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第1回:まずツイッターから始まった

Twitter(ツイッター
Facebook(フェイスブック)
 
2011年2月23日(水) 日経ビジネス 片瀬京子
 
 2月7日月曜日、日本ツイッター学会(会長・樋渡啓祐さん、 @hiwa1118 )の主催するフェイスブック講習会が、佐賀県西部に位置する武雄市の市庁舎で開催された。
 講師は、福岡からふじかわようこさん( @neboichiyouko )と杉山隆志さん( @takaflight )、東京から加藤たけしさん( @takeshi_kato )、そしてニューヨークからヒミ*オカジマさん( @himiokajima )。いずれも手弁当での参加だ。聴講者は武雄市内外、佐賀県内外から老若男女約160名が集った。行政色の強いイベントには珍しく、学生の姿も目立ち、会は大いに盛り上がった。
 主催者からは、日本フェイスブック学会の設立が宣言された。会長は樋渡さんが兼務する。この樋渡さんは、佐賀県武雄市の市長でもある。
「僕がフェイスブック学会の設立を発表すると、場内は大爆笑でした。ツイッターに続いて『またか』と思われたのでしょう。しかし、それに続けて武雄市でどうフェイスブックを活用するかを話しているうち、聞いている人の口が開いていくのが見えました。瞳孔も開いていたのではないでしょうか(笑)。おそらく、フェイスブックの可能性に衝撃を受けたのでしょう。それを見て、僕も、衝撃を受けました」
 講習会の後、市役所近くの居酒屋で開かれた懇親会は深夜2時半近くまで続いた。
 武雄市では、今年4月1日から広報を担当するセクションに「フェイスブック係」を新設する。兼務も併せると3人の職員が担当となるという。では、なぜこの市でフェイスブックが盛り上がっているのか。
 その答えは、なぜ武雄市でツイッターが盛り上がっているのかという問いの回答と重なる。
 
武雄市が、職員を挙げてのツイッター運用を始めたのは2010年9月。その頃から、市民による活用も増えている。例えば、武雄市民で佐賀県議の稲富正敏さん( @inadomimasatosh )。それまでは、仕事に必要なネットを使っての調べ物は周囲に依頼していたが、iPadの購入を機にツイッターを始め、タイムラインを眺めているだけでは飽きたらなくなり、自分もツイートしたいという一心で、一覧表を見ながらローマ字入力をしている。御年63歳でキャリア4カ月の稲富さんが「イット・イズ・楽しいです」というツイッター、職員と市民はどう活用し、その先でフェイスブックとどう関連づけ、何をしようとしているのか、今日から4回のシリーズでお届けする。
* * * * *
 日本ツイッター学会と日本フェイスブック学会会長、そして武雄市長を兼任する樋渡さんは、2006年に史上最年少市長として初当選した。ツイッターを始めたのは09年半ば。2010年に控える改選を意識してのことだった。
ツイッターは選挙向き、というような本や記事を読んだからです。その頃は僕の考えをメインにつぶやいていました」
 樋渡さんはそう振り返る。しかし、フォロワーがなかなか増えず、面白みも感じられない。しばらく放置した。
 再開し、のめり込むようになったのは10年6月。愛用していたモバイルノートパソコンが破損してしまった。何を次に買うのがいいか分からず『モバイル機が欲しい』とつぶやいてみたところ、すぐに山のようなアドバイスが帰ってきた。より多くの人が薦めてくれた13インチのMacBook Proを購入し、使い始めて「確かにこれはいい」と実感。同時に「ツイッターは、質問ツールとして活用できる」と気がつき、そして「それまで抱いていた『怖いこともあるかもしれない』というイメージがなくなりました。積極的に使ってみようとマインドが切り替わったのです」。
 
ちょうどその頃、市内に住むある難病患者が1つのツイートをした。難病認定を受けるには、様々な役所に出向かなくてはならなくて負担が大きいので、なんとかならないだろうかというもの。これが樋渡さんの目にとまった。
「窓口を一元化することは法制上できません。しかし、これは初当選時から言っていることですが、できない理由を挙げてそこで思考停止してしまうことだけは避けたい。どうしたらできるか、できる理由を担当部署にも考えてもらい、市の職員が手続きを代行できる制度を整えました」
 
この決定をツイッターで報告すると、大きな反響があった。
「行政にツイッターを活用しようと決めたのはこの時です。当時、企業での導入事例はいくつかありましたが、行政ではなかった。ネット上の有力者がいるわけでもなく、IT企業でもない人口5万人都市の市役所がこぞってツイッターに取り組むなんて面白いし、そうしたらどんな変化が生まれるのかを誰よりも早く見てみたいと思いました」
 樋渡さんは、ツイッターによって市役所と市民との間にある壁を「なくせはしなくても柔らかくできるのでは」と思った。それには職員の協力が欠かせないが、当時、市庁舎の大半を占めていたのは「本気ですか」「私はツイッターなんかやりませんよ」という空気。

 

全職員がツイッターのアカウントを取得

 
 そこで樋渡さんは、対象となる職員全員のアカウント( @takeo_tw_master/takeocitypub )を取得し、それを配布することにした。アカウントは、武雄の略称であるtkoと、職員の名前のイニシャル、姓の組み合わせ。日経太郎なら、tko_t_nikkeiという具合だ。すでにアカウントを持っている人は、実名併記することを条件に、それを使って構わない。アイコンは職員が自分で決める。
「名前を出すことへの抵抗が強いことは分かっていました。僕もかつて公務員だったので分かりますが、公務員には、匿名主義のほかに、横並び文化があります。名前や顔は出したくない一方で、他のみんながやることを自分だけがやらないのも、嫌なんです」
 ツイートの強制はしない。ツイートへのインセンティブも用意しない。それでいて、3年かけて全職員が活用することを目標にした。ツイッターを知らない、使い方が分からないという職員のために、樋渡さんは自身が出演する入門DVDを製作。つぶやく内容に関しても、ごく簡単なガイドライン[pdfファイル]を示した。
「例えば、リアルの世界で言ってはいけないこと、言ってはまずいことはつぶやかない。その程度のものです」
 8月18日には、翌日から武雄市で全国自治体政策交流会議開催されるタイミングで、市庁舎近くの公園を会場に日本ツイッター学会設立シンポジウムを開催。初代会長に樋渡さんが就任した。学会と名付けたのは「名乗るのに何の制約もなかったから」だ。
 そして9月1日、同市のサイトに「平成22年9月1日(水)から、390名の職員がツイッターのアカウントを取得し、本日から、運用を開始しました」という告知が掲示された。
 それによると、メリットは以下の3つ。
 

 

1. 災害情報、気象情報などを、リアルタイムで、しかもきめ細かく発信することが可能となり、市民の皆様の安心安全に寄与することが期待されます。
2. 市民の皆様の声を受け止める相談窓口として390の窓口が設置され、市民の皆様の声がより届きやすくなることから、市民目線の行政に大きく変わっていくことが期待できます。
3. 市民の皆様と市職員、市長と市職員、市民の皆様と市長のやりとりが見えることにより、行政の「見える化」が実現し、行政の透明性が高まることが期待されます。

 

 
390人につぶやく環境が整い、何名かがつぶやき始めたことで、効果は思わぬ所から見えてきた。
「僕自身にも、こんな職員がいたのかとか、この人はこういうことをつぶやく人だったのかという発見がありました。職員も私のつぶやきを見て、そういったものを感じていると思います。ただ、一番驚いたのは、縦よりも横のつながりの活性化です。職員同士のやりとりが、お互いの認識と連携を深めていきました」
【拡散希望】とあれば、別の課の人でもリツイートしたり、誰かが県庁へ行くとつぶやけば、何か書類を託したり。
 
「最初に柔らかくなったのは、役所の中の個人の間にあった壁でした」
市民からの問い合わせや要望は、市長である樋渡さんのところへ寄せられることが多いが、それをみんなに見える形で「○○課長さん、お願い」とリツイートする。それを見た課長が担当者に振って、万事解決すればその結論もツイートする。すると時々、市民から「ありがとう」という反応がある。
「公務員は働いて当たり前と思われている存在で、感謝され慣れていません。ツイッターで市民から直接『ありがとう』と言われて、嬉しくないわけがない。こうなると、ツイッターが楽しくなります。ミスを恐れてツイートをしないのではなく、褒められようとして前向きにツイートするようになる。僕はこの文化を根付かせたいと思っています」
 では、職員の側は実際にどう使い、どう感じているのか。次回レポートする。
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