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ないなら即退陣せよ~キューバ危機を回避した君子の豹変!

2010.12.28(Tue)JBプレス 織田邦男

小泉純一郎元首相は12月4日、講演で次のように語った。

 「首相当時、2004年チリでのアジア太平洋経済協力会議APEC)で胡錦濤国家主席との2国間会談を巡り中国側から『来年、靖国神社を参拝しないなら受ける』との打診があった」

 「その際、『必ず参拝する』と突っぱねたところ、おじゃんになるかと思ったら『会談前後に参拝を明言するのはやめて』となった。結局、会談は実現したが、外交とはそういうものだ」

外交は血を流さない戦争である!


11月13日夕刻、横浜で行われたAPECでの菅直人首相と胡錦濤国家主席による日中首脳会談とは対照的だ。この会談は日本側が「やってほしい」と頼み込み、中国側が「仕方がない」と応じたとされる。

 外交は血を流さない戦争であり、戦争は血を流す外交と言われる。

 首脳会談一つとっても国益をかけての熾烈な戦いである。戦いであるがゆえに足元を見透かされた方が負ける。外交交渉は願望が強いことを見せた方が弱い立場に置かれるものだ。

 日本側が「会談をやってほしい」と頼み込んだ時点で勝負はついていたと言える。

 9月の尖閣沖漁船衝突事件以降、菅政権の拙劣な対応により、日本は血を流さない戦争に全面敗北した。日中首脳会談の菅首相は、さながら降伏調印式の全権代表のようだった。

 実現した会談たるや通訳を入れて約20分間。ほとんど内容もなく挨拶程度に終始し、何ら見るべき成果はなかった。会談を持つこと自体が目的化した茶番劇であり、むしろ日本の外交戦略のなさを白日の下にさらす結果となった。

 さらに悪いことには、菅首相は挨拶程度のコメントさえメモを読むのに終始し、対峙する胡錦濤と目を合わせることもなく、蛇に睨まれたカエルよろしく、格の違いを露呈した。

目は虚ろで、およそ一国の宰相とは思えないオドオドとした態度は嘲笑の的になり、全世界に醜態をさらしてしまった。

外交とは華麗なる衣装を纏った戦争である~ナポレオン

これが菅首相個人の悪評に留まるならまだいい。菅首相の人間力を見透かされた結果、日本の外交力、国際政治力が瀬踏みされ、「日本与(くみ)しやすし」のメッセージを全世界に与えたとなれば、今後の日本の安全保障に暗い影を投げかけたことになる。

 外交とはナポレオンが言うように、華麗なる衣装を纏った戦争である。「日本与しやすし」と思われた途端、各国がこれまでの対日懸案事項をこの機に呑ませようと迫ってくるのは当然である。

 日清戦争に敗北した途端、清国が列強の草刈り場となった歴史を見れば分かる。

 一国のリーダーの未熟さが危機を招来した例として、思い出されるのが1962年のキューバ危機である。

 キューバ危機は米ソの緊張が核戦争寸前にまで達した危機事案であるが、ことの発端はソ連のニキータ・フルシチョフ首相がドワイト・アイゼンハワーのあとを継いで大統領に就任したジョン・F・ケネディを未熟な指導者と見くびったことに始まる。

フルシチョフに見下されたケネディ大統領!

 1959年フルシチョフが訪米した際、上院外交委員会を訪ね次期大統領の可能性があるケネディと短時間ではあるが顔を合わせている。その際のケネディの態度がフルシチョフには軟弱で優柔不断な「ベイビーボーイ」に映ったという。

 1961年ケネディ大統領就任直後の4月、ピッグス湾事件が起こる。在米の亡命キューバ人たちで構成される親米ゲリラ「反革命傭兵軍」が米国の支援を受け、革命政権の転覆を試みた事件である。

 就任したばかりのケネディ大統領は、宥和政策を目指しており、当初、作戦には乗り気ではなかった。だが閣僚やアレン・ダレスCIA(中央情報局)長官らに説得され作戦を決意した。

 米軍最高指揮官としてのケネディの決断は実に中途半端で優柔不断極まりないものだった。突然、上陸地点の変更を言い出して作戦を混乱に陥らせたり、作戦計画にある空爆を躊躇したりした結果、最終的に亡命キューバ人部隊は壊滅した。

作戦失敗の最大原因は、ケネディの心変わりにより命令が二転三転したことにある。

好機と見たフルシチョフは難題を次々と突きつける!


これを見たフルシチョフはケネディを未熟で経験不足の指導者との意を強くし、「少々こづきまわしても構わない」相手だと確信したという。

 指導者の未熟さを露呈したピッグス湾事件から間もなくの1961年6月、ウイーンでケネディ、フルシチョフの初の首脳会談が開催される。

 これまでの懸案解決のチャンスとばかりにフルシチョフは強気に難題を突きつけた。

 この会談の結果、ベルリン危機が生起することになるが、フルシチョフのケネディに対する見方は変わらず、これまで控えてきたキューバに対する兵器供与開始を決意する。

 1962年フルシチョフは核ミサイルをキューバに配備する「アナディル作戦」を発動。同年10月、米空軍の「U-2偵察機」が、アメリカ本土を射程内とするソ連製準中距離弾道ミサイル(MRBM)及び中距離弾道ミサイルIRBM)がキューバに配備されているのを発見。

 ケネディキューバ周辺の海上封鎖および臨検を行うことでソ連船を阻止しようとした。一挙に米ソに緊張が高まり、全面戦争の危機に陥った。キューバ危機の始まりである。

核戦争の危機まで招来したケネディの罪!

 キューバ危機は結果的にはフルシチョフの譲歩で事なきを得た。その後ケネディは暗殺されたため、ケネディは今なお英雄のように祭り上げられているが、そもそも米国を一時的にも核戦争の淵に追いやった原因を作ったのはケネディ本人の未熟さにあったのだ。

 軍隊には「愚かな高級指揮官は敵より怖い」という言葉がある。指導者が未熟であるのは犯罪に近い。

 今回の尖閣事案では、対外的に「脅せば日本は必ず折れる」という印象を与え、しかも検事の背後に隠れて責任逃れをする未熟な指導者の実像を中国のみならず全世界に知らしめてしまった。

 「ルーピー鳩山」に続き、未熟な菅首相に率いられた日本はそれこそ「少々こづきまわしても構わない」とロシア中国北朝鮮が思ったとしても不思議ではあるまい。

今後、各国はこの機を逃さず、対日懸案事項に関し、自国に都合の良い解決を図ろうと強気に出てくるに違いない。

韓国が対馬の領有権問題を言い出す可能性も!

ロシア北方領土問題を初期化して4島ロシア固定化で決着を図ろうとするだろう。ドミトリー・メドベージェフ大統領の北方領土訪問は既にそれが始まっていることを示す。

 中国は尖閣諸島領有化に次の一手を打ってくるだろう。また東シナ海聖域化の完整に向け、さらに傍若無人な振る舞いがあるだろう。

 北朝鮮は次なる朝鮮戦争が生起しても、後方支援基地たる日本が機能しないのを見透かし、緊張を激化させる瀬戸際外交を推し進め、後継者の正統化と核武装を急ぐことが予想される。

 韓国領の延坪島砲撃事案はこの動きが既に始まっていることの証左である。

 友好国側にある韓国も例外ではない。菅政権のうちに竹島領有の国際的認知化や日本海の「東海」化、そして対馬の領有権問題の顕在化を画策してくることも考えられる。

 まさに普天間に続く尖閣などの拙劣な対応が原因で、日本が諸外国の草刈り場と化す可能性があるのだ。

愚かな宰相のせいで草刈り場と化すのか、我が日本国!

 唯一の頼みの綱、米国はどうか。今回の尖閣事案では比較的早期に収拾したことには安堵しているが、未熟な指導者、不甲斐ない日本の対応ぶりについて、特に親日家の失望が大きい。

 オバマ政権内には、頼りにできない同盟国として日本の評価が定着しつつある。これで普天間問題が先送りされるようなことがあれば、日米同盟は後戻りできない漂流に陥る可能性がある。

 その時、米国は日本を見放し中国と手を結ぶことだってありうることを覚悟しておかねばならない。「負かせない相手とは手を結べ」(Can’t beat them, join them)は現実主義アングロサクソンの常套手段なのだ。

 今後「草刈り場」の動きが出てきた場合、政府はどう対応すればいいのか。やはりキューバ危機が参考になる。

 

危機発生後のケネディは人が変わったように極めて的確な対応をしている。まさに「君子豹変」を演じたのだ。

君子豹変したケネディ


スタッフの意見具申を排除し自意識過剰になり独りよがりの決断を繰り返したピッグスの失敗を深く反省し、一転してスタッフの専門的意見に耳を傾け、衆知を結集したうえで戦略的な最終決断を自ら下している。

 ミサイル発見の4日後、ケネディはアンドレイ・グロムイコ駐米ソ連特命全権大使をホワイトハウスに呼びつけ、懸念を表明しソ連政府に対応を迫った。

 同時に、テレビ演説でキューバにミサイルが持ち込まれた事実を国民に説明し、ソ連を非難した。これに加え北大西洋条約機構NATO)など西側指導者たちに状況を説明し、全面的な支持を取りつけている。

 尖閣沖での漁船衝突後、中国大使を呼びつけることもなく、諸外国に説明もせず、しかも衝突映像を隠蔽しようとした菅政権と全く対照的な動きである。

 国連では米国国連大使が、キューバの核ミサイル写真を公開し撤去を迫った。

戦争準備を万端に整えれば戦争は起きない!

 米軍に対してはデフコン2(準戦時体制)を発令、全面戦争に備え大陸間弾道ミサイルを発射準備に置いたほか、日本を含む海外駐留米軍も臨戦態勢に置き、一歩も引かないファイティングポーズを構えた。

 その後、ソ連からは中途半端な妥協案が示されたがケネディは断固拒否。結局フルシチョフはケネディの条件を受け入れ、キューバに建設中だったミサイル基地やミサイル解体を約束。ケネディキューバへの武力侵攻はしないことを約束し危機は終わった。

 「戦争準備を万端に整えれば、戦争は決して起こらない」という箴言がある。

 相手の弱みを握ったうえで、我が方の力を盤石に整えつつ、一歩も引かない気迫を示し、しかも相手の面子を守ろうとする度量も示す。

外交はまさにチキンゲームであり、中途半端に譲歩しても、決して相手は譲歩しない。取り引きした方が得だと相手に思わせる戦略的対応が肝心なのであり、弱みを見せた方が負けなのだ。

いま日本政府がやらねばならないこと!

 事件直後、枝野幸男民主党幹事長代理は「中国は困った隣人だ」と述べた。その通りであるが、嘆息にすぎない言葉を口走るのは一般国民だけでいい。政治家は嘆息を漏らす前に、政府としてのやるべきことをやってこそ選良である。

●安全保障会議を開き、情報・軍事・外交の専門家から意見を求め、総合的、戦略的分析をしたうえで政府としての対応を決める。

中国大使を呼んで懸念を表明し対応を迫る。また起訴せざるを得ない法治国家としての立場を申し渡す。

●なぜ領土問題が存在しないかという歴史的事実を、全世界に向け発信する。

●全世界に映像を公開し、中国の理不尽さを訴え、日本の正当性を訴える。

毛沢東の16文字を肝に銘じよ!


これらが政府として最低限やるべきことであったことは、キューバ危機を参考にすれば危機管理の素人政治家でも分かるはずだ。

 鳩山政権、菅政権と続く未熟な指導者による拙劣な対応により、既に諸外国に日本政府の非力さを見透かされたと言っていい。

 今のうちに懸案を解決しておこうという動機付けが諸外国に働き、続々と日本の主権に関わる問題を強引に係争化、争点化しようという動きが起こっても不思議ではない。

 日本が諸外国にとっての草刈り場と化すのは、何としても阻止しなければならない。特に中国は「力の信奉者」である。相手が非力と見れば容赦なく攻めてくる。毛沢東の16文字はその正体を如実に表現している。


「敵進我退、敵駐我攪、敵疲我打、敵退我追」(敵が進めば退却し、敵が止まれば攪乱し、敵が疲れれば攻撃し、敵が退却すれば追撃する)である。国力が国境や領有権のみならず排他的経済水域を決めるというのが、中国の基本的なスタンスなのである。

国を守る気概はあるのか、菅直人!

 日本は今、喫緊に何をすべきなのか。キューバ危機後のケネディのように指導者は先ず豹変しなければならない。

 外交、軍事、情報など専門家の意見に真摯に耳を傾けることは極めて重要である。そのうえで短時間に国家としての緊急対応を戦略的に決める体制を構築することが必要である。

 同時に日米同盟を漂流から立ち直らせる。そして東アジアにおける日米の役割、任務を米国と協議し、応分の負担を担うことである。

 最も大切なものは国を守る気概と自覚、そして全責任を負う宰相の覚悟である。「法律を調べたら、最高指揮官だった」などと惚けたことを言っている場合ではない。

 官僚が意見を持ってきても、イライラして怒鳴りつけることなく、たとえ耳に痛い情報でも専門家の意見に耳を傾ける度量を持ってこそ宰相の器である。

 政治主導の美名の下、専門家たる官僚を排除し、素人外交を展開して海千山千の周辺諸国に日本を手玉に取られては国民がたまったものではない。

 これまでの失態を自覚、反省し、その責任を認め、そして豹変する。豹変してこそ君子であり、豹変できない宰相なら即刻退陣すべきである。

 

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