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11月9日 NHKニュース
仙谷官房長官は、記者会見で、政府が9日の閣議で、TPP=環太平洋パートナーシップ協定についての基本方針を決めたことに関連して、来年6月をめどにTPPの交渉に参加するかどうか政府として判断したいという考えを示しました。
この中で仙谷官房長官は「農林水産省も『座して死を待つよりも、打って出て競争力をつけるという発想で政策を組み立てる』として強力に実行していく姿勢だ」と述べました。そのうえで、仙谷長官は、記者団が「TPPの交渉に参加するかどうかの判断は、来年6月をめどに、農業対策についての基本方針を決定するあとになるのか」と質問したのに対し、「できれば、その前後になると思う」と述べました。一方、仙谷長官は、閣僚懇談会で菅総理大臣から、来年度の農業関連予算について関係閣僚による会合を設置するよう指示があったことを明らかにし、今後、戸別所得補償制度を含む政策の充実などを検討することになりました。また、玄葉国家戦略担当大臣は「高いレベルの経済連携に踏み出したことの意義は大きい。国益からみて、現状ではベストな基本方針になった」と述べました。そのうえで、来年度の農業関連予算をめぐる関係閣僚会合について「今の戸別所得補償制度は関税措置を前提にしているので、関税措置がなくなる品目が出たときにどうするか、シミュレーションしながら考えなければならない。早ければ今週中に関係閣僚の最初の会合を開きたい」と述べました。その一方で、鹿野農林水産大臣は「TPPが国民にとってどういう協定であるか情報として流されておらず、情報収集が非常に大事だ。これからの第1次産業をどうしていくのか、総括的に議論がされていくことが大事だ」と述べました。
*TPP参加、打ち出さず 政府方針決定、協議は開始!
2010年11月7日 asahi.com
菅内閣は6日、包括的経済連携に関する閣僚委員会を首相官邸で開き、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について「情報収集を進めながら対応し、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」と明記した基本方針を決めた。参加に前向きな姿勢は示したが、民主党内などの慎重派に配慮して「参加表明」までは打ち出さない内容になった。9日に閣議決定する。
TPPは、菅直人首相が10月の所信表明演説で「交渉への参加を検討」と表明。民主党のプロジェクトチームが今月4日にまとめた提言は「情報収集のための協議を行い、参加・不参加を判断する」としていた。これに対し、基本方針は「情報収集」と「協議」という言葉を切り離し、「情報収集のための協議」ではなく、「参加をめぐる協議」という意味合いをにじませた。
ただ、13日から横浜市で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の前に「交渉入り」まで踏み込めず、参加の可否の結論は先送りとなった。TPP交渉は来年11月の米国でのAPECで合意する見通しだが、平野達男内閣府副大臣は閣僚委後の記者会見で、TPP参加の判断時期について「今の段階で『いつまで』ということをコメントできる状況にはない」とした。
菅首相は6日の閣僚委で「農業再生を念頭に『国を開く』という重大な基本方針をとりまとめることができた。日本の新たな繁栄を築くための大戦略のスタートだ。『平成の開国』は必ずプラスになる」と強調。APEC域内の貿易自由化について「道筋をつけるため議長として強いリーダーシップを発揮する覚悟だ」と述べ、APEC首脳会議で今回の基本方針を説明する考えを示した。
基本方針は「すべての品目を自由化交渉対象とし、高いレベルの経済連携を目指す」と明記。一方で、原則10年以内に輸入品に対する関税をゼロにするTPPに参加すれば、安い農作物が大量に輸入されて国内農業に打撃となることが予想される。そのため、基本方針では「競争力向上や海外での需要拡大など農業の潜在力を引き出す大胆な政策対応が不可欠」と指摘。首相を議長とする「農業構造改革推進本部」を設置し、来年6月をめどに農業対策の「基本方針を決定する」と打ち出した。
TPPは農業分野だけでなく、金融や医療分野など「非関税障壁」の撤廃も求められる。このため、規制制度改革に関する政府の方針を来年春までに決めることも基本方針に盛り込んだ。
また、2国間で貿易やサービスの自由化を進める経済連携協定(EPA)について、基本方針は「積極的に推進する」と表明。現在交渉中のペルーや豪州との交渉妥結や、韓国との交渉再開、モンゴルとの交渉開始、欧州連合(EU)と交渉に入るための調整を「加速する」とした。
基本方針をめぐっては、6日の閣僚委に先立ち、菅首相は玄葉光一郎国家戦略相らと会談。仙谷由人官房長官は同日午前、TPP参加に慎重な国民新党の亀井静香代表と電話で協議し、国民新党の同意を取りつけた。
2010/11/03(水)サーチナ
中国太平洋経済協力全国委員会事務局長の呉正竜氏が「日本がTPP参加に意欲的なのはなぜか」と題する論評を発表した。中国網日本語版(チャイナネット)が報じた。以下は同論評より。
日本の菅直人首相は10月24日、全閣僚にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加についての調整を急ぐよう指示した。日本はこれまでに何度もTPP参加に意欲を示してきたが、実際の行動にはまだ出ていない。
菅首相は、11月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、日本がTPP参加を表明することを示唆した。日本がTPPに参加すれば、アジア太平洋自由貿易区の建設に大きな影響を与えるため、各方面からの注目を集めている。
TPPの交渉は今年始まり、すでに3回の交渉が行われた。参加国は米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリで、次の交渉は12月上旬にニュージーランドで行われる。米国によると、TPPは「21世紀に向けた、高水準の自由貿易協定の締結」「参加国をすべてのアジア太平洋地域の国に拡大」を目的としている。
日本のTPP参加意向には、多くの意図が含まれている。
まず、日米同盟強化の姿勢を経済分野で具現する。TPPは米国がアジアに回帰し、アジア太平洋地域の自由貿易区の建設を再始動させ、APECを主導する上で一つの足がかりとなる。しかし、オーストラリアなど7カ国の市場規模はあまりに小さく、米国の雇用増加と輸出拡大の戦略目的を実現することはできない。米国は日本を引き入れ、雪だるま式にTPPを大きくし、最終的に中国を含むすべてのアジア太平洋諸国のTPPの潜在的な市場規模を大いに引き出すことを考えている。そのため、米国は日本のために力を尽くしている。日本はTPP参加に積極的に取り組み、米国の戦略目標の実現に一肌脱いでいる。
次に、これは日本のアジア太平洋市場を開き、輸出を拡大し、経済成長を実現するための戦略でもある。日本は「失った20年」と世界金融危機の影響を経て、財政赤字の増加、負債の増加、デフレ、高齢化などの経済に関する難題が山積みになっている。TPPという「自由貿易の急行列車」に乗り込めば、日本企業の不利な競争地位を変え、工場の急速な海外移転の動きを転換し、経済の起死回生の道を切り開くことができる。
最後に、現在は日本がTPPに参加するのに重要な時期である。これまでの3回の交渉では枠組み協定や、執行中の自由貿易協定との関係が主に話し合われ、農産品や繊維製品、労働者の保護、政府調達、知的財産権の保護など実質的な項目の話し合いはまだ行われていない。この時期に参加すれば、具体的な項目の話し合いに直接参加し、自国の利益を保護することができる。ところがこの時期を逃せば、新参者はすでにまとまった項目や案文に従うしかなく、選択の余地はなく、受け身になる。
日本のTPP参加意向は交渉を複雑にするに違いない。交渉はこれまでの米国とほか7カ国に対するものではなく、米国と日本の駆け引きになるだろう。世界一と世界3位の経済国である両国の貿易の利益と要求には大きな差があり、交渉は複雑さを増すと考えられる。
そのほか、日本がTPPに参加すれば、TPPの吸引力は大幅に増加するだろう。マレーシアがTPP参加を表明したほか、すでにタイ、フィリピン、カナダなども参加意向を示している。日本はドミノ効果を引き起こし、アジア太平洋諸国は参加を競うことになり、アジア太平洋のそのほかの国は関心を高め、対策を練る必要がある(編集担当:米原裕子)
*TPPに参加するならば、2つの“地雷”に注意せよ!
2010年11月01日 藤田正美,Business Media 誠
横浜で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議を前に、菅首相がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加のアドバルーンを上げている。シンガポールやニュージーランドとの首脳会談で「参加を検討している」と表明したのだ。
TPPとは2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国の貿易協定から始まった。現在はさらに米国、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、ペルーを加えて9カ国で多国間の自由貿易、経済連携の協定締結に向けて話し合いが進んでいる(ちなみにこのTPPのもともとの英語はTrans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement、まだ訳語が定着していないが、ここでは外務省の訳に従った)。
多国間と2国間との大きな違い!
TPPの特徴は多国間の経済連携協定であること。FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)は2国間の協定だ。日本は先頃、インドとのEPA締結で合意した。これで12カ国・地域と自由貿易協定を結ぶことになるが、韓国や中国もこうした2国間協定を積極的に進めており、日本は「出遅れ」を指摘されている。
多国間と2国間との大きな違いは、多国間の場合、それぞれの国の事情に伴う「例外」が認められにくくなるということだ。153カ国もの国が参加しているWTO(国際貿易機関)のドーハ・ラウンドは、簡略化して言えば先進国と発展途上国との対立をなかなか解くことができないでいる。しかし2国間であれば、関税撤廃の例外品目を交渉することも可能だ。実際、日本が各国とFTAやEPAを結ぶ場合はそうしてきた。しかしTPPの場合は、原則として例外品目を設けないとしている。
こうなると「参加を検討」と首相が言っても、そう簡単に事は進まない。すでに与党内からも慎重論や反対論が相次いでいる。民主党の山田正彦前農水相が会長となって「TPPを慎重に考える会」が結成され、鳩山由紀夫前首相がその顧問に就任している。農水省は、もしTPPに参加して農産物が自由化された場合、現在の食糧自給率40%が14%に低下するとの「衝撃的」な試算を発表した。また北海道庁も、年間で2兆円を超える打撃を受けるとの試算を発表している。
郵政問題を抱える民主党!
農業だけでも説得するのは難しいのに、もう1つ「郵政」という大問題もある。TPPは貿易だけでなく経済全体のバリアを撤廃の方向に持って行こうとするもの。その中では郵政民営化を180度逆転させようとするいわゆる「見直し法案」はTPPの方向性とは相容れない。もちろんこの交渉を主導する米国からは郵政民営化を推進するように要求が出るはずだ。
そうなったら連立相手の国民新党との約束を反故にしなければならない。それに民主党そのものも民営化には反対していた。なぜなら労組の問題があったからである。TPPに参加するというのなら、郵政民営化を逆転させる「見直し法案」の再提出が困難になることは火を見るよりも明らかだ。TPP推進派と言われる前原外相や仙石官房長官は、果たしてこの問題まで見据えているのだろうか。国民新党との連立解消などということになったら、政権を維持すること自体危うくなるだろう。
農業と郵政という地雷!
農業では超党派の反対論が巻き起こり、郵政では与党や連立政権内の対立が浮き彫りになる。これだけ政治的に難しい課題を11月半ばまでに解決する気が本当にあるのかどうか、かなり疑問だ。
それでもTPPへの参加は必要だと思う。1つの大きな理由は、急速に経済力をつけ、外交的な圧力を増しつつある中国に対抗するためだ。TPPでは日本のほか、フィリピンや中国にも打診をしているが、関税の撤廃が大きな眼目である以上、中国がすぐに参加するのは難しいという見方が強い。その意味で、日本が参加するかどうか、中国は気にするはずなのである。
東シナ海や南シナ海で中国の影が大きくなっていることを考えれば、米国も参加しているTPPに日本やベトナム、フィリピンが加わることで、中国に対する“牽制球”になるだろう。日本にとって尖閣諸島が重要な領土であることは自明のことだが、南シナ海も日本の生命線という意味で極めて重要だ。米国が「航行の自由」を盾に南シナ海での中国の勢力拡張を牽制しているのも同じ理由である。
そうした状況の中で、日本が外交的にコミットしていこうとすれば、経済関係を強めるしかない。ベトナムで原発を受注したのは、ビジネスとしてプラスであることはもとより、外交的にもコミットを深めるという大きな意味がある。
TPPに参加するためには、農業と郵政という地雷が埋まっている地雷原を無事に渡りきらねばならない。「消費税とは違う」と言って覚悟のほどを語った菅首相だが、失敗すればそれこそ内閣が吹き飛びかねないエリアに足を踏み入れたことを本当に自覚しているのだろうか。
2010年11月1日(月)安藤 毅(日経ビジネス記者)
環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)を巡る民主党の対立が激化している。国内農業や統一地方選への影響を懸念する声に推進派の菅直人首相もぐらつき始めた。貿易立国として生き残るチャンスをつかめるのか、否か。問われているのは政権の覚悟だ。
「環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)等への参加を検討する」
政府・与党内の路線対立は、10月1日の菅直人首相の所信表明演説にこの一文が盛り込まれたことで先鋭化した。11月中旬のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で菅首相がTPP締結協議への参加を表明するのか。これに先立ち11月上旬にまとめるEPA(経済連携協定)基本方針にどんな内容を盛り込むのかの2点が大きな政治課題に急浮上したためだ。
「農産物の関税への例外措置を認めないTPPは、これまで日本が取り組んできたFTA(自由貿易協定)とは違う。国内農業は壊滅してしまう」(山田正彦・前農林水産相)
「大きな誤解がある。TPPのルールはまだ固まっていない。例外扱いできるように交渉する余地は十分にある。交渉に参加しないデメリットの方が大きい」(直嶋正行・前経済産業相)
この1カ月、EPAなどを協議する民主党の会合では、こうした堂々巡りの議論が続いた。この間に、「反TPP」の動きは強まる一方だ。TPP反対の特別決議を採択した10月19日の全国農業協同組合中央会の全国集会には多数の与党議員が参加。21日には鳩山由紀夫前首相、山田前農相ら110人もの議員が TPP反対の勉強会を立ち上げた。小沢一郎元代表に近い議員が7割を占め、参加したある議員は「首相が聞く耳を持たずに突き進めば政局にする」と息巻く。
今や政権の大きな火種となったTPPとは、そもそも何なのか。
実質は日米FTA
TPPはシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイで2006年に結んだFTAが発端。農林水産物を含め原則として、すべての品目について即時、または10年以内に段階的に関税を撤廃するのが大きな特徴だ。
ここに米国、豪州、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加を表明し、交渉を始めている。世界全体のGDP(国内総生産)に占めるこの9カ国の割合は約4分の1。自国経済の立て直しへ輸出倍増を掲げる米国は有力な市場確保策と位置づけており、2011年11月の米国主催APECまでの交渉妥結を狙う。
このTPPに日本が参加するということは「日米FTA、日豪FTAを結ぶのと同じ意味を持つ」(外務省幹部)。しかも、先述の先行4カ国の協定内容は 100%の関税撤廃が原則。この取り決めがそのまま他の参加国にも適用されれば、参加国への輸出増や関連産業の投資拡大が見込める一方、短期的に米国や豪州から安い農産物の輸入が拡大するのは間違いない。農業県選出の議員を中心にTPP反対の大合唱が急速に広がったのは、各議員がTPPの衝撃にようやく気づいたためだ。
「明治維新、第2次世界大戦での敗戦に次ぐ第3の開国だ」
所信表明演説にTPP参加に向けた表現を盛り込む判断を下した菅首相は周辺にこう語ったという。TPP参加は現代版「黒船来襲」というわけだ。
「韓国と競争条件を同じに」
菅政権がTPP参加の検討を政治課題に載せたのは、産業界からの強い要請が大きな要因だ。
特に、自動車など日本と産業の得意分野が重なる韓国の存在が産業界の危機感を高めている。韓国はFTA推進を経済成長戦略の柱に据え、米国、欧州連合(EU)とのFTA交渉を既に終えている。EUとのFTAが2011年7月から発効すれば、EUへ輸出する日本製乗用車には10%の関税がかかるが、韓国製乗用車は段階的に関税が削減され、5年以内にゼロになる。
「このままではEU市場で韓国車に輸出を奪われる。不利な競争条件に置かれないようスピードを重視して交渉を推進すべきだ」。日本自動車工業会の志賀俊之会長は危機感をあらわにする。
円高に加え、EPA競争で後れを取れば、輸出競争力は一層失われる。日本から海外への工場移転にも拍車がかかり、国内雇用を損なう。政治家や農業団体は地域社会の維持をEPA反対論の柱に掲げるが、モノ作り企業の海外移転が進んで雇用が失われる方が、地域に深刻なダメージを与えかねない。
海外とのヒト、モノ、カネの行き来を自由化するEPAのメリットを説く早稲田大学の浦田秀次郎教授は「EPAが進めば、企業は日本にとどまって生産し、輸出する戦略が取れる。輸入品が安く手に入り、消費者のメリットも大きい。海外製品との競争の過程で、企業の生産性も向上する」と強調する。
TPP参加には鳩山政権時に亀裂が生じた対米関係修復の狙いもある。「アジア全域への影響力拡大を目指す中国への最も有効な牽制材料になる」(外務省幹部)ためだ。日本とのEPAに消極的なEUや韓国を振り向かせ、交渉を加速する効果も期待できる。
TPPに参加するうえで最大の障害である農業問題。浦田教授は「9か国になったTPPのルールは固まっていない。日本は早期に交渉に参加し、自由化の例外品の確保や段階的自由化といった措置を勝ち取ればいい。その間に、国内農業改革を急ぐべき」と指摘する。
政府内では、EPA基本方針の公表と同時に、国内農業の体質強化に向けた工程表策定に着手する構想が浮上している。農水省は直ちに農林水産物の関税を撤廃した場合、約4兆円の農林水産物生産額が減少するとはじく。農家への所得補償も含む対策財源の確保を巡って、財務省や農水省の水面下でのさや当ても始まっている。
しかし、ここにきて、肝心要の菅首相の姿勢がぐらつき始めた。「米価下落の今、農家を一層敵に回すTPP参加など許されない」「来春の統一地方選への影響が避けられない」といった民主党内の批判が直撃しているためだ。
10月21日、首相官邸での新成長戦略実現会議。米倉弘昌・日本経済団体連合会会長らがTPP参加への決断を促した後、菅首相はか細い声で発言した。
「1つの政党や少数の政治家が決められることではない大きな問題だ。皆さんがそれぞれの立場で、国民に意味を説明してほしい」。気概を全く感じられない首相の発言に、室内はしらけた空気に包まれたという。
戦後の日本ほど、自由貿易体制の恩恵を受けた国はない。その貿易立国ニッポンが今、全就業者数の5%を擁してもGDPの1.5%しか生み出せない農林水産業保護を名目に、世界の流れに背を向けるのは皮肉というほかない。「日本は、1%を守るために、成長力を捨てるのか」。かつて米通商代表を務めたロバート・ゼーリック世界銀行総裁は、貿易自由化に後ろ向きな日本にこう疑問を投げかけた。
法人税率の引き下げ、EPA推進…。日本が成長を続けるために必要なメニューは出揃っている。後は国のCEO(最高経営責任者)である首相が決断し、国民を説得するだけだ。それができないのなら「有言実行内閣」の看板を掲げる資格はない。
日経ビジネス 2010年11月1日号8ページより
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の概要と意義
http://www.iti.or.jp/kikan81/81ishikawa.pdf
2010.11.9 17:57 産経ニュース
仙谷由人官房長官は9日の記者会見で、政府が環太平洋経済連携協定(TPP=トランス・パシフィック・パートナーシップ)の対外交渉参加を見合わせたことに関連し、「日本人の精神のありようが鎖国状態になっている」と強調し、改めてTPP参加を目指すべきだとの考えを示した。
仙谷氏は、「あと何年かは親の世代が作っったストックで国民全体は何とか食っていけるかも分からないが、(鎖国)傾向が産業界も農業もむしばんでいる」と指摘。その上で「開国を受け入れ、競争力を持った産業を興すことで生き抜く術を身に付けなければならない」と持論を展開した。
「有言実行内閣」またも腰砕け 新農水族に屈す 閣内に残る不協和音!
2010.11.6 21:52 産経ニュース
有言実行内閣」はどこへ行った-。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP=トランス・パシフィック・パートナーシップ)の基本方針は「参加を目指す」との表記さえ見送られた。所信表明演説で唐突にTPP参加をぶち上げた菅直人首相だったが、「新農水族」の抵抗であっさり腰砕けに。折衝の経緯を検証すると、与党内のパワーゲームにばかり心を砕く閣僚の姿と、首相の指導力の欠如ばかりが浮かび上がる。(坂井広志)
3日夜、東京・紀尾井町の「ホテルニューオータニ」の一室。ひそかに集まったTPP関係閣僚らは政府の基本方針をめぐり、本音をぶつけあった。
前原誠司外相「『参加を前提』という案では国民新党はのめないのか」
玄葉光一郎国家戦略担当相「ダメでしょう…」
前原氏「『前提』にしないと関係国との協議にならないじゃないか!」
どういう文言にすれば与党は理解してくれるのか-。パズルを解くような「言葉選び」が延々と続く中、民主党を代表して出席していた山口壮党政調筆頭副会長が口をはさんだ。
「参加をにじませるだけで反対派はアウトですよ」
このひと言で前原案は吹き飛んだ。さらに与党との調整を担ってきた玄葉氏がダメ押しした。
「そうしないと政局になる!」
閣僚らは国の将来より、いかに政局を回避するかに腐心していたのだ。
それでも慎重派の抵抗は続いた。翌4日、民主、国民新両党有志の「TPPを慎重に考える会」(会長・山田正彦前農水相)には約80人が出席し、「事前交渉への参加を表明することに反対する」との緊急決議を採択。6日夜の閣僚委員会が決めた基本方針はこうした声に押され、3日の原案をさらに後退させ、「交渉参加」の文言は消えた。
TPP参加は菅政権の大きな「足跡」となりえる政治決断だった。それだけに首相は10月1日の所信表明演説で「TPPへの参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指す」と宣言。その後も「農業の活性化と国を開くことの両立だ」と繰り返してきた。
首相の意欲を受け、経済界などTPP推進派は勢いづいたが、反対派の圧力が強まるにつれ、閣内の足並みは乱れていった。
「旗振り役」だった大畠章宏経済産業相は10月26日の記者会見で「(TPP参加検討は)非常に大変だ」と慎重姿勢に転じた。与党との調整に自信を見せていた玄葉氏も5日には「ストレートに交渉入りを言うのはどうかという思いを実は最初から持っていた」と白旗を上げた。
ところが、一連の基本方針の策定過程で首相が指導力を発揮した形跡はない。
首相は5日夕、閣内一の慎重派である鹿野道彦農水相を官邸に呼んだが、TPPへの参加意思さえはっきりしない基本方針案をあっさりのんでしまった。
6日夜の閣僚委後、記者団にコメントを求められた前原氏は「いや、結構です。これから進めますよ」と不満をにじませ、鹿野氏は「どうするか決めたわけではありません」。閣内に不協和音は残った。
首相は記者団へのぶら下がり取材をキャンセルし、閣僚委で発言しただけ。有言実行内閣は語るべき言葉さえも失ってしまった。
まるで自民党政権「TPP論議、文言いじり」に終始 民主党方針、一応決着!
2010.11.4 21:22 産経ニュース
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP=トランス・パシフィック・パートナーシップ)をめぐり、民主党の方針を打ち出すはずの「政府への提言」は迷走した。4日夜、提言に「情報収集のための協議を始める」との文言を盛り込むことで一応の決着はみたが、対立は解消されず、自民党政権当時と同じような「文言いじり」に終始した。
民主党プロジェクトチーム(座長・山口壮政調筆頭副会長)は4日、国会内で会合を断続的に開いた。
文言調整で乗り切ろうとした党側は「情報収集等のための事前協議を行い、交渉の参加、不参加の判断をする」と、政府方針よりも一歩も二歩も引いた提言案を提示した。
これに慎重な議員がかみついた。将来TPPに参加することがにおう「事前」という文言を批判。さらに「情報収集等」という文言から、「等」という一文字を外すかどうかで紛糾した。「等」が付くと「情報収集のほかに、参加への協議が進む危険性がある」との声に配慮した。それでも慎重派は「『協議』を『調査・研究』にすべきだ」(山田正彦前農水相)と、文言への注文を続けた。
「協議という言葉を使ってはいけない。どうですか」。参加議員の一人はこう叫んで、会場を埋めた議員たちに賛同を求めた。
推進派も正面からの議論ができていない。
「TPPは魅力的な女性か悪女か分からないが、協議は合コンのようなものだ。協議ぐらいはしよう」との発言も飛び出した。
TPPによってもたらされる日本の将来像が明確にならない中で、取りまとめだけを急ぐ党政策調査会への不信感も広がった。
民主、国民新両党の有志でつくる「慎重に考える会」(山田会長)は4日、「TPP参加や事前交渉への参加表明に反対する」との決議文を採択した。
「菅直人首相が所信表明で『参加検討』と言っているのに、横浜APEC(アジア太平洋経済協力会議)で『調査、研究する』と言ったら、『アホか』と言われる」。文言調整に疲れた山口座長が記者団に吐き捨てるように言う場面すらあった。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E6%B4%8B%E6%88%A6%E7%95%A5%E7%9A%84%E7%B5%8C%E6%B8%88%E9%80%A3%E6%90%BA%E5%8D%94%E5%AE%9A
GDPの0.9%、就業者数の3.8%の極小産業 !
2010年11月4日 DIAMOND online 原英次郎 [ジャーナリスト]
「北京のスーパーでは、日本の農産物がすごく人気がありますよ」
ある中国人ジャーナリストが、その様子をこう語ってくれた。「日本のリンゴを初めて見ると、これは腐っているんじゃなかいかと思う。芯のところに蜜があるでしょ。でも、食べてみてその甘さにびっくり。お米も人気がある」。北京の富裕層にとっては、安心・安全、おしいしい日本ブランドを買うのに、価格の高さは気にならないらしい。
11月7日から、横浜で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)を前に、菅政権が9日にもTPP(環太平洋パートナシップ協定)交渉への参加を、閣議決定すると伝えられている。TPP加盟への最大の障害は、農業である。菅総理が、10月1日所信表明演説で、TPPへの参加の意向を表明してから、農業団体はもちろんのこと、与党民主党内部からも反対の声が上がっている。
TPPとは、自由貿易協定の一種。関税がなくなれば、国際競争力のない産業は不利益をこうむる。だから、日本の場合は農業団体や関係議員から声が上がる。日本は民主主義国家だから、少数意見を切り捨てるわけにはいかない。だからといって、声の大きい人々の主張ばかりが通れば、これもまた理不尽だ。
保護政策にもかかわらず日本の農業は衰退の一途!
そこでまず、農業が日本経済のなかで、どのような地位を占めているかを、きちんと押さえることから、始めてみよう。
TPPはシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドが参加し、2006年5月に発効した。この当初の参加国に、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが加わり、現在計9ヵ国で交渉が行われている。アメリカは来年11月のAPEC首脳会議までに、交渉妥結を目指している。
本来、世界貿易の自由化はWTOにおいて、多国間の交渉で進められていた。しかし、この交渉がなかなか進まないために、2000年代に入って2国間で協定を結ぶFTA(自由貿易協定)が主流となり、それが重層的に世界に広がっている。FTAはモノの関税や、サービス貿易の障害を削減・撤廃するのが主眼であるのに対して、TPPはこれを発展させて、ヒト・モノ・カネの移動の自由化まで対象にする。関税も例外品目なく撤廃されなくてはならない。さらに、2国間ではなく多国間の枠組みであるところに特徴がある。
日本が貿易自由化交渉を進める上で、長年にわたって農業は障害となってきた。では、日本の経済において、農業はどのような位置を占めているのだろうか。
Q1 どのくらいの人が農業に従事しているか?
1980年で農業就業者数は506万人で、総就業者数に占めるシェアは9.1%。それが2008年には245万人、3.8%と、この30年で就業者数は半分以下になった。ちなみに08年の総就業者数は6385万人だ。
Q2 GDP(国内総生産)に占めるウエイトはどのくらいか?
1980年における農業総生産は6兆2870億円で、GDPに占めるシェアは2.5%。それが2007年には4兆4430億円、0.9%と、GDPに占めるシェアは半分以下になってしまった。ちなみに08年の国内総生産は515兆円である。
Q3 食料自給率はどれくらいか?
供給熱量ベースで、1965年には73%だったものが、2008年には41%にまで低下した。
Q4 耕作放棄地は増えているか?
1980年の12万3000ha(ヘクタール)が、2005年には38万6000haへと3倍になった(なぜか農業白書統計には、2006年以降の数字がない)。
まず分かるのは、日本経済にとって、農業が非常に小さな存在であることだ。少数者の声は、マスコミや国家議員を通して大きく伝わってくるが、圧倒的多数を占めるその他産業で働く人々の声は、伝わってこない。もちろん、弱小産業だから農業を切り捨ててもよいと言っているわけではない。ここで認識すべきは、長年にわたる農業への保護政策が、このような惨状を招いたということである。
発想を転換すれば違った世界が見える!
TPPに参加した場合に、日本経済にどれくらいの影響があるか。政府が公表した試算は、バラバラで大きな話題を呼んだ。農林水産省の試算では、農業および関連産業への影響で、GDPは7兆9000億円程度減り、就業機会の減少は340万人規模に達するという。単純に比較すれば、日本から農業は消滅し、農民はいなくなるという計算になるから、これはすさまじい。
一方、経済産業省はTPPに参加しない場合、自動車、電気電子など日本が強い産業が打撃を受けることによって、GDPは10兆5000億円減り、81万人の雇用が減ると試算している。内閣府は複数のケースで試算しているが、TPPに加盟して貿易を100%自由化した場合、GDPは2.4兆円~3.2兆円増えると分析している。
どれが最も現実的な予想なのかは分からない。言えることは、前提の置き方次第で、かくも大幅に結果が違うということだけだ。そして、いくら試算しても、予測はかなりの幅になるだろう。なぜなら経済活動は生き物であり、こちらが動けば、相手もそれに負けないように戦略を発動し、それがこちらに跳ね返ってくるからだ。だから数字の妥当性をあれやこれやと深く追求しても、あまり実りはない。
一番の問題は、バブル崩壊後の失われた20年を経て、政府・与党をはじめ日本全体が、すっかり「後ろ向き思考」「縮み思考」に陥っていることだ。世界経済の構造は、いま大きく変わりつつある。その動きに合わせて経済の枠組み・仕組みを変えようとすると、ネガティブな影響ばかりが言い立てられる。
国を開くと言えば、わくわくするような「夢」や、「トライ」とか「挑戦」という言葉が浮かんでできてもよいはずだ。その意味で、この国は本当に憶病になり、そして老いたのだろうか。
本来なら、国を開く、貿易の仕組みを変えるということは、ピンチである一方、大きなチャンスでもある。日本の農産物輸出が、そのことを示している。日本の農産物輸出は、03年の1960億円を底に反転し、09年は2630億円と、着実に増えてきている。人口減少が始まったいま、国内で食糧に対する需要が増えて行く見込みはない。貿易の自由化は、国の外に市場を拡大するチャンスでもある。
製品や商品の競争力は、価格とコストばかりではない。いかに価格を下げて海外の農産物と競争するかと考えるから、お先真っ暗になる。どうすれば高い価格でも買ってもらえるか、と発想を転換すれば、道は開ける。
そのためには、政府は農家の規模拡大を促進し、質の高い農業にトライする農家を支援し、ブランド確立や流通コストの削減にこそ、資金が投入されるべきだ。もうそのことは、過去から何回も指摘されている。そして誇り高い農業従事者も、お情け頂戴の保護や補助金などは望んでいない。
民主党政権になって、米などの販売価格と生産コストの差額を補てんする、戸別所得補償制度が始まった。関税は廃止して所得補償で農家の生活は守る一方、農産物市場は自由化するための第1歩だとすれば、それなりの評価はできる。だが、現在の所得補償は、ほぼ無差別に配られていて、その目的がはっきりしない。
やはり農家の強い反対があった韓国はどう対処したか!
すでにお隣の韓国は、米国、EUともFTAを締結し、貿易の自由化では、日本の先を走っている。FTAを進めるにあたっては、韓国でも農家の強い反対があった。これに対して、韓国政府は、農家に対して短期的な所得補償を行うと同時に、強い農家を育成するために専業農家の育成、営農規模な拡大などを促進しようとしている。04年~13年の間に119兆ウォン(約8兆3000億円)、08年~17年にかけてさらに20.4兆ウォン(約1兆4000億円)が投じられる計画だ。FTAを国策として、実に戦略的に事を進めている。いまや、我々はお隣の国から学ぶべき点が多い。
戦後の日本は、世界の平和と自由貿易体制の恩恵を最も享受してきた。経済規模が大きくなった結果、日本の輸出依存度は17%で、ドイツの48%、韓国の55%と比べると格段に低いため、貿易はさほど重要ではないという見方もある。だが、これは間違いだ。
これから国内市場が拡大しないことを考えれば、輸出の役割は再び大きくなる。輸出を増やし、輸入も増やして世界経済に貢献することが、歴史的にみても日本の責務である。それはまた日本経済を活性化する道でもある。
農業関係者には、関税にしろ、所得補償にしろ、それは農業以外の産業で働く人たちの直接、間接の負担で行われていることを認識して欲しい。鶏が衰弱すれば、農業と農家を守る金の卵も産めなくなってしまうからである。
そして菅首相に問われるのは、「意志」と「決断」と「ビジョン」である。首相はTPPを「黒船」に例えたが、江戸幕府は国を開くことに対するビジョンがなく右往左往するばかりで、滅亡の端緒を開いてしまった。にもかかわらず、今回もまた首相から、国を開くことに対する強い決意と熱い思い、そしてビジョンが伝わってこないと感じられるのは、なぜだろうか。
(ダイヤモンド・オンライン客員論説委員 原 英次郎)
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