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金正男
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E6%AD%A3%E7%94%B7

金正日の長男・正男を切り札として庇護する中国!

2010.11.26(Fri)JBプレス福山隆

 個人的には3代世襲には反対しています」。金正日の長男の金正男は、中国・北京でのテレビ朝日のインタビュー(10月9日)にそう答えたという。(敬称略)

金正男の「3代世襲に反対」発言は中国の恫喝か!

金正男がインタビューで自分を排除した父・金正日と「皇太子」の座を射止めた弟・正恩を挑発するかのように「個人的には3代世襲には反対」と言って憚らなかったのはなぜだろう。

 本来なら抹殺(暗殺)される運命にある金正男の背後には中国がついている。

 金正日の瀬戸際外交などで今や世界の「孤児」となった北朝鮮は、唯一の庇護者である中国が「生殺与奪の権」を握っている。

 中国は意図的に金正男を通じ中国の本音を代弁させ、金正日・正恩父子を恫喝し「改革開放実行の約束の履行」を迫っているのではあるまいか。

 中国は、金正男のインタビュー発言を通じ、正男を「スペアカード」として庇護する意志・立場を鮮明にしたのではないだろうか。

中国は金正男「傀儡政権」を準備か!

 金正男を温存し、彼を中心に「傀儡政権」を創り、「平時における内政干渉」と「有事における軍事介入」の「切り札・旗印」にしようとしている可能性がある。

 そもそも、「金王朝」の「高祖」金日成(本名は金 成柱=キム・ソンジュ=)は、旧ソ連のスターリンが派遣した人物で、北朝鮮はスターリンの「傀儡政権」が樹立したものだ。

 中国が金正男を中心に「中国版の傀儡政権」を準備しているとしても驚くには当たらない。

 尖閣諸島になりふりかまわず進出しようとする中国の侵略性を見れば、隙あらば北朝鮮をチベット化しようとする魂胆さえ疑われる。

中国が金正恩世襲容認に転じた思惑!

 9月上旬に予定されていた代表者大会を9月30日に遷延せざるを得なかった最大の理由は、中朝間で世襲の容認(承認)と引き換えに改革開放政策の受け入れ・実行を確約することを巡り、綱引きをしていたからではないだろうか。

 中国が3代にわたる世襲と、後継者として(金正男ではなく)金正恩を受け入れた背景・理由について考えてみたい。

第1の理由は、中国が金正日の健康が悪化し、世襲が切迫していると判断・認識していることだ。

 仮に、あくまでも中国が金正恩の世襲を認めず、公式に世襲の「お披露目」を延ばせば、世襲準備不十分なままに金正日の死を迎えるような事態を招きかねない。

 そうなれば、内部崩壊などのリスクが増大する可能性がある。

 第2の理由は、金正恩・北の指導部へ恩を売ることを意図したからだろう。中国が強硬に金正恩への世襲に反対すれば、後々中朝関係が悪化しかねない。

 中国側は、かつて金正日の世襲に鄧小平が執拗に強く反対したことが、金正日の対中認識・政策に悪影響を及ぼしたことに鑑み、世襲プロセスのスタート時点で、金正恩と金正日亡き後の北の指導部の心象を害することは得策ではない――と判断した可能性がある。

 第3の理由。中国が金正恩への世襲を認める代わりに金正日は改革開放に踏み出すことを確約した可能性が高いと考えられる。

 中国は、これ以上北朝鮮の経済が深刻化し、いつ崩壊するかもしれない状態が続くことは困る。従って、世襲容認を条件に、かねて要望している改革開放に踏み出すことを強く求め、北朝鮮がこれに応じた可能性が高い。

金日成・正日父子の世襲はなぜ成功したのか
 先の金日成・正日父子の世襲の経緯を振り返ることは、今回の金正日・正恩父子の世襲の成否を占ううえで参考になるものと思う。

 金日成・正日父子の世襲が成功した要因として、以下の理由が考えられる。

●金正日の出自・性格・資質

(1)出自

 金正日の出自は、父・金日成は言うに及ばず、母親・金貞淑も金日成の配下で抗日ゲリラ戦に従事しており、北朝鮮の基準では最も誇るべき経歴の持ち主だった。

(2)性格・資質

 金正日の性格については、元KCIA北朝鮮調査室長の宗奉善(ソンボンソン)が『金正日徹底研究』(作品社)で詳しく分析・説明している。

 これによると、金正日は「利口で、親和力と芸術的感覚」を持ち、「組織運営能力」「部下と側近から確固たる忠誠心と服従心を引き出す能力」「狡猾さと果断さ」を備えているという。

 その一方で、「残忍性」「せっかちさ」「傲慢性」「冷血性」「他人に対する不信と閉鎖性」「心的不安定」「気まぐれで暴力に無節操」「小英雄主義と冒険主義的な顕示欲及び陰険さと狡猾さ」も持っているという。

 宗奉善によれば、これらの「二重人格的」資質は、独裁者としてふさわしい資質で、ヒトラーやスターリンとも共通するものだと指摘している。

●十分な準備期間を活用した世襲・独裁体制の確立

 金日成・正日父子の世襲における最大の特徴は「世襲実現までの十分な準備期間(約30年)があったこと」である。

 金正日は父金日成の盤石の権力基盤と十分な「時間」を最大限活用し、世襲・独裁体制の確立に邁進した。

(1)実務経験

 金正日は、大学卒業直後から、党務・政務などの様々な部署で勤務することにより、実務経験を積み重ねた。ただ、最も重要な軍務経験は皆無であり、後に軍を掌握するうえで苦心し、共産党政権国家では異例の「先軍政治」を採用しなければならない羽目になった。

(2)軍の掌握

 軍歴を持たないハンディを自覚し、あらゆる術数を駆使し、軍の掌握に努めた。その一例。

 秘密パーティーからの帰途、泥酔・運転し、交通事故で瀕死の重傷を負った軍最長老の呉振宇次帥を空路モスクワへ搬送し、莫大な治療費をかけて一命を取り止めさせ、同元帥を篭絡した(ちなみに、この事故は金正日による謀略説との見方も)。

 また、軍掌握のためには、単に高官の掌握のみならず、実績を見せつけ、箔をつけるために、総参謀部・偵察局を使ってラングーン爆弾テロ事件や大韓航空機爆破事件などを指揮したと言われる。

(3)ライバルの排除

 金正日は金日成の偶像建設などで歓心を買う(ゴマ摺り)ことに心がけ、自らの世襲を確かなものにするとともに、「脇枝(嫡流でない傍流)」の異母弟・平一、継母・金聖愛、さらには叔父・金英柱などライバルとなる可能性のある者を排除した。

 平一には「断種手術」までさせたと言われる。継母・金聖愛の排除に関してはその兄弟などが軍や党の要人であり、「政道政治(王の外戚の政治介入)」を防ぐうえでやむなしと、夫・金日成もこれを黙認したと言われる。

(4)金日成からの権力奪取

 極めつけは、金日成の体力気力の衰えに乗じ、金正日が徐々に父親の実権を奪い取ったことだ。

 父親への情報をコントロールすることにより、「裸の王様」状態にし、金日成晩年(1985年から金主席逝去の1994年)には、事実上、「金正日独裁体制」を確立していたと言われている。

上記の金日成・正日親子の世襲成功の要因を念頭に、金正恩の世襲の成否について分析してみたい。

金正恩の世襲は成功するか!

金正恩の出自・性格・資質

(1)出自

 正恩は正妻の子だが、長男ではない。また、正恩の生母の故高英姫(コ・ヨンヒ)は1953年に大阪から渡北した在日朝鮮人である。

 北朝鮮の出身成分としては、最低ランクのグループに属する。この弱点をカバーするためか、正恩の「育ての母」は金正日の実妹の金敬姫だというプロパガンダが計画されているという情報もある。

(2)性格・資質

 金正恩についての個人情報はほとんどなく、その資質は分からない。

 年齢も資質だと考えれば、27歳はどう見ても若すぎる。「長幼の序」を重んじる儒教社会の北朝鮮では、いまだ「若造」の新独裁者に対し、彼を取り巻く70代・80代の軍や党の幹部は「頼りない」と思うに違いない。

 本来、国家指導者になるべき人物は、ありとあらゆる修羅場を潜り抜け、競争に勝ち抜き、生き残った者である。古くは血で血を洗う政争や戦争、そして現代民主主義国家では、選挙戦の洗礼を経なければならない。

 共産党一党独裁国家の中国においても習近平と李克強が胡錦濤の跡目を争っているではないか。そんな環境を潜り抜けてこそ、一国の指導者にふさわしいリーダーシップやしたたかさが培われ、周囲も納得するのだ。

 「3代目が家を潰す」という諺がある。これは、初代創業者の資質(情熱・気力、独創性、努力、忍耐力)などが、代を重ねるごとに衰え、3代目に至ると、もはや初代・2代目が作り上げた政権・会社などを維持運営するだけの器量がなくなるという意味だと思う。

 正恩は苦労知らずの環境で、皇子の1人として、わがままに育ったことは間違いなかろう。その意味で、「3代目が家を潰す」という一般論には符合するはずだ。

 正恩はスイスに留学し、中国語、ロシア語、ドイツ語、英語を理解すると言われる。父親に比べて、特異な点だ。

 一般論としては「国際派」の正恩は「主体思想」に凝り固まった金正日よりも物分りがよいと言えないだろうか。この点、中国、米国、ロシアなどの間では、父親よりも正恩の方が御しやすいと見る向きもあるだろう。


●十分な準備期間

 金正日の健康状態から判断して、父金正日(約30年の準備期間)に比べ、金正恩の準備期間は短すぎると見るべきだろう。このことが様々なハンディキャップとなり、世襲成功の阻害要因を生み出す原因になることだろう。

(1)実務経験

 党務・軍務・政務などの様々な部署で勤務することにより段階的に実務経験を積み重ね帝王学を学ぶ、という機会がほとんどないのではないか。

 党務として党中央委員及び党中央軍事委員会副委員長、軍務として大将の肩書きは、正恩の職務経験の乏しさと比較しあまりにもギャップがあり過ぎる。

 短期間に実力を蓄えることができなければ、部下の信頼を失い、「馬鹿殿」として祭り上げられ、やがて失脚する可能性がある。

(2)軍・党の掌握

 父金正日同様に軍歴を持たないことは正恩の世襲にとって最大の弱点。このために、李英鎬次帥(党中央軍事委副委員長、政治局常務委員)を後見役につけたと言われる。

 しかし、金正日亡き後、軍に確固たる基盤を持たない正恩が本当に軍を掌握できるかどうか疑わしい。

 また、金正日の遺産である先軍政治が世襲の災いになるかもしれない。強大化した「猛虎(軍部)」は、金正日には素直に従ったが、「主人」が若く経験不足の正恩に代わるや、軽んじて牙を剥いて噛みつく(クーデター)かもしれない。

(3)ライバルの排除

 意外なライバルは、後継者争いから脱落したはずの異母兄・金正男であろう。

 彼は、中国の庇護の下、北朝鮮の路線問題(中朝間の最大の争点)を巡る争いや、崩壊の危機などにおいて、中国の対北朝鮮対処の「持ち駒」ないしは「切り札」として使われる可能性がある。

 正男は中国の庇護の下にあり、暗殺などにより排除することは不可能だ。

 また、前項で述べたように、金正日は「最後の頼みの綱」として実妹の金敬姫・張成沢夫妻に正恩を託そうとしているようだ。

 しかし、金正日自身が叔父の金英柱を排除した例のごとく、金正恩の立場から見れば叔父・叔母はまさしく「脇枝(嫡流でない傍流)」にほかならない。金正日亡き後も、金正恩と金敬姫・張成沢が一枚岩あるいは一蓮托生の関係であると即断するのは危険だ。

(4)実績作り

 韓国海軍哨戒艇の天安撃沈は、金正恩の実績作りのために人民武力部傘下の偵察総局が実行したという情報がある。

 今後、祖父や父同様に独裁者に相応しいカリスマ性を創り上げるために、この種の暴力行為・冒険を敢行する可能性がある。国際社会として容認できないのは、当然だ。

 また、正恩にとっても、これが成功すればいいが、失敗すれば、国際的孤立を一層深め、引いては政権基盤を損なうことにもなりかねない。

(5)金日成からの権力奪取

 金正日は父の体力気力の衰えに乗じ、徐々に実権を奪い取った己の体験に鑑み、死の直前までは息子の正恩に権力を委譲しない可能性が高い。このような状況で、金正日が突然死を迎えた場合は、世襲が危うくなる可能性がある。

以上のように分析してみると、金正恩の世襲には内憂外患が多く、極めて厳しいと言わざるを得ない。今後、金正恩の世襲の成否を占う上で、その動向として注目すべきポイントは次のようなものだろう。

結びに代えて―今後の注目ポイント!


第1のポイントは、金正日の健康状態の推移。金正日の世襲を見ていると、豊臣秀吉の晩年が思い出される。

 金正日・正恩父子の年の差が42歳に対し、豊臣秀吉・秀頼親子の場合は56歳。秀吉は晩年死病に罹ると、その子秀頼の世襲を確かなものにするために、五大老の徳川家康や前田利家らを枕頭に呼び、秀頼に忠誠を誓約する起請文に血判署名させた話は有名だ。

 しかし、秀吉が死ぬと家康は、権謀術数を用いて主家を攻め滅ぼした。金正恩の場合も、父がいかに世襲を確実にするための手を打っても、残された時間が短ければ、正恩の世襲は危うくなるだろう。

 北朝鮮の権力中枢における権力闘争は金正日の健康状態の悪化に比例して熾烈さを増すだろう。

 第2のポイントは、金正日が正恩を託す「最後の頼みの綱」とも言うべき実妹の金敬姫(大将・政治局員)とその夫の張成沢(国防委員・政治局員候補)それに軍を代表する総参謀長・李英鎬次帥の動向だろう。

 金正日が亡くなれば、兄の権威で力を得ていた金敬姫の影響力は低下するものと思う。そのことに気づかず、金敬姫が出しゃばると、正恩の後継をぶち壊す役になりかねない。

 夫・張成沢は、金正日の最愛の妹ということで、金敬姫の「カカア天下」を許してきたが、金正日亡きあとは、そうはことが収まらないだろう。

 そもそも張成沢・金敬姫夫妻は、仮面夫婦と言われており、夫婦一致して正恩の世襲を推進できるかどうか疑問。

 古来「雌鳥が鳴くと国が滅ぶ」と言われるが、張・金夫妻の対立(夫婦喧嘩)が思わぬ波乱の要因になるような気がする。

 権力争いに女性が介入すると、ろくなことはない。漢の高祖・劉邦の妻の呂太后や、毛沢東の妻の江青の例を見れば頷けるだろう。

第3のポイントは、中朝関係の推移。

 中国の経済発展にとって周辺の平和と安定は不可欠である。しかるに、金正日時代には中国は瀬戸際外交で揺すぶられ続け、その尻拭い役に甘んじさせられた。

 また、6カ国協議においては大国の面子を潰されることもしばしばだった。さらに、今後も北朝鮮人民2000万余を養い続けることは、無視できない「お荷物」だと思っていることだろう。

 中国は、今後、アジア地域を圧倒する力を背景に、北朝鮮に対する圧力・支配を強めるだろう。中国は、北朝鮮に対する支援・庇護と引き換えに、自国と同様に改革開放を迫るのは確実だ。

 これに対し、北朝鮮は従来通り支援だけは受けるものの、言を左右し改革開放実施には必死に抵抗するだろう。改革開放政策の導入が、自らの体制を崩壊させることを知悉しているからだ。

 中国は、経済支援はもとより、先にも述べた金正男を中心とした「中国版の傀儡政権」を「カード」として、内政干渉をも厭わず、改革開放を迫るだろう。

 中朝は、今後、一見友好関係を装いながらも、水面下では北朝鮮の改革開放路線の実施を巡り虚虚実実の攻防を繰り広げるものと思われる。

 かかる中朝の攻防が、金正日の健康が衰えゆく晩年、そして正恩にとっては世襲準備段階に展開されるわけだ。

 北朝鮮が中国の強圧から逃れる道は、対米関係の改善だ。

 最近の人事で、第1外務次官の姜錫柱(カン・ソクチュ)が副首相に、外務次官の金桂寛(キム・ケクァン)が第1外務次官に、外務参事官の李容浩(イ・ヨンホ)が外務次官へそれぞれ昇任したが、これは対米外交を予期した布陣と見るべきだろう。

 ちなみに、金父子といういわば「窮鳥」は中国の脅迫を逃れるために、米国がダメなら、ロシアの懐に逃げ込もうとするかもしれない。しかし、この選択肢は、中ロ関係が良好なうちは「通じない手」なのである。

 朝鮮半島は古来、「日本の脇腹に突きつけられた『匕首(短刀)』」と例えられるように、大陸国家(現在では中国・ロシア)の脅威を日本に伝播できる地政学上の位置にある。

 古来日本は、倭の時代には、白村江の戦で唐・新羅連合軍に敗れ、唐の対馬海峡を越えた侵攻に怯え、鎌倉時代には、2度にわたる蒙古襲来に見舞われた。

 明治維新後は、朝鮮半島を「戦略縦深(バッファーゾーン)」として確保するため、日清・日露の宿命的な戦争を戦った。

 上述のごとく、世襲を巡り、今後北朝鮮では、内政・外交(主として中朝関係)において予断を許さない情勢が推移するものと思われる。日本は、安全保障上の観点から、重大な関心を持って、その推移を注視すべきである。

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