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白熱激論! 電子教科書は日本を救うか 第4回

2011年01月06日(木)現代ビジネス 田原総一朗

田原: ずっと以前に孫さんにお会いしたときに、あなたが非常に重大なことをおっしゃった。私はそれが焼き付いているんです。

孫: 何ですか?

田原: 2018年頃にはコンピュータ・チップの容量が人間の脳細胞の容量を超える、とおっしゃってました。

孫: さすが! まさに2018年、そう言っています。よく覚えておられましたね。

田原: 今までは人間が問題を出してコンピュータに解かせてきた。ところが将来はコンピュータが自ら問題を出せるようになる。そうなると世の中は根底から変わるとおっしゃた。

孫: ええ。変わるんです。

田原: 具体的にはどう変わるのですか。

孫: 人間の脳は、脳細胞の中にあるシナプスが「くっついた」「離れた」の二進法で動いている。みなさんが今この話を聞いて、「すごいな」とか「バカ言ってるな」とかいろいろ思っておられるのも、すべて二進法で考えているわけですね。つまり脳細胞のくっついた、離れたの組み合わせで、すべてを記憶したり考えたりしている。この数が300億個あるわけです、人間の頭の中に。

 コンピュータのチップに入るトランジスタ、これも二進法です。人間の頭の二進法と同じトランジスタ、これが300億個を超えるのはいつか、ということを20年前に僕が推論で計算した。そうしたら2018年だという答えが出たんです。

 で2年前にもう1回検算した。やっぱり2018年だった。つまりその後の20年間の進化はやっぱり予想した通りだったということですね。

 2018年に人間の脳細胞に追いつき、じゃあ、そのあとどうなるか。そこから30年間で人間の脳細胞の100万倍になるんです。

田原: じゃあ人間、いらなくなるじゃないですか。

孫: いらなくはならないんだけれど、いわゆる丸暗記というのになんの意味があるんだということになる。検索するよりも答えが早く出てくる。

田原: 検索するよりも早いんだ。

孫: つまり検索は指でやるでしょう。

田原: 人間が入力したするする必要がないんだ。

孫: ええ。要するに頭の中で、「あれはなんだろう」と思った瞬間に答えが頭に浮かぶ、目に浮かぶ、あるいはディスプレイに出る。

 つまり人間の細胞っていうのは頭と、たとえば指が神経細胞で繋がっていて、微弱な電流が流れているわけです。電流でその神経に命令をしている。つまり「人体内ローカルエリアネットワーク」です。脳と通信をしている。しかも通信の媒介は電流です。

 コンピュータのチップも通信をします。記憶は全部電流でやっている。同じ電流で、しかも二進法です。人間の脳細胞とまったく同じ役割です。

 ということはこのチップをですね、ペタッと額に貼る。そうすると、ペタッと貼ったチップと脳が通信をして、思い浮かべたこと、あるいは自分の記憶の延長として、「外脳」がチップに入る。人間の左脳、右脳に対して、外脳のチップ、これが人間の脳の100万倍の容量を持つようになる。

 

 

◇「ソフトバンクはテレパシー・カンパニーになる」!


田原: そうするとたとえば僕がペタッと貼っておき、孫さんがペタッと貼っておくと、僕が思ったことを、僕がしゃべらなくても孫さんは分かってしまう?

孫: そうです。

田原: 「田原はこんなことを今思っている」と。

孫: そうです。

田原: 「こいつ俺を殺そうと思っている」な、なんてわかる。

孫: そう(笑)。チップを貼って、これ"チップ・エレキバン"。

会場 (笑)。

孫 僕のチップ・エレキバンと先生のチップ・エレキバンが無線で通信する。これをテレパシーと呼ぶ。

田原: 本当のテレパシーだ。

孫: 本当のテレパシーです。だから「今から30年後のソフトバンク、何をやっているの? 300年後のソフトバンク、何をやっているの?」というなら、「ソフトバンクというのはテレパシーカンパニーだ」と言えるかもしれない。

田原: テレパシーって言うと今は超能力だけど、そうじゃない。コンピュータが実際にやっちゃうわけだ。

孫: 科学的にやる。だからそういう時代がくるんです。

田原: ちょっと待って。今、体を使う機会が減って筋肉をがだんだんいらなくなっているでしょう。そういう時代だと、脳もいらなくなるんじゃないですか?

孫: いるんです。ますますいります。

田原: そこを聞きたい。

孫: 何でいるか。単純な記憶は外脳のチップ・エレキバンに入れておく。単純な記憶はそこから検索する。それをベースに、それを材料としてどう使うか、それをイマジネーションする、想像する、クリエイティブする、それが人間の脳の役割です。

 だから人間の脳というのは、よりアートだとか、哲学だとか、愛だとか、その問題解決、提案能力、企画能力として必要なんです。

 いまのアップル社に例えていうと、組立業ではなくイノベーション、デザインを行う企業になっているでしょう。そういうことですね。

 

 

◇コンピュータが人間を超えるとき!


田原: コンピュータには創造性というのはないんですか。

孫: いずれ出てきます。

田原: 2018年くらいにはまだそういう能力は人間にあって、コンピュータにはない?

孫: そうです。

田原: そっちが出てきちゃったら、ホント、人間いらなくなっちゃう。

孫: でもね、いずれ出来るようになります。いずれ出来るんだけれど、その彼らと人間が、ある意味、競い合いながら、でもある意味、融和しながら進化するという時代が、今から100年後にはくる。おそくとも200年後にはくる。

田原: 100年後は孫さんいない。しかし少なくとも20年後はまだ健在だ。その後はコンピュータが超えちゃうわけだ、人間を。

孫: チップの能力は、ですよ。まだソフトの能力は遅れてますから、そこまで若干の時間の余裕はある。でもこれは時間の問題です。人間を超えていくのは間違いない。

田原: そうするとソフトバンクのやっていることもだいぶ変わりますね。

孫: 変わりますよ、変わりますよ。だからまさにそういう意味で教育の内容を変えなきゃいけないということなんですよ。

田原: よく分かる。

孫: 要するに丸暗記中心で、問題を解くよりも大切なことがある。人間の100万倍も計算速度と記憶容量のチップがあったら、そんな付加価値の低いことやってどうすんの、と。

 

◇製造業はどこへ行ってしまうのか!


田原: 今日は教育関係を中心に100人以上、この会場にはいます。せっかくなので2~3人質問を聞いてみよう。

孫: いいですよ。

田原: (会場に向かって)何か孫さんに聞きたい、ってことあったら・・・。はい、女性の方。

質問者A 1番最初にお話のあったことについて伺いたいんです。アップルの社長が「自分の社員には単純労働のようなことはさせられない。イノベーションだ」と言って、組立作業をどんどんどんどん違うところ、たとえば台湾にほうに製造業を回していった。では、世界中の人たちがイノベーションに目覚めたら、製造業はどこに行ってしまうんでしょうか。

孫: まぁ、最後はロボットになります。組立業の最後はロボットになる。ロボットがロボットを組み立てる、ロボットが自動車を組み立てるというふうに最後はなります。でもそうなる少し手前は、日本よりも10分の1の賃金で労働者を使える国々に移っていきますね。それが中国でありインドでありメキシコであり。

田原: ユニクロの柳井(正・ファーストリテイリング会長兼社長)に会ったんだけれど、今ユニクロは中国で生産しているわけ。だから安い。売れる。

 で、「もう中国から、そろそろ次はバングラデシュに行く。で、バングラデシュで生産してもらって、中国で売るんだ」と。こういうことですよね。

 

孫: そう。おっしゃる通りです。

 だから要するに、日本の労働人口というのは6000万人くらいしかいない。会社に例えて6000人社員がいるとします。この6000人の社員に何をさせるか。より付加価値の高い、1人あたりの賃金の高い、よりやりがいのある仕事に6000人をシフトするか、より賃金の低い単純労働の組立業で中国と闘うか、バングラデシュと闘うか。どっちが社員にとって幸せかということです。

 これから付加価値の低い、賃金の低い単純労働の組立業に向いた労働者を先生方がどんどん再生産していく、そういう労働者をこれから6000万人作っていくということになると、その子たちの将来はどうなりますか。先生方の罪が1番重いということになるわけですよ。

田原: つまりバングラデシュや中国で出来るようなものと同じ仕事をしている人は、バングラデシュや中国と同じ賃金になるんですよ。

孫: そういうことなんです。だから「格差社会反対」って言うけれど、格差社会に反対ならば、世界的な格差社会の中で、より日本全体が墜ちこぼれになるか、その大きな格差社会の中で日本全体を上位の側に持っていくか、これが教育の基本理念、思想の中にないと・・・。これが国家戦略だと思うんですよね。

 

 

◇「電子教科書の金は誰が出すんですか?」


田原: じゃあ、次の人。はい、あなた。

質問者B 電子教科書が導入されたとして、現場はどうなるんでしょうか。僕は群馬県のある村の中学で教師をやっているんです。そこはおカネとしては全国でも3番目くらいに教育の備品を購入出来るという状態にあるんです。

 ところがパソコンに関しては、僕は国語の教師なんですけど、「インターネットで検索して国語のレポートを書こう」という課題を出して、パソコン室に行ったんです。パソコン室にあるのは、ウインドウズXPで、そして全員でインターネットを使い始めたら全部落ちちゃった。で、子供たちはiとlの区別も付かない。

 つまり、たとえば電子教科書が配備されたとしても、積まれているだけの状態が出来てしまうんじゃないでしょうか。そこの部分をどういうふうにするのか。ハードが用意されてもまったく使いこなせていない現状があるわけです。そこをどうするのかっていうのが非常に難しいのかなと思うんですけど。

孫: おっしゃる通りですね。だから今までのやり方ではダメです。それは間違いない。つまり、パソコンを普段は真っ暗なパソコンルームに鍵をかけて入れているという状態がそもそも間違っている。

 すべての学生とすべての先生方のカバンの中に、ランドセルの中に1人1台、毎日いつでもどこでも持ち歩けるようにすればいい。ここにiPadがありますけど、こういう状態でどこでも持ち歩く。

 僕なんて今これ、風呂に行くのにもトイレ行くのにも、車の中でも旅行に行くのでも、どこでも持ち歩いている。ないと気持ちが悪いという状態ですよ。

田原: 孫さん、素朴な質問ですが、そのカネは誰が出すんですか。

孫: それはですね、それは逆に言うと、国家が出すべきだと思うんです。

 ちなみにこのiPadの配布は280円で出来ます。

田原: 280円! 1個? 今数万円するじゃないですか!?

会場 (笑)

孫: いやいや、これが月280円。

田原: あ、月ね。

孫: 1台月280円。これはすべての先生と生徒にはタダで渡すと。2000万台。

 小学校から大学生まで、専門学校や聾学校も全部含めて1800万人のすべての学生と、200万人のすべての先生方に全員タダです。会場のみなさんも「なんか今日はいいこと聞いた」って思いませんか?

 これは、月1万3000円の子ども手当の内数として、月280円分の現物支給とする。そして残り1万2720円を現金で支給する。つまり子ども手当の内数とすれば、新たに税金を投入することもない。今1万3000円子ども手当を渡していても、親のパチンコ代に消えている。

田原: そういう人もいるでしょう。

孫: なかにはね。

田原: うん。

 

文科省の役人の目が死んでいた!


孫: 1番大切なのは子どもの頭に投資する、日本の未来に投資することです。280円を内数として、全員にタダで現物支給で渡す。それで宿題の添削だとか、○と×を付けるくらいは自動でやらせる。

 むしろ先生方は、赤ペン先生の赤ペンの部分に力を入れて、生徒とコミュニケートする。ということにすれば、先生方の採点に使っている時間がぐっと圧縮出来てる。その時間をもっと知恵だとか知識だとか会話だとかディスカッションとか、そういうものに使えばいい。

田原: この話は文科省でやりましたか。

孫: 言った。

田原: 言ったらどうでした。

孫: 目が死んでいた。

田原: あ、死んでた。

会場 (爆笑)

孫: 「もうたいがいにせい」と僕は思ったね。

田原: もう1人行こうか。

 

◇農業はIT農業、漁業はIT漁業になる!


質問者C 孫さんはIT関連産業の労働者比率を3%から30%にしようという。でも産業自体がサービス化されることがたぶんポイントであって、IT産業でプログラマーとかエンジニアがたくさん生まれることはポイントじゃないと思うんです。

 医療の従事者とか教育従事者が(サービスの使い方を)分かっていればそれでいい。産業構造の比率というのはあまり関係ないんじゃないでしょうか。

 それと、子どもに対する教育のことです。彼らが勉強して20年、30年たって戦力になるときに、まさに決定権者が知識に乗り遅れていて(若者が)ストレスを抱えてしまう。当然海外に流れて流れていくだろう。そう考えれば電子教科書を使うべきなのは、子供ではなくわれわれ教える側のほうじゃないのでしょうか。

 結局、子どもに押しつけているんですよね。そうではなく、今われわれがもう少し学ぶ場というか、デジタル教科書を使って、そこからなにかを得て子どもたちに投資をするというプランのほうが、差し迫った現状を解決するソリューションになるんじゃないかなと、考えるんですけど、いかがでしょうか。

孫 「30%くらいがIT 関連だ」と申し上げましたけど、残り70%のほとんどの人もITを自分の本業で活用する、そういう時代になると思うんです。

 IT農業でありIT漁業でありIT流通業でありIT金融業でありITサービス業でありというふうになる。あらゆる産業の基本的基礎能力としてITを最大限に活用するということになる。僕が申し上げた「国民の総人事異動」というのはそういうことなんです。

 大人がITを使うのは当たり前ですけど、でもね、大人になって急に英語を勉強しようと思ったって、あんまりしゃべりきらないでしょう。僕は16歳の時からアメリカに行っているからある程度しゃべれるんですけど、僕が30歳になって中国語を勉強しようと思っても無理です。無理。

 だから言語で言えば、僕は小学校1年生から、少なくとも国語、英語、もう1つがIT 語。この3つの言語は早ければ早いほどいい。小学校1年生から、日本語、英語、IT語を教える。脳が少し固まってしまった後にいろんなあとにいろんなことを覚えようとしても無理です。応用が利かない。

 こういう覚えなきゃいけないことは、出来るだけ頭が柔らかいうちにやって、途中からもっと考えるほうに力点を擱くようにすべきだと。

 そういう意味で、「子どもに押しつける」という言葉は気にくわないので、押しつけるのではなく、子どもには「デジタル・ネイティブ」として生まれたときから、あるいは小学校の1年生、最初にあいうえおを書くときから、英語もIT 語も当たり前のように電子教科書を---最初に紙と鉛筆を使うかのごとく---使うというふうになるべきだと思います。

 

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