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心配なのはむしろアメリカ?!
2011年2月15日(火)日経ビジネス 田村耕太郎
騒ぎ過ぎの英米メディア!
ムバラクが辞任した。アフリカ大陸のリーダーにありがちな、自らを偶像化してやまないリーダーの代表格なのでもう少し粘るかと思った。たぶん、32年前の同じ日(2月11日)に起こった「イラン革命の再現」を恐れたアメリカの支援を得られなくなったのだと思う。私はこの辞任によって、エジプト革命が急速に他国に広がり、原油・食糧市場を混乱させる可能性は少なくなったとみる。
エジプト革命が他国に広がるかどうかを測るには、その国の以下の点を考慮すべきだろう。1)国の開放度(お金、人、思想などの出入りの自由度)と国家安定性の相関(いわゆるJカーブ)、2)若年失業率、3)人口サイズ、4)ソーシャルメディアに対する監視体制、5)現政権の危機対応能力。まあ物理学のようにはいかないので当たらないかもしれないが…
私の結論は、前述のごとく「エジプト革命が他国に広がって原油市場や食糧市場を混乱させる可能性は低い」というものだ。上記の5点で分析すると、エジプト固有の要因が多いからだ。
視聴率を稼ぎたい英米メディアは、他国に伝搬する大騒ぎを期待して「革命が広がる」とお祭り騒ぎだ。CNBCでは、商品市場でひと儲けしたいファンドの連中が、地理や国際関係をよく勉強せずに「スエズ運河が危ない」「次はサウジ」とかいって、仕掛けまくっていた。残念ながらそうはならない! サウジ、イラン、イラクといった大産油国はびくともしないだろう。スエズ運河は閉鎖されないし、そんなところ通っている原油はごくわずかだ。
国益が“自分益”である中東産油国のリーダーたちはそれほど愚かではない。エジプトの失敗からしっかり学んでいると思う。国家の開放に最も理解を示すUAEから、最もイヤイヤのクウェート、サウジまで色んな対策を打ってくると思われる。同じ轍は踏まない。ネット監視強化と民主化、若年失業と格差への対策など、硬軟取り混ぜて同時にうまくやると思う。
5つのメジャーで検討!
それでは、上記の5つのメジャーをエジプトに当てはめてみてみよう。まずJカーブから。チュニジアの“ジャスミン革命”は典型的なJカーブ左端事件だ。
Jカーブとは、前述のごとく国家の安定性と開放度(お金、人、思想などの出入り自由度)の相関を示すもの。縦軸に国家の安定性を取り、横軸に国家の開放度を取る。国家を開放すればするほどまずは安定性が損なわれるが、あるポイントを超えれば、その後は開放すればするほど安定性が増すということを表す曲線だ。北朝鮮、イラン、キューバなどが左端、つまり国家を閉鎖することにより安定している、に位置する。欧州や日本やアメリカは右端、つまり国家を開放することにより安定性を増している。
チュニジアは、国家を閉鎖して安定性を増していた国である。グローバル情報やITにリテラシーが高い若年人口が多い国でもあった。「前政権が富を独占していた」というウィキリークス情報やそれを拡散したソーシャルメディアの影響で、国家の安定性が大きく揺らいでしまった。ウィキリークスとソーシャルメディアのコラボに弱い十八番のような事例だ。
エジプトはチュニジアよりJカーブのずっと右にあり、思想も人の出入りも資金の往来もずっと開放されていた。そして追加の開放も安定性につながるはずであった。
人口と若年失業率!
次に人口と若年失業率。エジプトは人口が多いことも不運だった。湾岸諸国の人口は最大のサウジアラビアで約2500万人。クウェートやUAEでは200万人台にすぎない。中東アラブ国家で人口最大のエジプトは約8200万人。サウジアラビアの3以上の規模だ。
石油収入は年々減って近年は242億ドルほど。これは2820億ドルのサウジアラビアの10分の1以下だ。人口が多いと、いわゆる「失業の輸出」ができない。人口の少ない湾岸諸国は、外国人労働者を雇用の調整弁に使える。好況時に多くの外国人労働者を輸入し、不況時には首を切って国外退去させる。自国の人口が多いとこれができない。結果として、若年失業率は30%を超えていた。
エジプトのソーシャルメディア監視体制はお粗末だった。チュニジアの方が優れていたほどだ。国内のインターネットプロバイダーは6社だったので、それを遮断するのは容易だった。だが、デモの指導者などを早期に追跡して、運動の芽を摘む作業は全くできなかった。サウジアラビアやUAEの監視体制は、はるかに洗練されている。多くの資金と人材をネット監視に充てている。
アメリカの目論見はずれる?
最後に、政権の危機への対応。これはさらにお粗末。言うまでもなかろう。ソーシャルメディアの申し子とも言えるオバマ政権は、ソーシャルメディアとの親和性が高い。
うがった見方をすれば、オバマ民主党政権は、イランそして北アフリカ・中東の湾岸諸国の独裁政権の民主化を狙ってまずチュニジアに仕掛けたと思う。その余波は、親米で、かつ比較的開放度の高いエジプトを通り過ぎて、イランおよび北アフリカ・中東湾岸諸国に行くと予想していただろう。ところが、ムバラクがネットも携帯電話も遮断し強烈な弾圧という最悪の手段に打って出たため、想定外のエジプトで暴発が起こった。
その後の対応もさらにまずく、親米政権が転覆してしまった。米国にとっては、これは想定外に都合の悪いことだった。チュニジアから、エジプトを通り越して、直接湾岸への飛び火が本来の予定だったのではないか。
かといって、これを契機に、エジプトに反米親イラン政権が生まれる可能性は少ないとみる。軍部の統制下における穏健な多党制に移行すると思われる。90年代のトルコのような形ではなかろうか? 国内にアルカイダのような過激分子がおらず、ムスリム同胞団もジハード主義者とは一線を画する穏健派である。イスラム原理主義者が実権を握ることは考えにくい。エジプト人一般が、イスラエルが好きかどうかは別の問題であるが
軍事政権が、民主的な大統領選挙を、どれくらいの信任を国民から得つつ、どれほどのスピードで行って行けるか、が焦点だ。90年代のトルコで起きた軍事政権から民主政権への移行が参考となるモデルであろう。司法や教育、外交まで当面は軍部の指導下に入るのではないか? 「この時間が長ければ長いほど経済的には失われる時間が多くなる」というのが、我々がトルコから学んだことだ。
エジプト軍事支出額は国家機密である。秘密にしないとまずいほどの予算を軍は使っている。その多くは、兵士たちの手厚い待遇に回っているらしい。よって、エジプト軍部の士気は高く忠誠心も強い。しかし、前述した通り、国内にアルカイダやジハード主義者は居ない。エジプトは、軍事政権が長く君臨するには平和すぎる。
危ないのはアルジェリア?
エジプト革命の余波が及ぶのは、イエメン、アルジェリアくらいではないか?各国政府の対応次第であることは当然だが。
湾岸諸国の中で最もエジプト革命の余波が懸念されるのがヨルダンだ。しかし、同時に最も賢明な対応をしているのもヨルダンだと思う。ヨルダンではこの事態を見越して2月1日にさっそく内閣が総辞職した。エジプト革命の影響を最小限にとどめることができるかもしれない。
イエメンはアリ・アブドラ・サレエ現大統領が2013年の大統領選への不出馬声明を出した。これが、どれくらいの効果を発揮するかは定かでない。ただ、アルジェリアよりましだろう。
アルジェリアでは、アブデルアジス・ブーテフリカ大統領への批判が高まる。この国の人口は約3500万人。国民の7割近くが25歳以下という若い国。若年失業率は30%近いと推定される。ブーテフリカ大統領は2009年に2期目の任期満了が迫ったが、2008年に強引に憲法を改正して大統領3選を可能にした。2009年の選挙では徹底的に野党を弾圧し、3選した。アルジェリアに19年間続いた非常事態宣言を解除するなどの対応はしているが、これは全く効果がないだろう。
アメリカ政府は、イランをけん制する。ギブス米大統領報道官は「イランはエジプト革命を恐れている。“怖くない”と強がっているが、すべての通信を遮断し、何かあったら射殺も辞さないと国民を脅している。これはイラン政府が、国民そしてエジプト革命を実は恐れている証拠だ」と自身の最後の会見でかなりイランに言及した。
サウジやイランはネット監視体制にすぐれ、秘密警察や治安部隊がまだまだ強いからエジプト革命の余波をうまくブロックするのではないか?
アメリカでは、中国への影響まで語る識者がいる。中国は世界で最も優れたネット監視体制を誇る国だ。Gmailのサーバーにさえ侵入し、メールを読んで、反政府勢力を追跡し、運動蜂起の芽を早期に摘んでいる。
しかし、今後の技術革新がネット監視を相当困難にしていくだろう。非常に監視しにくい、モバイルアプリがどんどん開発されつつある。例えば、携帯機器を無線通信でリンクする自己構成型ネットワークの一種である、モバイルアドホックネットワーク(英: mobile ad hoc network、MANET)のように、インターネットを遮断しても、クラウドソースを利用できるアプリも出始めている。こういうアプリの普及を中国やサウジは最も恐れているだろう。
ただ、中国も、エジプト革命の影響が国内に侵入しないよう対策を取っているフシがある。中国政府は2月12日付けで国家鉄道相の劉志軍氏を党組織書記から更迭した。同氏は2003年から異例の長さで鉄道省党組織書記を務めていた。汚職疑惑だというが、これだけの高官を大々的に報道しながら更迭することは稀である。莫大な資金をつぎ込んでいる国家計画に長期わたって関与してきた人物なので汚職の可能性も高いし、今後の潜在的汚職に対する見せしめの意義もあろう。来年の政権交代に絡む政治闘争もありうる。ただ、タイミングを見ると、花形ポストの高官を更迭することで、国民のガス抜きや民主的イメージの創出を狙っているのではないか?
イスラエルが最も恐れる事態!
今回のアメリカの対応やオバマ大統領の会見を見ていて、私が一番気になったのは「アメリカの中東情勢への今後のコミットメントが低下するのではないか」ということ。確かに、ムバラク辞任を受けた、オバマ大統領の6分余りの演説は素晴らしかった。
マーチン・ルーサー・キング牧師の言葉「自由を求める心中の叫び」を使い、デモの中心地、タハリール広場のタハリールという意味は「解放」であると引用し、格調高くパワフルで理念にあふれていた。オバマ大統領は、デモの原動力である、失業率の高さに苦しむ若者たちに「エジプトの若者の素晴らしいクリエイティビティと行動力に機会と希望を与えるべきだ!」とメッセージを送った。
しかし、その後の報道官会見――こちらも歴史的なものになるはずだった――は全く違う雰囲気のものであった。米国の重要なパートナーの役割を中東で30年間も果たしてくれたムバラク氏の辞任を受けた報道官の会見の様子は、懸念を全く垣間見せないものに感じた。ムバラク辞任が決定した2月11日は、奇しくも引退するギブス報道官の最後の会見の日。緊張感が走るはずの報道官会見に、なぜか冒頭からオバマ大統領が登場。ギブス報道官への賛辞とジョークで始まり、非常になごやかな雰囲気で進行した。
最後は、大統領が着けていたネクタイが入った額を、大統領が報道官にプレゼント。会場は笑いの渦へ。「イスラエルが一番恐れているのはイランでもパレスチナでもなく、アメリカの中東へのコミットメントが低下すること」であろう。アメリカは中東に対して、原油確保以外のインセンティブは薄れていくのではないか? アメリカ自体が強いコミットメントを維持するだけのインセンティブと資源をもはや持っていない気がする。
エジプト革命より、アメリカのコミットメント低下こそが中東情勢の波乱の源泉である。そんなことをふと感じた。
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