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製造工程の病治療の次は、設計工程だ!

2010.12.28(Tue)JBプレス 湯之上隆

 半導体デバイス原価の50%以上は、製造装置代である。したがって、利益率を上げるためには、製造装置コストの低減が必要不可欠である。そのためには、500ステップ以上になる工程数をどうやって削減するかがキーポイントとなる。

 以前、本コラムで、インテルは最終製品から逆算して、コスト最優先で工程フローを構築していることを紹介した(図1) 。つまり、PCの原価を10万円、プロセッサーの原価を1万円と設定し、原価1万円になるように工程フローを構築するのである。

コスト度外視で工程フローを構築する日本メーカー!

 一方、ほとんどの日本半導体メーカーは、工程フロー構築時に性能と品質を最優先し、コスト意識がない。その結果、工程数が果てしなく多くなり、それを基に量産工場に多数の製造装置を並べることになるため、利益が出ないのである。

 例えば、最も高価なリソグラフィー装置は、現在、55億円もするという。500工程のフローならば、10台のリソグラフィー装置で足りるかもしれないが、700工程のフローの場合は15台必要かもしれない。これだけで、275億円もの差が出ることになる。

 現在、最先端の半導体工場を1つ建設するのに3000億円以上かかると言われている。そのうち、少なくとも2200億円が設備代である。もし、上記のように、工程数が1.5倍になったとすると、3000億円で済む設備投資が4000億円を超えることになるのである。

 これが、過剰技術で過剰品質を作る日本半導体産業の「病気」である。

 筆者は、2004年頃から各種雑誌への寄稿や講演などで、この病気の治療が必要であることを訴えてきた。しかし、当事者たちは、病気を認識することもできず、したがって、治療もなされていなかった。

 昨年、ある半導体メーカーの執行役員からは、「分かっちゃいるけれど、どうにもできないんだ」という嘆き話も聞いた(しかし、少しも同情できない。このようなことを実行するのが執行役員なのではないか。筆者の何倍もの高給をもらっているのだろうし)。

 6年以上も言い続けたが、蔓延している病気が治る兆しは一向に見えない。筆者としても、同じ主張をし続けることにだんだん疲れてきていた。

エルピーダが工程減らす新技術を開発!

 そのような中、2010年12月11日の日本経済新聞に、このような記事が掲載された。「エルピーダは、主力製品であるDRAMの構造を簡素化して製造工程を減らす技術を導入した。(中略)加工工程を減らせば、それだけ投資額は少なくて済む。今年、台湾の子会社の加工技術を65nm(ナノメートル)から45nmに微細化した際、通常なら1500億円必要だったが、この4分の1に圧縮できた(後略)」とのことである。

 やっと、筆者の主張を実現する半導体メーカーが現れたことに喜びを感じる一方、なぜ、こんなに時間がかかってしまったのかと残念にも思う。何しろ、筆者が主張し始めてから6年もたっているのだ。

 また、「4分の1に圧縮」ということは、これまでは4分の1に圧縮せずに、つまり、4倍も不必要な投資を行ってDRAMを作ってきたわけである。これでは、利益率が低くても致し方あるまい。

 さらに、記事には、「資金繰りが苦しい中で投資を低く抑える技術の開発に取り組んできた」とある。もし、資金が潤沢にあったら、このような見直しは永遠になされなかったということなのか? そう考えると、空恐ろしい気がする。

 しかし、時間がかかろうとも、たった1社であろうとも、病気治療に取り組み始めた半導体メーカーが出てきたことを、素直に喜ぶべきなのだろう。

設計のやり方で原価に差は出るのか?

 ここまでの話は製造プロセスに関するものである。図1に示した通り、プロセス開発の前には、設計工程がある。しかし、筆者はプロセス技術者出身で、設計を行ったことがない。設計技術者が何を考えて設計しているかもよく知らない。

 インテルの事例が示すように、プロセス開発の初期過程が、半導体の原価に大きく影響している。すると、その前にある設計のやり方によって、半導体の原価に大きな差が出るということもあるのではないだろうか?

そこで、設計に詳しい半導体業界の人々に、聞き取り調査を試みた。

 まず、ある大手半導体メーカーの元設計責任者(元社長)にヒアリングしたところ、「設計のやり方でコストに差が出るだって? ・・・(しばらく考えて)そうかもしれないけど、どうなのかな?」とクエスチョンマーク付きの回答であった。そして、「俺はもう引退したんだ。現役を紹介するから、そっちに聞いてみろ」と別の方を紹介された。

 次に、新たに紹介された設計関係のコンソーシアムの責任者(社長)に、同様なヒアリングを行ったところ、「・・・(やはりしばらく考え込んで)、実証するのは難しいが、そうかもしれない。どうなんだろう?」と、やはりクエスチョンマーク付きの回答であった。そして、「俺はビジネスに関わっていない。実際にビジネスをやっている者を紹介するからそちらに聞いてみろ」と、また別の方を紹介された。

 さらに、上記で紹介された、ある大手半導体メーカーの設計統括部長に同様なヒアリングをしたところ、「設計のやり方でコストに差が出るだって? そんなことはあり得ない。設計なんて誰がやったって同じなんだ。デバイスのコストに差が出るということはあり得ない」という信じられない回答を耳にした。

 2時間かけて様々な角度から質問を行ったが、「設計でコストに差は出ない!」と一蹴されてしまった。筆者は驚くとともに信じられない思いであった。

コストに敏感な設計ファブレスの回答は?

 これらの回答に満足できなかった筆者は、設計ファブレスへのヒアリングを試みた。設計ファブレスは、設計だけで収益を上げている。きっとコストに敏感であろうと思ったからだ。3社にヒアリングした結果、概ね、次のような結果を得た。

 「設計には、大きく分けて4段階ある。まず、第1段階のアーキテクチャの設計。ここで、最もコストに差が出る。うまい設計者とアホな奴とでは、半導体デバイスのコストに10倍の差が出る。

 次に、第2および第3段階の論理設計および回路設計。ここでは、うまい設計者とアホな奴とでは2~3倍の差が出る。

 最後のレイアウト設計。ここでは、うまい設計者とそうでないのとでは、数十%の差が出る」

 やっぱり! 設計で差が出るじゃないか! それも、最上流の設計工程では、なんと10倍ものコスト差が出るとのことだ。

設計のやり方で、デバイスのコストに差が出ないのか?」と質問されて、「出る」と即答できない設計関係者、および「差が出る筈がない」と断言した設計関係者は、一体どのような設計を行っているのだろうか?

生産段階になって右往左往するCEO!

 新製品開発におけるCEOの活動プロフィールを調査した論文がある (図2)。この論文における「新製品」とは、半導体に限らない。新製品は、「研究→設計→開発→生産→マーケティング→営業」を経て、市場に投入される。

新製品の行く末に対する影響力は、上流ほど大きい。したがって、CEOが最もその能力を発揮しなくてはならないのは、研究、設計、開発などの上流段階である。

 しかし、多くの産業、多くの企業におけるCEOの典型的な活動プロフィールは、そうはなっていないという。上流ではなく、生産やマーケテイングなどの下流段階で、CEOは積極的に関わろうとするのである。ところが、この段階では、時すでに遅し。新製品の行く末に影響することはほとんどできない。

 なぜ、このようなことが起きるのか? それは、図3に示したように、研究、設計、開発などの上流段階でほぼコストが確定するにもかかわらず、実際に大きなコストが発生するのは生産段階であるからだ(特に半導体産業では、生産段階で発生するコストは巨額である)。

そのため、コストが発生する生産段階で、CEOが右往左往するのである。しかし、この段階では、コストはほぼ確定しているため、大したことはできない。

 日本半導体メーカーのCEO殿、貴社の研究、設計、開発は大丈夫ですか? 巨額の投資が発生する生産だけに神経を奪われていませんか? 設計や開発の初期過程を野放しにしていませんか?

 量産工場で製造する前に、コストの勝負はついていますよ。

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