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消費税増税反対、日銀法改正、国家資産の売却!
2010年12月20日(月)現代ビジネス 高橋洋一
いよいよ民主党内の政局だ。12月20日、菅直人首相は小沢一郎元代表と会談し、政治倫理審査会へ出席を要請する。これまで小沢氏は裁判があるという理由で国会招致を拒否してきたが、どうなるか。
今回は案外受け入れるという可能性もある。小沢氏は融通無碍、よく言えば状況に応じて柔軟に対応する政治家だ。強制起訴による裁判があっても、もともとは検察が起訴しなかった事案である。これまでの供述したことと同じことを述べれば、国会招致は何の支障もない。政治倫理審査会は小沢氏が作ったものであり、その追求が甘いことも本人はよく承知しているはずだ。
もちろん政治の一寸先は闇なので、党内情勢次第である。メンツ問題になると解決は容易でない。小沢氏が党内にとどまって倒閣運動することや、国会招致問題を引っ張って年内に離党、新党立ち上げで政界再編ということまでありえる。
民主党執行部の考えは単純だ。小沢氏の国会招致を前提として公明党の取り込み、国会のねじれの解消をして安定政権にしたいという魂胆である。公明党はナンバー3の勢力であるが、比較的少額の予算措置で折伏できるので、自民党もこれまで都合よくパートナーを組んできた。公明党としても政権内にいてこそ意味があると思っているので、そろそろ政権参画したい時だろう。政権の蜜を味わった政治家は1年以上も乾されているとそろそろ恋しくなるものだ。自民党との大連立も一部で出ているが、その場合も小沢抜きという話だ。
仮に政治的な単なる数あわせはできても、問題は、民主党が政権交代で期待されていたことをまったく実行してこなかった「政策力」だ。普天間も尖閣の不手際も小沢問題と関係ない。鳩山政権は脱官僚といいながら何もしなかった。菅政権になって「菅さん」は草冠がとれた「官さん」といわれるほど。天下りはまったく野放しだ。かつて「裏下り」といわれていた脱法まがいの行為について、それを取り締まる再就職等監視委員会の委員を選定せずに休眠状態にしながら、規則を改正して合法化している。
小沢なら普天間や尖閣にどう対応したのか!
政局ではなく政策という観点から見ると、菅首相より小沢氏のほうが魅力的だ。まず、小沢氏は、内政や外交政策にこだわらない、何でもありの政治家だ(こだわりがある例外は国連中心主義くらい)。
かつて「日本改造計画」では、小泉流の小さな政府・構造改革を開陳していたが、民主党では平然と路線転換した。ところが、先の民主党代表戦では、菅政権批判に転じて、菅政権と真逆の政策を言い出したので、結果として「いい政策」を主張している。
まず、菅政権が官べったりで、官のいいなりになっていると批判している。菅政権は天下りし放題、公務員の給与カットも甘めの人事院勧告のまま。この点で菅首相は小沢氏に負けている。
鳩山・菅政権は普天間でも尖閣でもあまりにふがいなかった。もし小沢氏であれば、どうだったのか。米国も一目を置き、北京に大訪問団を連れて行き、次期指導者の習近平を強引に陛下と謁見させた彼は、これらが良いか悪いかは別にして、米国・中国人脈などを生かして違った展開をみせたかもしれない。
消費税増税も、菅政権は財務省のいいなりで増税路線を突き進んでいる。そこで、同じ増税に理解がある谷垣総裁の自民党との増税大連立という話まで出ている。ここでも、小沢氏は菅政権の消費税増税を批判したので、大連立は小沢抜きということになっている。これは自民党内の小沢アレルギー払拭という意味合いもある。
小沢氏は先の代表戦で、政府資産の売却話までしている。これは増税をもくろむ財務省や霞ヶ関にとって痛い話だ。
まず、政府のバランスシートを見ると、資産664兆7620億円、負債982兆2000億円となっている(2009年3月末)。そこで、しばしばいわれるのは1000兆円の借金が大変という話だ。学者やマスコミなどの有識者は会計が不得手の人が多く、1000兆円にころりと騙されれる。よく見ると、資産700兆円なのだから、ネットの債務は300兆円に過ぎない。
さすがに財務省も用意がよく、財政関係パンフレットに「我が国政府の金融資産の多くは将来の社会保障給付を賄う積立金であり、すぐに取り崩して債務の償還や利払いの財源とすることができない」といいわけを書いている。バランスシートが苦手な学者やマスコミはこの「ご説明」も納得してしまい、そのまま発言する人が多い。
だが、資産をよく見ると、固定資産200兆円、貸付金・出資金200兆円、有価証券300兆円。年金の積立金は有価証券の内130兆円で、資産の2割程度だ。これで財務省の「多くが積立金」というのは詐欺的表現なのがわかるだろう。固定資産を除く350兆円くらいは容易に売れるだろう。小沢氏はそう発言したのだ。
貸付金・出資金200兆円は天下り先への資金提供である。これらを売れるというのは、天下り先の民営化を意味し、もはや天下りはできなくなる。霞ヶ関にとって重大事件である。小沢氏が知ってか知らずか、官僚養護の菅政権と逆の政策を打ち出すので、瓢箪から駒となる。
代表戦で小沢氏が発言した日銀法改正もいいポイントである。日銀は政府の子会社であり、政府が目標を子会社に指示するのは世界の常識だ。子会社に対して細かい金利の上げ下げまで指示せずに任せるというのが中央銀行の独立性の意味であり、デフレ脱却を期限を区切って指示できない現行日銀法は世界標準からずれている。民主党執行部は、日銀官僚や財務官僚にいいようにやられている。
TPPで政治主導を発揮するためには、消費者から生産者への期限を切った所得移転を行い、生産者の構造改革をすることが必要である。そのための手段として個別所得補償はいい仕組みだ(11月15日付け本コラム「TPPはなぜ日本にメリットがあるのか 誰も損をしない「貿易自由化の経済学」」を参照 )。小沢氏が、これを従来の自民党を支持してきた農協から既得権を奪い取るために導入したとしても、ばらまきをやめれば経済合理性のある制度だ。これをフル活用すれば、TPPを戦略的に乗り切ることができる。
政策がまずい菅政権が、菅政権の政策を批判しているために結果としていい政策を主張している小沢氏を切るというのは、何ともおかしな話だ。政策が下手でカネにきれいな菅政権か、政策はいいがカネにきたない小沢氏か、となると究極の選択になる。
民主党は党内にうまい対立軸を描けず、その結果、国民の信頼を受けきれない。民主党らしいといえば、そのとおりだ。
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