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チャンスの女神の前髪はつかめるか、それとも・・・
2011年、日本は新たな発展の道を歩み始める!
ところが、暗いトンネルはまもなく終わり明るい時代が始まるのだと予告してくれる記事がある。
人気アナリスト武者陵司さんの「地政学が日本経済に味方、失われた20年がいよいよ終わる」だ。
右の週間ランキングでも第2位になっているように読者の関心も極めて高かった。
「人々の運命は地政学によって翻弄されるものであり、経済の盛衰も所詮その結果に過ぎないということは、長い歴史では当然のことである」
日本が失われた20年という苦しみを味わってきたのは、政治・経済的な理由というよりも地政学の問題の方が大きかったというのである。
そして、日本を取り巻く地政学的な環境が大きく変わり、日本は新たな発展段階に突入すると武者さんは言う。
「日本を封じ込めてきた過度の円高など、逆風は止み、順風が吹き始めるだろう」
「2011年、米国と世界景気の回復が確かとなり、米国株高と同時に円高がピークアウトし、大きな円安のトレンドが始まる」
「これに地政学環境の順風が加われば、企業収益の回復、賃金上昇、株価・地価の上昇、円高・デフレ傾向の反転が連鎖的に起こり、われわれが目にしている経済風景は一変するだろう」
「日本が再び繁栄する姿を見られるはずである」
なんと、今年から新しい日本の発展ステージに入るというのだ。それでは、今まで日本を苦しめてきたものは何だったのか。武者さんは東西冷戦の終結だと言う。
冷戦が終わり日米安保が日本封じ込めの道具になった
米国とソ連という冷戦構造が1990年に終わり、日米安全保障条約によってそれまで日本が果たしてきた太平洋西岸の防護壁がその役目を終えた。そして日米安保は日本にとって全く逆の働きを始める。
急激な経済成長を遂げ、米国の産業を脅かす存在となった日本を監視、二度と軍事大国とならないように押さえつける働きをし始めたと言うのである。
「日米安全保障条約の戦略的意義が日本を守る同盟から日本を封じ込める同盟へと大きく変質したと考えられる」
「民生用電子機械、半導体、コンピューター、自動車などの基幹産業において、米国企業は日本企業に負け続けた。そこで日本の経済躍進を食い止め米国の経済優位を維持することが、米国の世界戦略にとって最重要課題となったのである」
その戦略は見事に成功、奢り切った日本は20年間に及ぶデフレの苦しみを味わい、自動車を除き、最先端の半導体やコンピューターで米国に追いつくことはなくなった。
中国という巨大な脅威の登場で日本の位置づけが変わった
もはや日本が脅威でなくなったその時、米国にとっては日本以上に厄介な相手が現われた。中国である。
日本が素直にプラザ合意に応じて懲罰的な通貨高を呑まされたのとは対照的に、中国は米国の経済政策を声高に非難して元の急な切り上げを拒否する。
一方で、軍事力の強化を急ぎ、原子力潜水艦や空母の建設まで始め、最近ではステルス戦闘機の試験飛行までしてみせた。
米国にとって新しい脅威が誕生、その力が日増しに強まっていることで、日本というアジア最大の民主主義国家と同盟の再構築に乗り出した。
これはつまり、日本にとっては冷戦期に匹敵するチャンスというわけである。さらに、長く暗いトンネルを走っていた20年間、日本企業はただ耐えていただけではない。
失われた20年間でメタボな日本企業はスリムになった
企業の体質改善に必死で取り組んできた。
「アメリカからの要求と円高に対応していく過程で、賃金だけでなく流通コストや公共料金などが大きく低下し、日本は世界一の高物価国から、世界有数の低コスト国に生まれ変わり、日本企業は著しくスリムになった」
「また海外に生産をシフトしたことで、日本は輸出基地から世界経営の本社へと機能を変えており、いまや日本企業が海外で膨大な雇用を生む状況になった。加えて日本企業はハイテク素材や部品、装置などで技術優位を獲得した」
実際、日本を代表する企業の業績は大きく改善、最高益を謳歌する企業が続出している。歴史的な円高水準にある中で、こうした収益力をつけていることは、日本企業の生命力の高さを証明している。
そのうえで、世界第2位の経済大国になり軍事的にも米国の脅威となり始めた中国が盾になってくれれば、武者さんの言う新たな発展段階へ日本が向かうだろう。大変うれしいことである。
地政学のプラスと人口動態のマイナスが綱引き
しかし、この地政学的な変化をチャンスとして日本国民全体がその果実を本当に手にするには、企業も国もかなりの努力が必要ではないだろうか。今のまますんなりとその果実を手にできるとは考えにくい。
地政学的な変化がプラスだとすれば、少子高齢化が急速に進み団塊世代がまさに現役を去っている真っ最中の現在は、人口動態の変化による経済的影響がマイナスのピークを迎えているからだ。
年代別の人口が最も多い団塊世代が生産年齢人口から外れていくことは、その世代の消費が落ち込み、内需が大きく減ることを意味している。
海外依存度の高い企業には影響が少ないにしても、内需依存度の高いサービス産業などにとっては影響は深刻だ。過当競争によって企業体力は確実に落ちる。
輸出型の企業にしても、これまで国内需要に支えられながら製品開発を行い、そこで切磋琢磨した製品を海外に販売して高い評価を受けてきたことを考えれば、内需低迷の影響は少なからず受ける。
企業は内部留保を高めるべきではない
地政学上、日本はまたとないチャンスを手にしているのであれば、少子高齢化が進みかつ団塊世代が現役から去り内需が落ち込むというマイナス要素をいかに緩和してやるかが国家戦略上も、また企業戦略上も必要になるのではないか。
その際、子ども手当ては子育て世代の消費を促すとして一見効果的な政策のように思えるが、現実には効果はゼロに近い。現役世代の税金から同じ現役の子育て世代へ分配しているだけだからである。
大半を現役世代が払う税金を投入するのであれば、新しい産業を生み出し雇用と消費の両方に効果的な政策でなければ意味がない。
一方、企業サイドでは、団塊世代の退職で浮いた賃金分を企業の内部留保とするのではなく、若年層への分配に使い消費を拡大させるなどの施策が必要だろう。賃金体系を狂わせるというのであれば、家族手当や子供手当てなどを復活させる手もある。
地政学と人口動態の変化は、景気循環とは違った次元のファクターであり、今の日本にとってはその部分の影響が極めて大きい。
潮目の変化を読んで機敏に大胆に動け
政府としては大義名分を作るのは子ども手当てに比べればはるかに難しいかもしれないが、企業の交際費の経費計上を認めても面白いかもしれない。
恐らく、この部分の税収が減った分を補って余りある税収増につながるのではないか。消費拡大という意味では法人税減税よりも格段に効果があるだろう。
潮目の変化を読んで機敏にそして大胆に動く。これこそがリーダーの条件である。平時は誰がリーダーを務めても変わらない。今はまさにリーダーの資質が問われているのだ。
コストを切り詰めて新興国に対抗する時代から、地政学の変化をうまくきっかけに利用して高付加価値の製品やサービスで企業や国を発展させる仕組みに切り替える。
実は政治のリーダーには変化のために使える時間的余裕がほとんどない。それは予算やその関連法案が通るか通らないかという近視眼的な意味ではない。
スリム化を終えた日本企業、銀行は国債が買えなくなる
日本企業はデフレに苦しんだ20年間で財務体質の改善を進め、それがほぼ最終章を迎えようとしている。金融機関からの借入金を減らしてきた企業は、それもそろそろ限界に近くなっているのだ。
つまり、実質的に借入金のない無借金経営に近い企業が増えている。これが何を意味するのだろうか。
借入金の返済で貸し出し先を失った資金の大半は、日本国債の購入に回っている。これがなくなるということは、国債を日本の金融機関はもう買い増せなくということである。
つまり、国債の国内消化ができなくなるということを意味する。国債を発行する側だけでなく引き受ける側でも衝撃的な臨界点が近づいているということだ。
武者さんの言うチャンスがあるなら、リーダー次第でそれは大ピンチになるということでもある。チャンスの女神は前髪しかない。延命装置に頼り大胆な行動ができなくなっている政権は、今の日本には害毒以外の何者でもない。
民主化運動がリビアに飛び火、石油価格に火がついた
さて、世界は今年に入って大きく変わりつつある。遠く中東やアフリカで起きている反政府・民主化デモは世界にとっても日本にとっても重大な意味を持つ。
チュニジアで始まった民主化を要求するデモはエジプトへ飛び火してムバラク政権を倒し、いまリビアのカダフィ政権の打倒に挑んでいる。
リビアは石油の埋蔵量で世界第8位。この国からの石油輸出が止まれば、中国やインドなどの消費拡大で受給が逼迫している世界市場に大きな影響を与えるのは必至だ。
実際、リビアからの原油輸出がストップしたとの報道もある。世界経済の観点からもリビアから目が離せない。
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