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第5回 もう一人のキーマン、谷家衛の思い《後編》
2010年12月20日(月)日経ビジネス 谷家衛、中西未紀
日本初となる全寮制インターナショナルスクールの2013年開校に向けて動き出している、軽井沢インターナショナルスクール設立準備財団の谷家衛と小林りん。谷家は、新設する高校において、大切にしたいポイントが3つあるという。
1つ目は、奨学金を設けてアジアの生徒を貧富に関係なく迎え入れることで、本当の多様性(ダイバーシティ)を実現する。
2つ目は、右脳を使うデザインやアートといった感性と、左脳を使う数学や科学などの論理性、どちらも養っていく。
3つ目は、学校や寮での生活を通して共生・共感の念を築く。
では、それぞれについて、詳しく見ていこう。
いろいろな人が活躍できるという日本の思想!
1つ目の「多様性の実現」について。小林は高校生活をカナダにある全寮制の学校で世界各国の同級生と過ごしており、その経験が人生の貴重な財産になっている(参照:「恵まれた環境に感謝、そして社会に恩返ししたい」)。一方、谷家も13歳の息子と11歳の娘を見ている中で、多様性の必要を感じるようになった。
「息子と娘は、日本にあるインターナショナルスクールに通っています。素晴らしい学校です。ただ、授業料が高いこともあって、通っている子供たちの層が限られてしまいます。もっと違う環境の子供たちと交わって、いろんな刺激を受けさせたいと思います」
今年初めて、軽井沢インターナショナルスクール設立準備財団が実施した中学生を対象にしたサマースクール(参照:「サマースクールで子供たちに教えられました」)には、谷家の息子も参加している。2週間を過ごした息子は、確かに意識が変わっていた。
「教えるのではなく、結局は自ら気づくしかないのです。今年のサマースクールでも、ミャンマーやフィリピンの子供たちと時間をともにしてアジアの人々の素晴らしさを知ったり、自分たちがいかに環境に恵まれているのかを知ったりすることは、非常に大きな意味があったと思います」
また、そこには「日本で学ぶ」ことの意義もある。単に世界各国の子供が集まるインターナショナルスクールでさえあればいいのなら、ヨーロッパやアメリカには名門と言われる寄宿学校がいくらでもある。
アジアの拠点として日本に学校を作るのであるから、これまでのように欧米諸国的な思想の下で教育を行っていく必要もない。これからはアジア、ひいては日本の良さと言える“和の精神”を取り入れていくべきだというのが、谷家と小林の共通した認識である。
「日本には八百万(やおろず)の神々を祭ってきた文化がありますよね。それは、唯一絶対のカリスマが1人いて、皆をひっぱっていけばいいというのではなく、いろいろな人が活躍できる場を作ることにつながる思想だと思います」
そして谷家は、こんな例を挙げた。
「例えば日本の鮨職人や大工。どちらの修行も、技を磨く前にまずは『素材』を調達する目を養うところから始まりますよね。鮨職人なら寿司のネタ、大工なら建築材。あくまでもそれらの素材の良さを活かした技を重んじます。日本の庭園には掘り出したままの石が据えられていますが、その思想も共通しています」
それぞれの素材は、それぞれの良さを持っている。その個性に重きを置く思想は、まさに多様性の時代にふさわしいと言える。
「素材から追及していくやり方は、修行にもとても時間がかかります。場合によっては何十年もかけて、やっと一人前として認められるのです。しかしその後も、それぞれの人生をかけて、さらにその『道』を追求していくのです」
たとえ経済的な利益に直結しなくても、時間をかけて技を磨く、そのプロセス自体が一つの目的である。そのような文化の下では、評価基準がそれぞれの価値観に委ねられるため、いわゆる「おちこぼれ」も出にくい。
「人と比べるやり方ではなく、その学んでいくプロセス自体を『道』として、自分自身で思い描く価値を実現していくものですよね。世界の資本主義が行き過ぎてしまって、様々な問題が露呈している今、次の時代を築いていくうえで必要とされる思想だと思います」
“微分型”から、全体を上げる“積分型”へ!
「数人のカリスマとその他」という構図ではなく、「個人がそれぞれに道を極めていく」という形。そこには個性的な才能を持った人間が続々と出てくる可能性がある。谷家は話を続ける。
「自分の好きなものを見つけたら、時間をかけてでもその道を極めていくべきだと思いますが、今のように画一的な基準ができてしまっている社会にいると、その前に多くの人が諦めてしまいます。でも、今は自分が握っている鮨に低いランク付けがされたとしても、ずっとその道を極めていったら、40年後の評価がどうなっているかは誰にも分からないですよね」
近年、出てきた言葉に「レバレッジ」がある。てこの原理と同じように、少ない資金で大きな資本を動かすという考え方だ。効率的に資金を運用する観点からは、合理的な行動と言えるだろう。しかし、こうした行動によって、その時代の流れに合った能力だけが特出して評価されるようになっていることを、谷家は危惧している。
「まだ成長の段階だった社会を全体として底上げしていくためには、それで良かったんです。誰かすごく強くなる人がいることで、全体のレベルを上げていったわけですね。まだ成長段階にいるアジアはそれをしていくべきですが、既に成熟した日本や他の先進国は、もうその段階ではありません」
「西欧型の資本主義社会では、世の中を単純化することによって経済活動をいくつかの要素に分け、重要と思われる要素の値を良くすることで全体を向上させようとする“微分型”でした。ビジネスで言えば、例えばROE(自己資本利益率)や売上利益率の値のみに着目し、それを改善することで企業価値を上げるといったことですね。でも、レバレッジが効きやすい分野に強い人だけが評価された結果、その間にあるものがみんな抜け落ちてしまったというのが、今起こっていることなのではないでしょうか」
効率化のみを追求する経済活動は、いかに短期間で収益を最大化するかに目が向くようになった。その行き着いた先の象徴とも言えるのが、サブプライムローン問題であり、2008年9月のリーマンショックに端を発する世界金融危機だろう。“行き過ぎた資本主義”に世界が耐えられなくなっていることが露わになった。投資を本業とする谷家は、まさにそれを目の当たりにしてきたのだ。
「選ばれた要素だけが大切にされ、その操作に長けた者だけが勝者になるといった今までのやり方ではなく、世の中にある多様な要素をそれぞれに尊重していくことが、これからは重要になっていくと思います。現状の日本は、その前段階の健全な新陳代謝が行われないということが大問題ではあるのですが、逆にグローバルキャピタリズムの中では、日本のように全体を上げていく“積分型”のやり方が必要なのです」
本質のみを残す究極のシンプリシティー!
2つ目の「感性と論理性の養成」について、谷家は米アップルCEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズを例に挙げる。
「ジョブズが創り出す携帯音楽プレーヤー『iPod(アイポッド)』やスマートフォン『iPhone(アイフォーン)』は、ビジネスなのか、アートなのか。その境目がどんどんなくなっています。これまで相容れないとされてきた左脳的なものと右脳的なものが一体化しているのが今だと思います。そして、左脳と右脳がまたがるところに、イノベーションやクリエイティビティといったものが生まれるのではないでしょうか」
今後、アップルと似たようなコンセプトを持つ製品が次々に出てきて、同じ機能を実現することだろう。しかし、アートやデザイン、さらに言えば哲学といった右脳的なものをおろそかにしている限り、新しい切り口を見出せる力を身につけることはできない。「この点が今後はますます重要になってくる」と谷家は考えている。だから、こう言う。
「スティーブ・ジョブズはビジネス思考もできるし、デザインやアートの感性もある。そのどちらも一流じゃないと、あのようにうまくはいかなかったと思います」
ちなみにスティーブ・ジョブズは若い頃から禅に傾倒しており、iPodのシンプルなデザインは禅の精神を反映したものだという話もある。谷家らが創設する学校では、その禅の考え方も、日本ならではのものとして取り入れていく方針だ。
「ムダを削ぎ落として本質のみを残すという究極のシンプリシティーの追求が禅の精神であり、そのあり方には今、世界各国の文化人や経済人が共鳴しています。量を追求していた20世紀は終わり、21世紀は質を高めていくことの重要性がさらに増していくのではないでしょうか」(谷家)
“同じ釜の飯”であれば、戦争は起こらない!
そして3つ目の「共生・共感」である。
軽井沢インターナショナルスクール設立準備財団の理事に名を連ねている建築家の鈴木エドワードは、自らの実体験からいつもこんな話をしているという。「いろんな国の子供たちがともに学校で学び、寮で暮らして“同じ釜の飯”を食べていたら、戦争なんて起こるはずがない」。
どこの国の人であろうが、どんな環境で育った人だろうが、共感するものは必ずある。谷家もその意見にはもちろん賛成だ。人間にはエゴだってあるし、金も欲するものだが、そこには同時に「世の中の役に立ちたい」「人のために生きたい」という気持ちも存在する。
「人は本来であれば一緒のはずなのに、たまたま国の歴史がそれを壊しているだけなんですよね。『こんなにひどいことをされた』というお互いの歴史が積み重なっていて、それを覚えているから戦争になってしまう。でも、個人同士は共感できるところがいっぱいあって、人として仲良くできるはずなのです」(谷家)
人は共生できるものであり、共感できるものだと信じる中でこそ、自分の良さにも気づき、周りのものの良さにも気づくことができる。まだ “人としての歴史”が浅くて国の歴史という既成概念を持たない高校生や中学生が、他国の子供たちと全寮制という形で同じ時間を共有していく意味は非常に大きいと言えるだろう。
こうした考えを基に学校作りを進める谷家や小林らは、自らが理想とする学校でどのような人材を育てようとしているのか。それは、「次世代をリードしていける子供たちの育成」にほかならない。
こう掲げると、日本では「リーダー」=「指導者」としての資質を問うイメージを持たれがちだ。谷家によれば、そこにはもっと深い意味が込められているという。
「『リーダー』というのは、『自分の人生を自分の好きなことや得意なことを活かして思いっきり生きることができる人、そして、それが共感を呼んで新しいモノを作り上げたり社会に良いインパクトを与えたりできる人』という意味で使っています」
「そこにはもちろん、経営者として、あるいは政治家として、『何人もの人を動かす』というタイプの人もいます。しかし、それだけではありません。『ナンバーツーやナンバースリーとして、トップを支える』ことが一番得意で好きであるのならば、それを思いっきりやればいい。それができるように、自分の得意なもの、好きなものに気づいて、リーダーシップを学んでいけるような場を作っていきたいと思います」
学校作りを決心させた1枚の写真!
全寮制インターナショナルスクールについて、「一生やっていきたいプロジェクトです」と話す谷家は、1つの夢を頭に思い浮かべている。それは谷家が学校設立の構想を描きながらも、まだ小林と出会う前、スイスの学校に日本の生徒を送り出しているという人物に見せてもらったある写真が元になっている。
スイスに「TASIS(THE AMERICAN SCHOOL IN SWITZERLAND)」という、小学生から高校生までを世界各国から迎え入れている有名な名門寄宿学校がある。創立は1995年。夫のスイス転勤に伴ってやってきた1人の女性によって、この学校は作られた。当初は、なかなか資金が集まらず、苦労を強いられたという。
その創設者の90歳を祝う誕生日パーティーが開かれ、その時に撮られたという写真を見せてもらったのだが、それが今も谷家の脳裏に焼き付いているのだ。在学中の若い生徒たちが整列し、その周りをたくさんの卒業生たちや教師たちが取り囲んでいる。1人の女性の教育に対する思いが、たくさんの人々に受け継がれて世に送り出されていくことを象徴するような情景だった。
「卒業生や在校生、学校に関わってきた教師たちや設立メンバー・・・。その一人ひとりが自分の人生を目一杯生きているという充実感に満ちた笑顔でした。数十年後に我々の学校でも記念写真を撮ることができればいいなと思います」
投資の世界で生きてきた谷家の、一大決意。学校運営に関しては素人同然かもしれないが、投資をする中で常に社会を分析し、様々な事業をこれまでも見てきたし、これからも見ていくことになる。投資の世界で感じてきたことは、教育のミッションを構築していくうえで大いに活かすことができるはずだ。
それはむしろ、保守的なあり方に凝り固まりがちな教育の世界にメスを入れることにもつながっていくだろう。谷家と小林、その仲間によるプロジェクトは、まだまだ始まったばかりである。
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