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延辺朝鮮族自治州
加藤嘉一・中朝国境をゆく(2)
2011.02.16(Wed)JBプレス 加藤嘉一
俺たちは北朝鮮に食わせてもらってるんだ。向こうとの貿易がなければ、俺たち丹東市民の生活は成り立たない」
国境越しに北朝鮮を眺め、物足りなくなってきた!
日頃から中朝間を合法的に往復し、両国貿易関係を推し進める丹東商人が筆者に語った。北朝鮮と隣接する国境都市丹東市。中国の対北朝鮮貿易の80%以上がここを通過する。
筆者も丹東に赴いたことがある。国境のシンボルとなっている鴨緑江の対岸を一日中ぼんやりと眺めていると、たまに北朝鮮の車が通っていたり人の影が見えたりして、感激させられた。
何しろ日朝間には国交がないわけで、たとえどれだけ限られていたとしても、北朝鮮を目の前で体験できるのは中国留学の醍醐味だと、漠然と思っていた。
何度か足を運ぶうちに、正直、物足りなくなってきた。あくまでも河ひとつ挟んでいるため、こちら側とあちら側の間には距離感がある。
現地の漁民にお願いして、北朝鮮の領土まで30メートルのあたりまでは接近したことがあるが、どうもパッとしない。あちら側の生活感が窺えない。
国境が奏でる真の国際関係!
観覧車らしきもの、運転中止になっていると思われる工場、軽トラック、人影の無い道路、くらいしか見えない。
丹東が中朝間における合法的な貿易拠点になっている、という点も筆者にはお役所的過ぎる、建前に過ぎるように感じられた。
「中朝っていったら脱北に密輸だろ」
みたいな、こちらも漠然とした認識が筆者の脳裏にはあった。国境があるようでないような、政治関係とか経済統計などに左右されない、近くで遠い国境が奏でる真の国際関係を考えたい。自分が全く知らない、神秘的な北朝鮮を肌で感じてみたい。
2009年6月、初めて吉林省延辺朝鮮族自治州へと飛んだ。
中国にいる朝鮮族は192万人!
昼頃、延吉空港に着陸。小さな空港だ、薄汚い感じすら受けた。空気は北京とは違う、暑くも寒くもない。
正規のタクシーが見つからなかったため、白タクに乗り込んだ。運転手の普通語が怪しい。イントネーションが微妙だ。聞いてみると、やっぱり朝鮮族だった。
2000年度の第5回全国人口調査によると、中国全土で朝鮮族は192万3842人。
2008年度末の段階で、最も朝鮮族人口の多い延辺朝鮮族自治州の戸籍登録済み人口は218.7万人、そのうち、朝鮮族が80.6万人である。延辺総人口の36.8%を占める計算になる。
違法行為で食っている運転手は一般道を時速120キロでぶっ飛ばした。市内までは10分で行けた。交渉時間は約1分、運賃は25元(約300円)でディールが成立した。
北京で食べるより格段に美味しい朝鮮冷麺
あたりを見回すと、やはりハングル標識が多い。ほぼすべての建物が漢字とハングル両文字表記になっている。
丹東と比べても朝鮮族への配慮が徹底されている。丹東の人口は243万人、そのうち朝鮮族は2万人強、1%前後しか占めない。
昼食には朝鮮冷麺を10元(130円)で食べた。北京で食べるより格段に美味しい。店内は朝鮮語が飛び交っていた。お勘定を済ませ、店を出る。何だか異国の地へ来た気分に襲われた。
車で図們江(Túmenjiāng, トゥーメンチャン)へ向かう。中朝国境の長白山に源を発し、中国、北朝鮮、ロシアの国境地帯を東へ流れ日本海に注ぐ。全長約500キロの国際河川だ。中朝国境の境界線を成す河でもある。
中、小高い山になっているところに、北朝鮮から脱北してきた人間を放り込んでおく収容所を見つけた。中国領土内で公安に捕まった脱北者はここで拷問を受ける。
北朝鮮に気を使う超大国・中国!
中国にいる間に何をしたのか、誰と一緒にいたのか、どこに住んでいたのか。一般的には10日、犯罪を犯していれば2カ月くらい続く。その後、北朝鮮に強制送還される。
現地住民の話によると、今から10年以上前、延吉市内では至る所に脱北者を見ることができた。明らかに栄養失調、痩せていて、ボロボロの服を着ているから一目瞭然だったという。
2003年以降、中国政府は北朝鮮側の「要求」に従い、積極的に脱北者を捕まえては強制送還してきた。大国中国が小国北朝鮮のお国事情に迎合しているということだ。
これが何を意味するか。国際連合などが主張する国際人道主義という視点に立てば、北朝鮮国内で飢え死に寸前という困難に直面していた脱北者を捕まえ、拷問した挙句、圧政の環境に強制送還することは、どう頭をひねっても良心と正義に反する。
中国は国連安全保障理事会の常任理事国である。
中朝関係が良好だからこそ強制送還する!
現地の公安の人間に話を聞いた。
「脱北者を捕まえることは人道主義に反する。それは当然だ。俺たちも女性や子供は極力見逃してあげるようにはしている」
「一般的に、中朝関係が政治的に良好な時は、やっぱり北の事情を汲み取って強制送還するしかない。関係が悪化すれば、向こうに圧力をかける意味でも送還はしない。逮捕も少なくなる」
なるほど、脱北者を捕まえるか否かは、中朝関係という政治問題とリンクしているのだ。
江沿いを走る。ついに防川に着いた。中国、北朝鮮、ロシア3国の国境が交わる不思議な場所である。その日は曇りで、霧も濃かったため、海は見えなかった。風景も朦朧としていた。でも国境の匂いがする。少し肌寒い、気温は摂氏5度くらいだろうか。
「5分でいい、国境のど真ん中に立たせてくれ!」
国境警備隊が注意深く筆者の方を監視していた。銃を持ち武装した警察だった。20歳くらいだろうか。
筆者が近づき、北朝鮮により近いエリアに向かって歩いていこうとすると、それまで微動だにしなかった先方の体が動いた。筆者の右肩を力強く掴み締め、言った。
「こんにちは。申し訳ないが、ここから先は入れない。お引き取りください」
どうしてもあちら側を体験してみたかった筆者に引く理由はなかった。
「せっかくここまで来たんだ。5分でいいから国境のど真ん中にいさせてください。何ならあなたが横で付き添っていてもいい」
「一歩でもここを越えたらあなたの大脳に向かって発砲する」
礼儀正しい若い軍人(武装警察は軍隊の役割も果たす)は、冷徹な瞳で筆者を睨みつけ、言った。
「もう1回だけ言います。お引き取りください。仮に一歩でもここを越えれば、私は無条件に、あなたの大脳に向かって迷わず発砲します」
筆者は10秒間相手を睨みつけた。「ここ」を越えた人間に発砲することがルールになっているのか、それとも、この若い軍人の単独行動なのかを判断するためだ。どうやら前者らしい。
「申し訳なかった。貴組織の事情を把握できていなかった。許してほしい。君、名前は?」
握手を求めて手を差し出したが、無視された。
防川から国境の河に沿って、キャンプのベースにしていた延吉市に戻る。夕方になり、もうすぐ日が暮れそうだ。あたりはシーンと静まり、物音すらしなかった。
犬かオオカミか分からない野良犬に遭遇!
350キロ走った。途中、60年前の朝鮮戦争でアメリカ軍の砲弾に遭遇して以来そのままになっている「断橋」が目に入った。車を止めて、橋の方向へと歩いていく。一段と寒くなったみたいだ。気温は摂氏0度くらいか。
突然、2匹のどでかい白黒の犬が現れ、筆者に向かって吠えてきた。中国では犬は野良犬が基本で、首輪もついていなければ飼い主もいない。目の前に現れた犬は間違いなく野生そのものだ。
それに、姿を見る限り、オオカミのようだ。耳が立ち、口吻と歯が尖っている。逃げれば確実に追いつかれ、咬まれる。高校時代駅伝選手で、ラストスパートに少しばかり自信があったくらいでは、おそらく相手にならない。
どうしよう。下手をすれば食われてしまうかもしれない。人生の土壇場なのか。筆者は深呼吸した。息を止めるのではなく、静かに吸って、吐いた。
そして、語りかけるように、手を差し伸べるように、笑顔を2匹の“オオカミ”に届けた。1分間くらいだろうか。お互いに見つめ合い、その場の空気を共有した。2匹は次第に下がり、山の方へと走っていった。
夕暮れ、国境に警備の軍人はいなかった!
助かった。脇には汗が滲み出ていた。
慎重に「断橋」の方へと歩を進める。日が沈みそうだ。あたりには国境警備隊もいない。こちら側には人影すらない。あちら側が近い。10メートルくらいか。
仮に自分に世界記録を達成できるほどの走り幅跳び能力があれば、国境をジャンプで越えて、北朝鮮サイドに着陸できるかもしれない。そんなリアリティーのないことを考えていた。
向こう側に中年のおじさんが見えた。歌を歌っている。なかなかいいメロディーだ。こちら側から手を振る。「おーい!」と腹の底から大声で叫ぶと、手を振って返してくれた。
何だか心がつながった気がした。河はまだ凍っていた。あちら側からこちら側には、簡単に来られてしまう。少なくとも筆者があの場所にいた1時間くらいの間は、中朝両サイドに軍人はいなかった。
「仮に自分が中国から北朝鮮に脱出したら、何が起こるんだろう」
歴史的背景に富んだ、近くて遠すぎる中朝の国境を前に、そんな途方もないことを妄想させられた。
餓死寸前の北朝鮮人に食料を分け与え続けている1人の老人!
帰り際、2匹の“オオカミ”に遭遇したあたりで1人の老人に出会った。朝鮮族のキムさんという人だ。彼に最近の脱北者の行き来や、国境事情を聞いてみる。
「2004年くらいからかなあ。北朝鮮の同胞たちは本当に食べるものがなくなってしまったよ。みんな飢え死に寸前なんだ。今年はいつもより早く、3月の段階で食料がなくなってしまったそうだ。みんなこちら側に、食料を求めてやって来るよ」
筆者は質問した。
「それで、食料を与えるんですか? その交流に対して、両国の当局からは何も言われないんですか?」
キムさんの表情が一瞬引き締まったのを、筆者は見逃さなかった。
「朝鮮戦争で300万人の朝鮮人が死んだ。少なくない数字だよ。1998年から2003年の間、モノが食えなくて死んだ人間も300万人だ」
月給の1.5倍の罰金を払っても食料を与え続ける!
筆者は考え込んでしまった。この60年間、北朝鮮という国は、姓がこのおじさんと同じキムという統治者たちは何をしていたのだろうか。人類社会の進歩が、北朝鮮の餓死者たちを救うことはできないのだろうか。
「キムさんは食料をずっと与えてきたんですね。偉大だと思います。心より敬意を表します。でも、当局からの監視が気になったりしないんですか?」
キムさんは筆者の両目を直視して、でも口元からは緩やかに声がこぼれた。
「仮に警察に北からの同胞に食料を与えている瞬間を目撃されたら、罰金を払わなければならない。1回につき3000元くらいだよ。これまで同胞のために数十万元、たくさんのお金を党に奪われたね」
キムさんの月収は2000元くらいだという。そろそろ定年を迎える頃だろうか。キムさんのうつろな目が、筆者の心に突き刺さった。
ウラジーミル・ジリノフスキー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%AA%E3%83%8E%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC
菅発言に怒ったロシア極右政党党首の愉快なやり口!
2011.02.15(Tue)JBプレス 菅原信夫
2月7日より11日まで、モスクワで恒例の「国際食品飲料展―Prodexpo2011」が開催された。 昨年と同様、モスクワシティーのすぐ隣、エクスポセンター見本市会場ですべてのパビリオンを使用してのロシアでも最大級の催しものである。
物価上昇のペースが著しいモスクワ!
会場に入り、空を見上げるとモスクワシティーに建設中のいくつかの高層ビルが嫌でも目に入る。
何が嫌かというと、この景色、昨年と全く変わらないからだ。経済統計から見ると、リーマンショックからロシア経済は立ち直ったそうだ。
しかし、実態経済の中で仕事をする我々から見ると、ホンマかいな? という疑問を頭から払いのけることができない。
年明けにモスクワに戻り、スーパーに買い物に行き、大いに驚いた。1つは商品の値上がり。45ルーブルだったオレンジジュースは66ルーブル。1キロ450ルーブルで買えたロースハムは600ルーブル以上だ。
卵、食肉、牛乳など日常の生活に欠かせないものが一挙に20~30%上がっている。次に気がついたのは、妙に売り場が広々としていること。
よく見ると野菜を載せていた台や、その日のバーゲン品を平置きしていたテーブルがなくなり、高級酒類を鍵をかけて保管していたショーウィンドーも消えている。
テロを警戒してショーウィンドーを撤去
馴染みのおばさんに、「商品が減ったから台を片付けたのか、あるいは台を置くなとでも言われたのか」と聞くと、それそれ、と2番目の理由に丸をつけてくれた。爆弾を隠せるような商品台は撤去せよ、ということらしい。
1月24日のドモジェードボ空港爆弾テロのあと、警察はいろいろな場所で警戒を厳しくしているが、なかなか政府トップからはお褒めをいただけない。
昨日は、ドミトリー・メドベージェフ大統領が自らモスクワのターミナル駅の1つ、キエフ駅構内を視察して、持ち場にいないという警官の怠慢さに怒りを爆発させたと新聞に書かれていた。
だから保安上の理由というのも嘘ではなかろう。しかし、私には先週の小売問題セミナーで聞いたこんな話が頭をよぎる。
このところの異 常な小売業の拡大で、リスティングフィーが上がり、中小のメーカーでは大手小売チェーンへの売り込みが難しくなっている、というのだ。
WTO加盟を目指すロシアは、不透明なリスティングフィーを無くすべく、いろんな方面に圧力をかけているが、その結果として、これまでアッケ ンカランとやり取りされていたリスティングフィーが地下にもぐりつつある、という指摘だ。
このため、新規に取引を始めることが難しく、従来 からの納品事業者のみと仕事をするようになっている。リスティングフィーの上昇分を納品価格に反映させることは小売側も黙認。
その結果が 小売価格の上昇となって現れる。 だから、現在のロシアを見て、景気が回復したと言い切ることは私にはできないのだ。
そんな中での食品展であったが、人出は昨年とほぼ同様、会場に行くのも、会場から帰るのもメーンの道路に出るまで40分近くは渋滞を我慢せねばならないという人気で、無料招待券が500ルーブルもの価格でダフ屋が販売しているのは、やはり買う人がいるからだろう。
今年も国際パビリオンに日本ブースを構えた、という話を聞いたので、早速様子を見に行く。
何もないイタリアブースに唖然!
今年の異変は実は日本ブースの前に覗いたイタリアブースで感じた。まず、出展者が大きく減っている。そのうえ、いつもは立派な出展者カタログを用意して、気前よく配布してくれるI.C.E(イタリア貿易振興会)の姿が見えない。
馴染みのワイン生産者を探すも、名前の通ったワイン生産者は皆無。出展している生産者も、試飲用のワインは1種類2本しか通関許可が下りなかった、ということで、ほとんど試飲はなし。
これでは長居する気も起こらず、すぐに日本ブースに向かう。
今年も農水省の肝いりで、日本ブースには9社が出展していた。一周して気がついた。昨年出展した企業が今年は1社も出ていない。
もちろん日本ブースとしてのカタログなどは昨年同様なくて、各社が自社カタログを配布しているだけ。それも中にはカラーコピーした英文のもので間に合わせているところもある。
閑古鳥の日本ブース、数年前の賑わいが懐かしい!
商品としては、日本酒(月桂冠)、味噌(信州一、宮坂醸造)、高岡屋(海苔)、日本米(Vox)、だし(フタバ)などなど。
全体予算が限られているためだろうが、ブースにはロシア人が好む華がない。従い、立ち寄る人も非常に少ない。パビリオンの一番奥という不利な場所で、これだけ静かにしておれば、誰も来ないのは当たり前だろう。
出展企業を集めるのも今や至難の業と聞く。数年前の日本ブースの賑わいが懐かしい。
農水省は、「美味しいーJapanese Food Quality」という標語やロゴを作り、日本食品の海外向け輸出に積極的に取り組んでいるが、ロシアではあまり成果が見えない。
常設店舗活用型委託事業と言い、地元のスーパーなどにお金を払って日本食品を置いてもらうのだが、期限が来ると、日本食品は消えて、もとの木阿弥となる。
日本の税金を使ってこれでいいのか!
これはいつか本誌でもお伝えをしたロシア式リスティングフィーを日本政府が支払っている、ということで、税金負担者の日本国民として、これでよいのか、ちょっと首をかしげる。
店頭での試食会みたいなものも行われているが、どの商品も継続性のないスポット輸入であるから、ロシア人の好奇心を引く程度で終わってしまう。
大手商社にも食品担当の駐在員はいるが、本来の仕事は商社本来の穀物のトレード情報の収集や大手食品メーカーのロシア進出のお手伝いなどであって、日本食品を地道に売り歩くようなことはしない。
そんなわけで、ロシアに関する限り、日本食品の輸出というのは言葉の空回りになってしまっている。
ロシアで和食は定着度を高め、今や完全に市民権を得た感があるが、それに比して日本食品の輸出が伸びない理由はなぜなのか。いくつか理由をまとめておこうと思う。
日本から輸入する食品が間違っていないか?
(1)日本から輸入せねばならない食品が少ない
先ほど、日本ブースの出展者のところで展示品を書いておいたが、結局のところ日本から出せる食品というのは次のような商品になる。
●乾物類: 海苔、魚加工品、乾麺、冷凍麺
●味噌、醤油、ソース、だしの素、りんご酢など調味料
●日本米
●日本酒、焼酎、梅酒、ビール、その他リキュール類
●日本茶、コーヒー(インスタントを含む)
これらの加工食品類は中国、韓国との競争が激烈で、既に勝負あった、という感じがする。例を取ってみよう。日本の海苔は、品質が高いという生産者の話であるが、ロシアのスーパーの店頭を見ると、ウラジオからサンクトまで、海苔といえば韓国製が並んでいる。
日本の海苔が寿司用を基本とするからか、味付け海苔が少ないのに対して、韓国海苔はキムチ味を筆頭に多用な味付け海苔を用意している。これがロシア人に受けている。
チョーヤの梅酒が消え、代りに中国製の梅酒が幅効かす!
和食レストラン向けの日本産酒類といえば、日本酒人気がイマイチのこの国ではチョーヤが市場を開拓した梅酒が代表格だ。
ところがこの1年というもの、チョーヤの梅酒は酒販店の棚から姿を消し、代りに中国産の梅酒が何種類も並んでいる光景を目にすることが多くなった。
今回の展示会に日本から出張されていたチョーヤ梅酒の稲葉さんにお話を聞いたところ、代理店を変更した影響が大きい、ということだった。
しかし、真の原因は日本産と中国産の価格差、もっと言えば、ロシア人の舌がこの価格差を味の差として感じられないことにあると私は考えている。
米については、ソ連時代から我々駐在員は、ドイツ経由でカリフォルニア米を購入していた。味には遜色はないし、何より価格が手ごろ。そこに最近では台湾から水晶米という、日本米を改良したものが入り始め、日本米はどこへ行くのか。
ロシア人が本当に欲しい日本食を輸出できていない!
(2)魅力ある生鮮食品が輸入できない
日本の食品に対する世界の注目が高いのは、実は上記に含まれていない生鮮食品にある。野菜、果実類、鮮魚、貝類、これに新鮮さが勝負の和菓子、洋菓子が世界のグルメが渇望している日本食品なのだ。
こういう商品をいかにロシアをはじめとする新興国に持ち込むか、そして美味しいものには糸目をつけずに金を使うリッチ層にどのようにアピールするか。
魅力的で、ロシア人にアピールする食品を扱わない限り、ロシアでの日本食品ビジネスは伸びていかないだろう。
先述した農水省のプロジェクト事業で柿やみかんなどを実験的に輸入して、展示即売が行われたが、継続的に輸入されるまでには至っていない。
モスクワの高級スーパーに並ぶ韓国産果実!
一方、韓国産果実はかなり輸入が定着してきて、高級スーパーのアズブカフクーサには、立派なりんごや梨が店頭に並んでいる。ここでも日本は韓国に遅れてしまっている。
私も酒類の輸入に関わる人間として、この国の輸入手続きの複雑さにはほとほと手を焼いている。これが生鮮食品となると、税関次第の部分がほとんどでルールもなにもあったものではない。
通関は通関ブローカーという個人で免許を持つ人間を雇う企業を通して行われる。彼らに言わせると、税関には「強い税関」と「弱い税関」があるのだそうだ。
モスクワは強い税関。それなら弱い税関を探せばよさそうなものだが、彼らの認識は全く異なる。
強い税関、というのは、自分でルールを作り、自分で決済のできる税関吏のいる税関を指すのだという。生鮮食品などまさに強い税関で通関しない限り、絶対に消費者の目に触れることはない。
農水省よ、典型的なお役所仕事はおやめなさい!
農水省には、国家機関として、是非ロシア税関との間でこういう問題を議論してもらいたいものだ。
民間事業者の努力で小売の段階まで流れてきた商品を日本国民の税金を使ったリスティングフィーをロシア側小売店に支払い、売れようが売れまいが、店頭に並んだことでプロジェクトは成立、というのは、役所の仕事としてあまりにお粗末ではないのか。
個人的にはそんなことを感じている。
ニューヨークでもバンコクでも、日本食品消費の原動力は、そこに在住する数万人の日本人である。日本人が食べるのを見ながら、現地の人たちもラーメンを食べ始めたり、そのうち自宅で寿司を作ったりして、日本食品は広がっていく。
在留邦人数1500人のモスクワで、それを期待することはできない。600軒以上の日本食レストランがあると言っても、そこで提供される和食はほとんどの場合、和食もどきでしかなく、対費用効果で勝る中国食品が使用される世界である。
日本食が大好きな極右政党党首が呼びかけた抗議行動とは?
2月11日のニュースでこんな話があった。
ロシアの極右政党、自由民主党(ジリノフスキー党首)は9日、北方領土を巡る日本の反ロシア的態度に対抗し、ロシアで人気の日本食レストランでの食事をボイコットするよう党の公式サイトで呼びかけた。
同党は「領土問題で日本社会の一部では公然と反ロシア的な言動がなされている」と批判。ここ数年の日本ブームで人気が高まった日本食レストランに行かないことで、日本の「根拠のない領土要求」に対抗すべきだと訴えている。
私はこのニュースを読んで吹き出してしまった。確かに彼は常に一見それらしいコメントをする。しかし、彼を知る人間として、発言にはその裏があることが見えてしまうのだ。
彼ほど、日本食、それも本物を好む人間はロシア政界にはいないだろう。だからこそ、在モスクワ日本大使館も大使公邸で行われる晩餐会などには彼を招待し、彼も喜んで出席、大使館の日本人シェフの料理を文字通り「食べまくって」いる姿を私は何度も目撃している。
日本食ボイコットで悲鳴上げる中国産食品
1990年代、ソ連が崩壊した直後、ロシアに本格的日本料理店「東京」が開店した。護衛の人間を何名も引き連れてその店の鉄板焼きカウンターの前によく座っていたのがジリノフスキーだ。それも、必ず日本人シェフを指名して。
その彼が、現在600店とも言われる日本食レストランが日本食品を使用していないことを知らないわけはない。
彼は中国に対しても極めて強硬な姿勢を示しているが、もし、ロシア人が日本食レストランをボイコットした場合、まず影響を受けるのは中国食品だろう、ということを知ったうえで仕かけた発言としか思えない。
レストラン東京の日本人シェフから、ジリノフスキーがどれほど和食通で、日本への造詣が深いか、何度も教えてもらった。ロシアにはこういう隠れ親日派、というのも存在するのである。
心配なのはむしろアメリカ?!
2011年2月15日(火)日経ビジネス 田村耕太郎
騒ぎ過ぎの英米メディア!
ムバラクが辞任した。アフリカ大陸のリーダーにありがちな、自らを偶像化してやまないリーダーの代表格なのでもう少し粘るかと思った。たぶん、32年前の同じ日(2月11日)に起こった「イラン革命の再現」を恐れたアメリカの支援を得られなくなったのだと思う。私はこの辞任によって、エジプト革命が急速に他国に広がり、原油・食糧市場を混乱させる可能性は少なくなったとみる。
エジプト革命が他国に広がるかどうかを測るには、その国の以下の点を考慮すべきだろう。1)国の開放度(お金、人、思想などの出入りの自由度)と国家安定性の相関(いわゆるJカーブ)、2)若年失業率、3)人口サイズ、4)ソーシャルメディアに対する監視体制、5)現政権の危機対応能力。まあ物理学のようにはいかないので当たらないかもしれないが…
私の結論は、前述のごとく「エジプト革命が他国に広がって原油市場や食糧市場を混乱させる可能性は低い」というものだ。上記の5点で分析すると、エジプト固有の要因が多いからだ。
視聴率を稼ぎたい英米メディアは、他国に伝搬する大騒ぎを期待して「革命が広がる」とお祭り騒ぎだ。CNBCでは、商品市場でひと儲けしたいファンドの連中が、地理や国際関係をよく勉強せずに「スエズ運河が危ない」「次はサウジ」とかいって、仕掛けまくっていた。残念ながらそうはならない! サウジ、イラン、イラクといった大産油国はびくともしないだろう。スエズ運河は閉鎖されないし、そんなところ通っている原油はごくわずかだ。
国益が“自分益”である中東産油国のリーダーたちはそれほど愚かではない。エジプトの失敗からしっかり学んでいると思う。国家の開放に最も理解を示すUAEから、最もイヤイヤのクウェート、サウジまで色んな対策を打ってくると思われる。同じ轍は踏まない。ネット監視強化と民主化、若年失業と格差への対策など、硬軟取り混ぜて同時にうまくやると思う。
5つのメジャーで検討!
それでは、上記の5つのメジャーをエジプトに当てはめてみてみよう。まずJカーブから。チュニジアの“ジャスミン革命”は典型的なJカーブ左端事件だ。
Jカーブとは、前述のごとく国家の安定性と開放度(お金、人、思想などの出入り自由度)の相関を示すもの。縦軸に国家の安定性を取り、横軸に国家の開放度を取る。国家を開放すればするほどまずは安定性が損なわれるが、あるポイントを超えれば、その後は開放すればするほど安定性が増すということを表す曲線だ。北朝鮮、イラン、キューバなどが左端、つまり国家を閉鎖することにより安定している、に位置する。欧州や日本やアメリカは右端、つまり国家を開放することにより安定性を増している。
チュニジアは、国家を閉鎖して安定性を増していた国である。グローバル情報やITにリテラシーが高い若年人口が多い国でもあった。「前政権が富を独占していた」というウィキリークス情報やそれを拡散したソーシャルメディアの影響で、国家の安定性が大きく揺らいでしまった。ウィキリークスとソーシャルメディアのコラボに弱い十八番のような事例だ。
エジプトはチュニジアよりJカーブのずっと右にあり、思想も人の出入りも資金の往来もずっと開放されていた。そして追加の開放も安定性につながるはずであった。
人口と若年失業率!
次に人口と若年失業率。エジプトは人口が多いことも不運だった。湾岸諸国の人口は最大のサウジアラビアで約2500万人。クウェートやUAEでは200万人台にすぎない。中東アラブ国家で人口最大のエジプトは約8200万人。サウジアラビアの3以上の規模だ。
石油収入は年々減って近年は242億ドルほど。これは2820億ドルのサウジアラビアの10分の1以下だ。人口が多いと、いわゆる「失業の輸出」ができない。人口の少ない湾岸諸国は、外国人労働者を雇用の調整弁に使える。好況時に多くの外国人労働者を輸入し、不況時には首を切って国外退去させる。自国の人口が多いとこれができない。結果として、若年失業率は30%を超えていた。
エジプトのソーシャルメディア監視体制はお粗末だった。チュニジアの方が優れていたほどだ。国内のインターネットプロバイダーは6社だったので、それを遮断するのは容易だった。だが、デモの指導者などを早期に追跡して、運動の芽を摘む作業は全くできなかった。サウジアラビアやUAEの監視体制は、はるかに洗練されている。多くの資金と人材をネット監視に充てている。
アメリカの目論見はずれる?
最後に、政権の危機への対応。これはさらにお粗末。言うまでもなかろう。ソーシャルメディアの申し子とも言えるオバマ政権は、ソーシャルメディアとの親和性が高い。
うがった見方をすれば、オバマ民主党政権は、イランそして北アフリカ・中東の湾岸諸国の独裁政権の民主化を狙ってまずチュニジアに仕掛けたと思う。その余波は、親米で、かつ比較的開放度の高いエジプトを通り過ぎて、イランおよび北アフリカ・中東湾岸諸国に行くと予想していただろう。ところが、ムバラクがネットも携帯電話も遮断し強烈な弾圧という最悪の手段に打って出たため、想定外のエジプトで暴発が起こった。
その後の対応もさらにまずく、親米政権が転覆してしまった。米国にとっては、これは想定外に都合の悪いことだった。チュニジアから、エジプトを通り越して、直接湾岸への飛び火が本来の予定だったのではないか。
かといって、これを契機に、エジプトに反米親イラン政権が生まれる可能性は少ないとみる。軍部の統制下における穏健な多党制に移行すると思われる。90年代のトルコのような形ではなかろうか? 国内にアルカイダのような過激分子がおらず、ムスリム同胞団もジハード主義者とは一線を画する穏健派である。イスラム原理主義者が実権を握ることは考えにくい。エジプト人一般が、イスラエルが好きかどうかは別の問題であるが
軍事政権が、民主的な大統領選挙を、どれくらいの信任を国民から得つつ、どれほどのスピードで行って行けるか、が焦点だ。90年代のトルコで起きた軍事政権から民主政権への移行が参考となるモデルであろう。司法や教育、外交まで当面は軍部の指導下に入るのではないか? 「この時間が長ければ長いほど経済的には失われる時間が多くなる」というのが、我々がトルコから学んだことだ。
エジプト軍事支出額は国家機密である。秘密にしないとまずいほどの予算を軍は使っている。その多くは、兵士たちの手厚い待遇に回っているらしい。よって、エジプト軍部の士気は高く忠誠心も強い。しかし、前述した通り、国内にアルカイダやジハード主義者は居ない。エジプトは、軍事政権が長く君臨するには平和すぎる。
危ないのはアルジェリア?
エジプト革命の余波が及ぶのは、イエメン、アルジェリアくらいではないか?各国政府の対応次第であることは当然だが。
湾岸諸国の中で最もエジプト革命の余波が懸念されるのがヨルダンだ。しかし、同時に最も賢明な対応をしているのもヨルダンだと思う。ヨルダンではこの事態を見越して2月1日にさっそく内閣が総辞職した。エジプト革命の影響を最小限にとどめることができるかもしれない。
イエメンはアリ・アブドラ・サレエ現大統領が2013年の大統領選への不出馬声明を出した。これが、どれくらいの効果を発揮するかは定かでない。ただ、アルジェリアよりましだろう。
アルジェリアでは、アブデルアジス・ブーテフリカ大統領への批判が高まる。この国の人口は約3500万人。国民の7割近くが25歳以下という若い国。若年失業率は30%近いと推定される。ブーテフリカ大統領は2009年に2期目の任期満了が迫ったが、2008年に強引に憲法を改正して大統領3選を可能にした。2009年の選挙では徹底的に野党を弾圧し、3選した。アルジェリアに19年間続いた非常事態宣言を解除するなどの対応はしているが、これは全く効果がないだろう。
アメリカ政府は、イランをけん制する。ギブス米大統領報道官は「イランはエジプト革命を恐れている。“怖くない”と強がっているが、すべての通信を遮断し、何かあったら射殺も辞さないと国民を脅している。これはイラン政府が、国民そしてエジプト革命を実は恐れている証拠だ」と自身の最後の会見でかなりイランに言及した。
サウジやイランはネット監視体制にすぐれ、秘密警察や治安部隊がまだまだ強いからエジプト革命の余波をうまくブロックするのではないか?
アメリカでは、中国への影響まで語る識者がいる。中国は世界で最も優れたネット監視体制を誇る国だ。Gmailのサーバーにさえ侵入し、メールを読んで、反政府勢力を追跡し、運動蜂起の芽を早期に摘んでいる。
しかし、今後の技術革新がネット監視を相当困難にしていくだろう。非常に監視しにくい、モバイルアプリがどんどん開発されつつある。例えば、携帯機器を無線通信でリンクする自己構成型ネットワークの一種である、モバイルアドホックネットワーク(英: mobile ad hoc network、MANET)のように、インターネットを遮断しても、クラウドソースを利用できるアプリも出始めている。こういうアプリの普及を中国やサウジは最も恐れているだろう。
ただ、中国も、エジプト革命の影響が国内に侵入しないよう対策を取っているフシがある。中国政府は2月12日付けで国家鉄道相の劉志軍氏を党組織書記から更迭した。同氏は2003年から異例の長さで鉄道省党組織書記を務めていた。汚職疑惑だというが、これだけの高官を大々的に報道しながら更迭することは稀である。莫大な資金をつぎ込んでいる国家計画に長期わたって関与してきた人物なので汚職の可能性も高いし、今後の潜在的汚職に対する見せしめの意義もあろう。来年の政権交代に絡む政治闘争もありうる。ただ、タイミングを見ると、花形ポストの高官を更迭することで、国民のガス抜きや民主的イメージの創出を狙っているのではないか?
イスラエルが最も恐れる事態!
今回のアメリカの対応やオバマ大統領の会見を見ていて、私が一番気になったのは「アメリカの中東情勢への今後のコミットメントが低下するのではないか」ということ。確かに、ムバラク辞任を受けた、オバマ大統領の6分余りの演説は素晴らしかった。
マーチン・ルーサー・キング牧師の言葉「自由を求める心中の叫び」を使い、デモの中心地、タハリール広場のタハリールという意味は「解放」であると引用し、格調高くパワフルで理念にあふれていた。オバマ大統領は、デモの原動力である、失業率の高さに苦しむ若者たちに「エジプトの若者の素晴らしいクリエイティビティと行動力に機会と希望を与えるべきだ!」とメッセージを送った。
しかし、その後の報道官会見――こちらも歴史的なものになるはずだった――は全く違う雰囲気のものであった。米国の重要なパートナーの役割を中東で30年間も果たしてくれたムバラク氏の辞任を受けた報道官の会見の様子は、懸念を全く垣間見せないものに感じた。ムバラク辞任が決定した2月11日は、奇しくも引退するギブス報道官の最後の会見の日。緊張感が走るはずの報道官会見に、なぜか冒頭からオバマ大統領が登場。ギブス報道官への賛辞とジョークで始まり、非常になごやかな雰囲気で進行した。
最後は、大統領が着けていたネクタイが入った額を、大統領が報道官にプレゼント。会場は笑いの渦へ。「イスラエルが一番恐れているのはイランでもパレスチナでもなく、アメリカの中東へのコミットメントが低下すること」であろう。アメリカは中東に対して、原油確保以外のインセンティブは薄れていくのではないか? アメリカ自体が強いコミットメントを維持するだけのインセンティブと資源をもはや持っていない気がする。
エジプト革命より、アメリカのコミットメント低下こそが中東情勢の波乱の源泉である。そんなことをふと感じた。
「雇用!雇用!」と叫ぶオバマ大統領にとって日本は格好の標的!
2011年2月14日 日経ビジネス 三橋貴明
先月(2011年1月)の26日に、アメリカのオバマ大統領は、経済、教育、財政、貿易、インフラ再構築、さらには外交、対テロ戦争、安全保障と、多岐にわたる一般教書演説を行った。
全文を読んだ上で(※全文の日本語訳を報道した国内メディアはない)、筆者が最初に受けた印象は、「内向きになったアメリカ」であった。何しろ、安全保障やテロ戦争に関する部分を除くと、オバマ大統領はほとんどアメリカ人の雇用改善のことしか語っていない。
「衰退した建設業界に数千もの仕事を与える」!
オバマ大統領の一般教書演説の全文について、日本語訳を報じた報道機関はないが、英語版全文は、ウォールストリートジャーナル日本語版で読むことができる。読者も是非、ご自身の目で確認してみて欲しい。(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版『オバマ米大統領の2011年一般教書演説原稿(英文)』)
筆者が最も「典型的」と感じた箇所は、以下の部分だ。
英文:
Over the last two years, we have begun rebuilding for the 21st century, a project that has meant thousands of good jobs for the hard-hit construction industry. Tonight, I'm proposing that we redouble these efforts.
We will put more Americans to work repairing crumbling roads and bridges. We will make sure this is fully paid for, attract private investment, and pick projects based on what's best for the economy, not politicians.
日本語訳:
過去2年間、我々は21世紀の再建作業を開始した。本事業は、衰退した建設産業に数千もの仕事を与えることを意味する。今夜、私はこうした努力をさらに倍増することを提案する。
壊れかけた道路や橋を修復する仕事に、さらに多くのアメリカ人を充てるようにする。そのための給与が支払われるのを確実化し、民間投資を誘致し、政治家のためではなく、経済にとって最適な事業を選択するようにしたい。
筆者は前回の連載『暴論?あえて問う! 国債増発こそ日本を救う』の第5回『30年前より少ない日本の公共投資 「荒廃する日本」にしていいのか。未来への投資、始めるのは今』において、寿命を迎えつつある橋梁やトンネルのメンテナンスなど、日本国内で大々的な公共事業が必要だと書いた。ところが、日本でいまだに公共事業悪玉論が幅を利かせている中において、アメリカの方が先に始めようとしているわけである。
橋梁や道路など、インフラがメンテナンス時期を迎えつつあるのは、別に日本に限った話ではない。まさしく、先進国共通の課題である。さらに、アメリカでは国内の雇用改善が必須命題になっているのだから、オバマ大統領が一般教書演説において、わざわざ「衰退した建設業界に数千もの仕事を与える」と明言したことにも、大いに意義があるわけである。
ちなみに、上記の「衰退した建設業界に数千もの仕事を与える」というオバマ大統領の演説内容について、国内でそのまま報じた日本のメディアは皆無だ。理由は筆者には分からない。
さらに、日本のメディアは、オバマ大統領の演説内容を報じる際に、以下の「輸出倍増計画」についても、ほとんど無視を決め込んだわけであるから、驚かざるを得ない。アメリカを含むTPPをめぐり、国内で侃々諤々の議論が始まっているにも関わらず、日本のメディアはアメリカの「輸出」や「貿易協定」に関する大統領発言を報じなかったわけである。
英文:
To help businesses sell more products abroad, we set a goal of doubling our exports by 2014 ― because the more we export, the more jobs we create at home. Already, our exports are up. Recently, we signed agreements with India and China that will support more than 250,000 jobs in the United States. And last month, we finalized a trade agreement with South Korea that will support at least 70,000 American jobs. This agreement has unprecedented support from business and labor; Democrats and Republicans, and I ask this Congress to pass it as soon as possible.
Before I took office, I made it clear that we would enforce our trade agreements, and that I would only sign deals that keep faith with American workers, and promote American job.
日本語訳:
輸出事業を支援するために、我々は2014年までに輸出を倍増する目標を掲げた。なぜならば、輸出を増強すれば、我が国において雇用を創出できるためである。すでに我が国の輸出は増えている。最近、我々はインドと中国との間で、米国内において25万人の雇用創出につながる協定に署名した。先月は、韓国との間で7万人の米国人の雇用を支える自由貿易協定について最終的な合意に至った。この協定は、産業界と労働者、民主党と共和党から空前の支持を受けている。私は、上院に対し、本合意を可能な限り速やかに承認するよう求める。
私は大統領に就任する以前から、貿易協定を強化するべきとの考えを明確にしていた。そして、私が署名する貿易協定は、米国人労働者を守り、米国人の雇用創出につながるものに限るだろう。
オバマ大統領が「輸出倍増計画」を打ち出したのは、2010年(昨年)1月の一般教書演説においてである。すなわち、2010年から5年間で、アメリカの輸出を2倍にするという、大胆極まりない戦略目標だ(※アメリカの輸出総額は、元々世界で1位、2位を争うほどに多い)。今回の一般教書演説において、2014年までに輸出倍増と発言している以上、昨年1月時点の計画は、現時点でも「生きている」ということになる。
さらに、引用の最後の部分で、オバマ大統領は自分が署名する貿易協定は「米国人労働者を守り、米国人の雇用創出につながるものに限る」と断言しているわけだ。TPPを検討している最中に、この発言を一切報じなかった日本の各メディアは、職務を放棄していると断言されても仕方があるまい。
要するに、TPPとはアメリカの輸出倍増計画、ひいては同国の「雇用改善計画」の一部に過ぎないのである。アメリカのTPP検討において、自国の「雇用改善」以外の目的は、何一つないわけだ。何しろ、大統領自らが一般教書演説において、「米国人労働者を守り、雇用創出につながる貿易協定にしかサインしない」と宣言しているのである。
すなわち、1930年代のニューディール政策を思い起こさせる(※と言うか、ニューディール時代に建造された)アメリカ国内のインフラのメンテナンスにせよ、輸出倍増計画にせよ、アメリカ人の雇用改善のためなのである。
中国製鋼管に430%の反ダンピング税!
少なくとも、アメリカが「我が国を世界に開きます」などと甘いことは、微塵も考えていないのは確実だ。何しろ、オバマ政権は片手で日本をTPPに誘いながら、もう片方の手で容赦なく「非自由貿易的」な措置を講じていっている。
2月7日。アメリカ国際貿易委員会(ITC)は、原油掘削用の中国製鋼管に対し、反ダンピング税と補助金相殺関税を適用することを決定した。今後、中国からアメリカに輸出される原油掘削用鋼管には、430%の反ダンピング税と、18%の相殺関税が課せられることになる。ITCは、中国製品の輸入に、これらの措置を講じることを決定した理由について、「中国製品の輸入がアメリカ企業に脅威と損失をもたらしているため」と説明している。
要するに、アメリカの現在の戦略は「自国の雇用改善」に貢献するのであれば、貿易協定を結ぶが、そうではない場合は相殺関税を適用するという、極めて「自国中心主義」的なものなのだ。何しろ、一般教書演説において、オバマ大統領が雇用(jobs)と発言した回数は、実に25回にも及ぶのである。
アメリカを含むTPPという自由貿易協定、しかも「過激な」自由貿易協定を締結することを検討するのであれば、せめて現在の米国側が「何を望んでいるのか」くらいは理解しておかねばなるまい。
ところで、なぜ現在のアメリカは、ここまで自国の雇用改善にこだわるのであろうか。無論、同国が1930年代の大恐慌期に、失業率25%(都市部では50%超!)という凄まじい恐慌状況を経験したためである。加えて、現在のアメリカは、リソースのほとんどを雇用対策に注力させなければ、失業率の改善が困難という事情もある。
2007年まで続いた世界的な好況は、ご存知の通りアメリカの不動産バブルに端を発していた。より具体的に書くと、不動産バブルのおかげで、アメリカが前代未聞のペースで経常収支の赤字(同国の場合は、ほとんどが貿易赤字)を拡大してくれたからこそ、実現したのである。
図2-1は、1980年以降のアメリカの経常収支の推移である。確かに、アメリカでは80年代から双子の赤字(経常収支赤字と財政赤字)が問題視されてはいた。それにしても、98年以降のアメリカの経常収支赤字の拡大ペースは、率直に言って「異様」である。不動産バブルの崩壊が始まった2006年まで、同国の経常収支赤字は、まるで指数関数のように伸びていったのだ。
ちなみに、2002年のアメリカの経常収支赤字は、「世界全体の経常収支赤字」の8割を占めていた。一国の経常収支赤字が、世界全体の8割に達していたわけである。
アメリカの経常収支赤字が拡大するということは、反対側に必ず「経常収支黒字」の国が存在する。中国などのアジア諸国や欧州の黒字組(ドイツやオランダ)はもちろん、当時は日本もアメリカの経常収支赤字拡大の恩恵を受け、経済成長を遂げることができた。
2002年以降の、いわゆる世界同時好況は、まさしくアメリカの経常収支赤字拡大により達成されたのである。そして、繰り返しになるが、アメリカがここまで経常収支を拡大できた理由は、同国で不動産バブルが発生していたためだ。
アメリカ不動産バブルの主役は家計だった!
日本の不動産バブルの主役は「企業」であったが、アメリカの場合は「家計」である。家計が不動産バブルに沸き、国家経済のフロー(GDPのこと)上で、民間住宅や個人消費が拡大し、世界各国からアメリカへの輸出が拡大することで、世界経済は「同時好況」を楽しむことができたわけである。
何しろ、アメリカの個人消費は、同国のGDPの7割超を占める。文句なしで「世界経済における最大の需要項目」である。不動産バブルにより、アメリカで「世界最大の需要」が活性化し、世界各国は史上まれに見る好景気を楽しむことができたわけだ。
しかし、それもアメリカの不動産バブル崩壊で終わった。
図2-2の通り、アメリカの家計は2007年まで、年に100兆円のペースで負債を拡大していった。このアメリカの家計の借金が、不動産バブルに回り、ホームエクイティローンなどで個人消費を牽引し、世界は同時好況に酔いしれることができたわけだ。
2007年(厳密には2006年後半)に不動産バブルの崩壊が始まると、アメリカの家計は負債残高を全く増やすことができなくなってしまった。グラフではよく分からないかも知れないが、アメリカの家計の負債総額は、現時点においてもわずかながら減少を続けている。すなわち、アメリカの家計は負債を増やすどころか、むしろ「借金を返済する」という、バブル崩壊後の日本企業と全く同じ行動をとっているわけだ。
何しろ、アメリカの個人消費は日本の全GDPの2倍に達する「世界最大の需要」である。この世界最大の需要が、負債を増やさず、支出を絞り込んでいったわけであるから、アメリカ(及び世界各国)の雇用環境が急激に悪化して当たり前だ。バブル崩壊後の金融危機も、アメリカの失業率上昇に拍車をかけた。
結果、2007年時点では5%を下回っていたアメリカの失業率は、2009年10月に10%を上回ってしまった。政権への風当たりも、一気に強まった。当たり前の話として、オバマ政権はすべての知恵を雇用環境改善に注ぎ込まざるを得なくなってしまったわけだ。
日本もアメリカの国益中心主義を見習うべき!
現在のアメリカは、雇用創出のために各国と貿易協定を結び、国内で減税を延長し、公共投資の拡大を検討すると同時に、量的緩和第2弾、いわゆるQE2を実施している。QE2は食糧価格や資源価格を高騰させ、世界各国は多大な迷惑を被っている。だが、自国の雇用改善以外に興味がないアメリカにとって、他国の事情など知ったことではないだろう。
自国の国益のために、時には「グローバリズム」を叫び、時には保護主義に邁進するのが、アメリカという国家である。
ちなみに、筆者は別にこの種のアメリカのエゴイズムについて、批判しているわけでも何でもない。アメリカ政府は単に、自国の国民のために、やるべきことを全て実施しようとしているだけの話である。むしろ、日本もアメリカの国益中心主義を見習うべきであるとさえ考えている。
いずれにしても、アメリカは単純に「自国の雇用改善」のために、TPPに日本を引き込もうとしているに過ぎないのだ。前回掲載した図1-1の通り、日本が含まれないTPPなど、アメリカにとっては何の意味もない。
現実の世界は、あるいは現実の外交は、国益と国益がぶつかり合う、武器を用いない戦争である。まさしく各国の国益のぶつかり合いこそが、本来的な意味における「外交」なのだ。
少なくとも「我が国は閉鎖的です。平成の開国を致します」などと、自虐的に国際会議の場で演説することは、決して「国際標準としての外交」などではないということを、民主党政権は知るべきだろう。
中国の技術開発力を測る(前編)
2011年2月7日 日経ビジネス 石原昇
世界の有力ハイテクメーカーは、中国を重視した研究開発(R&D)戦略を打ち出している。その多くは、90年代から中国に研究開発拠点を立ち上げてきた。さらに、これまで慎重だったメーカーも新規の拠点開設に動き出した。また中国を、中国国内向けの拠点としてだけでなく、アジアの地域拠点、さらにはグローバル拠点として位置づける動きが加速している。
世界のR&D拠点が中国へシフト!
トヨタ自動車は、同社にとって初となる中国の研究開発拠点を江蘇省に新設する。この春から、従業員数200人で立ち上げ、将来的に1000人を目指す。中国市場向けエンジンの開発や、省エネ車の研究、人材育成も行う。テストコースも含めて6億8900万ドル(約570億円)を投じる計画である。またGMは2010年、先端コア技術を研究するR&Dセンターを上海に建設した。合弁相手の上海汽車と共同で中国車の改造を手掛け、汎アジアの技術を確立する。
GEは今年から3年間で20億ドル以上を投資し、中国における研究開発とカスタマーサポートを強化する。成都、瀋陽、西安にイノベーションセンターを設立し、医療から再生可能エネルギー、スマートグリッド、水処理、運輸、航空といった分野の新製品の開発を進めていく。またマイクロソフトは2010年、北京の中関村にあるR&D拠点に約20億元を投資して2棟のビルを建設し、5000人が働く海外最大規模の拠点とした。
医薬品業界では、日本から中国へ研究開発拠点をシフトする動きが続いている。2006年にメルクの岡崎と熊谷、2007年にバイエルの神戸、グラクソ・スミスクラインのつくば、2008年にファイザーの愛知、それぞれ日本各地にあった研究所が中国へ移転した。ノバルティスもつくばを閉鎖し、上海をグローバルR&D拠点として強化する。2014年までに10億ドルを追加投資する。
こうした動きは、日本の地位低下と中国の躍進が背景にある。中国の現地のニーズを研究し、これを取り込んで製品を開発し、巨大な消費を抑えることは急務である。中国は、独自の規制があり、明文化されていないものも多いため、規制緩和による事業拡大、規制強化への迅速な対応が必要である。また中国の豊富な人材や資金、インフラなどを活用して、研究開発成果を世界へ展開する狙いもある。途上国向けに低価格の汎用品を開発する拠点として、先進国向けには低価格で効用の高い新製品を生み出すリバース・イノベーションの開発拠点として、中国を重視する流れはますます高まるだろう。
自動車から高速鉄道、航空機へ広がるハイテク輸出!
中国は、巨大な自国市場に外資企業を誘致し、協力して事業を推進することで、技術やノウハウを吸収している。鄧小平の時代から、「4つの近代化」――工業、農業、国防、科学技術――のなかで科学技術の近代化を最も重視してきた。幾多の中長期計画、また今年から始まる第12次5カ年計画でも「科学と教育による国づくり」を改めて強調している。自主開発による創新(イノベーション)型国家の建設は、中国の悲願なのである。
外国から技術を吸収することで、最も効果が上がったのは、自動車業界であろう。中国の自動車販売台数は、2009年に米国を抜き世界一となり、2010年は前年比1.56倍の1806万台に達した。2011年は2000万台を射程にとらえている。中国は、自動車産業へ参入する外資企業に、中国企業と合弁することを求める。外国の技術やノウハウを国有企業に吸収させることが狙いだ。
現在、中国の自動車メーカーは130社以上に達した。吉利汽車のボルボの買収、比亜迪汽車(BYDオート)の電気自動車の発売などで世界に存在感を示している。東京モーターショーよりも、北京、上海、広州のモーターショーに注目が集まるほどだ。
中国政府は電気自動車を2015年に50万台、2020年までに500万台を普及させる目標を掲げている。既存メーカーの集約を図る一方で、電気自動車関連のベンチャー育成にも余念がない。電気自動車を将来の戦略的輸出製品ととらえているからだ。
中国は他の産業でも躍進している。2010年12月、中国の高速鉄道「和諧号」(CRH380A)はテスト走行で時速486.1キロの世界最速記録を達成した。営業運転も2008年8月以来、世界最速の350キロで運行している。現在、中国の高速鉄道の運営総延長距離は世界トップの7431キロメートル(2位は日本の新幹線で2534キロメートル)になっている。こうした技術は、ドイツ、フランス、日本などから初期導入したものであるが、自主開発技術であると主張し、サウジアラビアやベネズエラなどにインフラ輸出を始めている。
部品点数の多いハイテク製品の代表、航空機分野では小型旅客機に本格参入している。世界の航空会社は、ジェット燃料の高騰や料金競争の激化から、運航効率の良い100~150人乗りの航空機を求めている。新興国での市場拡大も追い風である。中国の旅客機メーカーである中国商用飛機は、すでに90人乗りの「ARJ21」を開発し、今年から納入を始める。また2014年に初飛行を予定する「C919」は、国内の航空会社を中心に100機を受注した。三菱重工の子会社、三菱航空機が開発中で、日本が期待をかける「MRJ」の強力なライバルとなっている。
先端科学技術で相次ぐ成果:核燃料サイクル、高速計算機!
最先端の科学技術も、中国の台頭は目覚しい。軍事力や国防力の強化が背景にある。2003年10月にロシアと米国に続く有人宇宙飛行を42年ぶりに成功させた中国は、2008年9月に初の船外活動も成功させた。2011年10月には、中国初の火星探査機「蛍火1号」を、ロシアのロケットを使って打ち上げる予定である。
中国は1964年10月に核実験に成功し、5番目の核保有国となった。核の平和利用である原発は現在11基が稼働中。今後20年間で100万キロワット(KW)級の原発を70~100基建設し、世界最大の原発大国となる見込みだ。そうしたなかで、年明けの1月3日、原発の使用済み燃料から再利用が可能なウランやプルトニウムを取り出す再処理の実験に成功した。核燃料サイクルを実現できる6番目の国になった。
レーダーに捕捉されにくいステルス戦闘機も開発を進めている。「殲(せん)20」を年明け早々にテスト飛行させ物議をかもした。第5世代戦闘機を単独で開発している国は米国だけであった。1999年にユーゴで墜落した米空軍のステルス戦闘機の機密技術が使われているのではないか、と憶測されている。
そして何といっても、最近のビッグニュースは、2010年11月に、ミサイル弾道シミュレーションや科学技術計算に欠かせないスーパーコンピュータ(スパコン)で、世界トップになったことだ。世界最速コンピュータを決める「Top500」ランキングで、中国人民解放軍直属の国防科学技術大学の「天河1号A」が世界一の座を獲得した。3位にも中国の曙光信息の「星雲」がランクインしている。ちなみに2位は、米国クレイの「Jaguar」だ。現在、日本は、事業仕分けで問題となった次世代スパコン「京」の来年秋の供用を目指している。同機の演算速度の目標は、「天河1号A」の4倍となる毎秒1京(1兆の1万倍)回だ。
中国の技術開発力はどれくらいの国際競争力があるか!
こうした技術開発(科学技術と研究開発)における華々しい中国の躍進に対し、疑問や批判も多い。技術の流用疑惑や基礎研究のただ乗り、要素技術や設備装置の海外依存、知的財産保護の欠如や独自標準の強要など議論の的である。
中国の研究者が書いた技術論文が引用される率も低い。論文は研究成果の質を示す。建国以来、中国国籍のノーベル賞受賞者がいまだいないことも基礎研究が弱い証しとして、毎年マスコミから指摘される。
現時点で中国の技術開発の実力はどの程度であろうか。そこで、主要ハイテク分野の特許件数や被引用論文数などの最新データ、さらに企業や研究機関への現地調査と専門家へのヒアリングを加味して、国別の技術開発の国際競争力比較表を作成した。
ここでは、「基礎研究」を長期視点に立った学術的色彩の強い研究、「応用研究」を特定の問題解決のための研究、「製品開発」を新製品の導入のための研究と定義した。OECD調査では、全研究開発費に占める「基礎研究」の割合は、米国、日本、韓国が15%前後、欧州の20%前後に対し、中国は5%前後に留まっている。「応用研究」も中国以外の国が20~30%に対し、中国は10%強と低い。結果として、中国は「製品開発」が80%強と突出している。
分野別にみると、次のようになる。
「エレクトロニクス」は、米国が基礎研究から製品開発まで一貫して強い。ディスプレイを除く各分野で圧倒的優位にある。日本は基礎研究で優位にあり、半導体、ディスプレイ、ハードウェア、ネットワーク、オプトエレクトロニクスの応用研究でさらなる強みがある。一方で製品開発になると強みが発揮できていない。欧州は、IMECが主導する半導体、企業がリードするソフトウェアやネットワークに強みがある。韓国は半導体とディスプレイにかなりの競争力があるものの、ソフトウェアが相対的に弱い。中国は応用研究も相対的に遅れているものの、製品開発では半導体やソフトウェアなど、徐々にキャッチアップしつつある。R&Dセンターの集積や欧米企業との連携が進んでいることが背景にある。
「ナノテク・材料」は、大学の基礎研究からメーカーの製品開発に至るまで日本が世界トップレベルにある。高分子材料、磁性材料に加え、カーボンファイバーやナノチューブの競争力が高い。自動車やエレクトロニクス製品をはじめ、広く日本の製造業を支えている。ただ、人材育成やインフラに対する投資が欧米に比べて低下気味であるとの指摘がある。さらに韓国や中国の論文が急増し、被引用数も高くなっていることから、長期的に日本のトップが万全ではないことが懸念される。
「ライフサイエンス」は、大学や研究所が全力を挙げて研究に取り組む米国や世界的製薬メーカーが揃う欧州の競争力が圧倒的に高い。日本はライフサイエンス分野が政府の研究開発投資の過半を占めるにしては、パフォーマンスの悪さが目立つ。iPS細胞など再生医療の一部で注目される分野があるものの、論文数や被引用率は相対的に低い。とりわけ、基礎研究論文よりも、臨床研究論文の出遅れが著しい。基礎研究の成果を製品開発につなげる臨床研究に問題があるとみられる。中国は2009年7月にマウスの皮膚からiPS細胞をつくり、世界初となるマウスを誕生させて、再生医療分野の研究の高さを示した。ゲノム分野もシーケンサーなど研究機材を充実し、臨床分野で成果を挙げ始めている。
「環境」分野では、公害問題を克服してきた日本の技術水準が極めて高い。大気汚染の物質除去や土壌汚染対策、資源リサイクルなどに競争力がある。地球温暖化抑止のためのエネルギー関連技術にも優れ、太陽電池、太陽熱、地熱など新エネルギーもリードしている。一方、バイオ燃料の研究では遅れがみられる。中国は基礎研究で劣っているが、製品開発では、太陽電池などで先行する分野が出てきている。
結論として、中国の技術開発の国際競争力を総合評価すると、基礎研究は投資のウェイトが低いこともあり、全般に遅れている。応用研究も出遅れているが、製品開発では新エネルギーやゲノム関連で競争力をつけてきた。重要なことは、現時点で遅れている分野も、数年後に競争力をもつ可能性があることだ。全ての分野でベクトルは上を向いており、キャッチアップのスピードは速い。
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http://www.uonumakoshihikari.com/
魚沼コシヒカリ理想の稲作技術『CO2削減農法研究会』(勉強会)の設立計画!