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2010.12.11(Sat)JBプレス 川嶋諭

誰もがすぐ解ける極めて簡単な詰将棋を見せられているようだった。この手を打てば、次の手は容易に想像がつく。実際その通りに運んでいるのが、今の政局だろう。

社民党に擦り寄った民主党の自爆テロ!

衆議院で再可決するために必要な6人を確保するために、社民党に再び擦り寄った民主党。

 そのためには年末に発表する予定の新防衛大綱に織り込む予定だった武器輸出三原則の見直しを引っ込めることも辞さなかった。

 ついでに民主党の岡田克也幹事長は小沢一郎氏の国会招致の実現にも動き出した。

 国会招致しなければ年明けの通常国会で野党の協力が得られないためだという。

 将棋を習い始めたばかりの子供が打つような手である。飛車や角が攻められて、その対応に大わらわ。

 自らの玉が危うくなることなど全く目に入らない。次に大手をかけられて、しまったと思っても後の祭である。

 案の定、小沢一郎氏は離党を匂わせながら政界再編へと動き出した。

 12月9日には早速、鳩山由紀夫前首相や弟の鳩山邦夫元総務省、新党改革の舛添要一代表と会合。

 大連合を唱える読売新聞社の渡辺恒雄会長までがまたぞろ動き出した。

 社民党から6人を連立政権に引き込めたとしても、民主党内が分裂の憂き目に遭ってしまえば元も子もない。民主党は残念ながら最悪手に近い手を打ってしまったようだ。

とりわけ新防衛大綱は今の日本が置かれている状況を考えると、とにかく今は全力を挙げて取り組まなければならない喫緊の案件である。

社民党との連携がトリガー、政局が一気に動き出す!

私たち日本の国民は、民主党が生き延びるかどうかには全く関心も興味もない。しかし、日本の国が襲われたり失われるようなことだけは絶対に避けなければならない。

 日本海で行われた日米共同統合演習には、ロシアが2機の哨戒機を訓練海域に飛ばして情報収集しているし、春には中国海軍のヘリコプターが訓練中の自衛隊の艦船に接近、訓練を牽制している。

 中国、ロシアとも異常なほど軍事費を急拡大させている。中国に至っては第1列島線、第2列島線を設定して太平洋の制海権を取ることを明確に意思表示している。

 こうした軍事圧力が増している中で、「米軍も軍備も要らない」と主張する政党と手を組み、国防の手を緩めるなど、見逃すわけにはいかない。危機感を持つ政治家なら動き出して当然だろう。

 時は確実に流れている。昨年9月に民主党政権が誕生した時と、今では明らかに事情が異なってきている。北朝鮮情勢もこの間に極めて緊張の度を増している。昨年9月に社民党と手を組んで政権交代に浮かれていた時とは情勢が違うのだ。

官僚のモチベーションを地に落としては、この国のリストラは進まない!

 その情勢変化を引き起こした責任は、外交、防衛に関して甘すぎる民主党政権が多分に引き受けなければならない。日本を豊かにするための処方箋は一切描けないどころか、組織も完全にばらばら。

 事業仕分けも結局は、派手なショーで一部のタレント議員の人気取りに終わっただけ。これから改革が進んでいく予感は全くない。それどころか役人のモチベーションを地に落とした責任は重い。

 企業のリストラだって、最も気をつけなければならないのは社員のモチベーションをいかに落とさずできるだけ維持するかである。事業仕分けのような公開裁判で一方的に断罪すれば、組織が動いてリストラが進むと思っているなら、民主党に「経営」のセンスはゼロだ。

 これ以上はやめよう。「アナーキー・イン・ザ・ニッポン、日本の大人たちへ」を書いた小田明志くんに「そりゃ、あんたたち大人が選んでやらせたんだろ。簡単に批判すんなよ」と食ってかかられそうだから。

とにかく、国を経営するセンスがゼロだと分かったのだから、「さらば民主党政権」である。恐らく、政局は大きく動き始めるだろう。その場合、解散総選挙の選択肢もかなりな確立であり得る。

解散総選挙もやむなし、出でよ小泉進次郎!

 総選挙には莫大なカネがかかるという問題もあるが、このように情勢が大きく変化し日本が大きく変わらなければならない状況ではそれも致し方ないのではないだろうか。新しい日本を作るための生みの苦しみである。

 そして、前にも書いたけれども、ITの劇的な進歩は選挙も変える。それは日本以上にIT化が進んだ韓国が証明してくれた「与党を惨敗に追い込んだ韓国の若者パワー」。

 若い人たちを選挙に駆り出して、新しい日本を創るための政治をつくる。ちまちました対症療法でお茶を濁す政治はもう御免こうむりたい。

 本来なら議員定数の削減や1票の格差是正など選挙制度をきちんと変えてから総選挙に臨みたいところだが、それも現政権にはできないようだから仕方がない。選挙後に、小泉進次郎など若い代議士たちに頑張ってほしいものである。

 さて、お気づきになった方もいると思うが、JBpressでは12月に入ってから、ほぼ毎日1本ずつ「国防」の記事をお届けしてきた。通常は週に2本程度のペースで記事をお送りしているので、頻度を2倍以上に高めたことになる。

国防の記事を増やした理由!

尖閣諸島における中国漁船の衝突事件のあと、北朝鮮情勢が緊迫化しており、私たちは国を守ることについてもっと真剣に考えなければならないと思ったからである。何しろ、総理大臣が自衛隊のトップであることを知らなかった国なのだ。

 自衛隊OBの方の記事が多いので、記事に偏りがあるのではないかとのご批判も頂戴しているが、現実問題として、国を守ることの歴史的考察、守るための技術などについて、最も情報が多いのが彼ら自衛隊OBの方々である。

 もちろん、自衛隊OBの方々以外にも執筆していただきたいと思っているが、自衛隊OBの方々だからと言って、一部のコメントにあるような第2次世界大戦に導いたかつての大日本帝国軍と重ねて見るのはいかがなものか。

 当時とは事情がまるで違うし、情報公開も進んでいる。今の日本に軍の暴走を言うのは論点が飛躍過ぎていないか。むしろ問題なのは、私たち日本の国民が東アジアを取り巻く軍事情勢に疎すぎる方だろう。


そうした軍事情勢や中国、ロシアの軍事力の詳細も知らずして、何かの一つ覚えのようにシビル・コントロールを叫ぶのは、どこかの国の官房長官が自衛隊のことを実は何も知らないのに、「暴力装置」と国会で発言するのと同じではないだろうか。

何時までもあると思うな、平和と米国の傘!

私たちは戦後65年間、米国の傘の下にいて安全を謳歌させてもらった。しかし、国防の記事の多くが指摘しているように、米国の力は相対的に低下している。それと好対照をなすように中国の力が大変な勢いで伸びている。

 東アジアの勢力バランスが大きく崩れようとしている時に、戦後65年間の延長線上で考えて行動するのは、あまりに危険ではないだろうか。「何時までもあると思うな、米国と安全」である。

 軍事的なインバランスは外交にも直接跳ね返ってくる。中国が強硬な姿勢を続けるのは、もちろん軍事力に絶大な自信があってのことだ。日本の外交を議論するにも、軍事力の分析は決して欠かせない。

 さて、12月1日から10日までの国防の記事を並べてみよう。

日本の事情を良く知るがゆえに国を憂う自衛隊OBの人たち!

1日(水):日本人よ下山する勇気を持て
2日(木):中国四千年は改竄史、真の歴史は日本にあり
3日(金):国民は国に頼るのではなく貢献するものだ

6日(月):中国海軍恐るるに足らず、太平洋進出を阻止せよ
7日(火):明日開戦してもおかしくない、朝鮮有事に備えよ

8日(水):主権・国威を毀傷する政治を憂う
10日(金):民主党政権の一日も早い退陣を求む

 この中で、8日の「主権・国威を毀傷する政治を憂う」を書かれたのは横地光明さん。昭和2(1927)年生まれだから今年83歳になられた。旧陸軍士官学校のご出身だ。

 私の父は昭和3年の1月1日生まれでまもなく83歳。今でも専門の土木工学の本を執筆中で日本のためにまだ何かしたいという気力は衰えていないが、横地さんは父のさらにその1年先輩に当たる。


記事では日中関係の歴史を紐解き、したたかな中国の戦略に対し、日本の政治家がいかに手玉に取られてきたかを明快なタッチで描いている。

日本が誇る次世代哨戒機「P1」、読者から注目集める!

 国の行く末を50年、100年単位で考えている中国の政治家と、目先の政局を何よりも優先してきた政治家の違いが浮き彫りになっている。

 日本の政局優先は、時代が降りるごとに顕著になっており、民主党政権になり、ことここに極まれリという状況がよく分かる。こうした歴史はぜひ知っておきたい。

 さて、国防の記事で最近、特に読まれたのはこの記事だった。

 「中国海軍を震撼させる、日本の秘密兵器」。11月に公開した全記事の中で、読者に最も読まれた。この記事をどれだけの読者が読んだかを示すページビューは、第2位の記事「900兆円を超えた国の借金、それでも日本は大丈夫という話は本当か」の約2倍。ダントツの1位だった。

 記事の中身は海上自衛隊が現在の哨戒機「P3C」の後継機として導入する「P1」について書いたもの。P1は完全な日本独自の哨戒機。日本の技術の粋を集めて開発されている。

7月に最も読まれた魚雷の記事!


 さすが電子技術やセンサー技術で世界最先端の日本である。P3Cの後継機は米国をはじめ様々な国で開発されているが、P1はそのトップグループにいると言っていい。日本の技術力は捨てたものではないどころか世界最先端だ。

 この記事が非常に読まれたことについて、複数の自衛隊幹部OBに伝えたら、「えぇ、そうなんですか」と驚きの声が上がった。元自衛官としては珍しい内容ではないのでそんなに読まれるとは思っていなかったようだ。

 同じようなケースが実は少し前にもあった。

 「正確無比で性能も世界一、魚雷は日本のお家芸」は、魚雷という兵器の歴史と日本の技術力がいかに高いかを書いたものだが、この記事も今年7月に公開した中では、2倍までとは言わないまでも2位を大きく引き離すページビューでトップの記事だった。

兵器とはその国の技術力を如実に表す。読者の皆さんの関心が高いのも、日本を愛しているからこそだろう。

国を守る兵器は世界一でなければ意味がない!

 そして、この世界は世界で1番であることが何より大切であり、民主党が大好きな事業仕分けとは一線を画す。兵器の巧拙は兵隊の命を大きく左右する。それはノモハン事件や日露戦争の旅順攻略戦を引き合いに出すまでもないだろう。

 こうした日本の高い技術力が、いま、崩壊の危機にある。防衛予算の縮減は真っ先にこうした技術を持った中小企業との取引中止に現れるからだ。それはこの記事に詳しい「自力で兵器をつくれない国になる日本」。

 政権交代後、失敗を重ねてきた民主党だが、最大の大失敗は事業仕分けで「1番でなければなぜダメなんですか」という考え方だろう。ただの失言として笑い飛ばすのは簡単だ。

 しかし、いくら何でも主婦の節約感覚で日本の未来や国防を考えてもらっては困る。コンピューターやITの世界は国防に直結するのだ。仕分け人の人選も含めて民主党の危機意識のなさが明らかになった瞬間だった。

 「何時までもあると思うな安全と米国」。もし、米国という傘をなくしたとしたら、日本はどのような状況にあるのかを想像してみたことが与党の政治家にはあるのだろうか。社民党と組んで普天間基地の問題はどう解決するつもりなのか。

米国で巻き起こる日本の憲法改正論!

 そんな日本の事情を踏まえてなのか、米国では日本の憲法改正を論議する機会が増えているという。この記事「日本は憲法改正せよが米国議会で多数派に」は米国で、日本が自分のことは自分で守れる憲法を作るべきだという声が高まっていることを伝えている。

 ジョージ・W・ブッシュ前大統領がアフガニスタンに侵攻して以来、第2のベトナム戦争とも呼べる状況に追い込まれた米国は、自らの圧倒的なパワーで世界を抑えることはできなくなってしまった。

 その間、中国は軍事費の2ケタ増を続け、今や米国に次ぐ世界第2位。そのうえA2/AD(Anti-Access/Area Denial=米軍の行動を一定期間拒否できる接近阻止・領域拒否能力)を高め、日本海や黄海、そして西太平洋から米軍の支配を追い出す戦略を描いてきた。

 軍事的には欧州が安定している中で、米軍にとって最も脅威が増しているのが中国である。米国のバラク・オバマ大統領は、就任直後にG2なる考え方を打ち出し、米国と中国で世界を安定化させる構想を描いた。

しかし、韓国における哨戒艦撃沈事件、尖閣諸島事件などを経て、また経済的には世界第2位の経済大国になろうとしているにもかかわらず自国のエゴを押し通す姿勢に協調を期待できないと判断、それまでの対中戦略をほぼ180度転換した(中国はガラパゴスで、日本がイースター島)。

弱り目に祟り目のウィキリークス!

 その際、相対的に力の落ちた米軍にとって西太平洋の安全を守るには日本の協力が不可欠なのだ。これは普天間問題で完全に冷え切った日米関係を再構築するために絶好の機会である。このチャンスをどう生かすかが、政策担当者の手腕というものだろう。

 米国にとって新たな“敵”も登場した。ウィキリークスである。米国の外交公電が次々と明らかになっている。

 民主主義国家にとって、権力者にとっては忌々しい存在でもジャーナリズムは大切だ。権力に対するチェック機能が働かなければ民主主義は絵に描いた餅に終わってしまう。中国との差はまさにここに象徴されると言っていい。

 ブッシュの戦争によってジャーナリズムが十分に機能しにくくなった中で、登場したのがウィキリークスだった。もし、米国のジャーナリズムがしっかりしていたら、ウィキリークスが登場する必然性はなかったかもしれない。

 ウィキリークスの創設者であるジュリアン・アサンジ氏は米国の堕落したジャーナリズムに代わる存在として自らを位置づけている。ITという強力な武器で武装しているだけに米政府にとっては腹立たしい存在だろう。

しかしウィキリークスは中国の実態も白日の下にさらす!

 秘密を次々と暴露される米国にとっては弱り目に祟り目で、中国など情報統制を続けている国に利することになると言えるだろう。

 もし、この地球が民主主義対非民主主義の対立が今後も大々的に続いていくとすれば、その意味ではウィキリークスは民主主義国家の内なる敵と呼べるかもしれない。

 しかし、実際にはウィキリークスは中国にとっても迷惑な存在だろう。そのことを示す記事を宮家邦彦さんが2回続けて書いている。

「ウィキリークスが暴露した中国の真実」
「米大使館が報告した中国株式会社の実態」

中国が目指す理想の国家であるシンガポールの建国の父、リー・クアンユー顧問相が明らかにした中国の実態は説得力があった。

既得権の綱引きに終始し改革が進まない中国の実態!

 また、2回目の中国共産党の中枢部にいる人間による中国の自己分析も極めて面白い。宮家さんは次のように紹介している。

●最高レベルに「江沢民・上海派」と「胡錦濤・温家宝派」の確執はあるが、いずれのグループも優勢ではなく、主要意思決定にはコンセンサスが必要である。

●共産党は様々な利益集団の集合体であり、そこには改革派はいない。彼らは競って中国経済のパイを奪い合うため、中国の政治システムは硬直化している。

●意思決定の原動力が既得権を巡る争いであるために、必要な改革は一向に進まない。

●李鵬元首相の電力利権、周永康常務委員の石油利権、故陳雲元第1副首相一族の銀行利権、賈慶林常務委員の北京不動産利権、胡錦濤女婿のIT利権、温家宝妻の宝石利権などは特に有名である。

●彼らと結んだ地方・企業の幹部は利権ネットワークを形成し、短期間で元が取れる高度成長を志向するため、意思決定過程では常に経済改革、情報の透明性に反対する声が優勢となる。

 日本の政治家や外交官にとっても非常に重要な情報と言えるのではないだろうか。恐らく、ウィキリークスは中国の民主化を促すための民主主義国家にとっての「武器」にもなると思われる。

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無視される日中平和友好条約の領土保全・平等互恵の原則!

2010.12.08(Wed)JBプレス 横地光明

前言
今回尖閣諸島領海内で発生した中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突(22.9.7事実は漁船の体当たり)事件に係る民主党政権の対応は、中国の威圧に屈せられたと国民をいたく失望させ、世界世論から日本外交の大きな敗北と評され、我が国は国威を著しく失した。

 日本外交の弱さを暴露してしまった政府は、中国側の非を突き奮起して主導権を奪還し、外交主権の再確立を講ずべきであるのに、媚中外交に終始した。

中国が世界世論の厳しさに直面し、また衝突時の模様を撮影したビデオがリークされ事実が明らかになりいささか傲慢ぶりを緩和する兆候を示すと「冷静」「戦略的互恵関係の早期回復」を隠れ蓑に、なりふり構わず中国の意を迎え、ただ首脳会談を持たんとするありさまは国辱的と非難されても抗弁できないものを感ずる。

 加えてその渦中、日本の対中態度を見ていたロシアが「日本は強い姿勢を取れない」と見透かし、日本のたびたびの警告にもかかわらず大統領が北方領土視察をあえて行い、我が国は東西から翻弄され、国際的弱さを内外に露呈してしまった。

 本問題に関し、野党側が糾弾すると政府は「では前政権時代はどうであったのか」と切り返すが、その非は認められるにしても、今回の政治的失態の責めを逃れることはできない。

 もちろん、歴代自民党政権が取ってきた主体性を欠いた処置が今回の事案の大きな伏線になっていることも見逃し得ない。

尖閣諸島に関する法と歴史!


 尖閣諸島は、中台を除く世界諸国が認めるように、法的にも歴史的にも明々白々たる我が国固有の領土で、中台がこの領有を主張する権利はいささかもない。

 すなわち、明治政府が明治28(1890)年に他国の支配が及んでいないことを慎重に調査し、無主地先占の国際法理で領有化を図ったのであるが、中国を含め他国からの異議は全くなかった。

 同島は民間人に貸与され魚釣島に居住した島民は、羽毛・グアノの採集に従事し鰹節工場を営んだ。その後無人となったが米軍の管理占領時代は射爆場となり所有者に借料が支払われていた(今も政府が借り上げ年220万円を支払っている)。

 中国側も1970年までは日本領と認めていた。

 例えば、大正8(1919)年に中国漁船が同島付近で遭難し、島民に救助(31人)された折には、中国駐長崎領事だった馮冤は沖縄県八重山郡諸島和洋島(魚釣島のこと)の石垣村雇玉代勢孫伴や鰹節工場主古賀善次等に感謝状を送った。

 また、1950年北京市役所発行の世界地図帳でも国境は同島の外に引かれ、地名も日本名になっていた。

 1968年1月8日付の人民日報の記事でも琉球諸島が7つの諸島からなるとしてその1つに尖閣諸島を挙げている。ちなみに同島の現所有者はさいたま市在住の結婚式場を経営する民間の人物である。

 しかるに、1968年、ECAFE(国連極東経済機関)が同島海域に大量の石油埋蔵量があることを発表すると、中国は突然(1970年12月)、台湾(1970年夏)に続き領有権を主張し始めた。

 しかし国際紛争の裁判上重要なクリテカルデート上、今頃に至って中国の史書や古地図にある・琉球への冊封使が見たなどと言い立ててもいずれも領有の判断根拠には全くならない。

北方領土については詳説を避けるが、法と歴史上日本の固有の領土であることは厳然たる事実であり、従来から米国の支持するところでもある。

自民党政権の責任!


 1972年、田中角栄氏は首相に就任するとすぐさま訪中し、日中国交正常化交渉に取り組んだ。最後の段階で自ら周恩来首相(以下、職位は当時)に尖閣諸島問題を切り出したが、周首相が「今は話したくない。石油が出るから問題だ」と言い、ほかの話題に転じたため、彼の真意を測らずそのまま(9月29日)日中国交正常化共同声明に調印してしまった。

 この田中首相・大平正芳外相の領土問題の軽視や先の見えない判断が、その後に波乱を招くことになった。

 すなわちその後6年にわたる長い平和条約交渉の最終段階で暗礁に乗り上げた1978年4月に、これを揺さぶりかつ尖閣の領土権誇示のためか、中国は100隻を超す大漁船団を尖閣周域に接近させ領海を侵犯した。

 しかし、鄧小平が「二度と領海侵犯を起こさない」と福田赳夫首相、園田直外相などの日本側代表団に約束して、共同声明と同じ内容の主権・領土の相互保全・相互不可侵・平等互恵・内政不干渉・平和友好・武力による威嚇を排し紛争の平和的解決・覇権反対を内容とする平和友好条約が署名された(1978年8月12日)。

 しかるに、批准書交換に来日した鄧小平は日本記者クラブで講演し、尖閣問題に関し、「我々の時代に解決方法が探し出せなくとも、次の世代、次の次の世代が解決方法を探しだせる」と棚上げ論を述べた。

 これに対する日本側の対応はなく、本年(2010年10月22日)の国会で前原誠司外相が「合意したわけではない」と日本側の立場を説明したが、なぜその時福田政権ははっきり日本側の立場を明確にしなかったのかの責任が問われる。

 今度もまた提案しているが中国側のあたかも領土問題があるかのごとき棚上げ論には決して乗ってはならない。

 中国政府はまた尖閣棚上げを提案してきたようであり、時あたかも唐家璇元国務委員・元外相が来日して経済界指導者ばかりでなく首相官邸にまで乗り込んで、過去に両国政治家は棚上げした問題だ荒立てるなと懐柔する行動をしたようだが政府は明確に否定することが必要だ。

 中国は1992年2月25日に不法にも尖閣諸島を取り込んだ「領海及び接続水域法」を制定公布したが、この重大事案にもかかわらず、はなはだ遺憾にも宮沢喜一内閣の処置は北京大使館から口頭で中国政府関係部署に抗議しただけだった。

 それだけではなくその10月には天皇の訪中を実現させた。この弱腰卑屈な媚中外交で中国の意に従う姿勢は目に余るものがあった。

 さらに2004年3月24日、中国の過激活動グループ7人が魚釣島に不法上陸し、警察が逮捕し送検を準備したが、小泉純一郎内閣(福田康夫官房長官)の法務省は日中関係を考慮するためとしこれを抑え、即時の強制送還ですませて再び国権を傷つけた。

 これら自民党政権の主権を危うくし国益を損した経緯が、中国側を「日本扱い易し、強く出れば屈する」と判断させ次第に手段をエスカレートし今次の漁船問題に繋がったことは否定できない。

 自民党政権は、「国際政治の本質は権力闘争で根源はパワーバランスにある」(ハンス・モーゲンソー)ことを忘れ、かねて「日本なんかはひ弱な花だ」(ズビグネフ・ブレジンスキー)と揶揄され、「相当の軍事力を持たない日本は国際責任を果たせない」(ヘンリー・キッシンジャー)と警告され、加えて国際関係が激動するにもかかわらず、安全保障を日米同盟に頼り切り、軍事力こそが外交力・国際発言力の源なのに、軽武装で経済発展に専念していても国際的地位を獲得し安全が確保できるとの観念から脱出できなかった。

 このため国際関係の安定の基盤である至当な国防態勢の整備の努力を怠り、国防費の対GDP比を常識外の1%以下に抑え、占領軍の押しつけの憲法のまま自衛隊を国防軍か行政機関か分からない鵺(ぬえ)的存在に放置し、集団的自衛権の解釈の呪縛を解かず、ハンディキャップ国家論を拭いきれず、まともな国際的発言能力の保有努力とその意欲を欠き、中国には日本のみ侵略国家と非難され歴史認識で責め続けられたが平和友好条約の内政不干渉・平等互恵の原則を忘れ有効毅然たる対応策を講じてこなかった。

これらに関しては現代の元勲とも言われる中曽根康弘元首相の責任も決して軽くない。氏は防衛長官に就任すると勇ましく自主防衛を掲げたが、中国に軍国主義と非難されるとたちまち前言を翻し、軍事戦略上主体性のない「専守防衛」に転換し、首相になると戦後政治の総決算を唱えたが中国に攻撃されると「胡耀邦の政治的苦境を救うためだ」と称し、個人の問題を首相の国家的責務と混同し、あっさり靖国神社参拝を中止(後藤田正晴官房庁長官も同罪)し中国の内政干渉の鏑矢を作った。

 その後教科書検定への近隣条項基準の追加(鈴木善幸首相:宮沢喜一官房長官)、南京事件の事実に触れただけの法務大臣の罷免(羽田孜首相)、多額のODAの供与を迫られ、一方、韓国には竹島を放置して実力支配され、確たる証拠がないのにいわゆる従軍慰安婦問題を認めさせられ(宮沢首相:河野洋平官房長長官)、日韓併合を一方的に謝罪し、正論を述べた文部大臣を罷免(中曽根首相)し、また世界各国が厳しく対処するハイジャック犯の要求に屈し(福田赳夫首相)て世界の顰蹙(ひんしゅく)を買い、我が国の国家威信の毀損を重ねた。

 一方、ロシアの歴代大統領に振り回され、資源を餌に多額の経済・技術支援を吸い取られながら、北方領土問題は少しも進捗せず、かえって日本に脅威を与え続けた原子力潜水艦の廃棄に資金協力をさせられるありさまだった。

 加えてグローバル世界の到来にもかかわらず、この視点を疎かにし、国内問題にかまけて地域エゴと結び利益誘導に走り、不急不要な道路・空港・港湾を造ったが国際ハブは他国に奪われ、高コスト体質と巨額の財政赤字を残し、票田確保のためか米作は日本の固有の文化などと称して肝心の農業の国際競争力向上を顧みず保護のみに走り、FTA(自由貿易協定)・FTAAP(アジア太平洋自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)・TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の締結・加盟を怠った。

 このため「Japan as No.1」の国際競争力を世界1番から中国の18位、韓国の24位の後塵を拝する27位(スイス・IMD:国際経営開発研究所2010年、しかも貿易は54位)に転落させ31位のインドに追い越されそうになった責めもある。


民主党政権の失態!

だが、民主党政権になるとこの傾向はさらに深刻になり憂慮に堪えない。鳩山由紀夫前首相は、日米同盟が日本の安全保障上死活的に重要であり、沖縄基地がそれを支える主要な一環であるのに、中核の普天間基地の移転に関し、総選挙運動中「沖縄住民の意に反して基地問題施策を進めない」と公約した。

 こうなれば県民が基地撤去や県外移転を求めるのは当然で県内移設が不可能になるのは目に見えている。

 このため米国に基地移転を何回も公約したが、推進は少しもできず米国の不信を買い日米関係をぎくしゃくさせ中国・ロシアに付け入られる隙を作った。

 元来、統治権とは「国の必要とすることはいかなることも排除して強制執行する権限」でこれを放棄しては一国の政治は進められない。換言すれば鳩山氏は内政面で国権の中心の統治権を大きく毀傷した。

 外政においても、「イデオロギー外交を排する」「私は価値観外交を嫌う、外交は価値観が違う国とも共存共栄の関係を築くことだ」とし、夢想的友愛論に立って日米基軸を中国寄りにシフトしようとし、米国の嫌う反米親中論者として知られる人物を駐米大使に充てようとしたり、国会開会中に160人余の国会議員を含む640人の代表団で胡錦濤国家主席を表敬した日米中正三角形論者の小沢一郎氏一派を登用し、その要求を入れ慣例を無視して、中国側の要求に屈し習近平国家副主席の天皇会見の実現を許した。

 また中国の欲する米国をアジアから追い出すことにつながるASEAN+3(日中韓)からなる東アジア共同体構想を進めようとした。

 これは自ら、日米関係分断に加担し華夷体制下に入りこもうとするもので、中国の支配体制を有利にしてそれだけ日本の国威を損ずるものだ。

 安全を頼る米国には「対等」を主張しながら、外国が「日本は中国の威圧・恫喝に屈している」と言われるような絶えず威圧する中国に何も主張できず卑屈な姿勢を取るのはいかなることであろう。

 加えて鳩山首相は岡田克也外相の北東アジア非核地帯構想の推進を容認した。これは北朝鮮の核廃棄を前提に、米中露に核不使用を要望するものだが、中露から「米国の核の傘を外してこい」と言われたら一体何を担保にして日本への核脅威を抑止するつもりなのか?

 ソ連に日ソ中立条約を破られた手痛い教訓を忘れ、公約をいつでも無視する中国を信用するのはいかなる思慮なのであろうか?

確かに世界には5つの非核地帯(アフリカ・カリブ・南太平洋・東南アジア・中央アジア)があるが、皆世界戦略上の要域でない核戦力交叉の及ばない地域のみであり、海洋勢力と大陸勢力の接触点の地政学的要衝の北東アジアで成立するはずがなく、かつ政府高官が「原爆攻撃日本消滅」を広言してはばからない中国や何をするか分からない北朝鮮や大国主義・権力主義の警察国家のロシアを信ずるのでは危険極まりない。

 またそれなのに「日本海を平和の海」と叫んでロシアに甘い期待を抱かせて、今次のロシア大統領の平然とした北方領土視察をさせる背景を作った鳩山氏は国政を担う見識を欠いていた。

 今次(9月初めの尖閣諸島領海での漁船拿捕事件)の問題では、菅政権は「粛々と法に則り対応する」としながら、想定外の中国の声を荒げた抗議、官民の交流中止、レアアースの禁輸、フジタ社員の拘束や反日デモの頻発に遭遇すると、たちまち中国の態度に委縮し世界の注目を浴びる中で、法を曲げて船長・乗組員・船を釈放し中国に「日本は強く出れば屈する」と確信させ、世界から日本外交の大敗北と伝えられ、国権と国威を大きく損じ国民の多くが深く慨嘆した。

 菅首相はその直後ニューヨークの国連総会、続いてブリュッセルのアジア欧州会合(ASEM)、ハノイの東アジアサミットの首脳会議に出席したが、中国の温家宝首相が多くの機会で中国の立場を強く主張したのに、我が菅首相の主張は弱々しい限りで、温首相との会見でも日本の法的歴史的立場を強調し中国の不当性を主張するのではなく、ただ事態鎮静と関係修復を哀願するような状況に終わったのは遺憾至極であった。

 俗語だがこれは「盗人猛々しい」を思い出させるもので、「無理が通って道理が引っこむ」のでは国際政治はできない。内閣の政策決定調整の要である仙谷由人官房長官は野党議員が「こんなことでは日本は中国の属国化するぞ」と戒めたら「日本の属国化は今に始まったことではない」と答えたという。

 かかる意識の政治家が官房長官では国の前途は真っ暗だ。また同長官は「釈放せずに横浜APECが吹っ飛んでもいいのか」と反論したようだが、仮に中国首脳が不参加でも会議は吹っ飛ぶまいし、それがかえって国際的立場を失うことになることを知る中国の不参加はあり得まいと思われ、その判断は合点できない。

小国ノルウェーがノーベル平和賞授与に関し中国の抗議に毅然と対応しているのに反し、我が国現政府は、ひたすら中曽根元首相も異議を唱える中国に阿(おもね)る内容空疎曖昧かつ中国を利するだけの「戦略的互恵関係の回復」の美名や「冷静な対処」を隠れ蓑に、ひたすら中国の意を迎えんと首脳会談開催に汲々としている。

 また常に情報公開・法令順守を口にしマニフェストで公約しながら、既にリークされ誰もが見ているのにいまだに中国漁船の不法な行動を映したビデオ公開を抑え、十分に権利のある巡視船の損傷補償要求を逃げている。

 中国は長崎国旗事件(1958年)では外務部長が強い抗議をしてきたが、日本側はこれらを見逃してきたため、中国人暴徒の日の丸焼却・踏みにじりや、外交公館や日系企業・商店の破壊は日常茶飯事と化している。

 これらは日中共同声明・平和友好条約の「主権・領土の相互尊重、相互不可侵、平等互恵、平和友好の原則」の明確な違反であり強く抗議し相応の処置を取らなくてはならないものである。

 外交交渉では主導権を取ることが肝要で、相手に求めることをせず、いつも相手から日本の対応次第だと脅かされっぱなしでは、国益を失うばかりだ。

 対ロシア政策も同様で、外交上の強い処置があってしかるべきだ。日本はアジア諸国からリーダーたらんことを求められているが、リーダーは新しい方向を示さなければならない。しかしそれだけでは単なる評論家の域を出ず、これを実行させなければならない。それには影響力が不可欠だ。

対中戦略のリアリズム!

国際政治でも国内政治でも、個人間でも、理由なき譲歩は、さらなる次の大きな禍根になることは歴史の示すところだ。

 誰でも知るように歴史上の大きな教訓とされるミュンヘン会議(1938年9月)でアドルフ・ヒットラー率いるドイツのチェコスロバキアのズデーデン割譲要求に、英首相ネヴィル・チェンバレンがただ善良な動機でこれを受け入れる宥和背策を取ったため、戦う決意のないことを見て取られ、かえってヒットラーにすぐあとスロバキアを解体させ、ついには第2次世界大戦を引き起こさせて何百万もの人命を失わせてしまった。

 従ってこれに徴すれば中国が今後さらに強い行動に出ることは疑いない。

 尖閣諸島に関しては、その常套手段の領有権主張→周辺の海洋調査→領海を侵犯しての漁労→漁業監視船の遊弋→軍艦出没→武力占領事態の最終段階突入への危険も予想されるのに、政府はなお中国の反発を恐れてか「固有の領土」と口にするだけに終始している。

中国では尖閣攻略戦のシミュレーションをしているとの噂もあり、米国でも中国の武力使用があり得ると観測(米海軍大学教授の議会証言)しており、日本をよく知るJ・アワー教授に「日本は領土を守る覚悟の程を示せ」と言われてもなお政府は同島への官民の接近を禁じ、同海域における日米共同演習の実施や自衛隊の直接配備措置の考えがないのは全く気が知れない。
今後の国際関係の重点は発展を続け日米中露印の絡むアジア太平洋に移り、米国が世界秩序の最大の課題と認識する異質で台頭する中国の影響をまともに受ける東アジアが焦点となることは疑いない。

 従って、厳しい国際情勢に荒波の中で生き国威国権を守るには、対中国施策が試金石だが、中国は

(1)民主主義でなく値観感の異なる共産党一党独裁国家で、現状維持に満足しない修正主義的でかつ重商主義的政策を今後も続けよう。

 またその強大化は止まらないだろうし、軍部が一層力を持つ予想から、外交の強硬化は加速し、ひとりよがりの傍若無人な国益・威信獲得を求める習性から世界が期待する責任ある大国化に転移し、あるいは欧米流国際秩序に順応することは容易に望めそうもない。

 しかし日中の経済の相互依存関係は断ち得ないし、両国の正常な関係は日本のみならずアジア・太平洋の安全と平和及び繁栄に不可欠である。日本は敵対でもなく従属でもない平等互恵の関係にならなくてはならない。

(2)5000年の歴史の中華思想はなお生き続け、富強によりアジアに中華体制を再確立し、そして発展途上国を取り込みあるいはイスラム諸国と連携し世界覇権を目指すであろうことは確かだろう。

(3)古来より自らは中華の優位な立場にあると自尊し、日本は辺境の朝貢国・日本人を東夷とみなし、「小日本人」と蔑称する。

 それにもかかわらず日中戦争で侵略し、今日ライバル的地位にあることは許せないとの特別な反日的国民感情を有し、その強いナショナリズムから、日本を威圧し中華冊封体制に組み込みたい基本的衝動から抜けられないようだ。

 従って日本が中国と同じ地位の国連常任理事国入りなど初めから認めるはずがない。

(4)外交政策はもっぱら国益中心で国際信義等は眼中になく、国共内戦が不利となれば、抗日名目に国共合作を行い、有利と見ればその国府側を追討し、ソ連と同盟し資本主義帝国米国と対立したと思うと一転して、米国と組み恩義を受けたソ連に対抗するなど変幻自在だ。

 日中国交正常化共同声明と平和友好条約での、「主権・領土の相互尊重・相互不可侵・内政不干渉・平等互恵・平和友好・覇権反対の公約」、鄧小平の「尖閣の領海侵犯を二度としないとの言」、2008年6月の胡錦濤主席のからむ「東シナ海のガス田共同開発の合意」などのすべてを踏みにじっており、戦略的国境論で3戦(輿論戦・法律戦・心理戦)で戦いを挑む中国に信頼するだけでははなはだ危険だ。

(5)高い経済成長はなお続き軍事力がますます強大化し、政治外交力はいよいよ強まるであろうから、ますます日本単独でその圧力をかわすことはできない。尖閣問題・レアアースで中国が強硬方針を修正しようとしたのも米国が反応したためで、ますます日米関係を緊密にし与国との強い連帯の構築が必要となる。

(6)実効支配が最大の武器と考える中国は東シナ海の排他的経済水域(EEZ)の大陸棚延長論、ガス田の独占、尖閣諸島領有化の意図を今後とも放棄しないばかりか、より強い行動に出るであろう。

 同島付近には常時多くの中国漁船が操業しているようであるが、もし武装兵が乗船して突然上陸占領の挙に出ることもなしとしないだろう。

従って日本は日中国交正常化共同声明・平和友好条約の原則に立ち返ることを目標に、

(1)まず、政治外交などの政策万般にわたり安全保障体制を強化し、ハンディキャップ国家論を脱し、普通の国となり主張・発信する外交を展開するとともに国際的地位の向上に努める。

(2)軍事面ばかりでなく、政治経済文化面における交流を緊密にし日米同盟を一層強化するとともに、アジア諸国、環太平洋諸国との連帯を重視し、インド・ロシアとの関係を適切にしアジアの勢力均衡を図る。

 このためには為政者の安全保障感覚を刷新する。

三木武夫首相がG7で「SS-20」(ソ連の中距離核ミサイル、当時ソ連が東欧に配備し国際間の大問題になっていた)が話題の中心になったのにこれが全く理解できず、他国の首脳に資質を訝しまれ、鈴木善幸首相が「日米安全保障条約は軍事同盟でない」と発言し見識を慨嘆され、鳩山首相が「沖縄基地の抑止機能を初めて理解した」と言った無責任さにあきれられたが、これでは首相となる資格がない。

(3)グローバル化に対応して強い国際競争力を構築する。このためには内向き志向を脱し、視野の狭い農業保護主義を脱し、日本市場を開き、世界市場に活路を求める。

(4)対中国の基本方針は平等互恵を原則に米国と同様に、関与とリスクヘッジを併用する。この際、市場参入・資源輸入・投資・技術供与においてリスクに耐えられる限度を見極める。

(5)周辺における海空の監視警戒を厳重にし、日米共同防衛計画策定と演習の実施、自衛隊等の官憲を常駐させ、尖閣の実効支配を強化し、万一の場合の兵力投入能力を整備し、領土を守る固い決意を示し付け入られる隙をなくし、また東シナ海のガス田開発を開始するとともに領海法・要域警備法令を速やかに制定する。

結語
 いずれにしても、「神も人間も支配できる場合は何時でも支配する。それは本能からする必然」(古代ギリシャの歴史学者ツキディデス)であり、「人間が他を支配する傾向は個人から国家に至るまで人間の結びつきのあらゆる関係に見られる」(モーゲンソー)ことから中華思想で台頭する中国は支配意欲を益々強めてくるであろう。

 また「寛容や忍耐をもってしても人間の敵意を決して溶解できないし、報酬や経済支援を与えても敵対関係を好転できない」(マキァヴェリ)ことに鑑み、善意や道徳のみに頼らず、リアリズムに徹することが肝心だ。

 このため国の安全と繁栄を確保し外交上毅然とするには、「国際政治の本質は権力闘争」(モーゲンソー)で、「軍事力のない外交は楽器のない楽譜でしかな」(ゲーツ国防長官)く、「弱国に外交なし」の現実を認識して国防力を強化しなければならない。

 中国は日本の意思のほどを見ている。それには「日本は悪い国です。どうか皆さんの憐れみで生かして下さい」式の自虐史観に立つ卑屈な哀願懇情を捨て、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持する」憲法の理念がいかに空疎であるかを悟り、国家原理を立て直さなくてはならない。

西郷隆盛は「正道を踏み国を以って斃るるの精神無くんば、外国交際は全かる可からず。彼の強大に畏縮し、円滑を主とし、曲げて彼の意に順従する時は、軽侮を招き、好親却って破れ、終には彼の制を受けるに至らん」(西郷南洲遺訓17)と遺した。明治維新の元勲の教訓を忘れてはならない。

 付言:しかるに野党の政治家がこの戒めを忘れるなと迫ったのに対し、政府高官が言うべき資格もないのに「それはこれで道を誤った西郷の言だ」と妄言したことにはその高慢ぶりに驚きを隠し得ない。

 世界は「日中関係を歪めているのは日本が中国の銃口外交に威圧恫喝されて正当な立場を主張しないためだ」と言っている。

 我が国は危機管理体制を確立し、毅然として発言し、日中関係を、戦略的互恵関係ではなく共同声明、平和友好条約の主権領土の相互尊重・内政不干渉・平等互恵の対等の関係に立ち戻らせなくてはならない!

 このことは対ロシア政策についても同じである。

 助けてもらう米国には対等を主張し、公益を損ねんとする中国には屈従するでは話にならないし、国法を犯した者を釈放英雄とし、国民の知る権利に犠牲的精神を発揮した公務員を唯形式論で罰するのでは国民は納得できない。


櫻井よしこ 『週刊新潮』2010年11月25日号 日本ルネッサンス 第437回


中国の次なる飛躍への踏み台ともなる上海万博は、10月31日、6ヵ月間に7,307万人、大阪万博の6,422万人を超える万博史上最大入場者数を記録して終了した。中国政府は、万博は大成功だったと自賛し、「改革開放政策を進める自信と決意を強固に、平和発展と開放を両立させる道を歩み、世界各国と連携を深める」と発表した。だが中国の威信をかけて「成功」させた万博で、中国の異質さを象徴するような事件が起きていた。10月15日深夜、新潟県長岡市が持ち込んだ山古志村の錦鯉が毒殺処分されたのだ。

錦鯉を展示した髙野国利氏が詳細を語った。氏は42歳、山古志村で60年の経験をもつ父に学び、約20年間、錦鯉を養殖、現在、長岡市錦鯉養殖組合(以下組合)の青年部長だ。

「上海万博では生き物は展示出来ないそうですが、例外的に認められ、錦鯉を展示することになりました。今年5月頃、長岡市から話があって、準備に入りました。鯉は日本に持ち帰れないという条件でしたが、展示終了時点で中国の公共の施設か業者に贈ろうと、皆で決めました。経済的には大出費ですが、山古志と日本を代表するのですから、立派な美しい鯉を5匹選びました」

いまは長岡市と合併した山古志村は、山古志牛の産地であると共に錦鯉発祥の地としても知られている。6年前の中越大地震のとき、底が割れて水が抜けた池で多くの錦鯉が死んだ。人々はわが子を死なせてしまったように悲しみ、残された鯉を大切に育て、錦鯉養殖の伝統を守った。

その大切な鯉を中国に搬入したのが10月12日だった。日本側代表団は、組合の5名と『月刊錦鯉』の記者1名の6名だった。リーダーは野上養鯉場の野上久人(ひさと)氏である。一行は12日深夜に作業を開始、翌朝5時すぎには日本館催事場に水槽を完成させ、鯉を放ち、午後3時の開会式典後、一般公開した。野上氏が語る。


「病気があるため殺す」

「中には食べられるかと尋ねる中国人もいましたが、美しい鯉に、皆、感嘆の声をあげていました。催事場はテニスコート一面分程しかなく、そこに15日午後8時までの2日半足らずで2万6,000人が来て、身動き出来ないほどでした」

押すな押すなの2日半が過ぎ、15日の午後8時に展示が終わった。深夜までに片づけ、次に展示する京都の人々に明け渡さなければならない。そのとき、事件は起きた。

「中国人数人が突然入ってきて、我々以外全員を外に出し、バタバタッと水槽を取り囲みました。物々しい雰囲気の中で鯉を指して、『病気があるため殺す』と言ったのです。私は思わず言いました。『病気なんかない。入国のときにきちんと検疫を受け、中国側も認めたでしょう』と。しかし、いくら言っても、『病気だ』の一点張りです」と、髙野氏。

押し問答する内に全員、感情が高ぶり、髙野氏が言葉を荒らげた。

「『ふざけるな、何年もかわいがって、作り上げてきた鯉を(殺すなんて)、人道的じゃねぇ』と言ってしまいました」と髙野氏。

激しく言い募る氏を、仲間たちが止めた。「もう止せ」と言いながら、1人はボロボロと涙を流した。そのときだ、中国側が突然、水槽にドボドボドボと液体を注ぎ込んだのは。

「途端に鯉が痙攣し始めました。もう助けようがありませんでした」と髙野氏。悔しさと悲しさと屈辱で呆然とし、氏はその後、何をどうしたのかよく覚えていないという。

錦鯉を上海万博で世界の人々に見て貰いたいと考え、生き物は搬入不可のルールに例外を設けるよう尽力したのは長岡市長の森民夫氏だった。氏は、錦鯉は「長岡市、ひいては日本の宝」であり、「泳ぐ宝石」だと語る。中国人に素晴らしさを知ってもらい、鯉の販路拡大に弾みをつけたいと願っている。

鯉の一大産地の新潟は錦鯉の80%を欧米諸国やタイ、マレーシア、インドネシア、台湾などに輸出する。中国への直接の販路は築かれていないが、台湾、香港経由で輸出されてきた。森氏は、5匹の鯉はかわいそうだが、輸出の道筋をつける意味で、上海での展示は意味があったと語る。

長岡市は、上海万博出展は鯉を最終的に処分するという前提で行われ、契約書にもそう書かれていると説明する。殺処分は受け入れざるを得ない条件だったというのだ。だが、野上氏らは市の説明を否定する。

「殺すという前提はありませんでした。契約書も交わしていません。ただ、日本に持ち帰れないことはわかっていましたので、中国に残して、中国の人たちに可愛いがってもらえればよいと考えていたのです」

こう語りつつ、野上氏は言う。「かといって、私らは毒を入れた中国人を非難する気はありません。彼らは命令されたんでしょう。あとで彼らは電話をかけてきて、申しわけないと言ったそうです」


自衛こそ合理的な解決

謝罪の言葉を野上氏が本人たちから聞いたわけではなく、通訳から聞いたそうだ。客観的に見て、中国の官僚が政府の指示で行ったことを謝罪するとは考えにくい。だが、野上氏も髙野氏も伝え聞いた言葉を額面どおりに受けとめる。

「実は一連の様子はビデオにも写真にも撮ってあります。我々で、動画を公開するのがよいのか悪いのか、話し合いました。理事(野上氏)は公開しない方がよいとの考えでした。小さな尖閣問題みたいですね」と髙野氏は苦笑する。野上氏も語った。

「クスリを水槽に入れられた場面などを撮りました。けれど、もうそんなもの、見たくもない。思い出したくもない。大事な鯉を殺される映像を外に出して、摩擦をおこして中国と喧嘩したくない。我々は中国と親交を深めていきたいと願っているし、彼らもやがて、自分たちのやり方が相当おかしいと気づくでしょう」

新潟の人々のこの優しさが中国人に通じる日は来るのか。評論家の加瀬英明氏が石平氏との共著、『ここまで違う 日本と中国』(自由社)で指摘している。

「広大な国で、第二次大戦前の中国には、上海をはじめとして、多くの大富豪がいたのに、今日にいたるまで、西洋美術館が一つもない」

彼らは洋楽は好むが、美術においてはゴッホもセザンヌもルノワールも、広重も歌麿も横山大観も棟方志功も、認めない。中国美術以外に価値を認めないと加瀬氏は喝破する。

美しい姿で泳ぐ鯉の頭上に毒を振り撒くのは尋常ではない。この異常さは、日本人の感ずる鯉の「美しさやかわいらしさ」を感じとれないゆえではないのか。小さな生物への愛着を持ち得ないからではないのか。中国人の変化を期待して、鯉を死なせた悲劇を忘れるより、逆に未来永劫記憶して、二度と同じ目に遭わないように自衛することこそ、合理的な解決だと、私は思うのである。

田中均・日本総研国際戦略研究所理事長が緊急提言!

2010年11月30日 DIAMOND online

“座標軸”が定まった安全保障体制づくりを急げ!

日中間の尖閣問題に続き、足許では北朝鮮が韓国の領土を砲撃するなど、東アジアの緊張感がかつてないほど高まっている。従来とは異なるフェーズに入った周辺地域の脅威に対して、日本は新たな外交・安全保障の枠組み作りを迫られている。自民党政権で、長らく北米やアジア・太平洋地域との外交に携わり、「外務省きっての政策通」として知られた田中 均・日本総研国際戦略研究所理事長は、「座標軸」が定まらない政府に警鐘を鳴らす。田中理事長が説く次世代の外交・安全保障体制のあり方とは?(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 原英次郎・小尾拓也、撮影/宇佐見利明)

国の存続を懸けた戦いに打って出る北朝鮮への対応策!

――日中間で発生した尖閣諸島問題以降、日本を取り巻く東アジア地域でかつてないほど緊張感が高まっている。足もとでは、新たな濃縮ウラン施設を稼動させていることが発覚した北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が、韓国領土への砲撃に踏み切った。田中理事長は、アジア・大洋州局長時代に小泉首相の訪朝を実現させ、対北朝鮮政策に精通している。政府は北朝鮮問題に対して、どう対処すべきだろうか?

核開発というカードだけで生き残れなくなった北朝鮮の行動は、国の存続を懸けた戦いの様相を呈し始めている。まさに「貧者の脅迫」だ。

 現在、北朝鮮の政権内部で何が起こっているのか、正確には誰もわからないが、金正日総書記の健康状態や国内の経済状態が悪化しているため、「早く後継体制を固めたい」「時間的余裕がない」と焦っているのだろう。

 だから、こうした蛮行に出て「我々にはもう失うものはない。しかし、あなたたちにはあるだろう。失いたくなければ、交渉に応じろ」というメッセージを送っているのだと思う。

 日本がまずしなければならないことは、日米韓が一体となって隙を見せないことだ。そして、彼らを話し合いの席に着かせるために、北朝鮮と国交を持つ中国を引き込み、交渉の基盤を強化する必要がある。

月に起きた韓国哨戒艇沈没事件では、中国は明らかに北朝鮮寄りの対応をとった。今回は、明らかに北朝鮮に非があるのだから、彼らがこれ以上無謀な行動に出ないよう、中国に働きかけてもらうことが必要だ。拉致問題の解決は確かに重要だが、日本もそればかりにこだわらず、もっと視野を広げて各国と協調しながら、北朝鮮と対峙していくべきだろう。

 しかし、今の官邸が北朝鮮問題に対処できるか否かは、不透明だと言わざるを得ない。私はアジア大洋州局長時代に、小泉首相の訪朝を実現させるため、北朝鮮の代表者と25回あまり、官邸とは80回以上もやりとりをした。当時の経験から言えば、いくら官僚が政策を練る訓練や経験を積んでいても、政治のバックアップなくして政策を実現することは不可能だ。

今の日本は外交・安全保障の
「座標軸」が定まっていないように見える
――確かに発足当初から、民主党政権の外交・安全保障政策は、後手後手に回っている感が否めない。日米同盟に中国を引き込んで北朝鮮と対峙しようにも、尖閣問題を機に中国との関係は冷え込んでいる。そもそも、政府の外交・安全保障政策は、どこに問題があるのだろうか?

 はっきり言えることは、民主党政権は外交・安全保障政策に関する「座標軸」が定まっていないということだ。

 日本は長らく、貿易も安全保障も米国に依存してきた。今から数年前までは、「日米関係が基軸」という座標軸が比較的しっかり見えていたが、今や日本を取り巻く環境は様変わりしている。対中貿易量が対米貿易量を抜き、中国が世界で急速に台頭している。

 中国ばかりではない。世界の成長センターとなった東アジアは、世界でも特に変化が激しい地域だ。グローバル化が進んだ結果、インド、ベトナム、インドネシアなどの国々も、発言力を飛躍的に伸ばしている。一方で、北朝鮮のような国の脅威も日に日に増している。現政権は、こういった変化に対応できていない。

 だからといって、「米国依存の体制から脱却すればよい」という単純な話ではない。東アジアで不安定な要因が増えている今、日本と強固な安全保障体制を築いている米国との関係強化は、むしろこれまでにも増して重要になってくるはずだ。

本来、日本はそういった周辺環境の変化を睨みながら、米国から東アジア諸国まで、全てを視野に入れた新たな外交・安全保障の絵図を描かなければならない。

 にもかかわらず現政権は、米国との普天間基地移設問題にしても、中国との尖閣問題にしても、場当たり的な対応を続けているように見える。

――政府の外交能力に対して本格的に批判が噴出したきっかけが、日中間の尖閣問題だった。この事件をどのように総括するか?

 政府は、外交・安全保障の座標軸が定まらないために、「中国とどう向き合うか」という基本的な戦略を持たないまま、対応してしまった。外交は、一度決めた座標軸からあまりブレない範囲で対応していくのが基本中の基本。しかし、局面が変わる度に国民感情や中国の反応に左右され、方針が大きくブレた。外交面から見れば、最もマズい対応だったと思う。

 これまでの政権では、中国人や中国船が尖閣諸島に侵入すれば、現行犯逮捕をした上で、送検せず国外退去させるのが、典型的なパターンだった。尖閣諸島は中国が棚上げしてきた問題だっただけに、国内世論に火をつけて中国側の主張を強めることは、得策ではないと思っていたからだ。

一貫性を欠いた外交は足もとを見られてしまう!

 今回日本は、海上保安庁の巡視艇に衝突した中国漁船の船長を、公務執行妨害で逮捕し送検した。中国の反応は十分予測がついたはずなので、これを受けて立つ覚悟があったのなら、断固とした処置をとってもよかったと思う。

 しかし、中国側の圧力が高まると、拘留期間を残したまま釈放してしまった。これはどう考えても、一貫性に欠ける対応だった。中途半端に騒ぎ立てることによって、むしろ中国側の感情を悪化させ、足もとを見られてしまった。

 このような事態が続いている最大の原因は、やはり現政権の「座標軸」が定まっていないためだろう。

――日本の外交・安全保障政策が、中国に対してこれまでの「座標軸」を失ってしまった背景には、どんなパワーバランスの変化があるのか?

 第一に、アジア一の成長国となった中国に対して、日本が「テコ」を失いつつあることが挙げられる。今や中国にとって、日本だけが重要な経済パートナーではなくなっている。

 日本はこれまで、円借款を含む政府開発援助、WTO参加への後押し、G7やG8へのオブザーバー招致などを通じて、中国を最もバックアップしてきた国の1つだった。その意味では、これまで中国にとって日本はなくてはならない存在だったと言える。

 しかし今や、パートナーシップを組む国の「選択肢」はいくらでもある。事実、日中関係が尖閣問題で冷え込んでいるときに、欧州諸国は中国で大型の商談をいくつもまとめている。

 尖閣問題における日本への対応が、極めて強硬だったことを考えても、日本の中国に対する「テコ」は確実に失われつつあると言える。

中国の対外政策の影響を最も受けやすいのは日本!

 第二に、中国が「物理的な力」を伸ばしてきたことだ。中国の軍事費は毎年2ケタ増を続けているが、その背景には海軍力の近代化、東シナ海のガス田や南シナ海の海洋資源の確保といった目的がある。

 中国は、所得格差や政治問題など、国内に多くの不安要素を抱えている。インターネット人口が爆発的に増えて情報が流通するようになった今、民衆の不満は大規模なデモにつながりやすい。そうなると、国内で高まるナショナリズムを吸収する意味でも、外に求心力を求め、より強硬な外交姿勢をとらざるを得なくなる。日本は地政学的に、そうした中国の強硬な姿勢に最も晒されている。

 第三に、同時に中国との提携なくして日本経済が成り立たないほど、日本が中国依存を深めていること。この傾向は、将来ますます顕著になっていく可能性が高い。


――米国との関係強化が重要になってくるということだが、中国をはじめとする東アジアの脅威に対処するに当たって、現在の日米同盟では不十分だろうか?

 日本が安全保障の枠組みを確立したのは、1960年の改定日米安全保障条約だった。冷戦下において、日本に対する米国の防衛義務を明確化する代わりに、日本は米国に基地を提供してアジア地域の抑止力とした。これに基づき、日本の防衛力が増強される時代が長らく続いた。

 次に冷戦後の新たな枠組みを規定したのは、橋本政権とクリントン政権が合意した、1996年の日米安全保障共同宣言。そこでは、中国や北朝鮮といった東アジアにおける不確実性、テロや大量破壊兵器の拡散といった新しい脅威に対抗するためのガイドラインが決められ、日本が果たすべき役割が拡大された。

 今後は、もう一度こういった「見直し」をやる必要がある。96年の時点では、中国をはじめとするアジア諸国の勢力図がここまで変わるとは、誰も想定していなかった。

日米安保の見直しを行ない東アジアの情勢に対応せよ!

 2010年は、ちょうど60年安保から50年目となる節目の年。この機に外交・安全保障の見直しをやるべきだったが、それができなかった。日米両国政府は、来年の春から夏にかけて安保共同宣言を発出するとしているが、ぜひ腰を据えてやってもらいたい。今からでも「too late」(手遅れ)ではない。普天間などの短期的な問題を追求して抜本的な見直しをやらなければ、諸外国との関係はますます混乱するだろう。

――しかし、米国の日本に対するスタンスも、玉虫色になっているように思える。オバマ政権は、過去の米政権と違い、発足当初から中国に対してソフト路線をとってきた。中国リスクが高まった尖閣問題後は、経済提携に協力的なインドに擦り寄る場面も見られる。このような米国の動きを、日本はどう見据えればよいのか?

 共和党のブッシュ前大統領は、二期目からイラクや北朝鮮に対して極めて厳しい態度をとった。それは中国に対しても例外ではなかった。その一方で、同盟国との関係は以前よりも強化してきた。

発足当初のオバマ政権が掲げた外交・安全保障の方針は、それに対する「アンチテーゼ」の意味合いが強かったと言える。イラク戦争を否定し、諸外国に対してはパートナーシップによる外交を軸とした。それによって、日本との距離が多少遠くなり、中国との関係が近くなったかのように見えた。

 しかし、先の中間選挙で共和党が記録的な勝利を収めたこともあり、対外政策にも変化が出よう。失業率が高止まりする米国内では、「自分たちの仕事を奪っているのは人民元を安く抑えている中国だ」と批難する保守層も台頭している。そのため、今後は中国に対してより厳しい態度をとっていかざるを得ないだろう。

 とはいえ、もはや米国が自国の力だけで新たな脅威に対応するのが無理であることは、オバマ大統領自身も気づいているはず。今後は、アジア地域でインド、韓国、ベトナム、インドネシア、オーストラリアなどとのパートナーシップ作りに力を入れていくことだろう。

 むろん、その過程でカギとなるのは、米国の前方展開を安定的に維持するために必要不可欠な日米関係の強化に違いない。だが目下のところ、「民主党政権が何を考えているのかわからない」というのが、米国のホンネだろう。来年予定されている新たな共同宣言作りは、その意味でも極めて重要だと思う。

米国の抑止力を安定的な基盤に置き東アジアの「新たなルールづくり」を!

――日本が日米同盟を強化するにあたり、どのようなポイントが重要になるだろうか?

 第一に、日米による抑止力を安定的な基盤に置くこと。米国にとって、「沖縄でいつ反基地闘争に巻き込まれるかわからない」という現状は、抑止力を著しく貶めてしまう。その意味においては、すぐには無理かもしれないが、普天間問題をできるだけ早く解決する必要がある。

 第二に、旧ソ連とは性質が違う中国に対しては、「囲い込み政策」ができないこと。中国とは、うわべだけ仲良くするのではなく、東アジアを巡る軍事体制のあり方についてよく議論を行ない、日米中の三ヵ国間で「信頼感」を醸成すべきだ。

互いに信頼を深めるためには、対話だけでなく、災害時における援助、海難救助、航行の安全保障などについて、協力体制を構築することも有効だ。外交・安全保障の体制が違っても、各国が利益を同じくして協動できることは、実はたくさんある。うまくいけば、東アジア全体に共同オペレーションを広げていくことも、不可能ではない。

 そして第三に、利害関係者間におけるルール作りを日米共同で進めることだ。現在、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が脚光を浴びているが、私は同時並行的に東アジアでのルールづくりをやるべきだと思う。こういった体制作りは、後々外交・安全保障の協調体制につながる可能性もあるからだ。

――民主党政権は、今後こういった新たな外交・安全保障の体制作りを進めることができるだろうか?

 今のままでは難しいだろう。障壁になっているのは、第一に民主党が掲げる「政治主導」の考え方だ。それにより、官僚が積み上げてきた過去のノウハウが、政策に反映されない状態が続いている。

 官僚は政策の土台作りをやって、政府をサポートすることはできる。だが、あくまで政策立案のプロフェッショナルに過ぎず、政策実行の結果責任をとれるのは政治家である。したがって、適切な政官の役割分担をする必要がある。

外交で何より大事なのは相手国とのコミュニケーション!

 官僚にも政治家にも求められるのは、コミュニケーションを通じて相手国との信頼関係を築くことだ。しかし政府は、民主党政権下でコミュニケーションを重視した関係作りができなかった。その影響は、普天間問題に端的に表れていると言える。

 中国との尖閣問題においても、そういった対応のツケが回ってきたと言えないだろうか。尖閣問題では、事態が悪化してから慌しく中国とコミュニケーションをとろうとして、足もとを見られてしまった。そうこうしているうちに、その間隙を縫って、ロシアのメドベージェフ大統領に北方領土の土を踏ませてしまった。こういった事態を考えると、「外交の空白」が起きていることは明白だ。

官僚も、「途中ではしごを外されたらたまらない」と思えば、動けなくなる。政治に対する万全の信頼がなければ、やはり事務方もリスクはとれない。現政権では、まさに政府と省庁との間で「縮小均衡」が起きていると言えまいか。

腰を落ち着けて政策を練ることは今からでも「too late」ではない!

 第二に、政府内でも外交・安全保障政策に横断的に取り組む体制が整えられていないこと。専門家などの外部の血も入れながら、官邸に外交の戦略機能を持たせ、「オール・ジャパン体制」で臨むべきだ。現在の体制には、限界があると思う。

 事実、政権交代時には、過去の外交・安全保障政策について、「どの部分を踏襲してどの部分を整理するか」さえ、よく議論されていなかったフシがある。同じ政権交代でも、過去の細川・羽田・村山政権は、基本的に自民党の外交・安全保障政策を踏襲していた。

 これは、ノウハウに乏しい野党の寄せ集めだったため、官僚に依存するしか方法がなかったこと、政権内に元自民党の有力者が多かったことなどの理由による。とりわけ村山内閣は、事実上の自民党政権だったため、自党の方針まで変えて過去の政策を踏襲した。

 それに対して民主党は、戦後初となる本格的な政権交代を実現したものの、「アンチ自民」を打ち出し過ぎて過去の政策を充分吟味しなかったため、混乱しているように見える。今後は、腰を落ち着けて現実的な政策を練るべきだ。

 2012年は、中国の指導者交代、米国と韓国の大統領選など、世界の外交・安全保障のあり方に大きな影響を及ぼす出来事が相次ぐ「節目の年」。明年は、それを見据えた準備期間の年にしなければならない。

 民主党政権がここで本腰を入れないと、日本の外交・安全保障づくりは本当に「too late」(手遅れ)になってしまうだろう。

恐るべき戦略の才を持つ金王朝の“最終目的”

DIAMOND online 2010年11月30日 真壁昭夫 [信州大学教授]

11月24日、世界を震撼させるニュースが流れた。北朝鮮軍が、韓国領内の民間人が住む島に向かって多数の砲弾を撃ち込んだのである。それをきっかけに、一時世界の株式市場が軟調な展開になるなど、金融市場も大きく揺れた。

 なぜ今、北朝鮮はそうした暴挙に出たのだろうか? もともと北朝鮮の行動は、我々の常識の範疇を越えている。つまり理解不能なのだが、その謎を解くためには、北朝鮮の金日成、金正日、金正恩と続く、“金王朝”独裁体制が見据える「最終的な目的」を理解する必要がある。

“金王朝”が目指すものは、世界の覇権国である米国に、自分たちの地位安泰を保証させることだ。つまり、米国との平和条約を締結することによって、米国が北朝鮮を攻撃しないことを保証させると同時に、核開発放棄と交換に経済援助を取り付けようと考えていると見られる。

 ところが現在、米国はイランやアフガニスタン問題に意識が集中しており、北朝鮮問題は後回しになっている。米国の意識を自国へ向かせるために、“金王朝”は色々な手段を講じている。それが核開発施設の建設であり、今回の暴挙と考えられる。

 今のところ、わが国には直接の脅威とはなっていないものの、弾道ミサイルや拉致問題などを考えると、必ずしも「対岸の火事」とばかりは言っていられない。領土問題で中国やロシアが「前門の虎」とすれば、北朝鮮は「後門の狼」になることも懸念される。

常識を超えた暴挙を可能にする北朝鮮の地政学的な重要性!

 北朝鮮は、地政学的に極めて重要な位置にある。世界地図を広げてみると、それがよくわかる。北朝鮮は、覇権国である米国の勢力と、中国・ロシアの勢力が睨み合う最前線に位置している。

米国サイドの最前線は韓国であり、中国・ロシア側の最前線は北朝鮮ということになる。北朝鮮は、まさに「世界の軍事バランスの十字路」に位置している。

 かつて韓国と北朝鮮は、朝鮮戦争で実際に戦火を交えている。つまり、自由主義圏の代表と、旧共産圏の代表として戦った経験がある。しかも朝鮮戦争は、現在休戦条約が締結されているだけで、戦いを一時止めているだけの状況なのである。

 そのため、韓国・北朝鮮とも極度の臨戦態勢を敷いており、今までにも何度も小規模な戦闘が勃発した経緯がある。

 北朝鮮自体の経済力・軍事力はそれほど大きくないのだが、問題はその後ろ盾に中国やロシアが控えていることだ。これまで、国連の安全保障理事会において北朝鮮に制裁を科することが何度も議論されたが、その都度中国などの反対でうやむやになってきた。

 米国やわが国を含めた関係6ヵ国の協議の場でも、北朝鮮は中国などの後ろ盾を巧みに使って、世界の常識から大きく逸脱する行動をとってきた。今回の暴挙の背景には、「米国も中国も朝鮮戦争を繰り返したくないはず」とのしたたかな読みがあることは、間違いない。

“金王朝”の独裁体制が続く限り、北朝鮮は極めて扱い難い国であり、わが国にとっても大きな弊害が及ぶ可能性が高い国家ということになる。

巧妙な対外戦略と焦りが入り混じる“金王朝”の視線の先にあるもの!

 世界の歴史を振り返ると、独裁政権は必ずいすれかの時点で打倒されるものだ。おそらく独裁者自身も、それを理解しているケースが多いのだろう。そのため、独裁者の多くは巧妙で、戦略的な才能に長けている。

 特に国の規模が小さく、隣国からの脅威に晒されやすい場合には、そうした傾向が見られる。北朝鮮の“金王朝”も、1つの典型例と言えるかもしれない。

軍備拡張に多くのエネルギーを割くあまり、工業や農業の進歩が遅れており、国全体の実力では周囲の大国と比較すべくもない。ところが、地政学的な重要性を巧妙に使いながら、相手国の足元を見透かすような戦略においては、それなりの優位性を持っている。そのしたたかさは、時に米国や中国ですら手に余るものがあると言われている。

 もう1つ忘れてはならない要素がある。それは、金正日の健康状態だ。今でも体の一部が不自由と言われる金正日の状況を考えると、三男である金正恩に権力を継承する時間が限られているのである。

 最高権力者の三男とはいっても、正恩はまだ20代の若さだ。権力闘争渦巻く環境の中で、果たしてどれだけの実力を示すことができるだろうか。そこには疑問符が付く。

 具体的に、「権力継承について軍部からかなりの抵抗があった」と言われていること1つとっても、限られた時間内に充分な権力継承を行なうことは、容易ではないはずだ。大きな焦りが生じていることは、想像に難くない。

 それが、韓国艦艇に対する魚雷攻撃や、今回の砲撃に結びついたのだろう。今後も“金王朝”の焦りから、様々な憂うべき事態が引き起こされる可能性が高い。我々も、それなりの覚悟を持っておくべきだ。

前門の中国と後門の北朝鮮瀬戸際に立つ日本の安全保障!

 北朝鮮は、米国からメリットを引き出すために、これからも色々な騒ぎを起こすだろう。ただし、自国が本格的な戦争に巻き込まれるような「愚」は犯さないはずだ。ギリギリのところで止める、いわゆる「瀬戸際戦力」を採ることだろう。


一方、もう少し視野を広げてアジア情勢を見ると、状況はかなり異なる。最大のポイントは、何と言っても中国だ。中国の覇権主義的な行動は、今後一段とエスカレートすることが予想される。なかでも、わが国が最も影響を被るだろうことは、中国が「海洋国家」へと変身しつつあることだ。

 今まで、中国は「典型的な大陸国家」といわれてきた。ところが、最近の海軍力の強化には目を見張るものがある。潜水艦の保有数では、すでに米国を凌駕しているほどだという。

 もちろん、いまだ運用面では米中間に歴然とした差があるものの、米国を追いかける速度は半端ではない。海軍力の増強は、結果的にわが国やベトナムといった近隣諸国との領土問題につながる。尖閣諸島問題は、その一例と考えられる。

変容を続けるアジアの勢力図日本は今のままでは相手にされない?

 問題は、中国を中心にアジアの勢力図が大きく変化しようとしているとき、わが国の外交が、その変化に対応できるか否かだ。先の尖閣諸島問題では、民主党政権の外交手腕は稚拙極まりなかった。

 その程度の外交手腕しか持ち合わせない政権では、これからのアジア情勢の変化に十分に対応することは期待できない。わが国は、しっかりした自分のスタンスを持つことが必要だ。

 具体的には、日米安全保障条約の意味を、再度政治が問い直すべきだ。それを基礎にして、明確に自国の意見を主張すればよい。相手国の顔色ばかりうかがっていては、軽んじられることは避けられない。外交の専門家の力を借りることも、躊躇すべきではない。

 ある外交専門家は、「今のような素人外交では、他の国からまともに相手にされない」と指摘していた。とても心配である。

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