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2010/11/27(土) サーチナ
北朝鮮と韓国の砲弾射撃事件発生後の24日、韓国の『中央日報』は両国の西海(中国名:黄海)海域における軍事力に対し比較を行った。中国網日本語版(チャイナネット)が報じた。
■韓国軍側の戦闘力
報道によれば、北朝鮮の攻撃を受け、韓国軍が直ちに反撃に投入したK-9自走榴弾砲は韓国が独自に開発したもので、1999年に配備された新しい武器である。単体での製造価格だけで40億ウォン(約3億円)だ。
砲身は長さ8メートル、口径155ミリで、最大射程距離40キロ。1分当たり6発の射撃が可能で、急速発射時は15秒間に3発を発射できる。殺傷半径も50メートルと、北朝鮮軍の76ミリ、130ミリ海岸砲(殺傷半径15~30メートル)を圧倒する。さらにK-9は1000馬力のディーゼルエンジンを搭載しており、最大移動距離は67キロに及ぶ。
現在、韓国軍は白〓島(〓は令に羽 ペンニョンド)と延坪島(ヨンピョンド)に数台の砲台を配備している。さらに、それと連動した形で対砲兵レーダーAN/TPQ-36(探知距離24キロ)とAN/TPQ-37(50キロ)も配備している。
報道によれば、韓国側の黄海5島「北方限界線(NLL)」における防御戦力は海軍陸戦隊が主力となっている。砲撃を受けた部隊も、延坪島に駐在していた海軍陸戦隊延坪部隊だった。本部隊は延坪島近辺の住民(1800名強)のうちの1000人の兵力で構成されている。現在、延坪島と江華島の間にある牛島にも60名強の中隊兵力(牛島中隊)が配備されている。白〓島駐在の海軍陸戦隊は6部隊(黒龍部隊)で、これも4000人の兵力で構成されている。さらに、白〓島南方に位置する大青島(デチョンド)と小青島(ソチョンド)にもそれぞれ防御部隊を駐在させている。
海軍陸戦隊はK-9自走砲の他にも、旧型M47戦車の砲台から分離した90ミリ海岸砲と迫撃砲、無反動砲なども数十から百門強を保有している。また北朝鮮の空襲および空中侵入に備えた対空戦力として、20ミリのバルカン砲と短距離対空ミサイル「ミストラル」数十基も配備している。白〓島及び延坪島近海では、海軍高速艇編隊が常時非常警戒勤務を行っており、天安艦襲撃事件以降、韓国型駆逐艦(KDX-I,3500トン級)もNLL付近まで前進配備されている。(つづく 編集担当:米原裕子)
*南北の黄海軍力配備を比較 北朝鮮の海岸砲は威力大(2)
■北朝鮮軍の戦闘力
11月23日、北朝鮮は黄海道康リョン郡(ファンへド・カンリョングン)基地と茂島(ムド)基地から海岸砲・曲射砲で延坪島を攻撃した。これらの基地には射程距離27キロの口径130ミリ、12キロの76.2ミリの海岸砲が配備されている。
これまで黄海道一帯に配備される海岸砲は、そのほとんどが射程距離10キロ前後の口径76ミリ・100ミリのものだった。しかし北朝鮮は今回、それを射程距離が長い大口径砲にかえたのである。さらには、地上曲射砲も同時に発射している。情報によれば、康リョン郡には射程距離27キロの口径130ミリ、54キロの170ミリが配備されているという。
韓国軍当局がもっとも懸念(けねん)している黄海のシナリオは、北朝鮮が特殊部隊を投入し、延坪島を奇襲占領するというものだ。北朝鮮のこれまでの動向はまさに海岸砲を使用して黄海の状況を探っているという状態だ。事実、延坪島などの黄海5島は北朝鮮砲の射程距離範囲に入っている。白〓島(〓は令に羽 ペンニョンド)から北朝鮮の長山(チャンサン)岬までの距離は17キロメートルしかない。北朝鮮軍が76ミリの海岸砲を配備したウォルレ島からは12キロメートルだ。白〓島からは肉眼で長山岬が見える。砲撃当日、北朝鮮の砲台が位置する康リョン郡から延坪島までは約12キロの距離しかなかった。
また、北朝鮮は海岸砲を、白〓島及びその付近の長山岬、オンジン半島、延坪島北側の康リョン半島およびウォルレ島、大睡鴨(デスアプ)島などの海岸と島の岩壁に作った洞窟に隠しており、その数およそ1000門と推定される。海岸砲は洞窟陣地内から長さ5メートルほどのレールに沿って前後に移動させることができる。そのため、射撃時には洞窟陣地内から外に移動させ、偽装を行った後に発射するのである。
そして、北朝鮮軍の海岸砲台が脅威的であるもう一つの理由は、ともに配備されている地対艦ミサイルである。北朝鮮は黄海道海岸の山一帯に大量の射程距離83-95キロのSAMLET、シルクウォーム地対艦ミサイルを配置している。北朝鮮が海岸砲攻撃を行う際に、韓国海軍が艦砲射撃で反撃を行うのが難しい理由がこれである。(おわり 編集担当:米原裕子)
金正男
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E6%AD%A3%E7%94%B7
金正日の長男・正男を切り札として庇護する中国!
2010.11.26(Fri)JBプレス福山隆
個人的には3代世襲には反対しています」。金正日の長男の金正男は、中国・北京でのテレビ朝日のインタビュー(10月9日)にそう答えたという。(敬称略)
金正男の「3代世襲に反対」発言は中国の恫喝か!
金正男がインタビューで自分を排除した父・金正日と「皇太子」の座を射止めた弟・正恩を挑発するかのように「個人的には3代世襲には反対」と言って憚らなかったのはなぜだろう。
本来なら抹殺(暗殺)される運命にある金正男の背後には中国がついている。
金正日の瀬戸際外交などで今や世界の「孤児」となった北朝鮮は、唯一の庇護者である中国が「生殺与奪の権」を握っている。
中国は意図的に金正男を通じ中国の本音を代弁させ、金正日・正恩父子を恫喝し「改革開放実行の約束の履行」を迫っているのではあるまいか。
中国は、金正男のインタビュー発言を通じ、正男を「スペアカード」として庇護する意志・立場を鮮明にしたのではないだろうか。
中国は金正男「傀儡政権」を準備か!
金正男を温存し、彼を中心に「傀儡政権」を創り、「平時における内政干渉」と「有事における軍事介入」の「切り札・旗印」にしようとしている可能性がある。
そもそも、「金王朝」の「高祖」金日成(本名は金 成柱=キム・ソンジュ=)は、旧ソ連のスターリンが派遣した人物で、北朝鮮はスターリンの「傀儡政権」が樹立したものだ。
中国が金正男を中心に「中国版の傀儡政権」を準備しているとしても驚くには当たらない。
尖閣諸島になりふりかまわず進出しようとする中国の侵略性を見れば、隙あらば北朝鮮をチベット化しようとする魂胆さえ疑われる。
中国が金正恩世襲容認に転じた思惑!
9月上旬に予定されていた代表者大会を9月30日に遷延せざるを得なかった最大の理由は、中朝間で世襲の容認(承認)と引き換えに改革開放政策の受け入れ・実行を確約することを巡り、綱引きをしていたからではないだろうか。
中国が3代にわたる世襲と、後継者として(金正男ではなく)金正恩を受け入れた背景・理由について考えてみたい。
第1の理由は、中国が金正日の健康が悪化し、世襲が切迫していると判断・認識していることだ。
仮に、あくまでも中国が金正恩の世襲を認めず、公式に世襲の「お披露目」を延ばせば、世襲準備不十分なままに金正日の死を迎えるような事態を招きかねない。
そうなれば、内部崩壊などのリスクが増大する可能性がある。
第2の理由は、金正恩・北の指導部へ恩を売ることを意図したからだろう。中国が強硬に金正恩への世襲に反対すれば、後々中朝関係が悪化しかねない。
中国側は、かつて金正日の世襲に鄧小平が執拗に強く反対したことが、金正日の対中認識・政策に悪影響を及ぼしたことに鑑み、世襲プロセスのスタート時点で、金正恩と金正日亡き後の北の指導部の心象を害することは得策ではない――と判断した可能性がある。
第3の理由。中国が金正恩への世襲を認める代わりに金正日は改革開放に踏み出すことを確約した可能性が高いと考えられる。
中国は、これ以上北朝鮮の経済が深刻化し、いつ崩壊するかもしれない状態が続くことは困る。従って、世襲容認を条件に、かねて要望している改革開放に踏み出すことを強く求め、北朝鮮がこれに応じた可能性が高い。
金日成・正日父子の世襲はなぜ成功したのか
先の金日成・正日父子の世襲の経緯を振り返ることは、今回の金正日・正恩父子の世襲の成否を占ううえで参考になるものと思う。
金日成・正日父子の世襲が成功した要因として、以下の理由が考えられる。
●金正日の出自・性格・資質
(1)出自
金正日の出自は、父・金日成は言うに及ばず、母親・金貞淑も金日成の配下で抗日ゲリラ戦に従事しており、北朝鮮の基準では最も誇るべき経歴の持ち主だった。
(2)性格・資質
金正日の性格については、元KCIA北朝鮮調査室長の宗奉善(ソンボンソン)が『金正日徹底研究』(作品社)で詳しく分析・説明している。
これによると、金正日は「利口で、親和力と芸術的感覚」を持ち、「組織運営能力」「部下と側近から確固たる忠誠心と服従心を引き出す能力」「狡猾さと果断さ」を備えているという。
その一方で、「残忍性」「せっかちさ」「傲慢性」「冷血性」「他人に対する不信と閉鎖性」「心的不安定」「気まぐれで暴力に無節操」「小英雄主義と冒険主義的な顕示欲及び陰険さと狡猾さ」も持っているという。
宗奉善によれば、これらの「二重人格的」資質は、独裁者としてふさわしい資質で、ヒトラーやスターリンとも共通するものだと指摘している。
●十分な準備期間を活用した世襲・独裁体制の確立
金日成・正日父子の世襲における最大の特徴は「世襲実現までの十分な準備期間(約30年)があったこと」である。
金正日は父金日成の盤石の権力基盤と十分な「時間」を最大限活用し、世襲・独裁体制の確立に邁進した。
(1)実務経験
金正日は、大学卒業直後から、党務・政務などの様々な部署で勤務することにより、実務経験を積み重ねた。ただ、最も重要な軍務経験は皆無であり、後に軍を掌握するうえで苦心し、共産党政権国家では異例の「先軍政治」を採用しなければならない羽目になった。
(2)軍の掌握
軍歴を持たないハンディを自覚し、あらゆる術数を駆使し、軍の掌握に努めた。その一例。
秘密パーティーからの帰途、泥酔・運転し、交通事故で瀕死の重傷を負った軍最長老の呉振宇次帥を空路モスクワへ搬送し、莫大な治療費をかけて一命を取り止めさせ、同元帥を篭絡した(ちなみに、この事故は金正日による謀略説との見方も)。
また、軍掌握のためには、単に高官の掌握のみならず、実績を見せつけ、箔をつけるために、総参謀部・偵察局を使ってラングーン爆弾テロ事件や大韓航空機爆破事件などを指揮したと言われる。
(3)ライバルの排除
金正日は金日成の偶像建設などで歓心を買う(ゴマ摺り)ことに心がけ、自らの世襲を確かなものにするとともに、「脇枝(嫡流でない傍流)」の異母弟・平一、継母・金聖愛、さらには叔父・金英柱などライバルとなる可能性のある者を排除した。
平一には「断種手術」までさせたと言われる。継母・金聖愛の排除に関してはその兄弟などが軍や党の要人であり、「政道政治(王の外戚の政治介入)」を防ぐうえでやむなしと、夫・金日成もこれを黙認したと言われる。
(4)金日成からの権力奪取
極めつけは、金日成の体力気力の衰えに乗じ、金正日が徐々に父親の実権を奪い取ったことだ。
父親への情報をコントロールすることにより、「裸の王様」状態にし、金日成晩年(1985年から金主席逝去の1994年)には、事実上、「金正日独裁体制」を確立していたと言われている。
上記の金日成・正日親子の世襲成功の要因を念頭に、金正恩の世襲の成否について分析してみたい。
金正恩の世襲は成功するか!
金正恩の出自・性格・資質
(1)出自
正恩は正妻の子だが、長男ではない。また、正恩の生母の故高英姫(コ・ヨンヒ)は1953年に大阪から渡北した在日朝鮮人である。
北朝鮮の出身成分としては、最低ランクのグループに属する。この弱点をカバーするためか、正恩の「育ての母」は金正日の実妹の金敬姫だというプロパガンダが計画されているという情報もある。
(2)性格・資質
金正恩についての個人情報はほとんどなく、その資質は分からない。
年齢も資質だと考えれば、27歳はどう見ても若すぎる。「長幼の序」を重んじる儒教社会の北朝鮮では、いまだ「若造」の新独裁者に対し、彼を取り巻く70代・80代の軍や党の幹部は「頼りない」と思うに違いない。
本来、国家指導者になるべき人物は、ありとあらゆる修羅場を潜り抜け、競争に勝ち抜き、生き残った者である。古くは血で血を洗う政争や戦争、そして現代民主主義国家では、選挙戦の洗礼を経なければならない。
共産党一党独裁国家の中国においても習近平と李克強が胡錦濤の跡目を争っているではないか。そんな環境を潜り抜けてこそ、一国の指導者にふさわしいリーダーシップやしたたかさが培われ、周囲も納得するのだ。
「3代目が家を潰す」という諺がある。これは、初代創業者の資質(情熱・気力、独創性、努力、忍耐力)などが、代を重ねるごとに衰え、3代目に至ると、もはや初代・2代目が作り上げた政権・会社などを維持運営するだけの器量がなくなるという意味だと思う。
正恩は苦労知らずの環境で、皇子の1人として、わがままに育ったことは間違いなかろう。その意味で、「3代目が家を潰す」という一般論には符合するはずだ。
正恩はスイスに留学し、中国語、ロシア語、ドイツ語、英語を理解すると言われる。父親に比べて、特異な点だ。
一般論としては「国際派」の正恩は「主体思想」に凝り固まった金正日よりも物分りがよいと言えないだろうか。この点、中国、米国、ロシアなどの間では、父親よりも正恩の方が御しやすいと見る向きもあるだろう。
●十分な準備期間
金正日の健康状態から判断して、父金正日(約30年の準備期間)に比べ、金正恩の準備期間は短すぎると見るべきだろう。このことが様々なハンディキャップとなり、世襲成功の阻害要因を生み出す原因になることだろう。
(1)実務経験
党務・軍務・政務などの様々な部署で勤務することにより段階的に実務経験を積み重ね帝王学を学ぶ、という機会がほとんどないのではないか。
党務として党中央委員及び党中央軍事委員会副委員長、軍務として大将の肩書きは、正恩の職務経験の乏しさと比較しあまりにもギャップがあり過ぎる。
短期間に実力を蓄えることができなければ、部下の信頼を失い、「馬鹿殿」として祭り上げられ、やがて失脚する可能性がある。
(2)軍・党の掌握
父金正日同様に軍歴を持たないことは正恩の世襲にとって最大の弱点。このために、李英鎬次帥(党中央軍事委副委員長、政治局常務委員)を後見役につけたと言われる。
しかし、金正日亡き後、軍に確固たる基盤を持たない正恩が本当に軍を掌握できるかどうか疑わしい。
また、金正日の遺産である先軍政治が世襲の災いになるかもしれない。強大化した「猛虎(軍部)」は、金正日には素直に従ったが、「主人」が若く経験不足の正恩に代わるや、軽んじて牙を剥いて噛みつく(クーデター)かもしれない。
(3)ライバルの排除
意外なライバルは、後継者争いから脱落したはずの異母兄・金正男であろう。
彼は、中国の庇護の下、北朝鮮の路線問題(中朝間の最大の争点)を巡る争いや、崩壊の危機などにおいて、中国の対北朝鮮対処の「持ち駒」ないしは「切り札」として使われる可能性がある。
正男は中国の庇護の下にあり、暗殺などにより排除することは不可能だ。
また、前項で述べたように、金正日は「最後の頼みの綱」として実妹の金敬姫・張成沢夫妻に正恩を託そうとしているようだ。
しかし、金正日自身が叔父の金英柱を排除した例のごとく、金正恩の立場から見れば叔父・叔母はまさしく「脇枝(嫡流でない傍流)」にほかならない。金正日亡き後も、金正恩と金敬姫・張成沢が一枚岩あるいは一蓮托生の関係であると即断するのは危険だ。
(4)実績作り
韓国海軍哨戒艇の天安撃沈は、金正恩の実績作りのために人民武力部傘下の偵察総局が実行したという情報がある。
今後、祖父や父同様に独裁者に相応しいカリスマ性を創り上げるために、この種の暴力行為・冒険を敢行する可能性がある。国際社会として容認できないのは、当然だ。
また、正恩にとっても、これが成功すればいいが、失敗すれば、国際的孤立を一層深め、引いては政権基盤を損なうことにもなりかねない。
(5)金日成からの権力奪取
金正日は父の体力気力の衰えに乗じ、徐々に実権を奪い取った己の体験に鑑み、死の直前までは息子の正恩に権力を委譲しない可能性が高い。このような状況で、金正日が突然死を迎えた場合は、世襲が危うくなる可能性がある。
以上のように分析してみると、金正恩の世襲には内憂外患が多く、極めて厳しいと言わざるを得ない。今後、金正恩の世襲の成否を占う上で、その動向として注目すべきポイントは次のようなものだろう。
結びに代えて―今後の注目ポイント!
第1のポイントは、金正日の健康状態の推移。金正日の世襲を見ていると、豊臣秀吉の晩年が思い出される。
金正日・正恩父子の年の差が42歳に対し、豊臣秀吉・秀頼親子の場合は56歳。秀吉は晩年死病に罹ると、その子秀頼の世襲を確かなものにするために、五大老の徳川家康や前田利家らを枕頭に呼び、秀頼に忠誠を誓約する起請文に血判署名させた話は有名だ。
しかし、秀吉が死ぬと家康は、権謀術数を用いて主家を攻め滅ぼした。金正恩の場合も、父がいかに世襲を確実にするための手を打っても、残された時間が短ければ、正恩の世襲は危うくなるだろう。
北朝鮮の権力中枢における権力闘争は金正日の健康状態の悪化に比例して熾烈さを増すだろう。
第2のポイントは、金正日が正恩を託す「最後の頼みの綱」とも言うべき実妹の金敬姫(大将・政治局員)とその夫の張成沢(国防委員・政治局員候補)それに軍を代表する総参謀長・李英鎬次帥の動向だろう。
金正日が亡くなれば、兄の権威で力を得ていた金敬姫の影響力は低下するものと思う。そのことに気づかず、金敬姫が出しゃばると、正恩の後継をぶち壊す役になりかねない。
夫・張成沢は、金正日の最愛の妹ということで、金敬姫の「カカア天下」を許してきたが、金正日亡きあとは、そうはことが収まらないだろう。
そもそも張成沢・金敬姫夫妻は、仮面夫婦と言われており、夫婦一致して正恩の世襲を推進できるかどうか疑問。
古来「雌鳥が鳴くと国が滅ぶ」と言われるが、張・金夫妻の対立(夫婦喧嘩)が思わぬ波乱の要因になるような気がする。
権力争いに女性が介入すると、ろくなことはない。漢の高祖・劉邦の妻の呂太后や、毛沢東の妻の江青の例を見れば頷けるだろう。
第3のポイントは、中朝関係の推移。
中国の経済発展にとって周辺の平和と安定は不可欠である。しかるに、金正日時代には中国は瀬戸際外交で揺すぶられ続け、その尻拭い役に甘んじさせられた。
また、6カ国協議においては大国の面子を潰されることもしばしばだった。さらに、今後も北朝鮮人民2000万余を養い続けることは、無視できない「お荷物」だと思っていることだろう。
中国は、今後、アジア地域を圧倒する力を背景に、北朝鮮に対する圧力・支配を強めるだろう。中国は、北朝鮮に対する支援・庇護と引き換えに、自国と同様に改革開放を迫るのは確実だ。
これに対し、北朝鮮は従来通り支援だけは受けるものの、言を左右し改革開放実施には必死に抵抗するだろう。改革開放政策の導入が、自らの体制を崩壊させることを知悉しているからだ。
中国は、経済支援はもとより、先にも述べた金正男を中心とした「中国版の傀儡政権」を「カード」として、内政干渉をも厭わず、改革開放を迫るだろう。
中朝は、今後、一見友好関係を装いながらも、水面下では北朝鮮の改革開放路線の実施を巡り虚虚実実の攻防を繰り広げるものと思われる。
かかる中朝の攻防が、金正日の健康が衰えゆく晩年、そして正恩にとっては世襲準備段階に展開されるわけだ。
北朝鮮が中国の強圧から逃れる道は、対米関係の改善だ。
最近の人事で、第1外務次官の姜錫柱(カン・ソクチュ)が副首相に、外務次官の金桂寛(キム・ケクァン)が第1外務次官に、外務参事官の李容浩(イ・ヨンホ)が外務次官へそれぞれ昇任したが、これは対米外交を予期した布陣と見るべきだろう。
ちなみに、金父子といういわば「窮鳥」は中国の脅迫を逃れるために、米国がダメなら、ロシアの懐に逃げ込もうとするかもしれない。しかし、この選択肢は、中ロ関係が良好なうちは「通じない手」なのである。
朝鮮半島は古来、「日本の脇腹に突きつけられた『匕首(短刀)』」と例えられるように、大陸国家(現在では中国・ロシア)の脅威を日本に伝播できる地政学上の位置にある。
古来日本は、倭の時代には、白村江の戦で唐・新羅連合軍に敗れ、唐の対馬海峡を越えた侵攻に怯え、鎌倉時代には、2度にわたる蒙古襲来に見舞われた。
明治維新後は、朝鮮半島を「戦略縦深(バッファーゾーン)」として確保するため、日清・日露の宿命的な戦争を戦った。
上述のごとく、世襲を巡り、今後北朝鮮では、内政・外交(主として中朝関係)において予断を許さない情勢が推移するものと思われる。日本は、安全保障上の観点から、重大な関心を持って、その推移を注視すべきである。
DF-21(東風-21 (Dong-Feng-21)
http://ja.wikipedia.org/wiki/DF-21_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB )
弾道ミサイル配備で南シナ海「聖域」化を目論む中国!
2010.11.26(Fri)JBプレス 阿部純一
現在の中国の軍備について米国が最も関心を寄せているのは、対艦弾道ミサイルの開発だろう。
中国は「東風21」をベースに、衛星情報をもとに軌道を修正し、米海軍の空母を攻撃する能力を保持する通常弾頭型の「東風21D」の開発を進めている。これを米国は、中国の「接近阻止」(Anti-Access)戦略の主要手段として見ている。
中国は1996年3月の台湾総統選挙に際し、弾道ミサイル演習で台湾を威嚇した。それに対して米国は2個空母戦闘群を台湾近海に展開して中国に圧力をかけた。
この前例を念頭に置けば、台湾に対して中国が軍事行動を起こそうとする場合、中国は米国の介入が当然あり得ると考えるだろう。
米国の軍事プレゼンスを示す最も効果的な手段が空母の派遣であるとするなら、その空母を攻撃し得る能力を持つことで介入阻止を図るのは、中国としては当然の選択ということになる。
弾道ミサイルが米空母を台湾から引き離す!
「接近阻止」の能力は、例えば潜水艦や巡航ミサイルでも担うことができる。実際、中国はそのためにディーゼル潜水艦の近代化と増強に努めてきたし、対艦ミサイルも開発、増強してきた。
しかし、それらに対して、米軍にはある程度効果の期待できる対処法がある。潜水艦には潜水艦で対抗できるし、米海軍の対潜哨戒能力は高い。巡航ミサイルに対しては、空母を護衛するイージス艦の防空システムで対応が可能だからだ。
しかし、弾道ミサイルで攻撃してくるとなると、厄介なことになる。
ミサイル防衛システムとして準中距離ミサイルまで対応が可能なスタンダードミサイル「SM-3ブロックIA」を搭載したイージス駆逐艦が近くで護衛に当たっていれば、対処し得るだろう。
だが、海上を移動する空母に合わせて軌道を修正しながら接近してくる弾道ミサイルに対して、現有のミサイル防衛システムがどの程度有効なのかは分からないからだ。
空母艦載機の作戦行動半径は700キロメートル程度とされ、最大でも1000キロメートル以内だろうから、米空母を台湾から1000キロメートル以上引き離しておけば事実上無力化できる。対艦弾道ミサイルは、中国にとってそのための有効な手段と考えられる。
海南島基地に新ミサイル配備、南シナ海「聖域」化への布石!
これに関連して、2010年8月7日、香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」が興味深い記事を載せていた。
その記事によれば、広東省北部の韶関市に新設されたミサイル基地に、第2砲兵96166部隊が配属され、準中距離通常弾頭ミサイル「東風21C」か「長剣10」地上発射巡航ミサイルのどちらかが配備される見込みだという。南シナ海の西沙、南沙諸島、台湾、さらには沖縄の嘉手納までを射程範囲に収め、また同基地に空母攻撃用の「東風21D」が配備されるという観測もあるとされている。
もちろん、その射程から見て、北部を中心としたベトナムの大部分、フィリピン、沖縄の普天間基地も攻撃可能であろう。精密誘導が可能な「長剣10」なら、米海軍の空母も狙うことができる。
つまり、韶関市に新設されたミサイル基地は、南シナ海における中国の「接近阻止」戦略の一角を担う形になる。
中国は現在開発中の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「巨浪2」を12基搭載する予定の「晋」級ミサイル原潜(タイプ094)をすでに3隻就航させ、南シナ海の海南島に新設された基地に配備している。
「晋」級ミサイル原潜を抑止力として安定的に運用しようとするなら、南シナ海をミサイル原潜の「聖域」にしなければならないことになる。そのためには、南シナ海を中国が完全にコントロール下に置く必要がある。だが、もちろん南シナ海は、例えば渤海湾のように自らの領土に囲まれた内海ではない。
今年に入って、南シナ海を中国の「核心的利益」と位置づけ、同海域の南沙諸島などの領有を巡り、中国の強硬な姿勢が目立つのも、その関連で考えなければならないであろう。また、2009年3月に海南島から120キロメートル離れた南シナ海で潜水艦の音響調査をしていた米海軍音響測定船「インペッカブル」の活動を、中国が民間船舶を使って執拗に妨害したのも、同様の意図に基づく行動であろう。
ミサイル原潜配備のための南シナ海「聖域」化に向けて、中国は着実に歩を進めているのである。
日本の米軍基地、自衛隊基地が危機にさらされている!
なお、さらにわが国にとって無視できない報道があった。
米紙「ワシントン・タイムズ」は、11月14日に次のように伝えた。米国議会の政策諮問機関「米中経済・安全保障検討委員会」が17日に公表予定の年次リポートによれば、「米中間で紛争が起これば、中国はミサイルによる攻撃だけで、韓国の烏山、群山両基地、日本の嘉手納、三沢、横田各基地、グアム島のアンダーソン基地という東アジアの6つの主要基地のうち、グアム以外の5つまで破壊することができる」というのである。
実際に、韓国も日本も、米国防総省の年次リポートで示されている中国本土から2000キロメートル以内をカバーする中国の「接近阻止」領域の範囲に含まれているし、中国の「東風3」「東風21」はその射程から日本攻撃の任務も負っているものと判断されてきた。
この記事の趣旨は、それだけ中国の通常弾頭ミサイルや巡航ミサイルの能力が向上してきたことを強調することにある。
しかし、なぜこの記事で横須賀の米海軍基地や、沖縄駐留米海兵隊の普天間基地への攻撃に言及していないのか不審に思い、米中経済・安全保障検討委員会が公表した年次リポートに当たってみた。
その結果、分かったのは、当該部分の元になったのは、2010年5月に開かれた同委員会におけるランド・コーポレーションの研究員、ジェフ・ハーゲン氏の証言であった。それは「米空軍の作戦行動への中国の航空宇宙能力の潜在的影響」と題されていた。すなわち、元の議論の対象は、米空軍基地への影響に絞られていたのである。
そうだとすれば、横須賀の海軍基地、普天間の海兵隊基地はおろか、厚木の海軍飛行場、岩国の海兵隊飛行場も当然ながら攻撃を受け、破壊される可能性はある。同時に、日本の自衛隊の基地も無事では済まないだろう。
中国に近すぎて、沖縄の米軍基地は「危険」!
これは今後、日米同盟や米韓同盟に深刻な問題を突きつけることになる事態である。
というのも、冷戦時代、米軍はソ連と直接向き合う北海道に基地を置かず、三沢基地を北限としてきた事実があるからだ。
戦争が起きれば自動的に巻き込まれる最前線に基地を置きたくないのが米軍の本音なのだろう。韓国では、ソウル以北で北朝鮮に隣接した米軍基地は、すでに南に下げている。
そう考えれば、米国が少なくとも韓国や沖縄の米軍基地を「中国に近すぎて危険だ」と判断する可能性はある。
沖縄駐留の海兵隊を半減させ、8000人をグアムに移転させる構想も、日本側の希望と米軍の再編方針のマッチングから生まれた、と見るよりも、高まる中国の軍事的脅威に対応し、安全な後方に下げようとしたと見るべきではないだろうか。
そうだとすれば、今後、ますます沖縄から米軍が引き揚げていく事態も考慮しなくてはならないだろう。
中国の「接近阻止」戦略への米軍の警戒が高まれば、例えばわが国に対してミサイル防衛の拡充要求なども当然強まる。
しかし、問題は、米軍が安全な後方に移動することで東シナ海が事実上「中国の海」になってしまうことだ。そして、台湾は中国の軍事圧力に対し日米同盟の後ろ盾を失い、ほとんど「孤立無援」になってしまうことである。
もとよりトータルの軍事力では中国はまだまだ米国に遠く及ばない。しかし、弾道ミサイルという防御手段の極めて弱い武器を活用することで、中国は東アジアの軍事バランスの文脈を自国優位に書き換えようとしているのである。
日米韓が無理押しすれば軍事衝突エスカレートも!
緊迫の朝鮮半島、ビル・エモット特別インタビュー
2010年11月25日 DIAMOND online
韓国側に軍人だけでなく民間人の死傷者も多数出た北朝鮮による延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件は、欧米でも連日トップニュースとして報じられている。日本では、軍事衝突が一気にエスカレートする可能性は低いとの見方が大勢だが、果たしてそうなのか。世界の政財界のリーダーたちが愛読するイギリスの高級紙「The Economist」の編集長時代に北朝鮮問題を頻繁に取り上げた国際ジャーナリストのビル・エモット氏は、朝鮮半島の危機的状況は継続しており、日米中韓の関係各国が互いの立ち位置と役割を取り間違えると、文字通り報復が報復を呼ぶ不測の事態に陥る可能性も十分にあり得ると警鐘を鳴らす。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長、麻生祐司)
――北朝鮮の砲撃事件をどう見たか。
1953年の朝鮮戦争休戦後初めて陸上の非軍事施設をターゲットに行った攻撃という意味で、ここ数十年の間に繰り返されてきた他の軍事衝突とは同列に語ることのできない、文字通り南北対立の半世紀の歴史の中で最も深刻な出来事であり、これによって、朝鮮半島情勢は極めて危険なステージに突入したと言ってよいと思う。
1983年に北朝鮮の複数工作員の手によってビルマ(現ミャンマー)のラングーン(現・首都ヤンゴン)で起きた爆破テロ事件も、多くの韓国政府高官や閣僚が命を落とすという非常に凄惨な出来事だったが、あの当時は北朝鮮の核武装問題は深刻ではなかった。だが今は違う。北朝鮮の核武装増強の可能性もある中で、民間人も攻撃のターゲットになるという最悪の事態が起きた。
――軍事衝突がエスカレートする可能性もあると考えるか。
民間人の居住地域をターゲットにしたという事実は、あまりに重い。金正日(キム・ジョンイル)総書記の後継者として30歳にも満たない金正恩(キム・ジョンウン)氏が指名されたばかりであり、次代の指導部のリーダーシップもいまだ脆弱であることを考えると、韓国や米国の動きに刺激されて、何かの拍子に軍主導で一気に攻撃がエスカレートする可能性は否めないと思う。
なにより心配なのは、最近、北朝鮮の軍隊が指導部の下できちんと制御されていない感じがすることだ。朝鮮半島の緊張が早晩和らぐと確信を持って説明できる要素は現在まったく見つからない。
――北朝鮮は今回の砲撃でいかなる政治目的を達成したかったのだろうか。
金正日総書記が深刻な健康不安を抱え、金正恩氏への権力移譲が急がれる中で、指導部の“タフネス”を示すためだとか、朝鮮半島西側の黄海上での韓国軍による軍事演習への対抗措置だったとか、あるいは制裁の緩和や新たな援助を引き出すためといったもっともらしい説明が各メディアで報じられているが、はっきり言って、どれも説得力を欠く。
それだけの理由で、韓国側の本気の反撃を招く覚悟を持って、民間人の住む島に本当に砲弾の雨を降らすだろうか。北朝鮮も、今回の延坪島(ヨンピョンド)砲撃で一線を越えたことは認識しているはずだ。
推察するに、最近新たに確認された北朝鮮のウラン濃縮施設にからんで、ピョンヤンとワシントンとの間に水面下で抜き差しならぬやりとりがあったのではないか。
今回の攻撃が意図せざる突発的なものだったとする見方も少なからずあるようだが、私はそれはないと思う。新たなウラン濃縮施設が確認された時期から日が近すぎる。それに、北朝鮮軍による場当たり的な博打だったとしたら、そちらのほうが深刻だ。指導部が軍を制御できていないことになるからだ。
――米国は今後、どう出ると思うか。
当面は、北朝鮮そしてその後ろ盾である中国の出方を探りながら、常套手段に打って出るはずだ。つまり、韓国と日本と連携して、国連安全保障理事会で非難決議や追加制裁を求めていくだろう。ただ、中国の抵抗は必至だ。
そこで今回はさらに一歩踏み出して、韓国における軍事的プレゼンスの強化に動くかもしれない。すでに米韓両国は、28日から黄海上で米空母を参加させた合同軍事演習を実施すると発表している。米韓は在韓米軍の段階的縮小で合意しており、大幅な改編がすでに進行中だが、今回の北朝鮮の攻撃をきっかけに、そのペースを遅くする可能性もあるだろう。
ちなみに、そうした動きにまで出るとしたら、北朝鮮の新たな挑発行為を牽制するというよりも、中国への圧力を強化するという意味のほうが大きい。黄海での合同軍事演習は、中国の反発を招くのは必定だ。
北朝鮮の態度を改めさせることができる国は、中国以外にはない。北朝鮮問題の解決の鍵を握っているのは、とにかく中国だ。
しかし、その中国も、北朝鮮に圧力をかけて、現行システムをうかつに潰せば、北朝鮮が国家的な大混乱に陥るなかで難民が自国に殺到することを知っている。それだけは避けたい。
だから、東アジアの平和と安定を望むという言葉を繰り返すだけで、北朝鮮の政治体制に大きな変化を迫る積極的な行動には出られないだろう。ここに、北朝鮮がずっと変わらないでいられる大きな理由がある。
とはいえ、このタイミングで、いずれかの国が無理押しして、北朝鮮を変えようとしたときに、何が起きるのかは誰にも想像がつかない。そうした関係各国の恐怖感のなかで、北朝鮮はいわば奔放に振舞っている。
――日本はどうすればよい?
納得がいかない人もいるだろうが、とにかくオバマ政権の外交の支持者でい続けるしかない。また、それ以前の問題として、普天間基地問題を通じて米国との間に生まれた溝を埋める努力をもっとしなければならない。
非公式な外交ルートをフルに活用して、北朝鮮問題の事態打開へ中国に直接働きかけることは当然やるべきことだが、尖閣諸島問題で挑発的な行動に出た中国がふりあげたこぶしを突然下ろし、日本の意見や要望に真摯に耳を傾け始めるとはとても思えない。
日本が円滑かつ効果的なアジア外交を進めるためには、強固な日米関係がなにより前提として不可欠だ。鳩山前政権下で見失われたその厳しい現実を改めて受け入れ、日本は行動しなければならない。
Bill Emmott(ビル・エモット)
1956年8月英国生まれ。オックスフォード大学モードリン・カレッジで政治学、哲学、経済学の優等学位を取得。その後、英国の高級週刊紙「The Economist(エコノミスト)」に入社、東京支局長などを経て、1993年から2006年まで編集長を務めた。在任中に、同紙の部数は50万部から100万部に倍増。1990年の著書『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社)は、日本のバブル崩壊を予測し、ベストセラーとなった。『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社)、『日本の選択』(共著、講談社インターナショナル)、『アジア三国志 中国・インド・日本の大戦略』(日本経済新聞出版社)など著書多数。現在は、フリーの国際ジャーナリストとして活躍中。
Photo by Justine Stoddart
日米韓が無理押しすれば軍事衝突エスカレートも!
緊迫の朝鮮半島、ビル・エモット特別インタビュー
2010年11月25日 DIAMOND online
韓国側に軍人だけでなく民間人の死傷者も多数出た北朝鮮による延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件は、欧米でも連日トップニュースとして報じられている。日本では、軍事衝突が一気にエスカレートする可能性は低いとの見方が大勢だが、果たしてそうなのか。世界の政財界のリーダーたちが愛読するイギリスの高級紙「The Economist」の編集長時代に北朝鮮問題を頻繁に取り上げた国際ジャーナリストのビル・エモット氏は、朝鮮半島の危機的状況は継続しており、日米中韓の関係各国が互いの立ち位置と役割を取り間違えると、文字通り報復が報復を呼ぶ不測の事態に陥る可能性も十分にあり得ると警鐘を鳴らす。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長、麻生祐司)
――北朝鮮の砲撃事件をどう見たか。
1953年の朝鮮戦争休戦後初めて陸上の非軍事施設をターゲットに行った攻撃という意味で、ここ数十年の間に繰り返されてきた他の軍事衝突とは同列に語ることのできない、文字通り南北対立の半世紀の歴史の中で最も深刻な出来事であり、これによって、朝鮮半島情勢は極めて危険なステージに突入したと言ってよいと思う。
1983年に北朝鮮の複数工作員の手によってビルマ(現ミャンマー)のラングーン(現・首都ヤンゴン)で起きた爆破テロ事件も、多くの韓国政府高官や閣僚が命を落とすという非常に凄惨な出来事だったが、あの当時は北朝鮮の核武装問題は深刻ではなかった。だが今は違う。北朝鮮の核武装増強の可能性もある中で、民間人も攻撃のターゲットになるという最悪の事態が起きた。
――軍事衝突がエスカレートする可能性もあると考えるか。
民間人の居住地域をターゲットにしたという事実は、あまりに重い。金正日(キム・ジョンイル)総書記の後継者として30歳にも満たない金正恩(キム・ジョンウン)氏が指名されたばかりであり、次代の指導部のリーダーシップもいまだ脆弱であることを考えると、韓国や米国の動きに刺激されて、何かの拍子に軍主導で一気に攻撃がエスカレートする可能性は否めないと思う。
なにより心配なのは、最近、北朝鮮の軍隊が指導部の下できちんと制御されていない感じがすることだ。朝鮮半島の緊張が早晩和らぐと確信を持って説明できる要素は現在まったく見つからない。
――北朝鮮は今回の砲撃でいかなる政治目的を達成したかったのだろうか。
金正日総書記が深刻な健康不安を抱え、金正恩氏への権力移譲が急がれる中で、指導部の“タフネス”を示すためだとか、朝鮮半島西側の黄海上での韓国軍による軍事演習への対抗措置だったとか、あるいは制裁の緩和や新たな援助を引き出すためといったもっともらしい説明が各メディアで報じられているが、はっきり言って、どれも説得力を欠く。
それだけの理由で、韓国側の本気の反撃を招く覚悟を持って、民間人の住む島に本当に砲弾の雨を降らすだろうか。北朝鮮も、今回の延坪島(ヨンピョンド)砲撃で一線を越えたことは認識しているはずだ。
推察するに、最近新たに確認された北朝鮮のウラン濃縮施設にからんで、ピョンヤンとワシントンとの間に水面下で抜き差しならぬやりとりがあったのではないか。
今回の攻撃が意図せざる突発的なものだったとする見方も少なからずあるようだが、私はそれはないと思う。新たなウラン濃縮施設が確認された時期から日が近すぎる。それに、北朝鮮軍による場当たり的な博打だったとしたら、そちらのほうが深刻だ。指導部が軍を制御できていないことになるからだ。
――米国は今後、どう出ると思うか。
当面は、北朝鮮そしてその後ろ盾である中国の出方を探りながら、常套手段に打って出るはずだ。つまり、韓国と日本と連携して、国連安全保障理事会で非難決議や追加制裁を求めていくだろう。ただ、中国の抵抗は必至だ。
そこで今回はさらに一歩踏み出して、韓国における軍事的プレゼンスの強化に動くかもしれない。すでに米韓両国は、28日から黄海上で米空母を参加させた合同軍事演習を実施すると発表している。米韓は在韓米軍の段階的縮小で合意しており、大幅な改編がすでに進行中だが、今回の北朝鮮の攻撃をきっかけに、そのペースを遅くする可能性もあるだろう。
ちなみに、そうした動きにまで出るとしたら、北朝鮮の新たな挑発行為を牽制するというよりも、中国への圧力を強化するという意味のほうが大きい。黄海での合同軍事演習は、中国の反発を招くのは必定だ。
北朝鮮の態度を改めさせることができる国は、中国以外にはない。北朝鮮問題の解決の鍵を握っているのは、とにかく中国だ。
しかし、その中国も、北朝鮮に圧力をかけて、現行システムをうかつに潰せば、北朝鮮が国家的な大混乱に陥るなかで難民が自国に殺到することを知っている。それだけは避けたい。
だから、東アジアの平和と安定を望むという言葉を繰り返すだけで、北朝鮮の政治体制に大きな変化を迫る積極的な行動には出られないだろう。ここに、北朝鮮がずっと変わらないでいられる大きな理由がある。
とはいえ、このタイミングで、いずれかの国が無理押しして、北朝鮮を変えようとしたときに、何が起きるのかは誰にも想像がつかない。そうした関係各国の恐怖感のなかで、北朝鮮はいわば奔放に振舞っている。
――日本はどうすればよい?
納得がいかない人もいるだろうが、とにかくオバマ政権の外交の支持者でい続けるしかない。また、それ以前の問題として、普天間基地問題を通じて米国との間に生まれた溝を埋める努力をもっとしなければならない。
非公式な外交ルートをフルに活用して、北朝鮮問題の事態打開へ中国に直接働きかけることは当然やるべきことだが、尖閣諸島問題で挑発的な行動に出た中国がふりあげたこぶしを突然下ろし、日本の意見や要望に真摯に耳を傾け始めるとはとても思えない。
日本が円滑かつ効果的なアジア外交を進めるためには、強固な日米関係がなにより前提として不可欠だ。鳩山前政権下で見失われたその厳しい現実を改めて受け入れ、日本は行動しなければならない。
Bill Emmott(ビル・エモット)
1956年8月英国生まれ。オックスフォード大学モードリン・カレッジで政治学、哲学、経済学の優等学位を取得。その後、英国の高級週刊紙「The Economist(エコノミスト)」に入社、東京支局長などを経て、1993年から2006年まで編集長を務めた。在任中に、同紙の部数は50万部から100万部に倍増。1990年の著書『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社)は、日本のバブル崩壊を予測し、ベストセラーとなった。『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社)、『日本の選択』(共著、講談社インターナショナル)、『アジア三国志 中国・インド・日本の大戦略』(日本経済新聞出版社)など著書多数。現在は、フリーの国際ジャーナリストとして活躍中。
Photo by Justine Stoddart
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魚沼コシヒカリ理想の稲作技術『CO2削減農法研究会』(勉強会)の設立計画!