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DIAMOND online 【第29回】 2010年8月10日
江口征男 [智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)副総経理]
未整備な流通チャネルにこそ、商機あり!
――上海美優文化伝播有限公司の北野貴宗CEOに聞く
美容に対する意識が高い中国の女性たちをターゲットにしたビジネスは、底知れない可能性を秘めている。広告代理店業として現地に進出し、中国人スタイリスト向けのトレンド雑誌『絲路』や中国最大級のポータルサイト『美優網 BeauBeau』を運営する上海美優文化伝播有限公司は、中国の美容・コスメ市場にいち早く楔を打ち込むことに成功したケースだ。同社の北野貴宗CEOに、成功の条件を聞いた。
――中国でビジネスを軌道に乗せた経緯を教えてください。
進出当時は、個人レベルで広告ビジネスを始められる環境ではありませんでした。外国資本が広告事業を行なうためには、中国企業と合弁企業を作る必要があり、なおかつ世界レベルの超大手外資広告代理店でないと、そのような合弁企業は作れないのが現状でした。
その後巡り合えた中国の事業パートナーが、超有名女性誌を発行していた会社の社長だったこともあり、渡航後は広告代理事業を拡大しながら、2004年に高級ヘアサロンに勤める中国人スタイリスト向けのトレンド・最新技術専門雑誌「絲路」を発行しました。
80元という当時にしてはかなり高めの価格設定だったのですが、同じ黒髪を扱う日本のトレンドや最新技術情報を欲していたスタイリストのニーズにマッチし、発行部数も3万部(隔月刊)となりました。
――主要事業は「美容(特に化粧品)のネットメディアビジネス」ですが、参入した経緯は?
いくつかある理由の1つが、美容やコスメの専門媒体が存在していなかったことです。
2つ目の理由が、中国人ヘアスタイリスト向け専門誌の発行を通じて、「日本が美容大国であること」がわかったこと。中国では、「日本のカット技術が最高」とされていました。収入の高い中国人ヘアスタイリストの中には、日本の美容学校に留学する人もいたくらいです。
中国人スタイリストの間では、日本はトレンド発信源と見られていて、「アジアのヘアトレンドは日本がリードしている」というイメージが浸透していました。
また、中国のヘアサロンにシャンプーなどを卸す代理商から、「日本の良い美容商品を紹介してほしい」と、よく言われていました。実際、世界トップの製造技術で造られた日本ブランドの化粧品は、フランスに負けないくらいのトレンドポジションがあるのです。
中国語ではモノは「東西」と書くくらいですから、自分で作るものではなく、東から西に流すものという感覚があるのでしょう。特に流通させやすい「有名ブランドの化粧品」は、代理商の格好のターゲットになるのです。
とはいえ、商品やブランドイメージを大切にし、自前主義にこだわる日本の化粧品メーカーは、いくら現金を積まれても安易に中国の代理商とは取引しないこともわかっていました。だとすれば、「ここに我々のビジネスチャンスがある」と思ったのが3つ目の理由です。
このような理由から、化粧品を中心とした「美容」に関する情報を、一般中国人女性向けに提供するメディアを運営するビジネスは、面白いと思ったのです。
そして、中国で美容メディアを運営するとしたら「ネットしかない」と思っていました。中国全土を対象にリーチできるネットは、消費者の重要な情報取得手段となります。
希少価値のある全国レベルの美容メディアを運営すれば、中国市場をターゲットにして、今後進出してくる日系化粧品メーカーに提供できる付加価値が生まれます。そうなれば、中国市場における化粧品販売ビジネスに繋がっていきます。最初に情報の流れを作り、その後でモノの商流に入っていく。そういう戦略を、当初から描いていました。
――運営するビューティーポータルサイト「美優網 BeauBeau」には、どんな特長がありますか?
弊社では、「美容・化粧品」というカテゴリーにおいて、中国最大級のポータルサイト「美優網 BeauBeau」(www.beaubeau.com.cn)を運営しています。2007年1月のサイト開設以来、順調に知名度も上がり、現在会員数は25万人、口コミ50万件まで成長しています。
会員の9割以上が20代、30代の女性で、会員の7割強が月収4000元以上です。また、サイト上で欧米や日本ブランドを中心に、1.5万点の化粧品などの情報を掲載しています。
「美優網BeauBeau」は、コミュニティサイトというよりは、美容、特に化粧品に関する「専門家サイト」というポジションを狙っています。中国人女性が化粧品に関して調べたいことがあれば、「まず美優網BeauBeauにアクセスする」という存在を目指しています。
――ネットだけでなく、フリーマガジンも発行していますが。
上海、北京、広東で、美容情報のフリーマガジン「美優」を毎月合計17万部発行しています。有名企業のオフィスなど、「美優網BeauBeau」のターゲットとなる女性が多くいる場所に毎月配布しています。ピンポイントの読者に継続的に雑誌を見てもらうことにより、「美優網BeauBeau」のファンになってもらうことを狙っています。
「美優」は、自社で全てのコンテンツを制作しています。海外の有名雑誌の中国版を発行する企業が多い中国では、非常に珍しいケースだと思います。弊社の編集力、制作力、クリエイティブ力は、雑誌の読者、広告主の化粧品メーカー様からも、かなり高い評価を頂いています。
このような評価も手伝って、最近では化粧品メーカーから、中国で販売する化粧品のパッケージ、POP、販売什器などのデザイン、プロデュースの依頼も増えてきました。また、化粧品の中国販売及び販促に関するパートナーとして、一括して任せていただく事例も増えています。
――「美優網 BeauBeau」は、政府系サイトとの提携が多いと聞きました。
そうですね。美容という比較的柔らかいカテゴリーのサイトですが、お堅いイメージのある政府系のサイトとの連携が意外と多いのです。
「違法コンテンツがないこと」、また「全て『made in China』のコンテンツを配信していること」が、政府系サイトからお声がかかる理由だと思います。具体的には、東方網(上海市政府系)、中国網(国務院系)、国際在線(中国国際ラジオ系)、中華網(新華社系)といったサイトの美容コンテンツとして、「美優網BeauBeau」がリンクされています。
――メディア事業だけでなく、化粧品の販売事業も始めた理由は?
創業当初より、「情報流を作った後にモノの商流に関わる」という戦略だったので、いよいよ販売事業を展開するフェーズに入ったという感じです。
昨年末から北京・天津のセブン-イレブン全店(約100店舗)で、今年4月末からは上海久光百貨店の地下1階で「BeauBeau」の専用什器を設置して、化粧品を販売しています。8月には、上海 徐家匯のメトロシティ(美羅城)で化粧品専門店(BeauBeau Plaza)をオープンする予定です。
全く小売店運営実績のない我々が、セブンイレブン、久光百貨店、メトロシティのような最高立地店舗で販売できるのも、「美優網 BeauBeau」というメディアがあり、メディアの会員を店舗に誘導できるからでしょう。
「マーケティングの4P」のうち、「Product」と「Price」は必然的に化粧品メーカーが握っています。我々は、化粧品の中国販売に関して、残り2つの「Place」「Promotion」で貢献できればと考えています。
――中国の化粧品の小売ビジネスには、まだ新規プレイヤーが参入するチャンスがありますか?
中国の化粧品流通チャネルは、まだ非効率です。大手化粧品メーカーで自前の流通チャネルを構築しているところはありますが、卸売や小売でチェーン展開しているのはワトソンズやLVMHグループの「SEPHORA」(セフォラ)くらいです。
そのワトソンズでも、中国全土の店舗数はまだ700店舗程度、SEPHORA(セフォラ)は70数店舗です。それ以外は無数の小規模プレイヤーが占めていて、チャネル全体としては非常に非効率な状況が続いています。
今後は中国でも、いくつかの大きなチェーンへの統合が進み、流通チャネルの効率化が進むはずです。我々も影響力のある立地での店舗数を増やし、この一角を占めるプレイヤーに名乗りをあげようと思っています。
――店舗では、どのような化粧品を販売していますか?
店舗で販売するのは、百貨店の1Fにあるカウンセリング販売の高級化粧品ではなく、消費者が自ら棚から取って思わず買いたくなるような、比較的廉価な「セルフコスメ」が中心です。日本では、プラザスタイル(旧ソニープラザ)やマツキヨなどで販売されています。
最近中国では、こういった日本のセルフコスメの人気が高まり、セルフコスメブランドの中国市場進出が増えています。しかしながら、消費者のブランド志向が強く、流通チャネルも混沌としている中国では、中小メーカーが単独で中国市場を開拓するのはなかなか難しいのが現状です。
そこで、美容メディアを持ち、女性消費者から「化粧品の専門家」と信頼されている我々が、「BeauBeau」ブランドの店舗を展開することで、日本のセルフコスメをスムーズに中国デビューさせ、共に新しい市場を創っていければと思っています。
――同じく、廉価な化粧品を販売するワトソンズなどの競合とは、どのように差別化をしていますか?
現時点で店舗数で劣る我々は、「違い」を出していかなければ勝てません。我々は、日本の「プラザスタイル(旧ソニープラザ)」のような化粧品小売になることを目指しています。売る場所、見せ方、売り方にオリジナリティ、そして何よりもファッショナブルであることを前面に出して、差別化していこうと考えています。
ファッショナブルであることは、流行を作り出す能力に繋がっていきます。「BeauBeau Plazaで売れている商品なら私も欲しい」というトレンドをいかに創っていくか、そして何よりも中国の女性がワクワクしながら楽しくコスメを選べる最高の店作りを目指していきます。
――中国人の「美容」に対する考え方やおカネの使い方は、日本人と比べてどう違いますか?
美容に限った話ではないと思いますが、中国人は、効果に「即効性」を求めるのが特徴でしょうか。「つけたらすぐ肌が白くなる」とか、「クマがすぐ取れる」とか、「髪がすぐにしなやかになる」というような効果が連想できる商品に人気があるようです。
――経営面で一番こだわっているのは、どんなことでしょうか?
「BeauBeauオリジナル」へのこだわりでしょうか。
中国では、後発で事業を立ち上げる場合、トッププレイヤーのやり方をそっくり真似る戦略を取るのが普通です。たとえば化粧品小売をやりたいなら、トッププレイヤーのワトソンズのマネをして、「第2のワトソンズを作る」という具合です。
しかし、2位や3位を目指す戦略ならそれでいいと思いますが、それではトップはおろかオンリーワンにもなれません。我々はマネをせず、「オリジナル」で勝負をするアプローチを取っています。
中国には、「瑞麗」や「Only lady」という女性向けのナンバーワン・ポータルサイトがあります。潤沢な資金があれば別ですが、後発の我々が女性ポータルサイトとして、10年以上の歴史のある彼らに勝つことはできないでしょう。そこで、「美容」というカテゴリーを新たに作り、このカテゴリーでナンバーワンになることを目指しています。
また、最近始めた化粧品専門店も初めての試みです。現在、自分たちで試行錯誤しながら、「BeauBeauならでは」のオリジナル店舗スタイルを作っているところです。「先行するプレイヤーのやり方を、部分的にマネをするのはいいと思いますが、何も考えずに全てコピー&ペーストすることは止めなさい」と社員に言っています。
また、採用方針として、競合に勤めていた人は中途採用しないことにしています。ネットメディアを始めるときも、ネットメディアの経験者ではなく、コンサル・広告出身者、新卒などを採用して始めました。
今回のように化粧品小売事業を始めるときも、たとえばワトソンズからそれなりの人を引き抜けば、短期的には早く事業が立ち上がるのかもしれません。しかし、それでは結局ワトソンズを超えることができないので、我々はそういう方法を取りません。「BeauBeauらしさ」は、自前で一から作り上げることで生まれると思っています。
当然、オリジナルにこだわり、自分達で一から仕組みを作り込むアプローチを取ると、スピードも遅くなり、経営者としてじれったいのは事実です。しかし、あえてこのオリジナルアプローチを継続していくことにより、企業として強固な基盤を創り上げるつもりです。
会社を立ち上げたときから一緒にやってきている、BeauBeauを本当に愛してくれている社員たちが、現在マネジャーとして弊社の中核を担っています。そういう中核のメンバーが自ら頭で考えて作り上げてきたビジネスだからこそ、愛着を持って働いてくれるのだと思います。そしてこういうことの繰り返しで、カルチャーができ上がっていくのだと思います。
――今後の事業の展望は?
現在の化粧品市場規模は、日本が2.5兆円、中国は1.5兆円ですが、今後5年で中国が日本を抜くと言われています。この差額1兆円の争奪戦に、まさに我々も参戦しているのです。
昨年から今年にかけて、創業時に描いていたビジネスプランが、ようやく目に見える形にまとまってきたと感じています。3年をかけて土台を築いてきた美容ポータルサイトの「美優網 BeauBeau」は、順調に会員数も増えています。
また、昨年から今年にかけて、日系の化粧品メーカーから中国販売に関する問い合わせもかなり増えています。そして昨年末に満を持して参入した化粧品のリアル店舗販売も、遅くとも今年の終わりくらいまでには「BeauBeau」オリジナルのノウハウが貯まり、多店舗展開へ舵を切れると思います。
加えて、中国のネット上で最も成功している美容専門ポータルサイトである経験を生かし、女性向け消費材のPR及びコミュニケーション業務を行なっております。スタッフは全員女性。女性ならではの視点で、ブランドの中国デビューから成長への宣伝をサポートします。
――最後に、これから中国マーケットに進出しようと思っている日本企業の経営者に、一言アドバイスをお願いします。
中国で9年間ビジネスをしていて思うのは、日系企業が中国で成功するためには、「創業者自らが第二創業するくらいのエネルギーをつぎ込まないとダメだ」ということです。
創業者が経営するオーナー企業が多い日本の中小メーカーは、ある意味一度成功した企業です。ただし過去に成功した理由は、商品の魅力や経営者の能力だけではなく、そのときの時流や流行もあります。
つまり、中国大陸において同じやり方で再び成功できるかどうかは、未知なのです。日本で人気がある商品は、中国でも人気が出る可能性が高いことは否定しませんが、単に市場に投入するだけでは、中国で人気商品にはなりません。
そこには、人気商品にするための「論理的な戦略」が必要となります。しかも、日本の成功体験を引きずった戦略ではなく、中国の市場にあった戦略が必要です。中国は、創業オーナー自らが、「人任せではなく第二創業」という意気込みで、創業時と同じエネルギーを投入しなければ、うまくいかない市場なのです。
中国は今、ビジネス・オリンピックの会場です。世界各国の企業や個人がこの巨大市場を手に入れるために、しのぎを削っています。ビジネスが成功した後の分け前を増やすことを考えるよりも、まずは競合に勝ち、ビジネスを成功させることが重要です。
ビジネスの成功確率を高めるためには、全て自前でやろうなどと考えずに、最初から必要かつ適切な事業パートナーと組み、必要な規模の投資も行ないながら、競合に先んじて行くことが大切でしょう。
■「美優網/BeauBeau」について
「美優網/BeauBeau」は、三井物産や日本最大のコスメコミュニティ「@cosme」を運営するアイスタイル社との資本提携を経て2007年1月にグランドオープン。中国国内で販売されている国内外の400ブランド、13,000点の商品データベースと、化粧品(美容)のみならず美髪、美体に関するコンテンツを備えた、中国最大規模の化粧品クチコミ&美容情報ポータルサイトです。さらにフリーマガジン「美優」とのクロスメディア展開により良質な読者を囲い込み、読者と共に作り上げていく中国初の本格的コスメ・ポータル&コミュニティ・メディアとなっています。
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