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2011/01/10 産経新聞

【野口裕之の安全保障読本】(48)

 国連平和維持活動(PKO)や治安の悪い国での災害復旧・医療支援といった軍隊にしかできない非軍事行動では、偵察・編成・作戦計画など、まさに有事と同じノウハウが投入される。従って装備や練度、士気、規律など軍の精強度の構成要件向上が非軍事行動の実績を左右する。

 中国人民解放軍も公表されているだけで21年連続2ケタ増、21年前の22倍となった軍事費拡大に並行し、こうした「非軍事力」にも力を入れ始めた。精強度向上の良き演習となるほか、受け入れ国への外交・経済的影響力が強まるからだ。「非軍事」という善意のオブラートに包むことで国際的な中国警戒論緩和の効用もある。

 人民解放軍海軍の病院船「和平方舟」が昨年11月、「和諧使命-2010」の任務を終え帰港した。病院船は昨年8月31日に出港し、ソマリア北部アデン湾で海賊対処活動中の解放軍海軍部隊に医療支援を実施した。その後、ジブチやケニア、タンザニア、セーシェルなどアフリカ5カ国で活動し、バングラデシュでも医療活動を行った。

 帰国行事で出迎えた海軍副政治委員の徐建中・中将は「今任務が海軍病院船が行った海外における初の人道支援だった」と意義を強調。その上で「海軍の多様な軍事任務遂行であり海上の兵站(へいたん)能力検証である」「国際義務を積極的に履行する責任大国のイメージを示した」などと真の目的を明かした。

 徐氏の訓示に、解放軍空軍の2人の大佐が1999年に発表した「超限戦」という軍事理論を思い出した。この理論によれば、戦争は「軍事と非軍事」「武力と非武力」「殺傷と非殺傷」といった「全手段を投じて中国の利益を敵に強制的に受け入れさせる」ものと位置付けられる。軍事・政治・外交・経済・文化・宗教・心理・メディアをすべて戦争の手段ととらえ、平時・戦時を超えた総力戦こそ中国の目指す戦い方だというのだ。

 2003年12月にも「人民解放軍政治工作条例」に「三戦」なる軍事思想が加えられた。「三戦」には、敵将兵やそれを支援する文民へ衝撃を与え、士気をくじき、敵の戦闘遂行能力を低下させる「心理戦」、国際・国内法を利用し、国際的支持を得ると同時に、中国の軍事行動への反発に対処する「法律戦」がある。これと並ぶ「世論戦」は「軍事行動への大衆や国際社会の支持を取り付け、敵が中国の利益に反するとみられる政策を行わぬよう国内・国際世論に影響を与える」という戦法だ。まさに医療支援により「国際義務を積極的に履行する責任大国のイメージ」戦略そのものではないか。 

 米国防総省年次報告も08年「三戦」に警鐘を鳴らしている。だが、実のところ、中国が「三戦」を学んだのは、イラク戦争(03年3月開始)でメディアを利用し情報操作を謀った米政府だったとの分析もある。

 実際、米軍も「非軍事」活動を強化しており、アジア・アフリカでは今後も善意の応酬が続きそうだ。

 米海軍太平洋艦隊と海兵隊は07年から太平洋・オセアニアや東南アジアにおける人道援助・民生支援活動「パシフィック・パートナーシップ」を実施。07年には強襲揚陸艦、08年には大型病院船、09年には補給艦が任務の中心を担った。

 この活動には、カナダや豪州、ニュージーランドといった同盟国の軍をはじめ医療機関、NGO(非政府組織)も参加。インドネシアフィリピン東ティモール、パプアニューギニア、ソロモン諸島、キリバスなどで実績を上げた。

 昨夏には海上自衛隊も輸送艦「くにさき」(乗員160人)と自衛隊医療チーム(40人)をベトナムカンボジアに派遣し、活動を展開。4つのNGO(22人)も随伴した。

 自衛隊は延べ2941人(内科1869人/歯科1072人)、NGOは延べ1511人(内科1380人/歯科131人)の診療実績を残している。自衛艦旗が●翻(へんぽん)と翻る様は、民間の船舶・飛行機では演出できない外交パワーとなったことは間違いない。

 ただし日本の場合、派遣にあたり「危険が伴わない」といった付帯条件がつきまとう。活動に伴う医療施設工事受注や、論功行賞としての資源開発に対する優先権獲得といった官民一体化した「商売」もうまくない。ここは一番、世界をまたにかけ「善意の押し売り」を始めている中国人の鉄面皮を見習いたい。

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2011/01/10 産経新聞

【野口裕之の安全保障読本】(48)

 国連平和維持活動(PKO)や治安の悪い国での災害復旧・医療支援といった軍隊にしかできない非軍事行動では、偵察・編成・作戦計画など、まさに有事と同じノウハウが投入される。従って装備や練度、士気、規律など軍の精強度の構成要件向上が非軍事行動の実績を左右する。

 中国人民解放軍も公表されているだけで21年連続2ケタ増、21年前の22倍となった軍事費拡大に並行し、こうした「非軍事力」にも力を入れ始めた。精強度向上の良き演習となるほか、受け入れ国への外交・経済的影響力が強まるからだ。「非軍事」という善意のオブラートに包むことで国際的な中国警戒論緩和の効用もある。

 人民解放軍海軍の病院船「和平方舟」が昨年11月、「和諧使命-2010」の任務を終え帰港した。病院船は昨年8月31日に出港し、ソマリア北部アデン湾で海賊対処活動中の解放軍海軍部隊に医療支援を実施した。その後、ジブチやケニア、タンザニア、セーシェルなどアフリカ5カ国で活動し、バングラデシュでも医療活動を行った。

 帰国行事で出迎えた海軍副政治委員の徐建中・中将は「今任務が海軍病院船が行った海外における初の人道支援だった」と意義を強調。その上で「海軍の多様な軍事任務遂行であり海上の兵站(へいたん)能力検証である」「国際義務を積極的に履行する責任大国のイメージを示した」などと真の目的を明かした。

 徐氏の訓示に、解放軍空軍の2人の大佐が1999年に発表した「超限戦」という軍事理論を思い出した。この理論によれば、戦争は「軍事と非軍事」「武力と非武力」「殺傷と非殺傷」といった「全手段を投じて中国の利益を敵に強制的に受け入れさせる」ものと位置付けられる。軍事・政治・外交・経済・文化・宗教・心理・メディアをすべて戦争の手段ととらえ、平時・戦時を超えた総力戦こそ中国の目指す戦い方だというのだ。

 2003年12月にも「人民解放軍政治工作条例」に「三戦」なる軍事思想が加えられた。「三戦」には、敵将兵やそれを支援する文民へ衝撃を与え、士気をくじき、敵の戦闘遂行能力を低下させる「心理戦」、国際・国内法を利用し、国際的支持を得ると同時に、中国の軍事行動への反発に対処する「法律戦」がある。これと並ぶ「世論戦」は「軍事行動への大衆や国際社会の支持を取り付け、敵が中国の利益に反するとみられる政策を行わぬよう国内・国際世論に影響を与える」という戦法だ。まさに医療支援により「国際義務を積極的に履行する責任大国のイメージ」戦略そのものではないか。 

 米国防総省年次報告も08年「三戦」に警鐘を鳴らしている。だが、実のところ、中国が「三戦」を学んだのは、イラク戦争(03年3月開始)でメディアを利用し情報操作を謀った米政府だったとの分析もある。

 実際、米軍も「非軍事」活動を強化しており、アジア・アフリカでは今後も善意の応酬が続きそうだ。

 米海軍太平洋艦隊と海兵隊は07年から太平洋・オセアニアや東南アジアにおける人道援助・民生支援活動「パシフィック・パートナーシップ」を実施。07年には強襲揚陸艦、08年には大型病院船、09年には補給艦が任務の中心を担った。

 この活動には、カナダや豪州、ニュージーランドといった同盟国の軍をはじめ医療機関、NGO(非政府組織)も参加。インドネシアフィリピン東ティモール、パプアニューギニア、ソロモン諸島、キリバスなどで実績を上げた。

 昨夏には海上自衛隊も輸送艦「くにさき」(乗員160人)と自衛隊医療チーム(40人)をベトナムカンボジアに派遣し、活動を展開。4つのNGO(22人)も随伴した。

 自衛隊は延べ2941人(内科1869人/歯科1072人)、NGOは延べ1511人(内科1380人/歯科131人)の診療実績を残している。自衛艦旗が●翻(へんぽん)と翻る様は、民間の船舶・飛行機では演出できない外交パワーとなったことは間違いない。

 ただし日本の場合、派遣にあたり「危険が伴わない」といった付帯条件がつきまとう。活動に伴う医療施設工事受注や、論功行賞としての資源開発に対する優先権獲得といった官民一体化した「商売」もうまくない。ここは一番、世界をまたにかけ「善意の押し売り」を始めている中国人の鉄面皮を見習いたい。

珍しく的を射た菅首相、その志をムダにするな!

2011.01.25(Tue)JBプレス 岡俊彦

ここに1冊の文庫本がある。新人物往来社が出版した秋月達郎氏による『海の翼―トルコ軍艦エルトゥールル号救難秘話』という本である。

在外邦人は日本政府が救出してくれることを望んでいる!


イランイラク戦争中の1985年3月17日、イラク軍は3月19日以降、イラク領空を飛行する航空機への無差別攻撃を宣言した。

 この時、イラン国内に取り残され、帰国する手段を持たない苦境に立たされた在留邦人に対し、トルコ政府は日本人救出のため特別機を提供し在外邦人の救出に当たった。

 その背景にある100年前のトルコ海軍エルトゥールル号救出への恩返しを描いたドキュメンタリー小説である。

 小説とは言いながらそれぞれにモデルが存在し、イランに在留する日本人の取り残された焦りや恐怖感、また、欧米の航空会社が自国民を優先して搭乗させているのに、なぜ日本の航空機は救出のために飛んできてくれないのかという日本政府に対する情けない思いなど当時の現場の雰囲気が、ひしひしと伝わってくる。

 その当時は、自衛隊に対して「在外邦人等の輸送」という任務が規定されていなかったために自衛隊の航空機を派遣することはできない状態であった。

 その後、自衛隊法が改正され、現在では自衛隊法第84条の3において、「防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命または身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があった場合において、当該輸送の安全について外務大臣と協議し、これが確保されていると認める時は、当該法人の輸送を行うことができる」と規定されている。

 現状、自衛隊法によるこの規定が、我が国における在外邦人輸送の唯一の根拠であるが、この条文には3つの重要なポイントがある。

 最も重要なポイントは、「在外邦人等の輸送」であり「救出」ではない点である。次に「輸送の安全が確保されている」ことであり、最後に「外務大臣からの依頼」があることである。

邦人輸送と邦人救出!

 残念ながら現在の自衛隊法では、あくまでも輸送の安全が確保されている状態で自衛隊機を民間機の代わりに輸送機として(あるいは、海上自衛隊の艦艇を)使用できるという規定であり、在外邦人の望む邦人救出とは異なる。

 我が国では、邦人輸送と邦人救出が同じ概念で使用されている懸念があり、さらには、自衛隊法の規定で邦人救出が可能であるように解釈されている。

そのいい例が、昨年暮れ、菅直人首相が朝鮮半島有事の際、邦人救出のために自衛隊機を現地に派遣できるよう、韓国政府と協議に入る考えを表明したことである。

ところで、邦人輸送と邦人救出は、どう違うのであろうか?

 数多く自国民を紛争地域から救出している米軍の考え方、すなわち、米軍の統合図書(United States Military Joint Publication)3-68「非戦闘員退避活動(NEOs:Noncombatant Evacuation Operations)」を参考にし、その違いを分析することにする。

 非戦闘員退避活動(以後「NEOs」という)とは、米国市民、国防省の文官、ホストネーション国の国民および第三国の国民を外国の危険地域から安全な避難地に退避させることであり、敵対的な危険からだけでなく、自然災害に伴う危険からの退避も含まれている。

 また、NEOsの目的は、次の3つである。

(1)保護、安全な避難地への退避および避難地の福利厚生を提供すること。
(2)死亡および/又は人質として拘束される危険に陥る人数を最小限にすること。
(3)予想されるあるいは実際の戦闘地域にいる人数を最小限にすること。

 この概念こそ邦人救出の概念であり、飛行の安全が確保されている地域からの輸送とは大きく異なっている。在外の邦人が望むものは、まさしくこの邦人救出≒NEOsにほかならない。

邦人救出の所管は誰か!

 NEOsでは、国務省が全責任を負い、非戦闘員の保護、退避のための緊急対応策並びに計画および手順を策定することとされている。

 NEOsを実施中は、戦闘指揮官や統合軍指揮官ではなく、現地の大使が最高権威者としてNEOsと退避の安全について全責任を負っている。国防省は、国務省のNEOsの計画策定に助言し、NEOsの手段を提供するだけである。

 自衛隊法でも在外邦人などの輸送は、外務大臣からの要請によることとされており、この面からは外務省が所管すると読めるが、外務省が全体としての輸送計画を立案しているとは、寡聞にして知らない。

一国の首相が邦人の救出が必要であるという認識ならば、国としての救出の意思を明確にし、外務省を中心として邦人救出計画を立案することに最初に着手しなければならない。

我が国の現状の態勢で邦人救出が可能か!

NEOsにおいて、国務省は、既に不安定な環境への軍の投入はさらなる不安定を生起させるため、スモールフットプリントを維持すべく軍のレベルを制限し、あるいは、最小限の行動とするよう計画を策定する。

 また、このために武器の使用を政治がコントロールするROE(Rules of engagement:部隊行動基準)を策定し、部隊に明示することが不可欠である。

 朝鮮半島有事の状況で邦人救出を実施しようとすれば、自衛隊の投入のフットプリントを最小限にするにしても、救出任務を遂行するための、あるいは、邦人を保護するための武器の使用は不可欠である。

 現状の憲法解釈、特に武力の行使と武器の使用を同一に解釈するのであれば、朝鮮半島有事における実効ある邦人救出は極めて困難である。

 そこを改善しない限り、現行の輸送の安全が確保されている状況での邦人輸送しかできない日本国のままである。


ところで、自衛隊が保有する邦人輸送のための手段は、輸送用ビークルとして航空自衛隊が運用する政府専用機(B747-400×2機)、輸送機(C-1×26機、C-130H×16機)、海上自衛隊の艦艇(特に、おおすみ型輸送艦×3隻、ひゅうが型護衛艦など)を活用することができ、また、陸上自衛隊は護衛部隊として、年度ごとに派出護衛部隊を指定している。

 一方、邦人輸送の訓練は、2003年11月に海上自衛隊演習の一環として、海上自衛隊の大村航空基地において、海上自衛隊と陸上自衛隊が協同して実施したことがある。

 この時は、紛争などで混乱した外国から在外邦人を迅速に誘導、避退させることを狙いに、陸、海自衛隊員約1000人と海上自衛隊の大型ヘリ2機、護衛艦と輸送艦計4隻が参加して実施された。

 外務省係官に扮した隊員が旅券により身元を確認後、海上自衛隊の大型ヘリで「出国」、長崎県の大瀬戸町沖に待機する輸送艦に収容した。

 

このほかに、陸上自衛隊と航空自衛隊の間では数多く邦人輸送に関わる訓練が実施され、航空機の離発着時の航空機の安全を確保するための警備、待機場所での身元確認、誘導、邦人の警備等のノウハウは確立されている。

また、2006年から自衛隊は本格的な統合運用体制に入り、当初、2つ以上の自衛隊が協同して行動する場合の指揮の問題(誰が指揮官となるのか)は、統合部隊の編成により解決され、より円滑に実施できると見積もられている。

 このように、自衛隊はいつどこにでも出動できる意思と能力を有しているが、これまで訓練している内容は、待機(避難)場所からの出国手続き、警護が主であり、現地の大使が指定する避難場所までの誘導、警護を含めた訓練はなされていない。

 これは、邦人輸送を主導する外務省との調整がなされたうえでの訓練ではなかったためである。輸送の安全が確保されている状況での邦人輸送ならば、これでいいのかもしれないが、実際の状況では、現地の大使が指定する避難場所までの誘導、警護が最も困難な任務である。

 以上のことから、現状の我が国の邦人輸送の態勢は、防衛省自衛隊が飛行の安全が確保された状況で、邦人輸送に提供できるビークルを保有しているという段階にとどまっている。

 国を挙げて邦人輸送の態勢を確立するためには、まず第一に、「輸送の安全が確保されている」という現行法規の前提を正すべきである。

 次いで、官邸、外務省に関係省庁(厚生労働省国土交通省など)を巻き込んだ(必要であれば在日米軍を加えた)図上演習により国としての邦人救出計画およびROEの立案、検証を図り、その計画に基づく実動訓練により、さらなる検証を行い、邦人輸送の態勢を完備すべきである。

朝鮮半島有事における邦人救出!

 一般に、NEOsにおいては、次の3つの情勢に区分し、それぞれの対応を定めている。

(1)Permissive Environment(退避対象国との間に行き来が可能な状態)
(2)Uncertain Environment(退避対象国の軍隊が作戦を実施中であるが、政府の領土、国民に対する統制が効果的に実施されているか不明な情勢)

(3)Hostile Environment(騒乱からテロ行為、全面戦闘に至る状況で、非戦闘員は避退させられる情勢)

 韓国には約3万人の邦人が滞在していると見積もられている。しかも、その大半が首都ソウルおよびその近傍に起居していると言われている。

韓国の首都ソウルは38度線から数十キロしか離れておらず、朝鮮半島有事の場合、一瞬にしてパニックとなり整斉とした避退を困難にする。

 従って、朝鮮半島有事の邦人救出は、できるだけ Permissive Environment な情勢の下で開始すべきである。

 ところが、筆者が現役自衛官であった時、韓国合同参謀本部の防衛計画を担当する部署との意見交換の折、朝鮮半島有事の際は早めの邦人救出が必要である旨を表明したところ、次のような返答が返ってきた。

 「大量の日本人が韓国から退避を開始すれば、韓国国内は、何か異変が起こるのではないかと国民の間にパニックが生じてしまう。従って、早めの退避には、韓国政府として協力しづらい」

 もちろんこれは個人的意見であるが、十分考慮の対象になることである。

 菅首相の発言に対して、朝鮮日報は社説で「非常に配慮に欠け、誤解を呼び起こしかねない不適切なもの」と断じている。

 また、我が国のマスコミは、日韓の間には歴史問題があるため調整は困難であり米軍への期待を表明する論調も多い。

 しかし、韓国内外の雰囲気がこのような状態であったとしても、日本国として韓国在住の約3万人の邦人を、他国の援助を期待し、手をこまぬいて見過ごすことはできない。

 救出の手立てを尽くすことは、日本国政府の基本的な任務であり、政治家、官僚だけでなく国民一人ひとりを含め、国を挙げてこの問題に対処すべきである。

 幸いに、韓国との間には、1994年11月に第1回の日韓防衛実務者対話をソウルにおいて行って以来、相互に防衛首脳などのハイレベル交流、防衛当局者間の定期協議、部隊間の交流などが着実に進展している。

本月の10日には北沢俊美防衛大臣が訪韓し、日米間で締結されている物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に向けた協議を呼びかけるなど、安全保障面での韓国との戦略調整が進もうとしており、韓国政府と腹を割って Permissive Environment における邦人救出の必要性を説き、徐々に調整の下地を整えていくべきである。

 もちろん、Uncertain Environment および Hostile Environment における邦人救出も当然考えられ、自衛隊のフットプリントを韓国国内に示すことのアレルギーは当然予想されるが、どこまでのフットプリントならば許容できるのか調整の余地はあると思われる。

 同時に、残された軍事的対応の必要については、米軍を巻き込み韓国側と調整せざるを得ないと思われる。

 朝鮮半島情勢は、北朝鮮のミサイルおよび核兵器の開発に加えて、昨年の北朝鮮による韓国海軍警備艇「天安」の撃沈事件および延坪島砲撃事件並びに2012年強盛大国の大門を開くための後継者の選出などの混沌とした情勢から想像を超える事態が発生する可能性を否定できない。

 そのような情勢認識に立てば、菅首相が邦人救出のための自衛隊機の派遣の考えを表明したことは、的を射たことであり、首相発言を契機に与野党が一致協力して、国会の総力を挙げて邦人救出の態勢を整備すべきである。

 のちに仙谷由人官房長官(当時)がその考えを否定したように首相のその場の思い付きにしてホオカムリをしてはならない。

日本人が思う以上に世界に精通している上海市民?

2011.01.24(Mon)JBプレス姫田小夏

中国のメディアが面白い。中国の新聞・テレビと言えば「情報統制」という図式を思い描くが、これがだいぶ変化しているのだ。

 もちろん、チベット問題天安門事件など、共産党の政権維持に不都合なことは報道しないのが大前提。しかし、それを差し引いたとしても十分に楽しめる。

 中国が国家として成長するスピードに合わせるように、記者も紙面もずいぶん成長しているなと実感する。以前よりも、ニュースの伝え方が変化に富むようになってきた。

 上海在住の梁信さん(仮名、男性、50代)は、「メディアが大きく変わったきっかけは、2008年の四川大地震ではないか」と話す。

 梁信さんは、地元紙「新民晩報」を10年近く購読している。その紙面の変化を次のように語る。「四川大地震では、被災地への募金が、本当にそれを必要としている人に届けられていないことが明らかになった。記者の意識もその頃から変わったのだろう。官僚の腐敗を暴くような記事が増えてきた」

 四川大地震がもたらしたものは、物理的な被害だけではなかった。市民の善意が地方政府の役人の懐に落ちてしまうという社会構造の暗部も露呈されたのだ。

 清華大学公共管理学院の調べでは、700億元を超える寄付金のうち、8割が地元政府に吸い取られたという。そんな火事場泥棒のような腐敗を暴き、市民に伝えたのが、ネットや新聞、テレビの報道だった。

次々に暴かれた地方官僚の腐敗ぶり!

 四川大地震をきっかけに、少なくとも上海における報道が「政府寄り」から「市民目線」に近づいたことは確かに実感できる。

 2008年から2009年にかけて、上海のメディアは以下のような官僚の腐敗を次々と暴き、記事にして伝えた。

 上海市浦東新区の元副区長は、長期にわたって土地取引の特別な権利を握り、自分と妻名義の資産として16カ所の土地を隠し持っていた。

 また、上海市の外高橋保税区管理委員会の役人は、たった1人で29戸のマンションを所有していることが発覚した。

さらに重慶市では、元司法局局長が6つの暴力団の活動に深く関わっていた。暴力団を庇護する見返りとして、9戸の不動産物件、数千万元の現金(1元=当時13円)、高級車、高級時計、骨董品、恐竜のタマゴなどを贈られ、秘匿していたという。

 これらの官僚の腐敗ぶりを知った市民は、あいた口がふさがらなかった。

 日常的に「民主化」「司法改革」「反腐敗」という政治の話題を取り上げる広州の新聞に比べると、上海の新聞はまだまだ政府の監視が厳しく、政治的な話題を取り上げにくいというのが、これまでの共通認識だった。それだけに、こうした一連の変化は注目に値する。

共産党国家の新聞が「人情」を伝える!

 上海で普及している一般紙はほとんどがタブロイド判で、読みやすい。カラー写真も豊富に使われており、記事は臨場感に溢れている。

 最近は1面に全面広告が掲載されることもしばしばだ。オメガやブルガリといった高級ブランドの広告が、その日のトップニュースよりも前に出てくるのは、いかにも今の中国らしい。広告が元気なのは、メディアが元気な証しとも言えるだろう。

 一方、新聞にとって逆風と言えるのは、ここ上海でもネットメディアが台頭していることである。ニュースサイトやブログなどに読者が流れる傾向があり、新聞は「いかに真実を描くか」という記者の力量がいよいよ問われてくる時代になった。

 しかし、政府の規制は相変わらずで、政治に関してはなかなか深掘りした記事が書けないという状況は変わらない。

 ある上海の識者は、「突破口となるのは民衆の生活、すなわち民生に関する記事でしょう」と語る。

 例えば、農産物の値段が高騰した時、「東方早報」の記者は、産地の中国東北部に飛び、高騰のカラクリを見開き2ページで解説した。

 そこで明らかにされたのは、農産物の価格が輸送の途中に釣り上げられていく構図、そして一般消費者を巻き込んだ買い占めの実態だった。市民は「そうだったのか!」と驚きを持って記事を受け止めた。

 2010年は違法な「食用油」に関する記事にも、市民は驚かされた。上海の食堂について、市民は「こんな安い値段で、なぜ経営が成り立つのか」という長年の疑問を抱いていた。「実は、使い回し油が多くの食堂で使われていた」という新聞記事に、市民は衝撃を受けた。その報道後、市民は「よほど名の通った店でない限り、料理を食べられない」と、外食を控えるようになった。

最近は、人情味あふれる出来事を伝える記事も少なくない。そうした記事からは、記者の良心が垣間見える。

 2010年12月1日、東方早報が見開き2ページを使って報道したのは、広西省柳州市に住む6歳の孤児の話だった。

両親をエイズで失った小龍君は、たった1人で生活している。彼自身もエイズに感染しており、面倒を見ようという親戚がいないのだ。ご飯を作るのも1人なら、寝るのも1人。日が暮れれば長い夜が始まる。テレビもなく話し相手もいない。記事中の写真のキャプションは、「友達は1匹の犬『クロ』だけ」とある。

 東方早報はその記事を掲載する前日に、「上海のエイズ感染者が2009年比で29%増」と伝えていた。読者は2日間にわたる記事を読んでエイズ問題を再認識し、小龍君への支援にも目を向けることとなった。

売店のおばさんも見ている経済チャンネル!

 中国では新聞だけではなく、テレビも変わり始めている。

 国営放送の中国中央テレビCCTV)をはじめ、中国には実に多くのチャンネルがある。その数は実に約270チャンネルとも言われている。

 CCTVは確かにお堅い政策宣伝番組だが、毎日のニュースは変化に富んでいる。党人事、外交、新政策導入、訃報、事件、社会ネタ、天気予報・・・、などなど。

 中でも筆者が面白いと感じているのは、外交ニュースだ。共産党幹部が、今日は南米、明日はアフリカと、ふだんはほとんど名前を聞かないような国で外交を展開し、その国のトップと握手する様子が伝えられるのだ。こうした世界の隅々の様子は、日本のテレビでは決して分からない。

各家庭で受信できるチャンネル数は限定的だが、それでも上海の家庭によっては、経済チャンネルですらCCTV、上海テレビ、台湾の鳳凰衛星テレビと、少なくとも3つの局の中から選ぶことができる。

 いずれも主に株価ニュースが中心だが、1日中、延々と経済情報を流している。テレビ画面の上部には、「不動産予報」(正確には「報告」)がテロップで流れ、その日の成約戸数や平均価格を都市ごとに速報する。

経済学者も入れ代わり立ち代わりで登場し、経済予測を披露する。いつも筆者に釣り銭を投げてよこす、売店のなじみのおばさんが食い入るように見ていたのは、経済学者である国民経済研究所所長の経済解説だった。

 とにかく上海のテレビでは、世界各国のありとあらゆるニュースが伝えられる。世界中に張り巡らされた華人ネットワークによるところが大きいのか、そのスピードも速い。

 キルギスタンからニュースを送ってくる女性特派員の映像を見ると、「こんな政情不安定なところでよく頑張ってるなあ」とエールを送りたくなる。日本ではほとんど報道されない国のニュースが、中国では見られるのだ。

中国のバラエティー番組は日本とどう違うのか!

 翻って日本のテレビはどうだろう。

 国際ニュースとしては、チリの炭鉱の救出劇が記憶に新しいが、当時、日本でこれを見ていた来日中の中国人はこうコメントした。「どの局もチリの同じニュースばかり流している。世界のニュースはこれだけではないだろう」

 筆者は、日本のテレビ番組がお笑い芸人の天下になっていることが気になる。中国にもバラエティー番組がある。しかし、日本とは違うなと思うのは、中国のバラエティー番組は「民衆が主役」になっていることだ。日本の番組のように、芸人が素人をいじって面白がるわけではない。あくまでも市井の人が主役であり、素のままの自分をさらけ出すのだ。

 例えば、大ヒット中のあるお見合い番組では、「私の手を握れるのは彼氏だけ。それ以外の人なら1回20万元」という女性や、「あなたにはお金の匂いがしない」などと暴言を吐く女性が登場。あまりにも極端なキャラクターが次々に登場するので、「やらせ疑惑」すら出ている番組だ。だが、どの出演者もどこか憎めない人間臭さを漂わせており、魅力的な番組なのだ。

 恋人関係、親子関係、親戚関係など、人と人の良好な関係の築き方に焦点を当てた番組もある。東方衛星テレビの「幸福魔方」がそれだ。古い社会通念や親の世代の偏見と闘う若者が登場した時は、思わずその若者に共感し、応援してしまった。

 共産党国家とはいえ、中国の新聞やテレビ番組は侮れない。

 お笑いや芸能・スポーツ番組にひたりきった日本人が思う以上に、中国人(特に上海市民)は世界情勢や国内経済に通暁しており、真実を知ることに飢えているのだ。

名古屋中国総領事館の国家公務員宿舎跡地移転問題
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8D%E5%8F%A4%E5%B1%8B%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E7%B7%8F%E9%A0%98%E4%BA%8B%E9%A4%A8%E3%81%AE%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E5%85%AC%E5%8B%99%E5%93%A1%E5%AE%BF%E8%88%8E%E8%B7%A1%E5%9C%B0%E7%A7%BB%E8%BB%A2%E5%95%8F%E9%A1%8C

新潟中国総領事館の万代小学校跡地移転問題
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2011年01月24日(月) 週刊現代

並みのショッピングモールよりも大きな中国の政府機関が、突然市内の中心部に建設されれば、やはり「なんだか不気味な感じ」がするだろうか。尖閣諸島問題をはじめ、なにかと衝突する機会が増えた日本と中国。そこにまた、名古屋市を舞台にして新たな火種が生まれそうな気配がある。

 ことの発端は昨年春、名古屋市にある東海財務局が、名古屋城から北に徒歩1分ほどのところに所有する国家公務員宿舎跡地(約3万平方メートル)を売りに出したところ、中国総領事館が「新しい領事館の建設地として、1万平方メートルの土地を買いたい」と名乗り出たことに始まる。

「買い手が見つからなかった東海財務局は、中国からのオファーを受け、9月に審査を開始。とんとん拍子で契約は進むはずでした。ところが同じ月に尖閣問題が発生し、日中関係が悪化したために、住民らによって『中国に日本の土地を売り渡すな』という反対デモや署名活動が起きたのです」(東海財務局職員)

 東海財務局にも抗議が殺到。当初は年内に契約を済ませる予定だったが、「非常に大規模な財産で、われわれにとっても難しい相手なので、名古屋市、財務省本省とも相談し、現在も慎重に審査を継続している」(東海財務局国有財産調整官)状態だという。

 契約の手続き等については、なんの問題もなかったというこの購入計画。自民党の浜田和幸議員は、「購入予定地が、外交施設としては大きすぎる」ことを問題視する。

「名古屋市だけでなく新潟市でも中国総領事館が約1万5000平方メートルの土地を購入しようとしており、同じく反対運動が起きています。これらは外交施設として適正な規模とは思えない。日本の土地をそう簡単に売り渡していいのか、という疑問があります」

 中国側は沈黙を保っているが、中国国内でこのニュースが報じられれば、騒動に発展することも考えられよう。尖閣問題はいわば日本の果てで起こった領土問題。今年は政令都市という日本の「中心」で、日中衝突が起こるかもしれない。

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