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江田憲司提供:江田けんじNET 今週の直言
2010年12月06日09時57分
資源に乏しく、人材と技術を駆使し「貿易立国」で「国を開いて」生きていくしかない日本にとって、TPP(環太平洋経済連携協定)への早急な参加は必要不可欠であろう。それが、農業県出身で自ら稲作に精を出す代表をいただく、みんなの党の公式的立場でもある。
TPPは、2010年3月、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、米国、豪州、ペルー、ベトナムの8か国(後にマレーシアも参加)で交渉が開始された。従来のFTA(自由貿易協定)とは異なり、基本的に100%の自由化を目指す。ちなみに、FTAの場合は、自由化例外を10%程度認めるのが通例だ。
それだけにTPP参加には相当な「覚悟」が必要だ。菅首相が、例のごとく、所信表明演説では「参加表明」をしながら、後に党内の猛反発にあって「参加を前提にせずにとりあえず情報収集」といった腰砕けになったのも頷けるだろう。ちなみに、その後、この「へっぴり腰」の民主党政権は、9カ国による交渉にオブザーバー参加さえ許されない状況が続いている。
そのTPPは、今や米国が主導している。米国の目論見は、2011年11月、米国で開催されるAPEC首脳会議までに交渉を妥結するというものだ。これまで、東アジアで安全保障には多大なコミットしてきた米国も、近年、経済面では必ずしも主導権を握れてはいなかった。そうこうしているうちに鳩山民主党政権によって「東アジア共同体構想」までが提唱されていたのだ。その意味では、このTPP構想は、見事なまでの米国の「一発逆転劇」ではある。
さはさりながら、日本はこれまで、FTA交渉等で米国、EU、韓国等に相当出遅れてきた。その要因が日本の農業にあることは自明だが、その結果、日本の企業は世界の中で不利な競争条件を余儀なくされている。また、閉鎖的な国内制度、規制の維持が企業の足を引っ張っているのだ。
その証拠に、FTA相手国との貿易額/総貿易額、すなわち、FTA比率でみると、米国38%、EU30%、韓国38%、中国21%に比し、日本は 16%と相当後塵を拝している。特に韓国は、米国、EUとの間でFTA署名に至っており、サムスンの飛躍的な業績アップと日本企業に対する凌駕を例にあげるまでもなく、このままでは、日本企業はグローバルな大競争時代にあって、ますます取り残されていくことは必定であろう。
だからこそ、今や「農業の再生」とセットで、TPPに早急に参加すべきなのだ。それでは「農業の再生」とは何か。それは我が国農業の足腰を強くし、農業を将来にわたって、成長・輸出産業に育てあげていくことだ。
OECDによれば、世界の人口は2050年には90億人(現在68億人)に達し、その食糧をまかなうためには、食糧生産を現状より7割アップしなければならないという。まさに食糧危機が叫ばれているのだ。そこに日本の農業の活路がある。
北京やシンガポールでは、2倍も3倍も高い日本のコメが、おいしい、品質が良いといった理由で飛ぶように売れているという。ちなみに、その中国のコメ消費量は年1億3000万トン(世界消費量の約3割でトップ)、うちジャポニカ米も4000万トンの市場があるという。ここにターゲッティングすれば良いのである(次週に続く)。
そのためにはどうすべきか。みんなの党は、以下のような「戦略的農業産業政策」を打ち出している。
① まず、官僚統制の極みである「減反政策」を段階的に廃止する。
現在は、水田(250万ha)の4割が減反対象だが、将来の自給率向上のための作付け面積確保のためにも減反は廃止。減反を廃止すれば、体力のない兼業農家から専業・主業農家への土地集約化も期待され、生産性の向上にもつながる。
② 減反を廃止すれば確実に米価は下がり、国際的な価格競争力が出てくる。
今、一俵(60kg)15000円前後(今年は急落で12000円前後)が10000円以下に落ちこむだろう。そうなると、中国米一俵10000円前後だから、十分、中国市場で価格競争力が出てきて輸出できるようになる。
③ ただ、それにより農業所得が下落した分は政府が当面補償する。
いくら輸出で数量があがっても、価格が急降下すれば全体の所得としては農家には打撃になる。そこで、これからも農家で頑張ろうという意欲のある専業、主業農家を中心に所得補償(直接払い)し、当面当該農家を支える。
④ 平成の農地改革」「平成検地」を実施する。
一方でさらに、ゾーニング規制の強化や税制の活用等で、兼業農家、特に一家の収入のたった数%が農業収入といったサラリーマン農家や、おじいちゃん、おばあちゃんだけで一代限り、後継ぎがいませんといった農家には、どんどん農地を手放してもらって専業、主業農家に土地を集約化して生産性をあげる。耕作放棄地は農薬や化学肥料が残留しておらず、きれいな土地で有機栽培に最適との声も。
⑤ さらに規制を緩和・撤廃して農業に新規参入を促進する。
株式会社の農地取得を可能にしたり、農業生産法人の要件(役員・出資制限等)を緩める。特に、重機を使える、また農家の次男坊、三男坊の就職が多い建設業は進出しやすい(05年に農地貸し出し規制が緩和されてから09年3月までに349社が新規参入、そのうち建設業が125社)。ちなみに、集落営農は1万3千、生産法人は1万1千と近年急増中。農業を産業にするには法人化が必要
⑥ そして「作ったものを売る」農業から「売れるものを作る」農業に転換
当然のことだが「マーケットオリエンティド(市場指向型)」「勘からデータ」の農業へ。どの企業も行っている市場ニーズに応じた企業戦略を遂行していく。販路も多角化する。今でも農協経由は生産量の半分程度(4兆3千億円)。
⑦ いざ食糧危機、輸出入ストップの時は輸出余力を国内に振り向け。
そうすれば、自給率40%が50%にも60%にもなるだろう。
以上のような戦略的な農業産業政策を実行していく。それが、みんなの党の政策だ。そうすれば、日本の農業も将来の成長産業に変身しうる。
TPPは、原則例外なく10年以内に関税をゼロにするのが目標だ。逆に言えば、10年の猶予期間があると考えれば良いだろう。以上述べたことを10年かけて、工程表を作って段階的に実現していくのだ。
民主党の「戸別所得補償制度」のように、貿易自由化も減反廃止もなく、専業も兼業も、大規模農家も零細農家も、選挙の票目当てに一律に税金をばらまいていては、いつまでたっても農業の足腰は強くならない。それは、ここ数十年の農業保護政策の結果、岩手県分の農地が失われ、埼玉県分の休耕地が放置されてきていることからも証明済みだろう。
さらに悪いことに、この戸別所得補償の導入で、全国各地で「農地の貸し剥がし現象」が起きているという。「補助金がもらえるなら自分で飼料米を作るから返してほしい」といった具合だ。この影響で集落営農の解散も出てきており、これでは農地の集約化や生産性の向上に逆行する事態が続出することになる。
TPP、貿易自由化反対派は、口を開けば「それでは農業は壊滅する」と叫ぶ。しかし、今のまま保護政策を続ければ農業の将来展望が開けていくのか。いや、逆に確実に日本の農家は壊滅していくことだろう。現に、ウルグアイラウンド対策費で、8年間6兆円の税金をばらまいても、コメに778%の関税をかけても、農業の競争力は衰えるばかりだった。少し数字をたどってみよう。
農業就業人口は1960年の1454万人をピークに減り続け、2008年には298万人(全就業人口の3%)と8割近くも減った。農家戸数も半分以上減って252万戸(うち主業農家【所得の50%以上が農業収入】35万戸)。農業従事者の65歳以上比率は6割以上に上る。
農地面積もピーク時の1961年、609万haから2008年には463万haに減った。すなわち岩手県分の農地が失われたのである。一方で耕作放棄地は増え続け39万haで埼玉県分にもなった。生産額は8兆4736億円(GDPの1.5%)、ピーク時の84年から3割減となっている。
そして、水田を営む農家1戸あたりの農業所得は40万円弱。ほとんど生業とは言えない惨状だ。うち補助金が20万円。OECDによると、日本の農業補助金は農家収入の49%で、EU(27%)、米国(10%)に比べて図抜けて高い。補助金漬けとも言ってよい状況だが、それでも日本の農業には先行きがないのだ。
91年に牛肉・オレンジの自由化がされた時も、関係農家は壊滅すると言われた。確かに肉牛農家は22万戸から7.4万戸に減ったが、1戸当たりの飼育頭数は12.7頭から38.9頭となり、規模の拡大で生産性は上がった。
ミカン農家も3~4割が廃園したが、単価が甘夏の2.5倍するデコポンは200倍45億円市場に発展している。また、イタリアが原産地のブラッドオレンジを導入した宇和島のミカン農家は、本家本元が日本への輸出をあきらめるほどの美味さでグングン生産を伸ばしている。価格はミカンの5~6倍、利益率は7割にも上るという。
韓国は数年前から、自ら「輸出立国」の道を選択し、農業保護策から輸出強化策への大転換を図っている。ここ3年間で輸出額は4割アップし、その総額は48億ドル。 2012年には100億ドルが目標だ。その代わり、04年から14年までの対策費はあわせて9.1兆円。これを日本に置き換えると40 兆円が必要と農水省は主張するが、韓国の対策費は保護関係コストだけではない。
今、政治には大胆な発想の転換が求められている。ゆめゆめ、農業保護に巨額な税金を費消し、貿易自由化も中途半端で、日本の農業もなくなった、という最悪の選択肢にならないようにしなければならない。
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