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中国は世界をどう見ているか!

2011.01.19(Wed)JBプレス 加藤嘉一

21世紀の最初の10年が終わりを告げた。中国国内では「新世紀最初十年」というテーマで、政府機関、シンクタンク、大学など様々な場で、総括会議が開催されている。

岐路に立つ中国


メディアでは、中国で最も権威のある週刊誌の1つで、広州を拠点とする《新週刊(NEW WEEKLY)》が各社を代表して特集を組んだ。

 国際関係、経済、社会、政治、文化、メディア、文字、インターネット、エンターテインメントなど、各分野において有識者を1人選出し、政府と民間をつなぐ「パブリックリポート」を、大衆向けに出版した。

 光栄にも、筆者は、「矛盾する時代、岐路に立つ中国」というタイトルで、第1章の国際関係を担当させてもらった。

 政治体制、人権、法治化、自由化、民主化など、中国が解決しなければならない問題が山積みであることに疑いはない。胡錦濤国家主席を中心に、政策決定者・立案者たちは自国の問題点を明確に自覚している。

 筆者は、官民が一体となり、トップダウン・ボトムアップの双方向で、「21世紀最初の10年」を徹底検証した、という中国世論のダイナミズムを評価している。そのプロセスに食い込ませていただいている現状から学ばされることも多い。

共産党成立90年、辛亥革命100周年!

 2011年は中国にとって、「共産党成立90周年」「辛亥革命100周年」「第12次5カ年計画初年」などシンボリックな様相を呈するが、官民問わず、各界の有識者たちが民衆を巻き込んだ形で、徹底的に議論していくことだろう。

 漠然と中国をべた褒めすることが筆者の活動意義でないことは百も承知のうえで主張したい。日本が末永く、上手に付き合っていかなければならないお隣の国では、政策議論が365日・24時間行われている。

 台頭する巨人を前に、私たち日本人は健全な危機感を持つべきだ。「俺たちは民主主義をエンジョイしている。自由も人権もあるんだ!」など、自己満足に陥っている暇はない。

 日本人は「21世紀最初の10年」を総括しただろうか。「失われた20年」の徹底検証プロセスに民衆をコミットメントさせるプラットフォームを創造しただろうか。

中国との関係においては、昨年、尖閣諸島沖で中国漁船衝突事件が起きた。メディアは「日本外交の敗北」だと政府の責任を追及した。5年ぶりに中国各地で起きた反日デモの現場を、「特オチしまい」と反復的に報道した。

先進国を猛追する中国、優越感に甘える日本!

しかし、「チャイナリスク」や「チャイナマーケットにおけるジャパンリスク」など、日本人の豊かさや成長に直接関わる問題を、官民一体で徹底検証しただろうか。

 中国から日本を眺めていて常日頃思うことがある。日本の政治家には、党内外含め、反対勢力のスキャンダルや過失を責め立てることに労力のほとんどを使っている余裕はない。

 日本のメディアには、批判のための批判を繰り返し繰り返し展開している余裕はない。日本の国民には体制や社会構造の成熟度からくる優越感をもって「中国は嫌いだ」などとこぼしている余裕はない。

 中国・中国人は前をまっすぐに見て、先進国を猛追している。筆者の知る限り、米国、欧州、韓国シンガポールインドブラジルロシアなどは、官民一体で有識者を定期的に中国に派遣し、「中国の改革開放から、発展のための知恵を学ぼう」と気合を入れている。

 「バブルの経験を教えてあげよう」などと、上から目線でしか中国を認識できないのは、少なくとも先進国と言われる国家の間では、筆者の知る限り、日本人だけである。

中国人の世界観とは?

 少し感情的になってしまったが、「中国の発展という外圧を上手く利用し、日本の新時代改革を促そう」という筆者の問題意識は変わらない。祖国を愛するからこそ、他国よりも自国をクリティカルに論じざるを得ないことを、諸先輩方にご理解いただければ幸いである。

 本稿では、「中国人の世界観」を中国国内で数少ない世論調査の結果を公開する形で、皆さんとともに考察していきたい。

 以前、本コラムでも「中国人は北朝鮮をどう見ているか」というテーマで紹介させていただいた。今回も党機関紙《人民日報》の傘下にある国際情報誌で、部数が200万を超える《環球時報―Global Times》の「輿論情勢調査センター」のデータを引用する。

 同センターは、2010年12月10~25日、北京、上海、広州、武漢、重慶などの18歳以上の一般市民を対象に電話取材をした。回収された見本は1488部だった。

 以下、調査結果を羅列し、最後に簡単にコメントしたい。

 

(1)中国にとって最も影響力のある両国関係は?

●中米関係―76.8%
●中日関係―29.2%
●中ロ関係―20.5%
●中EU関係―7.3%
●中朝関係―5.9%
●中韓関係―3.7%
●中アフリカ関係―1.7%
●その他―0.5%
●何とも言えない―3.1%

(2)周辺国家との関係で最も重要な外交関係は?

●中ロ関係―49.0%
●中日関係―36.9%
●中国と朝鮮半島との関係―21.3%
●中印関係―14.2%
●中国と東南アジアとの関係―10.6%
●中国と中央アジアとの関係―4.7%
中国パキスタンとの関係―4.2%
中国モンゴルとの関係―3.1%
●何とも言えない―3.6%

(3)昨今の中米関係で最大の問題は?

米国の対中国封じ込め戦略―36.4%
台湾問題―35.5%
人民元切り上げ問題―27.4%
●経済摩擦―23.1%
●イデオロギーギャップ―16.1%
気候変動―7.6%
●その他―1.0%
●何とも言えない―1.8%

(4)2011年、中日関係はどのように発展していくか?

●基本的に現状維持―52.8%
●悪化する可能性大―19.3%
●若干改善する―18.7%
●何とも言えない―5.0%
●大きく改善する―4.2%

(5)ブラジルロシアインド中国(BRICs)の中でどの国の発展規模・速度が最もポテンシャルに富んでいるか?

中国―56.7%
インド―17.3%
ロシア―15.2%
ブラジル―6.5%
●何とも言えない―4.3%

6)ロシア北大西洋条約機構NATO)に加盟することを懸念するか?

●懸念しない―37.9%
●どうでもいい―30.6%
●少し懸念する―16.9%
●懸念する―5.9%
●何とも言えない―5.4%
●とても懸念する―3.3%

(7)過去1年、中国とヨーロッパの関係は全体的にどう変化したか?

●良好に発展した―34.6%
●「中国脅威論」の影響を受けた欧州内部における対中観は分化する傾向にある―19.7%
●経済摩擦が増えた―19.3%
気候変動問題を利用して中国を牽制している―18.8%
●欧州各国の中国台頭を懸念するマインドが明白になっている―15.6%
●人権・宗教問題を利用して中国に圧力をかけている―15.3%
●変化なし―1.2%
●その他―0.1%
●何とも言えない―8.4%

(8)過去1年、中韓関係にどのような変化があったか?

●特に変化なし―49.0%
●悪化した―28.4%
●改善した―18.6%
●何とも言えない―3.9%

(9)2011年、朝鮮半島の情勢はどのように変化していくか?

●中国の積極的リードの下、6カ国協議が再開され情勢緩和する―46.5%
●外部勢力の干渉により、情勢は悪化する―34.3%
●深刻な軍事衝突が起こる―11.3%
●分からない、何とも言えない―7.9%

(10)アフリカのどの分野に最も関心があるか?

●経済的困難と戦乱―37.4%
●豊富な資源―36.8%
中国・アフリカ間の伝統的友好関係―32.6%
●自然景観―19.2%
●その他―0.1%
●関心がない―4.1%

11)中国と東南アジア諸国の関係で最も大きな問題は何か?

●米国の悪意に満ちた挑発―44.5%
●南シナ海の領土問題―42.3%
●経済・貿易の競争構造―19.5%
●貿易摩擦―15.6%
●諸国の「中国脅威論」への懸念―15.1%
●その他―0.2%
●分からない、何とも言えない―6.1%

(12)中国は世界の強国だと言えるか?

●まだ強国とは言えない―52.8%
●強国ではない―34.1%
●強国だ―12.4%
●分からない―0.7%

(13)中国はどの分野で世界の強国の仲間入りをしたか?

●経済力―47.0%
●政治・外交力―42.1%
●文化的影響力―32.9%
●軍事力―29.9%
●その他―0.1%
●どれも仲間入りしていない―12.2%
●分からない、何とも言えない―1.8%

(14)どの現象が最も中国の国家イメージを損なっているか?

●一部の役人による汚職・腐敗―63.1%
●商品の悪質さとニセモノの蔓延―39.0%
●環境汚染―31.9%
●国民の非文明的な振る舞い―25.1%
●悪性の生産安全事故―9.7%
●その他―0.3%
●分からない、何とも言えない―1.6%

(15)2010年、中国の国家地位を向上させた最大の要因は何か?

●上海が万博を主催したこと―51.7%
●世界経済が不安定な中で、中国経済は安定成長し、国内総生産GDP)で世界第2位になったこと―34.1%
中国国民の大地震救済過程における団結力―28.5%
●広州がアジア大会を主催したこと―18.5%
●重大な外交行事における重要な行動―15.7%
●中国の発展モデルが多くの国家に注目されていること―11.4%
アモイ中国国内初となる全長8.695キロの海底遂道が開通したこと―4.7%
●バンクーバー冬季五輪における中国選手の傑出した成績―4.5%
●その他―0.5%
●分からない、何とも言えない―2.2%

(16)メイド・イン・チャイナにどのような印象を持っているか?

●まずまずだが、質には改善の余地がある―69.8%
●まだまだ質が悪い、改善しないと話にならない―17.9%
●とてもいい―7.9%
●何とも言えない―2.6%
●悪すぎる、使わない―1.9%
●その他―0.3%

(17)西側諸国は中国の発展を封じ込めようとしていると思うか?

●明らかに封じ込めようとしている―41.4%
●意図はあるが、あからさまな封じ込め行為は見られない―40.2%
●口からの出まかせに過ぎない―8.3%
●中国人が勝手にそう思っているだけ―5.9%
●その他―0.2%
●何とも言えない―4.0%

(18)「中国脅威論」にどのように対応すべきか?

●叱責の内容に従って、それぞれ個別に対処・批評すべき―40.4%
●真摯に受け止めるべき―20.6%
●何のためらいも無く反撃すべき―18.6%
●相手にしなくていい―17.0%
●何とも言えない―3.4%

(19)中国の発展に伴い、国を取り巻く国際環境はどう変化していくか?

●全体的に改善はするが、摩擦も増えるだろう―57.2%
●良くなっていくだろう―26.9%
●大きな変化は無いだろう―11.4%
●悪くなっていくだろう―3.5%
●何とも言えない―1.1%

(20)最も好きな国家はどこか?

中国―60.1%
米国―7.5%
フランス―3.7%
オーストラリア―3.3%
スイス―2.3%
●カナダ―2.0%
英国―1.6%
●日本―1.5%
シンガポール―1.5%
韓国―1.4%
ドイツ―1.2%
●ニュージーランド―0.7%
スウェーデン―0.7%
イタリア―0.5%
ロシア―0.4%
●デンマーク―0.4%
オーストリア―0.3%
●フィンランド―0.3%
●オランダ―0.3%
●モルジブ―0.3%
スペイン―0.3%
北朝鮮―0.2%

(21)出国の機会があったら、どの国に行きたいか?

中国に留まりたい―21.2%
米国―19.0%
フランス―10.5%
オーストラリア―8.0%
●カナダ―4.3%
英国―4.3%
●日本―3.8%
スイス―3.8%
シンガポール―3.5%
韓国―3.3%
ドイツ―2.2%
イタリア―1.4%
●ニュージーランド―1.3%
エジプト―1.3%
スウェーデン―1.3%
●モルジブ―1.2%
●ギリシャ―0.9%
ロシア―0.9%
●マレーシア―0.7%
●タイ―0.7%
●デンマーク―0.5%
●ノルウェー―0.5%
オーストリア―0.4%
●オランダ―0.4%
北朝鮮―0.4%

2010年で最も印象的な事件は、尖閣諸島!


なお、「2010年、最も印象に残った国際ニュースは何ですか?」という質問に対し、「尖閣諸島沖で起きた漁船衝突事件により、日中関係が低迷したこと」が60.2%でランキングトップであった。

 2番目は「米国が人民元切り上げを迫る一方で、節約なしにドルを刷っていること」で56.2%、3番目が「米日韓が西太平洋で大規模な軍事演習を実施したこと」で49.8%であった。

 「中国人は世界をどう見ているか」調査は2006~2010年まで5年連続で追跡的に行われた。本稿では字数の関係もあり、2010年のデータを公表するのみにとどめた。

 過去5年間における数字の変遷は実に面白い、様々なインプリケーションを与えてくれる。具体的なデータの公表はまたの機会に譲りたいが、ここで3点だけ総括したい。

 1つに、中国人が祖国の発展を明確に自覚し、自信を持って将来に臨もうとしていること。2つに、中国人の盲目的で根拠のない自信は2008年くらいをピークに薄れつつあり、大国の台頭には繊細さと謙虚さが必要なんだと認識し始めたこと。

 3つ目に、中国人は日本との関係を依然として重要だと認識しているが、一方で、とても付き合いにくい相手で、何がしたいのか分からない、という不信感をより一層強めていることである。

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