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インド軍
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インド
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The Senkaku Affair: Indian Perspective2010.10.07(Thu)谷口智彦

尖閣列島を巡る中国の対日強硬策を見て「やはり」と思ったのは、ベトナムでありフィリピンであったことだろうが、それら諸国に勝るとも劣らず、インドの外交・戦略家たちだった。

中国の勢力浸透にただならぬ警戒心を抱くインド!

国のワシントンD.C.、スウェーデンのストックホルムで2週連続、続けてインドに関わる会議へ参加し、多くのインド人から話を聞く中で、この点に関する印象を明確にすることができた。

 インドはここ数年、東北、西北国境地帯はもとより東のバングラデシュ、西のパキスタン、そして南のスリランカならびにインド洋と、全方位から進む中国の勢力浸透に加え、何よりパキスタンに核・原子力や軍事技術を惜しみなく与えようとする北京の態度に対し、ただならぬ警戒心を抱いてきた。

 しかも緊張は、最近になればなるほど、中国側が長年の慣習や静かだった実態を一方的に破り、高めてきたとデリーは見ている。

 そんな情勢認識がもともとあるから、日本に対して高飛車に出た北京の態度に、インド人は全く驚かなかった。彼らをして驚き、かつあきれさせたのは、日本がさっさと事態収拾に動いたことの方である。

 「中国発展の第1章が終わりを告げた」。いくつか聞いた意見の中にそう述べるものがあった。「いよいよ、第2章に入ったと思わざるを得ない」、と続く。これは何を意味していただろうか。

 改革・開放路線を選んだ鄧小平はかつて、天安門事件からちょうど3カ月経った1989年9月4日に中国の対外路線を論評し、訓戒を述べたという。

リーマン崩壊で第1章が終焉を迎え、第2章に突入!

後にそれは「冷静観察、沈着応対、隠住陣脚、韜光養晦、善干守拙、結不当頭」の24文字だったとされた。米国国防総省の翻訳に従うと、次のようになる。

“Observe calmly; cope with affairs calmly; secure our positions; hide our capacities and bide our time; be good at maintaining a low profile; and never claim leadership”

 ことにこの最後段、「目立たぬよう努め、先頭に立つことを目指すべからず」というところは、中国指導者やインテリたちがつい最近まで、口を開くと自国の方針であるとして繰り返し強調していたものだ。

 さるインド人観察者によると、中国発展の第1章とは、この標語を題目に掲げるものだった。けれども2008年9月15日、リーマン・ブラザーズ崩壊とともに米国と西側経済が一大失調に陥ったのを契機とし、20年近く中国対外路線を規定したスローガンは、その有効性を喪失した。

 「第2章の扉をめくった中国は、もはや自分の力を隠す必要をさらさら感じない。第二線で控えていなくてはならない必然性も認めない」――と、そう看做さぬ限り、東シナ海から南シナ海、インド洋そしてヒマラヤ山脈に及ぶ全方面で攻勢に出た中国の方針転換は、諒解できないのであるという。

インドの周辺で中国が何をしているかを眺めることは、南シナ海の内海化に転じた中国の強硬姿勢と合わせ、今般生じた尖閣列島を巡る中国の対応についてよく教えてくれる。

インドが抱く中国5つの懸念!

決して局部的なものでなければ、反復性を欠く偶発的なものでもなかっただろうと悟らせてくれるところが大きい。

 インドの警戒を高めた中国の攻勢とは、インド人の意見によるところ大きく以下の5点に収斂する。

 まず(1)に、パキスタンへのミサイル・核技術の供与と、同国における原子力発電所の建設がある。(2)に、インド洋各所における港湾の建設がある。本欄が2009年冒頭伝えた「真珠の首飾り」を広げようとする動きのことだ。

 以下残りの3項につきやや細かく見ていくと、

 (3) 北辺の州、中国と国境を接し、パキスタンとの紛争を抱えるジャンム・アンド・カシミールにおいて、中国はインドの主権にはっきり挑戦する動きを示している。

 最も露骨な動きとして、中国は同地方に住むインド人が中国へ越境入国しようとする際、入国査証(ビザ)の発給を拒んできた。

インド軍司令官が訪中を拒否される!

 旅券に対し査証を与えることは、取りも直さず旅券発行主体の主権を認めることになる。逆に査証を拒むとは、すなわち主権を否認するのと同じだ。

 そんな動きがかれこれ1年続いた今年8月末、同地方を管轄するインド軍北部方面陸軍司令官(B.S. Jaswal中将)が軍々交流訪問団の一員として訪中しようとした際、その受け入れを拒否したことで、中国の意図がなお明確化した。

 (4) 次に、北東辺の中印国境における緊張である。インドが支配するアルナチャル・プラデシ(Arunachal Pradesh)とは、ブータン、ミャンマーのみならず、中国と長い国境を接する場所にある。中国はその大半を自国領であるとして譲らず、同地を「南チベット」と呼びならわす。

 散発的な協議が両国間で進んでは停滞し、それでも概して平穏だったが、最近になって中国側は国境画定に欠かせない地図の交換に応じようとしなくなった。のみならず、インド側にちょくちょく兵を進入させては、挑発行為に出ている。

今年4月、アジア開発銀行が同地域のプロジェクトに資金を与えようとした際、中国は拒否権を行使し待ったをかけた。これも、間接的にインドの主権を承認することになると見做したからだと考えられる。

チベットにダムを建設し、水資源の利己的占有狙う!

(5) 最後に、チベット氷河に源を発する川にダムを造り、水資源の利己的占有に打って出ようとしていることだ。

 これは人間のみならず、動植物の生命にも関わる問題となり得る。インドに影響は及ばないとするのが中国の立場だが、インド人は誰もこれを額面通り受けとめない。

 問題の川とは中国が雅魯藏布江(Yarlung Zangbo River)と呼び、インドやバングラデシュではそれぞれ別の名前(Brahmaputraとか)で称される川のことだ。

 ヒマラヤ北辺に沿って西から東に流れたのち、突然大屈曲し深い溪谷をうがちつつ南へ抜け、上出アルナチャル・プラデシを経由しやがてガンジスと合流、ベンガル湾へ抜ける川である。

 流域面積は巨大、灌漑用河川として莫大な力をもつだけでなく、途中の水路には人跡の及び難いところが多々あるほどで、神秘の趣さえ持つ。屈曲点にうがたれた滝壺は、深さが数千メートルにすら及ぶと聞いた。

世界最大、三峡ダムの数倍の規模に
 中国は今年4月、この川の標高3000メートルを超える場所に、1つと言わず合計5個のダムをこしらえる計画を明らかにした。

 合計貯水量は、長江上流に造った三峡ダムをゆうに数倍するものだという。当然、影響の及ぶ分野、方面、程度いずれも想像すらできないくらいだろうが、中国は委細構わぬ様子なのである。

 ただし情報は錯綜しており、巨大な貯水池を作るのでなく分流流水発電所をつくるだけであって、流水量などに影響は微少だとする説明もある。正確なところの挙証責任は、作り手中国にある。

 こうしてみると確かにいろいろとあり、中国の出方が何かと力づくになっていることを窺わせるに十分だ。

対するインドは、どう応じようとしているか。オフレコの会議で述べられたところをここで書いてしまっては、インドの手の内を不必要に明かすことになるので慎みたい。

中国には力の論理しか通じない
 しかし、いくつか挙がった対抗策を聞き少なからず驚き、考えさせられたことは記しておきたい。インド人戦略家たちには、まず迷いというものがなかった。

 「そこまでやるか」と言いたくなる策まで公然、議論に上ったが、それもそのはず、費用便益の計算に従って、効果があるなら実施するまでだとするリアリズムが土台にあるのである。

 「こんなことして、みんなになんて言われるだろう」という、日本外交につきものの優等生的臆病がもともとない。

 さらに根底には、中国人が理解するのは友情のどうのという美辞麗句でなく、力そのものだという割り切りがある。一度としてこんな姿勢で中国に臨んだことのない戦後日本に育った者には、アタマで理解できても、体がついていけないところがある。

 なにせ、インドで著名なさる核理論家などは、これは又聞きだが、核兵器の開発でベトナムに協力すべしと論じているという。パキスタンの核開発に中国が手を貸すのを止めさせたければ、そうでもするほかないというのが立論の根拠だとか。

 日本がインドとできることは多い。学ばされるところが多々ある。少しずつインド人の情勢認識や発想を知るにつけ、日印間の協力を深めることは日本外交の地平拡大に有益だと確信を強くするばかりだ。
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