わってから、韓国と国際社会が取った対北朝鮮政策の核心方向は北朝鮮の変化を引き出すということだった。さらに同盟国の中国も北朝鮮の改革開放を引き出すためにそれなりの努力した。

 しかし、金正日独裁集団は改革開放をはじめとする政治経済の変化を、自分たちの体制を揺さぶったり破滅させる危険な思想潮流とみなした. 彼らは「非妥協的」あるいは「蚊帳」という表現まで使いながら「外部の危険な思想潮流」を防ぎ、北朝鮮をより一層徹底した井戸の中(安全な統治領域)に閉じこめた。

 ところが北朝鮮も変わる。 それは金正日独裁政権の意図にしたがって変わるのではなく、自然発生的に変わるということだ。 北朝鮮において変わったものは大きく二種類あると見ることができる。

 第1は、金正日の反人民的「不変統治」において社会と経済、住民生活が極度に劣悪になって今は変化がなければ一歩も前に進むことができないということだ。 変わらなければ生き残ることができないくらいに経済や生活が劣悪になったということが、金正日が自分の利益を守るために行った不変統治が作り出した変化だ。 言うならば、執拗な不変政策が変化の必要性だけを育てたということだ。

 二番目は、住民たちの意識状態が飛躍的に変わったことだ。 北朝鮮社会の特徴を調べてみると、70~80年代までは住民たちが洗脳をされていた時期であり、90年代以後には住民たちがその洗脳から目覚める時期であった。 また、集中教育を受ける小学校、中学校、大学と軍服務期間が洗脳を受ける期間と言うならば、その後の社会生活過程は洗脳から目覚める期間だと言うことができる。

 74年と79年、二度にかけて北朝鮮独裁政権は平壌と咸興市をはじめとする大都市から数百万の住民たちを地方の郡と農村に追放したが、みじめに追放されていった人々が地方の郡と農村で体験した困難の一つは周辺の人々が気を許さないということだった。 その当時の人々にとって政権から見捨てられた住民たちは徹底した警戒対象だった.

 筆者が小学校に通った70年代、当時安全部(警察)に勤めていた筆者の父は町内に住む「南朝鮮出身」 「階級的環境が悪い家」「追放されてきた家」の子供たちとつきあわないようにさせた。 理由は「彼らとお前は階級的環境が違うのだから一緒に遊ぶ相手ではない」ということだった。

 筆者が通っていた学校ではある子供がふざけあっているとき「滅びる奴らの世の中」という言葉を使って該当機関に連行されて取り調べを受けることがあった。 実際、彼は国語教科書の階級教養の内容に書かれていた、古い社会を呪う言葉を覚えていて口にしてみただけなのに、それをある子供が、今の世の中を罵っていると勘違いして告げ口したからだった。

 子供たちまでもそれほど警戒心を高めていたほどに、70年代は北朝鮮全体が金日成に洗脳されたといっても過言ではない。 しかしその洗脳は80年代から徐々に解け始めて90年代からは飛躍的に変わった。

 それでは2010年現時点での北朝鮮住民たち意識状態はどうなのか。今、北朝鮮住民たちの意識状態は70~80年代とは完全に違う。 70年代の「階級意識」や「警戒心」のようなものはいくら目をこらして調べても出てこない。

 住民たちの中では、体制非難発言のようなものはもはや犯罪とは認識されない。 そのような発言はただ独裁機関だけは取り締まっているが、住民たちの心の中では体制非難発言への共感が形成されているということだ。さらに独裁機関に勤める一部の人々もそのような話を聞けば「ほかのところに行って話すな」という式の「忠告」をして見逃してくれる。 結局、住民たち間で体制非難発言をひそひそと語ることができる空間が生まれたのだ。

 今北朝鮮の人びとは「スパイ」を見ても届けでない。 保安員らや保衛部要員らにとって脱北者の家族が敵対的な勢力でなく「ワイロをとって食い物にできる対象」に変わったのもその一つの実例だ。 それは独裁機関の要員にとっても脱北者の家族が表面的には敵対的な存在であるが、実は交際する必要がある対象であるということだ。

 しばらく前、ソウルに住んでいるある脱北者が北朝鮮の友人と事前約束して電話で話したが、その友人の話が興味深い。 彼は「党の会議に参加してきたので通話約束時間を守れなかった」と謝罪したのだ。すなわち、労働党会議に参加してまもなく韓国に電話してくる彼の精神状態をどう判断すればよいのだろうか。それは今北朝鮮社会が維持されている秘訣は残忍な人権じゅうりんだけで、住民たちからすると過去の生活の延長、すなわち惰性だけだということだ。

 北朝鮮を脱出して2008年韓国に入国した北脱出者・崔ソンイル(仮名. 清津出身、現在は仁川居住)氏は、北朝鮮住民たちの反金正日感情に対してこのように話した。 「今北朝鮮で親しい友人や親戚が集まった時、金正日のことをよく言う者がいれば人々は彼をまちがいなくバカと評価する。 頭の足りない人だけが将軍様がどうこうなどという話しをする」

 70年代に個別の幹部を非難しても犯罪と考えた北朝鮮住民が、今は体制非難発言はもちろん、利敵行為と言える韓国との電話通話もありえることだと考えて、何の社会道徳的な、精神的な拘束を受けないでいる。 それは北朝鮮住民の認識の中に金正日独裁政権に対する信頼が消えたことによる反動とも言える。

 2004年北朝鮮にしばしば出入りするある中国朝鮮族の記者は筆者にこういう話をした。

「今となっては北朝鮮政権が改革開放をするにしても遅い。 今、改革開放をすれば、ややもすると無政府状態が生じるかもしれない。 多分、人々があまり目覚めていなかった70~80年代に改革開放をしたならば改革開放が成功するのはもちろん、政権も安定しただろう。」

 結局、彼の話も、政権に対する住民の無信頼と、洗脳から目覚めた北朝鮮の人々の反金正日感情が、ある契機さえあれば収拾できない大きな問題に拡大するいう意味であった。

 今、北朝鮮で金ジョンウンの後継者としての登場を画策する金正日独裁政権の最も難しい課題が民心をつかめないことだ。

 今は金正日が後継者として登場した70年代と違う。

 70年代は北朝鮮の人々が洗脳化されていた時代だったが、今は北朝鮮住民が洗脳から目覚めた時期だ。 一言でいうと、北朝鮮の最も大きい変化は住民たちが洗脳から目覚めたという点だ。 また、その変化は今後、北朝鮮問題における大きな変数として浮び上がるだろう。

チン・ソンラク記者
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大韓民国
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%93%E5%9B%BD

朝鮮民主主義人民共和国
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%9D%E9%AE%AE%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD


韓国が抱える統一の障害は「情報」(1)

日経ビジネス 2010年8月25日(水)趙章恩 

韓国にはこんなことわざがある――「もう遅い」と思った時がいちばん早い時。日本の「思い立ったが吉日」と同じ意味を持つ。その言葉を信じて私は、社会人になって10年目で日本への留学を決意した。私は小さいころから高校を卒業するまで東京に住んでいたが、歳をとってもう一度日本に来てみると、子供のころには気づかなかったいろんな日本が見えてくる。

 特に驚いたのは、朝鮮半島――韓国では「韓半島」と呼ぶ――を取り巻くニュースがとても豊富なこと。特に北朝鮮関連ニュースは、韓国でよりも早く詳しく報道される点である(韓国の芸能人情報も日本の週刊誌の方が詳しく報道しているのでびっくり!)。北朝鮮の街並みや生活を隠し撮りした映像は韓国ではなかなか見られない。後継者問題や金正日総書記の健康状態など、韓国ではどのマスコミも似たり寄ったりの報道しかしない。それに対して日本は、自由にモノが言えるせいか、中身が濃くて面白い。いろんな専門家がいろいろな意見を言っている。

 逆に韓国が、日本の報道を引用して報道しているほどだ。日本のマスコミの方が韓国以上に北朝鮮に敏感になっているのではないかと感じる。もちろん韓国でも、毎週北朝鮮の動向を報道するテレビ番組がある。北朝鮮研究も盛んだ。しかし、一般市民が肌で感じる北朝鮮はとても遠い。

 韓国にとって北朝鮮の動きは国家の国防・政治だけでなく株価や為替レート、企業の長期戦略など経済的にも多大な影響を及ぼす。しかし、休戦状態が60年も続いているせいか、もう北朝鮮は遠いどこかにある未知の国のような存在になってしまっている。鈍感になってしまった面もある。


2010年は朝鮮戦争の勃発から60年~いまだに続く休戦リスク

 韓国人と北朝鮮人――韓国では「北韓」(ブッハン)という――は同じ民族でありながら、 1950年6月25日に勃発した戦争のため、まだ休戦状態である。韓国にとって北朝鮮は、どの国よりも対立している敵であると同時に、助けるべき同胞なのだ。2010年は戦争開始から60年、「あの日のことを忘れてはならない」と朝鮮戦争――韓国では「韓半島」と呼ぶ――をテーマにした特別ドラマや映画が制作され、人気の韓流スターが大挙出演している。

 各種の国際イベントも続いている。例えば、朝鮮戦争に参戦した国連軍所属のアメリカ、フランス、カナダ、ギリシャ、オランダ、ニュージーランド、トルコ、南アフリカ、エチオピア、タイ、フィリピンなど16カ国の参戦兵士や青少年、記者などを韓国に招待し、世界でもっとも貧乏だった韓国の生まれ変わった姿を見せる恩返しイベントがあった。特に参戦国の中でも最近注目されている新興国との関係は緊密だ。「兄弟の国」として大手企業のCSRやソーシャルビジネスの対象になっている。

 日本の友達によく言われるのは、「韓国はいつ行っても活気があって、人々は元気で、全然不景気に見えない」という感想である。軍事政権が終わった90年代以降かなり緩和されているが、韓国はまだ休戦というリスクを背負っている(軍事政権時代には、韓国人は海外旅行に行く自由はなかった。国外に行く際には北朝鮮の人と接触してはならないという教育もあったという)。

 外国人に人気の観光コースの一つが南北休戦線の上にある板門店の見学だ。しかしここは、韓国人にとっては気軽に足を運べる場所ではない。ハリーポッターの世界に「魔法省」があるように韓国には「統一部」――(韓国では「部」が「省」にあたる――がある。統一部が身分照会をして「問題ない」と判定された人だけで構成された団体でないと板門店は観光できない。

板門店に限らず高いところからの撮影が禁止されている地域も多い。空港はその一つだ。西海岸の、北朝鮮に近い海水浴場では“リアル肝試し”が行われた。避暑客がピークに達している8月上旬に、北朝鮮から大雨で流れてきた地雷が発見されたのだ。ひところに比べだいぶ開放されてはいるが、軍事地域に指定され民間人は入れない海岸もある。拉致被害者もまだたくさん北朝鮮に残っている。北朝鮮の韓国内でスパイが逮捕されることも度々ある。韓国人男性の国民の義務として徴兵制があるのも休戦状態だからだ。

 もう一つ、韓国は輸出国家であり、韓国企業は海外進出を当たり前に考えている。それは、南だけでは人口も国家面積も小さく、内需だけでは経済が成り立たないからである。これも休戦の影響だ。昨年末あたりから日本のマスコミは「世界で躍進する韓国を学べ」と韓国を持ち上げている。韓国からすれば、世界進出するしか生き残る道がないのだ。


「我々の願いは統一」は誰でも歌えるが…

 韓国では「我々の願いは統一」という国民なら誰もが歌える歌がある。国力を充実させるためにも必ず統一をしなければならないと考えている。統一すれば人口も国土も大きくなるからだ。休戦線がなくなれば国防費を減らして、その分を教育や福祉に使うことができる。

 ただし、理論的にはそうなのだが、実際のところは少々異なる。明日にでも統一する、となれば「ちょっと待って!」と叫びたくなる。

防衛省
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%B2%E8%A1%9B%E7%9C%81

“ガラスの国防政策”が粉々に砕け散る?

日経ビジネス 2010年8月16日(月)鍛冶俊樹

政府は『防衛白書』の発行を延期した。この件は一部マスコミでも報じられたので、ご存じの方も多いだろう。しかし、これは単なる延期で済ませていい話ではなさそうだ。

 まず事実関係を整理しておこう。防衛省は当初、『防衛白書』を7月30日に政府の閣議了承を得て発刊する予定だった。『防衛白書』は毎年刊行されており、これは例年通りのことである。ところが7月27日に首相官邸は突如「了承を見送る」と言い出した。これが騒動の発端である。


官邸と防衛省で食い違う説明

 なぜ了承を見送ったのか? 実に奇妙なことだが、この理由が明快ではないのだ。各者の説明が食い違う。当の官邸は「直近の北東アジアの安全保障上の重要事項を書くべきだとの指摘があった」と説明している。3月に韓国の哨戒艦が撃沈された事件が記述されていない点を突いているようだが、防衛白書は年刊であり、前年までの出来事を記述するのが普通である。

 従って、「これは表面的な言い訳に過ぎず、真相は別にある」というのがマスコミの見立てとなる。多くの報道に目を通したが、それは「韓国への配慮」であるらしい。『防衛白書』には「我が国固有の領土である竹島の領土問題が未解決」旨の記述が4年前から入っており、韓国政府は毎年反発している。

 今年の8月29日は日韓併合100年に当たる。そこで韓国政府を刺激しないように、了承を8月29日以降に延期したというわけである。

 マスコミに共通した説明であるから、防衛省側の説明なのだろうと推測できる。もちろん、マスコミはこの説明に対しても批判しており、「8月29日以降に発刊が延期されても反発しないという保証はない。むしろいつ発刊しようが反発は必至だ」としている。

 官邸と防衛省の説明が食い違っているわけだが、筆者は背景として政権内部に『防衛白書』そのものへの反感があるのではないかと考えている。言うまでもなく、菅直人政権には全共闘世代が多い。第1回の『防衛白書』が発刊されたのは1970年、中曽根康弘氏が防衛庁長官だった時だ。

 当時、暴力闘争に明け暮れた全共闘の学生たちは日米安保に反対し自衛隊にも否定的だった。そんな風潮の中で防衛の必要性を訴えるために出されたのが『防衛白書』である。そのため、『防衛白書』そのものを軍国主義のプロパガンダとして白眼視する向きも少なからずあったのである。

 いずれにせよ、真相は現時点では闇の中だが、ここで浮上してくるのは、「防衛白書はもはや発刊されないのではないか」という懸念である。というのも、防衛省としては8月29日以降でなるべく早く閣議了承してもらいたいところだが、官邸としては世間も韓国もこの問題を忘れた頃にひっそりと刊行するのが得策と考えるだろうからだ。

 ところが9月には民主党の代表選挙があり、菅政権の存続そのものが危ぶまれている。仮に存続するとしても内閣改造ぐらいはありそうである。つまり首相も官房長官も防衛相も顔ぶれが変わるかもしれず、防衛政策への姿勢そのものが変化してしまうかもしれない。そうなれば防衛白書の記述も根本的に見直さなくてはならなくなり、結局、『防衛白書』の刊行自体が見送られる可能性が強まってくる。

 『防衛白書』は防衛政策の総合便覧であり、これを見ると防衛政策の全貌を知ることができる。国民への広報のためだけにあると思われがちだが、実はそれだけではない。防衛省は陸幕、海幕、空幕、統幕、内局などからなる複雑な組織であり、そのまとまりの悪さは定評がある。また防衛省は弱体官庁であり、他省庁や政界に対してほとんど発言権を持たない。

このバラバラで弱体な官庁が40年間かけて各部署、他官庁、政界と調整を繰り返し積み上げた合意文書にほかならないのが『防衛白書』である。ひとたび見直すとなれば、ガラス細工のように組み上げられた繊細な防衛政策の体系は粉々に砕け散るかもしれない。

 もちろん、文書の上だけの防衛政策の崩壊なら、再び合意を取り直せば再構築は可能だ。だが物理面での崩壊が起これば、立て直しは困難だ。そして、物理的な崩壊も現実のものとなるかもしれないのである。


“10対0”と“10対1”は大きく異なる

 菅内閣は来年度予算の概算要求基準を決定したが、何とその内容は、各省一律前年度比10%削減である。一律10%とは言うものの、社会保障費や地方交付税を例外とし、さらには特別枠が設けられている。つまり、うまくすり抜けられる官庁もありうるのだが、防衛予算は逃れようもなく標的にされる公算が極めて大きい。

 防衛予算は今年度約4兆8000億円であるが、4割以上を占める人件・糧食費や約2割を占める訓練活動経費を大幅に削減することなど不可能だ。大幅削減が可能な分野は、実は兵器購入費の約8000億円である。だが防衛産業はほとんど最低限の利益も見込めない状況で兵器を納入している。末端・下請けの企業に至っては廃業寸前だ。

 もしここを10%すなわち約4800億円分を削減したら、防衛産業の多くは倒産するか業種転換をするかの選択を迫られるだろう。兵器が納入されない自衛隊など抑止力どころか屯田兵にもならない。つまり、事実上、防衛基盤が崩壊してしまうのである。

 日本の防衛力の本質は、兵器の性能そのものだといっても過言ではない。その好例がF15戦闘機である。この米国製の戦闘機は1982年のレバノン内戦、1991年の湾岸戦争で旧ソ連製の戦闘機と対戦し敵機を多数撃墜しながら1機も撃墜されていない。言うなれば“10対0の完全試合”を実現しているのだ。

 そんな戦闘機が日本にも約200機配備されている。周辺国の空軍が戦闘を挑む気にならないのは当然だろう。要するに、これが抑止力である。

 だが、この“10対0”という数字が“10対1”に変わるだけで、もはや抑止力は成立しなくなる。1950年に始まった朝鮮戦争では米国のF86戦闘機が中国人パイロットの操縦するソ連製戦闘機ミグ15を792機撃墜している。一方、ミグ15はF86を78機撃墜した。まさに“10対1”であり、F86の圧勝に見えるが、米国にとっては厳しい戦いだった。なぜなら抑止に失敗しているからだ。相手に少しでも損害を与えられる見込みがある場合、敵は戦闘を恐れない可能性がある。

 日本にとって抑止力は、さらに厳しい意味を持つ。米国の場合はいざとなったら実戦で決着をつけることができる。日本の場合はそもそも戦うことが許されていない。つまり常にシミュレーション上、“10対0”というハイスコアを維持し続けなければならず、これが“10対1”となれば相手は戦いを挑んでくるかもしれない。そして、挑まれたら事実上、退却するよりほかないのである。

 日本が米国の最新鋭戦闘機F22を喉から手が出るほど欲しがるのはこのためである。F15が今でも強力な戦闘機であるのは事実だが、中国が配備を進めている戦闘機との戦闘を想定した場合、“10対0”のスコアを維持するのは困難になりつつある。

 ところが米国は既にF22の生産停止を決めている。代替機のF35を推薦しているが、これは開発中で納入がいつになるか分からないという。このような状況下で予算の10%減が実施されてしまうと、最新鋭戦闘機の取得はほぼ不可能となり、航空自衛隊の抑止力は崩壊するのである。

 自衛隊は特に中国との戦争を計画しているわけではない。ただし、中国が海軍力や空軍力を増強している現状では、中国が新たに配備した兵器と自衛隊の兵器との性能や数量の比較を行わないわけにはいかない。そして自国の抑止力に陰りが出そうであれば、増強を目指すのは当然と言えよう。

 海上自衛隊は最近、潜水艦を2隻増強し、現在の18隻体制から20隻体制に移行する方針を固めた。中国が潜水艦を増強しているのに対応したものである。2004年に中国の原子力潜水艦が我が国の領海を侵犯し、間近くはこの4月に通常型潜水艦2隻が駆逐艦などに随伴して浮上したまま琉球列島を通過した。

 潜水艦が浮上したまま航行するのは敵意のないことを示す行為だが、同時にこのロシア製のキロ級潜水艦が他国に全貌を晒しても構わないことを示してもいる。つまりもっと性能のいい潜水艦の配備が進んでいるのである。

 こうした状況で、海上自衛隊は潜水艦の増強を図ろうとしているのだが、問題は予算だ。1隻で約500億円かかるから、2隻で合計約1000億円が必要になる。10%減の方針下でこの金額を獲得するのは困難であろう。


昨年に続いて今年も先送り?

 年末までに防衛省は防衛計画の大綱を策定し、閣議決定を得なくてはならない。これは今後何年にも及ぶ防衛力増強の大枠を決めるものであり、防衛予算の大枠もここで決まる。実は昨年末に決めなければならなかったのだが、政権交代で今年に先送りになった経緯がある。

 今年こそは決めなくてはならないのだが、果たして予算10%減という方針下で策定は可能であろうか? まさか新大綱で毎年10%減と謳うわけにもいかず、さりとて「防衛予算は特別扱い」と宣言するとも思えない。

 結局、再び先送りの可能性も否定できない。そうなると防衛力整備の根拠がなくなってしまう。そんな状態が続けば、陸自削減論が与野党を問わず国会で台頭してくるのは避けられないだろう。

 今、まさに防衛省崩壊の序曲が永田町に奏でられつつある。

2010/08/24 00:26 産経新聞

【同盟弱体化】第4部 揺らぐ足元(下) 

米国の安全保障戦略と日米同盟・統合エアシーバトル構想
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shin-ampobouei2010/dai4/siryou2.pdf

 7月下旬、ワシントンの米連邦議会議事堂を異例の“陳情”に訪れた民主党議員と労組委員長がいた。在日米軍基地を多く抱える神奈川県を地盤とする衆院議員、斎藤勁(つよし)と、米軍基地で働く日本人労働者が加入する全駐留軍労働組合(全駐労)委員長、山川一夫だ。

面会相手は上院歳出委員長、ダニエル・イノウエ。米政府の国防予算を左右する立場にある。

 在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)に関する日米特別協定は来年3月末に3年間の期限が切れる。改定をめぐる交渉で労務費を維持させるため、米側の理解を求めるのが斎藤らの訪問の目的だった。

 「基地がなくならず、雇用だけが失われるようなことになれば『第二の普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)』のような火種になりかねない」

 山川は訴えた。

 「日本はインフラ、住宅、労働者を提供し、米国は日本の防衛を担う。国防予算の占める割合は日本はGDP(国内総生産)の1%未満だが米国は4%だ」

 米上院では最も日本に理解のあるイノウエは2人を歓迎しつつ、日本の負担の少なさを暗に批判した。米国の肩には、イラクやアフガニスタンでの戦費負担が重くのしかかっている。国防長官、ロバート・ゲーツは今月9日、今後5年間で1千億ドル(約8兆5千億円)の国防費削減を目指す取り組みを発表した。戦費負担のしわ寄せは在日米軍に及んでいる。

 同じく2人と面会した国防総省当局者はもっと直截(ちょくせつ)的だった。

 「米軍駐留経費を含めた日本の防衛予算のGDP比は少ない。外務、防衛両省に直接訴えてみてはどうですか?」

 日米両国が財政上の困難から防衛予算の効率化を迫られるなか、中国は着々と軍事力強化を進めている。

 今月16日、国防総省は中国の軍事動向に関する年次報告書を発表。2009年の実際の国防関連費は、中国政府が発表した予算案のほぼ2倍の1500億ドル(約12兆7500億円)と推計した。

 日本の防衛予算は平成22年度予算で約4兆8千億円。その2.6倍もの予算を、中国は国産空母や戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)の建造に注ぎ込み、太平洋など外洋での作戦能力の向上を目指しているのだ。

 「そのうち東シナ海も南シナ海のように、中国の(領土保全などにかかわる)『核心的利益』になる。米国にとって、中国はもはや『軍拡の懸念』の域を超えた」

 対中外交に携わる外務省幹部は報告書を読んだ後、こうつぶやいた。さらに東シナ海での中国のガス田開発の真の狙いについてこう断言した。

 「海上に構造物を構築し、いずれ既成事実化した上で、太平洋への拠点にしたいと考えている。資源獲得だけが目的ではない」

 中国の動きを日本は指をくわえてみているしかないのか。

 自衛隊幹部は「海・空戦力をより一体的に運用する米軍の『統合エアシーバトル構想』に日本が主体的に協力できる余地は多い」と語る。

 その一つが中国海軍の動向の監視だ。哨戒機などによる警戒・監視を強化して、情報収集能力を高める。陸上自衛隊や在沖縄米海兵隊を緊急展開させる高速輸送艦の導入も検討課題だ。陸自と海兵隊の共同対処能力の強化や、集団的自衛権の憲法解釈見直しで抑止力を高めることが必要なことは言うまでもない。

 思いやり予算も抑止力維持の必要経費だが、政府は事業仕分けの対象としたばかりか、平成23年度予算案の編成に当たっては公開の場で予算の優先順位を付ける「政策コンテスト」の対象とする方針だ。日米同盟よりも「財政の論理」の方が重要なのか。

 日米両政府が思いやり予算をめぐる交渉を始めた直後の7月27日、下院軍事委員会の公聴会に出席したアジア・太平洋安全保障問題担当の米国防次官補、ウォレス・グレグソンは事前に提出した書面のなかで、日本に主体的な「関与」を求めた。

 「これ以上の受け入れ国負担(思いやり予算)の削減は潜在的な敵国に、日本が防衛へのかかわりを真剣にとらえていないというサインを送ることになる。日本は防衛予算と受け入れ国負担を増やすべきだ」

 この問いかけに日本はどう答えるのか。(敬称略)

 この連載は加納宏幸、半沢尚久、酒井充、尾崎良樹、有元隆志、久保田るり子、ロンドン 木村正人が担当しました。

2010/08/23 00:43 産経新聞

自衛権・集団的自衛権
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%86%E5%9B%A3%E7%9A%84%E8%87%AA%E8%A1%9B%E6%A8%A9

【同盟弱体化】第4部「揺れる足元」(中)

 7月下旬に行われた米韓合同軍事演習。日本海に浮かんだ米海軍の原子力空母「ジョージ・ワシントン」(GW)の艦上に海上自衛官4人の姿があった。

 4日間の演習には3月の韓国哨戒艦撃沈事件を受け、北朝鮮の挑発行為を牽制(けんせい)するため米韓両軍の約8千人が参加した。過去最大規模の演習に海上自衛隊は初めて1等海佐の黒田全彦=まさひこ=(42)らをオブザーバーとして派遣したのだ。

薄暗い室内にレーダー画面が並ぶ戦闘指揮所と海域を見渡せる艦橋。黒田らはすべての情報が集約されるGWの中枢部を自由に動き回ることができた。

 対潜水艦戦、特殊部隊の侵入阻止、北朝鮮を攻撃する爆撃訓練-。24時間休むことなく演習のシナリオは展開するため、寝る間を惜しんで動きを追った。傍らには米海軍幹部が付き添い、演習内容を説明した。

 朝鮮半島有事に備え、米韓の抑止力と作戦遂行能力を誇示しようという意図が肌感覚で伝わってきた。

 「百聞は一見にしかず。米韓が対等な立場でどう対処するのか存分に把握できた。参加しなければ詳細までは教えてもらえない」

 黒田はこう振り返るとともに、米側から繰り返しかけられた「参加してくれたことを感謝する」との言葉に「深い意味がある」と感じた。日本も共同対処能力を高めるべきだという米側の強い意向を。

 「日本がどういう対応をされるかは分かりませんが合同演習にご招待したい」

 韓国政府高官が民主党有力議員にオブザーバー参加を持ちかけたのは3日後に演習を控えた7月22日朝という慌ただしさだった。

 5月20日に韓国が撃沈事件を北朝鮮によるものと断じた後、米韓に日本も加えた3カ国の結束を示したいとの韓国側の意図がうかがえた。当初、政府内には艦艇を演習に派遣すべきとの主張もあったが、集団的自衛権を「保有するが行使できない」という奇妙な憲法解釈がネックとなった。

 演習中、仮に北朝鮮が米韓両国の艦船に攻撃し、それが海自艦船への攻撃と認められない場合、集団的自衛権を行使しなければならない可能性があった。昨年8月、政府の有識者会議「安全保障と防衛力に関する懇談会」はそうした事態も想定し憲法解釈の見直しを提言したが直後の政権交代でたなざらしになった。

 実際に半島有事が起きた場合、日本が傍観するわけにはいかない。韓国で暮らす2万8千人以上の日本人をどう守るかという課題が政府に重くのしかかる。さらに日本が他国の在留外国人の救出で積極的な役割を果たすことも期待される。だが、外国人はおろか邦人すら救出できず「結局は米軍を頼るしかない」(陸自関係者)のが実情。とりわけ深刻なのは空における「駆けつけ警護」問題だ。

 《韓国から避難する米国民を乗せ日本海の「公海上」を飛行する米軍輸送機に北朝鮮のミグ29戦闘機が攻撃を始めた。その時、哨戒中の航空自衛隊機は…》

 空自パイロットが米輸送機機を助けようにも、集団的自衛権の行使の制約が「壁」となる。

 「法的に整備されているのは、半島有事で出撃する米軍を支援する周辺事態法の枠組みだけだ。日本が主体的な任務を果たすことは何も想定されていない」

 現役の自衛隊幹部は口をそろえる。半島有事で日米同盟が機能不全に陥り、同盟の破綻(はたん)につながる最悪のシナリオを回避するにはどうすればいいのか。

 これらの問題は法制度や、集団的自衛権の解釈などの「ソフトウエア」に起因する。厳しい財政事情で防衛力整備に限界はあるが、ソフトウエアに手を加えるだけで日本の主体性を高めることは可能だ。

 防衛省が次期主力戦闘機(FX)に米英などが開発中のF35戦闘機を調達することに二の足を踏むのも、武器輸出三原則により日本が国際共同開発に参加できなかったからだ。兵器開発の世界では国際共同開発が趨勢(すうせい)で三原則の見直しが必要だ。ところが…。

 「改めて法律を調べてみたら『総理大臣は自衛隊の最高の指揮監督権を有する』と規定されている。そういう自覚を持って役目を担っていきたい」

 首相、菅直人は19日、自衛隊の統合・陸海空4幕僚長との初の懇談の場でこれまで自覚がなかったような発言をした。足元のおぼつかなさを見透かすように中国政府当局者は合同演習直前、日本政府関係者に「上から目線」で忠告した。

 「日本は演習に参加する気があるのですか? よく考えた方がいいですよ」

 (敬称略)
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