[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
DIAMOND online【第140回】 2010年9月2日 上杉隆 [ジャーナリスト]
きょう(9月1日)、民主党代表選が告示された。
テレビ・新聞報道による大々的な報道を経て、結局、菅直人首相と小沢一郎前幹事長の一騎打ちになった。
いきなりだが、まず政策論とは別に、この代表選における「票読み」のヒントを記しておこう。ちなみに何の役にも立たない知識である可能性もあるので、読み飛ばしてもらっても構わない。
今回の代表選をひとことで現すと、それは「アレルギー選挙」だといえる。
具体的には、民主党内に存在する「菅アレルギー」と「小沢アレルギー」のぶつかりあいによって、最終的にその拒否反応の低いほうが勝利をものにするという筆者の仮説である。
所詮、政治は権力闘争である。それゆえか、これまでの取材を通して感じることは、個々の政治家の政治決定において、政策よりも感情の優先されることが少なくないということだ。
負のエネルギーほど強く作用するそれが「政治の法則」!
その政治的な感情はまた、負のエネルギーで構築されたものであればあるほど、より強くなる傾向にあるようだ。これは筆者の秘書時代にも「政治の法則」として教えられたものだ。
たとえば選挙では応戦するよりも落選させようとする力の方が強く働く。日々の政治でも同様だ。すなわち、「あいつだけはダメだ」という拒否反応(アレルギー)こそが、政治決定に影響を及ぼすことが少なくないのである。
たとえば今回、新生党、新進党、自由党と、ずっと小沢氏と政治行動をともにしてきた渡部恒三氏や石井一氏が、菅氏の推薦人名簿に名を連ねる一方で、新党さきがけの時から菅氏の同志であった鳩山由紀夫氏や川内博史氏が、小沢氏の選対に入るという行動こそ、まさしくそのアレルギー反応の現れである。
つまり、そのどちらにアレルギー反応が強く出るかどうかによって、今回の代表選の国会議員票の行方に少なからず影響するということである。
さて、本題に入ろう。
今回の小沢一郎氏の出馬に至るまでの党内の混乱はまさしく「茶番」であった。その因は主に、鳩山由紀夫前首相の「伝書鳩」のような振る舞いにある。
選挙後の党内分裂を恐れるあまり、代表選回避に向けて、鳩山氏は調整役を買ってでたわけだが、これが見事な「ピエロ役」になってしまったのだ。
いや、一方の候補に対しては奏効していたのかもしれない。もちろんそれは逆説的な意味ではあるが…。
8月30日夜、首相公邸前に鳩山氏と一緒に現れた菅首相は、記者団の前で、それまでの「脱小沢路線」を撤回し、挙党一致の「トロイカ体制」に戻すと宣言したのだ。
それは、菅首相にとって致命的な方針転換になったかもしれない。
そもそも「小沢政治」との決別こそが、菅首相の支持層の心を掴んだのである。その旗を自ら降ろしたということは、戦う前から相手にひれ伏したに等しい。
「伝書鳩」鳩山前首相が陥った自己矛盾!
また、仲介役の鳩山氏も自己矛盾に陥ってしまった。
首相経験者である森喜朗氏や安倍晋三氏に対して鳩山氏は、その「密室政治」を批判し、暗に議員辞職を勧めていた。首相経験者は、政局に関与すべきではないという鳩山氏自身の発言からも明らかだ。
だが、まさしくその張本人が、誰にも頼まれていない調整役を自任して右往左往したのである。まさに党利党略のために動く「首相経験者」そのものになってしまったのである。
しかも、鳩山氏に対しては「干からびたチーズ」も「缶ビール」も一切、振舞われなかった。
そして、その鳩山氏の茶番に付き合ってしまった菅氏は、代表選直前に大きなミスを犯すことになったのだ。
もちろん、百戦錬磨の小沢氏がこの絶好のチャンスを逃すはずもなかった。
小沢氏は、鳩山氏の仲介による菅首相との対談をさんざん引き延ばした挙句、自ら首相官邸に出向くのではなく、逆に党本部の会議室に首相を呼びつけた。そして、こう言い放ったのである。
「代表選は党の規約でも決められたものです。密室政治のようなことはせず、お互い、正々堂々と政策論を戦わせましょう」(小沢氏会見より)
そして、きょうの告示日を迎えた。
小沢氏が貫禄を見せつけた共同記者会見!
午後4時からホテルニューオータニで開かれた共同記者会見では、小沢氏は再び「役者の違い」を見せつけた。
まずは、菅首相から先制攻撃が仕掛けられた。
「小沢さんにはちゃんと、どういう首相になるのか国民に伝えてほしい。小沢さんが、予算委員会で座っている姿が想像がつかないんですよ」
この挑発に対して、小沢氏は破顔一笑のち、こう応じた。
「私も20年以上前ですが、すでに閣僚としていろいろ答弁してきました。自分自身の持ち味で、それぞれに誠実に職務をこなしていくのが、首相、政治家の資質だと考えております」
このやり取りは、あたかも「チャンピオン」と「挑戦者」の役割が入れ替わっているかのようであった。攻撃によって、小沢氏を立ち往生させようとした菅氏の戦略だったが、どうも成功したとは言いがたい。
会見中、ツイッターでつぶやいていた筆者のタイムラインは、この瞬間、菅首相への批判で埋め尽くされた。
〈首相のくせにーー 堂々と政策議論ができないのかよ〉
〈過去にも負けてるし、力の違いも感じてるだろうし、凄く怖いんだろーね〉
確かに、菅氏の発言が、小沢氏への批判に偏る一方、小沢氏は、菅氏の存在を無視するかのように持論の展開が続いた。
それは無理もない。共同会見自体の運営方法が、あえて両者が絡まないようなつまらない設定なのだから。
それでも、この最初のディベート、あえて勝敗をつけるとするならば、「政治とカネ」について自ら触れ、政治資金の透明性をアピールし、予算の総組み換えでの財源捻出を改めて強調した小沢氏の勝ち、といえるのではないだろうか。
今後の政策論争の充実に心から期待する。
DIAMOND online【第104回】 2010年9月3日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
民主党の代表選は菅vs小沢となりました。党内の権力闘争の最終決戦とも言える構図となり、メディアにはたまらない展開でしょうが、経済政策の観点からどちらが勝つのが望ましいかとなると、的を射た報道は多くないように思えます。そこで、今週はこの点について考えたいと思います。
マクロ経済運営の観点からの比較
経済政策について菅・小沢の両者を比較する場合、二つの観点から考えることが必要ではないでしょうか。一つは経済と財政の運営のバランスが取れているかというマクロ経済運営の観点、もう一つは政策立案のプロセスが正しいかという観点です。
まずマクロ経済運営のスタンスについて両者の主張を比べると、菅総理は経済よりも財政を重視しているように思えます。昨日の共同記者会見では、最初に「雇用が第一」と言ってはいますが、政策的には財政再建・消費税増税の方が強調されているからです。
これは、菅総理には短期の経済運営の視点が欠如していることを示しています。財政再建は短期の経済成長に悪影響を及ぼします。デフレを解消できないまま消費税増税をすれば、デフレがさらに悪化します。つまり、菅総理のスタンスだと、少なくとも短期的には低成長とデフレの継続を覚悟しないといけなくなるのです。
その中で雇用については、当面は政府が失業者にカネをあげて急場を凌ぎ、中長期には成長戦略に期待するというスタンスであり、経済を成長させて民間が雇用を増やすという発想には乏しいように見受けられます。
小沢氏は短期の経済運営を重視しているように思えます。それは、2兆円規模の補正予算や公共事業などによる地方経済の活性化に言及していることからも明らかです。一方で、小沢氏の中長期の経済成長や財政再建についての方向性は、09年マニフェストの完全実施、政府のムダ削減となるようです。
つまり、まとめると、菅総理は財政規律と中長期の成長戦略を、小沢氏は短期の景気回復を重視していると言えます。
ここで日本経済の現状を見ると、非常に厳しい局面にあります。これまでの経済無策という国内要因で景気が回復しないうちに、円高という外的要因が悪影響を及ぼしつつあるからです。特に問題は、デフレの深刻化(25兆円ものデフレ・ギャップ)と地方経済の疲弊(地方で雇用が増えていない!)です。一方、財政は30兆円ものプライマリーバランス赤字を抱えて火の車状態です。
こうした中では、短期的には財政拡大を含め政策を総動員してデフレ克服と地方経済の活性化に取り組み、それがある程度達成できた段階で消費税増税による財政再建に取り組むのが正しいアプローチだと思います。
そう考えると、短期的なマクロ経済運営の点では小沢氏に軍配が上がります。しかし、09年マニフェストの中身には問題が多く、それを実現するだけでは中長期の成長は無理ですし、政府のムダ削減で財政再建はできないことも考えると、小沢氏の主張には説得力に欠ける部分も多いと言わざるを得ません。
政策プロセスの観点からの比較
それでは、政策立案のプロセスの観点からはどうでしょうか。菅総理については、上記のようなマクロ経済運営のスタンスは官僚任せの政策立案の裏返しと言わざるを得ません。財政規律を優先する姿勢は、財務省のスタンスそのものだからです。(ちなみに、ここで私はステレオタイプな財務省批判をしている訳ではありません。財務省が財政再建を重視する立場なのは当たり前。その他の立場も踏まえて政策の優先順位を判断すべきなのに、それを政治の側が出来ていないことこそが問題なのです。)
あるメディアは菅総理の政策について“現実的”と評していましたが、それこそまさに官僚任せの結果に他なりません。かつて自民党時代の与謝野氏が“政策通”と評価されていましたが、それが「官僚の説明をよく理解する」という意味だったのと同じです。
そして問題は、官僚任せの政策立案ではB級の政策、及第点ギリギリの政策しか作られないということです。その典型例がつい先日ありました。8月30日に政府は経済対策の骨格を発表し、日銀は金融緩和を実施しましたが、その翌日に株価は350円近くも下がり、為替も大幅に円高になりました。官僚の政策では市場を納得させることはできないのです。
一方で、政策プロセスに関する小沢氏のスタンスは、09年マニフェストどおりの政治主導の貫徹であるように見受けられます。政治主導という方向性自体は評価すべきですが、もしそれが鳩山時代のような“間違った政治主導”を繰り返すつもりならば、それはとても評価に値しません。
鳩山時代に明らかになったことは、官僚を排除して政策経験のない政治家だけによる独善的な政治主導が行なわれると、そこから出て来る政策は官僚任せよりもひどいC級、落第点の政策になるということです。その失敗に学んだ正しい政治主導が行なわれるのかどうかが不明なままというのは、正直危なっかしい気がします。
まとめると、政策プロセスの観点からは、菅総理は官僚任せ、小沢氏はまた間違った政治主導に回帰する危険性という、どちらも評価できない両極端の立場になっているように見受けられます。
本来の正しい政治主導というのは、官僚の知見をうまく活用しつつ、政治の側が総合的な立場から政策の方向性を決めて、官僚が嫌がる政策でもやるべきものは強引に実行してその他の政策は官僚に任せるという、政策の取捨選択をしっかり行なうことです。
その成功例は小泉時代に学べます。財政再建については財務省にある程度頑張らせつつ、不良債権処理や郵政民営化などについては、官僚の意向を無視して政治主導で強引に進めました。政治主導とは、そうした政策の強弱の明確化に他ならないのですが、菅総理と小沢氏の両方について、政治の意思として絶対に実現したい政策が明確でないのは、残念と言わざるを得ません。
以上から、少なくとも経済政策に関して言えば、菅総理か小沢氏のどちらかを選ばないといけないという今の日本の立場は、非常に厳しいと感じます。
菅総理の官僚任せの経済政策は、“失われた10年”と言われる1990年代の経済政策の失敗(マクロ経済運営を官僚に丸投げし、経済対策も官僚主導の小出しを繰り返した結果、経済は回復せず財政赤字だけが増大)を思い出します。今のタイミングでそれを繰り返したら、日本経済にとって致命傷となりかねません。一方、小沢氏の経済政策では、短期的にはある程度正しいけれど、中長期にはかなりのリスクを伴うと言わざるを得ません。
言い換えれば、菅総理のままだと日本経済は緩やかな衰退を続け、小沢氏になったらイチかバチかの劇薬治療を始めるということです。この二つの選択肢しかないことは悲劇です。どちらが勝つにしても、その後早く政界再編が起きることを期待するしかないのでしょうか。
本命デフレ対策への日銀の決意が問われる!
日本銀行
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%8A%80%E8%A1%8C
【第79回】 2010年9月3日 DIAMOND online
8月30日に、政府・日銀が金融緩和政策と経済対策を公表したが、その効果は1日と持たず、円相場は円高に振れた。世界的に見ても、経済成長率は低く、政府は膨大な債務を抱え、政治は混乱している。本来なら、円が売られる要因を抱えていながら出現した「おかしな円高」は、なぜ起こったのか。まずは、今回の円高の要因を整理してみよう。
第1の要因は、アメリカの短期金利の低下が、長期金利の低下にまで波及し、日本の実質金利が高くなってしまったことだ。8月には米FRB(連邦準備制度理事会)が、保有するモーゲージ証券などの償還資金を、米国債の購入に当てる金融緩和政策を維持することを決定し、長期金利の低下が進んだ。
プロの投資家たちは、名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利を基準にしてマネーを動かす。ごく大雑把にいえば、日米の名目の短期金利はほぼ0%で同じ。にもかかわらず、米国のインフレ率は2%弱で、日本はマイナス1.5%程度というデフレだから、アメリカの実質金利は0-2でマイナス2%とマイナス金利なのに対して、日本は0-(-1.5)でプラス1.5%と、日本の実質金利がアメリカを大きく上回っていることがわかる。
08年のリーマンショックに端を発した金融危機を防ぐために、米国のFRBは、あの手この手の大幅金融緩和に踏み切った。このところの景気減速懸念を受けて、更なる金融緩和の姿勢も示している。
実際、アメリカを巡るマネーの動きを見てみると、短期の債券については、昨年の4月あたりから売られて,マネーがアメリカから流出している。さらに今年に入ってからは、中長期債に対する買いも細ってきている。
恐るべし!中国政府の巧みな為替オペレーション
特に減少の目立つのが、ユーロとアジア(日本を除く)からのマネーの流れだ。中長期債および株式への投資の動きを見ると、6月ではユーロからの投資額は約100億ドルで、前年同月の532億ドルから5分の1にまで急減している。アジア勢は昨年6月には367億ドルの買い越していたのに、2億ドルの売り越しとなっている。短期債は売り越されてマネーが流出してドル売りの増加となり、中長期債は投資額が減少してドル買いの減少となっているわけだ。
第2が中国の巧妙な為替政策。中国は2006年から2009年まで1000億ドルレベルの米国債を購入していた。それが今年上半期では230億ドルと急速にペースダウン。6月には150億ドルも売り越している。一方、ドルに代わるかのように、今年の上半期で約1兆7300億円も日本国債を購入しているのだ。昨年はわずかながら売り越していたのにである。
これによって、貿易摩擦が問題となっている、米国のドルに対してはやや元高となり、円に対しては円安となって、総合的な元の実効レートを安定させるという構図を作り出している。しかも米国の長期金利の低下局面(国債価格は上昇)をとらえて、米国債を売ってキャピタルゲインを手中しているのだから、お見事というほかない。
第3はユーロが、ドルに代わる受け皿にならない状況が続いていることだ。ユーロの中心国であるドイツなどの経済の実態は、日本に比べて悪くないにもかかわらず、ギリシャ問題や銀行の不良債権問題を抱えているために、ユーロが買われない。むしろ、ドイツなどにとっては、実力以上のユーロ安で輸出が伸び、居心地がよい状態だ。
世界の主要国にとって、現在の為替の動きは望ましい状況にあり、まさに円は孤立無援なのである。
今のアメリカは日本に助けてもらう必要なしでは、過去の円高局面とは、どう違うのだろうか。
1990年代半ばの円高局面の要因は、クリントン政権が冷戦終了後の世界において、世界経済の最大のライバルは日本と位置付けていたことにある。日米の貿易不均衡を是正するための手段の一つとして、為替を用いた。このため、95年4月には1ドル79円75銭という円の最高値をつけたが、ドルは円ばかりでなく他の通貨に対しても弱くなり、ドル全面安という危機的状況をみせる。ここに至って、日米が協調介入に動き、ドル安は是正されることになった。
一つは、日銀が2001年3月から2006年3月まで実施していた量的緩和政策への復帰だ。消費者物価がある目標を上回るまで金融緩和を続けることを約束し、銀行が日銀に預けている当座預金の残高を、法律で決められている以上に積み増すという政策である。マネーを一段とジャブジャブにすることによって、長期金利の引き下げを狙う。この変形だが、インフレターゲティングという政策もある。
もうひとつが長期国債の買い切りオペ(国債購入)の大幅な増額である。メリルリンチ日本証券の吉川雅幸チーフエコノミストは、30日と同様にもう一回固定金利オペの拡充(1年物の可能性)を実施した後、国債買い切りオペの増額を実施する公算が大きいと見る。その場合、長期国債の保有額を日銀券発行残高以下に抑えるという「日銀券ルール」の見直しや撤廃が焦点になるという。この日銀券ルールには、経済的理論的な根拠は薄い。このルールを改廃して取り組めば、そのインパクトは小さくないだろう。
結局のところ、政府・日銀が今回の円高をどう理解し、経済運営にどのようなポリシーで臨むかが問われているのだ。円高を放置して、この水準では国内でやっていけない産業の消滅を促し、内需型産業主体の産業構造への転換スピードを上げるというのも、一つのポリシーではある。
一方、風邪の患者が肺炎になるのを防いでから、産業構造の転換を進めていくというのも、もう一つの考え方だ、不況の中で産業構造の転換を進めていくことが難しいのは、戦前の金解禁政策の失敗が教えるところでもある。「治療法が正しくても、患者の体力によっては、命を奪うことがある」ことを、政策当局者は肝に銘じておくべきだろう。
代表選にうつつをぬかす民主党、量的緩和の有効性に疑問を持つ日銀。彼らには、日本経済の運営に対するどのような政策理念があるのだろうか。
2000年代初頭の円高圧力に対しては、日本政府は大規模な円売り・ドル買い介入を実施してこれを吸収した。03年半ばから04年はじめにかけて、その額は20兆円を上回った。なぜ、このような大規模介入が許されたかといえば、ここでも日米の利害の一致があったからだ。
アメリカでは2000年のITバブルの崩壊、9・11テロに伴って景気が後退する一方、イラク侵攻などで財政支出が膨らみ、財政赤字が急増していた。赤字を埋めるための国債の増発で、長期金利が上昇し、景気に悪影響を与えかねない状況にあった。これを救ったのが、日本の為替介入だった。日本政府は円売り・ドル買いで手にしたドルで米国債を購入し、結果的に、米国の長期金利の上昇を抑えることに協力する形になった。これによって、2004年からアメリカの景気は力強い回復を見せ、つれて日本の輸出も増えていくことになる。
今回はと言えば、FRBがマネーをジャブジャブに金融市場に供給した結果、長期金利も低下してきている。短期債からは海外に資金が流出するほどのカネ余りである。しかも景気回復のために輸出振興を掲げるアメリカにとっては、秩序あるドル安は望ましい方向で、もはや日本に助けてもらう必要はない。
対策の本丸はやはりデフレ対策 それでは日本に残された道はあるのか。
財務省による円売り・ドル買い介入は、円高阻止の象徴的な意味で許されるとしても、いまの世界情勢を考えると、太規模な介入は許容されないだろう。そうなると効果も弱い。
そもそも今回の円高が、日本の実質金利の高さに起因しているとすれば、これを是正する、あるいは是正に向けた強い意志を示すことが処方箋になる。言い換えれば、期待インフレ率を高めるデフレ対策そのものに他ならない。現在、日本の名目の短期金利はほぼゼロ金利だから、打つ手は限られているように見えるが、そうとばかりは言い切れない。打つ手は「量的緩和政策」である。
一つは、日銀が2001年3月から2006年3月まで実施していた量的緩和政策への復帰だ。消費者物価がある目標を上回るまで金融緩和を続けることを約束し、銀行が日銀に預けている当座預金の残高を、法律で決められている以上に積み増すという政策である。マネーを一段とジャブジャブにすることによって、長期金利の引き下げを狙う。この変形だが、インフレターゲティングという政策もある。
もうひとつが長期国債の買い切りオペ(国債購入)の大幅な増額である。メリルリンチ日本証券の吉川雅幸チーフエコノミストは、30日と同様にもう一回固定金利オペの拡充(1年物の可能性)を実施した後、国債買い切りオペの増額を実施する公算が大きいと見る。その場合、長期国債の保有額を日銀券発行残高以下に抑えるという「日銀券ルール」の見直しや撤廃が焦点になるという。この日銀券ルールには、経済的理論的な根拠は薄い。このルールを改廃して取り組めば、そのインパクトは小さくないだろう。
結局のところ、政府・日銀が今回の円高をどう理解し、経済運営にどのようなポリシーで臨むかが問われているのだ。円高を放置して、この水準では国内でやっていけない産業の消滅を促し、内需型産業主体の産業構造への転換スピードを上げるというのも、一つのポリシーではある。
一方、風邪の患者が肺炎になるのを防いでから、産業構造の転換を進めていくというのも、もう一つの考え方だ、不況の中で産業構造の転換を進めていくことが難しいのは、戦前の金解禁政策の失敗が教えるところでもある。「治療法が正しくても、患者の体力によっては、命を奪うことがある」ことを、政策当局者は肝に銘じておくべきだろう。
代表選にうつつをぬかす民主党、量的緩和の有効性に疑問を持つ日銀。彼らには、日本経済の運営に対するどのような政策理念があるのだろうか。
(ダイヤモンド・オンライン客員論説委員 原英次郎)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E4%BF%9D%E9%99%BA
キャリアブレイン 【第107回】石田光広さん(東京都稲城市福祉部長)
東京都稲城市が始めた「介護支援ボランティア制度」が全国で広まっている。一時は国の認可を得られず、お蔵入りになりかけた同制度だが、今では政令指定都市の横浜市をはじめ、約30の市町村が導入するに至った。稲城市はなぜ、一地方自治体の提案を全国区に広めることができたのか―。石田光広福祉部長に同制度を創設した経緯を聞くと、地域が国を動かす7つの条件が見えてくる。(島田 昇)
■(1)徹底したデータ分析
―介護保険制度が4月で丸10年を迎えました。一地方自治体としてどう評価しますか。
介護保険制度はよくできたシステムです。保険者(市町村)、ケアマネジャー、サービス提供者らが1つのシステム上で、多角的な視点からデータ分析ができるからです。しかも、要介護度別人数の推移やサービス提供による効果、自治体ごとの特徴など、形式的なデータだけではなく、“中身”がよく見られます。
従って、データを分析すればするほど、地域ごとにさまざまな課題や問題点を見つけることができます。自治体はデータ分析に基づき、それぞれの地域特性に適した有効策を個別に考えることができるのです。介護保険制度は、データに乏しかったこれまでの福祉の在り方を大きく変えたと言ってもいいでしょう。
ただ、国が標準的な施策を定め、それを自治体に要求し過ぎると、それに自治体が縛られ、地域ごとの有効策を打ち出しづらくなってしまいます。
例えば、稲城市は都内で最も高齢化率が低く、これから高齢化を迎えていく自治体です。従って、既に高齢化が進んだ自治体とは違う介護予防などの施策に重点を置く必要があります。一方で、国が全国一律に高齢化率の高い地域向けの施策を義務付けたりすると、地域の実情と合わない施策を実施せざるを得なくなります。
また、自治体が独自の施策を打ち出しても、国の助成が受けられないなどで財政的な裏付けが得られないこともあります。であれば、データ分析の基盤を持ち、地域に最適な施策が分かっていながらも、「国が示す一律の施策をやっていた方が無難」と考える自治体が出てきてもおかしくはありません。
■(2)地域特性に合う施策の立案
―「介護支援ボランティア制度」の概要と、制度ができるまでの経緯を教えてください。
介護支援ボランティア制度は、介護施設などでボランティア活動をする高齢者にポイントを付与し、現金などに換金できる制度です。現在、稲城市の高齢者約400人が参加しており、政令指定都市の横浜市をはじめ、全国で約30の自治体で実施しています。
当初の狙いは、地域活動に積極的に参加する高齢者の介護保険料を安くすることでした。高齢化率の低い稲城市は、介護予防につながる元気な高齢者の地域活動を奨励する仕組みを用意することが、要介護者の増加を抑制し、結果として介護保険の給付費を抑制できると考えたためです。
しかし、2005年に「介護支援ボランティアへの保険料控除制度」として提案した際、国は実施に向けた検討を行ったものの、認めませんでした。次に、「介護支援ボランティア特区」として改めて制度の創設を要望しましたが、やはり保険料軽減は認めないという方針でした。ただ、「保険料そのものの軽減は認めないが、実質的な軽減は認める」という方針が示されました。そこで折り合いをつけ、稲城市では07年9月から試行し、08年4月から本格運用を始めました。
―国は、自治体の都合で保険料自体を上げたり下げたりするのは、日本の社会保障制度の根幹を揺るがすという考えで認めないものの、介護支援ボランティア活動による実質的な軽減は認める方針を示したのですか。
保険料は自治体でコントロールすることができないということは確かなことです。つまり、自治体はいくらデータ分析を重ねて地域の有効策を打ち出そうとしても、それは保険料外で行わねばならず、しかもそれを実現するには、非常に時間がかかるということは分かりました。それでも、介護支援ボランティア制度は全体の保険料抑制効果があることは認めていただけました。
■(3)担当者の粘り強さ
―ただ、実質的な保険料軽減は実現しました。何が成功に結び付いたのですか。
粘り強く、具体的なデータを国に示し続けたからだと考えています。それには、国と自治体の双方にとって有効であることが分かるように明快に説明することと、インターネットを活用して情報公開する戦略が欠かせませんでした。
制度を運用することで、具体的にどれだけの人が参加し、どれだけの保険料が軽減され、介護予防にどれだけの効果があるのかなど、さまざまな視点からシミュレーションし、制度の有効性をアピールしました。実際、介護支援ボランティア制度は、参加者が何人であっても、結果的にはわずかながらも介護予防効果は表われ、保険料の給付費が軽減できる仕組みになっています。制度を実施して損をすることはないのです。
■(4)住民の支持を得る
制度の概要や狙い、国とのやりとりが分かるように、Q&Aや報告書はすべて市のホームページで公開しながら制度創設を進めました。市民の同意が得られないと、どんなにいい仕組みであっても成就しません。市民の間でどういう論点があって、どういう反対があるのかもすべて公開しました。全員が賛成なら自然に機能するわけで、制度にする必要はありません。だから市が制度を必要と考える真意を世に問い、問題点を改め、民意としての提案に国が反論できないまでに深化させるよう、インターネットを活用しながら仕掛けていったわけです。
■(5)長期戦で賛同者を広める
こうした戦略には、見せ方やどう広めるかという視点のほかにも、時間的な視点も重要です。今は関心がなくても、時がたてば介護支援ボランティア制度に興味を持つ自治体も出てくるだろうと考えるためです。インターネットは、今その時にどう評価されるかということだけではなく、時間がたって評価されることも可能にしやすいプラットフォームです。そもそも問題意識の共有には時間がかかりますし、ましてや自治体によって問題意識はさまざまです。ですから、すぐに他の自治体からの賛同は得られないと考え、時間をかけてわれわれの主張を理解してもらうという意味でも、インターネットの活用は重要と考えました。
■(6)地域資源に意味付けをする
―制度設計に大きく影響を与えた視点や考え方はありますか。
新しい制度を創設しようとは思わなかったことです。どういうことかというと、「既にいる地域のボランティア活動をする人たちを介護支援のボランティアとした」ということです。つまり、「このボランティアさんたちに手帳を配り、この人たちをクローズアップして感謝の意を示す」という、既存の地域資源を活用したのです。新たに制度をつくったというわけではなく、今あるものに意味付けをしたことが、われわれが「介護支援ボランティア制度の創設」としてやったことの本質的な取り組みなのです。
ですから、無理なく制度を開始することができたし、参加者もその受け入れ施設も、ある程度の数で開始することができました。結果、開始当初からある程度の規模で進めることができて、この制度に参加したいというボランティアや受け入れ施設も順調に伸びていったのです。これも重要な戦略的視点でした。
■(7)柔軟に考え本質をとらえる
―今後の課題を教えてください。
介護支援ボランティア制度は、地域の資源を掘り起こし、それら今ある資源を“接着”するための制度です。介護保険だけに頼らない、地域で支え合うことが必要とされる中で、時代に見合った制度になったと思っています。この制度は、自治体が介護保険制度で得られるデータ分析に基づき、制度設計に直接関与し、“地域の芽”を発展させることによって誕生しました。こうした地域の芽をこれからも発掘し、接着する仕組みづくりが必要です。国もこうした自治体の取り組みを支援してもらいたい。
介護支援ボランティア制度でいうと、制度実施地域間でのポイントの共有化など、制度のさらなる進化を目指していきたいです。
本来、ボランティアは無償で行うものだから、換金できるポイントを付与するこの制度を、「ボランティア」と呼んで運用することに反対する意見もあります。稲城市の介護支援ボランティア制度は、高齢者の社会参加のきっかけづくりを行ったものにすぎません。わたしたちは「ボランティア」の呼称にこだわらずに、地域での活躍の場の提供を行っており、これが広がりを見せているのだと思っています。
ボランティアは対価を求めない自発的な活動ですが、さまざまな方法論を探して組み合わせ、結果としてボランティア活動によって実現する社会貢献が介護予防につながればいいと思うのです。柔軟な思考で、ボランティア活動の先にある本質的な実利が取れるのであれば、それはそれでよしとする考え方があってもいいのではないでしょうか。正確なデータに基づき、柔軟で地域の実情に見合った自由度の高い制度設計が、今の自治体には求められているように思えてなりません。
( 2010年05月29日 10:00 キャリアブレイン )
覆面座談会「民主党政権で、政治家が官僚化した」
2010年8月30日(月)日経ビジネス
「脱官僚」を掲げる民主党政権が発足して間もなく1年になります。
政治との蜜月関係が崩れ、大臣らから無理難題が降ってくる頻度は増え、人事は停滞――。激変する職場環境に、働き盛りの中堅官僚のぼやきは止まりません。
そこで、たまには思うところを吐き出してもらいましょうと、複数の省の中堅官僚の覆面座談会を催しました。
――本誌 大臣、副大臣、政務官の「政務三役」との関係はいかがですか。
経済産業省課長補佐A氏(30代) 現時点で、関係が円滑という意味での「勝ち組」はうちの役所と文部科学省、財務省さんでしょうね。うちの直嶋正行大臣は細かいところには口を出さず、我々の振り付けどおりに動いてくれます。やっぱり、「負け組」の筆頭は厚生労働省さんですかね。
部屋に入ってきた大臣と目を合わせない幹部
厚生労働省課長補佐B氏(30代) 否定できないのが笑えないところです。「あなたたちは信用できない」と部下を否定して壁を作る上司の求心力が高まるはずがないですよね。上司と部下がまともな対話ができない状況が続いているのは異常です。
省内の幹部会議で長妻昭大臣が部屋に入ってきても、目を合わせようともしない幹部が多い光景は異様です。政務三役への必要なレクや政策提案が遅れるなど、非効率な組織運営に拍車がかかっています。
財務省課長補佐C氏(30代) 厚労省職員を対象にしたアンケート調査の結果は衝撃的ですね。「政務三役から現実的なスケジュール感の観点から納得のいく指示が示されていると思う」と回答した職員は1%だけでしたね。
厚労省B氏 社長や取締役が明確なビジョンを示し、部下のモチベーションを上げるようにコミュニケーションを図りながら仕事を任せるというのが、組織マネジメントの基本だと思いますが、逆のことが起きています。
我々を不必要に排除し、情報過疎の中で行き当たりばったりの指示を、時間軸を考えずに出してくることが多いのですから、批判されて当然だと思いますよ。組織を動かした経験がない野党暮らしが長い先生は、これだから困る。
何の調整もないまま、ツイッターで政策を打ち上げる
外務省課長D氏(40代) 「何でも自分たちで手がけるのが政治主導」と勘違いしていますね。それって、「政治家の官僚化」が進んでいるだけ。
うちの岡田克也外相はあまり夜の会合も入れず、家に海外当局とのやり取りを記した大量の公電を持ち帰って熟読しているそうです。海外当局との人脈形成も含め、大所高所のことにこそ時間を割くべきでしょう。
総務省課長補佐E氏(30代) そうそう。あと、うちの原口一博大臣が典型例ですが、「政治の基本は調整、根回し」という基本を知らなすぎですね。各省と何の調整もないまま、世間受けする政策やアイディアを打ち上げる。しかも、ツイッターで(苦笑)。
尻拭いに追われるのは我々なんですが、司令塔不在ぶりはひどい。民主党の先生方は、目立つことしか考えていなくて、汗をかこうという気概がある人が本当に少ない。自民党時代の方がまだ良かったと思いますよ。
―― そうはいっても、来年度予算編成作業を始め、「官僚頼み」の構図に戻ってきていませんか。
財務省C氏 菅直人首相も、仙谷由人・官房長官も、政策を運営していく術を考えたとき、我々を使うしかないと自覚したんでしょう。
それにしても、菅さんの「消費税率10%発言」はまずかった。うちの幹部も知らなかったんだって、あのタイミングで打ち上げることを。税の怖さを知らない素人だったということを、世間に示してしまいましたね。
一律1割カット、「縦割り」の発想そのもの
経産省A氏 来年度予算の概算要求基準で、政策経費を全省庁一律に1割カットし、特別枠を設けるアイディアを財務省さんがだいぶ前から仙谷さんらに吹き込んでいたと聞いています。まあ、我々が言うのも何ですが、各省「縦割り」の発想そのものですね。
特別枠といっても、既存の要求のうち幾分かをそこの要求に振り向けるだけ。しかも、その枠について「政策コンテスト」をやると言ってますが、公開の場で真剣かつまともな議論なんてできるはずがないので、重要な予算要求をこの枠でするはずもない。事業仕分けの二番煎じみたいな、茶番ですよ、茶番。
―― 「霞が関が諸悪の根源」との空気が蔓延していますが。
厚労省B氏 うちの会社(厚労省)の先輩で、本当にその子どもが同級生からいじめられたケースがあるそうです。「お前のパパが勤めているところは、怠け者で、税金ドロボーばかりだ」と(苦笑)。社会保険庁の年金対応の問題のことを指しているんだと思いますが、逆恨みされて本当に刺されることだってあり得ますから、しゃれになりません。うちの妻は「ダンナが厚労官僚なんて、口が裂けても言えない」と嘆いています。
上はポストを同期で回し、下はいつまでも雑用
総務省E氏 天下りシステムをはじめ、批判が当たっているところと、全く理不尽な批判とがありますね。はっきりしているのは、我々の世代にはもう天下りなど期待できません。
民主党政権が天下り斡旋に慎重になったあおりで、年寄りで働かない高給取りが滞留する一方、新規採用を大幅に刈り込むしかない。上はポストを同期で回し、下は入ってこないので、いつまでも雑用ばかり。こんなシステムは変えたほうがいいのですが、所詮、サラリーマンですからね、我々も。指示通りに動くしかない。
財務省C氏 民間のように、ある程度の年次になったら、管理職でいきたいのか、専門職でいきたいのかはっきりできる制度にしてほしいです。そうしないと、転職しようとしても、霞が関のルールしか知らない、市場価値がないただのおっさんになってしまいます。
経産省A氏 まあ、劇的に人事制度が変わらない限り、50歳ぐらいまでは給料は上がっていきますし、年金、退職金も悪くはない。割り切って、適当に暮らしていこうと思えば、いい商売ですよ。家族もいますし、制度改革も穏当な手直しですんでほしいというのが本音ですね。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
http://www.uonumakoshihikari.com/
魚沼コシヒカリ理想の稲作技術『CO2削減農法研究会』(勉強会)の設立計画!