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2011.2.5 18:00 産経ニュース
愛知県知事選と名古屋市長選、市議会解散の賛否を問う住民投票のトリプル選が6日、投開票される。前名古屋市長が首長新党を立ち上げ、対立する議会に“解体”をたたき付けた形だが、自治体の長が今春の統一地方選に向け、新党を結成する動きは大阪や埼玉など全国に広がる。それに対して「首長の多数派工作だ」との批判も強い。首長が目指すのは議会改革か、独裁か。住民からの最初の答えが6日、出される。(桜井紀雄)
「古い仕組みぶちこわす」…名古屋、大阪でのろし
「今回の選挙は現代版桶狭間の戦い。庶民革命の継続か、職業議員によるなれ合い政治か、それが問われている」
前名古屋市長で首長新党「減税日本」代表の河村たかし氏は今回の選挙戦でこう訴えた。議会が解散されれば、減税日本の候補による過半数獲得を狙う。
「既存政党に満足していますか。愛知、名古屋から古い仕組みをぶちこわそう」。河村氏とタッグを組む前衆院議員の県知事候補、大村秀章氏の応援に自ら率いる首長新党「大阪維新の会」のメンバー約70人を引き連れ、駆け付けた橋下徹大阪府知事はこう気勢を挙げた。
河村氏が公約に掲げた市民税10%減税の恒久化を市議会に否決されたことが発端だった。対立する議会に河村氏は議会解散請求(リコール)運動を仕掛け、知事選にぶつけて自らも市長を辞職。トリプル選に打って出た。
それに「大阪都構想」を掲げて維新の会を結成し、構想に反対する大阪市議会“解体”を目指すという一連の動きの出発点となった橋下氏が援護射撃するという構図だ。
これに対し、民主・自民という二大政党は危機感を募らせる。民主党からは衆院議員を辞職した石田芳弘氏が市長選に出馬。それを自民党県連が支援するという異例の展開となった。
「民主主義は話し合いが大事。河村氏は議会に混乱をもたらした」。石田氏は河村氏の手法を痛烈に批判した。
国への反旗…きっかけは子ども手当
名古屋、大阪の動きを注視する一団がいる。埼玉県で1月、地域政党「埼玉改援隊」を結成した5市町長らだ。清水勇人・さいたま市長▽小島進・深谷市長▽高畑博・ふじみ野市長▽松本武洋・和光市長▽清水雅之・神川町長が参加。清水市長が代表を務め、財政の健全化や議会のスリム化など、共通政策である「共通八策」を発表した。
党名は坂本龍馬が幕末に結成した「海援隊」に、「共通八策」は龍馬が提言したとされる「船中八策」にちなんだ。桶狭間の戦いや明治維新にあやかった河村氏や橋下氏に影響を受けた部分がある。さらに県内の首長に参加を呼び掛けるとともに市町議選で政策に共鳴する候補を推薦していく。
「きっかけは子ども手当。直接現金を支給することが本当に市民のニーズに合うのか。保育所の待機児童がいる中、それだけあれば保育所の整備など、どれだけニーズに合った支援ができるかとの強い思いがあった」。代表の清水氏は産経新聞のインタビューに、結党に至る5市町長の共通認識として現政権のバラマキ政策に対する反発があったことを明かした。
さらには民主・自民という二大政党の利害が地方議会に持ち込まれることへの違和感があったという。「今の時代は国と地方の利害がぶつかる。そこに政局を持ち込まれると本当の議論ができない」
職場は東京で、行政サービスを受けるのは県内という「埼玉都民」と呼ばれるアンバランスな地域事情も共通の背景にあったという。東京でリストラされても結局、市町村の生活保護を受けることになり、地方の財政を圧迫する。
清水氏は「われわれはもっと地域分権への期待感があった」と民主党政権へのもどかしさを語り、「権限・財源がいちばん住民のニーズを把握しやすい基礎自治体にもっと移譲されるべき。権限・財源がなさすぎて何をやるにも国にお伺いを立てなければいけない」といらだちを示した。
地方議員は「ビジョンなく、感情論」? 「賛同者で議会を支配」と猛反発
《地方議員にも求められるのは、まちづくりのビジョン》
《首長と議員が市(町)全体のために国の政党の枠組みを越え、感情論を排し合理性のある政策論争を行う》
「共通八策」にはこう記されている。議員にビジョンなく、感情論のため合理的な論争ができなかった裏返しに聞こえる。
「旧態依然とした中、政策的な基本理念が一致した議論が今までみられなかった」(高畑ふじみ野市長)「スタンスを明確にし、政策を議論する場にしたい」(松本和光市長)と改援隊設立の記者会見で、市長らは、進まない地方分権に加え、一向に議論がかみ合わない議会を批判した。市長らは政策案を否決された経験を持つ。
さいたま市では、敬老祝い金の支給年齢を75歳以上から88歳以上に引き上げる条例改正案が否決された。
「(高齢の子供や配偶者が世話する)老老介護による殺人が3件起きた。現金支給より支援の充実など、より効率的な使い方があると考えたが、議会は支給額を減らす方には向きにくい。選挙が近いこともあっただろうが、理解を得られなかった」
こう指摘した清水氏はさらに次のように強調する。「昔は首長が議員の要望を少しずつ聞いて議案を通していたが、財政が右肩下がりの中、まんべんなくはできない。議員が特定の団体や地域を背負った議論をすると、財政は破綻(はたん)する」
改援隊の動きは早速、議会から猛反発を受けた。1日に開会したさいたま市定例議会では「市長は議会と首長の二元代表制を正しく理解していないふしがあり、真意を正さないと」との意見が出され審議が空転。「自身のマニフェストの賛同者で議会を支配しようというのか」「イエスマン以外を排除し、議会のチェック機能を弱めるのが狙いか」と批判を浴びた。
清水氏は「二元代表制をより機能させることが目的。首長と議会があまりに方向性が違うと全く機能しなくなる」と反論するが、改援隊で過半数の議席を目指すとしていた発言の撤回を余儀なくされた。実際に選挙でどれだけ賛同者が得られるか、見通しは立たない。
クーデターか、民主主義の王道か?
「大阪市営地下鉄は東京の地下鉄と違って全然、広がりがない。わけの分からないところに終点だらけだ。市議が『地元に線路を引け引け』といった結果。まあ一度、見てください。大阪の地下鉄のデタラメさを。こんなことしていたら大阪全体の発展なんてない」
橋下氏は1月下旬、東京都内で記者会見し、こう大阪市と市議会への批判を展開した。自身が掲げる「大阪都構想」が批判されていることに対し、東京のメディアの理解を得るために東京に乗り込んでの会見だ。
「大阪市議は日本一報酬が高い。一番おいしい仕事。これをなくしたくないから(大阪都構想に)反対する」
橋下氏はさらに地方議員への批判を繰り返した。「地方議員は予算編成の責任がないから、財源も考えずに要望しか言わない。二元代表制でチェックできるなら日本の自治体はこんな財政破綻になっていない」
大阪都構想とは、東京23区のように大阪府域を区部に再編し、選挙で選ぶ区長を置く構想だ。大阪市の解体につながることから「地方分権に逆行する」と平松邦夫市長や市議会から大反発を受け、議論は平行線のままだ。
そこで、構想実現のために取ろうとしているのが、自ら結成した維新の会で市議会の過半数を得るという手法だ。自身が今秋の市長選に立候補し、共闘する府知事候補とともに府と市両方を掌握するという戦術についても取り沙汰されている。まさに河村氏と同様の荒業だ。
橋下氏は「真偽はそのときにならないと表に出せない」と市長選出馬については明言を避けながらもこう語気を強めた。「できるなら話し合いでやっている。大阪都構想は国づくりの話。国が国ならクーデター、バズーカや戦車を持ってやるようなこと。それを選挙で多数決をとって決めるのだから、僕はこれが民主主義の王道だと思う」
元改革派首長は「危うさ感じる」「歴史的必然」
地域独自の新党を結成する動きは愛知や大阪、埼玉にとどまらない。愛媛県松山市議会では、市長支持の新会派「松山維新の会」が発足。岩手県議会や京都市議会では、既成政党と距離を置く「地域政党いわて」や「京都党」が立ち上がるなど、全国に広がる。
改革派知事として知られた元宮城県知事の浅野史郎氏は「多くの地方議会で議会としての役割を果たしていない現状に刺激を与えるには面白い動きだ」と指摘。「地方分権が進めば、国の関与を受けずに地方が決めることが広がり、地方議会の役割が大きくなる。そのとき、今の体たらくでいいのかという議論はその通りだ」と語る。
ただ、多くの新党が議員の報酬カットや定員削減を掲げていることには疑問を呈する。「報酬もらいすぎ、定員多すぎが問題ではなく、それだけの定員、報酬がありながら、やるべきことをやっていないのが問題。議会は単なるチェック機関ではなく、政策をめぐって提案し合うライバル関係になければならない」
半面、首長が新党を結成し、過半数を目指す動きには「危うさを感じる」とも。「議会は議会としての持ち味があり、多様性を持つ。それが、首長新党が多数を占めると、チェック・アンド・バランスの本来の目的がなし崩しになるのではないか」
一方、同じく改革派知事で知られた元三重県知事で早稲田大学大学院教授の北川正恭氏は「荒っぽいから欠点はあるが、迫力はある」と一定の評価を下す。
議会のリコールに動いた河村氏の手法については「禁じ手だ」としながらも市民の支持があった点は「議会は本質的な改革を迫られている」と指摘する。
「いろいろと賛否はあるが、行政の流れと並行して政党の分権化が始まるのは歴史的必然だ」とも話し、こう続けた。「議会だけではなく、首長や執行部も変わらなければいけない。今まで首長は主権者を忘れて議会と談合してやってきたが、生活者の視点から変化を求められている。エジプトやチュニジアで起きたのと同じことが始まっている」
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