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改革派官僚に聞く(上)

2010/12/13 フォーサイト編集部

 経済産業省から国家公務員制度改革推進本部に出向して内閣人事局や国家戦略スタッフ創設の立案などに従事し、鳩山内閣発足後は仙谷由人行政刷新相のもとで大胆な改革案を提議。しかし、2009年12月、仙谷氏により更迭されて経産省大臣官房付に――。

かつてフォーサイトでも、その動向を取り上げたことがある「筋金入りの改革派官僚」古賀茂明氏(「ひそかに退職勧奨を受けた改革派官僚」参照)。その後も、経済誌への寄稿などで民主党による公務員制度改革の後退に警鐘を鳴らしつづける氏に、今の「政」と「官」が抱える問題点について聞いた。

――野党が10月、民主党政権の天下り対策を批判する古賀さんを政府参考人として臨時国会に出席させた際、仙谷官房長官は「彼の将来を傷つけると思う」と語り、野党から「恫喝だ」と批判されました。民主党は古賀さんの発言に神経を尖らせており、経産省も「自ら退職することを望んでいる」と報じられましたが、そうしたご自身の立場をどうお考えですか?

古賀 私にできるのは人事当局の判断を待つことだけです。人事は大畠章宏経産相の決断次第ですが、大臣も基本的には事務方に任せているようです。事務方は私に「辞めろ」と言うわけにもいかず、扱いに悩んでいるのではないでしょうか。私としては、当局の判断を待ちながら、その間は可能な範囲で情報を発信していくつもりです。このままでは日本はダメになる。思い切った改革が必要だという気持ちは変わっていません。

経済が拡大するという前提は崩れた!

――このままではダメだということですが、具体的には?

古賀 バブルの頃まで、国の仕組みは経済が拡大・成長することを前提につくられていました。自民党は経済の拡大によって得られた果実を自らの支持層――たとえば農協や医師会など――に厚めに配分することで政権を維持し、官僚もまたその果実の上に自分たちの生活を守る仕組みをつくりあげ、それを維持してきたのです。経済が上向きであるなら、自民党の支持層以外にもある程度配当は行き渡りますし、官僚が果実の“上前”をはねても、つまりは税金をムダに、自分たちの利益のために使ってもまだ余裕はありました。しかし、バブル崩壊以降、経済が拡大するという前提は崩れ、果実は失われました。どこか特定の層に厚めに配分しようとすれば、一般国民が犠牲を余儀なくされます。その構造を変えなくてはならないのに何も変わらない、変えられない。これではダメだということで自民党はついに退陣を強いられ、政権交代へとつながったわけです。
 しかし民主党は、郵政民営化の事実上の棚上げ法案や農家への戸別所得補償や子ども手当の支給など、これから自分たちを支持してくれそうな層や人たちに対して手厚く保護する仕組みを構築しようとしました。旧い構造を断ち切ることを期待されながら、本質的には自民党と同じ利益誘導的バラマキの道を選んでしまったのです。「官」は「政」の本気度をよく見抜いています。官僚は民主党から「これはやれ」と言われたところに関しては形づくりにお付き合いしながらも、自分たちが守ってきた構造については「変えません。きっと大目に見てくれるだろう」という態度なのです。独立行政法人公益法人、業界団体などに事業仕分けでメスが入っても、官僚は看板を掛けかえ、名目をかえ、他の事業につけかえたりして存続を図り、ゾンビのようだと評されました。それがいい例です。つまるところ、政も官もあまり変わっていない。中国はじめいくつかの途上国は著しい成長を遂げ、欧米もそれに遅れまいと懸命になっているにもかかわらず、日本だけが井の中の蛙のごとくです。このままではいけません。


民主党が犯した2つのミス!

――民主党が掲げた「政治主導」がうまく機能しなかったということでしょうか?

古賀 民主党は政治主導のあり方について、2つのミスを犯したと思います。ひとつは総理主導を打ち出せなかったことです。
 憲法では、行政権は内閣に属すると規定されています。官僚はこれを「行政権は内閣にあるのであって、総理にあるのではない」「各省の事務を実施する権限は個々の大臣にあるのであって、総理にはない」と解釈します。これなら大臣ひとりコントロールしていれば行政の実権を握れるし、総理の“勝手なマネ”を抑止することができるからです。
 しかし、総理には大臣を任免できるという強い権限があるのです。方針に従わない大臣は罷免して自らが兼任するということも可能です。要は、総理の決意次第で、行政全般を動かすことができるのです。
 では、現実はどうだったでしょうか。長妻昭前厚生労働相のケースを見てみましょう。長妻さんはマニフェストに掲げたことを忠実に実現しようとしました。その一環として、役所の人事にも手を入れようとしたのです。大臣が仕事の目標を示し、それが達成できたか否かで信賞必罰を行なおうとした。天下りはまかりならんと宣言し、独法の役員を公募して、そこに官僚が応募してくると「これは天下り同然ではないか。ダメだ」と蹴飛ばし……。そういうことをひとりでやっていたのです。
 これは本来、内閣全体の方針として行なわれるべきでしたが、長妻さんは結果的に孤立しました。総理も官房長官も一切助け舟を出さず、最後は事実上の更迭という憂き目に遭いました。官邸が長妻大臣を支え、内閣に対して「長妻を見習え」と指示していれば、様相はだいぶ違ったと思います。
 もうひとつの間違いは、政治主導を「政治家主導」とはき違えたことです。政治主導とは「理念」であって、政治家は方針を示し、決断をし、責任をとるという意味合いのものであったはずなのに、民主党は「実体」として政治家が何もかもやるんだという次元の話にしてしまった。だから、予算案の策定にあたって政務三役が電卓を叩くなどという妙な光景が現出したのです。ロボットの頭脳の部分を政治家が担い、手足の部分を役所が担えばよかったのですけれど、政治家が自らなんでもやっていますというパフォーマンスに堕したのは、まさに本末転倒の事態だったのではないでしょうか。

中高年公務員の既得権保護政策!

――政治主導が失敗した結果、公務員制度改革案も官僚の手によって次々と骨抜きにされています。

古賀 6月に閣議決定された国家公務員の「退職管理基本方針」がそのことを象徴しています。これは、天下りを容易にし、かつ出世コースから外れた官僚の救済策を用意するものでした。
 その中では、たとえば官僚の独法や政府系企業に対する現役出向や民間企業に対する派遣の拡大が認められています。かつて安倍政権は、各省庁の職員が官僚の再就職を斡旋してはならないと決めました。官と民の癒着を防ぐという観点に立った、妥当な法改正でした。ところが菅政権は、中高年の現役職員の出向や派遣は退職者の斡旋にはあたらない、ということにしたのです。これでは癒着を防ぐどころか強化されかねない。天下り規制は、完全に有名無実化してしまいます。
 また、独法の役員ポストは昨秋から公募が義務づけられたにもかかわらず、現役出向の場合は公募しなくてよいということになりました。まさに骨抜きといえます。他にも、高位の「専門スタッフ職」なるものが設けられ、部長職以上の幹部を高給で遇する仕組みがつくられようとしています。出世コースから外れた課長級以下のための「専門スタッフ職」というポストは今までもありましたが、その上位版です。これなどは、次のポストがない部長や局長経験者を遇するためにひねり出された仕組みに過ぎません。
 この「退職管理基本方針」を具体化するために、いくつかの看過できない措置が講じられてもいます。
 官僚が企業に現役出向中も公務員在籍と同じく退職金算定の期間に組み入れられ、出向が不利にならないようにする制度はこれまでもありました。7月、政令が改正され、こうした退職金の算定対象となる企業が追加されたのです。NTTグループや日本郵政グループ、JR、高速道路会社などが新たに対象企業となり、事実上、天下り拡大への地ならしが行なわれています。
 8月には人事院規則が改正されて、これまで「部長・審議官以上の幹部は『所属する省庁の所管業界』へは派遣できない」とされていたのが、「部長・審議官は『担当する局の所管業界』へは派遣できない」と変更されました。つまり、部長・審議官は自らが身を置く局の所管業界でさえなければ、省所管の企業にいくらでも派遣可能となったのです。
 さらに、癒着を防ぐためには民間企業への派遣終了後の再就職を禁じるべきなのに、役所に戻って定年退職した後なら再就職しても構わないということになりました。これでは中高年の職員は、企業に派遣されている間に企業側と密約して、退職後の雇用について約束を取り付けておくことも可能になってしまいます。中高年公務員の既得権保護政策は、これほど周到かつ綿密に行なわれているのです。


見捨てられた長妻大臣!

――なぜそこまで「官」の勝手なふるまいが許されているのでしょうか?

古賀 民主党は政治主導を掲げて勇躍、役所に乗り込んだものの、本気で官僚と対峙した大臣はサボタージュに遭って仕事が前に進まなくなった。長妻さんと厚労省がその典型です。しかし、役人を排除しては何もできず、長妻さんにいたってはその結果、更迭されるはめになりました。そうした経緯から菅政権では、官邸は官僚との関係を修復しようと努め、大臣もまた官僚と仲良くしようとしているのです。
 そのことは、様々な局面に現れています。天下りの容認もそう。事業仕分けにおいてもそうです。事業仕分けの場に政務三役が出て行って、蓮舫行政刷新相を相手に「事情を汲んでください」と言って、役所の立場を懸命に代弁しているでしょう。政治家の側にとって、その見返りはちゃんとあります。マスコミでは「霞が関の利益代弁者だ」と批判されても、役所では「大臣はさすがです」などと言って持ち上げられるし、関係団体からは感謝されるわけです。官僚はそのあたり、じつにうまく政治家を気分よくさせます。既存の政策を多少、お化粧直しして「大臣のために新しくしました」と言って提案してみせたり、海外から要人が来日した時にはマスコミを呼んで大きく報道させたり……。大臣も、役所の振り付けどおりにしていれば、気分がいいうえに間違いを犯さずに済みます。仮にミスをしても弥縫策や善後策を官僚が講じてくれます。反対に、振り付けにないことをすると、長妻さんのようにサボタージュに遭う。なんとも怖い話です。繰り返しになりますが、鳩山総理、菅総理はやはり長妻さんを助けるべきでした。結果的に長妻さんが内閣の反面教師になってしまったことが、今に悪い影響を残しているといえます。

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改革派官僚に聞く(下)

――霞が関は一体、何を守ろうとしているのでしょうか?

古賀 霞が関は基本的に、一種の共同体です。生活協同組合や互助会のようなものと言っていいでしょう。明文化された合意などありませんが、そこの住人たちは「一生、霞が関ないしその周辺で生きていきます」という誓いを立てているようなものです。中央官庁に入った時はそんなことは考えておらず、国のために己を犠牲にしようとまで思っている人がどれだけいるかはわかりませんが、少なくとも面白い仕事をしたいと思っている人が多いのは確かです。
 ところが、だんだんとやがて霞が関色に染まってくるわけです。それは当然のことで、組織である以上は上層部の意向が下部にまで浸透する。問題はその、浸透してくる論理と言いますか、構造なのです。
 上層部は年功序列でポストに上がった人たちです。すべてのポストに本当に国民のために仕事をする人、優秀な人がいるわけではありません。そうした人たちは、国のためを思って働いているわずかな例外を除いて、こう考えているんです。「俺もそろそろ先が見えてきた。どうやって生活しようか」と。その眼前には代々続いてきた仕組みが存在します。途中で役所を辞め、政府系機関や公益法人や所管の業界団体、あるいは民間企業に天下りし、時にそれらを渡り歩きながら悠々自適の生活を送る、という長らく約束されてきた構造です。
 次にそこに行こうと思っている人は、当然、その仕組みを守りたくなります。そして、自分がそこに行くためには、もちろんその組織に所属していなければなりません。霞が関生活協同組合、霞が関互助会にです。互助会のメンバーであろうと思ったら、変なことをしてはいけない、変なことをするくらいなら何もしないほうがいい。互助会が約束する将来の利益を享受するためには、自分が互助会の最も忠誠度の高いメンバーであることを示さなければなりません。だとすると、互助会のプラスになることをするわけです。

知恵は「組織」と「利権」のために!

――プラスになることとは?

古賀 天下り先にたくさんお金が行くようにする。あるいは新しい天下り先をつくるために、もっともらしい政策目的で法律を立案し、予算を獲って団体を新設するとか。それが組織のためになるし、ひいては自分のためにもなる。
 そう考えるとお判りになると思いますが、官僚に「高い倫理観を持て」と言っても、あまり意味はないのです。彼らだって人間です。高い倫理観を持ちたいとは思っても、目の前にニンジンをぶら下げられると、どうしてもそちらに走ってしまいます。それは倫理感が低いからではなくて、ある意味では普通の真面目な人間だからなのです。こっちに行けば高い地位が保証され、生涯安泰である、というニンジンをぶら下げられた時、それには目もくれず、このような法律はやめましょうとか、こんな団体は潰しましょうとか、なかなか言えるものではありません。それを口にしたとたん、では天下り先がなくなっていいのだな、君は世話にならないのだな、となるわけです。自分はとてもそんな格好のいい、偉そうなことはいえないという“良心”が、官僚の心理規制になっている面もあります。
 結局、インセンティブの構造が問題なのです。国民のために意義のあることをしたら報われるという構造になっていない。組織のため、組織の利権のために知恵を絞って働いたら偉くなれるし、お金ももらえるという現状のような仕組みなら、誰しもそれに即した行動をとって当然なのです。

――その仕組みは、どうすれば変えられるでしょうか?

古賀 また事業仕分けを例にとりましょう。仕分けで「これを廃止せよ」との判断が下ったら、それを閣議できちんと決定事項にします。それに従わない大臣は罷免もあり得ますよと、まずは総理がはっきり言う。大臣は、それを役所に持ち帰って「これを廃止しろ」と、その件を所管する局の局長に明確な指示を出す。そして、ある刻限までに達成できたか否かを見るのです。もしできなければ、局長はクビになるかもしれないし、裏で看板の掛けかえをするようなことがあれば、それこそ即クビですよと明確に命令を下す。
 この時、課題を一生懸命にこなして期限より前倒しで達成できたとします。そのアイデアを出した課長なり、手腕を発揮した課長なりを部長に抜擢するようにするのです。局長ら幹部の働きぶりについては総理や官房長官もよく目を配り、頑張っていれば大臣に「次官にしてはどうか」と提案する。こうした構造になれば、ガラリと変わるでしょう。内閣の方針に従ってどこまで頑張ったかを評価の基準にする、政治主導の人事です。
 さて、よく頑張った人を抜擢するには、ポストが空いていなければなりません。そのためには何が必要か。無意味にポストに居座っている人に席を空けてもらうこと。つまりは降格人事です。
 現状では、官僚はよほど悪いことでもしない限りは降格させることができません。そうである限り、ポストは空かず、本当にそのポストを占めるべき人が占められない。それではダメです。私が「幹部の身分保障はやめましょう」と言うのは、そういうことなのです。幹部を任期制にして、「1年で与えられた仕事をこなせなければ、降格ですよ」といったことが可能な仕組みにする。民間企業の取締役なども任期1年や2年で、成果を出せなければ有無をいわさず降格やクビになったりするのですから、それを官庁も導入すればいいのです。

仕事はいくらでも作れる!

――霞が関的な思考や体質は、それで改まりますか?

古賀 キャリアにせよノンキャリアにせよ、今「上のほう」にいる人たちは役所に30年も勤めてその地位にあり、従来と全然異なる発想で仕事をしてくれと言っても、これは難しいでしょう。
 ですから、もはや高齢の職員をリストラするしかないと考えます。そう言いますと、必ず驚かれます。別に何も悪いことなどしていないじゃないかと。私はそこでいつもこう返すのです。今は平時ではなく、危機ですと。企業でいえば、不況で売り上げが下がったので今年はボーナスなしだとか、残業ゼロで給与10%カットだとか、そうした多少なりとも余裕のある状況ではありません。JALと同様、国は今や事業再生段階なのですから、事業仕分けをきっちり行ない、プライオリティを見直し、不要な仕事はやめ、予算をカットし、要らなくなった組織と人は削る。そして、JALで行なわれたように、希望退職を募り、希望者が集まらなければ、次に整理解雇へと進めていく。 
 クビにできないとなると何が起きるかと言いますと、人が余っている、ならば仕事を作ろう、ということになるんです。必要な仕事はいくらでも作れます。「こんなにかわいそうな人がいます。だからこのような仕事をしましょう」「これは民間ではできません。行政でやりましょう」――。役所はこういうことならいくらでも考えつきますけれど、そうであってはいけません。

「危機」の意識はあるのか!

――現状では何が足りないのでしょうか?

古賀 法制面でいえば、たとえば公務員リストラ法を制定することなどが挙げられるでしょう。公務員は失業保険料を払っていないため失業手当が出ませんので、その手当をするとか、退職金を割り増しするとか、リストラを宣告されてから一定期間は給与の支払いを受けながら職探しができるようにするとか。リストラと言うと苛烈に聞こえるかも知れませんけれど、組織の上のほうには偉そうな顔をして仕事もせず、面倒ごとは下に押し付けてばかりという人が少なからずいます。そんな人たちを早く何とかしてくれという声は、若手の中に強くあるのです。
 しかし、最も足りないのは危機感ではないでしょうか。街に出れば、派遣切りに遭ってハローワークに並んだけれど仕事は見つからない。仕事がないだけでなく、寮から追い出されて家もない。そういう話ばかりです。なのに公務員だけは仕事がなくても身分保障がある。給料も満額出るというのでは、税金で失業対策をしているも同然です。まるで身分制があるみたいです。国民の理解が得られるはずはありません。まして国の財政が危機だから消費税を上げてくれなどと言っても、誰も見向きもしてくれないでしょう。
 最も心配なのは、国に危機感が乏しくて改革が遅滞してしまう分を、民間の頑張りで補ってしまうことです。過去の遺産を食い潰し、民間の人たちが死に物狂いで頑張ることで今の日本は支えられ、しばらく支えられていく。これで仮に10年くらい持ったとしても、その間、肝心なことはまったく進まず、10年先でいきなり倒れてしまうのが怖いのです。倒れた時はもはや回復不能で、かたや世界は遥か彼方に進んでいて背中も見えない。IMF国際通貨基金)が乗り込んできても、日本の財政のあまりの酷さに途方に暮れてしまうかもしれない。
 ギリシャやアイルランドは財政危機が急激に訪れたおかげで、かえってよかったのかもしれません。韓国は97年、アジア通貨危機のあおりを食って国がデフォルトの危機に陥り、IMFが介入して財閥解体などの果断な措置がとられました。これについては様々な評価がなされていますけれど、この時の改革が韓国の今日の経済発展の基盤を作ったということだけは確かでしょう。日本が今、あるいは数年のうちに、仮に国債が大暴落してお手上げになり、IMFの助けを求めるような事態になれば、むしろ思い切ったことができる可能性もあります。今のように危機感がないままダラダラ行くと、本当にまずい局面に立ち至ってしまうのではないかと私は危惧しているのです。

2010/12/07 フォーサイト 鈴木亘(学習院大学経済学部教授)

現在、各自治体では来年4月からの保育所入所の申し込みが始まっているが、東京都や横浜市を初めとする都市部では、既に昨年を大きく上回るペースの申請が続いており、待機児童数が過去最多を更新することは、ほぼ間違いない状況である。「待機児童の解消」をマニフェストに掲げていた民主党政権であったが、政権交代以来、皮肉にも待機児童問題は深刻さを増すばかりである。
 さらに、民主党政権下で行なわれている待機児童対策や保育改革の動きは、特に菅内閣になってからというもの、迷走につぐ迷走を続けており、もはや完全に暗礁に乗り上げてしまっている。菅直人総理自身は、この10月に首相直属の「待機児童ゼロ特命チーム」を立ち上げ、時の人、村木厚子さんを事務局長に担ぎ出すなど、待機児童対策に相当の熱意を持っていたはずであるが、一体、この政権では何が起きているのだろうか。

市や区レベルの対策費!

 まず、その鳴り物入りで始まった「待機児童ゼロ特命チーム」であるが、11月中旬までに早急に緊急対策をまとめるということであったが、その予定は2週間も遅れて、11月29日になってようやく、予算総額200億円の「待機児童解消『先取り』プロジェクト」が公表となった。
 なぜ、公表が2週間遅れたのか。ある関係者が筆者に明かしたところによれば、2週間前に待機児童ゼロ特命チームの事務局から挙がってきた内容が、あまりにも「しょぼい」ものであったため、菅総理がそれに激怒し、事務局案を蹴ったためということである。何と、当初の事務局案の対策費の予算総額は、わずか「60億円」であったらしい。
 この60億円がどれぐらい少ないかというと、現在、全国には2万3千もの認可保育所があるが、その年間の運営費は2兆3千億円、それに国と地方が投じている公費・補助金は1兆8千億円にも上る。このほかに、新設する私立認可保育所には、施設整備費といって建物建設費の4分の3の費用を、公費で賄っている。公立認可保育所の場合には、用地取得費や建物建設費も全額が公費負担である。
 また、東京都認証保育所や横浜保育室など、一定の質が確保された無認可保育所へ、各自治体が独自に支出している補助金を加えると、全国の保育所に投じられている国民の税金の総額は、軽く2兆円を超すことになる。2兆円に対する60億円は、率にして何と0.3%に過ぎない。
 実際、例えば東京都で児童100人規模の認可保育所を新設すると、年間の運営費は約1億5千万円、建設費や用地費は約2億5千万円かかるから、60億円で作れる認可保育所はせいぜい15園程度、定員増は1500人に過ぎない。これではまるで、一つの市や区のレベルの対策費である。厚生労働省は、申請を諦めている潜在的待機児童も含め、全国で85万人の待機児童が発生していると公表しているが、85万人に対する1500人では、まさに「大海の一滴」というべきである。
 これでは菅総理ならずとも、対策チームの事務局のやる気の無さに、怒りだすのも無理は無い。しかし、総理が激怒して、2週間後に何とかひねり出してきた予算額も「200億円」であるから、ほとんど大差は無い。総理直轄プロジェクトにおいて、一国の総理の怒りのリーダーシップの成果は、何と140億円(60億円→200億円)に過ぎないのである。


全く行なわれなかった規制緩和!

 厚生労働省が来年度要求している社会保障関係費は28.6兆円と、文部予算や公共事業などの他の予算が軒並み1割カットされる中で、今年度予算額の27.3兆円が「聖域」としてまるまる温存された上、1.3兆円もの自然増をそのまま認められている。社会保障関係費は、国の一般歳出の半分以上を占める大盤振る舞いの予算である。待機児童対策のために、そのほんの一部分すら組み替えることが出来ない、これが「有言実行内閣」を標榜する菅内閣の悲しい現実である。
 この乏しい予算の中で、保育所の大幅な供給増を図るためには、大胆な規制緩和を行なうより手はない。しかしながら、特命チームが公表した規制緩和策は、(1)世の中にほとんど存在していない「認定こども園」のうち、これまた、ほんの一部を占めるにすぎない「幼保連携型認定こども園」の定員基準を引き下げる(開設に必要な定員数を引き下げて、開設しやすくする)、(2)認可保育所の既存ビルの空きスペースを活用するための屋外階段設置基準を緩和する(避難用の屋外階段の幅や広さ等の規制を緩和する)、という2つに過ぎなかった。
 これでは、実質的に規制緩和を全く行なわなかったといっても過言ではない。今回、打ち出されるはずであった規制緩和策の下馬評としては、(1)東京都や大阪府などが提案していた保育所や保育ママの部屋の最低面積基準の緩和、(2)特区等を通した規制緩和策の推進、(3)株式会社やNPO(特定非営利活動法人)による認可保育所の開設を実質的に拒んでいる諸規制の撤廃などが挙がっていたが、驚くべきことに、最終的に何一つ残らなかったのである。これでは、待機児童は絶対に減少しないであろう。

素人同然の副大臣・政務官!

 なぜ、このように意味も無い、やる気も無い対策案が臆面も無く出てきたのかといえば、それは現在、民主党政権下で行なわれている大元の保育改革論議自体が迷走を続けているからである。民主党政権では、今年1月に「子ども・子育て新システム検討会議」を設置し、そこで幼稚園と保育所の統合を図る「幼保一体化」や、保育所の大胆な規制緩和策を中心とする改革論議を続けてきた。
 この子ども・子育て新システム検討会議も、設置当初は政治主導として、関連省庁の政務官(大臣、副大臣、政務官の3役は民主党の議員である)が議論を引っ張っていたが、7月の参院選、9月の代表選で議員たちが忙殺される中で、だんだんと厚労省主導の議論となってきた。その後、菅内閣の成立で、関係していた保育に詳しい政務官たちが全て首をすげ替えられて、素人同然の政務官、副大臣が着任してからは、もはや政治主導など見る影も無く、完全に厚労省に乗っ取られた審議会状態となっている。
 その厚労省本省が進めている「審議会」が迷走する中で、待機児童ゼロ特命チームがそれを超えて独自の対策を打ち出せるかといえば、そもそもそれは不可能であった。なぜならば、待機児童ゼロ特命チームの事務局長をつとめる村木氏は、内閣府・政策統括官というポストに就いているとはいえ、そこは厚生労働省の出向者たちが占領している厚労省の「出店」であり、本省からみれば村木氏は、厚労省の一局長という立場に過ぎない。
 霞が関の論理から言って、その一局長が本省の進めている方針を超える越権行為を行なうことが許されるはずは無いのである。先の特命チーム関係者によれば、特命チーム事務局にははじめから、厚労省によって、子ども・子育て新システム検討会議の決定を超える対策を決めないように釘が刺されていたということである。気の毒なことに、検察からようやく解放された村木氏は、一難去ってまた一難という苦しい立場にあったのである。


幼保一元化」大混乱の“自爆テロ”!

 それでは、「子ども・子育て新システム検討会議」は現在、どうなっているかと言うと、11月1日に、約1年間の長い議論の末の結論として、現行の幼稚園と保育所をすべて廃止し、「幼保一体化」施設である「こども園」に全てを統一するという無謀な改革案を提示した。これは端的に言って、幼稚園を全て保育園にするという改革案であるから、幼稚園や保護者団体が当然のごとくそれに大反発し、現在、大混乱に陥っている状況である。
 実はこれは、厚労省による一種の「自爆テロ」であると、筆者は考えている。なぜならば、改革を混乱させ、遅らせれば遅らせるほど、既存の保育業界や厚労省の保育利権が温存されることになるからである。民主党が政権を手放す時まで、改革論議を長引かせれば、現在行なわれている全ての改革論議は御破算になる。
 だいたい、厚労省が自分の保育利権を手放し、厚生労働省とは別途、「子ども家庭省」を作るなどと言う民主党の改革案に本気で取り組むはずが無いのである。また、子ども・子育て新システム検討会議では、保育参入の大胆な規制緩和策が決まりかけており、厚労省官僚の大事な天下り先でもある保育業界団体が猛反発を行なっていた。隙があれば、こうした改革論議を壊したい、あるいは自公政権下で行なわれていたような保育業界団体に有利な案に軌道修正を図りたいと思うのが、厚労省の本音なのである。
 しかし、そこは民主党の政治主導ということで、鳩山政権下で活躍していた保育に詳しい前の政務官たちは、なんとかその動きを抑え込んで、官僚たちに、保育業界団体や幼稚園団体をなだめさせたり、利害調整をさせたりしていたのである。そして恐らくは、彼らが菅内閣でも引き続いてその任に当たっていれば、事前に周到な根回しが出来た後でしか改革案を発表させなかったはずであるから、今回のように、発表直後に関係団体が猛反発するような事態にはならなかったと思われる。
 いずれにせよ、待機児童ゼロ特命チーム、子ども・子育て新システム検討会議の双方が厚労省主導の下で立ち往生している限り、ますます深刻度を深める待機児童問題は放置され続け、一向に改善に向かわないであろう。その根本的な原因は、菅内閣が自身たちの延命だけを考えて、官僚たちに丸投げに近い政策運営を続けているからである。本音では改革に反対している厚生労働省の主導を許している限り、この袋小路に出口は見出せないのである。何も決めない、何も決められない菅内閣が続くことによる日本経済の損失はあまりに大きい。

菅総理年明け退陣へ!

2010年12月20日(月)現代ビジネス

30年間も総理の椅子を狙い続けた男は、実際にその立場になってみると、右往左往する以外、何もできないダメな男だった。鳩山よりも麻生よりも短く、わずか半年でギブアップ。お疲れ様でした、というほかない。

幕切れは1月13日の党大会

 総理になって、何かを成し遂げたかったわけではない。ただ単に、「総理になりたかった」だけの男の短い夢が、まもなく終焉を迎える。

 首相に対し、公然と"宣戦布告"したのは、まもなく強制起訴されるはずの小沢一郎幹事長だ。

「このままだと、地方が火を噴いて民主党政権は崩壊する。党執行部に対し、年内の両院議員総会開催を求めるべきだ」

 小沢氏は12月7日、東京・赤坂の中華料理店で開かれた中堅議員らとの会合で、そう警告した。

 いま民主党の議員たちは、「怖くて地元へ帰れない」(新人議員)などと、頭を抱えている。内政・外交、あらゆる面で無為無策な菅政権に、一般有権者のみならず、民主党の支持者たちまでが怒り始めたからだ。

 それを見て取った小沢氏は、とうとう倒閣へと動き始めた。会合で小沢氏は、こうも語ったという。

「政権交代は、オレと鳩山(由紀夫前首相)、輿石(東・参院議員会長)でやった。オレたちは力を貸すと言っているのに、いま党の執行部にいるのは輿石だけ。しかも、実際には排除されている。(12月12日の)茨城県議選は惨敗するだろう。これは完全に菅政権のせいだ。1月13日の党大会で大騒ぎになる前に、年内の両院議員総会で"総括"したほうがいい」

 ここで言う「総括」とは、すなわち「菅首相への退陣勧告」に他ならない。小沢氏は近しい議員らの口を通し、「自分たち(小沢一派)の処遇を考え直せ。でなければ、すぐにでも倒閣運動を起こす」と、菅首相に対して強烈な"脅し"をかけたということである。

 本来、刑事被告人になる寸前の政治家が何を言おうと、それが影響力を持つことなどあり得ない。

「負け犬の遠吠えか」

普通の首相なら、嘲笑うところだ。しかし、菅政権は違う。先の国会での法案成立率が史上最低レベル、という不名誉な結果が示す通り、「この政権は何もできない」という空気が日本中に蔓延している。そんな求心力を失った首相では、小沢氏のような"猛獣"を屈服させることはできない。

 こうして、あるシナリオがいよいよ現実味を帯びてきた。菅首相の「年明け退陣」である。民主党幹部の一人がこう語る。

「菅首相は半ばヤケになっていて、『追い詰められて辞任するくらいなら、解散して総選挙をやる』と周囲に言い放っている。しかし、それは無理。菅首相にほとんど選択肢は残されていない。身内の議員にも国民にも見放されているのだから、辞める以外に道がない」

小沢を切る度胸もなく!


菅首相には当初、か細いながらも、辛うじて選べる「3つの道」があった。

 まずは、参院で問責決議を受けた仙谷由人官房長官、馬淵澄夫国交相らのクビを切り、「内閣改造」を目指すという道である。

 菅政権のウィークポイントは、参院の「ねじれ」により、まともにやったら国会で法案がほとんど通らないこと。仙谷氏らを更迭すれば、野党が軟化して国会の審議に応じる可能性が出てくる。政権の安定化にとっては、もっとも有効な選択肢と言える。

 だが、首相にはそれすらできない。

「当の仙谷氏や、その影響下にある前原誠司外相のグループが、改造に猛反発しています。それに菅首相は実務に自信がないので、仙谷氏を切っても代わりがいない。結局、仙谷氏と心中するしかない」(前出・民主党幹部)

 仙谷氏のクビ切りができないというなら、野党が求めるもう一つの懸案、小沢氏の国会招致を強行する「第2の道」もある。しかし、これも実現は難しい。

「頑強に招致に応じない小沢氏を、仙谷氏などは最終的に党から除名する気でいた。ところが、菅首相がこれを躊躇っている。小沢氏を除名すれば、党が真っ二つに割れて収拾がつかなくなる。小沢派議員らが『その時は民主党が崩壊する時だ』と恫喝していることもあり、菅首相がすっかりビビってしまっているのです」(民主党ベテラン議員)

仙谷氏のクビも切れない、小沢氏も追放できない・・・迷路に入り込んだ首相が縋る「第3の道」は、いわゆる「大連立」だ。

 首相は11月中旬に、与謝野馨元財務相と会談。その際、自民党など野党との連携に向け、与謝野氏に対して橋渡し役を求めた。

 12月8日には、自民党の長老・森喜朗元首相とも面談。同日には、政界フィクサーの渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長が、自民の谷垣禎一総裁と極秘会談し、「民主党との連立の道はないか」と打診している。

 菅首相にしてみれば、政権延命のため、もはや藁にも縋りたい気持ちだろう。だがそれもどうやら、無駄骨に終わりそうだ。民主党中堅代議士がこう語る。

「実現の可能性ゼロです。私は自民党の議員たちともよく話していますが、『菅はウソをついてすぐ裏切る。まったく信用できない。大連立なんて話に乗るのは、自民党でも居場所がない、森氏らロートルだけだ。連立などあり得ない』と、全否定されてしまいました」

 よほど焦っているのか、菅首相は"離婚"したはずの社民党との連立復活まで仄めかし、周囲を呆れさせた。仮に社民党と再連立しても、鳩山政権がそれで行き詰まったように、普天間基地の移転など安全保障問題で、米国との関係悪化は必至。もちろん、首相が楽しみにしているという来年5月の訪米もパーになる。

気付いていないのは本人だけ!

 改造、小沢追放、大連立、すべて不可能・・・打つ手がなくなった以上、首相自身が言い放っているように、衆院を解散し、国民に信を問うべきなのか? だが、それもやはり無理なのだ。

解散という伝家の宝刀は、かつての小泉純一郎元首相のように、本当に実力のある総理にしかできません。20年前、私は当時の海部俊樹首相から、『解散をしたい』と相談されましたが、『本当にあなたにできるんですか?』と思わず聞き返したことがあります。その頃の自民党は小沢氏らの旧経世会が完全に牛耳っていて、結局、海部さんは解散することができず、身内によって引き摺り下ろされました。菅首相も、同じような状況に見えますね」(政治評論家・三宅久之氏)

 つまり、どう足掻いても"出口なし"。論理的な帰結として、菅首相はどのみち、退陣する以外に選択肢はなくなっているのである。

「最終的なトドメとなるのは、1月13日の民主党大会でしょう。この日、全国から上京してくる地方の党幹部らから、『辞めてくれ』コールが一斉に沸き起こり、否応なく、退陣を余儀なくされる。地方の流れは『菅を続投させたのは間違いだった』と、3ヵ月前とはまったく逆になっている。気付いていないのは本人だけです」(前出・民主党幹部)

ついこの間まで身内だと思っていた者たちが、敵陣に回って自分の城を取り囲んでいる・・・。菅首相の気分は、ちょうど「四面楚歌」を嘆いた項羽のようなものかもしれない。

 ただ、「虞や虞や、汝を如何せん」と、愛妾の行く末を嘆いた項羽と違い、菅首相の周辺に、表向きそういう可憐な存在は見当たらない。いるのは、「アンタが決断すればいいの!」と、尻を叩き続けているという猛妻の伸子夫人だけだ。

 そういう意味で菅首相の結末は、「史記」に残るような劇的ドラマも特になく、ごく淡々とした、あっけない幕切れになるだろう。

 いずれにしても、菅政権の崩壊がすでに明らかな以上、焦点となるのは「次が誰か」ということだ。

 民主党内でいま、名前が挙がるのはこの二人だ。前原誠司外相と、岡田克也幹事長である。

 前原、岡田両氏はともに民主党の代表経験者。民主党の長老・渡部恒三最高顧問が、「(たとえ鳩山・菅・小沢が倒れても)民主党には岡田や前原がいる」と誇らしげに語っていたこともある。総じて政界での経験不足が目立つ民主党の中では、間違いなく、総理候補と言える存在だ。

 前原氏の強みは、いまでは民主党政権の最高権力者と言って過言ではない、仙谷氏のイチオシ候補だということである。

「菅政権が倒れた後は前原氏に後を継がせ、自分の影響力を残す、というのが仙谷氏のシナリオ。彼らは、枝野幸男幹事長代理らと同じグループ(凌雲会)に属していますが、最近、毎週木曜日にグループの定例会を開くようになり、あらためて結束を確認しあっています」(全国紙政治部記者)

 さらに前原氏には、京セラの稲盛和夫名誉会長という強力な後ろ盾がある。稲盛氏は民主党のパトロンとして知られるが、京都選出の前原氏は特にお気に入りで、先月、京都で小沢氏、鳩山氏と会談した際には、「菅の次は前原でどうか」と、小沢氏に打診したとも言われている。

 また、菅政権の大きな悩みは、菅・仙谷のツートップが公明党の支持母体・創価学会から毛嫌いされていることだったが、前原氏は夫人が創価女子短大卒とされ、学会との関係は比較的良好。「ねじれ国会」解消に向けた公明党との連携がしやすくなる・・・という。

この二人の他にいないんだから!

 一方、その対抗馬と目される岡田氏は、渡部恒三氏ら長老の間で、「次は岡田君に」という声が多い。

 

「渡部氏はずっと前原氏も推していましたが、その後見役の仙谷氏が尖閣問題でミソをつけ、前原氏自身も外相としての対応に疑問符がついたため、『彼らは1回お休みだろう。やっぱり岡田君ではないか』などと話しています。仙谷氏が更迭された場合、次の官房長官に彼を推す声もあって、最終的には岡田氏で来年の統一地方選を戦うしかない、という声が増えています」(別の民主党中堅代議士)

 岡田氏の売りは、「原理主義者」と揶揄されるほど、カネや不正に対して厳格であることと、そこから来る安定感だ。ちなみに'04年に当時の菅代表が、年金未納問題で引責辞任した後、リリーフで登板したのも岡田氏だった。

 そして岡田氏と前原氏の違いは、現政権を牛耳っている仙谷大官房長官との距離感だ。

「尖閣ビデオの公開の件で、岡田氏には官邸からまったく情報が入らず、『なんで公開できないんだ?』と不満を漏らしていたというのは周知の事実。岡田氏は『なんでもかんでも面倒事を押し付けてくる。情報も何も渡さないのに、どういうことだ』と、仙谷官邸に不信感を抱いています」(民主党副幹事長の一人)

 岡田氏は幹事長として、小沢氏の国会招致を進めるべき立場にあったが、ロクに小沢氏と交渉もせず、事態が進展しないため、「岡田のサボタージュでは」という見方も党内で出ていた。そうしたことから、小沢系の一部議員からは、こんな声も上がっている。

「かつて岡田氏が旧通産省から政界入りした時、そのお膳立てをしたのは小沢氏です。だから岡田氏は、もともとは"小沢派"の一人でもあり、実際には頭が上がりません。したがって、あくまで『岡田氏が頭を下げるなら』という条件付きですが、小沢グループが彼を次期総理として推すこともあり得ます」(小沢派中堅)

 前述のように、いまや民主党政権を取り巻く環境は、菅首相が小沢氏を代表選で破った3ヵ月前とは激変した。当時、合い言葉だった「脱小沢」はすっかり風化し、いまでは「反菅・反仙谷」の空気が蔓延している。

 こうした中では、仙谷氏直系の前原氏より、どこの党派にも属さないニュートラルな岡田氏のほうがやや有利、と見る向きもある。

 果たして、前原か、岡田か---。民主党はどちらかを押し立て、出直しをして国民からの信頼回復を図るしかない。ただし、組織の崩壊過程に差し掛かっている民主党にとっては、この菅首相からの権力移譲が、果たしてスムーズにいくのかどうかという大きな関門が待ち受けている。

 というのも、前原、岡田という選択肢は、あくまで、「他にもうめぼしい人間がいないから」であり、民主党の国会議員ですら、この二人のどちらかなら、政権を立て直せるとは思っていないからだ。

「鳩・菅が倒れたから、次は前原か岡田か、などという代表経験者のたらい回しでは、どうにもならない。国民もウンザリしているでしょうし、約410人の党所属国会議員も『これじゃまた同じことになる』と思っている。前原、岡田では、結局何も変わらない」(奥村展三代議士)

また小沢にやられる!

 前原、岡田両氏が次期総理の有力候補なのは、あくまで消去法的選択に過ぎない。だから、党内では誰もが「次は彼ら」だと認めながら、誰一人、期待してもいないのである。

「前原さんは、口だけの人です。八ッ場ダムでもJAL再建でも、尖閣事件の対応でも、最初はカッコつけて威勢のいいことを言いますが、事態がややこしくなると、保身を考えてすぐ逃げる。後先のことを考えずに暴走する姿は、2・26事件の青年将校みたいです。『この人についていったら、オレら全滅するな』と、下の人間はみんな思っていますよ」(民主党若手議員)

 一方で、岡田氏の評判も決して芳しくない。というより、最悪かもしれない。菅グループ所属の若手議員がこう語る。

「最近、岡田氏と新人議員の懇談会があったのですが、ガッカリしました。新人が『党への逆風が強過ぎて辛い』と言うと、『そんなの、君らが頑張らなきゃ』と一言。他に、いろいろと執行部に対する意見が出たのですが、『オレはちゃんとやってる』だとか、『オレがマニフェストに書いたわけじゃない』とか、何でも他人事でした。こういう人に、トップは無理でしょう」

 この有り様では、菅首相が退陣しても、民主党政権はますます混乱するのが目に見えている。民主党が潰れるのは勝手だが、それはすなわち、日本という国家の低迷に繋がる。いったい、どうすればいいのか。

世論の一部で、復活の待望論が囁かれ始めた小沢氏は、前述の会合において、「オレはすぐに動けない。だからお前らが頑張れ」と、自身が強制起訴によって手足を縛られていることを認めつつ、

「決して望ましい選択肢ではないが、"非常手段"もないではない」と話したという。

 この「非常手段」とは何なのか。小沢グループ幹部の一人がこう話す。

民主党の問題は、すべてにおいて経験不足なこと。海江田万里経財相や、原口一博前総務相を推す声もありますが、やはり経験不足は否めない。だったら、外に人材を求めるしかない。たとえば、みんなの党の渡辺喜美代表や、たちあがれ日本の与謝野氏です」

 12月8日、永田町近くの寿司店で唐突に開かれた会合が、物議を醸した。この夜、小沢氏は鳩山前首相と会食したが、その場には前首相の弟で、いまは無所属の鳩山邦夫元総務相と、新党改革の舛添要一氏が同席していたからだ。

小沢一郎という政治家の特色は、政権や政党に愛着がなく、あくまで"道具"として見ていることです。仮に小沢氏が党を追放されたり、解散総選挙になって小沢チルドレンが壊滅したりすれば、小沢氏は終わり。その前に動かざるを得ない。その時には、別の道具、皆が『えっ』と思うような"ダミー"を担いで、復権を狙いに来るでしょう」(政治アナリスト・伊藤惇夫氏)

 すべては「菅のその後」に向けて動き出した。少なくともこの流れが、止まることがないことだけは確かだ。

 立身出世を願う貧乏な青年が、ある日、出会った一人の道士に枕を借りて眠ったところ、夢の中で、世の栄華と富貴、そして裏切りや失脚といった、人生のすべてを経験した。青年が目覚めた時、眠る前に炊いていたアワは、炊き上がってもいなかった。青年は栄枯盛衰の儚さを知り、納得して故郷に帰っていく。いわゆる「邯鄲の夢」である。

 政界進出以来、ひたすら総理になることだけを目指し、それ以外は何もなかった男の「菅さんの夢」はこれで終わりを迎える。次期総理には、そんな一人よがりで身勝手な夢ではなく、きちんと国民とともに夢を見ることができる、まともな人物を望みたい。

消費税増税反対、日銀法改正、国家資産の売却!

2010年12月20日(月)現代ビジネス 高橋洋一

 いよいよ民主党内の政局だ。12月20日、菅直人首相は小沢一郎元代表と会談し、政治倫理審査会へ出席を要請する。これまで小沢氏は裁判があるという理由で国会招致を拒否してきたが、どうなるか。

 今回は案外受け入れるという可能性もある。小沢氏は融通無碍、よく言えば状況に応じて柔軟に対応する政治家だ。強制起訴による裁判があっても、もともとは検察が起訴しなかった事案である。これまでの供述したことと同じことを述べれば、国会招致は何の支障もない。政治倫理審査会は小沢氏が作ったものであり、その追求が甘いことも本人はよく承知しているはずだ。

 もちろん政治の一寸先は闇なので、党内情勢次第である。メンツ問題になると解決は容易でない。小沢氏が党内にとどまって倒閣運動することや、国会招致問題を引っ張って年内に離党、新党立ち上げで政界再編ということまでありえる。

 民主党執行部の考えは単純だ。小沢氏の国会招致を前提として公明党の取り込み、国会のねじれの解消をして安定政権にしたいという魂胆である。公明党はナンバー3の勢力であるが、比較的少額の予算措置で折伏できるので、自民党もこれまで都合よくパートナーを組んできた。公明党としても政権内にいてこそ意味があると思っているので、そろそろ政権参画したい時だろう。政権の蜜を味わった政治家は1年以上も乾されているとそろそろ恋しくなるものだ。自民党との大連立も一部で出ているが、その場合も小沢抜きという話だ。


仮に政治的な単なる数あわせはできても、問題は、民主党が政権交代で期待されていたことをまったく実行してこなかった「政策力」だ。普天間も尖閣の不手際も小沢問題と関係ない。鳩山政権は脱官僚といいながら何もしなかった。菅政権になって「菅さん」は草冠がとれた「官さん」といわれるほど。天下りはまったく野放しだ。かつて「裏下り」といわれていた脱法まがいの行為について、それを取り締まる再就職等監視委員会の委員を選定せずに休眠状態にしながら、規則を改正して合法化している。

小沢なら普天間や尖閣にどう対応したのか!

 政局ではなく政策という観点から見ると、菅首相より小沢氏のほうが魅力的だ。まず、小沢氏は、内政や外交政策にこだわらない、何でもありの政治家だ(こだわりがある例外は国連中心主義くらい)。

 かつて「日本改造計画」では、小泉の小さな政府・構造改革を開陳していたが、民主党では平然と路線転換した。ところが、先の民主党代表戦では、菅政権批判に転じて、菅政権と真逆の政策を言い出したので、結果として「いい政策」を主張している。

まず、菅政権が官べったりで、官のいいなりになっていると批判している。菅政権は天下りし放題、公務員の給与カットも甘めの人事院勧告のまま。この点で菅首相は小沢氏に負けている。

鳩山・菅政権は普天間でも尖閣でもあまりにふがいなかった。もし小沢氏であれば、どうだったのか。米国も一目を置き、北京に大訪問団を連れて行き、次期指導者の習近平を強引に陛下と謁見させた彼は、これらが良いか悪いかは別にして、米国中国人脈などを生かして違った展開をみせたかもしれない。

消費税増税も、菅政権は財務省のいいなりで増税路線を突き進んでいる。そこで、同じ増税に理解がある谷垣総裁の自民党との増税大連立という話まで出ている。ここでも、小沢氏は菅政権の消費税増税を批判したので、大連立は小沢抜きということになっている。これは自民党内の小沢アレルギー払拭という意味合いもある。

小沢氏は先の代表戦で、政府資産の売却話までしている。これは増税をもくろむ財務省や霞ヶ関にとって痛い話だ。

 まず、政府のバランスシートを見ると、資産664兆7620億円、負債982兆2000億円となっている(2009年3月末)。そこで、しばしばいわれるのは1000兆円の借金が大変という話だ。学者やマスコミなどの有識者は会計が不得手の人が多く、1000兆円にころりと騙されれる。よく見ると、資産700兆円なのだから、ネットの債務は300兆円に過ぎない。

 さすがに財務省も用意がよく、財政関係パンフレットに「我が国政府の金融資産の多くは将来の社会保障給付を賄う積立金であり、すぐに取り崩して債務の償還や利払いの財源とすることができない」といいわけを書いている。バランスシートが苦手な学者やマスコミはこの「ご説明」も納得してしまい、そのまま発言する人が多い。

 だが、資産をよく見ると、固定資産200兆円、貸付金・出資金200兆円、有価証券300兆円。年金の積立金は有価証券の内130兆円で、資産の2割程度だ。これで財務省の「多くが積立金」というのは詐欺的表現なのがわかるだろう。固定資産を除く350兆円くらいは容易に売れるだろう。小沢氏はそう発言したのだ。

 貸付金・出資金200兆円は天下り先への資金提供である。これらを売れるというのは、天下り先の民営化を意味し、もはや天下りはできなくなる。霞ヶ関にとって重大事件である。小沢氏が知ってか知らずか、官僚養護の菅政権と逆の政策を打ち出すので、瓢箪から駒となる。


代表戦で小沢氏が発言した日銀法改正もいいポイントである。日銀は政府の子会社であり、政府が目標を子会社に指示するのは世界の常識だ。子会社に対して細かい金利の上げ下げまで指示せずに任せるというのが中央銀行の独立性の意味であり、デフレ脱却を期限を区切って指示できない現行日銀法は世界標準からずれている。民主党執行部は、日銀官僚や財務官僚にいいようにやられている。

TPPで政治主導を発揮するためには、消費者から生産者への期限を切った所得移転を行い、生産者の構造改革をすることが必要である。そのための手段として個別所得補償はいい仕組みだ(11月15日付け本コラム「TPPはなぜ日本にメリットがあるのか 誰も損をしない「貿易自由化の経済学」」を参照 )。小沢氏が、これを従来の自民党を支持してきた農協から既得権を奪い取るために導入したとしても、ばらまきをやめれば経済合理性のある制度だ。これをフル活用すれば、TPPを戦略的に乗り切ることができる。

政策がまずい菅政権が、菅政権の政策を批判しているために結果としていい政策を主張している小沢氏を切るというのは、何ともおかしな話だ。政策が下手でカネにきれいな菅政権か、政策はいいがカネにきたない小沢氏か、となると究極の選択になる。

 民主党は党内にうまい対立軸を描けず、その結果、国民の信頼を受けきれない。民主党らしいといえば、そのとおりだ。

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