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英調査機関がまとめた食料危機の真実!
2011年2月24日 大竹剛
英政府のシンクタンク、フォーサイトが「The Future of Food and Farming: Challenges and choices for global sustainability」という調査結果をまとめた。分かりやすく言えば、未来の食料危機にいかに備えるか、という内容である。発表されたのは1月24日。食料価格の高騰をきっかけに起きたチュニジアの政変がエジプトに飛び火し、大規模なデモに発展する前日というタイミングだった。
34カ国から参加した約400人の専門家によってまとめられたというだけあり、現在の世界の食料システムが抱える問題を網羅している。北アフリカで始まった社会不安の増大を引き合いに出すまでもなく、今年は食料価格の高騰が世界的な関心の的だ。2月18~19日にパリで開催されたG20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議でも、投機資金の流入などによる食料価格の高騰を監視するため、市場の透明性を強化することに取り組むことを表明した。
2050年までに世界の人口は90億人に達すると言われる。調査報告は、食料システムの改善に取り組み農業で革新を起こさなければ、世界の人口を養えなくなると結論付けている。安全性を十分に検証することを前提としながらも、遺伝子組み換えなど最新技術への積極投資を促していることから、一部では批判の声も上がった。
調査報告が指摘する内容は、食料問題を考える際に参考になる。調査プロジェクトの代表を務めたオックスフォード大学のチャールズ・ゴッドフレイ教授は、「今すぐ行動を起こすことが必要」と強調する。いくつか、ポイントをまとめておきたい。それらは、企業にとっても農業分野で新たなビジネスチャンスを探す上で参考になるはずだ。
10億人が食べ過ぎで生活習慣病
まず、現在、世界の食料システムは、どのような状況あるのだろうか。
報告書が真っ先に指摘するのが、世界で9億2500万人が飢えているという事実だ。ビタミンなど栄養不足という“隠れ飢餓”の状態にある10億人も含めれば、実に20億人が飢えていることになる。その一方で、10億人が食べ過ぎの状況にあり、生活習慣に起因する糖尿病な心臓病などのリスクを抱えている。
また、カロリー摂取という観点で見れば、過去40年間に世界のカロリー摂取量は15%上昇した。先進国ではこの10年は高止まりしているが、新興国は今も急増中だという。特に、東アジアでは1969~2005年の間に41%も高まった。ただし、アフリカのサブ・サハラ地域では同期間に3%しか上昇しておらず、過去2年は減少した。
1人当たりの農地は減少、生産性も低い
地球上には、開拓が可能な土地がまだたくさん残されていると想像されがちだが、必ずしもそうではない。実は、過去数10年、農地はほとんど広がっていない。1967~2007年に世界の穀物生産量は115%増えたが、農地の拡大は8%のみだった。人口1人当たりの農地は同期間に、1.3ヘクタールから0.72ヘクタールに減少した計算になる。
作物の生産性についてはどうか。小麦を例に挙げれば、英国やドイツ、デンマーク、フランスでは、到達可能とされる生産性に近づいているか、一部では上回っている状況であり、これ以上の生産性向上は難しそうだ。その一方で、東欧諸国やロシアなどでは、到達可能な生産性と比べると、実際の収穫高は半分にとどまっている。
調査報告書では、現在手に入る技術を使うだけでも、アフリカの多くの地域で生産性を2~3倍に、ロシアでは2倍に拡大することが可能だと指摘する。全世界では、約4割引き上げることが可能だ。生産性が低い原因は、農業に携わるヒト・モノ・カネの不足に加え、道路や倉庫、市場、その他サービスなどのインフラ不足、さらには政情不安や政治・経済運営の失敗などの外部要因もある。
農業をする上で、エネルギーと水も欠かせない。いずれも、世界の人口増加によって争奪戦が勃発しかねないもので、農業にも深刻な影響を及ぼす。
まずはエネルギー。世界のエネルギー需要は2006年から2030年までに45%、2050年までに2倍に上昇し、エネルギー価格の高騰を招きかねない。エネルギー価格の上昇は、特に、窒素肥料の生産に大きな影響を及ぼす。実際、2005~08年に窒素肥料の価格が約5倍に上昇したのは、石油価格の高騰に起因するところが大きいという。
そして水。現在、川や地下水から取得した人類が利用できる水の7割は、農業に利用されている。食料需要の高まりを受けて、世界の農業用水の需要は2030年までに30%、2050年までに2倍に上昇する。特に新興諸国では産業用水や飲料水の需要も高まることから、農業向けにいかに水を確保するかが極めて重要な課題となる。水不足から地下水を過度に汲み上げたり、粗悪な灌漑(かんがい)を実施したりすることで、環境破壊のリスクも高まっている。
食料の3割はゴミとして捨てられている
食料の流通・消費構造にも、大きな無駄がある。報告書は、世界で約3割の食料が、消費者の胃袋に入る前に消失しているか、ゴミとして捨てられていると指摘する。
低・中所得国では、食料を保存する倉庫や迅速に輸送する交通手段などのインフラ不足が、せっかく収穫した食料の多くを無駄にしてしまう大きな要因になっている。一方、高所得国ではフードサービス産業や家庭で捨てられる割合が大きい。
英国では2008年、家庭で購入した食料の25%が捨てられていたという。報告書は、英国などの高所得国では、各世帯が食べ物を上手く取り扱うことで、1世帯につき年間680ポンド(約9万円)の食費を削減することが可能になると分析している。
食料危機はビジネスチャンスでもある
生産性の向上から農地確保、農業に関わる各種インフラの整備、エネルギーや水、流通システム、企業や消費者の意識まで、取り組まなければならない問題はあまりにも多い。ゴッドフレイ教授も「1つの解決策で対処できるような問題ではない」と話す。危機回避に向け、これまで示してきたような課題に、政府も企業も、そして市民も、地道に取り組んでいくしかない。
とはいえ、企業の立場から見れば、新興諸国における生産性の低さやインフラ不足はビジネスチャンスにもなりえる。既に、欧米の大企業は動き始めている。例えば、アフリカのタンザニアで昨年から、「タンザニア南部農業成長街道(The Southern Agricultural Growth Corridor of Tanzania)」というプロジェクトが始まっている。
それは、ザンビアとの国境付近からインド洋に面したダルエスサラーム港まで、道路や鉄道、電力のインフラに沿った約35万ヘクタールの土地を儲かる農業地帯として育成しようというものだ。タンザニア政府や米国政府、食品2位の英ユニリーバ、種子最大手の米モンサント、肥料生産高トップのノルウェーのヤラ・インターナショナルなど官民が協力して、総額35億ドル(約2900億円)を投じて2030年までに同地域の農業生産高を3倍に引き上げることを狙う。
アフリカの農業ビジネスに欧米勢が続々参入
収穫した作物の保存や物流に必要な倉庫などのほか、作物の取引市場や融資など各種サービスを提供する拠点、研究施設などを整備し、特に小規模農家を組織化して支援することに力を注ぐ。モンサントやヤラにとっては、種子や肥料を販売できる市場となり、ユニリーバにとっては食品原材料の調達先となり得る。この地域で42万人の新たな雇用を生み出し、200万人を貧困から救うという目標も掲げる。
プロジェクトはまだ始まったばかりで、今すぐ成果を判断できるものではない。だが、ヤラはダルエスサラーム港で2000万ドル(約17億円)を投じ、新たな肥料用ターミナルの建設に着手した。ヤラのバイス・プレジデントであるシーン・デクレーン氏は、「アフリカはヤラにとっては大きな市場。だが、1社ではできず、官民がパートナーを組んでリスクを共有することが成功のカギ」と話す。
世界の食料システムが抱える難題を直視し、そこから危機解決策を見出すのは政府だけの役割ではない。事実、G20の枠組みでは、各国の利害が衝突し有効な対策を打ち出すことは難しい状況にある。そうした中、企業が果たす役割は極めて重要であり、それは単なる慈善活動ではなく、新たなビジネスとして取り組む価値のあるものだ。
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