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国益を追求できる“幸運”をもたらしたものとは!

2010年12月13日(月)日経ビジネス 高安雄一

日本でTPP(環太平洋経済連携協定)に参加するか否か議論がされる中、韓国FTA自由貿易協定)に対する積極姿勢に注目が集まっています。

 現在、韓国と相手国の議会で批准されて発効したFTAは、チリシンガポール、EFTA(欧州自由貿易連合スイス、ノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランド)、ASEAN東南アジア諸国連合)、インドとの5件です。交渉が妥結したFTAは、米国EU欧州連合)、ペルーとの3件、交渉中のFTAはカナダ、GCC湾岸協力会議)、メキシコオーストラリア、ニュージーランド、コロンビア、トルコとの7件。なお日本とのFTAは交渉が開始されたものの現在は交渉が中断されており、中国ロシアとのFTAについては共同研究が行われている状態です(外交通商部の発表による)。


農業団体による激しい抗議行動も!

 これらFTAの中には、韓国の農業部門に大きな被害を及ぼすことが想定されるものがあります。発効あるいは交渉が妥結したものだけでも、チリ米国EUを挙げることができます。これらの対象国・地域で生産される農産品は、韓国でも生産されており、かつ韓国の価格競争力が弱いことから、農家が金銭的な被害を受けます。当然、農業部門の抵抗は大きく、韓・米FTAを始めとして、農民団体による激しい抗議行動が起こっています。

 ところが、農民団体の抗議行動が目立つ一方、実際に行政の政策決定過程への影響力は限定的です。韓国では農業部門の利益を守るために行動し、行政の政策決定過程に直接影響を与える主体として、与党を中心とした国会議員、農林水産食品部があります。前者は与党としての政策決定過程への関与や国会での投票行動などによって影響を与えることができ、後者は行政の組織として直接影響を与えることができます。こういった主体の抵抗を抱えながら、なぜ韓国ではFTAを積極的に進められたのでしょうか。

 その理由は、
(1)韓国経済の置かれた状況から大統領がFTA推進に積極的である、
(2)批准以前のプロセスで大統領の決定を覆すことが可能な主体がない、
(3)与党の大勢がFTA推進に反対ではないとの3つの点に集約されます。今回は、この3つの点について考察していきたいと思いますが、その前に 韓国の行政および国会の基礎的情報をおさらいしておきましょう。


強大な権限を保障された大統領制!

 まず行政です。韓国は大統領制であり、大統領は国民の直接選挙で選ばれ、任期5年で再任は禁止されています。大統領は法案拒否権、公務員任免権を始め強大な権限を憲法上保障されています。

 行政のトップは大統領ですが、国務総理が大統領により任命され行政各部を統括し、やはり大統領に任命される国務委員が各行政組織の長として組織を統括しています。ただし大統領制をとっている他国と同様、国務委員は大統領の代理人に過ぎず、国務総理も事実上それに近い存在です。

 次に国会です。国会は一院制であり任期4年で解散はありません。言うまでもなく、立法権、予算審議・決定権、条約批准に対する同意権等があります。また行政との関係では、大統領を始めとした弾劾訴追権、国政監査権、国務総理の任命同意権などがあります。なお選挙は比例代表選挙と小選挙区選挙が併立しており、最近の選挙(2008年)では299名の議員が選出されました。


なぜ歴代大統領はFTAに積極的だったか!

 まず、韓国FTAに積極的である第一の理由「韓国経済の置かれた状況から大統領がFTA推進に積極的である」について考えてみます。

 前述したように、行政のトップとしての大統領の権限は強大であり、大統領がFTAの推進に積極的でなければお話になりません。基本的に、国民による直接選挙により選ばれるため、大統領は国益を重視した政策を選好する傾向にあります。また再任が認められていないため、5年の任期中に何らかの歴史的な業績を残そうとします。従って、しがらみにとらわれず、合理的で思い切った政策を打ち出しやすいのが大統領の政策決定の傾向と言えます。


現職、前職の大統領のFTAに対する考え方を見てみましょう。 現職の李明博大統領は、もともと韓国の財閥企業である現代建設のCEO(最高経営責任者)であったことから、経済の発展こそ最も追求すべき国益であると認識していました。このため、FTAを通じて輸出主導の強い経済国家を目指すことは自然なことで、選挙公約でも積極的なFTAの推進を掲げました。


GDPの半分が輸出である韓国


 一方、FTAに反対の立場である市民団体や労働組合に支持母体があった盧武鉉前大統領がFTAを推進したのはなぜでしょうか。一つの理由が、韓国経済の発展のためには積極的なFTA戦略が重要だという厳然たる事実です。

 韓国の経済にとって輸出は年々重要になっています。1990年にはGDPに占める輸出の割合は14%程度でしたが、この比率は1990年後半以降右肩上がりで高まり、2010年には50%近くに達しています(図1)。よって韓国の持続的な成長にはFTAの締結等により、できる限り有利な環境で輸出ができるようにすることが重要です。「韓国は日本とは異なり国内市場が小さいため輸出が極めて重要であり、持続的な成長のためにはFTAは不可避である」という意見については、政府組織や有識者の多くが一致しています。

また1997年の通貨危機以降、国民レベルで経常収支の赤字に対する恐れが生じています。これは通貨危機の一つの要因が、長年続いた経常収支の赤字であったことによります。このため経済理論から見ると議論の余地はあるものの、経常収支の黒字を維持するために輸出の環境を改善することは、国民の支持を受けやすいのです。

 これら事情を踏まえ、経済団体及び外交通商部が当時の盧武鉉大統領に対し、韓国経済の発展のためにはFTAが不可欠な点を説明し、最終的には大統領も国益のためこれを納得したのでしょう。何より、大国とのFTAに道筋を付けることは大統領の業績として十分なものです。

 日本の動向も気にしているようです。私がある有識者に韓国はTPPに参加するのかとたずねたところ、「ハードルは高いが、日本が参加したら韓国も参加するのではないか」という答えが返ってきました。韓国の最大の輸出競争国は日本です。FTAの締結という面だけ見れば当初は日本がリードしていました。これに焦りを感じた経済団体や外交通商部が、日本に先んじる形でFTAを進めるべきとの説得を行い、大統領もこれに理解を示したと考えられます。経緯については歴史的な検証が今後必要ですが、盧武鉉大統領がFTA推進に積極的であったことは事実です。


政策の最終決定に与党が関与する制度的な仕組みがない!

 次に、「FTA批准以前のプロセスで大統領の決定を覆すことが可能な主体がない」という点について説明します。

 FTAが発効するまでには、政府として交渉開始を決定、両国間で交渉開始を合意、交渉・妥結、署名、批准のプロセスを踏みます。大統領がFTAの推進に積極的な場合、政府による交渉開始の決定を阻止することができる主体が存在するでしょうか。

まず与党です。もし政府の交渉開始の決定に与党の合意が必要な場合は、与党の影響力は強いと言えます。しかし、この段階で与党が持つ影響力は限定的です。なぜなら。行政による政策の最終決定に与党が関与する制度的な仕組みがないからです。

 日本の自民党政権時代のように事実上与党の手続きを経ないと政府としての決定ができない仕組みがあれば、与党の合意なしで政策決定はできません。しかし韓国ではこのような仕組みはありません。また国会として影響力を行使する仕組みもありません(※1)。

 とはいえ、国会の議決については与党の力が必要なので、政策決定において完全に与党の意向を無視することは現実的ではありません。実際、李明博政権が「韓半島大運河」プロジェクトを打ち出した際、与党の与党内野党とも言える勢力の反対によりこれを断念しました。

 また大統領は国会の動向を含め様々な政治勢力の状況を気にしながら政治的決定をしているのも確かです(※2)。しかし、FTAについては、大統領に推進に向けた強い意志があれば、これを断念させることは難しそうです。FTAの発効を阻止するためには国会で批准を拒否すれば良いのですが、相手国もあり、批准拒否の決断は与党としても簡単にできることではないからです(※3)。


大統領が人事権を行使できるので意志に反することはない!

 行政内部の組織はどうでしょう。韓国では行政内部の組織が大統領の意向に反対することはまずありません。なぜなら、韓国では行政内に与党議員がほとんどいないからです。各部の長官(大臣に相当)の大多数は公務員からの持ち上がり、あるいは民間人です。その結果、大統領、国務総理、各部長官等で構成される国務会議(日本の閣議に相当)には現職国会議員は現在2名しかおらず、それぞれ当選2回です(表1)(※4)。

副大臣や政務官という立場で行政組織にいる議員もいません。このため、与党議員が行政内部から大統領が示した政策に反対することはまずありません。韓国では、国会議員、議員以外を問わず大統領が自由に人事権を行使できる環境にあるため、国務委員(=行政組織の長)をはじめとした政府高官が大統領の意志に反することはないと考えられます。

 日本でも首相が人事権を持っています。しかし与党との関係で、政府内にいる国会議員が政策に反対しても辞めさせることは簡単ではありません。さらに国務会議は意志決定機関ではなく、あくまでも審議機関であるため、万一国務会議で大統領の意志に反する決定をしても、大統領はこれに従う必要はありません。

 さらに、韓国にはいわゆる族議員がいないことも挙げられます。特定の政策に精通した当選を重ねた議員を族議員と定義すると、韓国ではそのような議員が生まれにくいシステムとなっています。よって各行政組織には応援団がおらず、企画財政部のような予算を握った組織と交渉することは容易なことではありません。ましてや大統領の決定にモノ申すなどできるはずがありません。

 このように、批准までの過程で大統領の決定を阻止できる主体はおらず、重要案件は大統領の決定にかかっていると言って良いでしょう。FTA批准以前のプロセスは、大統領さえ決定すればその通りに動いていくのです。

 

選挙において農民票は重要でない!

 最後に「与党の大勢がFTA推進に反対ではない」について考えてみます。前述したように、与党がFTAに強硬に反対した場合、最終的に国会で否決される可能性が他の政策よりは低いと言えます。とはいってもリスクはゼロではありません。しかし韓国ではそもそも与党、そして場合によっては野党もFTAには反対してきませんでした。

 この理由は2つあります。一つは政党にとって農民票が相対的に重要ではないことです。総人口に占める農家人口の比率を見ると、日本は5.7%、韓国は6.4%と、わずかですが韓国の方が高くなっています。韓国において一番重要な選挙は大統領選挙です。この結果によって政党が与党になるか野党になるかが決まります。国会議員選挙も重要ですが、これに負けても与党であることには変わりありません。大統領選挙は国民による直接選挙でありますので、農民票は結果に大きく影響しないと考えられます。



もちろん農民票を全く無視しているかといえばそうではなく、盧武鉉大統領も大統領選挙の時に農業予算を全体予算の10%に引き上げるという公約を発表しています。

 次に国会議員選挙です。大統領選挙よりは重要度が落ちるとしても、与党が敗北すると政策の推進に支障が生じます(これを「与小野大」と言います)。国会議員選挙は比例代表選挙と小選挙区選挙に別れています。比例代表選挙は日本のようにブロック別になっておらず、農業票がそれほど重要でないことは大統領選挙と同じです。

 小選挙区選挙では、地方・農村部には農民がまとまった数存在します。しかし重要な点は、ハンナラ党であれば慶尚道、民主党であれば全羅道というように、韓国では地域が政党への投票行動に大きな影響を与えている点です。韓国では未だに職能票より地域票が重要です(※5)。この傾向は地方・農村部で顕著で、ソウルなど大都市部では地域が政党への投票行動に影響を与えることがないのですが、このような地域では農民票は重要ではありません。

 また一院制であること、小選挙区制であることも農民票が重要な役割を果たさない理由です。小選挙区制であれば、選挙の争点が包括的になり、特定の集団の利益が選挙に反映されにくくなります(※6)。また日本では参議院という職能代表を代表しやすい仕組みがあるのですが、韓国にはこれがない点も重要であるとしています。これらを総合すると、韓国における農民票は選挙の勝敗を決するほど重要ではないと言えます。


意志決定に影響を与える族議員もいない!

 もう一つの理由は、前述したように、政党の意思決定に強く影響を与える族議員がいないことです。

 韓国では民主的な選挙が行われてから歴史が浅い等の理由もありますが、当選1~2回の議員が4分の3を占めているなど、多選議員が多くありません(表2)。この理由の一つは、大統領が与党総裁を兼ね、公認権や資金を全て掌握していた時代(金大中政権まで)には、多選により議員の発言力が増すことを嫌っており、数回当選した議員には公認を出さない傾向があったこと、当選回数が増えると地元との癒着が生まれ、スキャンダルにより引退に追い込まれる議員も少なくなかったことがあります(※7)。

また、大統領を目指す場合、多選によってステップアップしていくことは一般的ではありません。このため、議員から首長に転身する例も少なくありません。李明博大統領もソウル市長としての実績をもって大統領選に挑みました。このような事情もあり、当選を重ねつつ特定の政策に精通する族議員が生まれにくく、族議員が政党の意志決定に重要な役割を与える状態にはなっていません。

 もちろん農家の利益を代弁する国会議員はいます。韓・チリFTAにおいて批准に反対した議員は71名ですが、その大部分が農村出身の議員でした(※8)。

 なお農村出身の議員も地域票がある場合、農民票が離れても選挙に負けることは考えられませんが、選挙区にまとまった人数がいる農民の意見を伝えていると考えられます。しかしこれらの議員は政党の意思決定には影響を及ぼしていません。当時与党であったウリ党は批准賛成を党議としていますし、野党であったハンナラ党も同様です。そして同じく野党であった民主党は批准に反対の立場を表明しましたが、投票は党員の自由意思にまかせました(※9)。つまり農村出身議員は政党の意志決定には影響力を及ぼさなかったことが分かります。

農民票が重要ではなく、与党の意志決定に影響を及ぼすことのできる農業部門の利益を代弁する議員がいないとしても、与党はそれとはかかわりなくFTAに反対することも考えられます。ではなぜ与党はFTAに賛成してきたのでしょうか。

 盧武鉉政権の時代は、政権の発足当初は民主党が与党でしたが、1年もたたないうちに分裂してしまい、大統領支持派の議員が作ったウリ党が与党となりました。このような経緯からウリ党は大統領の私的政党としての色合いが濃く、大統領の政策に反対することはなかったと考えられます。李明博政権は、ハンナラ党が与党ですが、この党はそもそも産業界の利益を重視する政党であり、野党時代からFTAに賛成していました。現在のハンナラ党は与党内野党を抱える状態で一枚岩ではありませんが、FTAの推進については賛成で一致していると言えるでしょう。


輸出なくして成長できない国にとっての幸運!

 このように、大統領がFTA締結に積極的である中、批准までは大統領の決定を阻止する主体がなく、与党にもFTAに反対する強い勢力がなくて総じて賛成であったことが、韓国FTAを積極的に進められた理由であると考えられます。

 このように、韓国でFTAを積極的に推進できる理由の大部分は、行政や政治の制度に帰着します。もちろん、FTAが推進しやすい制度であるからといって、韓国の政治システムが日本より優れているというわけではありません。韓国は、国のトップが一度示した政策は、よほどのことがない限り実現されるという点では優れたシステムとも言えます。しかし大統領が暴走した場合には止めることが難しいとも言えるわけで、この意味では危険な制度とも言えるでしょう。

 ただし、韓国が「輸出の成長なくして経済成長なし」という状況に置かれているのは確かであり、その意味では、輸出の環境改善に資するFTAを積極的に推進できる環境が整っていたことは、韓国にとって幸福でした。

 次回は今回触れることができなかった、(1)FTAの推進に当たって大統領は農業部門に対して一定の配慮していたこと、(2)大統領が世論対策に相当力を入れていたことなどを取り上げたいと思います。

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