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21世紀の軍事革命と社会への影響

2011.03.02(Wed) JBプレス 岡本智博
 
はじめに
現在、RMA(Revolution in military affairs)―いわゆる軍事革命―が欧米社会を中心に吹き荒れている。
 1991年、米国が主導し多国籍軍で戦われた湾岸戦争は、RMAの萌芽を世界各国に知らしめたが、爾来20年、21世紀に突入した現在、RMAの嵐はいよいよその高潮期に入っていると言っても過言ではない。
 そしてまた、RMAの主体がコンピューターやインターネットであるがゆえに、サイバー戦という新たな形態の戦闘も考慮しなければならなくなっている。
 この間、我が国の防衛および安全保障に関わる分野においては、国際貢献のあり方やその法制の整備・実行と教訓に基づく法制・体制・態勢の見直し、国民保護法を含む有事関連法の制定、あるいは海賊対処法の制定などに力を割いてきた。
 さらには防衛庁の省への昇格、統合幕僚監部の発足など、新たな枠組みの構築に努力を傾注することとなった。
 特に軍事技術分野では、日本の得意とするITの応用とこれを利用する新しい戦術の開発については世界に遥かな後れを取ってしまった。
 その結果、我が国はRMAに十分対応できる状況ではなかった。
 こうした状況をさらに悪化させたのは、我が国の政界における大変革であり、その余韻は2010年を過ぎた現在にあってもいまだに続いている。
 本来、自由と民主主義を標榜しつつ社会の成熟段階に入っている我が国においては、国家防衛や安全保障にかかる政策について与野党間に基本的な相違が存在することはあってはならないはずなのである。
 しかし、我が国は、第2次世界大戦における敗戦の影響・後遺症が65年以上も経過しているのに払拭されないでいる。
 本稿はこうした前提を踏まえ、現在進行中の「軍事革命」の実態について述べるとともに、それが及ぼす社会への影響について論を進めることとする。
 
1.ことの始まり―ウォーデン中佐(当時)のひらめき
 21世紀初頭の軍事革命の始まりは、湾岸戦争の作戦計画を担当した米空軍ジョン・ウォーデン中佐(当時)の閃(ひらめ)きにあった。
 彼はGPS(Global Positioning System)が正確に目的地を評定できることに着目した。
 GPS受信機を爆弾に取り付けて、誘導フィンに目標と爆弾の位置情報の変化分を与えて誤差情報がゼロになるように爆弾を誘導すれば、これまでのように爆弾を搭載するプラットフォーム(兵員・戦車・艦船・戦闘機など)が爆弾を目標近辺にまで運ぶ必要がなくなる。
 そうすればパイロットが地上からの砲火を怖がって爆弾が目標に誘導される前に回避行動に入り、結果的に命中率を悪くしている現状を打開することができるのではないかと考えた。
 彼の閃きは直ちに技術的検討課題として取り上げられ、爆弾を精密に誘導する技術が確立され、これが革命的変化のスタートとなった。
 GPSを取り付けた爆弾は、今ではJDAM(Joint Direct Attack Munitions)と呼ばれている。JDAMを搭載したプラットフォームは、目標には接近せずに高度を1万メートル程度までに上げてから爆弾を投下する必要がある。
 こうしてJDAMに位置エネルギーを与え、落下中にGPSからの誘導信号を与えて目標に誘導する。この場合、プラットフォームが敵の攻撃を考慮することなく、安心して所定の位置に移動できるように味方の航空優勢が保たれている必要がある。
 この条件を確保することができれば、JDAMはGPSによって固定目標に対して3~13メートルの命中誤差で誘導される。さらに命中率を向上させるためには、GPS網の肌理の細かさを高める必要がある。
 米国はそのため2005年頃から5年計画でGPS衛星を増加・更新し、現在はこれを完了してさらに性能の向上したGPS衛星を打ち上げている。
 この間、命中率は40倍も向上し、もちろん爆弾そのものもJDAMからレーザー誘導を組み合わせた爆弾への開発を果たしての命中率の向上という側面を含んでいるのであるが、現在誤差は数センチ~1メートル程度になっている。
 アフガニスタン戦争当時はそのような命中率は実現されていなかったので、米海兵隊の特殊作戦部隊の兵員が、レーザーデジグネーターを使用して指定された目標に対しレーザー光を照射し、その反射波に最終段階にあるJDAMが反応してレーザーの収束点、すなわち目標に到達させた。
 この場合の命中誤差は数センチ~1メートルであった。
 さらにJDAMの改良も進捗している。湾岸戦争時のJDAMでは当時の通常爆弾と同様に、目標を破壊する弾薬量を1トンにしていた。
 しかし使用されて初めてJDAMは1トン爆弾では過剰破壊となることが判明し、目標に応じて250キロ爆弾でもよい場合が出てきた。
 その結果、Small Diameter Bomb と呼称される250キログラム爆弾が採用された。その結果、プラットフォームの同じ弾倉に4発積載できることとなった。すなわち1回の飛行で4倍の任務を遂行することができるようになったのである。
 しかも軽量な爆弾に翼をつけることによって滑空距離を延伸し、現在では、目標から80キロ離隔していても攻撃が可能となっているのである。
 こうして新たな精密誘導技術は、目標破壊効率を革命的に向上させることとなった。
 結果としてGPSが初めて使用された湾岸戦争時にJDAM・1トン爆弾で破壊できた目標は、ベトナム戦争時代のテレビ誘導などによる爆弾で破壊する場合には190トンを必要とし、第2次世界大戦で使用された照準具で誘導された爆弾では9000トンを必要とするとの比較が世間を風靡した。
 ちなみに、こうした衛星誘導爆撃は、湾岸戦争時には全弾薬の3%しか利用されなかったが、2003年のイラク戦争では、実に、全弾薬の68%が衛星誘導爆撃によって実施された。そしてこのいわゆる「空からする砲撃」は、まず米空軍に革命的影響を与えたのである。
 
2.空からする地上戦の始まり
 さて、このように航空戦力による目標破壊能力が革命的に伸長すると、航空戦力のみで地上軍を撃破することはできないのかという発想が生まれる。
 事実、2003年のイラク戦争では、戦車群と塹壕構築によりバグダッド付近に侵攻阻止線を形成していた大統領親衛隊を、米英軍は航空戦力のみで制圧し、イラク兵は蜘蛛の子を散らすように前線から逃亡した。
 ウォーデン大佐(当時)はかかる戦果を前に航空戦力の能力を過大視し、航空戦力のみでフセイン大統領を追い詰めることを試みて結果的には失敗した。
 しかし戦闘と戦争は全く相違する。戦争に勝利するためには、占領後の事態収拾や統治にどうしても陸上兵力が不可欠であることを、米国はイラク戦争で学んだ。
 他方米空軍は、それまでの主役であった戦術戦闘機による陸海直接支援任務よりも、数倍、いや、十数倍の爆弾搭載量を誇るB-1、B-2、B-52といった爆撃機による「空からする砲撃」の方が、戦闘効率といった観点からは明らかに優れていることを認識した。
 そして戦術戦闘機は脇役となり、爆撃機は脇役から主役への座に復帰するとともに、戦闘機は「Counter Air(対航空)」を主たる任務とする本来の姿に戻った。
 さらに「空からする砲撃」は、航空戦力の目標に対する命中精度の革命的向上を米陸・海軍・海兵隊に認識させることとなり、航空阻止(Air Interdiction)並びに陸海作戦直接支援(Close Air Support)任務といった任務区分は無意味となった。
 「友軍相撃」の心配が極小化され、空軍独自で行う航空阻止作戦と陸・海軍からの要請により行う直接支援という区分は最早無意味となり、「対地上攻撃」で十分にその任務を表現できるようになったということである。
 その結果、現在の米空軍ドクトリンでは「Strategic Attack(戦略攻撃)」「Counter Air(対航空)」と並んで、「Counter Space」「Counter Air」「Counter Sea」「Counter Land」というように任務が整理された。
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