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2010/08/24 00:26 産経新聞
【同盟弱体化】第4部 揺らぐ足元(下)
米国の安全保障戦略と日米同盟・統合エアシーバトル構想
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shin-ampobouei2010/dai4/siryou2.pdf
7月下旬、ワシントンの米連邦議会議事堂を異例の“陳情”に訪れた民主党議員と労組委員長がいた。在日米軍基地を多く抱える神奈川県を地盤とする衆院議員、斎藤勁(つよし)と、米軍基地で働く日本人労働者が加入する全駐留軍労働組合(全駐労)委員長、山川一夫だ。
面会相手は上院歳出委員長、ダニエル・イノウエ。米政府の国防予算を左右する立場にある。
在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)に関する日米特別協定は来年3月末に3年間の期限が切れる。改定をめぐる交渉で労務費を維持させるため、米側の理解を求めるのが斎藤らの訪問の目的だった。
「基地がなくならず、雇用だけが失われるようなことになれば『第二の普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)』のような火種になりかねない」
山川は訴えた。
「日本はインフラ、住宅、労働者を提供し、米国は日本の防衛を担う。国防予算の占める割合は日本はGDP(国内総生産)の1%未満だが米国は4%だ」
米上院では最も日本に理解のあるイノウエは2人を歓迎しつつ、日本の負担の少なさを暗に批判した。米国の肩には、イラクやアフガニスタンでの戦費負担が重くのしかかっている。国防長官、ロバート・ゲーツは今月9日、今後5年間で1千億ドル(約8兆5千億円)の国防費削減を目指す取り組みを発表した。戦費負担のしわ寄せは在日米軍に及んでいる。
同じく2人と面会した国防総省当局者はもっと直截(ちょくせつ)的だった。
「米軍駐留経費を含めた日本の防衛予算のGDP比は少ない。外務、防衛両省に直接訴えてみてはどうですか?」
日米両国が財政上の困難から防衛予算の効率化を迫られるなか、中国は着々と軍事力強化を進めている。
今月16日、国防総省は中国の軍事動向に関する年次報告書を発表。2009年の実際の国防関連費は、中国政府が発表した予算案のほぼ2倍の1500億ドル(約12兆7500億円)と推計した。
日本の防衛予算は平成22年度予算で約4兆8千億円。その2.6倍もの予算を、中国は国産空母や戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)の建造に注ぎ込み、太平洋など外洋での作戦能力の向上を目指しているのだ。
「そのうち東シナ海も南シナ海のように、中国の(領土保全などにかかわる)『核心的利益』になる。米国にとって、中国はもはや『軍拡の懸念』の域を超えた」
対中外交に携わる外務省幹部は報告書を読んだ後、こうつぶやいた。さらに東シナ海での中国のガス田開発の真の狙いについてこう断言した。
「海上に構造物を構築し、いずれ既成事実化した上で、太平洋への拠点にしたいと考えている。資源獲得だけが目的ではない」
中国の動きを日本は指をくわえてみているしかないのか。
自衛隊幹部は「海・空戦力をより一体的に運用する米軍の『統合エアシーバトル構想』に日本が主体的に協力できる余地は多い」と語る。
その一つが中国海軍の動向の監視だ。哨戒機などによる警戒・監視を強化して、情報収集能力を高める。陸上自衛隊や在沖縄米海兵隊を緊急展開させる高速輸送艦の導入も検討課題だ。陸自と海兵隊の共同対処能力の強化や、集団的自衛権の憲法解釈見直しで抑止力を高めることが必要なことは言うまでもない。
思いやり予算も抑止力維持の必要経費だが、政府は事業仕分けの対象としたばかりか、平成23年度予算案の編成に当たっては公開の場で予算の優先順位を付ける「政策コンテスト」の対象とする方針だ。日米同盟よりも「財政の論理」の方が重要なのか。
日米両政府が思いやり予算をめぐる交渉を始めた直後の7月27日、下院軍事委員会の公聴会に出席したアジア・太平洋安全保障問題担当の米国防次官補、ウォレス・グレグソンは事前に提出した書面のなかで、日本に主体的な「関与」を求めた。
「これ以上の受け入れ国負担(思いやり予算)の削減は潜在的な敵国に、日本が防衛へのかかわりを真剣にとらえていないというサインを送ることになる。日本は防衛予算と受け入れ国負担を増やすべきだ」
この問いかけに日本はどう答えるのか。(敬称略)
この連載は加納宏幸、半沢尚久、酒井充、尾崎良樹、有元隆志、久保田るり子、ロンドン 木村正人が担当しました。
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