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対中コメ輸出拡大構想
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BE%E4%B8%AD%E3%82%B3%E3%83%A1%E8%BC%B8%E5%87%BA%E6%8B%A1%E5%A4%A7%E5%95%8F%E9%A1%8C
筒井信隆(66歳、衆議院議員5期、新潟県第6区、農水副大臣)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%92%E4%BA%95%E4%BF%A1%E9%9A%86
平成22年12月22日(新潟日報)
一定の回答に期待!
政府は環太平洋連携協定(TPP)を見据え、国内の農業強化に向けた検討を進めている。作業の中心となる「食と農林漁業の再生実現会議幹事会」の構成員でもある筒井信隆農林水産副大臣は今月、コメの輸出拡大に向け中国を訪問。日本の農産物の国際競争力強化に取り組む。筒井氏に中国へのコメ輸出の見通しと、TPPをめぐる議論の展望を聞いた。
TPP参加 前提否定「最終的に100万トン目指す」
―中国では、日本からの輸出拡大に向けた覚書に署名しました。
「当面20万トン、最終的に100万トンを目指す。現在のコメの対中輸出は100トン以下。ぜひ実現させた
」
―障害は何ですか。
「検疫の条件である燻蒸施設だ。今は横浜市の施設でしかできないので、燻蒸をやめるか、サンプル調査にしてほしいと伝えたところ、(日本の農水省に当たる)中国農業部の副部長から前向きな返答をもらった」
―コメ輸出の拡大や燻蒸処理の簡素化は、いつごろ具体化しますか。
「1月下旬に中国の国有企業の会長が来日する予定だ。ここで日本の生産団体や加工業者らと数量など具体的な話を詰めてもらう。燻蒸についても一定の回答があると期待している」
―本県にとって好材料はありますか。
「コシヒカリは安全で味がいいと評判だった。最高級の本県産コシの店頭価格は中国産を相当上回るが、富裕層に需要があるそうだ。今後(健康志向者向けなどの)機能性食品のような付加価値があると、さらに優位になりそうだ」
―輸出拡大はTPP参加を後押しすることにはなりませんか。
「今進めている検討はTPP参加を前提にしたものではない。まずは農業対策だ。その選択肢の一つが輸出であり、農地の集積であり、6次産業化だ。農業対策が先、その後に開放だ。農業を守る方向で議論が進んでいるので、関係者は心配しないでほしい」
―農業強化の基本方針は予定の6月までにまとまりますか。
「通常国会が紛糾すれば影響を受けかねない。そうならないよう手を尽くすが、6月までに結論を出すのはなかなか厳しいと思う。従って現段階ではTPP参加のめどはつかない」
―泉田裕彦知事がTPP交渉で主食用米の関税撤廃対渉からの除外を求め、認められなければ交渉から撤退すべきだとの考えを示しています。
「TPPは原則、全部の関税がゼロ。例外が認められるなら経済連携協定(FTA)の拡大版になって、(高いレベルで協定を結ぶ)TPPの意味がなくなる。(例外の設定は)難しいと思う。甘い期待だ。」
篠原孝(62歳、衆議院議員3期、長野県第1区、農水副大臣)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AF%A0%E5%8E%9F%E5%AD%9D
*衆議院議員 しのはら孝のブログ
TPPを切っ掛けとした、食と農林漁業再生推進本部の設立 -10.12.16
(突然でてきたTPP)
10月1日の臨時国会冒頭の菅総理の所信表明において、TPP(環太平洋包括連携協定等)への交渉、参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏(FTAPP)を目指すということが突然表明された。
これを切っ掛けに、党内は騒然となり政府の調査会で白熱した議論が行われた。政府内では関係副大臣会合に任され、私はその副大臣会合に10回参加し、事後調整に追われることになった。
その結果、11月9日にやっと包括的経済連携の基本方針が決まり、交渉には参加せず当面情報収集を中心とした協議を行い、TPPに参加するかどうかは別途判断することとなった。それと同時にその間に自由化にも耐えうる日本の農林漁業の体制を構築する為に、異例のことだが官邸に「食と農林漁業再生推進本部」を設け、6月中旬までに基本方針を定め、10月に行動計画をうたって、それに伴う予算措置を講じることになった。
(小国間のTPP)
私は、10月1日以降完全にTPPに掛かりきりになった。
TPPは大畠経済産業大臣が、9月17日組閣し、その後の大臣レクで始めて知ったと正直に述べたが、それほど唐突なことだった、もちろん一般の国会議員は知る由もない。もちろん、関係者の間では、TPPの存在はつとに知られていたが、国際的にもほとんど関心を呼ばなかった。なぜかというと、2006年にシンガポール、ブルネイ、NZ、チリといった小国が、非常に自由度の高い経済協定を結んだだけのことだからだ。いずれの国も人口は数百万、自国で必要な物を作ったりすることは完全には出来ず、必要なものは諸外国から輸入しなければならない。そういった延長線上で、自由貿易が生きていく上に一番都合のいいことであり、4カ国が結託して自由貿易協定を結んでいた。
(アメリカのTPP参加表明)
それが一変して大きく取り上げられるようになるのは、2009年の11月14日、オバマ大統領がサントリーホールでTPPの参加も検討していくと宣言してからである。これには政治的背景もあり、小沢一郎氏(当時民主党幹事長)が中国に国会議議員140数人をつれて行ったりしているところに、鳩山総理が東アジア共同体構想をぶち上げ、日本は中国にいかにも接近しているというムードが漂い始めたのに対し、オバマ大統領がけん制したものと思われる。その後、2010年になってから、アメリカだけではなく、オーストラリア、ベトナム、ペルー、フィリピン、そして最後はマレーシアの5カ国が新たに名乗りをあげ、3月から2ヶ月に1回ずつ会合を開いていた。
(FTAを推進した韓国)
一方、韓国は2007年にアメリカとのFTA自由貿易協定を結び、2010年10月にはEUとのFTAも署名し終わっていた。その結果、2011年7月からはEUへの輸出は関税がゼロになる。それに対して、日本の自動車には10%、液晶ディスプレーの入った家電、テレビなどは14%の関税がかけられる。これにビックリ仰天したのが日本の財界である。そうでなくとも韓国の追い上げは厳しく、現代自動車、サムスン、LGといった家電会社の追い上げが激しく、困っているところに関税で差をつけられてはたまらんということで、何をしているのかと外務省、経産省をつっついたのは明らかである。そういった声におされて、突然所信表明にTPPが出てくることになっていた。
私は、前のブログにあるとおり、鹿野農水大臣から突然韓国出張を命じられて行ってきたが、韓国は全ての関税をゼロにするということをせずに、二国間で応用がきく、例外を認めさせる自由貿易協定を着々と進めていた。
(日本の思いつきのEPA/FTA)
TPPと他のEPA/FTAとの違いは、完全自由化を宣言し、10年以内に全ての関税をとっぱらうのがTPP。EPA/FTAは二国間で例外措置を設けつつ、なるべく自由貿易を推進していくというものである。
日本も、あまり大国ではなく、結びやすい国、最初はメキシコ、そのあとスイス、シンガポール、チリといった国と結び、つい最近でいうとインド、ペルーなど、13カ国と結んでいる。ところが、全貿易額に占める割合はたった16%である。一方、韓国の場合は最大の貿易相手国中国やライバル日本が入ってないが、45カ国とFTAを結び、貿易額の36%に達し、かつ、米・EUといった大国が入っている。計画的に着々と手を打ってきた韓国と格好だけつけてきた日本の違いである。
(「先対策後開放」という周到な準備)
それに加えて韓国は、チリとのFTAを結んだのを切っ掛けに、国内農業のてこ入れを始め、10年間で9.1兆円の農業予算をFTAが発行する前に注ぎ込んでいる。だからこそ私が韓国に出張した時も、農業団体はそれほど騒いでいなかった。これを「先対策後開放」と呼んでいた。
前原外務大臣に言わせると、日本はGDPが韓国の5倍なのだから、5倍の予算を出してもいいのだそうだ。それにあわせると、約48兆円を10年間に投入することになり、年間4.8兆円の予算となる。現在の農林水産省予算が2.5兆円であり、約倍の予算を10年間注ぎ込むことになる。農業生産額で言うと約3倍ぐらいなので、27兆~30兆になるが、それでさえ今の予算ではとても追いつかないことになる。
こういった事から、韓国並みの政策を打とうということで、官邸に食と農林漁業再生推進本部が設立された。私はその下の幹事会の共同座長を務め、10月の行動計画成案に向けて大忙しの仕事をしなければいけなくなっている。
(スピード審議が必要な実現会議)
少人数で濃密に議論が出来るように、有識者の人数を絞って実現会議を設置した。もちろん茂木JA全中会長とどうしても必要な人たちは入っているが、他はユニークな人達がいる。例えば歌手の加藤登紀子さんは、有機農業の信奉者で、ご夫君(故藤本敏夫氏)と作り上げた千葉の鴨川自然王国の理事をしておられる。第一回の会合は11月30日に開催したが、今後3ヶ月に2回、あるいは月に1回のペースで進めていくことになる。
TPPの事前の情報収集であるが、今のところ当然のことながら、参加を表明しなかった日本には冷たく、傍聴だけさせてくれといった虫が良すぎるお願いは聞き入れられてはいないようである。私は、折角の機会なので、官邸に設けられたこの本部を中心に、駆け足ではあるが、6ヶ月で農林水産行政の今まで足らなかった分を補うべく、大きな改革案をまとめたいと思っている。
日本農業、再構築への道<6>最終回
2010.12.21(Tue) JBプレス川島博之
米国は世界最大の農産物輸出国であり、その輸出額は927億ドル(2007年)にもなる。ただ、米国は747億ドルもの農産物を輸入しているから、輸出額から輸入額を引いた純輸出額は180億ドルに留まる。
一方、日本の農産物輸出額は23億ドルであり、輸入が460億ドルだから、純輸出額はマイナス437億ドルとなる。純輸出額が多い方が強いとすると、米国農業が強く、日本は弱いことになる。
日本農業が弱いことは確かである。しかし、より広い視野から見ると、米国がダントツに強いとも言い切れない。
2007年において農産物の純輸出額が最も多い国はどこか。それは、米国ではなくオランダである。
オランダの輸出額は676億ドルと米国より少ないが、輸入額が397億ドルであるから純輸出額は279億ドルになり、米国を上回っている。世界で一番強い農業国はオランダということになる。
オランダ農業の強さの秘密は加工貿易にあり!
オランダは大きな国ではない。人口が1660万人、国土は4万1000平方キロメートル。農地面積は110万ヘクタールと日本の4分の1でしかない。そのオランダが強いのである。
オランダ農業が強い秘密は、日本が工業で行っているように、加工貿易をしているためである。オランダは近隣のフランスやドイツから飼料用の小麦を輸入して家畜を育て、畜産物を製造し、それを輸出している。
だが、牛乳の輸出額は2億1000万ドルとそれほど多くない。一方で、チーズの輸出額は29億ドルにもなっている。
つまり、オランダは安い家畜飼料を周辺国から購入して牛乳を作るが、それを輸出するのではなく、付加価値を高めたチーズの輸出によって利益を得ている。また、トマトが15億ドル、トウガラシが11億ドルなど、野菜の輸出も盛んだ。
農産物の中で穀物は安い。食料価格が高騰した2008年においても小麦の平均輸出価格は1トン当たり342ドルでしかない。一方、チーズは5652ドル、豚肉は2780ドル、トマトは1186ドル(いずれも1トン当たり)である。
このように穀物は安く、チーズや豚肉、野菜の価格は高いために、飼料にする穀物を輸入して、チーズ、食肉、野菜などを輸出するオランダ型農業が強くなっているのである。
飼料を輸入して行う畜産は広い農地を必要としない。また、野菜の栽培も1年に何度も収穫できるために広い面積を必要としない。つまり、オランダのような国土の狭い国でもできるのだ。
自由貿易で日本の農業を立て直す!
オランダの例が示すように、現代農業を行う上では、国土が狭いことは不利な条件ではない。それを逆手に取って、安い穀物は外国に作らせて、付加価値の高いチーズや野菜を作れば、儲かる農業を展開することができる。
ただし、その場合に食料自給率は低下してしまう。オランダの穀物自給率は14%(2007年)でしかない。
だが、食料自給率の低下を問題にすべきではない。日本農業もオランダ型を目指すべきである。
第2回、第3回で説明したように、日本が食糧危機に遭遇する可能性は限りなくゼロに近い。食糧安全保障を政策目標に掲げる必要はない。日本も海外から安い穀物を輸入し、チーズや野菜などを輸出すべきである。
儲かる農業を展開するには、チーズなど付加価値の高いものを輸出する必要がある。これまでも、1次産業である農業を2次産業や3次産業と組み合わせることにより、農業を「6次産業」化することが提唱されてきたが、オランダの例が示すように、儲かる農業を展開するためには農業の6次産業化が欠かせない。
オランダはチーズを周辺の国に売るのであるから、オランダ農業にとってEUを中心とした自由貿易圏はなくてはならないものになっている。
それは、日本にとっても同じである。高齢化が進み人口が減少に転じた国内を相手にしても、農業を成長産業に育てることは難しい。日本農業は世界を相手に商売を始めるべきである。そう考えれば、日本農業にとってWTOやFTA、またTPPは反対すべきものでなく、歓迎すべきものだと言える。
これまでの日本農政は大きな間違いを犯していた。食料自給率を上げようなどと考えたために、安い穀物を国内で生産しなければならなくなり、そのことが農業を儲からない産業にしてしまった。
飼料の国産化は、農民に儲からない農業を押しつけていることに他ならない。また、その儲からない農業の維持のために膨大な税金が使われている。日本農業を立て直すには、抜本的な発想の転換が必要である。
コメだけは例外にすべし!
ここで、日本農業をオランダ型に転換する上で、1つ重要なことを付け加えたい。それは、コメを例外とすべきだ、ということである。
本シリーズの第4回、第5回で述べたように、コメ問題は土地問題、また選挙制度と密接な関係を有している。そのためにコメ問題に手をつけると、それは大きな政治問題になってしまう。本来農業とは関係のない土地問題や選挙制度を同時に語ることになってしまうのだ。
前回に述べたように、コメは日本で1.8兆円程度の市場規模しか有しておらず、縮小傾向にある日本農業においても重要性を失いつつある。コメは産業としてではなく、文化として語るべき時期に来ている。
コメを例外としてもFTAやTPPへの参加を議論することは十分に可能である。実際に韓国はコメを例外にして、米国とFTAを締結しようとしている。
全てを自由化する必要はない。交渉に例外は付きものだ。「コメは日本文化に密接に関係している」と主張して、相手国から譲歩を導き出すことは十分に可能である。それを実現させることが、外交当局の腕の見せ所であろう。
農協には畜産や野菜から撤退してもらう!
貿易自由化に強硬に反対している農協も、農業に関連する事業が赤字になっているために、実際には農業から撤退し、利益の上がる金融や保険業務に集中したいと考えている。
また、畜産や野菜栽培で大規模経営を行っている「やる気のある農家」は、農協と関係が薄くなっている。それ以上に農協と対立している場合も多い。農協が畜産や野菜に関連する業務から撤退すれば、それは「やる気のある農家」を助けることにもつながる。
コメ栽培を続ける兼業農家は今後も農協を必要とするだろうから、農協の農業関連事業はその部分に収斂していけばよい。
農業は食料を生産するだけでなく、治水や生物多様性にも貢献しているとの議論がある。実際には、その機能はそれほど大きくないと考えるが、コメを現状維持とするならば、兼業農家と農協はそのような機能を有効に生かせるように工夫すべきであろう。
以上のようにコメを例外として貿易自由化を進めていけば、定年帰農も歓迎される。それは、過疎化の進行を緩和することにつながろう。定年帰農する人にはコメを作ってもらう。そこからの収入に大きな期待はできないが、年金により生計を立てることができれば、自然とふれあう老後は豊かなものとなろう。そのような農家には、生物多様性など農業の有する他面機能にも貢献してほしいものだ。
このようにコメを例外として自由化を進めることは、抵抗が少なく、かつ成果の大きな改革になる。
そもそも、コメや畜産、野菜など多くの部門を持つ農業を一括りにして、最も難易度が高いコメを改革議論の中心に据えたことが、これまでの改革が失敗した原因であった。
強い農業を育てるのは「やる気のあるプロ」!
本シリーズでは、世界の食料生産の現状と日本農業が政治や土地問題と密接に関連している姿を紹介してきたが、広く世界に目を向けて冷静に現実を分析すれば、解決策は必ず見つかるのである。
本稿の方向に改革が進めば、農業が貿易自由化を妨げ、経済発展の足かせになっているとの批判もなくなるだろう。また、畜産と野菜栽培を中心に「やる気のあるプロ」が農業を行えば、きっとオランダのように強い農業が育つはずだ。
膨大な人口を有し、かつ経済成長しているアジアを市場にできる日本農業は、EUを主な市場としているオランダよりも成長の可能性を秘めている。
日本農業の未来は明るい。
⇒ 「日本農業、再構築への道」のバックナンバー
(1)日本人がこれほど「食料自給率」に怯える理由
(2)心配は無用、食糧危機はやって来ない
(3)食糧危機がまだ心配?4つのリスクは杞憂に過ぎない
(4)日本は農村が動かしている国である
(5)日本の農業改革が進まない本当の理由
被害額算定では恣意性を排除、反対論には徹底対抗!
知られざる韓国経済 2010年12月20日(月)現代ビジネス 高安雄一
前回は、韓国がFTAを積極的に推進できる理由について解説しました。今回は韓国政府がFTAを推進するに当たって、(1)農業部門に対して十分に配慮していた点、(2)世論対策に相当力を入れていた点を取り上げたいと思います。
まず農業部門に対する配慮です。政府はFTA推進に際して農業分野に対して冷淡だったわけではなく、きちんとした配慮を示しています。
まず、農業部門に被害を及ぼすことが予想されるFTAについては、交渉が妥結して具体的な品目ごとの関税の取り扱いが決まった後、農業部門が受けると想定される被害額を算定し、その被害額を基に対策を講じています。
韓・チリFTAでは被害額試算の倍近い対策費を投じた!
韓・チリFTAに際しては、政府は発効後10年間の農業部門における被害額の算定を、漢陽大学、対外経済政策研究院(KIEP)(※1)、韓国農村経済研究院(KREI)(※2)の3つの機関に依頼しました。その結果、対外経済政策研究院が140億ウォン、韓国農村経済研究院が3055億ウォン、漢陽大学が5860億ウォンという被害額を算出(※3)。政府は最高額を示した漢陽大学の推計を採用し、最終的には推計額の倍近い1.2兆ウォン(7年間)(当時のレートで1000億円:以下円に換算する際も当時のレートを適用)の対策費を投じました。
この金額が投じられるまでの過程では、農林部(現在は農林水産食品部。日本の農林水産省に当たる)と通商政策を所管する外交通商部の間でせめぎ合いがありました。
外交通商部はそもそも農業分野の被害は大きくないとの立場であり、予算査定を担当する企画予算処(現在は企画財政部)も規模が大きすぎると反対しました(※4)。農林部、企画予算処、外交通商部の力関係を勘案すると、規模が削減されてもおかしくなかったのですが、それにもかかわらずこの規模が維持されたのは、農業部門への対策を重視した大統領の意向が働いたためと考えられます。
農業団体の要望から特別法も制定!
さらに、「自由貿易協定締結にともなう農漁民などの支援に関する特別法」(以下「FTA特別法」とします)も制定されました。これはFTAの締結により被害を受けると想定される農漁民の競争力向上と経営安定を図るための支援の根拠を示すとともに、支援を支障なく推進するための特別基金を創設することを目的としています。
具体的には、政府は、競争力向上のための支援、経営安定支援や廃業支援を行うことができるとし、自由貿易協定履行支援基金の設置を定めています。制定の背景にあるのは、農業団体が、何が起こってもFTA対策が中断しないように法的根拠を求めたことがあります。
この法律の制定について農林部は積極的でしたが、他の行政組織からは反対の声が上がりました。これはFTA締結のたびに農業部門に対する十分な対策を講ずることが求められることを恐れたからです。
法律制定については最終的には農林部の主張が通ったのですが、所管の主体を巡って混乱が起きました。FTAは多くの製品の交易に影響を与えます。従って農林部のような特定分野だけを所管する組織ではなく、経済を総括する財政経済部(現在は企画財政部)や、外交通商部が所管すべきという主張が出され調整がつかなかったのです。
しかし法律の早期制定を望む農民団体の働きかけもあり、法案の骨格は農林部が作成した上で、議員立法の形で国会に提出することで決着。つまり法案の政府提出はできなかったものの実質的には農林部の主張が通りました。
このように韓・チリFTAに関しては、初めてのFTAということもあり、農業分野に手厚い対応がとられました。
次に韓・米FTAについてです。この時は、韓・チリFTAとは異なり、韓国農村経済研究院のみが農業分野の被害想定額の算定を行いました。同研究院は、交渉で決まった農産品の品目ごとの関税率の動きを既存の計量モデルに投入することで被害想定額を算定しており、恣意的な結果が出る余地が少ないと考えられます。
また結果については農林部や財政当局がチェックを行い、被害想定額が過大あるいは過少になることがないようにしています。その結果、15年間で10兆ウォンという被害想定額を報告し(※5)、農林部はこの金額をもとにFTA対策の規模を10年間で20兆4000億ウォン(2兆4000億円)と決めました。単純に考えると、韓・チリFTAと同様、被害想定額の倍以上の対策費が計上されたことになります。
交渉妥結ごとにFTA対策を策定し合理的に補償!
しかしこの金額の内訳をよく見てみると、20兆4000億ウォンのうちの7兆ウォンは、2003年に策定された「農業・農村発展基本計画」(後述します)と事業が重なっている部分です。また3.1兆ウォンは同計画の事業をスクラップして新規事業を立ち上げた部分です。つまり、新規に増えた部分は10.3兆ウォンで、韓・米FTA対策費は、被害想定額とほぼ同額の金額となっています。
先月発表された韓・EU FTA対策についても、同研究院が被害総定額を算定。FTA発効後15年間で2.2兆ウォン生産が減少するとし、FTA対策の規模はその額に見合う2.0兆ウォン(1500億円)でした。
このように政府は農業分野が被害を受けると考えられるFTAの交渉が妥結するごとにFTA対策を策定してきました。その傾向を分析すると、合理的な範囲内で被害はきっちり補償したと言っていいでしょう。
なお前述した「農業・農村発展基本計画」(以下「119兆ウォン投融資計画」とします)をFTA対策と考え、「韓国ではFTA対策に巨額な資金が投じられた」という話を聞くことがありますが、これは正しくありません。
「FTA対策に10兆6000億円も投じた」は本当か!
119兆ウォン(10兆6000億円)投融資計画の目的は、2003年11月13日に開催された農林海洋水産委員会で、当時の農林部長官が説明しているように、ドーハラウンドによる市場開放、FTA、コメの関税化といった、今後想定される市場開放に備えるものです。つまり「前対策後開放」の原則に従って策定された計画です。
119兆ウォン投融資計画は、今後市場開放によって環境が大きく変化する農業分野において、体質改善や農民生活の安定を図るためのビジョン(10年間)を示したものです。環境変化を引き起こす一つの要因としてFTAを含むことはできますが、FTA対策とは言えません。
また、韓・チリFTAの批准前に農民団体が10項目の要求を政府に行いましたが、その一つに「農業投資計画及び財源確保」がありました。これに対して政府は119兆ウォン投融資計画の策定でこの要求に応えたとしています。このことが、「FTA対策に巨額の資金が投じられた」と誤解される理由にもなっています。
しかし、韓・チリFTAの締結がなくても119兆ウォン投融資計画は策定されていたことに留意すべきです(もちろん金額は若干違ったかもしれません)。1992~98年の42兆ウォン、1999~2004年の45兆ウォンと過去10年間、投融資計画が策定されてきました。2003年の新政権発足後は、新しい農業計画が策定されることは既定路線だったのです。よってその後継となる投融資計画が策定されるのはFTAの締結とは関係なく必然だったと言えます。
また119兆ウォンという金額の解釈にも注意が必要です。119兆ウォン投融資計画が開始されるまで投融資額がゼロであったわけではありません。計画が始まる前年の投融資予算は年間7兆7000億ウォンであり、これをこのまま10年間積み上げると77兆ウォンになります。つまり2003年における投融資額をそのまま継続するだけで77兆ウォンが積み上がるわけで、この金額を引いた残りの金額は42兆ウォンに過ぎません。
さらに物価上昇率等など全体予算の自然増加率(2003年11月13日の農林海洋水産委員会の農林部長官の答弁によると3%程度です)を勘案すると、20兆ウォンに満たない程度の増加に過ぎないのです(※6)。つまり119兆ウォンの投融資計画の大部分は、過去の投融資計画の延長と考えることが妥当です。
このように、韓国ではFTA対策として十分な金額が投じられましたが、それは巷間言われているほどの巨費ではありませんでした。むしろ重要な点は、FTAの具体的な内容が決まった後、できる限り恣意性を排除した方法でFTAによる農業部門における被害額を算定して、これに見合った規模の対策を講じていることです。韓・チリFTAの時は少々過大な規模でしたが、それ以降は、被害想定額に見合った規模となっています。
輸出産業を優先、農業部門の被害は補償で解決の方針!
歴代の大統領も、農業に対して冷淡な対応を取ってきたわけではありません。例えば、コメ関税化猶予延長が挙げられます。2004年はコメ関税化猶予の期限でしたが、政府は農民による関税化反対の強い要望を受け、2014年までコメ関税化猶予を延長するように交渉し、これを成功させています。
コメの関税化はFTAとは異なり、農業部門の意見を通しても輸出産業が不利益を被ることはありません。つまり大統領も農業部門の利益だけ考えることができる場合には農業部門の利益を守ります。
しかしFTAの場合は農業部門の意見を通すと、競争力が落ちるなど輸出産業が不利益を被ることになります。このように農業部門と輸出産業の利益を天秤にかけざるを得ないFTAの場合には、大統領は輸出産業の利益を優先する傾向にあります。この判断の背景にあるのは、成長の原動力は輸出にあるという事実でしょう。しかしそうであっても農業部門の被害については、きちんと補償するという方針を示しています。
「私たちの前を日本が走っていきます」!
次に大統領が世論対策にどれほど力を入れていたかについて見てみます。
韓・米FTAの協議が進んでいる2006年に韓国のメディアは韓・米FTAに反対するキャンペーンを行いました。例えば、日本のNHKに相当するKBSは2006年6~7月に2回にわたり、「KBSスペシャル」、また民放のMBSは同年7月にやはり2回にわたり「PD手帳」という番組で、FTAに対する否定的な報道をするなど、韓・米FTAに反対の世論形成がなされかねない報道が相次ぎました。
この影響もあったのでしょうか、韓・米FTAは被害のほうが大きいと考える人が多い状況でした(図1)。危機感を抱いた盧武鉉大統領(当時)は対抗するため積極的な広報を行い、韓・米FTAへの支持拡大を図るよう指示しました。広報の手段は、主にテレビ、ラジオ、新聞、インターネット等を通じたものであり、今でもFTA総合支援ポータルで見ることができます。
例えばテレビ広告の一つを見ると、「私たちの前を日本が走っていきます。私たちの前を中国が走っていきます。私たちの前を世界が走っていきます。こちらは世界最大の市場、米国。私たちはこの市場を越えて世界に進まなければなりません。より大きな世界に進むための私たちの選択、韓・米FTA。もう世界に向けてより大きい大韓民国が走っていきます」といった内容になっています。
この広告は地上波テレビで350回、ケーブルテレビで486回放送され、広告制作費は1億7000万ウォン、広告料は12億5000万ウォンでした(※7)。テレビ広告はこれにとどまらず、「私たちは可能性の民族です」、「大韓民国は自負心で世界と競争します」といった、韓国は決して世界との競争に負けない、そしてFTAを通じてより韓国は経済大国になれることを強調する趣旨のものが続きました。
なお2006年6月から12月までに韓米FTA広告費として27億3,500万ウォン(3億5000万円)を使っています。また2007年のFTA広告費は予算ベースで65億ウォンでした(7億8000万円)(※8)。
政府は徹底的に反対報道攻勢に!
また政府は反論報道も積極的に行いました。2006年9月19日にMBCの「時事プログラムW」において、『壊れた約束、カナダFTA』が放送されました。内容は、カナダ・米FTA、そしてその後メキシコを加えたNAFTAが発効して以降、カナダは深刻な社会・経済的問題に直面したというものです。
さらに同年11月20日にはKBSの「争い」において『政府は真実を話しているか』が放送されました。これはカナダ・米FTA締結後、カナダの成長率が高まったと政府は報じているが、成長率が低かった1989~93年、そして2001年以降の数字を故意に除いているとの内容です。
これに対しては韓・米FTA締結支援団の動向分析チーム、調査分析チームが関連資料を分析して、企画総括チームが法的な対応を行いました。そして報道資料で反論するのは当然として(韓国では新聞記事に対して反論する報道資料がよく出されます)、日刊紙の全面広告によってこれらに対する反論記事を掲載しました(※9)。
さらにKBSの「争い」については言論仲裁委員会に仲裁を申請して、報道により被害を受けた者が、言論機関に対して自ら作成した反論報道文を放送することを要求する権利を得ました(反論報道決定)(※10)。さらに先に述べた「PD手帳」でも、ハンギョレ新聞に「このまま止めるのか、前に進むのか-韓・米FTA」との全面広告を掲載し、9つの質問とこれに対する答を紹介する形式で「PD手帳」の内容を一つひとつに反論しました(※11)。
一連の反論については、国政監査(国会が毎年1回行政の政策におかしなところがないかチェックする制度です)で、「対応が過度に敏感である。時事プログラムの放送に対して税金で反論広告をすることは正常か」という質問がされましたが、これに対して政府側は公開の場で意見を表明したに過ぎないと回答しています。
政府広報活動の結果世論は「肯定派」が逆転!
このような広報活動の成果もあり、2006年の上半期には、韓・米FTAは経済に否定的な影響が大きいと考えていた人が多かったのですが、年末には肯定的な影響が大きいとする考える人の数のほうが多くなり、2007年には肯定的な意見が否定的な意見を大きく引き離すようになりました。
結果として韓・米FTAについては政府の積極的な広報活動がネガティブキャンペーンに勝利したと言えるでしょう。このような積極的な広報活動の裏には、大統領といえども国民の支持なしには政策を行うことが難しいという事情があると考えられます。
韓国とFTAを考える際、FTAを積極的に推進している華々しい部分だけに目を奪われます。しかし水面下では、相応の金銭的な対策をとっているだけでなく、海外ではあまり注目されない国内対策にも相当の力を注いでいたのです。韓国のFTAを論じる際には、農業対策、世論対策といった国内対策に政府がどれほど大きなエネルギーを割いたかについても、きちんと知っておくことが重要でしょう。
国益を追求できる“幸運”をもたらしたものとは!
2010年12月13日(月)日経ビジネス 高安雄一
日本でTPP(環太平洋経済連携協定)に参加するか否か議論がされる中、韓国のFTA(自由貿易協定)に対する積極姿勢に注目が集まっています。
現在、韓国と相手国の議会で批准されて発効したFTAは、チリ、シンガポール、EFTA(欧州自由貿易連合=スイス、ノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランド)、ASEAN(東南アジア諸国連合)、インドとの5件です。交渉が妥結したFTAは、米国、EU(欧州連合)、ペルーとの3件、交渉中のFTAはカナダ、GCC(湾岸協力会議)、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、コロンビア、トルコとの7件。なお日本とのFTAは交渉が開始されたものの現在は交渉が中断されており、中国、ロシアとのFTAについては共同研究が行われている状態です(外交通商部の発表による)。
農業団体による激しい抗議行動も!
これらFTAの中には、韓国の農業部門に大きな被害を及ぼすことが想定されるものがあります。発効あるいは交渉が妥結したものだけでも、チリ、米国、EUを挙げることができます。これらの対象国・地域で生産される農産品は、韓国でも生産されており、かつ韓国の価格競争力が弱いことから、農家が金銭的な被害を受けます。当然、農業部門の抵抗は大きく、韓・米FTAを始めとして、農民団体による激しい抗議行動が起こっています。
ところが、農民団体の抗議行動が目立つ一方、実際に行政の政策決定過程への影響力は限定的です。韓国では農業部門の利益を守るために行動し、行政の政策決定過程に直接影響を与える主体として、与党を中心とした国会議員、農林水産食品部があります。前者は与党としての政策決定過程への関与や国会での投票行動などによって影響を与えることができ、後者は行政の組織として直接影響を与えることができます。こういった主体の抵抗を抱えながら、なぜ韓国ではFTAを積極的に進められたのでしょうか。
その理由は、
(1)韓国経済の置かれた状況から大統領がFTA推進に積極的である、
(2)批准以前のプロセスで大統領の決定を覆すことが可能な主体がない、
(3)与党の大勢がFTA推進に反対ではないとの3つの点に集約されます。今回は、この3つの点について考察していきたいと思いますが、その前に 韓国の行政および国会の基礎的情報をおさらいしておきましょう。
強大な権限を保障された大統領制!
まず行政です。韓国は大統領制であり、大統領は国民の直接選挙で選ばれ、任期5年で再任は禁止されています。大統領は法案拒否権、公務員任免権を始め強大な権限を憲法上保障されています。
行政のトップは大統領ですが、国務総理が大統領により任命され行政各部を統括し、やはり大統領に任命される国務委員が各行政組織の長として組織を統括しています。ただし大統領制をとっている他国と同様、国務委員は大統領の代理人に過ぎず、国務総理も事実上それに近い存在です。
次に国会です。国会は一院制であり任期4年で解散はありません。言うまでもなく、立法権、予算審議・決定権、条約批准に対する同意権等があります。また行政との関係では、大統領を始めとした弾劾訴追権、国政監査権、国務総理の任命同意権などがあります。なお選挙は比例代表選挙と小選挙区選挙が併立しており、最近の選挙(2008年)では299名の議員が選出されました。
なぜ歴代大統領はFTAに積極的だったか!
まず、韓国がFTAに積極的である第一の理由「韓国経済の置かれた状況から大統領がFTA推進に積極的である」について考えてみます。
前述したように、行政のトップとしての大統領の権限は強大であり、大統領がFTAの推進に積極的でなければお話になりません。基本的に、国民による直接選挙により選ばれるため、大統領は国益を重視した政策を選好する傾向にあります。また再任が認められていないため、5年の任期中に何らかの歴史的な業績を残そうとします。従って、しがらみにとらわれず、合理的で思い切った政策を打ち出しやすいのが大統領の政策決定の傾向と言えます。
現職、前職の大統領のFTAに対する考え方を見てみましょう。 現職の李明博大統領は、もともと韓国の財閥企業である現代建設のCEO(最高経営責任者)であったことから、経済の発展こそ最も追求すべき国益であると認識していました。このため、FTAを通じて輸出主導の強い経済国家を目指すことは自然なことで、選挙公約でも積極的なFTAの推進を掲げました。
GDPの半分が輸出である韓国!
一方、FTAに反対の立場である市民団体や労働組合に支持母体があった盧武鉉前大統領がFTAを推進したのはなぜでしょうか。一つの理由が、韓国経済の発展のためには積極的なFTA戦略が重要だという厳然たる事実です。
韓国の経済にとって輸出は年々重要になっています。1990年にはGDPに占める輸出の割合は14%程度でしたが、この比率は1990年後半以降右肩上がりで高まり、2010年には50%近くに達しています(図1)。よって韓国の持続的な成長にはFTAの締結等により、できる限り有利な環境で輸出ができるようにすることが重要です。「韓国は日本とは異なり国内市場が小さいため輸出が極めて重要であり、持続的な成長のためにはFTAは不可避である」という意見については、政府組織や有識者の多くが一致しています。
また1997年の通貨危機以降、国民レベルで経常収支の赤字に対する恐れが生じています。これは通貨危機の一つの要因が、長年続いた経常収支の赤字であったことによります。このため経済理論から見ると議論の余地はあるものの、経常収支の黒字を維持するために輸出の環境を改善することは、国民の支持を受けやすいのです。
これら事情を踏まえ、経済団体及び外交通商部が当時の盧武鉉大統領に対し、韓国経済の発展のためにはFTAが不可欠な点を説明し、最終的には大統領も国益のためこれを納得したのでしょう。何より、大国とのFTAに道筋を付けることは大統領の業績として十分なものです。
日本の動向も気にしているようです。私がある有識者に韓国はTPPに参加するのかとたずねたところ、「ハードルは高いが、日本が参加したら韓国も参加するのではないか」という答えが返ってきました。韓国の最大の輸出競争国は日本です。FTAの締結という面だけ見れば当初は日本がリードしていました。これに焦りを感じた経済団体や外交通商部が、日本に先んじる形でFTAを進めるべきとの説得を行い、大統領もこれに理解を示したと考えられます。経緯については歴史的な検証が今後必要ですが、盧武鉉大統領がFTA推進に積極的であったことは事実です。
政策の最終決定に与党が関与する制度的な仕組みがない!
次に、「FTA批准以前のプロセスで大統領の決定を覆すことが可能な主体がない」という点について説明します。
FTAが発効するまでには、政府として交渉開始を決定、両国間で交渉開始を合意、交渉・妥結、署名、批准のプロセスを踏みます。大統領がFTAの推進に積極的な場合、政府による交渉開始の決定を阻止することができる主体が存在するでしょうか。
まず与党です。もし政府の交渉開始の決定に与党の合意が必要な場合は、与党の影響力は強いと言えます。しかし、この段階で与党が持つ影響力は限定的です。なぜなら。行政による政策の最終決定に与党が関与する制度的な仕組みがないからです。
日本の自民党政権時代のように事実上与党の手続きを経ないと政府としての決定ができない仕組みがあれば、与党の合意なしで政策決定はできません。しかし韓国ではこのような仕組みはありません。また国会として影響力を行使する仕組みもありません(※1)。
とはいえ、国会の議決については与党の力が必要なので、政策決定において完全に与党の意向を無視することは現実的ではありません。実際、李明博政権が「韓半島大運河」プロジェクトを打ち出した際、与党の与党内野党とも言える勢力の反対によりこれを断念しました。
また大統領は国会の動向を含め様々な政治勢力の状況を気にしながら政治的決定をしているのも確かです(※2)。しかし、FTAについては、大統領に推進に向けた強い意志があれば、これを断念させることは難しそうです。FTAの発効を阻止するためには国会で批准を拒否すれば良いのですが、相手国もあり、批准拒否の決断は与党としても簡単にできることではないからです(※3)。
大統領が人事権を行使できるので意志に反することはない!
行政内部の組織はどうでしょう。韓国では行政内部の組織が大統領の意向に反対することはまずありません。なぜなら、韓国では行政内に与党議員がほとんどいないからです。各部の長官(大臣に相当)の大多数は公務員からの持ち上がり、あるいは民間人です。その結果、大統領、国務総理、各部長官等で構成される国務会議(日本の閣議に相当)には現職国会議員は現在2名しかおらず、それぞれ当選2回です(表1)(※4)。
副大臣や政務官という立場で行政組織にいる議員もいません。このため、与党議員が行政内部から大統領が示した政策に反対することはまずありません。韓国では、国会議員、議員以外を問わず大統領が自由に人事権を行使できる環境にあるため、国務委員(=行政組織の長)をはじめとした政府高官が大統領の意志に反することはないと考えられます。
日本でも首相が人事権を持っています。しかし与党との関係で、政府内にいる国会議員が政策に反対しても辞めさせることは簡単ではありません。さらに国務会議は意志決定機関ではなく、あくまでも審議機関であるため、万一国務会議で大統領の意志に反する決定をしても、大統領はこれに従う必要はありません。
さらに、韓国にはいわゆる族議員がいないことも挙げられます。特定の政策に精通した当選を重ねた議員を族議員と定義すると、韓国ではそのような議員が生まれにくいシステムとなっています。よって各行政組織には応援団がおらず、企画財政部のような予算を握った組織と交渉することは容易なことではありません。ましてや大統領の決定にモノ申すなどできるはずがありません。
このように、批准までの過程で大統領の決定を阻止できる主体はおらず、重要案件は大統領の決定にかかっていると言って良いでしょう。FTA批准以前のプロセスは、大統領さえ決定すればその通りに動いていくのです。
選挙において農民票は重要でない!
最後に「与党の大勢がFTA推進に反対ではない」について考えてみます。前述したように、与党がFTAに強硬に反対した場合、最終的に国会で否決される可能性が他の政策よりは低いと言えます。とはいってもリスクはゼロではありません。しかし韓国ではそもそも与党、そして場合によっては野党もFTAには反対してきませんでした。
この理由は2つあります。一つは政党にとって農民票が相対的に重要ではないことです。総人口に占める農家人口の比率を見ると、日本は5.7%、韓国は6.4%と、わずかですが韓国の方が高くなっています。韓国において一番重要な選挙は大統領選挙です。この結果によって政党が与党になるか野党になるかが決まります。国会議員選挙も重要ですが、これに負けても与党であることには変わりありません。大統領選挙は国民による直接選挙でありますので、農民票は結果に大きく影響しないと考えられます。
もちろん農民票を全く無視しているかといえばそうではなく、盧武鉉大統領も大統領選挙の時に農業予算を全体予算の10%に引き上げるという公約を発表しています。
次に国会議員選挙です。大統領選挙よりは重要度が落ちるとしても、与党が敗北すると政策の推進に支障が生じます(これを「与小野大」と言います)。国会議員選挙は比例代表選挙と小選挙区選挙に別れています。比例代表選挙は日本のようにブロック別になっておらず、農業票がそれほど重要でないことは大統領選挙と同じです。
小選挙区選挙では、地方・農村部には農民がまとまった数存在します。しかし重要な点は、ハンナラ党であれば慶尚道、民主党であれば全羅道というように、韓国では地域が政党への投票行動に大きな影響を与えている点です。韓国では未だに職能票より地域票が重要です(※5)。この傾向は地方・農村部で顕著で、ソウルなど大都市部では地域が政党への投票行動に影響を与えることがないのですが、このような地域では農民票は重要ではありません。
また一院制であること、小選挙区制であることも農民票が重要な役割を果たさない理由です。小選挙区制であれば、選挙の争点が包括的になり、特定の集団の利益が選挙に反映されにくくなります(※6)。また日本では参議院という職能代表を代表しやすい仕組みがあるのですが、韓国にはこれがない点も重要であるとしています。これらを総合すると、韓国における農民票は選挙の勝敗を決するほど重要ではないと言えます。
意志決定に影響を与える族議員もいない!
もう一つの理由は、前述したように、政党の意思決定に強く影響を与える族議員がいないことです。
韓国では民主的な選挙が行われてから歴史が浅い等の理由もありますが、当選1~2回の議員が4分の3を占めているなど、多選議員が多くありません(表2)。この理由の一つは、大統領が与党総裁を兼ね、公認権や資金を全て掌握していた時代(金大中政権まで)には、多選により議員の発言力が増すことを嫌っており、数回当選した議員には公認を出さない傾向があったこと、当選回数が増えると地元との癒着が生まれ、スキャンダルにより引退に追い込まれる議員も少なくなかったことがあります(※7)。
また、大統領を目指す場合、多選によってステップアップしていくことは一般的ではありません。このため、議員から首長に転身する例も少なくありません。李明博大統領もソウル市長としての実績をもって大統領選に挑みました。このような事情もあり、当選を重ねつつ特定の政策に精通する族議員が生まれにくく、族議員が政党の意志決定に重要な役割を与える状態にはなっていません。
もちろん農家の利益を代弁する国会議員はいます。韓・チリFTAにおいて批准に反対した議員は71名ですが、その大部分が農村出身の議員でした(※8)。
なお農村出身の議員も地域票がある場合、農民票が離れても選挙に負けることは考えられませんが、選挙区にまとまった人数がいる農民の意見を伝えていると考えられます。しかしこれらの議員は政党の意思決定には影響を及ぼしていません。当時与党であったウリ党は批准賛成を党議としていますし、野党であったハンナラ党も同様です。そして同じく野党であった民主党は批准に反対の立場を表明しましたが、投票は党員の自由意思にまかせました(※9)。つまり農村出身議員は政党の意志決定には影響力を及ぼさなかったことが分かります。
農民票が重要ではなく、与党の意志決定に影響を及ぼすことのできる農業部門の利益を代弁する議員がいないとしても、与党はそれとはかかわりなくFTAに反対することも考えられます。ではなぜ与党はFTAに賛成してきたのでしょうか。
盧武鉉政権の時代は、政権の発足当初は民主党が与党でしたが、1年もたたないうちに分裂してしまい、大統領支持派の議員が作ったウリ党が与党となりました。このような経緯からウリ党は大統領の私的政党としての色合いが濃く、大統領の政策に反対することはなかったと考えられます。李明博政権は、ハンナラ党が与党ですが、この党はそもそも産業界の利益を重視する政党であり、野党時代からFTAに賛成していました。現在のハンナラ党は与党内野党を抱える状態で一枚岩ではありませんが、FTAの推進については賛成で一致していると言えるでしょう。
輸出なくして成長できない国にとっての幸運!
このように、大統領がFTA締結に積極的である中、批准までは大統領の決定を阻止する主体がなく、与党にもFTAに反対する強い勢力がなくて総じて賛成であったことが、韓国がFTAを積極的に進められた理由であると考えられます。
このように、韓国でFTAを積極的に推進できる理由の大部分は、行政や政治の制度に帰着します。もちろん、FTAが推進しやすい制度であるからといって、韓国の政治システムが日本より優れているというわけではありません。韓国は、国のトップが一度示した政策は、よほどのことがない限り実現されるという点では優れたシステムとも言えます。しかし大統領が暴走した場合には止めることが難しいとも言えるわけで、この意味では危険な制度とも言えるでしょう。
ただし、韓国が「輸出の成長なくして経済成長なし」という状況に置かれているのは確かであり、その意味では、輸出の環境改善に資するFTAを積極的に推進できる環境が整っていたことは、韓国にとって幸福でした。
次回は今回触れることができなかった、(1)FTAの推進に当たって大統領は農業部門に対して一定の配慮していたこと、(2)大統領が世論対策に相当力を入れていたことなどを取り上げたいと思います。
かつてブランド米として一世を風靡(ふうび)した「ササニシキ」。宮城県で誕生し、「宮城=ササニシキ」のイメージがあったが、冷害に弱く栽培が難しいことなどから作付けが激減した。だがササニシキには根強い需要があることから、宮城県古川農業試験場(大崎市)はササニシキの食味があり、冷害に強いひとめぼれのような栽培しやすい新品種の育成に取り組み、「東北194号」を実らせた。デビューに向けた準備が進められており、関係者はササニシキの食味を受け継ぐ“新人”の登場に期待を寄せている。(石崎慶一)
ササニシキとひとめぼれを生み出した古川農業試験場では平成13年、ササニシキを母、ひとめぼれを父に人工交配。栽培を重ねて世代を進め、食味がササニシキに一番近いものを絞り込み、19年に東北194号の試験番号が付けられた。試験場内のほか、20年からは県内農家の水田で県の奨励品種決定の判断材料を得るための試験栽培も行われている。
ササニシキの食味に近いものの選抜は、コメの食味鑑定の第一人者のいる農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所(茨城県つくば市)と共同で取り組んだ。炊いたご飯の表面の硬さや粘りを機械で計測、ササニシキに近い食味のものを選んだ。
ともに銘柄米のササニシキとひとめぼれの系統を引く東北194号は、いわばコメの世界の“サラブレッド”。だが「本当は掛け合わせてはいけない組み合わせ。互いに弱点が多すぎる。こうした中で東北194号を得られたのは、いろいろな面で運がよかった」。試験場作物育種部の永野邦明部長はこう語る。
全国で主流を占めるコシヒカリ、コシヒカリ系の食味の特性は「粘り」。一方、少数派のササニシキは「あっさり」した食味が特徴。だが、その食味や冷めてもおいしいことなどから、寿司(すし)や和食の業界で引き合いがある。試験場ではこうした店にサンプルを送り、試してもらっている。「東京の大手寿司店からは『文句のつけようがない。ササニシキ以上』との評価をもらった」と永野部長。
■ ■ ■
ササニシキの県内の作付比率(21年産うるち米)は9・2%と1割を切っている。全国的にはわずか0・6%と、いまでは「希少価値」のコメとなっている。かつては全国第2位の作付面積だったが、なぜ減ったのか。「ササニシキは気象変動に弱かった」と永野部長は指摘する。
ササニシキはブランド米としての地位を確立していたが、昭和55年以降、冷害がたび重なり、良質米を安定供給できなかったことから、消費者や卸売業者の評価を下げた。「55年の冷害でササニシキの弱点が暴露された」(永野部長)
これを契機に試験場では、冷害に強い品種開発について根本から見直し、その結果、生まれたのが平成3年にデビューした「ひとめぼれ」だった。昭和56年に冷害に強いコシヒカリと初星を交配して育成され、63年、平成5年の冷害で強さを発揮。ササニシキからひとめぼれへの作付け転換が急激に進んだ。6年には全国の作付面積第2位に躍り出て、ササニシキとの立場を逆転した。
■ ■ ■
こうしてササニシキは少数派となったが、栽培しやすいササニシキタイプの品種が登場すれば、その食味への需要が再び広がる可能性はある。県農林水産政策室は「コシヒカリと違う食味なので、商品としてブレークする要素はある。ネーミングを含め、どう売っていくか、検討していく。ブランド力のあるコメにしたい」と期待する。
県は今年度、農水省へ品種登録を申請する方針で、県の奨励品種とするかどうかの検討も行う。商品化では、県の農商工連携プロジェクトとして取り組むことになり、今年はセールスに向けて2ヘクタールで栽培される。来年以降、販路を開拓するなどして、数年後に「まとまった面積の作付けができれば」(県農林水産政策室)としている。
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■コメの全国作付比率
農水省によると、平成21年産うるち米の全国の作付比率のトップはコシヒカリ(主要産地新潟、栃木、福島)で37・3%。2位はひとめぼれ(同宮城、岩手、福島)の10・6%。東北関連では、あきたこまち(同秋田、岩手)が7・8%で4位、はえぬき(同山形)は2・8%で7位、つがるロマン(同青森)は1・6%で9位。まっしぐら(同青森)が1・3%で10位。ササニシキ(同宮城、山形)は0・6%で18位
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