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平成22年 第12回「米・食味分析鑑定コンクール:国際大会」(松江市)有機栽培・JAS認定部門で特別優秀賞を受賞。(食味90・味度83・計173点) 平成25年、第15回魚沼と第16回北京開催運動中! 無農薬魚沼産コシヒカリ生産農家・理想の稲作技術『CO2削減農法』 http://www.uonumakoshihikari.com/
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昨年12 月に国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)の訪印団の一員としてニュー
デリーを訪れた私の関心は、インドが安全保障上、何を「脅威」と考えているかを確か
めることであった。シブシャンカル・メノン首相補佐官(国家安全保障担当)やガウタ
ム・バンバワリ外務省東アジア局長ら政府当局者は、温家宝中国首相の訪印と重なった
こともあって直接「脅威」を口にしなかったが、研究者、評論家、学者の間で「脅威」
と言えば、「国際テロ絡みのパキスタン」と「中国」に決まっていた。

●米軍アフガン撤収後にテロ激化か!

この両者は別個の脅威ではなくて、密接に関連し合っている。インドパキスタン
カシミールをめぐっていかなる対立を続けてきたかは説明するまでもないが、2008 年
11 月にはインド最大都市ムンバイで166 人が殺害され、304 人が負傷する陰惨な事件
が発生している。武装グループ10 人はパキスタンの非合法イスラム過激組織「ラシュ
カレトイバ」だといわれる。インドで会った知識人がおしなべて不安を抱いているのは、
今年7 月から始まり2014 年に完了する予定のアフガニスタンにおける米戦闘部隊の撤
収計画だ。パキスタンの政情不安がアフガニスタンタリバン勢力に有利に働き、パキ
スタンの「タリバン化」が進んだ場合に、インドは非常事態に置かれるというのである。

●中国が朝パに核技術提供!

中国はインドの目にどのような枠割を演じてきたと映じているのであろうか。インデ
ィアン・エクスプレス紙の戦略問題担当編集長ラジャ・モハン氏は、中国が北朝鮮とパ
キスタンに核のノウハウを流し、「核のバランス・オブ・パワー」を操作していると明
言していた。日本とインドを牽制する戦略的意図があるとの指摘は他の専門家からもな
された。米国でも著名な核問題専門家トマス・リード、ダニー・スチルマン両氏が書い
た「核の急行便」には、中国が1982 年から一部イスラムおよび社会主義国に核拡散を
積極的に進めることを決め、科学者を教育して技術移転を進めているとのいきさつが詳
述されている。パキスタンの核物理学者カーン博士が何をしたかを辿たどれば、インド
の懸念は裏付けられよう。
北朝鮮イランイラクを「悪の枢軸」と名指ししたのはブッシュ前米大統領だが、
インドの戦略家の1 人は「北朝鮮パキスタン中国」に同じ名称を与えていた。日本
の緊張感のなさとは比べものにならないが、どちらが異常なのだろうか。(了)

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平成22年12月20日 インド政策研究センター教授 ブラーマ・チェラニー

●アジアの緊張高めた声高の主張!

急速に台頭するアジアは世界の地政学的変化の中心となった。今や、アジア諸国の政
策と挑戦が国際的な経済環境と安全保障環境の形成に一役買っている。しかし、2010
年は、中国が近隣諸国との領土紛争を拡大して緊張を高め、声高の主張をした年として
記憶されるだろう。もっと言えば、2010 年は、中国指導部が拡張する中国への恐怖心
をあおり、アジアの表舞台への米国の復帰を促すことで、中国の国益を損ねた年だった。
中国の力の増大に伴い、アジアでは多くの国が二国間ベースで安保協力関係の構築に
乗り出した。この協力関係は、中国の行動に好ましい影響を及ぼして、中国が越えては
ならない一線を越えたり、自ら唱えてきた「平和的台頭」に反する行動を取ったりする
ことのないようにしたいという、内に秘めた願望を反映するものである。
しかし、パートナーシップを真に構築するには時間がかかる。例えば、米国は近年、
インドを条約上の義務のない「緩やかな同盟関係」に組み込む努力を傾けてきた。それ
でも、利害対立がしばしば浮上する。
米国ベトナムにも秋波を送っている。だが、冷戦の遺産はベトナムの思考に引き続
き重くのしかかる。ベトナム中国へのヘッジ(保険)として米国に接近するものの、
ベトナム指導者の中には、米国がベトナムの体制転換に今なお執着しているのではない
かと心配する者もいる。

●日印米ロの結束は北京の悪夢!

中国インド、日本の戦略的三角関係で、中国は対印関係が悪化すれば対日関係を改
善することでバランスを図ろうとする。逆に、21 世紀の最初の10 年間のように、対日
関係が悪化すれば対印関係の改善を図る。この3 国を三角形の各辺に例えると、短い二
つの辺(インドと日本)を足せば、常に長い辺(中国)より長くなる。今日のアジアで、
最も急速に拡大しつつあると思われるのが日印関係であることは驚くに当たらない。
日印中の3 国に米国を加えた四角関係で、日本とインド米国が緊密に協力すれば中
国の選択肢は限られる。ロシアを加えた五角関係では、中国はのっぴきならない状況に
陥る。日本とインドロシアが米国の手を借りて結束すれば、中国中心のアジアが出現
する見通しが消えるばかりか、中国にとって究極の戦略的悪夢となる。
しかし、最近の動きが示すように、日ロの和解はなお遠い。米中はぎくしゃくした関
係を続けそうだが、あからさまな対立はどちらも好まない。米国にとって、中国の力の
増大は、アジアにおける米軍の前方展開の正当化に役立つのだ。また、中国ファクター
は、米国が既存の同盟国をつなぎ止め、新たな同盟国を引き寄せて、アジアでの戦略的
足跡を拡張するのにも役立つ。
こうした戦略的背景の下で、アジアでは、主要国の力関係は流動的状況が続きそうだ。

『週刊新潮』2011年2月3日号 日本ルネッサンス 第446回 櫻井よしこ

過日、日本の国防体制の問題点について元外交官で国際的視点から国防問題を研究してきた色摩力夫(しかまりきお)氏の意見を聞いた。興味深かったことのひとつが国際法と国内法の比較と相違だった。

国際法に平時国際法と戦時国際法の2つがあるのは周知のとおりだ。また、一旦批准すれば、全ての国際法は憲法と国内法の間に位置づけられる。憲法はその国の根本的価値観であるために、如何なる場合も国際法や条約より優先されるが、国際法及び条約と国内法が異なる場合、前者が優先され、国内法は改正を求められるということだ。

国内法はいきなりどこかから生まれてきたものではなく、その国の人々の生き方や暮し方を基本にして作られたもので、いわばその国の価値観である。国際法や条約は、そのような社会の基本を変えてしまうこともある。注意深い吟味が必要なゆえんである。

国際法の解釈は、「疑わしきは主権(国家)に有利に」が大原則で、特に戦時法規については論理的に狭く狭く解釈することが求められるのがもうひとつの特徴だという。

例として、毒ガスの使用を禁止した議定書がある。これは1925年に成立し、28年に発効した。しかし、人類はそれより21年前の1907年、すでにハーグ陸戦法規第23条禁止事項でこう定めた--「毒、または毒を施したる兵器を使用すること」。

色摩氏が説明した。

「たしかに毒を施した兵器の使用を禁止しているのですが、かといって第23条が毒ガスそのものを禁止することにならないのが国際法です。その証拠に、国際社会はみな、毒ガスの使用は禁止されないと解釈し、その解釈に異議を唱えた国は一国もありませんでした。毒ガスの使用を禁止するためには別の国際法が必要だったのです。それが1925年の法律です」


性善説は世界に通用しない!

つまり国際法では、具体的に書かれているとおりのことを、それも出来るだけ狭く解釈しなければならないということだ。鳩山由紀夫氏や仙谷由人氏に代表される「世界は善意で成り立っており、日本さえ善意で対応すれば、戦争や悲劇は回避出来る」という類の性善説は世界に通用しない。むしろ国際社会は、隙あらば自国の勢力を拡大したい、他国の安寧や権益を侵してでも、自国の欲望を満たしたいと考える国々で満ちている。だからこそ、国際法も条約も安易な類推解釈は危険であり、許されない。

ここで疑問が生ずるはずだ。人類は1925年に毒ガス使用禁止の議定書に合意したにも拘わらず、なぜ未だに幾つかの国は公然と毒ガスを保有し、生産しているのかと。再び色摩氏が語る。

「戦時法規には復仇(reprisal)という法理があります。これによって、敵方が戦時法規に違反した場合、敵が行ったのと同じこと、或いはそれと同等の戦時法規違反行為を公然と行う権利が生じるのです。毒ガスが使用禁止になってもう80年以上経つのに、諸国が毒ガス生産をいまも続けているのは、万が一の場合、リプライザルに用いるからです」

毒ガス使用禁止をめぐる国際法と諸国の対応は、核兵器にも当てはまる。人類が核兵器の使用を禁止しても、リプライザルという法理がある限り、完全な禁止にはつながらない。オバマ大統領が核のない世界の実現に向けて決意表明し、日本はそれを大歓迎したが、国際法が冷徹に示しているのは、核のない世界の実現は絶望的なほど難しいということだ。このように、美しい言葉で核を消し去ることは出来ないのが現実だ。但し、軍縮は出来る。それでも、事実から目を逸らさなければ、軍事的脅威の実態が何ら変わらないことも見えてくる。戦時法規と軍縮の相違を認識すれば、そのことは明確だと色摩氏が語る。

「戦時法規は戦争が始まってから適用される法です。他方、軍縮は平時における政治的取引です。これは戦争が始まれば自動的に消滅します。国防の責任者たる政治家や官僚はこのことをきちんとわきまえておかなければなりません。たとえば、核兵器の使用を禁止しても、戦いになれば毒ガスの場合と同様にリプライザルの法理が作用する。加えて軍縮に関する政治的合意も或いは法規制も、消滅します」

折しも1月5日、中国人民解放軍戦略核ミサイル部隊「第2砲兵部隊」が内部文書で、場合によっては「核先制使用も検討する」との軍事理論を部隊に周知していることが報じられた。内部文書は「核先制使用」の検討を「敵国が原子力発電所や首都を含む重要都市を攻撃すると威嚇したり、戦局が極めて不利となり国家存続の危機に直面した場合」と規定している(「産経新聞」1月6日)。


やはり自国の軍事力!

中国外務省はすぐさま、「中国はいかなる状況下でも核兵器を先制使用しないと厳粛に約束し、順守している」と従来の立場を繰り返した。中国は核実験に初成功した1964年以降、「先制不使用」を表明してきたものの、中国の軍事政策は予算も装備もその意図もすべて不透明だ。6年前には中国国防大学の朱成虎少将が「米政府が台湾海峡での武力紛争に介入した場合、核攻撃も辞さない」と発言した。

中国当局が強く否定しても、国際法によって厳密に核の使用を規定しても、中国がこれまでに核を拡散させてきた事実を見れば、危険に満ちたこの世界で、中国と隣接する日本にとって自国を守ることがどれほど困難な課題か、容易に想像出来る。

中国パキスタンに核を与え、それによってインドパキスタン問題に縛りつけてきた。インドの国力をパキスタンの核への対応で消耗させ、中国の脅威から目を逸らさせ、さらに海洋進出の力を殺ぐためだと、インドでは分析されている。

中国が仕掛けたこの罠は、英国国防省の研究チーム『開発・概念・ドクトリンセンター』が、「パキスタンと中国の脅威に対する負担ゆえに、インドは世界の大国とはなり得ず、地域大国に終わる可能性がある」と予測したほど効果的である。

中国国連の核兵器不拡散条約(NPT)の加盟国であるにも拘わらず、核拡散を進めてきた。国際法や条約の限界を他国には当てはめるが、自身はそれに縛られないというのが中国の核戦略である。

色摩氏はもう一点、人類の戦争の形が9・11テロ以来、国家対国家から、国家対非合法武装組織に変化してきた点に、現代の国際法が直面する困難があると指摘する。従来の戦時法規を適用することが出来ないにも拘わらず、新しい対処法は未完成だ。混沌とした世界情勢の下で最終的に頼れるのは、やはり自国の軍事力なのである。

政権幹部の金正日への忠誠心はなおも変わらず!

2011.02.04(Fri)JBプレス 古森義久

 今、全世界でも最も閉鎖的な国といえば、北朝鮮の名をまず挙げる向きが多いだろう。

 確かに北朝鮮の内部での出来事は、外部にはまず分からない。カルト風の独裁支配体制が国家の機能に秘密のベールを厚くかぶせているのだ。

 だが、日本にとって、その秘密の国、北朝鮮の動向は極めて重要である。日本は、北朝鮮に関する情報をあらゆる方面から収集するよう努めなければならない。

 その意味で、米国の首都ワシントンに拠点を置く有力研究機関「ピーターソン国際経済研究所」が1月31日に公表した北朝鮮内部の政治・経済情勢についての調査報告の内容は、注視すべきだろう。

 その報告の結論を総括すれば、北朝鮮は従来の中央集権の計画経済では民間末端から自然発生するブラックマーケット(闇市)的な市場の広がりを抑えられず、その拡大によって政権存続の根幹を揺さぶられている、というのである。

90年代半ばから北朝鮮に違法の市場が誕生!

 米民主党系の民間有力研究機関「ピーターソン国際経済研究所」は1月31日、北朝鮮内部の政治経済情勢についての調査報告を発表した。

 報告の作成にあたったのは、同研究所の副所長でアジア経済専門家のマーカス・ノーランド氏と、北朝鮮経済に詳しいステファン・ハガード研究員である。2人が共同でまとめた「変化の証人=北朝鮮の難民の考察」と題する報告を研究書の形で発表した。

 2005年と2009年に韓国と中国で行った、北朝鮮難民それぞれ数百人を対象とした聞き取り調査を主体とした内容である。

 同報告は、北朝鮮指導部が経済改革を抑える方針を強めながらも市民末端での市場経済志向が激しく、その動きが政権のイデオロギー面を極めて不安定にしていると指摘した。

 北朝鮮では建国以来、ソ連型共産主義をさらに過激にした思想に基づき、資本主義経済は否定され、中央が統制する計画経済が実行されてきた。

だが、計画経済は効率が悪く、一般国民の食料や日常品までが不足した結果、1990年代半ば頃から、違法の市場(マーケット)が生まれるようになった。

 この市場は、地元住民の共同社会、あるいは住民たちの職場から、党組織、軍組織の一部までを主体として登場した。最初は原始的な物々交換から始まり、少しずつ貨幣を使っての普通のマーケットへと発展していった。

 「自主」の共産主義を掲げる政権側からすれば、この市場は違法である。とはいえ、公式の計画経済では住民が飢えてしまうとなれば、違法でもこの種の市場を黙認せざるを得なかったわけだ。

 だが、この種の自由市場経済的なマーケットがあまり広がると、「労働党の一党独裁」の教理がいろいろな面で侵されることとなる。このため2005年頃から、労働党政権はこの闇市経済を厳しく取り締まり、抑圧するようになった。「逆改革」と呼ばれる政策である。

市場の拡大が政権の内部崩壊を招く?

 こうした流れを踏まえて、ピーターソン国際経済研究所の報告は、現状について以下の趣旨を述べていた。

北朝鮮政府が2005年頃から市場を弾圧するようになったのは、主として、人民軍幹部が市場経済に反対していることに加え、非効率な国営企業の経営が市場経済の発展によってさらに悪化するという懸念があったためである。

・だが、市場を弾圧しても北朝鮮経済全体は好転せず、かえって食料や日常必需品の供給が悪化して、闇市はまた広がりをみせるようになった

・2009年11月に、北朝鮮政府は市場経済の広がりを抑えるために、旧通貨を新通貨と100対1の比率で交換する通貨大改革(デノミネーション)を断行したが、意図した効果は得られず、かえって国民の間の混乱や不満を強めた。

・政府は市場を「違法」と断じ、「市場経済の犯罪化の拡大」と見なしているが、その一方で、許容することを続けている。そのため、行政、司法、軍部などのあらゆるレベルで腐敗を招き、一般住民の当局に対する反発と嫌悪は激しくなる一方である。

・市場の拡大は、政権の共産主義的中央集権のイデオロギーの空洞化や矛盾を明白にし、一般国民の政権不信を強めることになる。その結果、国家体制の内部破裂の危険性が増す。

金正日総書記の健康悪化と後継問題が、北朝鮮の政治を不安定にした。首脳部はその経験から、2008年以降は現状維持志向を強くし、経済改革への意欲も大幅に失った。

・市場が広がると、経済活動を通じて住民のつながりが多様かつ多極になる。それは、労働党の独裁体制自体を侵食することにつながる。

 以上、要するに北朝鮮の違法の市場の広がりは、政権の求心力に逆行する動きであり、その動きがまだまだ活発であることが政権の基盤を侵食し、不安定にしている、というのである。

 さらに、政権にとって最悪な場合、この市場の動きが「内部破裂(インプロージョン)」までを起こしかねない可能性を指摘していた。「内部崩壊」と呼んでもよいシナリオである。

失われていない金正日への忠誠心!

 では、北朝鮮ではまもなく、この種の政権崩壊が起きるのだろうか。

 報告はこの点について重要な注釈を付けていた。以下の趣旨の記述である。

・しかし、金正日政権を直接支える労働党員、治安機関要員、人民軍幹部らの政権に対する忠誠心は、長年にわたって政権から優遇されてきたことなどによって、なお、かなり強いと見られる。

 これこそが北朝鮮情勢の読み方の難しさだと言える。

 計画経済の悪化と市場経済の広がりによって、北朝鮮の国家はいつ崩壊してもおかしくない状況である。まさに崖っぷちのぎりぎりまで来ているのだ。

 それでもなお、実際に崩壊の引きがねを引く主役や准主役になると見られる勢力は、最高指導者の金正日への忠誠心を強く保持しているというのである。

 だから、北朝鮮の内部の崩壊も爆発も「起きやすくて、起きにくい」というわけなのだ。

SNS革命」ではなく「世代間闘争」が真の原因!

2011.02.04(Fri)JBプレス 伊東乾

前回のこの連載原稿が掲載された1月28日金曜日、日本時間では夕方にあたる時間帯、イスラムの週間行事では最も盛大な、モスクでの「金曜集会」が終わったあと、誰が誘うともなく、集まった人々がデモ行進に連なって、「エジプト騒乱」が始まった。

 本コラムのリリース時点でも、ムバラク政権の退陣時期について米国を中心とする大国とエジプト政府との熾烈な交渉が、民衆間の衝突と並行して進んでいる。

 エジプトの問題を「革命」とか「レボリューション」などと表記するものを目にするが、こうしたことには慎重であるべきだと思う。

 エジプト・アラブ共和国国連加盟国でホスニー・ムバラク大統領はその国家元首だ。30年にわたる長期政権の統治に不満を持つ民衆がいることは間違いないだろう。

 しかし暴動が起きたという情報から、即座に「革命」といった言葉を使うのは安易に過ぎると言わねばならない。

 むろんそれは、政府による民衆のデモンストレーションへの圧力、とりわけ武力行使を含む強権発動を容認するものではない。こうした事態が発生した時、見識ある国家の姿勢とは次の3点に尽きると私は考える。

第1に 国民への武力行使を慎むよう呼びかけ
第2に 平和的な問題解決、とくに冷静な対話の重要性を喚起し
第3に 早期の状況の安定化を希望するとともに、復興への協力を約束する

 これらは各々、現実問題として「国益」を考えるうえでも必須不可欠なポイントで、実際に米国のヒラリー・クリントン国務長官や、英独仏のEU中核参加国首脳連名の声明でも、基本的にこうした点が押さえられていた。

 日本の観点から、このエジプト騒乱を見た時、死角に入りやすい問題を3点、考えてみたい。

国より優先する部族!

 1月14日、チュニジアのベン=アリー大統領がサウジアラビアに出国=亡命した翌15日、私はとあるエジプト人の日本研究者と夕食を囲んでいた。

 これは私たちが2011年度から中東のモスク建築内での音声や祈りの朗誦の響きを調べる、国際共同研究プロジェクトを進めるため、現地事情などディスカッションするための会合だったが、食卓の話題として「チュニジア政変」が当然のように登場してきた。

 そこで彼が語ったのは「混乱の飛び火」への懸念だった。そして図らずもそれは2週間以内に、彼の故郷エジプトでの現実となってしまった。

この席で彼が強調していたポイントが3点あった。1つは、こうした騒乱のポイントは民衆の騒ぎではなく、最終的には「軍」であるということ。つまり軍の動きによって現実のパワーは動いていくという冷徹な状況認識である。、

 第2は各国がどのように見るかという、国際バランスの問題。

 これも非常に重要だが、その中でとりわけ第3の論点として「近隣諸外国への騒乱の伝播」が、事態を決定づけるだろう、という観測だった。

 中東やアフリカ各国の「国境線」は、関係各国の都合で決まったというより、西欧列強のパワーバランスで外から決められたものが大半だ。典型的な例を挙げるならパレスチナ問題だろう。

 なぜユダヤ人国家とアラブ人国家が、かくも凄絶な対立を続けなければならなかったか?

ことの発端は英国の二重外交!

ことの発端は第1次世界大戦中の英国の「二重外交」にあるのは誰もが知る通りだろう。「バルフォア宣言」と「サイクス・ピコ協定」という矛盾する2つの約束がいずれも反故にされ、戦間期の混乱を経て第2次世界大戦後、一連の中東戦争につながっていくことになる。

 数世紀に及ぶ、大国「オスマン・トルコ」の支配の終焉後、バルカンや中東で起きた様々な混乱は、帝国主義列強間のパワーポリティクスの産物という側面が大変に強い。

 対立している現地当事者同士だけで物事を考えても、全く状況は堂々巡りになるようにできている。これがすなわち「分割統治」ということの、1つの典型的効果だと言うこともできるだろう。

 中東やアフリカなど、旧植民地地域での「国境線」は、こんな具合で外部から押しつけられたもので、地域住民の内発的な必然性と別のものであることが多い。

 ということは「国境線」とは別の区切りによって、人々の生活が律されていることが多いという現実を意味する。その単位が「部族」だ。

 もっと言うなら、中東やアフリカでは、政治的な国境線を越えて、複数の国家にまたがって、部族単位の情報や価値観の共有が当たり前に存在しているということでもある。


国境よりも部族のつながりの境界が、より大きな意味を持つ「国際社会」。

 つまり「チュニジア」という単位を越えて、騒乱の芽は、より歴史的にも古く、何より血の濃さでつながった人々を通じて、中東全域に広がっていくことが、ほぼ間違いなく予期されていたということだ。

中東・北アフリカ騒乱は「ソーシャルネット革命」か?

今回のチュニジア、そしてエジプトなど各国での騒乱は携帯電話やインターネット、とりわけSNSソーシャル・ネットワーキング・サービス)が大きな役割を果たしたとされる。

 具体的に言えば「ツイッター」や「フェイスブック」などのネットワーク新メディアが、デモ行進の呼びかけや群集の組織化に大いに役立ったとされている。

 チュニジアの政変を早々に「ジャスミン革命」などと命名する勢力があり「ジャスミン革命はソーシャルネット革命のハシリだ」などという表現がネットワーク上を駆け巡った。

 だが果たしてそれは本当なのだろうか?

 現実にエジプトで起きた出来事は、現象の別の横顔を見せる。ムバラク政権はインターネット史上初めて、混乱の最中にネットワークを大本からストップするという挙に出た。

 また携帯電話の回線も動かないようにした。こうしたメディアによって、人々がデモに集まる情報共有がされていたため、これを阻止するためだった。

 だがここで考えていただきたいのだ。もしあなたが仕事で電話をかけようとしたら、突然携帯電話が通じなくなっていたとしよう。あなたはどんなふうに思われるだろうか?

 エジプトでの携帯電話システム全体の故障率は知らないが、日本でこんなことが起きたら、クレーム電話が殺到して大変なことになるだろう。あるいはインターネットが通じなくなったら?

 人々はみんな、黙っておとなしくなるだろうか?

先週エジプトで起きたことは、ちょうどこの逆だった。人々は最初、携帯やネットがつながらなくなって「故障か?」と思った。

 次に政府による遮断と知って、とんでもないことだ、とむしろ怒ってしまった。

 突然の不便利を被った人々が、むしろ政府のこうした挙動に抗議してデモに集合して、人数が膨れ上がってしまったという側面すらあるらしい。

 こんな一事だけをとっても、エジプト騒乱が「ソーシャルメディア革命」などではないことは一目瞭然だろう。

 金曜集会以後、騒乱は急速にのっぴきならない状況となり、抗議する人の数もうなぎ上りとなったが、彼らは既に携帯やSNSで連絡を取り合っていない。

 何と言っても政府が止めてしまったのだ。

非合法アルジャジーラが頼りの報道
 伝統的な口コミで、市民は抗議行動のために町場に集結し、その中で暴徒化した連中が与党ビルを襲い、隣接する考古学博物館に侵入してドサクサにまぎれてミイラを盗もうとして、貴重な文化遺産を損壊するなどのトンでもない事態を引き起こしたりした。

 すべては「ネットなし」「携帯すら存在しない」状況での動乱で「ソーシャルネット革命」などでは全くない。

 むしろ、日本でエジプト情勢を知る際、テレビや新聞などのメディアが全く使い物にならず、エジプト政府に公式には禁止されたカタールの「アルジャジーラ放送」がブロードバンドネット上に根性モノで流し続けている(いわば非合法のゲリラ的)報道のビデオなどによって、現地の混乱を垣間見ることができるのだ。

 この状況の方がはるかに「ソーシャルネット革命」と言うにふさわしい状況のような気がする。

 エジプトチュニジアで起きているのは、リアルな力と力のぶつかり合いで、その雌雄は結局のところ軍が決定するような、値引きのない暴力の駆け引きとしての「騒乱」だ。

対岸の火事を評論する批評家の目では、この切迫した状況から日本が何一つ学ぶことはできない。

世代間の衝突としての政変!


では、こうした状況の混乱とネットワークやSNSは全く無関係なのかと問われれば、当然そんなことはない。極めて密接な関係がある。

 ただ、当初の段階である時点では、単なる連絡網以上に機能することが少なかった事実を指摘しているのだ。

 友人のカレスタス・ジュマはケニアの出身だ。彼は今回の問題を「世代と世代のクラッシュ」だと表現していた。

 カレスタスは、科学技術の導入によって、途上国の社会経済が、その国の最下層労働者のレベルから向上するような施策を検討し、実際にそれを動かしていく仕事をしている。

 現在はハーバード大学ケネディ校の教授として、これらの仕事に携わっているが、カレスタスが問題を「世代」と表現したのは、大変に興味深いように感じた。

 ここで例えば「宗教」とか「教育」「社会階層」などといった言葉を一切使わないのがミソになっているのだ。

 「世代」つまり「旧世代」と「新世代」の対立として見れば、既存のどのような勢力からも、不必要に非難されることもなく、建設的なアクションプランを検討することができるのだ。

 現実には「若い世代」は「旧世代」よりネットワークやコンピューターに詳しいだろう。また若い世代の「イスラム」社会に対する感じ方、考え方も、旧世代のそれとは違っているだろう。

 もちろん時代が下るからといって近代化するとは限らない。各地で頻発する自爆テロなど見るにつけ、むしろ先鋭的な原理主義に染まった少年兵なども登場して不思議ではない。

 いずれにせよ、そうしたすべてを、メディアの普及という観点から見た「世代」の問題として捉えることで、事態の中長期的な推移を検討することができるだろう。

 2011年は中東から目が離せない状況になってしまった。明らかに、歴史が動き始めている。

(つづく)

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