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改革派官僚に聞く(上)

2010/12/13 フォーサイト編集部

 経済産業省から国家公務員制度改革推進本部に出向して内閣人事局や国家戦略スタッフ創設の立案などに従事し、鳩山内閣発足後は仙谷由人行政刷新相のもとで大胆な改革案を提議。しかし、2009年12月、仙谷氏により更迭されて経産省大臣官房付に――。

かつてフォーサイトでも、その動向を取り上げたことがある「筋金入りの改革派官僚」古賀茂明氏(「ひそかに退職勧奨を受けた改革派官僚」参照)。その後も、経済誌への寄稿などで民主党による公務員制度改革の後退に警鐘を鳴らしつづける氏に、今の「政」と「官」が抱える問題点について聞いた。

――野党が10月、民主党政権の天下り対策を批判する古賀さんを政府参考人として臨時国会に出席させた際、仙谷官房長官は「彼の将来を傷つけると思う」と語り、野党から「恫喝だ」と批判されました。民主党は古賀さんの発言に神経を尖らせており、経産省も「自ら退職することを望んでいる」と報じられましたが、そうしたご自身の立場をどうお考えですか?

古賀 私にできるのは人事当局の判断を待つことだけです。人事は大畠章宏経産相の決断次第ですが、大臣も基本的には事務方に任せているようです。事務方は私に「辞めろ」と言うわけにもいかず、扱いに悩んでいるのではないでしょうか。私としては、当局の判断を待ちながら、その間は可能な範囲で情報を発信していくつもりです。このままでは日本はダメになる。思い切った改革が必要だという気持ちは変わっていません。

経済が拡大するという前提は崩れた!

――このままではダメだということですが、具体的には?

古賀 バブルの頃まで、国の仕組みは経済が拡大・成長することを前提につくられていました。自民党は経済の拡大によって得られた果実を自らの支持層――たとえば農協や医師会など――に厚めに配分することで政権を維持し、官僚もまたその果実の上に自分たちの生活を守る仕組みをつくりあげ、それを維持してきたのです。経済が上向きであるなら、自民党の支持層以外にもある程度配当は行き渡りますし、官僚が果実の“上前”をはねても、つまりは税金をムダに、自分たちの利益のために使ってもまだ余裕はありました。しかし、バブル崩壊以降、経済が拡大するという前提は崩れ、果実は失われました。どこか特定の層に厚めに配分しようとすれば、一般国民が犠牲を余儀なくされます。その構造を変えなくてはならないのに何も変わらない、変えられない。これではダメだということで自民党はついに退陣を強いられ、政権交代へとつながったわけです。
 しかし民主党は、郵政民営化の事実上の棚上げ法案や農家への戸別所得補償や子ども手当の支給など、これから自分たちを支持してくれそうな層や人たちに対して手厚く保護する仕組みを構築しようとしました。旧い構造を断ち切ることを期待されながら、本質的には自民党と同じ利益誘導的バラマキの道を選んでしまったのです。「官」は「政」の本気度をよく見抜いています。官僚は民主党から「これはやれ」と言われたところに関しては形づくりにお付き合いしながらも、自分たちが守ってきた構造については「変えません。きっと大目に見てくれるだろう」という態度なのです。独立行政法人公益法人、業界団体などに事業仕分けでメスが入っても、官僚は看板を掛けかえ、名目をかえ、他の事業につけかえたりして存続を図り、ゾンビのようだと評されました。それがいい例です。つまるところ、政も官もあまり変わっていない。中国はじめいくつかの途上国は著しい成長を遂げ、欧米もそれに遅れまいと懸命になっているにもかかわらず、日本だけが井の中の蛙のごとくです。このままではいけません。


民主党が犯した2つのミス!

――民主党が掲げた「政治主導」がうまく機能しなかったということでしょうか?

古賀 民主党は政治主導のあり方について、2つのミスを犯したと思います。ひとつは総理主導を打ち出せなかったことです。
 憲法では、行政権は内閣に属すると規定されています。官僚はこれを「行政権は内閣にあるのであって、総理にあるのではない」「各省の事務を実施する権限は個々の大臣にあるのであって、総理にはない」と解釈します。これなら大臣ひとりコントロールしていれば行政の実権を握れるし、総理の“勝手なマネ”を抑止することができるからです。
 しかし、総理には大臣を任免できるという強い権限があるのです。方針に従わない大臣は罷免して自らが兼任するということも可能です。要は、総理の決意次第で、行政全般を動かすことができるのです。
 では、現実はどうだったでしょうか。長妻昭前厚生労働相のケースを見てみましょう。長妻さんはマニフェストに掲げたことを忠実に実現しようとしました。その一環として、役所の人事にも手を入れようとしたのです。大臣が仕事の目標を示し、それが達成できたか否かで信賞必罰を行なおうとした。天下りはまかりならんと宣言し、独法の役員を公募して、そこに官僚が応募してくると「これは天下り同然ではないか。ダメだ」と蹴飛ばし……。そういうことをひとりでやっていたのです。
 これは本来、内閣全体の方針として行なわれるべきでしたが、長妻さんは結果的に孤立しました。総理も官房長官も一切助け舟を出さず、最後は事実上の更迭という憂き目に遭いました。官邸が長妻大臣を支え、内閣に対して「長妻を見習え」と指示していれば、様相はだいぶ違ったと思います。
 もうひとつの間違いは、政治主導を「政治家主導」とはき違えたことです。政治主導とは「理念」であって、政治家は方針を示し、決断をし、責任をとるという意味合いのものであったはずなのに、民主党は「実体」として政治家が何もかもやるんだという次元の話にしてしまった。だから、予算案の策定にあたって政務三役が電卓を叩くなどという妙な光景が現出したのです。ロボットの頭脳の部分を政治家が担い、手足の部分を役所が担えばよかったのですけれど、政治家が自らなんでもやっていますというパフォーマンスに堕したのは、まさに本末転倒の事態だったのではないでしょうか。

中高年公務員の既得権保護政策!

――政治主導が失敗した結果、公務員制度改革案も官僚の手によって次々と骨抜きにされています。

古賀 6月に閣議決定された国家公務員の「退職管理基本方針」がそのことを象徴しています。これは、天下りを容易にし、かつ出世コースから外れた官僚の救済策を用意するものでした。
 その中では、たとえば官僚の独法や政府系企業に対する現役出向や民間企業に対する派遣の拡大が認められています。かつて安倍政権は、各省庁の職員が官僚の再就職を斡旋してはならないと決めました。官と民の癒着を防ぐという観点に立った、妥当な法改正でした。ところが菅政権は、中高年の現役職員の出向や派遣は退職者の斡旋にはあたらない、ということにしたのです。これでは癒着を防ぐどころか強化されかねない。天下り規制は、完全に有名無実化してしまいます。
 また、独法の役員ポストは昨秋から公募が義務づけられたにもかかわらず、現役出向の場合は公募しなくてよいということになりました。まさに骨抜きといえます。他にも、高位の「専門スタッフ職」なるものが設けられ、部長職以上の幹部を高給で遇する仕組みがつくられようとしています。出世コースから外れた課長級以下のための「専門スタッフ職」というポストは今までもありましたが、その上位版です。これなどは、次のポストがない部長や局長経験者を遇するためにひねり出された仕組みに過ぎません。
 この「退職管理基本方針」を具体化するために、いくつかの看過できない措置が講じられてもいます。
 官僚が企業に現役出向中も公務員在籍と同じく退職金算定の期間に組み入れられ、出向が不利にならないようにする制度はこれまでもありました。7月、政令が改正され、こうした退職金の算定対象となる企業が追加されたのです。NTTグループや日本郵政グループ、JR、高速道路会社などが新たに対象企業となり、事実上、天下り拡大への地ならしが行なわれています。
 8月には人事院規則が改正されて、これまで「部長・審議官以上の幹部は『所属する省庁の所管業界』へは派遣できない」とされていたのが、「部長・審議官は『担当する局の所管業界』へは派遣できない」と変更されました。つまり、部長・審議官は自らが身を置く局の所管業界でさえなければ、省所管の企業にいくらでも派遣可能となったのです。
 さらに、癒着を防ぐためには民間企業への派遣終了後の再就職を禁じるべきなのに、役所に戻って定年退職した後なら再就職しても構わないということになりました。これでは中高年の職員は、企業に派遣されている間に企業側と密約して、退職後の雇用について約束を取り付けておくことも可能になってしまいます。中高年公務員の既得権保護政策は、これほど周到かつ綿密に行なわれているのです。


見捨てられた長妻大臣!

――なぜそこまで「官」の勝手なふるまいが許されているのでしょうか?

古賀 民主党は政治主導を掲げて勇躍、役所に乗り込んだものの、本気で官僚と対峙した大臣はサボタージュに遭って仕事が前に進まなくなった。長妻さんと厚労省がその典型です。しかし、役人を排除しては何もできず、長妻さんにいたってはその結果、更迭されるはめになりました。そうした経緯から菅政権では、官邸は官僚との関係を修復しようと努め、大臣もまた官僚と仲良くしようとしているのです。
 そのことは、様々な局面に現れています。天下りの容認もそう。事業仕分けにおいてもそうです。事業仕分けの場に政務三役が出て行って、蓮舫行政刷新相を相手に「事情を汲んでください」と言って、役所の立場を懸命に代弁しているでしょう。政治家の側にとって、その見返りはちゃんとあります。マスコミでは「霞が関の利益代弁者だ」と批判されても、役所では「大臣はさすがです」などと言って持ち上げられるし、関係団体からは感謝されるわけです。官僚はそのあたり、じつにうまく政治家を気分よくさせます。既存の政策を多少、お化粧直しして「大臣のために新しくしました」と言って提案してみせたり、海外から要人が来日した時にはマスコミを呼んで大きく報道させたり……。大臣も、役所の振り付けどおりにしていれば、気分がいいうえに間違いを犯さずに済みます。仮にミスをしても弥縫策や善後策を官僚が講じてくれます。反対に、振り付けにないことをすると、長妻さんのようにサボタージュに遭う。なんとも怖い話です。繰り返しになりますが、鳩山総理、菅総理はやはり長妻さんを助けるべきでした。結果的に長妻さんが内閣の反面教師になってしまったことが、今に悪い影響を残しているといえます。

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