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国を守れずに何のための子ども手当てなのか
2010.10.15(Fri)JBプレス 林直人
1.概算要求1割カットとは?
今年は、防衛計画の大綱、それから空白となっていた中期防衛力整備計画が策定される年と聞いていたところ、平成23(2011)年度の各省庁の概算要求は前年度予算の約1割カットの要求とし、自民党政権下で行われたシーリング方式を復活させたと聞いた。
選挙のための政策で国家の存亡が危うくなっている
さらに各省庁は1割カットの分を「要望」として要求できるとし、その要望は「政策コンテスト」により総理大臣が決定するとのことである。
昨年行われた「事業仕分け」同様、「政策コンテスト」なるものは、本来国家的施策であるべきものだ。
しかし、国民生活そのものに直接反映するものが優先されれば、国家としての国際競争での生き残りのために必要な中・長期的視点に立った総合的施策に必要な分野が取り残されることとなるだろう。
リーマン・ショック以降の我が国の経済悪化は個人生活に大きく不安を与え、国家予算の税収減収とともに国家予算の削減を迫ってきている。
その中で国家予算の削減が謳われた平成22(2010)年度予算は、民主党の政策優先のため、国家として必要な分野での経費が大幅に削減された結果となった。
ギリギリまで追い込まれた予算カット!
ここで、防衛予算が限界に来ている状況をつぶさに見ていく必要があろうと考えるものである。
まず我が国の防衛力整備の経費については、全額防衛省管理すなわち防衛省要求そのままの金額であり、しかも一般会計計上部分のみであり、防衛省は特別会計を管理していないのである。
しかも、その予算は近隣諸国の国防費が増大しつつある中で、平成14(2002)年から着実に削減されている。
防衛省として、平成15(2003)年には「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」の閣議決定や「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱について」の閣議決定についても、必要な防衛力整備達成のための確約ではなく財政の範囲内での工夫を求めるものであった。
現場は既に限界に達しており、拡大した任務と、その任務達成のためのヒト、モノ、カネが十分ではない状態に来ていると言えよう。
防衛省予算の実態であるが、予算は大きく3つに区分に分類されており、これを予算の3分類と称している。
防衛予算の3つの分類とは!
その1つ目は「人件・糧食費」と称され、いわゆる隊員の給与や給食などの原材料費などである。
その2つ目は「歳出化経費」と称され、主要装備品などはほとんど数年の分割払いとなっており、「月賦」ならぬ「年賦」のシステムで、既に購入したものの付け払いである。
その3つ目には、それ以外の諸経費ということで「一般物件費」と称されている。
平成22(2010)年度予算4兆6826億円(SACO、米軍再編経費を除く)の内訳を見ると、「人件・糧食費」が約45%の2兆850億円、「歳出化経費」が約36%の1兆6750億円であり、残る「一般物件費」が約20%を占める9225億円である。
削減額1割に相当する4751億円が「要望」額となるが、「人件・糧食費」は性質上削減が困難であり、「歳出化経費」は防衛装備品等の既契約分の当該年度支払い分であり削減が困難な経費である。
また、「繰り延べ等」という、契約時、次年度に払う予定であった額を、さらに1年先送りする処置があるものの、これは付けを次年度以降に回すこととなり基本的な解決方策とはなり得ない。
一般物件費を半減すれば演習はほぼ不可能に!
従って経費構造上、この削減額はほぼ「一般物件費」から捻出せざるを得なくなる。この一般物件費は防衛用燃料、修理費、教育訓練費、研究開発費、基地対策費、その他となっている。
これらの約半分を削減すると、燃料などを削減し、例えば演習場での訓練はやめ各基地・駐屯地での練成訓練にとどめ、演習場を使用しないので基地対策費は支払わず、米軍再編経費も遅れた分の計上を削減することとなろう。
それでも、実任務についている「ソマリア沖・アデン湾における海賊対処用の燃料」、東シナ海における「日中中間線監視用偵察機の燃料」および「ハイチ国際平和協力業務用の諸経費」などは削減不可能である。
予算構造上、無理をした形で削除せざるを得ないということを国民も政府も正しく理解したうえでの、各省庁1割削減の予算要求であったのだろうか。
今回の概算要求の意味するところは、自衛隊は今までの訓練量を減らす一方で練度だけは維持し、しかも任務は放棄させないということであろうか。
兵を100年養うはこれ1日のためにあり!
自衛隊が今まで苦しい環境においても与えられた任務を着実に達成してこられたのは、厳しい訓練に裏打ちされた部隊の実力があったからであり、「訓練は実戦のごとく、実戦は訓練のごとく」取り組んできた成果とも言え、一朝一夕で出来上がったものではない。
「兵を100年養うはこれ1日のためにあり」と言われるように、部隊の実力の育成には長い年月の積み上げが必要であり、それに必要なものを失えば、その時から練度は坂道を転げ落ちるように落ちていくことを知ったうえで行われるべきものであろう。
故・小渕恵三総理の時から「自衛隊は存在することから運用する時代へと移行する」と言われて久しい。
その運用場面には、主として各種災害派遣や多くの国際平和協力活動が挙げられるが、これらもまた、防衛任務を前提とした過酷な状況に対応すべく訓練された自衛隊であったからこそ任務を達成できたものである。
その証左として、まさに列国の軍隊が多くの犠牲者を出したイラクにおいて自衛隊が任務を果たし、また当時の指揮官の「我々の訓練は間違ってはいなかった」という発言があったことを忘れてはならない。
他国のように自衛隊にも労働組合がもしあったら・・・
そのことを思う時、今回の予算要求における政府の姿勢は、任務に就く自衛隊の平素からの訓練の積み上げや装備の駆使による習熟を十分にさせずに、自衛隊を運用できない組織にさせようとする画策でもしている様な錯覚を覚えるのは、私だけではないと思う。
労働組合を持つ列国の軍隊であれば、訓練などを含む即応態勢維持のための諸準備が十分にできないのであれば、「任務」の削減交渉か「任務」放棄が始まるところであろう。
このような状況が続けば、最近防衛省が発表した「防衛省編集協力:MAMOR2009年8月号」にあるアンケート結果よりもさらに悪化し、我が日本から自衛官を志す若者がいなくなり、崩壊したローマのように「傭兵」で国の防衛を果たさなければならなくなる。
そうなると忠誠心も疑わしく、今の防衛費より高い経費を必要とするような悪循環の始まりの兆しではないかと危惧を抱くものである。
2.我が国の陸上防衛力の実態
この厳しい予算環境の中で、「防衛費のみが突出するのは説明できない」という言葉が長く横行したが、防衛費は予算しかも一般会計の中でのみ評価されるものではない。
軍備増強著しい中国、ロシアにどのように対応するのか!
どのように自衛隊を運用するかから、どのような組織、能力を求めるかを明らかにして、そのための予算を計上するのが本来の姿であり、列国もそのように軍事力を設計していると考えている。
我が国周辺の安定的な軍事バランスを図り、国際的役割を果たそうとするならば、現実の自衛隊の実態をつぶさに分析し検討していく機会が、今まさに平成23(2011)年度の予算要求であり、大綱の策定や中期防衛力整備計画に反映されるべき内容と考えるものである。
我が国を取り巻く周辺諸国を見ても、中国は21年連続で2ケタの伸びを示す防衛力整備を行いその内容は依然不透明であり、我が国周辺での艦艇、航空活動を活発化させている。
また、ロシアもエネルギー資源を背景に好調な経済の下で、日本周辺での訓練・演習などが活発化している。さらに北朝鮮は、悪化する経済状況下であっても核開発を背景に軍事力を維持し、暴走する危険性を依然としてはらんでいる。
これらに対して韓国は海・空戦力の近代化を推し進めており、この10年間で防衛費を2倍にすると表明して、近年毎年約10%弱の伸び率で着実に整備している。
台湾は防衛費をGDP比3%に増額!
台湾では防衛費の対GDP比率を2005年度には2.4%であったものを3年以内に3%に引き上げる方針を立て、2008年には3%に達し、馬英九政権になってもGDP3%を下回らせないとの方針の下、防衛力整備を進めている。
このような中で、平成14(2002)年から8年間連続マイナスの我が国の防衛予算は、中国、ロシア、北朝鮮などの周辺諸国が防衛力や兵器開発を進める中で日本だけが立ち遅れる現状となり、日本の安全確保にとって大きな問題を生じることになる。
我が国でも近年、装備の近代化を人件費の抑制により図ってきたが、これももはや限界に来ており、人的勢力はどの程度が下限であるのかを真剣に検討しなければ今後の防衛力整備の指標が得られない段階に来ていると思われる。
海・空においても装備が近代化すれば、人員はその分効率化され削減できるというまやかしは、もはや現場では耐えられない状況となっていることにも目を向けるべきであろう。
例えば、艦艇の大型化に伴って、乗員数はその機能維持のため増員されているわけではなくむしろ減らされてきており、クルーの役割が増大し個人の負担が限界にまで拡大しているのが現状である。
海外展開の増大に反比例して人員は大幅減!
航空自衛隊でも、各種航空機の海外展開の増大にもかかわらずクルーの人員は削減となり、常時運用機数が極端に低下していることも見落としてはならない。
陸上戦力は、防衛所要と治安出動対応能力、それに必要最小限の災害派遣対応能力を保持することが必要である。
しかし、具体的にどの程度が下限なのかについては、「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱」により、それまで陸上自衛隊が維持してきた18万人体制から16万人体制(常備自衛官14万5000人、即応予備自衛官1万5000人)、さらには「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」により15万5000人体制(常備自衛官14万8000人、即応予備自衛官7000人)とされてきたが、今後、益々拡大する役割・任務を考慮すれば、常備自衛官は16万人程度が平時保有すべき必要最小限の兵力と考えられる。
また、この組織・人員に必要な、列国並みの装備品の近代化と充実が大前提であろうが、先ほども述べたとおり防衛予算が8年連続で削減されている中、計画通りには進捗していないのが現状である。
陸上自衛隊の存在は抑止力が第1の目的!
さらには、現実はこの大綱にもかかわらず、この5年間国家公務員の削減の対象として自衛官も5%削減を強要されてきており、陸上自衛隊の実人員が平成21(2009)年度末には、約14万3000人となっている。
その改善を図るため昨年は人員増の要求を行ったところ、無残にも事業仕分けでばっさり切られてしまったところである。
我が国全土を適切に防衛するには陸上自衛隊25万人が必要とも言われているが、現実には島国である日本における陸上自衛隊の存在は、「実際の本土の戦闘」ではなく、「確固たる陸上部隊が存在すること」により相手の侵略意図を未然に防止する「抑止」を第1の任務としている。
つまり、適切な規模の陸上戦力の存在を担保として、初めて我が国の海空戦力が有効な能力を発揮し得るという考え方を取っているところである。
列国とも国防で最も費用がかかるのが人件費であるが、我が国では防衛費が制約されているため、特に陸上自衛隊では歳出額のほとんどが人件費(約70%強)である。
陸上自衛隊は「貧乏自衛隊」!
防衛省全体の平均である約45%を大きく上回り、その結果、海・空自衛隊に比較して装備などの近代化が進まない「貧乏自衛隊」と自嘲するところがある。
この約15万の兵力は、2001年9月11日以降、同盟国として必要最小限の米軍基地などに対する警護の要請に基づき、陸上自衛隊の新たな任務である警護出動というものが制定され、テロなどの危険のある場合には、海・空自衛隊基地および米軍施設の防護に任ずる任務も付加されており、治安出動および防衛出動対処能力のほかにこの警護所要兵力を加味した兵力であることも忘れてはならない。
ここで付言しておかねばならない問題として、大規模震災対処能力がある。
自衛隊は、その持てる能力を最大限駆使して震災などの対処に赴くわけであるが、自衛隊がすべての震災に対応できる能力を保有していると誤解されているかもしれない部分がある。
あえて附言するが、陸上自衛隊の総力を挙げて対応した震災が、阪神淡路大震災であり中越地震であったことを思い起こしていただきたい。
このままでは首都直下型地震に対応が難しい!
さらに大規模の震災が予想される首都直下型地震や東海地震および東南海・南海地震などにおいては、自衛隊の11万人程度が全国から集中して対応することとなっている。
しかし、その勢力で十分対応できるというわけではなく、現状の陸上自衛隊の実員約14万人の勢力では最大限派遣しても11万人程度が限界ということである。
このため、その他の対応組織や地元と連携して対応することが大前提であり、国民自身が自衛隊のみを頼りとするのではなく、被災者自身が自らを救助せざるを得ないことを認識してもらう必要があろう。
普天間基地問題の再燃により沖縄に所在する米海兵隊の兵力がグアムに移転するとなると、この空白を埋める兵力は陸上自衛隊で埋め合わせをしなければならなくなるが、その兵力は撤退する米海兵隊の勢力に見合う約8000人規模の陸上自衛官の当該地区への増員とならざるを得ない。
現状は、与那国から鹿児島県大隈半島までの約1300キロの間に約970の離島があり、近年の中国の太平洋地域への進出を抑止し、この地域の防衛警備を補完するとなると海兵隊同様の緊急展開能力も必要となる。
治安悪化で地方自治体の警察官は大幅増員!
陸・海・空自衛官が削減されてきた近年、他方では治安状況が悪化してきたということで、我が国警察は増員に次ぐ増員が認められ、今や26万の大勢力となっている。
これらは、警察官は自衛官のように国家公務員という身分ではなく地方公務員であることにより削減の対象ではないという、行政上のマジックであろう。
自衛官は、国家公務員ではあるが行政一般職員とは異なる集団であり、治安組織である。治安が悪化している我が国で、地方公務員である警察官は増やすが国家公務員である自衛官は減らすとは、同じ税金でまかなわれる公務員でありながら、いかなる論理によるものなのか正しく理解できない。
大都市の治安維持のため必要な警察勢力を後ろで支えるのが陸上自衛隊発足の原点(警察予備隊として発足したのが陸上自衛隊の誕生である)であることを思えば、後ろ盾として最小限の兵力や装備が必要であろう。
例えば、東京都では警視庁に警察官が約4万3000人いるが、その後ろ盾になる第1師団は東京都のみならず千葉県、埼玉県、茨城県、神奈川県、静岡県および山梨県を管轄しておりながらその勢力は約5000人である。
拡大続ける警察官と自衛官の格差!
従って東京周辺で治安出動事態が発生した場合には、全国から緊急展開させる兵力とその手段が当然必要となってくることになる。
ちなみに警察予備隊発足当時は、警察総力12万5000人に対して警察予備隊7万5000人体制であった。
その後自衛隊となり、陸上自衛隊は最小限の戦力として18万人体制を目途に整備し、昭和48(1973)年以降平成7(1995)年まで18万人体制を維持した。
その後現在の15万5000人体制へと縮小した。一方、警察官定員は昭和48(1973)年時点で約18万6000人であり、その後も拡大しつつある。その結果、警察勢力と陸上自衛隊勢力の差は広がりつつある状態にある。
3.これからの防衛力整備(陸上自衛隊)に期待するもの
現状は必要な防衛費を捻出する方策を考えるべき時期に来ていると考えるのが自然であろうと思われる。
中国160万人、北朝鮮100万人、日本は15万5000人!
ちなみに列国の陸軍兵力を1つの参考にすれば、中国の160万人や北朝鮮の100万人は特別としても、米国の53万人、ロシアの39万人、韓国の56万人、台湾の20万人、ドイツの25万人に比較するとかなり少ない。
また、フランスの13万5000人、イタリアの11万人や英国の10万5000人は我が国の陸上自衛隊より少ない勢力ではあるが、人口がフランス、イタリア、英国は、それぞれ我が国の半数以下の人口しか持たぬ国家であることを思うと、一概に比較はできないであろう。
しかし、列国の保有する陸軍戦力は明らかに国家防衛に係る国民の意思を示すものであり、その部隊を建設しそして運用するものは国民自身であり、軍事力を使う覚悟があって初めて国の独立と安全を確保する第一歩となる。
現実に向き合い、避けて通ることをよしとしない気概が、今望まれているのではないだろうか。
陸上自衛隊が、我が国において抑止力として有効に機能し、世界における国際協力部隊として迅速に展開行動し、これまた他の国の軍隊にひけを取らない実力を発揮することにより別の形の抑止力となり得るよう、常に士気高く練度の高い部隊練成の環境を与え続けることが不可欠となっていくであろう。
列国との共同行動が取れるレベルに!
その際、我が国に必要な防衛力とはいかなるものであるかを検証しなければならない。
専守防衛に固執してきた我が国防衛体制下では、新たに付加された国際平和協力活動には、パワープロジェクションの分野で大きく改善されるべき問題がある。
ハイチ対応で見られるように、部隊の即応展開能力の向上も見落とせない分野であろう。さらには、各自衛隊の装備の近代化に遅れが生じないようにすることも最小限必要でもある。
すなわち差し迫った問題としては、陸上自衛隊の人員を今の15万程度に抑制したとしても、国際平和協力活動上は海外への迅速展開能力や列国との共同の行動ができるような同レベルの装備体系の付与が必要であろう。
装備は、米国のみが格段に進んでいるが、EUの列国並みでも対応可能と考えられる。
6852の島々を今の隊員数では守りきれない
また、現状の中国の太平洋進出を抑制し我が国の領土保全を陸・海・空自衛隊統合作戦などで行うとしても、6852もある我が国の島嶼(約400が有人島)にすべて陸上自衛隊を事前配置することは、今の勢力ではできない。
従って、迅速展開できる能力を付与することが先ほどの治安出動等にも対応可能となるわけであり、急務である。そのモデルが、米海兵隊の編成・装備であろうと考えるものである。
その辺を考慮すると、陸上自衛隊は、海・空自衛隊に長距離大容量の輸送手段を期待するとともに、第12旅団方式の事態緊急輸送能力として1個軽師団程度の同時空中機動能力とその空中機動警護能力を保有しなければ、今の米海兵隊を補完することすらもできない。
残念ながら、陸上自衛隊の全ヘリコプターをすべて使用しても、同時1個戦闘団が作戦できる程度でしかないのである。
さらにこれらの長距離機動を可能にすること、また、未知の島嶼などでの作戦に必要な平素からの調査や研究を含む情報分野の充実、さらには柔軟な兵站支援を確保することも重要である。
4%の教育訓練費では十分な訓練は不可能!
しかしながら、ハイチでの中央即応集団での平素の即応維持努力を見ても分かる通り、最も重要なことは、師団規模の部隊が平素から、十分に持てる装備や組織を駆使した十分な訓練ができる環境を与えることである。
現状の陸上自衛隊予算の4%程度の教育訓練経費では、幹部の頭の運動とも言える指揮所訓練や大隊程度以下の実動訓練を行うのがせいぜいであり、本来やるべきことの多くを犠牲にしているのが現状である。
これは早急に改善されるべきことであり、今後、防衛省で具体的に検討されることを大いに期待したい。
また、列国とも軍事力の維持には莫大な経費がかさむため、苦しい選択を余儀なくされているのも事実である。
しかし、少なくとも子ども手当に準備できた3兆円を考えれば、今後防衛予算を増加させ、対GDP比1%の枠から将来的には2%さらには3%程度に引き上げて、外交の有効な手段として運用できる組織を維持すべきだと思う。
イラク、クウェートで高く評価された自衛隊!
中途半端に改善された有事法制も、国家基本法に代わるものから軍事法廷にいたるものまでの範囲で整合性を図り、列国の軍隊ができるところの軍隊としての行動規範を早期に改善し、集団的自衛権の問題等も運用上の改善が急がれるところであろう。
世界の平和と安定に寄与する列国は、イラクでの陸上自衛隊の活動、クウェートでの航空自衛隊の活動や、インド洋での海上自衛隊の給油活動およびソマリア沖海賊対応等の活動を見て、自衛隊の能力を高く評価した。
自衛隊は列国並みもしくはそれ以上の能力を有するとの評価から、人的犠牲を伴いながらも世界の平和と安定に寄与するため、より多くの活動と列国と同等の負担を強要されることになるであろう。
その要望に対応できなければ、今以上に国際競争の場に取り残される結果となるであろう。まさに自衛隊を使う「覚悟」を我が国に対して列国並みに求められてきており、そのためにも、列国の軍隊と共同して行動できる法的基盤がより必要となってくるのではなかろううか。
国益のために命を懸けて任務を果たそうとする自衛官に対する制限を、列国の軍隊と同じように指揮官の命令により武器などの使用を可能とするように緩和しなければ、自衛官を犯罪者にするか、いたずらに犠牲者にするかの今の法制度では任務は遂行できない。
後に続く青年が育つ環境を維持せよ!
自衛官という職業は自らの命を懸けて任務を遂行するという事実を、自衛隊を運用する立場の政府や国会議員が正しく理解したうえで、大綱の作成とともに自衛隊の運用において必要な法的改善がなされることが急務ではなかろうか。
この美しい我が国を守り、また我が国の国益のために自らの命を懸ける青年がいることを誇りに思い、彼らが十分に任務を達成できる環境を与え、彼らの活動に感謝し、彼らに充実感を感じてもらう努力を国民が、そして国家が行う。
このことにより後に続く青年が育つ自国を維持することが、今我が国の国民に求められているのではないだろうか。
自衛隊の装備、制服を海外調達せよとは何ごとか!
2010.10.14(Thu)JBプレス坪井寛
昨年11月、事業仕分けで「制服は中国で縫製して輸入すればもっと安くなる」という論議が起きたことはまだ記憶に新しい。この論議は本当に独立国日本政府内での会話なのかと、耳を疑ってしまった。
自衛隊の制服を中国に発注せよ!
これをニュースで知った全国各地の陸海空自衛隊員は、どんなにか落胆したことであろう。国防の何たるかが欠落しているのである。
この一件は防衛省が宿題として持ち帰らされ、いまだ解決されていないのである。いつ何時また蒸し返されるか分からない問題となってしまった。
本稿は、この国が一向に我が国防衛の基本的なあり方に真剣に取り組まないことへの危機感から、制服類のような繊維関連装備品の生産基盤・技術基盤を例に取り、その実態を明らかにして、正面装備ではなく後方装備の視点から国に対し一言提言するものである。
1.制服とは何か? 戦闘服とは何か?
制服(戦闘服)とは、陸海空自衛官が平・有事を問わず、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努める(自衛官宣誓文の抜粋)」ため全員が一身に纏う装備品である。
戦時においては、納棺服とも言える極めてナイーブな一面を持ち、極めて重要なものである。
背広タイプの制服も同様に自衛官が天皇陛下拝謁をはじめ各種の式典や儀式において着用するもので、自分は日本国の防人であるとの誇りが表せる大切な正装服である。
米国は中国製の着用を禁止した!
米国にこの種の象徴的事例がある。2001年に陸軍省は中国製素材を用いて作製された黒ベレーの着用を禁止し、回収・破棄を指示して陸軍の士気・規律の維持を図ったのである。(米国陸軍省覚書「陸軍の黒ベレーについて」;2001年5月1日)
「国民のため」「国のため」と誓い現場(戦地)に赴く自衛官にとって、国民の手で作られた制服を着ることは、自己を奮い立たせるため絶対に欠かすことができない。
また運用的にも、もしこれらが輸入品であれば、生産国側の何らかの事由により生産がストップするか、あるいは日本への生産はもう止めたと言われれば、たちまちに自衛官に着せる制服類が底をつくのである。
今の政府には、自衛隊員がどんな思いで働いているのか想像もできていなく、国防という職務の重みとともに「自衛隊とは何か?」すら理解されていないのではと疑いたくなる。
2.世界に誇れる日本の戦闘服の技術レベル
現在、陸上自衛隊が採用している戦闘服は、1991年に初めて導入した(それまではOD色の作業服)迷彩型の戦闘服に改良を重ねてきたものである。
正式には「戦闘装着セット」という隊員個人を対象とした装備品の構成品(防弾チョッキ、88式鉄帽、背のうなど48品目からなる)のうち根幹をなすもので、一般用と装甲用および空挺用の3種類がある。
共通のコンセプトは、従来の作業服の域を出なかった戦闘服に、陸上自衛隊が初めて戦闘を目的として、火炎防護性(難燃素材を導入)・可視光偽装性(近距離戦闘時の秘匿性を向上させるため日本の平均的な植生を基に迷彩パターンを自己開発)・対近赤外線偽装性(赤外線暗視装置での探知を困難にするため繊維素材に特殊な加工を施す)を付加した本格的な戦闘服である。
一般用と空挺用の素材構成は、難燃ビニロンと綿の混紡(一般用は比率70/30)であるが、装甲用はさらに火炎防護性を高めるためアラミド繊維を採用して難燃レーヨンとの混紡とされている。
航空自衛隊も、現在では迷彩パターンの違いはあるものの陸上自衛隊とほぼ同等仕様のものを迷彩作業服として採用している。
海上自衛隊も一般作業服に難燃ビニロン素材を採用しているが、特殊部隊用にはアラミド系を採用している。
3.戦闘服開発の永遠のテーマ/立ちはだかる繊維技術の障壁
主要先進国の戦闘服(歩兵用)のレベルを一瞥すると、米国はナイロンと綿の混紡、英国・ドイツなど多くの国もポリエステル等の合成繊維を使用している。
つまり明らかに諸外国では、戦闘服(歩兵用)としては防護性は二の次とし、快適性・着心地を優先してコストを抑えているのが現状である。
そのうえで各国ともパイロットや戦車・潜水艦など限定的な任務に従事する隊員用としては、アラミド系の高度な難燃素材を使用した戦闘服を採用するなど、ハイローミックスが基本である。
性能は高いが着心地が悪いアラミド系!
フランスでは2008年アラミド系難燃素材(ケルメルと呼称)を使用した戦闘服を陸海空3軍に採用したとする情報もあるが、細部は不明である。恐らくコストの面から、汎用ではなく特定任務部隊用として限定された職種範囲の装備化と推量されよう。
アラミド系の素材は難燃ビニロンより火炎防護性に優れており、消防隊員の防炎服等で広く知られているが、快適性や耐久性などに難点が多いため汎用には至っていない。
日本は快適性・耐久性だけにとどまらず、「隊員の安全・安心を重視」、いわば“命を大事に”というコンセプトにより安全性と快適性の二律背反という難しい壁に積極的に取り組み、約20年前、難燃ビニロンを採用することでコストを抑え安全性と快適性のバランスの取れた汎用の戦闘服開発に成功したのである。
主要先進国はこのコンセプトをあきらめたわけではなく、20年ほど前に先進戦闘服、いわゆる21世紀型戦闘服の開発に一斉に着手している。そのイメージは、火炎防護性に優れデジタル化に対応しかつ快適な戦闘服であり、まさに夢の戦闘服開発への挑戦である。
しかしながら、米国のランド・ウォリアー計画(Land Warrior Project)やフランスのFELINなど研究試作としては既に世間に出現しているが、開発着手から20年経った現在に至っても、いずれの国もいまだ汎用(歩兵用)としては正式に実現していない。
今では、諸外国とも特殊部隊用として、用途を限定して開発を進めている模様である。
戦闘服の開発は、防護性を上げると快適性・着心地・耐久性が落ちてしまうというジレンマに陥る。これは繊維技術者の永遠のテーマであり、大きな技術の障壁である。
4.日本の戦闘服はこのままでいいのか? 具体的な技術的課題は何か?
我が国の戦闘服がこのままでいいわけはない。理想(夢)の戦闘服を追い求め続けるとすれば、具体的な技術的課題は一体どこにあるのか?
各素材メーカーは日夜、改善・開発にしのぎを削っているが、繊維メーカーの立場からすれば当面の課題は現行戦闘服に見られる問題点の解消(「夏に涼しく冬に暖かい、快適性に優れた服」)が最大の目標である。
具体的には火炎防護性能のさらなる向上、防虫性能の付加、ムレ感のさらなる改善、軽量化などが挙げられる。いわゆる「安全」と「快適」を両立させる戦闘服の追求というレベルである。
しかしながら、夢の戦闘服はこれで終わりではなく、もはや繊維メーカーの域を超え、兵士のデジタル化に対応する被服内配線の付加やウェアラブルアンテナの実現、電磁波吸収・探知など、電気・通信業界との密接な調整が必要となりつつある。
また、抗菌・滅菌であれば衛生業界と、またパワーアシスト型ロボットスーツとなれば機械業界といった具合に、将来的に多くの業界が関わる複雑な開発構造となるであろう。
この場合、今の繊維メーカーの自社努力(投資)だけでは到底対応しきれず、官側の適切なリードが必要となる。
官側がこの辺のところを深く認識して適切な策を講じていかなければ、夢の戦闘服開発は遠のくばかりだろう。
5.戦闘服のような繊維関連装備品の生産基盤・技術基盤の実態は?
(1)川上・川中・川下産業からなる繊維産業そのものが防衛生産基盤
日本の繊維産業は周知のように、素材(生地)メーカーである川上産業と、その素材を最終製品化するための染色など各種中間加工を専門とする川中産業、および中間製品を縫製して最終製品に仕上げる川下産業(ボタン、ファスナーなど含むアパレル業)からなる。
また、川上から川下に至る広範な製品化の流れを多数ある企業の中から選択して、必要なものを必要なだけ必要な時期に必要な処に納められるよう、商社が間に入って調整する。
繊維関連の防衛需要はすべてこの民需のラインで生産されており、艦艇・航空機・戦車など重厚長大型の防衛産業のような防衛専門のラインや工場は1つもない。民需の生産ラインに調整して割り込む形である。
(2)川上産業(素材メーカー)における防衛需要が全体に占める割合は1%未満
現行の戦闘服は、川上としてクラレ、ユニチカ、帝人の3社が担っているが、各社とも戦闘服関連の年間売上高は会社グループ全体の1%未満でしかない。利益率(GCIP)も民需ラインで生産するため、官との価格交渉の余地は大変小さい。
民間企業の経営努力に支えられている
このことは会社全体から見れば防衛需要をいつ手放そうが痛くも痒くもないことを物語っているが、各社とも決して「儲けるために」やっているのではないという証左でもある。
各社ともメーカーとしての社会的使命感から国に貢献、国防の一翼を担えればと手を上げているのである。それが会社の信用力にはね返ればいい、または民需部門の拡販に反映すればいいとしているだけである。
「安ければいい」という風潮があまりにも長引くと、このあたりの企業の高い意識がいつか折れてしまうのではと心配される。
(3)川下産業は、防衛需要依存度が極めて高い零細企業であるが技術は非常に高い
繊維関連装備品を受注する川下の縫製産業の多くが従業員100人未満の零細な小企業であり、これら会社はいずれも総売上の80~100%近くを防衛需要で占めているので、受注量削減がそのまま会社の経営危機にはね返る。
瀕死の危機にある零細企業の技術は世界一!
しかしながら、永年縫製技術の高さが要求される防衛需要に携わってきたことから、従業員一人ひとりの技術レベルは非常に高い。
自衛隊の制服類は軍服という特殊性から、一般の背広に比べ部品点数・サイズ構成ともに約50%増になるのが特徴で、これらをすべてミシンで縫わなければならない。大変手間がかかり細かい技術が要求される。
ミシン作業はもともと日本人の性向に合い大変得意としてきた分野であるが、中国をはじめ海外の安い人件費に押されて、今日多くの縫製産業が姿を消して久しく、防衛費が削減されている昨今も制服類縫製会社の倒産が続いている。
仮に、国が戦闘服(制服)の縫製を海外でと選択すれば、間違いなくこれら優れた技術者を抱えた縫製会社が倒産の危機に晒されるのは、火を見るより明らかである。
(4)民需部門の研究開発体制に支えられた防衛技術基盤(スピンオン)
繊維関連装備品の開発は、艦艇・航空機・戦車などの開発手順とは大きく異なる。現行戦闘服は、20年ほど前に繊維メーカー各社が防衛省(陸上幕僚監部装備部需品課)の依頼に基づき、現に今存在してすぐに使える難燃素材を防衛省に持ち寄ったことから始まったのである。
装備とは逆に制服は民生品の技術が応用される!
それを官側がいろいろな角度から検討を重ねて、一般用・空挺用として難燃ビニロン、装甲用としてアラミドの採用に至ったものである。
このように戦闘服のような繊維技術は、航空機・戦車の技術が民生品に生かされるのとは逆に、民生品の技術が防衛分野に応用された。いわゆるスピンオンである。
この方式は、官にとっては開発・改善が早く進むという利点があるが、逆に民側で開発に相当のコストがかかる場合、装備化の段階で民側の価格交渉は困難を強いられ、開発に要したコストがほとんど持ち出しになるという欠点がある。
この点に関して国側が制度として民生分野の活性化策を講じていかなければ、将来民側はペイできないと手を降ろす事態も予測されることになる。
6.戦闘服のような後方装備関連産業の生産・技術基盤をどうすれば活性化できるか?
(1)国は国産条項を制定し、何を国産にしなければならないか、守るべき生産基盤・技術基盤は何かを明らかにせよ。戦闘服がその対象に入るのは異論を挟む余地はない。
保護貿易にうるさい米国ですら法律によって、「公的需要に関しては、素材から製品まですべて米国産・米国製であること」と定められており、軍需に関して基本的に外国の商品は提案できない。防衛産業保護条項とも言える。
元来、我が国も昭和45(1970)年防衛庁長官決定(「国を守るべき装備は、我が国の国情に適したものを自ら整えるべきものであるので、装備の自主的な開発及び国産を推進する」)として装備品の国産化を基本方針としている。
防衛計画の大綱(平成17年)にも、「装備品等の取得にあっては、・・・(中略)・・・我が国の安全保障上不可欠な中核分野を中心に真に必要な防衛生産・技術基盤の確立に努める」と方針だけはしっかりと明記されている。
掛け声だけにしかなっていない「防衛技術基盤の確立」
しかし、これも閣議決定(平成16年12月)でしかない。
我が国は、形だけでいつまで経っても何一つ具体化されていない。検討すらしていないのではと疑いたくなる。
この原因の1つに防衛庁に権限がなかったことが挙げられるが、省に格上げとなった今は政策を自由に出せるはずであり、出すことが権限なしの三流官庁から真に脱皮したことを世に知らしめ、多くの国民に安心感を与えることと信じたい。
二度と変な議論が起こらないよう、早い時期に法制化に漕ぎ着けてもらいたい。
筆者は「国防の基本方針」(昭和32年閣議決定)を例えば「国防基本法」として速やかに格上げし、この中で防衛基盤の維持・育成に関する条項を設け、前述の長官決定事項を具体的に盛り込むのが有力な方策と考えている。
(2)調達制度に防衛生産・技術基盤の維持・育成の視点を反映すべく、速やかに制度の見直しを行え。
防衛省は、たび重なる調達上の不祥事が起こり、そのたびに制度の運用見直しを過剰なまでに行った結果、現在では官僚たちは会計検査院に指摘されたくないの一心で、コスト高になる国産のリスクなど取ろうとしなくなったとの印象を受ける。
安ければいいの発想では国は守れない!
つまり、安ければいいという風潮がはびこってしまった。この結果、一般競争で落札された調達品に粗悪品が納入されてしまう事例が後を絶たない。
そこで、官僚が責任を取らないのなら、取りやすいように調達制度そのものに、どのような産業・技術なら防衛基盤の維持・育成のため、一般競争ではなく指名競争による入札を行っても構わないのかを明記するなど制度の見直しを行うべきである。
防衛省が行う競争入札制度というものは、単に価格だけではなく防衛基盤的要素を加えて、例えば会社の技術開発能力やその取り組み姿勢、緊急生産能力、秘密保全体制、コンプライアンス体制などを点数化して、価格と同レベルで総合的に評価する方式で競うのがベストであると信じる。
7.おわりに
ここ1~2年で、戦車や戦闘機など重厚長大型の防衛産業において中小のメーカーが防衛産業から撤退するという事案が顕在化したせいか、防衛省も遅まきながら防衛産業の衰退に関心を示し始めた。
本年1月に北沢俊美防衛相が三菱重工など大企業17社の会長・社長クラスとトップ会談を開催したことは評価できる。
しかしながら検討の内容を見ると重厚長大型の産業に偏重しており、このままだと制服類に代表される繊維関連装備品のような後方装備の生産・技術基盤が見落とされてしまう。
政府(防衛省)には、これまで我が国には防衛産業の育成策なるものが何もなかったという事実を強く反省して、この危機をバネに是非とも検討を深め、真に必要な防衛産業育成策を速やかにまとめてもらいたい。防衛産業は、防衛力の重要な一部である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E6%B0%91%E8%A7%A3%E6%94%BE%E8%BB%8D
近代化著しく、EUの禁輸解除も時間の問題!
2010.10.04(Mon)JBプレス 茅原郁生
中国はこれまで経済発展に伴い、軍事力を強化してきた。中国の軍事力は非同盟の戦略に基づく自己完結型の戦力であり、核戦力と通常戦力の両方を保有し、既に世界有数の軍事力に強化されている。
現に昨秋の建国60周年記念の軍事パレード(以下、60周年観閲式)では近代化の進展ぶりを見せていた。
中国の軍事力は引き続き増強を続けているが、その実力はどれくらいか、軍事革命が進展する中で、その実態が問題として浮上してくる。
本稿は、先の中国国家戦略や現状の紹介に続くもので、まず中国の国防近代化の動向と課題を検討したうえで、核ミサイル戦力と通常戦力の両面から軍事力の実態に迫ってみたい。
中国が進める国防近代化の推進と課題!
(1)国防近代化の必要性と目標
中国の軍事力は「富国強軍戦略」によって強化が続いている。その背景には中国の特異な安全保障観があり、アヘン戦争以来、列強から国土が蚕食されたという屈辱の近代史の体験から「力がなければやられる」という見方が根底にある。
また中国では、今日のような経済発展は国内外の安定した戦略環境が不可欠と見ており、それを保証するのが軍事力であるとの認識もある。そのために軍事力の役割が重視され、今世紀になっても国防近代化が優先して進められている。
中国の国防近代化の推進状況は、上で見たような国内事情だけでなく、中国を取り巻く国際情勢もまた軍事力の強化と近代化を促進させている。
中国が抱く脅威感を含めた情勢認識について、隔年で発行される『中国の国防2008年版』(国防白書、2009年1月発行の最新版)から見ておこう。
国防白書は中国が直面する脅威について「覇権主義・強権政治が存続しており、戦略資源の争奪や戦略要地を巡る局地衝突や非軍事的な争いは多発している」と米国の脅威を指摘し、「軍備競争は熾烈化し、軍事変革の進展がそれを促す」と警戒感を示している。
さらに中国は伝統的、非伝統的な脅威が交錯する多元的な脅威を受けており、「外部の安全環境は不確定になっている」と危機感を強めている。
このような情勢認識を受けて中国で進められる国防近代化は、これまで対米核抑止力の強化と台湾武力解放を保証するハイテク局地戦の勝利が目標とされてきた。
そして今日の国防近代化の方針は「量規模型から質量効能型へ」「人力密集型から科学技術密集型へ」の路線で進められ、これまでは火力や機動力の強化を中心とする「機械化」が中心であった。
しかし、2003年の米英有志軍によるイラク攻撃が見せたような物理的破壊力より敵の指揮中枢の機能を麻痺させる情報や心理戦などのソフトパワーを重視するいわゆる情報戦が飛躍的な進展を見せていた。
これら新しい戦争様相を踏まえて、中国は新たに情報戦に備えた「情報化」にも着手してきた。
そこで両者のバランスとして「国情や軍情を踏まえて機械化を基礎とし、情報化を主として逐次に進展させる」「情報化と機械化の複合的、飛び越え式で進める」などとが国防白書などに示されてきたが、その具体化や優先度はなお不透明で分かり難い。
総じて中国の安全保障環境の根底には対米脅威感があり、複雑で多元的な脅威や挑戦を受けていると楽観はしていない。
実際、中国は北大西洋条約機構(NATO)のアフガニスタンへの進出など中国の後背部に迫る現実をNATOの東方への拡大と見るとともに日米安保体制の強化などを重ねて中国は封じ込められているという被包囲感を抱いている。
(2)国防近代化の推進と軍事技術開発の課題!
中国は、改革開放30年を経て経済の高度成長を遂げてきたが、同時に市場経済の導入による貧富の格差拡大などの矛盾も露呈している。
その分だけ中国政権は解放軍など強権力の支持を必要としており、軍事力を重視して経済発展の成果に応じて国防近代化を推進してきた。
国防近代化の推進に当たっては、これまで21年にわたって国防費が対前年比で2桁も増額を続けてきたように国家資源の投下では高い優先度が維持されてきたし、今後も継続されよう。
しかし、近代化に不可欠な技術開発や国防産業基盤の面で、中国は脆弱性を抱えている。
特に世界で軍事革命が進む趨勢にあって、中国の軍事技術開発力や軍需工業基盤の強化は必須条件となっているが、中国自体の基礎研究や技術開発の部門は弱体であって自力更正には限界がある。
このため外国から新兵器や軍事技術の取得が必要になってくるが、1989年の天安門事件以来、西側からの対中禁輸制裁は続いている。
中国としてはロシアからの兵器供与に依存を強めており、その実態はストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計によると、2000~2004年にロシアが輸出した269億ドルの兵器の40%が中国向けであった。
2008年には大型輸送機の契約キャンセルなどで対中輸出比率は18%低下したものの、中国にはロシアが最大の新兵器供給国である。
しかし近年、ロシアが兵器輸出の規制を強め、また商業的になって従来の兵器需給関係は厳しくなっており、中ロ関係は打算的な協力関係の側面を見せてきた。
その原因は、中国の兵器の近代化は取得した兵器の模造や改造が多く、例えば新鋭戦闘機「殲J―11B」は「スホイ(Su)27」戦闘機を、「元」級潜水艦はキロ級潜水艦を、99式戦車はT72戦車を、と21種に上るほどに兵器の模造が多く、ロシアは中国の知的所有権の考え方に不信感を抱いてきた。
そこで中国としては西側先進国の軍事技術取得の意欲を強めているが、米国には去る5月の米中経済・戦略対話(北京)でハイテク技術の対中輸出緩和を求め、「米中ハイテク貿易の重点領域協力の行動計画」の実施に踏み切らせている。
米国が核心的な技術まで輸出することはないとしても、軍事転用技術の対中輸出などに妥協してくる可能性はあり得よう。また近年、欧州連合(EU)が対中兵器輸出の禁輸解除を探る動きに日米は反対してきたが、今や解禁は時間の問題となってきた。
これらから中国の国防近代化は軍事技術の分野で一進一退の状況にあり、その進展には一定の制約が伴おう。
特に中国が革新技術にキャッチアップ後、軍事革命時代にふさわしい独自の軍事技術の開発や実用化の面では問題を残している。
中国の新しい時代の国防近代化の進展は、知的所有権に対する姿勢や国際協調路線への踏み込み、軍事的透明性の向上などの要求に中国がどのように対応できるかにかかっている。
軍事力の実態!
60周年観閲式で見せた軍事力は、1999年の建国50周年記念閲兵式の当時に比べて、格段に近代化の進展ぶりを見せつけていた。
そこでは52種類の国産開発の新兵器が登場し、いわゆる火力・機動力の強化などの強化を目指す「機械化」の大幅の進展を見せるとともに、情報をリアルタイムで共有し、統合戦を遂行するなどのいわゆる「情報化」に着手したことも見せていた。
それはこれまで国防投資が優先されてきた成果でもある。
中国の軍事力の現況をどのように評価するかについて、英・国際戦略研究所の年報『ミリタリー・バランス2008―09』や60周年観閲式などから、その実態に迫って要約しておこう。
(1)核戦力の強化と実態
中国は1964年に核爆発実験を成功させ、45回の核実験を経て核弾頭の小型化などを進めてきた。ミサイル開発の進展もあって、1980年代に大陸間弾道弾(ICBM)や原子力潜水艦に搭載される弾道ミサイル(SLBM)などの実戦化が実現し、「最小限核抑止戦略」を追求している。
中国の核戦力の現況は9個軍、12万人の戦略核ミサイル部隊(第2砲兵)がある。核弾頭は200発を超え、運搬手段としてはICBM46基、中距離弾道弾(IRBM)35基にSLBM24基を展開して、対米(ロ)抑止力として機能している。
併せて短距離ミサイル(SRBM)725基を保有して、台湾だけでなくアジア近隣諸国に対しても有効性を発揮している(図表1)。
60周年観閲式では、第2砲兵軍は5個梯隊で中・長距離の各種形式の108基のミサイルを参加させた。
その充実ぶりは、米東海岸を射程内に収める東風31A号ICBM(射程1万キロ、以下DF31A)が超大型トレーラーに搭載されて登場し、また隣接国を射程に収める東風21C号IRBM(射程3000キロ)、さらに各種SRBMのほかに長剣―10巡航ミサイルの初出現など、99年当時に比べて顕著な強化ぶりであった。
また新型の核搭載原子力潜水艦(SSBN)として晋級の就航や巨浪2型SLBMの開発など、隠密性のある核反撃力の配備も伝えられている。
これらに関して防衛省発行の『日本の防衛(2009年度版)』(以下「2009防衛白書」)は「ミサイルの射程延伸、命中精度向上、多弾頭化などの進歩と長剣―10巡航ミサイルなど空母攻撃能力の強化」に憂慮している。
(2)通常戦力の現況
解放軍は建国とともに革命軍から国防軍に変身し、今日に至っている。また建国前後に海軍、空軍が相次いで創設され、3軍体制で近代化を進め、その各軍種戦力の現状は図表2の通りである。
●解放軍(地上軍)は兵力160万人が7個軍区に展開して、それぞれ戦区戦略により国土防衛の任を担うとともに、共産党政権を支える「党の柱石」の役割を果たしている。
その近代化は、旅団化などの編成の効率化、即応能力の向上、兵器の性能向上などを進めながら限定的な統合運用を追求している。
現有実戦力は18個集団軍、火砲1万7700門、戦車7580両と多量であるが、全般にまだ旧式兵器が多い。
60周年観閲式では16個梯隊にわたって99式戦車、96式戦車、水陸両用歩兵戦闘車、空挺降下用戦車、自走高射砲、野戦用防空ミサイル、直―9武装ヘリ等がパレードし、いわゆる「機械化」の大幅な進展を見せつけた。(「2009防衛白書」)
これらの隊容から解放軍が地域防御型から全国土機動型への改編が進んだと認めている。
●解放軍海軍は今や遠洋海軍を指向している。その現況は、航空兵や陸戦隊などを含む27万人の勢力が3個艦隊に配備されている。
艦艇の総量は114万トンと米ロに次ぐ世界第3位の艦艇量を擁し、大型水上戦闘艦艇75隻、潜水艦60隻以上、中・大揚陸艦55隻、ミサイル搭載哨戒艇75隻などに加えて航空戦力を約800機保有している。
さらに外洋補給艦や病院船などを新造するなど外洋進出の意図をうかがわせ、またパワープロジェクションとして海軍陸戦隊の2個旅団1万人を擁している。このように中国海軍は近海防衛戦略により沿海海軍から外洋海軍に脱皮しつつある。
60周年観閲式では、米空母を狙う新型対艦巡航ミサイルや対艦ミサイル「海紅旗」や直―8ヘリなどが参加して注目を集めた。
さらに昨春の青島沖の第1回国際観艦式では、原子力潜水艦(原潜)を含む潜水艦3隻、ミサイル駆逐艦5隻、ミサイルフリゲート艦7隻など25隻の艦艇と偵察機、戦闘機など各種作戦機31機が9個梯隊で参加して、威容を誇示していた。
●解放軍空軍は、昨秋の建軍60周年の記念行事でロシア製スホイ27戦闘機をライセンス生産した最新J―11戦闘機を公開するなど近代空軍ぶりを披露した。
中国空軍は久しく陸海軍の直協支援空軍の色彩が強い軍種であったが、近年は防空軍への脱皮が進み、今や攻防兼備の積極防空戦略を追求している。
その兵力は45万人が7つの空軍区に展開し、米国に次ぐ2570機の作戦機を擁している。作戦機の更新を進めて戦闘機SU―27、 SU―30を含む第4世代戦闘機330機などを有し、高射砲1万6000門、空挺軍3師団などを有している。
60周年観閲式では、空軍は防空ミサイル「鷹撃」、さらに機動レーダーや2種類の無人機(車載)などを車載で登場させた。
続く空中飛行パレードでは150機が12個編隊で飛行し、まず最新の空警―2000早期警戒管制機(2007年に墜落事故)がJ―7戦闘機の援護下で飛来した。
続いてJ―11戦闘機の護衛下で空警―200警戒管制機、6機の空中給油機編隊、H―6改爆撃機編隊、偵察機・電子機編隊、さらに「新飛豹」戦闘爆撃機編隊、国産J―10、J―11の2種の戦闘機などが15機編隊で威容を示した。
●ソフトパワー:サイバー攻撃能力と「三戦」の重視
近年、中国ではサイバー攻撃能力が強化され、世界各国のコンピューターネットワークへの不正侵入などが伝えられ、非対称戦の脅威がクローズアップしている。
さらに中国のハードパワー強化に当たっては、ハイテク兵器で限界を抱える中でサイバー攻撃力だけでなく、ソフト戦力の強化として「与論戦、心理戦、法律戦の三戦」の強化に努めている。
解放軍は国共内戦時代から心理戦や宣伝戦を重視してきたし、孫子以来の「不戦屈敵」の思想が下地としてある。
2003年12月には「解放軍政治工作条例」が戦時政治工作として「三戦」を積極的に展開することが制定された。
それは、敵の意志屈服の「与論戦」とともに新しい時代に相応しい「心理戦」の展開、敵を不正義とし、自己の正当化のための「法律戦」の3分野の戦力化と強化である。
加えて国防近代化が国防軍化や統合軍化の方向に進展する中で存在感が薄れてきた政治将校に新たに任務を開拓したことも考えられる。
解放軍の「三戦」は台湾統合に向けた展開だけでなく離島管理法の制定などわが国の尖閣諸島に揺さぶりをかける攻勢につながる可能性を秘めている。
●莫大な準軍隊として、武装警察部隊150万人、予備役兵80万人、民兵1200万人を抱え、有事の動員体制が整備されている。
総じて解放軍は、経済発展に伴って国防近代化が進められ、60周年観閲式で見せたように、その実力はアジア地位では他を圧倒する軍事力であり、国際政治にも大きな影響を及ぼす水準にある。
近年、中国脅威論が彷彿として起こっており、それは不透明なままで過大に評価された部分もあろうが、現に海洋や宇宙への進出と活動の活発化で緊張をもたらしている。
中国の富強戦略に基づく軍事力の増強ぶりは具体的に60周年観閲式で披露されていた。それは核反撃力の残存性の向上と通常戦力での「機械化」の大幅な進展、さらに「情報化」への着手などに見られてものである。
また後方関連でも野戦医療車、給油車、防災用の舟艇などが初出場し、四川地震の教訓を踏まえた防災対処能力や民生支援能力もアピールされた。
これらに中国軍の強化動向に関して米国防総省の議会宛の報告書『中国の軍事力:2009年版』(「2009年米国防報告」)は中国軍事力を「東アジアの軍事バランスを変える主要因」と強い警戒感を示している。
今後とも中国の軍事力はいくつかの課題も抱えながらも増強されていこうが、次ぎに強化された解放軍はどのような軍事戦略で運用されるのか、海洋への進出や宇宙の戦力化が新たな緊張をもたらしているが、浮上する注目点については次の機会に改めて紹介したい。
RQ-4 グローバルホーク
http://ja.wikipedia.org/wiki/RQ-4
2010/10/04 02:02【共同通信】
防衛省は中国の軍事的な台頭や北朝鮮の核、ミサイル開発に対応するため、米国製の無人偵察機グローバルホークを3機導入する方向で検討に入った。年末に策定する新たな「防衛計画の大綱」に基づく中期防衛力整備計画(中期防、2011~15年度)に盛り込みたい考えだ。複数の防衛省・自衛隊関係者が3日、明らかにした。
沖縄県・尖閣諸島周辺で起きた中国漁船衝突事件も導入の追い風になると判断した。現在の中期防は無人偵察機について情報機能強化の観点から「検討の上、必要な措置を講ずる」と明記。防衛省は03年度から無人偵察機の基礎的な技術研究に着手している。
だがグローバルホークの方が国産より性能やコスト面で優位に立ち、米政府も複数のルートで日本に購入を打診してきたことから、輸入の先行に傾いた。搭載装備を含めて1機約5千万ドル(約41億5千万円)で、合計120億円超に上る見通しだ。これに加え、司令部機能を持つ地上施設の整備に数百億円を要すると見積もっている。
漁業取締船
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BC%81%E6%A5%AD%E5%8F%96%E7%B7%A0%E8%88%B9
広東省湛江市の造船所で29日、新式の漁政執法船「中国漁政310」が当局に引き渡された。同船はZ-9型ヘリコプターが搭載されるなど、中国最新式という。南沙諸島(英語名はスプラトリー諸島)、西沙諸島(同パラセル諸島)周辺海域などに派遣される。中国新聞社が報じた。
漁政執法船は漁業関連の取り締まりなどを任務としており、日本では漁業監視船と訳される場合がある。尖閣諸島近くでも活動しており、日本の海上保安庁の巡視船と対峙することも、珍しくない。これまでは、海軍の退役鑑を改造した場合が多く、ある程度の武器も備えていたが、海保の巡視船ほどではない船が多かったとされる。
「中国漁政310」が派遣される海域は、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、中華民国(台湾)など、複数の国が領有を主張する“問題の海域”だ。ベトナムとの間で協定が発効しているがトラブルが発生しやすい「トンキン湾(北部湾)」にも派遣されるという。
記事は、尖閣諸島周辺への派遣については、触れなかった。
「中国漁政310」は2500トン級で、全長108メートル、全幅は14メートル。航続距離は6000海里(約1万1112キロメートル)、最大速度は22ノット(時速約41キロメートル)。兵装については、明らかでない。
搭載するZ-9型ヘリコプターは、フランスのユーロコプターをライセンスコピーした汎用ヘリコプターで、主に中国軍が運用している。
尖閣諸島近くの日本の領海で中国漁船に衝突された海保の巡視船「よなくに」は、1300総トンで全長89メートル、全幅11メートルと、「中国漁政310」より小型。ただし、速力は30ノット以上とされる。兵装は30ミリ機関砲1門。後部にヘリコプター甲板を備えている。
同じく衝突された「みずき」は197トンで、全長は46メートル。速力は35ノット。兵装は20ミリ多銃身機関砲が1門。(編集担当:如月隼人)
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魚沼コシヒカリ理想の稲作技術『CO2削減農法研究会』(勉強会)の設立計画!