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3. ネットを基盤とする戦闘(Network Centric Warfare)の始まり
(1) ネット化がもたらす革命-戦場認識の共有
米国は湾岸戦争において、初めていわゆるインターネットを作戦に利用した。
すなわち、作戦に参加する100人以上のパイロットに対し何日何時何分、どこの基地から発進してどの地点で空中給油を受け、どの地点で空中哨戒して時間調整を行い、何分にどの位置に遷移・集合したのち、どの目標に対してどの手段で攻撃を実施し、どこを経由してどの基地に帰投するかという命令を含んだ航空任務指令(Air Tasking Order)を、インターネットを介して瞬時に同時多数に与えることに成功した。
イラクに応戦の暇を与えず、至短時間に強大な打撃力をイラク防空組織に対して与えるとともに、こうした大規模な航空攻撃を数十回繰り返して所期の目的を達成した。
しかしながら当時のインターネットはまだ不完全で、米海軍にはフロッピーの形で手渡されたという。
しかしこれがまさしく Network Centric Warfare の走りであったことは間違いのないところであり、また、米空軍と米海軍が統一された指揮・命令機構で統合的に運用されたという事実も、その後の「統合運用の必要性」という方向性を明確に示唆する出来事であった。
インターネットの有効性に着目した米軍は、アフガニスタンにおける国際テロ掃討戦において、統合参謀本部議長から前線の指揮官等に至るまでの司令官たちが参加するネットを構築し、必要の都度、ネットによる作戦会議を実施した。
前線の指揮官たちは、衛星から得た偵察結果もしくは爆撃成果(Bomb Damage Assessment)を示す画像や映像、敵情に関する諸々の動向と情報、目標などに関する必要なデータを携帯パソコンで送受信し、これらを基に双方向形式で各級指揮官がリアルタイムで議論を繰り返し、作戦構想を共有しつつ航空攻撃を実施していった。
もちろんこのネット型作戦会議では各級指揮官が一堂に会する必要はなく、移動の時間を節約することができたことは言うまでもない。
そしてまた前線部隊の指揮官たちは、パソコンによって現下に行われている部下隊員の行動を掌握するとともに、戦闘全般状況を逐一掌握し、上級司令部の意図を確認しつつ、自らの部隊が今なにをしなければならないかを構想しながら作戦を展開することができた。
そして、これら一連の変革の中で、後述するような「Battle Management System(戦闘管理システム)」が工夫され、その前に座る米空軍の少佐クラスが、実質の戦闘管理を実施することとなった。
さらにネットを基盤とする戦闘(Network Centric Warfare)では、各級指揮官が作戦会議のために同一場所に集合する時間を省くことができた。
しかも戦場認識(Situational Awareness)を完全に一致させて戦闘を実行していくので、作戦遂行の6段階、すなわち状況判断・決心・計画・命令・実行・戦果と教訓などの確認、そして再び状況判断というルーティンを、従来の方式に比較して革命的に迅速化することができたし、指揮結節を局限することができた。
また、ITによる情報伝達の迅速性も加味されたこともあり、結果として作戦速度(Operational Tempo)を革命的に迅速化することができたのであった。
(2)ネット化がもたらす革命-戦闘の4段階(Kill Chain)の統合運用
戦闘は目標の発見、目標の識別・指定、邀撃(ようげき)、撃破の4段階で構成されることはいつの時代においても変わらないが、これまでは発見手段としてのセンサーの分離は見られたものの、目標指定と要撃、撃破の段階は、各プラットフォームがすべてその役割を担っていた。
これは技術的限界に起因するものであったが、人類5000年の歴史の中でいち早くこの戦闘サイクルから分離していったのは偵察や監視機能であり、いまやその機能は宇宙空間にまで広がりを見せている。
しかしその他の機能は分離不可能なものとして、また分離しても統合できないという技術的限界を抱えたまま、人類は21世紀を迎えた。
従って陸・海・空軍は目標の発見機能を除き、識別・指定、邀撃、撃破の段階を自己完結的に担い、他の軍種にその一部を委ねることはなかったのである。
ところがネット化がもたらした今般の革命により、発見、識別・指定、邀撃、撃破そして爆撃成果の確認といった、米軍の言う Kill Chain(F2T2EA = Find、Fix、Track、Targeting、Engage、Assess)の6段階、我が国では「戦闘の4段階」をネットで結合することにより、軍種にかかわらず、統合的に1つの戦闘を実行することができるようになった。
この変化はまさしく革命的であった。17世紀にスウェーデンのグスタフ・アドルフ王が発案したとされる、いわゆる「三兵戦術」――歩兵・騎兵・砲兵による組織戦闘は、実に20世紀まで「諸兵科連合作戦」としてその本質が踏襲されてきた。
21世紀のRMAは、これを「諸軍種連合作戦」すなわち「統合運用」といった作戦形態に昇華することとなったのである。ここに言う「統合」とは、決してJointではなく、Integrationなのである。
(3)ネットがもたらす革命―戦闘管理のコンピューター化
当面の任務遂行に最も有利な位置と状況にあるパイロットや部隊を、軍種に関係なく選択して Kill Chain を構成し、命令することができるのであれば、作戦は極めて迅速に遂行することができ、複数の戦闘を同時に作為することができる。
ここに統合運用が極めて有利であるという別の要因が存在する。こうした役割を担当するのはもはや高級指揮官ではなく、戦闘管理(バトルマネジメント)システムコンピューター(TBMCSと呼称)の前に座る中佐・少佐であり、高級指揮官はこれをモニターして全般掌握に専念することとなった。
こうした戦闘の結果、作戦テンポはさらに革命的に迅速化され、重畳的な戦闘の実施(パラレルウォー)が可能となった。
このような戦闘の一例をアフガニスタン戦争に見れば、レーザーデジグネーターを所持する米海兵隊特殊作戦部隊隊員は、何日何時、どの位置に占位し、携行しているレーザーデジグネーターをどの目標に向かって何秒間照射せよというATO(航空任務命令)を受ける。
AC-130のパイロットには同じく、何日何時、どの位置に飛翔し、コード化されたレーザーの反射光がミサイルを起動したら直ちにそのミサイルを発射せよというATOが与えられる。
この2人には何の申し合わせもないが、中央軍司令部の戦闘管理システムの前に位置する少佐が企画した Kill Chain に従って、ネットがその連携を支援し統合化して Kill Chain を完成し、ミサイルは命令通りに目標を撃破して大戦果を挙げた。
さらに個人携帯パソコンでこの成果を知らされた海兵隊陸戦部隊は、受領した命令の通り洞穴に向かって突撃を敢行し、残余のアルカイダの戦闘員を撃破したということなのである。
このようにネット化されたコンピューターがもたらしたIT革命の成果により、21世紀の戦闘は、陸・海・空軍の区別なく、最も効率よく目的を達成できるセンサー、デジグネーター、シューターといった手段が選定され、戦闘管理システムにより組み立てられ、Kill Chain が完成され、有効な戦闘を実施するという時代に入ったわけである。
ここに「なぜに統合なのか」という疑問に対する回答が含まれており、“統合運用による戦闘効率の革命的な向上”という新たな戦闘のあり方が示されているのである。
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