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中国人民解放軍
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E6%B0%91%E8%A7%A3%E6%94%BE%E8%BB%8D


ゲーツ国防長官の訪中~中国株式会社の研究(93)

2011.01.14(Fri)JBプレス 宮家邦彦

急で申し訳ないが、今晩飯でも食わないか?」。1月12日午後、突然米国の旧友からこんなメールが届いた。実名は書けないが、彼は米有力紙の外交記者、ロバート・ゲーツ国防長官の「中日韓」歴訪の同行取材で東京に着いたばかりだという。(文中敬称略)

 久しぶりの再会で話が弾んだ。「中国では毎回サプライズがあるが、今回も例外ではなかったよ!」

 どうやら、11日のゲーツ・胡錦濤会談の直前に第5世代ステルス戦闘機「殲20」試作機が初の試験飛行を行ったことを指しているようだ。

胡錦濤は知らなかった?


この友人との会話を再現しよう。

友人 国防総省高官は、「ゲーツ長官が試験飛行について質問した際、胡錦濤総書記もほかの文民高官もその事実を知らなかったことは明らかだ」と言っていた。

筆者 その話は報道で読んだが、本当なのか?

友人 ああ、当初は返答がなかったが、会談の後半で胡錦濤は「試験飛行は事前に計画されていたが、ゲーツ長官訪中とは全く無関係だ」と述べたようだ。

筆者 その話も報じられているが、「無関係」のはずはないだろう。今回の試験飛行は米国政府だけでなく、胡錦濤個人に対する解放軍のメッセージではないか。

友人 同感だ。人民解放軍は米国との軍事交流を心底嫌がっている。近く訪米する胡錦濤が解放軍に対し軍事交流再開を働きかけたことへのしっぺ返しだろう。

解放軍の弱さと焦り!

会話はさらに続く。

友人 今、北京では「つい最近、習近平国家副主席が成都の空軍基地を訪問し、殲20の開発状況を視察した」という噂がまことしやかに語られているそうだ。

筆者 さすがは中国、いかにもありそうな話だね。それにしても、分かりやすい人たちだなぁ。今回の試験飛行を含め、最近の人民解放軍の「自己主張」をどう思う?

友人 空軍戦力の近代化をアピールするためだと言われるが、自分はそうは思わない。むしろ、人民解放軍の「弱さ」の表れではないかとすら思う。

筆者 確かに。本当に強い軍隊であれば、あんな子供じみた真似はしないはずだ。解放軍は弱いからこそ、米軍との軍事交流を頑なに拒否しているのだろう。最近の人民解放軍には焦りすら感じられる。

 中国の労働人口は2015年にもピークアウトするので、それまでに何らかの結果を出し急いでいるかのようだ。ところで、ゲーツ長官は冷戦時代の米ソ戦略核交渉のようなものを中国とも行う気があるのだろうか?

友人 削減交渉を行うことはないが、核兵器などに関する情報交換はやりたいだろう。そもそも、米国中国内部の核兵器に関する指揮命令系統、緊急時の連絡体制など、詳しいことは何一つ知らされていない。これは非常に危険なことだ・・・。

 友人同士の戯言はまだまだ続くが、ここで話題を変えたい。報道では中国の「次世代ステルス戦闘機開発」や「文民統制の欠如」などに注目が集まっているが、今回の試験飛行実施は、より本質的な意味で、極めて深刻だと思うからである。

国防省高官の政策スピーチ

 1月6日、ワシントンで米中軍事交流に関する国防省高官の講演会が開かれた。スピーカーはシファー国防次官補代理、ファインスタイン上院議員の外交スタッフも務めた東アジアの専門家だ。

 このスピーチ、日本ではほとんど報じられていないが、ワシントンのアジア関係者の間では注目されている。将来の米中軍事関係を占う上で極めて重要な論点が含まれているからだ。

 ちょっと長くなるが、まずはその概要をご紹介したい。

●現在アジアでは歴史的な「力の変転(power transition)」が起きており、注意深く管理しなければ、不確実性、不安定性、ひいては紛争に至る危険性がある。

バラク・オバマ政権の対中政策は、(1)米中協力強化のための不断の努力、(2)同盟国との関係強化、(3)中国による国際的義務・ルールの遵守という3つの柱からなっている。

●特に、問題解決に向けて機能する地域的枠組み(アーキテクチャー)作りは重要であり、対中政策もこのような米国の対アジア政策全体の一部であるが、現在も米中両国間の「戦略的理解」は十分とは言えない。

中国軍の将来の能力と意図が不明確であることが米中軍事関係を極めて(extraordinary)困難にしており、この問題を是正することは極めて重要である。

●中国の軍事面での不透明性は、米国だけでなくアジア地域全体に不安を与えている。これをうまく管理しなければ、誰も望まない危険な「安全保障上の競争」が始まるだろう。

米国は両国間の「意思不疎通、誤解、誤算のリスク」を減らすべく継続的で信頼できる軍事交流を望んでおり、両国間で事件・事故のリスクが高まることは米中双方にとって利益とはならない。

●米中軍事対話は平時だけでなく、将来不可避である両国間の摩擦が生じた際にも、強力で適切なコミュニケーションチャンネルとして機能するだろう。

●米中軍事交流の4つの目的は、(1)両国の軍・国防幹部が、不測の事態でも機能する明確で継続的な意思疎通のチャンネルを持つこと、(2)米中双方の軍人の安全を高めること、(3)相互に相手の能力、意図、ドクトリンを正確に理解できるようにすること、(4)人民解放軍が地域の責任あるパワーとしての役割を果たすよう慫慂することである。

●これらの目的を達成するための6つの原則は、(1)相互尊敬、(2)相互信頼、(3)相互主義、(4)相互利益、(5)対話継続、(6)相互のリスク縮小である。

●米中両国は、核兵器、ミサイル防衛宇宙・サイバー戦などの戦略的問題だけでなく、北朝鮮問題など地域の安全保障問題についても話し合うべきだ。こうした議論は究極的には中国自身の利益にも資するものである。

米国の提案に冷淡な解放軍!

 要するに、「今米中軍事交流を真剣に進めないと、将来米中間で軍事衝突を含む不測の事態が必ず起きますよ。その場合、米国は本気で軍事力を使いますよ。それは決して中国の利益にはならないでしょう?」と暗に言っているのだ。

 これらはいずれも、従来、米側が中国に内々伝えてきた内容だろうが、このスピーチの意味は、ゲーツ長官訪中の直前に、極めて強い対中メッセージを公の場で発したことにある。

逆に言えば、米国は「もはや水面下の説得では効果がない」と考え始めているということだろう。

 しかし、誇り高き人民解放軍が中国側の面子を潰すような「米国式恫喝」に屈するはずはない。

 今回の殲20試作機の試験飛行は、米国防総省からの呼びかけを事実上拒否するとともに、解放軍の反対にもかかわらず米中軍事交流を進めようとした胡錦濤警告を与えるメッセージだったと思えてならない。

 今回のゲーツ訪中では、米中が「軍事交流を本格的に再開する」ことで合意したことになっているが、その真相は19日から始まる胡錦濤総書記の訪米で明らかになるだろう。

 胡錦濤は一体何を語るのか、訪米中に人民解放軍はどう動くのか、興味は尽きない。次回はこの「胡錦濤訪米」に焦点を当てつつ、解放軍が米中軍事交流を嫌がる本当の理由について考えてみたい。

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