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産経新聞 2011/02/20
【防衛オフレコ放談】
これも政権末期のひとつの断面なのだろう。防衛省内では、最近になり北沢俊美防衛相が在任中にやり残した課題として語ったという「3つの心残り」をめぐりかまびすしい。
■3つの心残り
複数の防衛省幹部の話を総合すると、北沢氏の心残りは次のようだ。
(1)「内閣官房副長官補を防衛省プロパーに差し替えたかった」
(2)「武器輸出三原則の見直しを実現したかった」
(3)「集団的自衛権の解釈変更に道を開きたかった」-。
まず、
首相官邸では西川氏に伊藤哲朗内閣危機管理監、植松信一内閣情報官の3ポストを警察庁出身者がおさえている。霞が関の政治力学上、警察庁がそうやすやすと防衛省プロパーにイスを明け渡すとは思えないが、民主党政権が誇る「政治主導」の下では首のすげ替えなどたやすいと考えているのだろう。
(2)の武器輸出三原則の緩和は昨年12月、「防衛計画の大綱」の閣議決定直前に北沢氏自身があっさり旗を降ろしたテーマだ。通常国会での連携を期待して緩和先送りを社民党の福島瑞穂党首に差し出し、「『魔女』と手を握った」(防衛省幹部)と形容された。そうした経緯も他人事とばかりに、心残りのひとつに数えるけれんみのなさだ。
(3)の集団的自衛権の問題も、ぜひとも実現していただきたかった。「権利は有しているが、行使はできない」との集団的自衛権に関する憲法解釈の縛りは、日米同盟を真に深化させるうえでも解いておく必要がある。ただ、防衛大綱のたたき台となった諮問機関報告書で解釈の見直しを提起されながら、大綱策定時に一顧だにしなかったのは、一体どなただったか?
■名付けて「宿題大綱」
一方で北沢氏はたしかな実績も残した。「新たな時代にふさわしい安全保障政策が打ち出せた」。そう自賛する防衛大綱は、民主党政権として初めて策定した歴史に名を残す文書だ。だが、防衛省内では輝かしい文書もこう揶揄(やゆ)されている。「前代未聞の宿題大綱」。
「大変なんですよ。なにせ中身が何も詰まっていないんだから」。2月初旬に面会した防衛省幹部に大綱策定をねぎらったところ、そう返された。予期せぬ答えに理由を聞くと、大綱の内容を受け、いくつも省内で検討チームを立ち上げるという。
防衛大綱はおおむね10年先を見据え、わが国の防衛政策と防衛力整備の基本的指針を打ち出すもので、それに基づき態勢を整え、装備もそろえる。「本来であれば将来構想や態勢を詰めておき、それを大綱の文書に反映させる」(自衛隊幹部)はずだが、今回は細部に至る省内の検討作業が大幅に遅れた。このため、とりあえず文書として大綱は取りまとめたが、「詳細な検討は積み残しになっている」(同)というのだ。
■25項目の検討課題
さらに取材を進めようとした矢先、防衛省がそれにまつわる記者説明を開いた。配られた資料には、「防衛力の実効性向上のための構造改革推進委員会」の下に、実に25項目の検討課題が列挙されていた。「決まっていないことだらけですが、何か?」と言わんばかりのペーパーだった。
25項目の中には、態勢や運用の根幹にかかわる課題も含まれている。
たとえば「機動展開体制」。防衛大綱が目玉として打ち出した「動的防衛力」の「背骨」にあたるものだ。モデルケースは、中国が東シナ海の離島を侵攻した際、本州などの部隊を南西方面へ迅速に展開させるスイング戦略などを想定しているが、それを可能にするための「足」の部分をどう担保するか結論を出せていないという。
「指揮統制・機能」という項目もある。これは、陸上自衛隊に全国の方面隊を一元的に指揮する「陸上総隊」を新設することについて結論を先送りしたことを意味している。
海上自衛隊は「自衛艦隊」、航空自衛隊は「航空総隊」が全国の部隊を運用しているのと足並みをそろえるため、陸自側が求めている改編案だが、内局側には「屋上屋」として批判も多い。しかし、ここで言いたいのは、こんな主要な検討項目すらたなざらしにしたことだ。
「羊頭狗肉」。北沢氏の輝かしい実績となるはずだった防衛大綱は、そう指弾せざるを得ない。
(半沢尚久)
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