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エジプト
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B8%E3%83%97%E3%83%88
蜂起するエジプトの民衆!
2011.02.07(Mon)The Economist (英エコノミスト誌 2011年2月5日号)
西側諸国はエジプトでの激変を恐れるのではなく、祝福すべきだ。
独裁政治への恐怖から、幸福なひと時を経て、無秩序への恐怖へ――。過去10日間でエジプトは弧を描くような心情の変化を経験してきた。1月25日に数千人規模で始まった抗議行動は、2月1日に劇的な最高潮に達した。
この日、数十万人がカイロのタハリール広場に結集してホスニ・ムバラク大統領の退陣を要求。その後、大統領支持派がデモ参加者を攻撃したことで、事態は暴動へと悪化した。
だが、週半ばのひどい光景にもかかわらず、エジプトにおける事態の展開は歓迎されるべきである。弾圧されてきた地域が自由の味を覚えつつあるのだ。中東では、奇跡のようなこの数週間の間に、独裁者が1人失墜し、そしてもう1人、アラブ最強の国家を30年間支配してきた人物が倒れかけている。
3億5000万人を擁するアラブ世界は期待に活気づき、高齢の独裁者たちの立場はにわかに危うく見えてきた。これらの目覚ましい出来事は、いかなる人民も永遠に隷属させることはできないという普遍的真理を思い出させてくれる。
中東と接する際に概して民主主義より安定を優先させてきた西側諸国では、一部の人が今回の展開に不安を抱いている。抗議運動によってムバラク体制の力が失われた今、その空白を満たすのは、民主主義者ではなく、混沌と闘争か、あるいは反西洋、反イスラエルを標榜するムスリム同胞団になるだろう、と彼らは言う。
そして、米国はムバラク大統領や同様の独裁者を支えることによって、長期にわたる「管理された移行」を保証する取り組みを強化すべきだと結論づける。
ロゼッタ革命
しかし、そうした主張は間違っている。ムバラク大統領に対する民衆の拒絶は、中東の改革に向けてこの数十年間で最良の機会をもたらすものだ。もし西側諸国が、自らの運命を決することを求めて行動するエジプト国民を支持できないとしたら、他国での民主主義や人権を求める西側の議論は意味を失う。
変化はある程度のリスクをもたらす。これほど長期に及ぶ政権の後なら当然だ。だが、変化を選ばなかった場合に訪れる容赦ない停滞に比べれば、リスクは小さい。
革命は必ずしも、1789年のフランス革命や、1917年のロシア革命、1979年のイラン革命のようである必要はない。中東に吹き荒れる抗議運動はむしろ、20世紀末に世界地図を塗り替えた「カラー革命」との共通点の方が多い。
この運動は平和的で(政府の暴漢たちが現れるまではそうだった)、民衆的で(裏で操るロベスピエールやトロツキーはいない)、非宗教的だ(イスラム教が頭をもたげることはほとんどなかった)。エジプトの動乱は、市民のパワーが原動力となり、東欧革命と同じくらい良性の変革につながる可能性がある。
悲観論者らは、エジプトには円滑な移行を保証する制度も政治的リーダーシップもないことを指摘する。だが、もしそういうものがあったなら、そもそも民衆が街頭に繰り出すことはなかった。
ムバラク体制の残骸の中から、ただちに完全な形の民主政治が出現してくることはない。混乱状態はしばらく続く可能性が高いと思われる。
しかし、エジプトは、貧しいとはいえ、見識のあるエリートと、教育を受けた中間層を擁し、国の誇りを強く抱いている。これらは、エジプト人がこの混沌から秩序を引き出し得ると信じる十分な根拠となる。
ムスリム同胞団への懸念は、いずれにしろ誇張されている。この組織が、今やウサマ・ビンラディンのナンバー2であり最高位の理論的指導者となったアイマン・アル・ザワヒリを生み出したことは事実だ。
また、1950年代から1960年代にかけて同胞団の主導的な思想家だったサイイド・クトゥブの著作は確かに不寛容で、西側諸国を敵視している。エジプト新政府がどんな形になるにせよ、恐らくイスラエルへの姿勢を硬化させ、ハマス寄りになるだろうし、ムスリム同胞団が政権に関与した場合は特にその傾向が強まるはずだ。
ムスリム同胞団から分かれたイスラム原理主義者の一派で、エジプトとイスラエルの間にあるガザ地区を支配しているハマスは、理論上、イスラエルの存在を否定している。
だが、ムスリム同胞団は様々な派閥の集まりであり、以前より柔軟さを増している。エジプトが1979年にイスラエルと交わした平和条約を破棄せよと主張する向きもあるが、新たな戦争のリスクを冒すことは恐らくないだろう。
さらに、ムスリム同胞団が選挙で勝つ見込みも低い。彼らはその信仰心と規律と粘り強さで評価されているが、支持率は20%前後と推定され、低下傾向にある。仮にムスリム同胞団の支持率がもっと高く、選挙で最大勢力になったとしたら、その地位を決して手放さないのではないかと懸念する向きもある。
だが、トルコやマレーシア、インドネシアのように、民主主義が定着していている国でも、イスラム主義者は選挙に加わっている。
エジプトで民主主義が花開くには、ムスリム同胞団が選挙で競うことが許容されなくてはならない。そして、これまでの数週間で得られた教訓は、民主主義に代わる選択肢に未来はないということだ。
ここ数年間、制度を刷新できず、若者の仕事も見つけられなかったエジプトは、次第に抑圧的になっていった。8500万の人々を、堕落した残忍な警察、批判への弾圧、政治犯への拷問といった重荷を負わされたまま独裁政権下に放置するのは、道徳的に間違っているだけでなく、次の蜂起につながる導火線に火をつけることにもなる。
新たな独裁者を据え、その人物が非宗教的な民主主義に向けた条件を整えるのを待ちたいと考える向きもあるだろう。だが、中東の悲しい状況が示すように、独裁者が自身の退任を計画することはほとんどない。
バラクとムバラク!
短期的に困難が立ちはだかるだろうことは疑いようがないが、それでも、混乱した民主主義でさえ、やがて豊かな成果をもたらす可能性がある。そして、それはエジプト人にとってだけの話ではない。
民主的なエジプトは、再び中東の道しるべとなり得る。アラブの民主主義にイスラム教をどう取り入れるべきかという難問への答えを出す一助になるかもしれない。
そして、イスラエルが国境付近の脅威を恐れるのは理解できるとはいえ、民衆を代弁するエジプト政府はいつの日かイスラエルとパレスチナ人との和解に、権威主義者による「冷たい平和」がなし得るよりも大きな貢献をするかもしれない。
西側諸国は、エジプトがこの成果を勝ち取れるよう支援することができる。民主主義よりも安定を求めたことで西側はイメージを損なったが、今こそ、それを償える。特に米国は、今もなおエジプトの政界、財界、軍部エリート層への影響力を維持している。その影響力を利用すれば、独裁政治から混乱期を経て新体制へと至る移行を加速させる手助けをし、中東での米国の立場を改善できるだろう。
西側の人間はエジプトの動乱に神経質になっているかもしれないが、エジプト人が自由と自己決定を要求する時、彼らは西側が依拠する価値観を認めているのだ。エジプトの革命が最良の結末になるという保証は全くない。唯一確かなのは、独裁政治は動乱を招くものであり、安定を保証する最良のものは民主主義であるということだ。
© 2010 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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