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「政府調達」に大いなる懸念

 
 アメリカは1989年の日米構造協議以降、様々な形で日本に「構造改革」を要請してきた。93年には日米包括経済協議が始まり、94年以降は年次改革要望書に姿を変えた。年次改革要望書は、なぜか09年以降は公開されなくなってしまったが、またもや形を変え、わが国に突きつけられたアメリカからの「構造改革」の要望こそが、TPPなのだろうか。
 
 ちなみに、2008年までのアメリカからの年次改革要望書は、今でも普通に読むことができる。その中には、郵政民営化や法科大学院の設置、労働者派遣法改正などに関する「アメリカの要望」が含まれており、日本国民が読むと吃驚すること請け合いだ。
 それはともかく、TPPの24の作業分野の中で、さらに1つ、大いに懸念せざるを得ない分野を挙げておこう。それは「政府調達」だ。
 
政府調達分野において、現在のTPP協定(シンガポールなどが締結しているもの)がそのまま適用された場合、公共事業の国際入札の下限が、現行の政府調達協定(WTOのルールに沿っているもの)よりも引き下げられる可能性があるのだ。特に、地方における公共事業が危険である。
 
 何しろ、現在の地方自治体の公共事業における建設事業の国際入札範囲は、23億円(WTO基準による)である。ところが、これがTPP協定に沿うことになると、7.65億円(500万シンガポールドル)にまで引き下げられてしまうのだ。すなわち、地方における7.65億円以下の公共事業については、外国企業を「内国民待遇」しなければならないことになる。
 
 内国民待遇とは、外国企業を自国企業並に優遇し、非関税障壁を撤廃するという究極の自由化だ。地方自治体は外国企業に不便がないように、公共事業の公文書を英語でも作成しなければならなくなってしまう。(すなわち、非関税障壁の撤廃だ)

 

『平成の開国』どころか『平成の壊国』

 
 また、サービス分野における公共事業の国際入札範囲は、やはりWTO基準に沿い、現行は中央政府が6900万円、地方自治体が2.3億円だ。これがTPP協定に沿う形になると、中央政府・地方自治体共に750万円と、敷居が一気に引き下げられてしまう。
 
 こう言っては何だが、市町村等の自治体が750万円「程度の」サービスの事業を行おうとした際に、外国企業を内国民待遇するために、わざわざ英語の公文書を作成しなければならなくなるわけだ。
 ここまで来ると、だんだんバカバカしくなってくるが、これがTPPがもたらす「可能性」の1つであるのは間違いない。何しろ、現行のTPP規約がそのようになっているのである。
 
 とりあえず、事務作業(何しろ公文書の英訳が必要だ)が公共事業の実務を煩雑にし、国内の事業がますます縮小することになるか、少なくとも事業開始が遅延するのは確実だろう。特に、地方のインフラ整備などを請け負っている中小企業は大打撃を被ることになる。
 挙句の果てに、人件費が安い他国の企業と、地方の公共事業において競合させられる可能性さえあるのだから、
 
「『平成の開国』どころか『平成の壊国』だ!」

などと、罵声が飛び交う羽目になるのは、ほぼ確実である。
 繰り返しになるが、問題なのはTPPの現行規定でもなければ、アメリカの構造改革要望でもない。この手の情報をひた隠しにし、「平成の開国」などというスローガンでことを進めようとする現行政府の手法だ。
 
 そして、TPP問題を「農業 対 製造業」と、矮小化したスタイルで国民に意識させようとする、メディアの報道姿勢である。農業及び製造業「以外」の部分。すなわちTPPの作業部会の「24分の22」について、ほどんと報じず、論じず、日本社会の構造が大きく、しかも悪い方向に変わってしまったとき、果たして現行政府やメディアは日本国民に対してどのように責任を取るつもりなのだろうか。
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