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珍しく的を射た菅首相、その志をムダにするな!
2011.01.25(Tue)JBプレス 岡俊彦
ここに1冊の文庫本がある。新人物往来社が出版した秋月達郎氏による『海の翼―トルコ軍艦エルトゥールル号救難秘話』という本である。
在外邦人は日本政府が救出してくれることを望んでいる!
イラン・イラク戦争中の1985年3月17日、イラク軍は3月19日以降、イラク領空を飛行する航空機への無差別攻撃を宣言した。
この時、イラン国内に取り残され、帰国する手段を持たない苦境に立たされた在留邦人に対し、トルコ政府は日本人救出のため特別機を提供し在外邦人の救出に当たった。
その背景にある100年前のトルコ海軍エルトゥールル号救出への恩返しを描いたドキュメンタリー小説である。
小説とは言いながらそれぞれにモデルが存在し、イランに在留する日本人の取り残された焦りや恐怖感、また、欧米の航空会社が自国民を優先して搭乗させているのに、なぜ日本の航空機は救出のために飛んできてくれないのかという日本政府に対する情けない思いなど当時の現場の雰囲気が、ひしひしと伝わってくる。
その当時は、自衛隊に対して「在外邦人等の輸送」という任務が規定されていなかったために自衛隊の航空機を派遣することはできない状態であった。
その後、自衛隊法が改正され、現在では自衛隊法第84条の3において、「防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命または身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があった場合において、当該輸送の安全について外務大臣と協議し、これが確保されていると認める時は、当該法人の輸送を行うことができる」と規定されている。
現状、自衛隊法によるこの規定が、我が国における在外邦人輸送の唯一の根拠であるが、この条文には3つの重要なポイントがある。
最も重要なポイントは、「在外邦人等の輸送」であり「救出」ではない点である。次に「輸送の安全が確保されている」ことであり、最後に「外務大臣からの依頼」があることである。
邦人輸送と邦人救出!
残念ながら現在の自衛隊法では、あくまでも輸送の安全が確保されている状態で自衛隊機を民間機の代わりに輸送機として(あるいは、海上自衛隊の艦艇を)使用できるという規定であり、在外邦人の望む邦人救出とは異なる。
我が国では、邦人輸送と邦人救出が同じ概念で使用されている懸念があり、さらには、自衛隊法の規定で邦人救出が可能であるように解釈されている。
そのいい例が、昨年暮れ、菅直人首相が朝鮮半島有事の際、邦人救出のために自衛隊機を現地に派遣できるよう、韓国政府と協議に入る考えを表明したことである。
ところで、邦人輸送と邦人救出は、どう違うのであろうか?
数多く自国民を紛争地域から救出している米軍の考え方、すなわち、米軍の統合図書(United States Military Joint Publication)3-68「非戦闘員退避活動(NEOs:Noncombatant Evacuation Operations)」を参考にし、その違いを分析することにする。
非戦闘員退避活動(以後「NEOs」という)とは、米国市民、国防省の文官、ホストネーション国の国民および第三国の国民を外国の危険地域から安全な避難地に退避させることであり、敵対的な危険からだけでなく、自然災害に伴う危険からの退避も含まれている。
また、NEOsの目的は、次の3つである。
(1)保護、安全な避難地への退避および避難地の福利厚生を提供すること。
(2)死亡および/又は人質として拘束される危険に陥る人数を最小限にすること。
(3)予想されるあるいは実際の戦闘地域にいる人数を最小限にすること。
この概念こそ邦人救出の概念であり、飛行の安全が確保されている地域からの輸送とは大きく異なっている。在外の邦人が望むものは、まさしくこの邦人救出≒NEOsにほかならない。
邦人救出の所管は誰か!
NEOsでは、国務省が全責任を負い、非戦闘員の保護、退避のための緊急対応策並びに計画および手順を策定することとされている。
NEOsを実施中は、戦闘指揮官や統合軍指揮官ではなく、現地の大使が最高権威者としてNEOsと退避の安全について全責任を負っている。国防省は、国務省のNEOsの計画策定に助言し、NEOsの手段を提供するだけである。
自衛隊法でも在外邦人などの輸送は、外務大臣からの要請によることとされており、この面からは外務省が所管すると読めるが、外務省が全体としての輸送計画を立案しているとは、寡聞にして知らない。
一国の首相が邦人の救出が必要であるという認識ならば、国としての救出の意思を明確にし、外務省を中心として邦人救出計画を立案することに最初に着手しなければならない。
我が国の現状の態勢で邦人救出が可能か!
NEOsにおいて、国務省は、既に不安定な環境への軍の投入はさらなる不安定を生起させるため、スモールフットプリントを維持すべく軍のレベルを制限し、あるいは、最小限の行動とするよう計画を策定する。
また、このために武器の使用を政治がコントロールするROE(Rules of engagement:部隊行動基準)を策定し、部隊に明示することが不可欠である。
朝鮮半島有事の状況で邦人救出を実施しようとすれば、自衛隊の投入のフットプリントを最小限にするにしても、救出任務を遂行するための、あるいは、邦人を保護するための武器の使用は不可欠である。
現状の憲法解釈、特に武力の行使と武器の使用を同一に解釈するのであれば、朝鮮半島有事における実効ある邦人救出は極めて困難である。
そこを改善しない限り、現行の輸送の安全が確保されている状況での邦人輸送しかできない日本国のままである。
ところで、自衛隊が保有する邦人輸送のための手段は、輸送用ビークルとして航空自衛隊が運用する政府専用機(B747-400×2機)、輸送機(C-1×26機、C-130H×16機)、海上自衛隊の艦艇(特に、おおすみ型輸送艦×3隻、ひゅうが型護衛艦など)を活用することができ、また、陸上自衛隊は護衛部隊として、年度ごとに派出護衛部隊を指定している。
一方、邦人輸送の訓練は、2003年11月に海上自衛隊演習の一環として、海上自衛隊の大村航空基地において、海上自衛隊と陸上自衛隊が協同して実施したことがある。
この時は、紛争などで混乱した外国から在外邦人を迅速に誘導、避退させることを狙いに、陸、海自衛隊員約1000人と海上自衛隊の大型ヘリ2機、護衛艦と輸送艦計4隻が参加して実施された。
外務省係官に扮した隊員が旅券により身元を確認後、海上自衛隊の大型ヘリで「出国」、長崎県の大瀬戸町沖に待機する輸送艦に収容した。
このほかに、陸上自衛隊と航空自衛隊の間では数多く邦人輸送に関わる訓練が実施され、航空機の離発着時の航空機の安全を確保するための警備、待機場所での身元確認、誘導、邦人の警備等のノウハウは確立されている。
また、2006年から自衛隊は本格的な統合運用体制に入り、当初、2つ以上の自衛隊が協同して行動する場合の指揮の問題(誰が指揮官となるのか)は、統合部隊の編成により解決され、より円滑に実施できると見積もられている。
このように、自衛隊はいつどこにでも出動できる意思と能力を有しているが、これまで訓練している内容は、待機(避難)場所からの出国手続き、警護が主であり、現地の大使が指定する避難場所までの誘導、警護を含めた訓練はなされていない。
これは、邦人輸送を主導する外務省との調整がなされたうえでの訓練ではなかったためである。輸送の安全が確保されている状況での邦人輸送ならば、これでいいのかもしれないが、実際の状況では、現地の大使が指定する避難場所までの誘導、警護が最も困難な任務である。
以上のことから、現状の我が国の邦人輸送の態勢は、防衛省自衛隊が飛行の安全が確保された状況で、邦人輸送に提供できるビークルを保有しているという段階にとどまっている。
国を挙げて邦人輸送の態勢を確立するためには、まず第一に、「輸送の安全が確保されている」という現行法規の前提を正すべきである。
次いで、官邸、外務省に関係省庁(厚生労働省、国土交通省など)を巻き込んだ(必要であれば在日米軍を加えた)図上演習により国としての邦人救出計画およびROEの立案、検証を図り、その計画に基づく実動訓練により、さらなる検証を行い、邦人輸送の態勢を完備すべきである。
朝鮮半島有事における邦人救出!
一般に、NEOsにおいては、次の3つの情勢に区分し、それぞれの対応を定めている。
(1)Permissive Environment(退避対象国との間に行き来が可能な状態)
(2)Uncertain Environment(退避対象国の軍隊が作戦を実施中であるが、政府の領土、国民に対する統制が効果的に実施されているか不明な情勢)
(3)Hostile Environment(騒乱からテロ行為、全面戦闘に至る状況で、非戦闘員は避退させられる情勢)
韓国には約3万人の邦人が滞在していると見積もられている。しかも、その大半が首都ソウルおよびその近傍に起居していると言われている。
韓国の首都ソウルは38度線から数十キロしか離れておらず、朝鮮半島有事の場合、一瞬にしてパニックとなり整斉とした避退を困難にする。
従って、朝鮮半島有事の邦人救出は、できるだけ Permissive Environment な情勢の下で開始すべきである。
ところが、筆者が現役自衛官であった時、韓国合同参謀本部の防衛計画を担当する部署との意見交換の折、朝鮮半島有事の際は早めの邦人救出が必要である旨を表明したところ、次のような返答が返ってきた。
「大量の日本人が韓国から退避を開始すれば、韓国国内は、何か異変が起こるのではないかと国民の間にパニックが生じてしまう。従って、早めの退避には、韓国政府として協力しづらい」
もちろんこれは個人的意見であるが、十分考慮の対象になることである。
菅首相の発言に対して、朝鮮日報は社説で「非常に配慮に欠け、誤解を呼び起こしかねない不適切なもの」と断じている。
また、我が国のマスコミは、日韓の間には歴史問題があるため調整は困難であり米軍への期待を表明する論調も多い。
しかし、韓国内外の雰囲気がこのような状態であったとしても、日本国として韓国在住の約3万人の邦人を、他国の援助を期待し、手をこまぬいて見過ごすことはできない。
救出の手立てを尽くすことは、日本国政府の基本的な任務であり、政治家、官僚だけでなく国民一人ひとりを含め、国を挙げてこの問題に対処すべきである。
幸いに、韓国との間には、1994年11月に第1回の日韓防衛実務者対話をソウルにおいて行って以来、相互に防衛首脳などのハイレベル交流、防衛当局者間の定期協議、部隊間の交流などが着実に進展している。
本月の10日には北沢俊美防衛大臣が訪韓し、日米間で締結されている物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に向けた協議を呼びかけるなど、安全保障面での韓国との戦略調整が進もうとしており、韓国政府と腹を割って Permissive Environment における邦人救出の必要性を説き、徐々に調整の下地を整えていくべきである。
もちろん、Uncertain Environment および Hostile Environment における邦人救出も当然考えられ、自衛隊のフットプリントを韓国国内に示すことのアレルギーは当然予想されるが、どこまでのフットプリントならば許容できるのか調整の余地はあると思われる。
同時に、残された軍事的対応の必要については、米軍を巻き込み韓国側と調整せざるを得ないと思われる。
朝鮮半島情勢は、北朝鮮のミサイルおよび核兵器の開発に加えて、昨年の北朝鮮による韓国海軍警備艇「天安」の撃沈事件および延坪島砲撃事件並びに2012年強盛大国の大門を開くための後継者の選出などの混沌とした情勢から想像を超える事態が発生する可能性を否定できない。
そのような情勢認識に立てば、菅首相が邦人救出のための自衛隊機の派遣の考えを表明したことは、的を射たことであり、首相発言を契機に与野党が一致協力して、国会の総力を挙げて邦人救出の態勢を整備すべきである。
のちに仙谷由人官房長官(当時)がその考えを否定したように首相のその場の思い付きにしてホオカムリをしてはならない。
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