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改革派官僚に聞く(下)
――霞が関は一体、何を守ろうとしているのでしょうか?
古賀 霞が関は基本的に、一種の共同体です。生活協同組合や互助会のようなものと言っていいでしょう。明文化された合意などありませんが、そこの住人たちは「一生、霞が関ないしその周辺で生きていきます」という誓いを立てているようなものです。中央官庁に入った時はそんなことは考えておらず、国のために己を犠牲にしようとまで思っている人がどれだけいるかはわかりませんが、少なくとも面白い仕事をしたいと思っている人が多いのは確かです。
ところが、だんだんとやがて霞が関色に染まってくるわけです。それは当然のことで、組織である以上は上層部の意向が下部にまで浸透する。問題はその、浸透してくる論理と言いますか、構造なのです。
上層部は年功序列でポストに上がった人たちです。すべてのポストに本当に国民のために仕事をする人、優秀な人がいるわけではありません。そうした人たちは、国のためを思って働いているわずかな例外を除いて、こう考えているんです。「俺もそろそろ先が見えてきた。どうやって生活しようか」と。その眼前には代々続いてきた仕組みが存在します。途中で役所を辞め、政府系機関や公益法人や所管の業界団体、あるいは民間企業に天下りし、時にそれらを渡り歩きながら悠々自適の生活を送る、という長らく約束されてきた構造です。
次にそこに行こうと思っている人は、当然、その仕組みを守りたくなります。そして、自分がそこに行くためには、もちろんその組織に所属していなければなりません。霞が関生活協同組合、霞が関互助会にです。互助会のメンバーであろうと思ったら、変なことをしてはいけない、変なことをするくらいなら何もしないほうがいい。互助会が約束する将来の利益を享受するためには、自分が互助会の最も忠誠度の高いメンバーであることを示さなければなりません。だとすると、互助会のプラスになることをするわけです。
知恵は「組織」と「利権」のために!
――プラスになることとは?
古賀 天下り先にたくさんお金が行くようにする。あるいは新しい天下り先をつくるために、もっともらしい政策目的で法律を立案し、予算を獲って団体を新設するとか。それが組織のためになるし、ひいては自分のためにもなる。
そう考えるとお判りになると思いますが、官僚に「高い倫理観を持て」と言っても、あまり意味はないのです。彼らだって人間です。高い倫理観を持ちたいとは思っても、目の前にニンジンをぶら下げられると、どうしてもそちらに走ってしまいます。それは倫理感が低いからではなくて、ある意味では普通の真面目な人間だからなのです。こっちに行けば高い地位が保証され、生涯安泰である、というニンジンをぶら下げられた時、それには目もくれず、このような法律はやめましょうとか、こんな団体は潰しましょうとか、なかなか言えるものではありません。それを口にしたとたん、では天下り先がなくなっていいのだな、君は世話にならないのだな、となるわけです。自分はとてもそんな格好のいい、偉そうなことはいえないという“良心”が、官僚の心理規制になっている面もあります。
結局、インセンティブの構造が問題なのです。国民のために意義のあることをしたら報われるという構造になっていない。組織のため、組織の利権のために知恵を絞って働いたら偉くなれるし、お金ももらえるという現状のような仕組みなら、誰しもそれに即した行動をとって当然なのです。
――その仕組みは、どうすれば変えられるでしょうか?
古賀 また事業仕分けを例にとりましょう。仕分けで「これを廃止せよ」との判断が下ったら、それを閣議できちんと決定事項にします。それに従わない大臣は罷免もあり得ますよと、まずは総理がはっきり言う。大臣は、それを役所に持ち帰って「これを廃止しろ」と、その件を所管する局の局長に明確な指示を出す。そして、ある刻限までに達成できたか否かを見るのです。もしできなければ、局長はクビになるかもしれないし、裏で看板の掛けかえをするようなことがあれば、それこそ即クビですよと明確に命令を下す。
この時、課題を一生懸命にこなして期限より前倒しで達成できたとします。そのアイデアを出した課長なり、手腕を発揮した課長なりを部長に抜擢するようにするのです。局長ら幹部の働きぶりについては総理や官房長官もよく目を配り、頑張っていれば大臣に「次官にしてはどうか」と提案する。こうした構造になれば、ガラリと変わるでしょう。内閣の方針に従ってどこまで頑張ったかを評価の基準にする、政治主導の人事です。
さて、よく頑張った人を抜擢するには、ポストが空いていなければなりません。そのためには何が必要か。無意味にポストに居座っている人に席を空けてもらうこと。つまりは降格人事です。
現状では、官僚はよほど悪いことでもしない限りは降格させることができません。そうである限り、ポストは空かず、本当にそのポストを占めるべき人が占められない。それではダメです。私が「幹部の身分保障はやめましょう」と言うのは、そういうことなのです。幹部を任期制にして、「1年で与えられた仕事をこなせなければ、降格ですよ」といったことが可能な仕組みにする。民間企業の取締役なども任期1年や2年で、成果を出せなければ有無をいわさず降格やクビになったりするのですから、それを官庁も導入すればいいのです。
仕事はいくらでも作れる!
――霞が関的な思考や体質は、それで改まりますか?
古賀 キャリアにせよノンキャリアにせよ、今「上のほう」にいる人たちは役所に30年も勤めてその地位にあり、従来と全然異なる発想で仕事をしてくれと言っても、これは難しいでしょう。
ですから、もはや高齢の職員をリストラするしかないと考えます。そう言いますと、必ず驚かれます。別に何も悪いことなどしていないじゃないかと。私はそこでいつもこう返すのです。今は平時ではなく、危機ですと。企業でいえば、不況で売り上げが下がったので今年はボーナスなしだとか、残業ゼロで給与10%カットだとか、そうした多少なりとも余裕のある状況ではありません。JALと同様、国は今や事業再生段階なのですから、事業仕分けをきっちり行ない、プライオリティを見直し、不要な仕事はやめ、予算をカットし、要らなくなった組織と人は削る。そして、JALで行なわれたように、希望退職を募り、希望者が集まらなければ、次に整理解雇へと進めていく。
クビにできないとなると何が起きるかと言いますと、人が余っている、ならば仕事を作ろう、ということになるんです。必要な仕事はいくらでも作れます。「こんなにかわいそうな人がいます。だからこのような仕事をしましょう」「これは民間ではできません。行政でやりましょう」――。役所はこういうことならいくらでも考えつきますけれど、そうであってはいけません。
「危機」の意識はあるのか!
――現状では何が足りないのでしょうか?
古賀 法制面でいえば、たとえば公務員リストラ法を制定することなどが挙げられるでしょう。公務員は失業保険料を払っていないため失業手当が出ませんので、その手当をするとか、退職金を割り増しするとか、リストラを宣告されてから一定期間は給与の支払いを受けながら職探しができるようにするとか。リストラと言うと苛烈に聞こえるかも知れませんけれど、組織の上のほうには偉そうな顔をして仕事もせず、面倒ごとは下に押し付けてばかりという人が少なからずいます。そんな人たちを早く何とかしてくれという声は、若手の中に強くあるのです。
しかし、最も足りないのは危機感ではないでしょうか。街に出れば、派遣切りに遭ってハローワークに並んだけれど仕事は見つからない。仕事がないだけでなく、寮から追い出されて家もない。そういう話ばかりです。なのに公務員だけは仕事がなくても身分保障がある。給料も満額出るというのでは、税金で失業対策をしているも同然です。まるで身分制があるみたいです。国民の理解が得られるはずはありません。まして国の財政が危機だから消費税を上げてくれなどと言っても、誰も見向きもしてくれないでしょう。
最も心配なのは、国に危機感が乏しくて改革が遅滞してしまう分を、民間の頑張りで補ってしまうことです。過去の遺産を食い潰し、民間の人たちが死に物狂いで頑張ることで今の日本は支えられ、しばらく支えられていく。これで仮に10年くらい持ったとしても、その間、肝心なことはまったく進まず、10年先でいきなり倒れてしまうのが怖いのです。倒れた時はもはや回復不能で、かたや世界は遥か彼方に進んでいて背中も見えない。IMF(国際通貨基金)が乗り込んできても、日本の財政のあまりの酷さに途方に暮れてしまうかもしれない。
ギリシャやアイルランドは財政危機が急激に訪れたおかげで、かえってよかったのかもしれません。韓国は97年、アジア通貨危機のあおりを食って国がデフォルトの危機に陥り、IMFが介入して財閥解体などの果断な措置がとられました。これについては様々な評価がなされていますけれど、この時の改革が韓国の今日の経済発展の基盤を作ったということだけは確かでしょう。日本が今、あるいは数年のうちに、仮に国債が大暴落してお手上げになり、IMFの助けを求めるような事態になれば、むしろ思い切ったことができる可能性もあります。今のように危機感がないままダラダラ行くと、本当にまずい局面に立ち至ってしまうのではないかと私は危惧しているのです。
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