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2010年12月15日(水) 現代ビジネス

 役員報酬が一番多かったのは、日産自動車CEOのカルロス・ゴーン氏で約8.9億円。ただこれ以上に高額の配当収入を得ている人がいる。配当金調査でわかった、「隠れお金持ち」を紹介しよう。

配当収入が報酬の20倍以上!

 今年から始まった高額役員報酬開示。3月に決算を迎えた企業から順に、「1億円プレイヤー」たちの名前が続々とあがっている。先日は、ユニクロを率いるファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏の役員報酬が3億円であることが明らかになり、世間の話題をさらった。

 しかし実は、役員報酬だけを見ても本当の億万長者が誰かはわからない。ケタが違う額の配当金をもらっている人が、ゾロゾロいるからだ。

 早稲田大学商学部准教授の久保克行氏が言う。

「たとえばユニクロの柳井正氏は役員報酬こそ3億円ですが、ファーストリテイリングの株式を2800万株ほど持っている。直近の有価証券報告書によれば、同社の年間配当金は230円。単純計算で役員報酬の20倍以上、約65億円の配当収入を得ていることになるのです。

 もちろん配当というのは企業業績が悪化すれば無配(配当金ゼロ円)になることもありますが、そうでなければ一株あたり数十円から1000円台の額が出る。100万~1000万株ほど持っていれば、億ものおカネが手元に入ります。それに配当収入は株式を手放しさえしなければ、ほぼ毎年入ってくる。つまり、配当収入は役員報酬より安定した高収入源だともいえるのです」

 本当の億万長者は、役員報酬ではなく配当収入を見て、初めて分かるということ。

 では、1億円以上の配当収入を得ているお金持ちたちを紹介しよう(以下、配当収入は直近の通期有価証券報告書から判明した配当金・持株数から単純計算で算出した)。

 断トツに高額の配当収入を得ていたのは、任天堂相談役の山内溥氏。

 約1400万株を持つ同社の筆頭株主であり、年間配当金が930円なため、配当収入はざっと131億円となった。

「創業一族の3代目として弱冠22歳で社長業を継いだ後、ファミリーコンピュータやゲームボーイを生み出したカリスマ経営者です。長者番付の常連でもあり、『Wii』が大ヒットした'08年には、米経済誌フォーブスが選ぶ『日本の富豪40人』でトップになっている。ちなみに同誌が試算した、山内氏の総資産額は約8100億円です。

 任天堂は米メジャーリーグのマリナーズの筆頭オーナーで、イチローが年間最多安打を達成したときには、5000株(当時5800万円相当)をプレゼント。行きつけにしていた京都大学医学部附属病院が老朽化しているのを気にかけ、『京大病院にふさわしい病棟を建ててほしい』と私財75億円をポンと寄付したことでも有名です」(任天堂関係者)

 そんな山内氏の自宅は、京都市東北部の左京区内に建っている。江戸後期に建てられたというが、大きな中庭が広がっている趣のある邸宅のようだ。

'05年に京都府から功績をたたえられて特別感謝状を贈られる際には、山内氏が眼病の手術前で式典に出席できなかった。そのため、わざわざ当時の知事がこの自宅を訪れて直接手渡したという逸話もある。

60億円分の株を無償で配る!

 同じく昭和に大活躍した経営者、現在はセブン&アイ・ホールディングスの名誉会長である伊藤雅俊氏も約10億円もの配当収入を得ている。保有株数は約1900万株で、配当は56円だ。

 創業一族として'56年から経営を担い、高度成長にのって事業を拡大させた、日本の小売業の礎を築いた人物である。

「今年の9月、伊藤雅俊名誉会長ら創業家がセブン&アイ社に70億円の寄付をしたことが明らかになっています。その理由は、従業員の研修施設をつくってほしいというもの。かつては総額で時価60億円ほどにあたる同社株を、士気高揚のためとして幹部社員ら5000人超に無償で配ったり、先端研究などを支援するための財団を米国に設立、私財約8億円を出したこともあります」(大手小売企業幹部)

 全米小売業協会(NRF)から功績が評価されたことがある一方で、総会屋に現金を供与したとされる商法違反事件の責任をとって、社長を辞任した経歴('92年)も持つ。とはいえ3年後には取締役名誉会長へ"復帰"。

 会社側から「グループ統合の象徴として働いてもらう」と言われるほどの歓待ぶりには、大株主としての影響力が垣間見える。

 配当収入10億円超という猛者は、ほかにもユニクロの柳井氏、それにソフトバンク社長の孫正義氏がいる。

 前述の通り、柳井氏の配当収入は65億円ほど。しかも、'08年度には配当金が160円だったので配当収入が45億円ほど、'07年度は同130円で約36億円となっている。この3年間で合計150億円近くの配当収入を得ているのだ。

「柳井氏の自宅は渋谷区内の高級住宅地にあります。'00年に80億円ほどで8000m2以上の敷地を落札。そこにゴルフ練習場、テニスコート、茶室も備えた豪邸を建てた。ちなみにフォーブス誌によれば、柳井氏の資産は約5700億円です」(前出・幹部)

 同じく港区の高級住宅地に豪邸を構える孫氏は、約2億2000万株(全体の約21%)の株式を所有。ソフトバンク株の配当金は5円と高くないが、莫大な数の株式を持っているため、11.4億円ほどの収入を得ている。孫氏の役員報酬は約1億円、配当収入とあわせれば年収は12.4億円になった。

パチンコ機器・ゲーム機器などを製造販売するセガサミーホールディングス会長兼社長の里見治氏も10億超えを達成している。

 同社の筆頭大株主として約4300万株を保有。年間配当金は30円なので、配当収入は13億円ほどとなった。役員報酬も約4.3億円と高額なため、年収は17億円超。

 ただ、里見氏がここまでたどり着くには紆余曲折があったようだ。

「里見氏は学生時代からバーを経営するなど、根っからの起業家人間。青山学院大学を中退後には、ゲーム機器販売会社を興すも、失敗。その後に勤めた父親の会社も倒産するなど苦境続きでした。そんなときに満を持して始めた『サミー工業』で、パチンコ・パチスロ機の製造販売が大当たり、これをきっかけに浮上して一大メーカーにのし上がったのです。

 '03年にはセガを買収、堅実経営で業績を拡大させ、いまでは4000億円ほどの売り上げをたたき出している。里見氏は馬主としても知られていて、『サトノ』『サミー』といった言葉を名前に入れた競走馬を多く走らせてもいます」(全国紙経済部記者)

 堅実経営で知られる里見氏だけに、自宅の立地に派手さはない。広い邸宅が並ぶエリアだが、お世辞にも超高級住宅地とはいえない。ただ、敷地は広大で、その豪邸は、堂々とした門構えが圧倒的な存在感を出している。

 興味深かったのは、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏。同社が公表している1億円以上の報酬がある役員に入っていなかった上、今年1月に日本航空会長に就任した際には、「無給で働かせてもらう」と発表し、話題となった。

 報酬ベースで見ると金持ちとはいえないわけだが、680万株を保有する京セラ株から得られる配当収入は約8.1億円もの額になる。「隠れたお金持ち」といえるだろう。

このほかに1億円以上の配当収入を得ている主な人物は以下の通りだ。

■スクウェア・エニックス名誉会長の福嶋康博氏→約8.2億円
■日本電産社長の永守重信氏→約7.7億円
■グリー社長の田中良和氏→約5.6億円
■大東建託会長の多田勝美氏→約4億円
■アートネイチャー会長兼社長の五十嵐祥剛氏→約1.8億円
■マツモトキヨシホールディングス会長兼CEOの松本南海雄氏→約1.7億円
■コーセー会長の小林保清氏→約1.1億円

 五十嵐氏以外はみな創業者か創業者一族だ。配当長者になるには大量の株式を保有することが条件となるため、やはり名前があがるのは莫大な株式を所有する創業者やオーナーたちとなっている。

 業種別に見ると、パチンコ関連業種からはSANKYO会長の毒島秀行氏(約4.6億円)、藤商事社長の松元邦夫氏(約4.3億円)、フィールズ会長の山本英俊氏(約3.9億円)などが多くの配当収入を得ているという特徴も見られた。

 ちなみに、約8.9億円の役員報酬を受け取り、「高額役員報酬ランキング」トップに立つ日産CEOのカルロス・ゴーン氏の場合、配当収入はゼロ。経営悪化を受けて、同社が'09年度に配当金を支払わなかったためだ。

 一方で、ランキング3位に入った大日本印刷社長の北島義俊氏は、役員報酬約7.8億円に加えて、配当収入を1.8億円ほどもらっている。合計すると9.6億円ほどで、ゴーン氏の年収を超えた。

「とはいえ、ゴーン氏は日産株を300万株ほど保有。同社は'08年度に11円、'07年度に40円の年間配当を支払っているので、二年間で合計1.5億円ほどの配当収入をもらっています。

 単年だけ無配にする企業は多い。お金持ちが誰なのかを見極める際には、継続的にどれくらいの配当が支払われているか気をつけて見て欲しい」


(前出・経済部記者)


税金で半分ほど取られる!

 そもそも株式を買ったことがない人には、配当金はまったく縁のないもの。配当金はどうやって決められるのだろうか。

 大阪市立大学大学院教授の石川博行氏が言う。

「1株当たりの当期利益に対してどれくらい配当するかを決めている会社が多いのですが、ほかにも最低額を保証している会社、そもそも基準を明示していない会社など色々あります。基準を示していても、リーマンショック後に利益が激減し、これを変更する企業もたくさんあった。実質的に取締役会で決定されるもので、こうしなければいけないという規定はありません。

とはいえ、リーマンショック後でも上場企業の8割ほどが配当を支払っていることからわかるように、日本企業は世界にくらべてきちんと配当を支払い続ける慣行が強い。不況になっても減配しないで配当額を据え置く企業が多いのも、特徴といえるでしょう」

 こうした事情をとらえて、会社の資産を食い潰してまで、株式を多く保有するオーナーのために配当を維持しているのではないかとの批判が出ることもある。しかし、それは見当違いである。

 石川氏が続ける。

「米国では、投資家が株式価値を評価する上で配当はあまり重視されないのと対照的に、日本では利益と同程度以上に大事なものとして見られています。そのため、減配したり、配当をストップしたりすると、大きく株価が下落し、株主の利益を多く毀損することになります。

 そもそも配当は、基本的には業績と連動して決められる性格が強いため、オーナーは自社株を持っていることで、利益を上げ、株価を上げるモチベーションが高まる。ある実証研究では、株を持っている経営者のほうが持っていない経営者より、高い業績を出すという結果もでています。そして配当が上がれば、株主も喜ぶ。そんな好循環が生まれるのです」

 ちなみに、上場株式から得られる配当収入については、現在、10%の源泉徴収税率が適用されるだけで、確定申告は不要(ただし、平成24年1月1日以降は20%の源泉徴収税率に戻される)。1000円の配当収入があれば、100円を税金で取られるだけで済むということだ。

 しかし、発行済み株式総数の5%以上を保有する個人株主の配当収入には、この優遇税制は適用されない。さらに確定申告が必要なため、見てきたような大株主となれば、所得税の最高税率である40%が適用となる。そのほとんど半分を税金に取られてしまう。

 配当金長者といえども、濡れ手で粟で儲けているわけではない。積極的にリスクを取って、さらに企業を成長させ続ける。そんな努力があって初めて億万長者に近づけるということだ。



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天下り先の復活に、民営化つぶし!

2010年12月13日(月)現代ビジネス 高橋洋一


 民主党は12月12日投開票の茨城県議選で、推薦1人を含めた24人のうち当選が6人にとどまった。菅政権の支持率が下落し、地方選でも極めて厳しい結果が続いている。そんな中、政局が話題になっている。新聞の紙面には連日、小沢国会招致、大連立の言葉が踊っている。

 テレビや新聞はいまごろになって騒ぎ立てるが、こうした動きは公開情報を丹念に追うことによって予見できる。私は3週間前に、このコラムで「丹呉元財務次官の人事、菅・与謝野会談の裏側でくすぶる『増税大連立』」を書いた。そのとおりの展開になっていている。

本来、この12月は国会がなく、民主党も野党から攻められない。国民生活に直結する来年度予算のために、良いところを見せられるはずだが、なにしろ来年の通常国会を乗り切る自身がない。そこで、菅政権は、社民党との復縁、公明党への擦り寄り、さらには大連立を含むあらゆる国会対策を弄している。

 これらの動きに出てくる人物の名前はあえて挙げないが、権力の魔力にとりつかれた亡霊、妖怪のような政治屋たちばかりだ。一方で、こうした政局騒ぎを横目にちゃっかりと保身をはかっているのが官僚だ。

たとえば、国際協力銀行(JBIC)の復活だ。政府は10日、インフラ輸出の促進を検討する関係閣僚会合を開き、日本政策金融公庫から国際金融業務部門のJBICを2011年度にも分離・独立させるとした。


政策金融は、小泉政権当時の2005年、民業圧迫であるとともに、霞ヶ関の官庁ごとの天下り先になっているということで、政投銀や商工中金は完全民営化、残りは政策として必要な分野を残して一つ(日本政策金融公庫)に統合化された。

その結果、財務省は、政投銀は完全民営化、JBICは、円借款部門は国際協力機構(JICA)へ、国際金融部門は日本政策金融公庫へ統合された。政投銀とJBICのトップはともに財務省歴代次官経験者が天下る最高級ポストである。そこで、他省の政策金融機関とは別格という意味で、両方とも「銀行」という名称にしている。その戦艦「大和」と「武蔵」を同時に失ったのだから、財務省の怒りはすさまじかった。

 この政策金融改革を内閣府で担当していた私は、当時、財務省幹部に「タカハシは三度殺しても足りない」といわれたとか。

政府系金融機関の完全民営化は反故に!

 統合化のメリットは、天下りポストを減らすとともに、産業間・国内外をシームレスにする。さらに、細分化された機関でそれぞれ資金調達を行うのではなく一元化された機関で行う方が効率化ということはあまり前だ。

 霞ヶ関の主張では、産業ごと、国内と国外の区別が重要とのことだが、そんな区分けして経営する金融機関などない。さらに、その当時の政策金融改革では、もし政策金融が必要だとしても、霞ヶ関官庁がそれぞれ自前の金融機関を持ち、資金調達から直接融資までフルセットで政策金融を行うのではなく、民間金融機関の融資を活用して、その融資に部分保証を付すなどの民間金融ベースの政策金融を行うというスキームも作られている。

 要するに、日本政策金融公庫で十分であり、それでも不足するときには、新たな天下り先を作らなくても、民間金融機関ベースに政策金融ができるようになっている。

ところが、民主党政権になってから、政投銀や商工中金は完全民営化は反故にされた。さらに、ここにきて、政局でドタバタしているときに、JBICの復活である。これは、単にポストを復活されるだけである。

おそらくその批判に対して、トップ(だけ)は民間人にするという対案を霞ヶ関は用意するはずだ。しかし、実態は政投銀の時のように、形式的には民間人をトップとするが、ナンバー2には役所からの天下りになる。それで、実権は握れるからだ。

こうした復権の話は霞ヶ関中にすぐ伝わる。財務省が得するのだから、経産省も黙っていないだろう。すでに、独立行政法人の日本貿易保険(NEXI)についても機能強化の話がでている。

これは、10月末に行われた事業仕分け3弾での無様な結果を引き継いでいる。貿易再保険特会で行われていた貿易再保険は、NEXIに統合となったが、これは完全に役人に丸め込まれた結果だ。

 そもそも再保険と保険と二階建てになっており、もともと国営貿易保険を、再保険は国、保険は民間とするために2001年の省庁再編時に、再保険は経産省特会、保険はNEXIで独立行政法人と決めた。さらに渡辺喜美行革大臣の時、NEXIは民営化(特殊会社化)となった。

経産官僚は大喜び!

 それを今回の事業仕分けで、その方針をひっくり返し、2001年以前に逆戻りとなった。再保険と保険がともに独法でひとつになって、2001年以前の姿に戻ったのだ。これだけでも、経産官僚にとっては大勝利であるが、その上に焼け太りで、業務拡大が図れることになった。

 こうなると、NEXIとライバル関係にある民間保険会社は貿易再保険を受けてもらえなくなる。ますます民業圧迫になる。環太平洋パートナーシップ(TPP)は日本に不可避だが、こんなことでは保険分野での貿易不公正と認定されてしまうだろう。

さらに、独立行政法人の日本貿易振興機構(JETRO)でも、この動きに便乗して組織強化に乗り出すだろう。4月の事業仕分けで、経産省現役官僚の指定席となっているジェトロ海外事務所への出向も、原則廃止とされたからだ。この指摘が正しいことは霞ヶ関では誰でも知っている。しかし、この機に乗じて、反転攻勢に出てくるだろう。

こんな官頼りの体制では、官僚が喜ぶだけで、日本はますます世界から取り残される。政権を担う民主党は、政局騒ぎどころでないはずだが。

「会計のプロ」が分析!

2010年12月14日(火) 現代ビジネス 会計評論家 細野祐二

 12月3日に臨時国会が閉会し、予算の季節がやってきた。これだけ厳しい日本の財政事情の下で、どんな予算が組まれるのかと注視していたら、年金特別会計積立金の取り崩し(1.2兆円程度)が財務省ならびに厚生労働省により検討されているという。

 悲惨なほど財源のない政権与党にとって、年金積立金の流用は悪魔の囁きである。年金積立金流用という禁断の果実の目に見えぬ毒素を会計的に解析する。

 財務省の公表する日本国債の発行残高は平成22年3月末に720兆円を超え、政府借入金と短期証券をあわせた政府債務合計は882兆円である。これ以外に政府保証債務が46兆円ある。

借金まみれなのは中央政府だけではない。総務省の統計によれば、平成21年度末の地方財政の借入金残高(地方債と公営企業債の残高に交付税特会借入金の地方負担分を加算したもの)は198兆円である。

 従って、平成22年3月末の日本の公的債務合計は1080兆円(882兆円+198兆円)であるが、社会保障基金による国債保有など一般政府内での相互持合があるので、日銀が公表する資金循環統計上の一般政府の金融純債務は815兆円となる。これに対して金融資産は297兆円しかない。差額の518兆円は一般政府の金融債務超過額となる。

 一方、日本の国有財産評価額は102兆円であり、しかも財務省の公表する国有財産中には、政府出資金61兆円が含まれている。政府出資金は金融資産として既に資金循環統計に取り込まれているので、一般政府の金融債務超過額から控除されるべき実物資産は41兆円に過ぎない。

 そこで、日本国政府の純資産を計算すると、金融債務超過額から実物資産を控除した差額477兆円(518兆円-41兆円)が欠損金として計上されることになる。日本政府は500兆円近い債務超過状態にある。

これだけ財政状況の劣悪な日本が、国際的にはさしたる破綻懸念も喧騒されることなく、その通貨と来た日には史上最高値を伺うほどの円高である。この不可解な現象を説明するために、よく引き合いに出されるのが、実に豊穣な日本の個人金融資産である。

 日銀の資金循環統計によれば、平成22年3月末時点の一般家計の金融資産は1445兆円もある。日本の公的債務が1080兆円あろうとも、個人金融資産が1445兆円もあるので、日本の公的債務はすべて国内資金で賄うことができる。現に、日本国債の外国人保有比率は3%強に過ぎず、日本の公的債務は外国からの借入に依存していない。

 いくら政府が借金まみれであろうとも、日本国民の貯蓄で政府の借金を賄っているのであるから、国全体とすればそれは無借金経営ということになる。日本は、欧米諸国には例を見ない自己完結型資金循環国なのである。だから円は強い。

 そこで次に出てくるのが日本国債暴落論である。日本社会は、急速な高齢化と人口減少の元で、団塊の世代の現役引退を迎えようとしている。貯蓄人口が減少し消費人口が増加するのであるから、頼みの綱の個人金融資産は今後減少していかざるを得ない。

 事実、一般家計の金融資産は平成18年の1543兆円をピークとして、その後純減傾向を示している。一方、平成22年度予算における政府の税収見込みは37兆円に過ぎず、平成22年度予算における国債発行額は44兆円と、公的債務は限りなく増え続けていく。

 仮に今後、公的債務が今までと同規模だけ増え続け、個人金融資産が平成18年以降の減少幅と同程度取り崩されるとすれば、現在の個人金融資産の公的債務に対する超過額365兆円(1445兆円-1080兆円)など、あとわずか数年で使い果たしてしまうことになる。

 そうすると、数年後には日本の財政は破綻し、外国からの借入に頼らなければこの国はやっていけなくなるのではないか。すなわち、いずれ遠からず円は暴落し、金利は上昇し、日本国債は暴落すると言うのである。

 なるほど、日本国債暴落論は、日本社会を覆いつくす現在の閉塞感とも相まって、実に説得力がある。

しかし、日本国債の発行残高は平成13年3月末の380兆円から平成22年3月末の720兆円まで一貫して増え続けてきたのであり、頼みの個人金融資産も平成18年以降減少傾向にある。

 両者の直接的な相関関係が機能しているのであれば、もうとっくに国債は暴落していなければおかしいではないか?

 この間、一般政府の財政赤字は国債の増発で賄われてきたが、その赤字国債は金利上昇をもたらすことなく、順調に国内消化されてきた。

 財政赤字資金は一貫して国内調達されたのであり、ということは、財政赤字を補填するだけの資金余剰が日本国内のどこかで毎年出ていたことになる。ここで一般家計は、少なくとも平成18年以降、資金余剰が出ていない。

 ところで、日銀の資金循環統計上、海外部門は平成22年3月末現在263兆円の資金不足にある。海外部門の資金不足とは、とりもなおさず、日本経済全体の資金余剰を意味する。ここで海外部門の資金不足額は、国際収支における日本の経常収支(正確にはこれにその他資本収支を増減させたもの)の黒字額に一致する。

 日本の経常収支は平成21年にリーマンショックの影響で一時的な落ち込みを経たものの、その黒字基調はゆるぎなく、概ね年間20兆円前後の黒字体質にある。その経常黒字額は資金余剰として必ず国内に流入している。

 ならば、日本の公的債務は、個人金融資産というよりは、国際収支における安定的な経常収支によって支えられてきたと解釈すべきであろう。

 すなわち、日本国債の増発は安定的な経常黒字を原資として国内消化されてきたのであり、平成18年以前の経常黒字は家計部門の貯蓄として反映されていたため、一般家計の金融資産が一般政府の公的債務を支えていたように見えていたに過ぎない。

 平成18年以降の経常黒字は、一般家計の金融資産に反映されることなく、事業法人に残留している。

 事業法人は経常黒字による資金余剰を借入金の返済に廻しているのであり、借入金の返済を受けた金融機関はその返済資金で国債を買っている。すなわち、平成18年以降の国債消化は、家計部門の資金余剰ではなく、事業法人部門の借入返済資金を原資として行われたことになる。

 要は、国際収支における経常黒字が、一般家計に行くか、事業法人に残留するかの違いに過ぎず、いずれにしても経常黒字が公的債務の膨張を支え続けてきたことには変わりがない。ならば、個人金融資産が伸びない中で日本の財政赤字が累積しても、財政赤字が経常黒字の範囲内に収まっている限り、日本国債が暴落する事はない。

 ここで日本の財政経常収支(税収等の経常収入から一般歳出と地方交付税等並びに利払費等の経常支出を控除)は、平成20年度が13兆円の赤字、平成21年度が22兆円の赤字、平成22年度が32兆円の赤字となっている。

平成21年度までの財政赤字は、国際収支の経常黒字の範囲にしっかりと収まっていた。だから平成18年以降も、個人金融資産の減少にもかかわらず、円高が進行し、国債の暴落もなかったのである。

 さて、現在進行中の平成22年度において、日本は初めて財政赤字が経常黒字を超過する時代を迎えるに至った。もはや財政赤字を支えうる経済主体は、日本のどこにも存在しない。事業仕分けや埋蔵金で10兆円規模の財源が出てくるはずもない。そこで俄然目を引くのが年金特会積立金の平成21年度残高128兆円ということになる。

 もとより日本の公的年金制度は賦課方式を採っており、過去勤務費用に見合う財源を積立てる必要はないことになっている。制度上必須ではない積立金であれば、取り崩せないわけではないであろう。しかも、現行年金財政上、過去勤務債務など端から簿外になっている。

 ここで公的年金の積立金を数兆円ばかり取り崩して流用したところで、すでに数百兆円規模にまで膨れ上がった簿外の年金債務が少しばかり拡大するだけの事で、公的債務自体が拡大するわけではない。

 公的年金の積立金は、財政上、埋蔵金と類似の機能を短期的に発揮することができる。

 政府が年金積立金を取り崩す可能性は高いと考えなくてはならない。しかし、その取り崩しは国民に対する年金債務の拡大にほかならず、国家の簿外債務はさらにそれだけ拡大することになる。

 要は、後世代に対する年金債務の付回しであり、その毒素は、少子化の元で雇用不安に苦しむ次世代の国民にずっしりと効いてくる。円と国債の両面において、日本は危ないところに来ている。政府の歴史に対する責任が問われていると考えるべきであろう。

「12月政局」の先行きが見えない理由!テーマ:日記、政治
2010-12-12 18:24:36

2010年12月11日(土) 現代ビジネス 歳川隆雄

かつて永田町関係者の間で「竹下カレンダー」という言葉がよく使われた。たとえば国会の予算審議が与野党攻防で行き詰まり先行きが見通せなくなった時、自民党執行部だけでなく霞が関の各省庁トップが竹下登元首相のもとへ馳せ参じ、同氏の見立てを拝聴することが少なくなかった。

 あるいは自民党内の権力闘争が激化、政局含みの情勢になった時も大物政治記者は東京・代沢の竹下邸を密かに訪ね、意見を求めたものだ。

 すると竹下氏は直ちに、手帖を取り出し不透明な政治日程を解き明かした。あるいは、各派閥の領袖・幹部の選挙区事情から政治資金の出所まで細かく説明し、政局のキーマンの強みと弱点を衝きながら着地点を予想してみせた。

 しばらくして、それが悉く現実となる。こうしたことから「竹下カレンダー」という言葉が生まれ、「困った時の竹下さん」と言われたのだ。

 その意味で、現下の「12月政局」の先行きが見えてこないのは、これまで大きな絵図を描いて政局に臨み、勝負を賭けるが殆ど失敗してきた小沢一郎元民主党代表と、長い野党暮らしで熾烈な権力闘争を経験していないため絵図が描けない菅直人首相=仙谷由人官房長官がガチンコ相撲を取っているからだ。

 だからこそ、1926年5月生まれ、御年84歳の「ナベツネ」こと渡邉恒雄読売新聞グループ本社会長・主筆の表舞台登場を許してしまうのだ。

 12月8日夕、「大連立」論者の渡邉氏が白昼堂々と自民党本部に谷垣偵一総裁を訪ね、差しの会談を行った。政治のプロではなくとも、党本部入りをテレビクルーに撮影させた一事をもって、この谷垣・渡邉会談で大連立を目指した真剣な話し合いが行われたなどとは思わない。

 本気の話し合いであれば、極秘会談にしたはずだし、自民党有力者の中で大連立志向の強い大島理森副総裁を同席させたはずだ。谷垣氏が渡邉氏の打診を拒否したのは織り込み済みだった。

 一方、ナベツネ氏が11月30日夜、与謝野馨元財務相(たちあがれ日本共同代表)とホテルオークラ内の日本料理店「山里」で秘密裏に会い、主要政策を軸にした部分(パーシャル)連合を入口にしての民主党と自民党の大連立の可能性について話し合った事実があるが、こちらは“本物"である。

与謝野氏個人の政局観の成否はともかく、自らが「たちあがれ日本」を離党して菅政権に入閣する選択肢を含め、真剣に民主、自民両党の大連立の接着剤にならんとしているのもまた事実である。

 複雑なのは、菅首相サイド、そして小沢陣営のこうした大連立を巡る動きへの反応と対応である。先ず、菅首相サイド。菅氏の信頼が絶大な寺田学首相補佐官は8日夜の限定した新聞記者との「裏懇」で、首相は渡邉氏の自民党本部訪問を事前に承知していなかったことを明らかしたうえで、渡邉氏が大連立で動いているのは仙谷氏に依頼されてのことではないかと語っているのだ。

 首相と官房長官の間に隙間風が吹いていることを示している。福島みずほ党首と会談した菅氏は今一度民主・社民・国民新党の旧連立政権への回帰を求め、自民党の大島氏、公明党の井上義久幹事長にパイプがある仙谷氏は最終的に公明党も含む大連立の道を探っているのかも知れない。

 小沢陣営の対応も難しい。小沢氏個人は、鳩山邦夫元総務相(無所属)の呼びかけに応じて鳩山由紀夫前首相、舛添要一元厚労相(新党改革代表)との会食(8日夜、平河町の「二葉鮨」=邦夫氏の馴染みの店)からも分かるように、“菅包囲網"構築のためには労を厭わない。ところが舛添氏はその翌日の9日夜、菅首相の誘いに乗って、やはり「山里」で会食しているのだ。

 小沢氏周辺から「舛添首相」もあり得るとの秋波を送られる舛添氏がこの間、渡邉氏に近い与謝野氏に急接近しているのは周知の事実だ。

 魑魅魍魎の政界。ただ、ハッキリしていることは、手負いの獅子である小沢氏が菅・仙谷ラインとの最終戦争を決断、仮に野党が1月の通常国会冒頭に内閣不信任案を提出すれば、手勢を率いて賛成に回ることを考えていることだ。但し、小沢氏は93年に同じことを試み、失敗している。



*首相秘書官も官房副長官も機能不全で菅官邸は「危機管理能力ゼロ」!
 過去の危機対応マニュアルもいかせず!

2010年12月04日(土) 歳川隆雄

 菅直人"民主党"政権は、危機管理のうえで行き詰っている。首相官邸の外交・安保面での拙さと民主党執行部の野党対策のお粗末さが「政権の危機」を招き起こした。

 先ず、官邸から。11月23日午後に発生した北朝鮮軍による韓国北西部・延坪島砲撃事件における官邸の初動対応の稚拙さについては、朝日新聞に「空白の90分」と報じられた。

 官邸地階にある内閣危機管理センターに第一報が入ったのは、北朝鮮人民軍砲撃部隊が砲撃を開始した午後2時34分から約30分後の午後3時10分過ぎだった(情報源は防衛省統合幕僚監部情報本部と思われる)。仙谷由人官房長官が内閣危機管理センターに情報連絡室の設置を瀧野欣彌官房副長官(事務担当)に電話で指示したのは3時20分。

 決して遅い対応ではない。だが、当日は祭日だったため、公邸にいた菅首相に事件発生が山野内勘二首相秘書官(外務省出身)から寄せられたのは午後3時30分ごろ。首相が公邸から官邸に移り仙谷官房長官らと協議を開始したのが午後4時44分だった。

 だが、同首相は公邸待機中に誰に電話することもなく、また誰からも詳細の報告がなかった。それだけではない。その後、安全保障会議(議長・菅首相)を召集していない。

 問題は、二つある。ひとつは、首相の政務秘書官がまったく機能していないことである。現在の岡本健司首相秘書官(政務担当)は、菅首相が野党・新党さきがけ時代の党職員である。第一期民主党(所謂「鳩菅民主党」)を経て現在の民主党まで一貫して"菅担当"の党職員プロパー出身者なのだ。残念ながら同氏は、官邸周辺で「カバン持ち兼ボディガード」と揶揄されているのが実状だ。

 小泉純一郎政権下の2001年の「9・11同時多発テロ」発生時のエピソードを知れば、首相秘書官(政務担当)に何が求められているかが分かる。

 当時、「もう一人の官邸の主」とまで言われた飯島勲首相秘書官(政務担当)は事件発生(日本時間・9月11日午後9時45分)直後、その日の所在を掌握している主要閣僚と自民党役員に緊急連絡・概要説明し、官邸内に設置した対策本部に何時でも出動できるようにして欲しいと、首相指示を伝えていた。

事実、小泉首相はテロ事件発生から2時間半余り後の12日午前零時19分に内閣危機管理センターに事件対応の本拠を移し、関係閣僚・自民党幹事長ら党3役、官邸の主要スタッフを集めて陣頭指揮の構えを取った。そして官邸で安全保障会議を開いたのは夜が明けて午前9時30分だった。

 さらに指摘すべきは、官房副長官(事務担当)の機能不全である。霞が関官僚の頂点に立つ官房副長官(事務担当)は、昨年9月の民主党政権発足までは週2回開かれていた閣議前日の各府省庁事務次官会議を主宰するなど、まさに官邸機能の中枢に位置していた。

 ところが、「政治主導」の名の下に事務次官会議は廃止され、その役割と権限は大幅に削られた。今回の砲撃事件発生についても、本来であれば、瀧野官房副長官が直ちに外務、防衛両省、そして警察庁のトップを非常召集し、情報収集・分析を行ったうえで初動対応策をまとめ、官房長官に報告したうえで情報連絡室を立ち上げるべきだった。

「自公」へ舵をきった公明!

 加えて、瀧野副長官のもとには「9・11同時多発テロ」をはじめ北朝鮮工作船による能登半島沖侵犯事件と奄美大島沖銃撃事件などの教訓から作成された危機対応マニュアルが歴代官房副長官から引き継がれているはずだ。岡本首相秘書官(政務担当)が第一に為すべきことは、まさにこのマニュアルを首相のいる公邸に持ってこさせることだった。

 岡田克也幹事長ら民主党執行部が終盤国会で10年度補正予算案を巡る攻防と、仙谷官房長官と馬淵澄夫国交相に対する問責決議問題についての自民党と公明党の出方を見誤ったことは大きかった。危機管理の原則はワーストシナリオの作成から入ることである。それを楽観的見通しから始めた。

 即ち、仙谷氏は大島理森自民党副総裁、井上義久公明党幹事長にパイプがある、枝野幸男幹事長代理が石原伸晃自民党幹事長と頻繁に接触していることを過大評価したのだ。

 特に、公明党が来春の統一地方選までは「民公」ではなく「自公」を選択したこと、そして大島・石原ラインが自民党内の主戦論を抑えられないことを読み切れなかった。菅政権にはもはや出口がないように見える。


*夜眠れない菅首相が勝負をかける「12月末内閣改造」の勝算!

2010年11月27日(土) 歳川隆雄

 夜中に目が覚め、寝付けないことが多いという菅直人首相---。共同通信社の世論調査(11月23,24日実施)によれば、内閣支持率は前回調査から9.1ポイント下がって23.%、不支持率も前回の48.6%から61.9%に急上昇した。内閣支持率が20%台前半に下落したことで菅政権はいわゆる「危険水域」に入った。

 26日夜、総額4兆8000億円の円高・デフレ対策を盛り込んだ2010年度補正予算案は成立した。が、自民党など野党は仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相への問責決議案を参院本会議に提出、同案は可決された。

 改めて指摘するまでもないが、問責決議案には法的拘束力がない。しかし、野党は今後仙谷、馬淵両氏が出席する参院の各委員会をボイコットするため、12月3日の会期末まで国会は空転する。「12月政局」が取り沙汰される現在、菅政権に政権浮揚策はあるのか。

 筆者の耳に届いた官邸筋からの情報によると、北朝鮮軍による韓国・延坪島砲撃事件を貴貨として外交・安保政策で毅然とした姿勢を打ち出し、首相のリーダーシップ発揮を国民にアピールする見せ場を年末から来年初頭にかけて準備しているという。内閣不支持理由のトップ「首相に指導力がない」の33.4%を強く意識してのことだ。

 具体的には、12月中旬、韓国の李明博大統領との日韓首脳会談を京都で行い、さらに年初1月4日の伊勢神宮参拝後に訪米、オバマ大統領との会談をセットするよう外務省に指示を出したというのだ。この秘策には前提がある。28日の沖縄県知事選挙で現職の仲井眞弘多知事が伊波洋一前宜野湾市長を破って再選を果たすことである。

 直前のマスコミ各社の情勢調査では両候補は大接戦を演じ、どちらが勝利するかは、それこそ蓋を開けるまで分からない。普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題を争点とする知事選で自民、公明両党は仲井眞氏を支援、民主党沖縄県連や社会大衆党は伊波氏を推している。

 政治的に複雑なのは、官邸と民主党執行部の本音は仲井眞氏再選であり、党内の小沢一郎元代表グループが裏面で伊波氏を支援していることに加えて、選挙期間中に「県外移設」を訴えた仲井眞知事が来年早々に名護市辺野古沖への移設を容認する段取りができていることである。

即ち、「仲井眞再選」という前提をクリアすれば、菅首相はオバマ大統領に対し、日米合意の履行=辺野古沖への移設を自らの責任で実現すると言明できるのだ。と同時に、民主党内に反対論が少なくない「環太平洋パートナシップ協定」(TPP)についても、交渉参加を通告することで国内外に強いリーダーシップを示すことになる。

 そして1月中旬召集の通常国会冒頭に「普天間」と「TPP」を争点に衆院解散・総選挙に踏み切るという乾坤一擲の決断を行う。そのためにも、年末ギリギリに内閣改造・党人事を断行する。

その先にある大連立構想!

 年末12月の内閣改造には先例がある。小沢一郎元代表の自治相と羽田孜元首相の農水相の初入閣となった中曽根康弘第2次改造内閣は85年12月28日、官房長官を交代させた海部俊樹改造内閣が89年12月29日だった。

 仙谷官房長官を民主党幹事長、岡田克也幹事長を外相、そして前原誠司外相を官房長官にする「トライアングル人事」を行って、それこそ仙谷氏の「暴力装置」という"新左翼"用語答弁が国会で問題となったが、まさに「一点突破」を図るというのである(因みに、「暴力装置」は新左翼用語ではなく、マックス・ウェーバーが軍隊、警察の定義に使ったれっきとした学術用語である)。

 それはともかく、この人事が実現した場合、自民党の谷垣禎一総裁と大島理森副総裁、公明党の井上義久幹事長と漆原良夫国対委員長にパイプを持つ仙谷氏主導の民主、自民、公明3党による「大連立」構想が現実味を帯びてくる。年末から年明けにかけての「12月政局」の結果次第で菅政権の命脈が尽きるのか、それとも生き延びるのか判明する。

人口は7000万人に/青森・島根・長崎などには子供がいなくなる/大阪・兵庫には高齢者が集中/水道は維持不可能に!鉄道は廃線! 学校・病院はなくなる!/韓国・中国でも同じ問題が!

2010年12月08日(水) 週刊現代

 あなたの住んでいる町に、最近少しずつ変化が現れてはいないだろうか。その変化が一時的なものかどうか、この記事を読んで考えてみてほしい。それは人口減少が始まった兆候かもしれない---。

 発行部数160万部を誇る、伝統ある経済誌『The Economist』11月20日号では、「A special report on Japan」と題した日本特集が組まれた。同誌で日本特集が組まれるのは約5年ぶりのことで、その内容は「未来の日本はどうなるか」。読めば読むほど気持ちが沈みこむシリアスな分析が並んでいるが、そこに描かれた暗い未来は、すべて日本の「人口問題に起因している」と書かれている。

 この特集の取材・執筆を担当した、同誌東京支局長のヘンリー・トリックス氏が語る。

「昨年の政権交代によって、日本が今後どのように変わり、どんな問題に悩んでいくのかを描き出したいと考えていました。ところが、取材をすればするほど、これからの日本が直面する問題は、『高齢化』と『人口減少』によって生じるということがわかってきたのです。これは日本にとって極めて深刻なことです」

 来年2月に最新の国勢調査の結果が示されるが、これによって日本は2010年度から本格的な「人口減少社会」に突入したことが明らかになる。だが、これが日本を滅ぼしかねないほど深刻な問題だという認識が、国民の間で共有されているとは言いがたいのではないか。

『The Economist』誌に見られるとおり、世界は日本の危うい未来に視線を注いでいる。気づいていないのは、われわれ日本人だけかもしれないのだ---。

これから100年減り続ける!

 近い将来、日本の人口はどのくらい減るのか。総務省の統計および「国立社会保障・人口問題研究所」が作成した推計によると、人口のピークは'04年12月の1億2783万人。その後は年々減り続け、'09年現在で1億2751万人。これが2030年には1億1522万人、'50年にはついに1億人を切り、'70年代に、日本の人口は7000万人を割ると推計されている。人口問題研究所国際関係部第3室長の石井太氏が語る。

「すでに地方では人口減少が始まっていますが、'25年からすべての都道府県で減少が始まります」

 もちろん、先の数字は「現在予測される出生率で推移すれば」などの条件での推計であるから、改善される可能性はある。ただし、政府と国民がどれほど真剣に出生率向上に取り組んだとしても、劇的な効果は現れない。人口問題の専門家である上智大学教授・鬼頭宏氏はこう指摘する。

「かりに今年出生率が上がって『2』を超え、その状態が続いたとしても、人口減少が止まるのは2080年という試算が出ています。実際にはもっと時間がかかるはずで、2100年になっても減少が止まるかどうかわからないのです」

 人口減少は都道府県別に見ると、その事態の深刻さが浮き彫りになる。'05年の人口と、'35年の推定人口を並べてみよう。

 北海道は562万人から441万人、青森は143万人から105万人、奈良は142万人から110万人、和歌山は103万人から73万人といったように、数十万人単位で人口が減っていく都道府県がボロボロと出てくるのだ。

 四国4県(徳島・香川・愛媛・高知)は特に減少率が高い。'05年の4県の合計人口408万人が、'35年には314万人と推計されている。つまり、現在の四国の人口の4分の1が、'35年には消えているということになる。

 さらに日本では、人口減少と同時にもうひとつの問題が同時に発生する。高齢者人口の急速な増加である。右の図は、15~64歳の人口(生産年齢人口)と、65歳以上の人口(高齢者人口)の推移を比較したものだ。政策研究大学院大学教授の松谷明彦氏が解説する。

「この推計によるなら、2055年には国民の40・5%が高齢者になります。これは人口減少以上に深刻な問題です。生産年齢人口が減って、高齢者が激増するということは、現役世代が負担する社会保障費も大幅に増やさざるをえなくなるということであり、現在の福祉制度は成り立たなくなります」

 人口問題研究所によると、25年後、日本の4割以上の市町村で、高齢者の割合が4割を超えるという。すれ違う人の二人に一人は高齢者で、幼い子どもが歩いているのを見たら、「今日、子どもを見たよ」と話題になる。そんな町があちこちに出現するのだ。

 人口減少と高齢化---この二大危機に、同時に襲われるニッポン。近未来のこの国の姿は、いったいどんなものになるのだろうか。もう「気づかないフリ」は許されない。

水道水の需要が半減する!

 近年、自治体の首長選挙では「人口減少をどう食い止めるか」が大きな争点になり始めている。去る11月21日に投開票が行われた尼崎市長選(兵庫)、室戸市長選(高知)、長井市長選(山形)。立候補者は、いずれも「人口減少対策」を公約の柱の一つに掲げて戦った。富山県小矢部市は、テレビで市への転入を促すCMを放映するなど、市町村レベルでは、人口減少は「いま、そこにある危機」として迫っている。

 程度の差こそあれ、人口減少は、ほぼ例外なくすべての自治体を襲う。そうなったとき、われわれの生活はどうなるのか。ある研究者は「日本中で長崎県の離島のような自治体が発生する」という。

 長崎県の島々からなる、五島市・新上五島町・壱岐市・対馬市の3市1町では、この10年間で約15%、2万3000人の島民が姿を消した。これによって、長崎県・上五島では、島と本土を結ぶ上五島空港の定期便が'06年に廃止された。人口約3000人の奈留島では、来年3月に、島内に唯一あった地銀支店の閉鎖が決まっている。

 生活に欠かすことのできない交通手段や金融機関が、人口減少によって次々と消滅していく。これが、近未来の自治体の姿なのである。銀行も、交通手段もない町---たとえば、普段何の気なしに使っているインフラも、「当たり前」のものではなくなっているかもしれない。水道もそのひとつだ。

 いま、水道業界では「2040年問題」が首をもたげている。現行の水道事業が、人口減少のせいで維持できなくなる可能性があるというのだ。東京都の水道局員が説明する。

「水道配水管は40年が法定耐用年数で、それ以上使用するときには、漏水や濁水を防ぐための補修作業をしなければなりません。

 この補修も含めて、水道事業には莫大な予算がかかります。その費用は水道料金で賄ってきたのですが、全国で年々水の需要が減っており、人口減少が進んだ2040年には、需要が現在の約半分ほどになると予測されている。そうなると、水道事業収入も、現在の半分ほどになってしまいます。配水管の法定耐用年数がくれば補修をしなければならないのですが、その費用が捻出できなくなる恐れが大きいのです」

 実例を示そう。昨年4月、静岡県熱海市は、漏水事故を防ぐための維持費が捻出できなくなるとして、水道料金を9%値上げした。高齢世帯には、この数字が重くのしかかってきている。さらに人口が減って自治体の水道事業収入が減少すれば、値上げでも対応できなくなる日が来る。

「水道からは濁った水が流れはじめ、最悪の場合、水道水が利用できなくなる自治体が出現する可能性もある」と前出の局員は指摘する。

 市民の足である鉄道も、人口減少の影響をもろに受ける。「人口が減れば、満員電車がなくなるからいい」といったノンキな発想は、もう止めたほうがいい。人口減少社会においては、電車そのものがなくなってしまうかもしれないのだ。

 今年度、関西・中国・四国の鉄道会社が相次いで赤字報告を出し、鉄道関係者に衝撃を与えた。JRをのぞく中国地方の鉄道会社の'10年3月期決算報告では、10社中9社で輸送人員が前年度を下回り、7社が減収(うち4社が赤字)。さらに、関西私鉄大手の同期決算では、3社が減収減益を発表。来年3月期も運輸収入は減少の見込みだという。

「新型インフルエンザの流行や景気低迷も大きな原因ですが、人口減少という構造的な問題が影響しています。まず、通学で電車を利用する学生が減り、定期券収入が落ち込んだ。さらに、高齢者が増えるほど、移動圏が狭くなり、電車を利用しなくなる。駅員の数を減らしたり、特急の数を減らしたりと対策を講じなければなりませんが、利便性の低下は避けられないでしょう」(関西の主要電鉄会社職員)

 私鉄だけの問題ではない。JR四国では、'09年度鉄道輸送収入が前年比約10%減の360億円と、過去最大の下落率を記録した。焦りを感じた四国の鉄道関係者らは、問題を協議する懇談会を発足させたが、その初の会合では、減収の主な原因として、やはり「人口減少や高齢化が進んでいること」が挙げられた。

 また、関西の私鉄の雄である近鉄では、特急・快速本数の見直しや、無人駅の拡大などを検討中だ。沿線距離では日本一を誇る近鉄だが、利用客が少なく経営を圧迫する閑散線区が7割に達しているためである。

高齢者が増えても病院はない!

 鉄道業界では、とくに「通学者の数が減る」ことを問題視しているが、言うまでもなく、近い将来子ども(0~14歳)の数は激減する。先ほど、2055年には高齢者が人口の40・5%を占めるという数字を紹介したが、同じ時点での子どもの比率は、わずか8%である。

 子どもの数が減れば、公立の小中学校の統廃合も必然的に進む。この5年で全国で約1000の小学校が閉校した。市町村合併の影響もあるが、統廃合の主な要因が少子化であることは間違いない。

「学校のなかには、すでに『学級』として機能していないところもあります。在校生が40人未満で、『学校で球技ができない状態』の小学校もいたるところにあると聞いています。人口の少ない自治体では、学校がコミュニティ機能の維持に大きな役割を担ってきました。その学校がなくなると、町の活気が失われ、自治体の衰退に拍車がかかることになるのです」(文科省関係者)

 人口減少が深刻な青森県では、'08年に青森市が統廃合により市内の公立小中学校を4割減らす計画を立てた。計画は住民の反対により撤回されたが、ここ数年、青森県では0~14歳の人口が、毎年約5000人ずつ減り続けている。青森県の'05年の0~14歳人口は約20万人であるから、毎年5000人ずつ減っていけば、約40年後には青森県から子どもがいなくなる計算だ。

 青森県だけでない。同様の事態は他県でも進行しており、秋田県、長崎県などでも、子どもがいなくなる可能性が高まっている。子どもを通わせる学校がないどころか、子どもそのものが、市町村から姿を消してしまうかもしれない。

教育関係者が「子どもが減る」ことに頭を悩ます一方、医療関係者は「高齢者が増える」ことに不安を隠さない。「現在でも患者が多すぎるぐらいだから、人口が減ることは問題ではない。しかし、高齢者の割合が高まり、かつ彼らを診療・ケアする若い人材が不足すれば、病院はパンクしてしまう」。病院関係者からこんな危惧の念が聞かれるが、医療・看護関係の人材不足は日々深刻化している。


厚生労働省のまとめでは、来年度の看護職員の数は、必要数(約140万人)に対して、約5万人不足する見通しだ。数年後にはベテラン職員の大量退職が控えており、'25年には約20万人が不足するという試算も出されている。

 職員が減少すれば、統合を余儀なくされる病院も現れ、規模の小さな自治体からは病院がなくなってしまう可能性がある。病院のない、高齢者中心の自治体。まさに、悲劇としか言いようがない。

 さらに、人口減少は地域の治安崩壊をも引き起こす。人口が減少すると、空室・空き家が増えることになるが、空き家が増えると、ゴーストタウン化・スラム化が進み、治安が悪化する傾向がある。このことから欧米では、計画的に空き家を取り壊したり、人口減少に対応したコンパクトな街づくりを進めたりするケースが増えている。

 一方日本では、人口減少社会がそこに迫っているというのに、いまだにいたるところで---人口減少の始まっている町でさえ---高層マンションの建設が相次いで進められている。「100年は持つ高層マンション」などと謳っている物件も多いが、100年後には誰が住んでいるのか。誰も住んでいないのに、それを取り壊す費用もない、そんな薄汚れた摩天楼が聳え立つ様は、さぞかし不気味なことだろう。

シブヤは巣鴨になる!

 そんな中、人口増加が見込まれている数少ない自治体がある。東京都はその筆頭格だ。しかし、悲しいことに「だから東京は安泰だ」とはならない。人口減少よりはるかに恐ろしい、爆発的な「高齢者増加」が起こるからだ。

 前出の松谷明彦政策研究大学院大学教授が語る。

「65歳以上の高齢者は、'05年からの30年間で、全県平均34.7%増える見込みです。ところが東京では、67.5%の増加が見込まれています。つまり、東京は日本のどこよりも高齢者が増えるのです。高齢者が7割増えれば、老人ホームも7割増やさなければならなくなる。

 税金を担う主たる働き手は15.8%減少すると見られているので、彼らの税負担は大変なものになる。特に20~30代の人口は31.3%も減り、東京都の人口に占める割合も現在の3分の1程度から約2割程度にまで縮小する。繁華街のイメージも変わるかもしれません。若者相手の渋谷、新宿、六本木などの街が小さくなって、巣鴨のような町が大きくなっていくとも言えます」

 東京には、人口減の心配はない。しかし、高齢者だらけで働き手の負担ばかりが増大する"住みにくい街"に変わったとき、若者が地方に逃げ出していく可能性もある---松谷氏はそう指摘するのである。

 東京だけに限らず、大阪・兵庫・京都といった他府県の都市部でも事情は同じだ。京都府は「2030年には約10%人口が減り、65歳以上の割合が、'25年には30%を超える」との見通しを発表。これを受けて、11月18日には人口問題を考える研究会が府内で開かれた。都市部も、人口問題とは無縁でないことが、お分かりいただけるだろうか。

人口問題が深刻化すると、経済、産業も大きな影響を受けるのは間違いない。場合によっては、日本経済の壊滅もありうる。複数の経済学者は、本誌の取材に対して「労働力人口が激減するため、国内総生産(GDP)の成長率は長期的にマイナスとなる」と予測し、現在約550兆円の実質GDPは、'50年には約350兆円にまで減少するとの声もあった。

  「全体のGDPが下がるのは、人口減少社会では当然。それよりも、一人当たりのGDPを増やすことが重要」という指摘はもっともだが、しかしここ数年、日本の一人当たりGDPは低下し続けており、そう簡単に上昇に向かうものではない。

家を建てる人も激減する!

 数字上の問題だけでなく、実際の経済の現場では、いたるところに綻びが生じ始めている。

「人口問題によって特に小売業が大打撃を受けることになるでしょう」

 こう話すのは、奈良女子大学大学院教授で『人口減少時代のまちづくり』の著者である中山徹氏だ。

「卸売・小売店を対象にした、経産省の『商業統計調査』最新版によると、国内の小売店数は'82年に172万店舗でピークに達してから減少に転じ、'07年には113万店舗にまで減っています。これは不景気だけが原因ではない。すでに人口減少が進んでいる地方などで、経済活動の一部が縮小し始めているからです」

 '09年に経産省が発表した、家計の支出に関する調査データによると、'07年の家計消費支出は278兆円。これが'30年には250兆円になるという。実に10%以上も支出が減るのだ。

「小売店数の減少はこれからも続くでしょうが、特に深刻なのは商店街です。総務省の統計によると、従業員4名以下の小規模小売店数---このなかには商店街の店が多く含まれると思われます---は、'82年の144万ヵ所をピークに、'07年は75万ヵ所と半数近くまで数を減らしています。なんの対策も講じられなければ、加速度的に小規模小売店は姿を消していくことになるでしょう」(中山氏)

「シャッター商店街」は、もう珍しい風景ではなくなった。この風景が日本中に広がるだろうという予測だが、商店街の死は、町そのものの活気や生気を奪いとり、自治体の機能低下・活力低下に拍車をかける。"日本の壊死"は、足元からじわじわと進んでいる。

 家計消費の減少には、日本の製造業・販売業も戦々恐々としている。ハウスメーカーを例にとってみよう。住宅を買う層の中心は30~44歳で、現状、新築物件の約半分はこの層が買っている。しかし、この層は今後10年のうちに15%減少すると予測されている。従来どおりの営業をやっていたのでは、ジリ貧になるのは確実だ。

「関西圏を例にとると、主要顧客層がこの10年だけで70万人も減少します。一体どれだけの影響がでるのか、正直見当もつきません」(大手住宅メーカー・マーケティング担当者)

 国内に生き残りの道がないなら、日本の企業は海外に「逃げだす」ことを模索するだろう。

「体力のある企業は、労働力不足と内需の低下を見越して、国内投資ではなく海外投資を積極的に行っています。これからは、そうして海外に軸足を置く企業がどんどん増えていくはずです」というのは、信州大学の真壁昭夫教授だ。

近年、日本企業の海外への積極的な進出がみられるが、これは将来の日本の人口問題を見越したうえでのものだと真壁教授は指摘する。内閣府は毎年、製造業の海外生産比率を調査しているが、そこにもこの流れがはっきりと表れている。'90年度の海外生産比率が6.4%だったのに対し、20年後の'09年度には過去最高の17.8%を記録しているのだ。

「このままでは、やがて日本国内には地元密着型のスーパーとか、海外に進出するだけの体力がない企業・金融機関しか、残らなくなる恐れがあります。人口減少に歯止めがかからなければ、日本そのものが経済規模の小さい『貧乏な国』になってしまうでしょう」(前出・真壁氏)

 『The Economist』誌をはじめ、世界が日本の将来に注目し始めた理由が見えてきただろうか。一時は世界経済のトップを走っていた国が、いま静かに、そして着実に「死」を迎えようとしているのだ。興味が湧かないワケがない。また世界的にみても、先進国では人口減少・高齢化が進んでおり、日本は自国の将来を考える上で「いいモデルケース」となっているのだろう。

 特に、眼を見開いて日本の人口問題に注目しているのが、近い将来、同じ問題を抱えることになる中国と韓国だ。

日本がどうなるかを見てから!

 9月10日、中国社会科学院財政貿易経済研究所は「中国の高齢化はこれから進行し、2030年には日本を抜き、世界一の高齢国家になる」と指摘した。国連の人口統計によると、中国では2040年には全人口の28%が65歳以上に達し、経済は一気に減速、社会保障問題で国家は大変な混乱に襲われることになるのだ。

 また、韓国は日本と同じく出生率の低下に苦しんでおり、2050年には韓国の人口は4234万人と現在より13%も減少すると予測されている。

「韓国では、医療費の増加水準がOECD加盟国平均の約3.5倍と圧倒的に高く、今後わが国の社会保障政策が行き詰まることになるのは間違いない」(オ・ヨンス・韓国保健社会研究院政策研究室長)

 それでも、韓国は日本ほどに人口減少・高齢社会に悲観的ではない。

「韓国が本格的な人口減少に直面するのは、10年ほど先の話でまだ余裕がある。日本の対策を参考にすることもできる」と語るのは、チョン・ホソン・サムスン経済研究所首席研究員だ。

「韓国は外国人移民の受け入れに比較的寛容であり、さらに中国をはじめとした外国人投資の誘致が進んでいるため、人口減少による経済的なマイナスはある程度カバーできる。韓国はグローバルな視点から、この問題の解決策を見出そうとしている。反面、日本は10年ほど前から政治的な混乱が続いており、ほとんど対策が進んでいないのではないか」

 情けない話だが、確かに日本の対策は、ほとんど進んでいないに等しい。

 人口問題に詳しい識者に、人口減少・高齢社会を乗り切るための方策について意見を求めた。東京財団の石川和男・上席研究員は、日本の活路について、こう話す。

「日本の高齢者の保有している資産は、数百兆円にのぼる。この資産を消費に回すことができれば、内需で日本経済を活性化させることができる。高齢者向けのビジネスはいくつも考えられるが、介護や医療といった、社会保障産業に注目したい。これを巨大な産業に成長させられれば、それは原発や水道のように、『JAPANESE KAIGO』として、そのシステムやノウハウを海外に輸出し、外需をも呼び込むことにつながります」

人口減少・高齢社会を乗り切る道は少なからず残されている。しかし、政府が来るべき将来に向けて、十分な対策をとっているかといえば、答えがNOであることは論を俟たない。

 社会保障の充実、女性の社会進出、定年の引き上げ、税制改革・・・その議論のどれもが遅々として進まず、一方で国民に負担を強いる政策だけは強硬に推進する。

 これでは韓国の研究員の言葉に反論できそうもない。

 実は、日本は過去にも同様の危機を迎えたことがあった。前出の上智大学・鬼頭宏教授によると、日本が人口減少に直面するのは、歴史上4度目のことだという。

「日本は縄文時代後半、鎌倉時代、江戸中後期に人口減少を経験しています。

 どの時代も、それまで発展を支えてきた技術や社会制度が完成し、成熟期を迎えたときだった。

 日本はいま、4度目の人口減少に襲われていますが、今回も、社会が成熟期を迎えたと考えていいのではないでしょうか」

 鬼頭教授は、今回の人口減少が「高齢化」という過去になかった特殊な要素を含んでいることに注意しつつも、「日本は過去3度の人口減少を、すべて海外から新しい制度や文化を導入することで乗り越えてきた」と説明し、この度の人口減少においても、移民受け入れを真剣に考えるべきではないかと締め括る。

 日本は過去、人口減少を迎えるたびに、それを新たな文明発展の契機としてきた。これは大変誇らしいことである。

 しかし4度目の危機を迎えているにもかかわらず、ただ手をこまねいているだけの現状をみると、これが日本が迎える「最後の人口減少」なのではないかと思えてならない---。

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