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日本的経営を改めて考えてみた(7)
2011.01.24(Mon)JBプレス 前屋毅
大学新卒初任給が54万2000円。「ほぉーっ」と、思わずため息が出てくる額である。
日本経済団体連合会(経団連)が2010年3月に発表している「2009年6月度 定期賃金調査結果」(PDF)によれば大学新卒の標準者賃金が20万9697円というから、間違いなく破格の初任給だ。
この高額初任給を提示したのは野村ホールディングス(HD)で、2010年8月に発表するや、「太っ腹」とマスコミが大きく取り上げ、ネット上でも大変な盛り上がりをみせた。「これくらい高額なら超氷河期でもがんばる」という新卒予定者もいたかもしれない。
もちろん、そうそう現実は甘くない。とはいえ、誤報でもない。2011年4月に野村HDに入社が決まっている42名には54万2000円の初任給が約束されているからだ。
「甘くない」とは、野村HDに入社する大学新卒者全員の初任給が破格なわけではないからだ。今年4月に同社への入社が決まっている大学新卒者は600名近くいるが、大半は先の経団連調査と同じくらいの初任給である。破格の初任給を約束されているのは、600名のうち42名だけでしかない。
世界で戦える人材を欲している野村HD!
なぜ、42名だけが高額初任給を受け取ることができるのか。それは、それなりの条件をクリアして採用されたからだ。その条件とは、高い専門性と英語能力試験「TOEIC」で860点以上という高いハードルのクリアだ。
バイトに明け暮れる大学生活を送っていたのでは高い専門性など身につけられるはずがなく、日本的学校教育でしか英語を勉強したことがなければTOEICで860点以上など夢の夢である。
それだけのハードルをクリアしたからこそ、高額初任給を受け取ることができるのだ。それでも、野村HDでは明らかにしていないが、応募者数は採用者数の7~8倍はあったと言われているので、それだけの条件をクリアする人材が少なからずいたということになる。日本の大学生も捨てたものではない。
そこまでの初任給を野村HDが提示したのは、グローバル化に照準を合わせているからである。日本の証券会社としては最初に海外進出を果たしたものの、いまだにローカル証券的ポジションから抜け出せていないのが同社の現実だ。
2008年に経営破綻したリーマン・ブラザーズを買収し、一気に8000人近い外国人を採用したものの、グローバルな戦いを展開していくには、まだまだ人材不足。野村HDとしてグローバル化を進めるためには、外国人の力に頼るだけでなく、その戦略を推し進めていけるだけの力をもった日本人の存在も不可欠となる。そういう日本人の人材となれば、圧倒的に不足しているのだ。
人材をむざむざと外資に奪われないために!
「大学にいる頃から自分の歩む道を見定めて投資銀行業務や証券業務についての知識を身につけ、ビジネスで通用する実践的な語学力を学んできた学生は少なからずいるんです。しかし、そういう学生は日本の証券会社には入社しない。外資系の投資銀行などに就職してしまうんですよ」と、大手証券会社の幹部はため息まじりに言う。
日本の証券会社に入社したところで、すぐに地方の支店に出されかねない。むしろ当然のように、地方まわりをさせられることになる。そこで待っているのは、足を使っての投資家訪問をする昔ながらの営業である。せっかく身につけた知識や語学力を生かせる可能性は、極めて低い。
それが外資の投資銀行に就職すれば、知識と語学力を生かした仕事ができるのだ。収入にしても成績によって破格の額が得られる。自信があればあるほど、迷わず外資系を選んで当然なのだ。
そういう学生を、グローバル化を睨む野村HDはどうしても欲しい。そこで、グローバル部門専属と外資に互する初任給を提示して、優秀なる学生を募集したというわけである。
しかし、間違ってはいけない。初任給54万円なら10年後には100万円を超えるのかな、などと想像してはいけない。
初任給54万円でも、1年後に実績を残すことができなければ容赦なく額は下げられる。座るべき席が約束されているわけでもない。そういう約束なのだ。だから、よっぽどの自信がなければ応募できない。
それでも競争率が8倍くらいもあったということは、それだけの人材がいるということでもある。日本企業は、そういう人材をむざむざと外資に奪われていたわけだ。
社員を会社に引き留めてきた「年功序列」!
さて、ようやく本題である。なぜ、初任給54万円で多くの人が驚くのか。初任給はこれくらい、という思い込みが強いからにほかならない。
なぜ、そんな思い込みを多くの人が持つのか。それには日本的経営の三種の神器と言われた「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」の中の1つ、「年功序列」が大いに関係していると思われる。
賃金における年功序列とは、「年齢(勤続年数)とともに昇給していく」ということだ。それが、かつての日本では普通のことだった。普通だった名残が、冒頭で紹介した経団連の「定期賃金調査結果」である。
この調査は1953年から経団連が毎年実施してきたもので、年齢ごとの標準賃金が報告されている。2009年6月度の調査結果で言えば、22歳の大学卒で20万9697円、45歳で54万6771円と倍になり、定年の60歳になると61万9273円となっている。
年齢とともに、確実に賃金は増えている。この調査だけを見ると、年功序列賃金は立派に生きている。「40歳を過ぎたら給料が上がるから我慢しろ」と、上司が部下をたしなめることが普通に行われてもいた。
年功序列の賃金は、企業に人材を引き留めておくために必要だった。若い頃には低い賃金が年齢を重ねていけば確実に上がると分かっていれば、よほどの理由がない限り辞めようとはしないはずだからだ。
働く側にしても、長く勤めれば賃金は上がるのだから、今を我慢してでも働ける。賃金が上がっていけば将来の生活も安定するだろうから、安心して働ける。生活に不安がなければ、それだけ仕事にも集中できて実力も発揮できるということになる。
そうして組織は安定する。年功序列の賃金が成り立ってきた背景には、それなりのメリットがあったわけだ。
人件費抑制のために導入された「成果給」「能力給」!
しかし、その年功序列を続けることが難しくなってきた。年功序列の賃金体系を維持するには、右肩上がりの成長が絶対に必要になるからだ。
従業員の年齢とともに賃金を上げていくということは、単純に考えれば、年々、人件費が増えることになる。それをカバーするには、企業としての業績も年々、上がっていかなければならないのだ。
それを可能としていたのは、高度経済成長と言われるほどの成長を日本経済が示していた時である。業績が鰻上りに上がっていっていた状態では、いくら人件費が上昇したところで気にすることはなかったのだ。
だから年功序列の賃金が維持できた。企業は人材を引き留め、従業員は安心して仕事に専念できた。それが次なる成長につながっていった。いい循環になり、奇蹟の高度成長となっていく。
しかし、言うまでもなく、それだけの成長はとっくの昔に終わっている。成長が止まれば、増え続ける人件費の負担に企業は耐えられない。
そこで、にわかに導入され始めたのが「成果給」や「能力給」だった。個人の仕事の成果や能力によって賃金に差をつけよう、というわけだ。欧米、特に米国での賃金体系がこれだというので、「これこそグローバルスタンダードだ、こっちにすることが最先端」という空気が広まった。
企業側にすれば、成果給や能力給が従業員の力を発揮させる賃金制度かどうかは、二の次にすぎなかった。年功序列の賃金体系を止めることで、無条件に増え続ける人件費の負担から逃れられることが最大のメリットだったのだ。
成果給や能力給となれば、新入社員でも成果を上げれば破格の賃金を支払わなくてはなくなる。成果を上げる社員が多いほど企業にとってはメリットなわけだから、人件費が増えることは企業にとって喜ばしいことのはずである。
しかし実際は、成果給を導入しても人件費が上昇する企業はほとんどなかった。成果を上げた従業員の賃金は上げるが、それほど成果を上げることができなかった従業員の賃金は下げたからだ。
成果給の導入が加速した当時、筆者はいくつもの企業に取材したが、どこの担当者も「人件費の総額は横ばいか少し減っているくらい」と誇らしげに答えるのに違和感を覚えたものだ。人件費を節約することこそが手柄、という本音が見えみえだった。
つまり成果給や能力給の導入は、従業員全体の成果や能力を上げることではなく、企業としての人件費上昇を抑制し、引き下げることが目的だったのだ。
それがグローバルスタンダードかどうかは疑問である。むしろ人件費抑制のために、グローバルスタンダードが隠れ蓑にされたと言った方がいいような気がする。
若手の実力を認めてあげるシステムが必要!
では、現実問題として日本の企業は年功序列の賃金体系に戻れるのだろうか。
言うまでもなく、無理だ。それだけの高度成長がないからである。
一方で、人件費抑制のためだけの成果給や能力給の導入はバケの皮がはがれつつある。成果や能力を評価する基準が曖昧だと、従業員の不満をあおるだけになっているからだ。
営業など数字で成果を測れる職種はいいが、例えば経理などは簡単に成果を数値化できない。評価が難しいところで無理に評価しようとすれば、不満が大きくなるのだ。それがいい結果につながらないのは明白でもある。
ただ、従業員にとって年功序列の賃金体系に戻ることが幸せかといえば、そんなこともない。
年功序列では、22歳の新卒には22歳としての仕事しか与えられない。いくら実力があっても、横並びの仕事しかやらせてもらえない。それは、それで不満なのだ。
不満だから、実力をつけてきた人材は、力を発揮できる外資へと流れる。それを食い止めるには、冒頭で紹介した野村HDのような試みが必要になってくる。
もっと言えば、実力を認めてもらえるのであれば、若者も実力をつけることを真剣に考えるだろう。アルバイトに明け暮れるのではなく、真剣に学校で学ぼうとする姿勢も強まることになるだろう。学校が学校としての機能を取り戻すことにもつながっていくのだ。
そうして実力をつけた人材を採用することは、もちろん企業にも大きなメリットがある。
年齢で賃金を決める年功序列の賃金は、評価が簡単だった。というより、評価能力など必要なかった。極端に言えば、評価能力など必要なかったのが、従来の日本型経営だったと言える。
そこから転じて、実力で採用したり、実力で賃金を決めるとすれば、企業側の評価能力こそが必要であり、重要になる。
年功序列の賃金体系という旧来の日本的経営が維持できなくなった以上、日本企業は次のステップに進む必要がある。人件費抑制効果を喜んでいるのではなく、従業員の実力を的確に評価し、それに応えることを優先して考えるべきなのだ。
「グローバルスタンダードだから」ではなく、人材を育て、生かせる賃金システムの構築に真剣に取り組まなければならないところに日本企業は来ているのだ。
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