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上海万博後に軍事行動に出る危険性も?

JBプレス 2010.09.27(Mon)織田邦男

 那覇地検は、9月7日の海上保安庁巡視船との衝突事件で拘束していた中国人船長を24日、急遽釈放した。船長逮捕以降、中国政府は即時無条件釈放を求め、ヒステリックなまでに次々と報復カードを切ってきた。

実に情けない!ベタ下りの日本外交?

日本大使に対する非礼な深夜の呼び出し、官製と思われるデモ、閣僚級交流停止、ガス田開発交渉延期、スポーツや旅行など民間交流停止、レアアースの輸出停止、挙句の果てには日本のゼネコン社員を軍事施設撮影容疑で拘束するに至った。

 日本政府は当初、法的手続きに従い粛々と対応するとしていたが、ここに至って脅しに屈し、腰砕けの格好だ。まさにマージャンでいう「ベタ下り」である。

 那覇地検が総合的に判断し船長釈放を決定したのであって、政府はこの決定を了としただけだと、政府はメンツを保つために責任回避に躍起であるが、誰も信じていない。政府の狼狽ぶりは見苦しい限りである。

 中国は日本の決定に対し、これまでの日本の「司法プロセスは、すべて違法で無効だ」とし、謝罪と賠償を要求するとさらに追い打ちをかけている。

 強硬措置で脅せば日本は原則を曲げてでも必ず下りるとの確信を中国に与えてしまったことは、今後の日中外交に大きな禍根を残した。

ポーランド侵攻を誘引したチェンバレンの宥和政策!

 中国との領有権問題を抱える東南アジア諸国も、日本の対応には失望したであろう。日本は法治国家としての矜持の欠片もなく、およそ主権を死守するという気概もないという印象を全世界に与えたことも大きな痛手だ。

 今後、尖閣にとどまらず、沖ノ鳥島など日本周辺海域において、中国海軍の無頼漢的傾向に拍車をかけることは間違いない。チェンバレンの宥和政策がヒトラーのポーランド侵攻の誘因となったように、このつけは大きく日本に跳ね返ってくるはずだ。

 そもそも今回の強硬な中国の態度に隠されたものは何であったのか。中国の真の意図が理解できない限り、今回のような戦略なき「その場しのぎ」の対応にならざるを得ない。

 今回の事件は決して偶発事案ではない。南シナ海での中国の動きと見比べてみると、中国の深謀遠慮が見えてくる。実は典型的な中国の領有権獲得パターンの1フェーズなのである。

1970年から80年代にかけて、中国は南沙諸島、西沙諸島を実効支配して南シナ海の支配権を獲得していった。そのパターンはだいたい4つの段階に分けられる。

中国の領土拡大、4つの法則!

第1段階として、領有権を主張し巧みな外交交渉に努める。

 第2段階は、調査船による海洋調査や資源開発等を実施する。

 第3段階は、周辺海域で海軍艦艇を活動させ軍事的プレゼンスを増大させる。

 最終段階の第4段階として、漁民に違法操業をさせたり文民を上陸させて主権碑等を設置させたりする。そして漁民、民間人保護の大義名分の下、最後は武力を背景に支配権を獲得する。

 中国は一党独裁の国であり、党の定めたパターン通りに行動する。ある意味、中国は分かりやすい国である。パターンさえつかめれば、次の一手が読める。今回の尖閣についてもまさにパターン通りの行動なのである。第1段階から振り返ってみよう。

 中国は1969年、東シナ海の海洋調査によって尖閣付近の石油埋蔵の可能性が取りざたされるまでは、全く尖閣諸島の領有権を問題にしていなかった。

1978年、甘すぎた日本外交が火種残した!

 1970年12月30日、中国外交部は突如次のように声明を出している。

 「中華人民共和国外交部は、おごそかに次のように声明するものである。釣魚島、黄尾嶼、赤尾嶼、南小島、北小島などの島嶼は台湾の付属島嶼である。これらの島嶼は台湾と同様、昔から中国領土の不可分の一部である」

 日中平和友好条約交渉時、中国は尖閣諸島の領有権を主張したが、日本は領土問題は存在しないと一貫して門前払いしていた。

 だが、条約締結直前の1978年8月10日、鄧小平は園田直外相との会見で「われわれの世代で解決方法を探し出せなくても、次の世代、次の次の世代が解決方法を探し出せるだろう」と述べた。

これに対し、日本側は「さすがは懐の深い鄧小平」と肯定的に受け入れてしまった。この瞬間から「次世代で解決すべき問題」の存在、つまり領土問題が存在するのを認めたことになってしまった。

50年、100年先を見越して着実に手を打ってくる中国!

まさに50年先、100年先を見通した鄧小平の巧みな外交交渉にやられてしまったわけだ。

 その後、断続的に調査船による海洋調査を実施し、周辺海域で海軍艦艇を活動させ軍事的プレゼンスを増大させるなどして、既成事実を積み重ねているのは報道の通りである。

 この支配権確保パターンからすると、尖閣領有権問題は第3段階まで終わり、第4段階に入りつつある。

 今後、漁民の不法操業がますます増加し、同時に中国海軍の行動がさらに活発になり、民間人、漁民が上陸して主権碑を設置するといったことが予想される。尖閣領有権問題での中国の次の一手を読むため、南シナ海での第4段階を参考に見てみよう。

 中国は南シナ海を支配するためには南沙諸島を確保しなければならないと考えた。南沙諸島には多量の石油資源、豊富な漁場が存在し、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア及びブルネイの6カ国が領有権を主張している。

南沙諸島を巡りベトナムとは軍事衝突に発展!


中国による南沙諸島、西沙諸島の違法な占領に反対して中国大使館の前でシュプレヒコールを挙げるベトナム人〔AFPBB News〕
 1980年代、まず海洋調査船による海洋調査を開始した。87年には海軍艦艇を行動させ、翌88年には南沙諸島の西方のある永暑礁に漁民を上陸させて、中国の領土の証拠になる主権碑を設置した。

 これに抗議したベトナムと軍事衝突になり、ベトナム海軍は3隻のボートを撃沈され、75人が戦死をして敗退に至った。

 中国政府は「自衛の行動であった」と声明を出し、永暑礁をはじめ付近の島を占領して永久施設を構築し、以後海軍部隊を駐留させている。

 1992年米軍がフィリピンから撤退したのを見届けたように、95年には南沙諸島東方に所在するミスチーフ礁に漁民避難目的と称して施設を構築。

 フィリピン政府は主権の侵害であると抗議したものの、中国海軍の方が優勢であり、中国は抗議を無視して中国艦艇や海洋調査船を派遣。強引に建設作業を行い、鉄筋コンクリートの建物、大型船舶が停泊可能な岸壁及びヘリポート等を建設して実効支配を確立している。

西沙群島については1974年、中国は海軍部隊を派遣し難なく実効支配を確保した。

尖閣諸島には次々と中国の漁船が入り込む!

特に紛争にならなかったのは、前年のベトナム戦争終結に伴う米軍の撤退により同海域に生じた力の空白に乗じたという中国の巧みな戦略が功を奏したこと、そして領有権を主張するベトナムも戦後の混乱で中国に抗議する余力がなかったことが挙げられる。

 日本は南シナ海の手口を教訓として中国の次の一手を予測し、対応準備をしておかねばならない。

 中国政府は今回、尖閣の領有権を主張し続けた結果として日本が折れたという事実を大いなる成果として、さらにこれにつけ込むはずである。

 まず、大量の中国漁船が尖閣の領海内に堂々と入り、違法操業をすることが予想される。報道を見ても帰国した船長は英雄扱いである。「彼に続け」そして「みんなで渡れば怖くない」的な民衆心理を中国政府は利用にかかるだろう。

 その際、中国漁船を守るという理由で中国海軍が尖閣周辺に接近してくることも予想しておかねばならない。時には尖閣の領海に入ったりして、日本の態度を瀬踏みすることも考えられる。

 また、民間人が尖閣に上陸し、主権碑を設置したり、灯台や見張り台などの設置を試みたりするかもしれない。これを海上保安庁が阻止し逮捕したりすると、今回以上の強硬な報復カードを持ち出すに違いない。その後はいよいよ中国海軍の出番となる。

日本は決して力の空白をつくってはいけない!

 日本は何を準備し、どう対応すべきか。先ずはパワーバランスに留意し、力の空白をつくらぬことである。

 中国は力の信奉者である。力の空白には躊躇なく入り込むのが力の信奉者の常套手段である。今回の事件も政権交代以降、日米関係がギクシャクし、日米同盟が漂流寸前なのを見透かしたうえでの中国の確信犯的行動と言える。

 領有権に関しては冷静かつ毅然とした態度で臨み、力には力をというファイティングポーズを崩さず、隙を見せぬことが大事である。

 次回また起こったら厳しい対応で臨むと警告を発し、揺るぎない姿勢を表明しておくとともに、挑発的行動をさせない対処力、抑止力を保持しておかねばならない。

問題は、日本は現在、独力で中国に対峙できるだけの外交力、軍事力に乏しいことである。自衛隊はあっても平時の領域警備の法的根拠は与えられておらず、外交の後ろ盾としての軍事力の役割は果たし得ない。



尖閣諸島について日米で早急な共同作戦計画を練れ!

菅直人政権も日本の弱さをつくづく思い知ったことと思う。今こそ、領域警備に係わる自衛隊行動の法的基盤を整備するとともに、日米同盟の再生に全力を傾注しなければならない。

 幸いにも、ヒラリー・クリントン米国務長官は「尖閣諸島には安保条約5条が適用される」と明言した。バラク・オバマ大統領も南シナ海における中国海軍の挑発的行動に対し懸念を表明したところである。

 日米の利害は一致している。早急に日米協議を開始し、尖閣諸島周辺における対応について共同作戦計画を詰め、島嶼防衛に関する日米共同訓練を実施することが求められる。

 その際、日本自身が犠牲を出してでも自国の領土、領海、主権を守るという揺るぎない意志と強い覚悟がなければならない。いかなる同盟であっても、自国を守ろうとしない国との同盟は成り立たない。

 再び事が起きた場合、まずは日本があらゆる手段を講じて初動対応しなければならない。国際法に照らし冷静かつ粛々と対応し、法治国家、民主主義国家としての威厳を示し、国際社会に対し成熟した民主主義国家日本をアピールできるよう行動することが大切である。

「国交断絶もありえた」と怯えては、戦争すら招く危険性がある!

 他力本願では米国は決して尊い若者の血を流してまで日本を守ろうとはしない。安保条約5条は自動参戦を義務づけたものではないことを理解しておかなければならない。

 「戦争になるよりはいい。このまま行けば駐日大使の引き上げ、国交断絶もありえた」と首相に近い政府筋が語ったとの報道があるが、これでは中国が戦争をちらつかせた途端、すべて譲歩しなければならなくなる。まさに中国の思うつぼである。

 こういう敗北主義は極めて危険であり、戦争を抑止するどころか、むしろ戦争を誘発する結果となることは多くの歴史が証明している。

 今回、国際社会はいかに中国が理不尽な国かということを自覚したと思う。長期的には中国を国際ルールや国際法を守らせるように誘導し、国際ルールを守る方が結果的に国益にかなうことを思い知らせなければならない。関与政策の絶好のチャンスでもある。

これを契機に中国を誘導する関与政策で国際社会を一致させ、外交、金融、貿易、軍事など、あらゆる手段をリンケージさせた対中国カードを国際社会として切れるよう巧みな外交が日本に求められる。

 関与政策には、関与する側が軍事力や経済力で圧倒されないことが重要である。1国では台頭する中国に圧倒される危険性がある。今こそ、自由民主主義国家による連携が試されている。

北京五輪、上海万博が終わり、中国には自重する必要がなくなった!

北京オリンピックも終わり、上海万博もあと少しで終了する。中国は当面国家的イベントは計画されておらず、国際的に自重した行動をする必要性はなくなった。

 20年にわたる大軍拡で自信をつけた中国が、今後国益をむき出しにして行動し始めることは十分に考えられる。台湾とチベットに対してしか使ってこなかった「核心的利益」という言葉を南シナ海に適用し始めたのもその兆候だろう。

 尖閣諸島も「台湾の付属島嶼」ゆえに中国領土だと主張するように、尖閣領有権問題は台湾問題でもあるのだ。

 尖閣諸島の実効支配が中国の手に落ちると、次は台湾であり沖縄である。

 今後、北東アジアに著しい不安定化を招来するか、日本が中華帝国の軍門に下るか、あるいは現状維持で平和を維持できるのか、今が分水嶺なのかもしれない。「寸土を失うものは全土を失う」の箴言を今一度思い出す時であろう。
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