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業界横並びの価格競争は淘汰を招く!
2011年1月11日(火)日経ビジネス 小屋知幸
居酒屋デフレ戦争が勃発!
最近夜の繁華街を歩くと、「全品270円」などと激安価格をアピールする居酒屋の看板が目につくようになった。景気の低迷で消費者の懐具合は厳しく、なかなか「パッと飲みに行こう!」という気分にはならないものだ。低迷する需要を喚起する特効薬が“値下げ”だ。激安価格の集客力は高い。このため居酒屋業界各社は、いっせいに低価格業態の開発・出店を急いでいるのである。
外食業界では、2009年末に「すき家」と「松屋」が牛丼の価格を200円台に値下げし、「牛丼デフレ戦争」(詳しくは「“価格破壊第2幕”の到来を告げる牛丼デフレ戦争」を参照されたい)が勃発した。それに続き、「居酒屋デフレ戦争」も風雲急を告げている。
居酒屋デフレ戦争の陣頭に居るのが、「月の雫」などを展開する三光マーケティングフーズである。同社は「全品270円」、「全品290円」などの均一価格居酒屋を次々と出店し、居酒屋の価格破壊に突き進んだ。
今までの居酒屋では、500~1000円程度のメニューが一般的だった。これに対して「全品290円」といった均一価格は消費者から見て分かりやすく、低価格をアピールしやすい。その結果、低価格居酒屋は、集客力の点で従来の居酒屋を圧倒することとなった。
たまらず競合企業も反撃に出た。「甘太郎」などを展開するコロワイドは、全品を299円(一部店舗は399円)で提供する「うまいもん酒場えこひいき」の出店を急いでいる。モンテローザも、全品268円均一の「268円厨房うちくる」の展開を始めた。さらに「和民」などを展開するワタミフードサービスも、250円均一の「仰天酒場和っしょい」で、低価格居酒屋に参入した。
居酒屋業界の価格競争は、一時的に市場を活性化させた。低価格業態への転換により、売上高が3割も増加した店舗もあったと聞く。だが現在、業界各社がいっせいに低価格業態の出店に走った結果、低価格居酒屋は珍しくなくなった。消費者は1品200円台の低価格に慣れてしまい、低価格居酒屋の集客力にも陰りが見える。
低価格業態の集客効果がなくなれば、価格を下げても売り上げが増えず、結局のところ、企業が身を削るだけの状況になってしまう。居酒屋デフレ戦争は、”死屍累々”の結末をもたらすのかもしれない。
なぜ牛丼は儲かって、居酒屋は儲からないのか!
牛丼デフレ戦争と居酒屋デフレ戦争の共通点は少なくない。両者とも消費者の節約志向に対応するものであり、消費者は低価格化を支持している。だが居酒屋デフレ戦争の結末が、牛丼デフレ戦争と同様になるとは限らない。
牛丼デフレ戦争の勝者である「すき家」の既存店売上高は前年に対して20~30%も増加し、利益も拡大した。低価格化への対応が遅れた吉野家は売上高を落としたものの、業界全体の売上高は拡大した。
「すき家」の月次売上高データを見ると、牛丼の値下げによって客単価が10%程度減少したものの、客数がそれを補って余りある伸びを見せたことが分かる。牛丼の値下げは、「値下げ→客数・売り上げの増大→店舗の生産性向上→コストダウン→収益性の維持・向上」という好循環をもたらしたのである。
これに対して居酒屋の値下げが、牛丼業界のような好循環をもたらしたと考えることは困難だ。日本フードサービス協会のデータによると、居酒屋業界全体の客単価の減少は明確であるものの、肝心の客数が全く上向いていない。
牛丼の価格競争と居酒屋の価格競争における最大の相違点は、前者のみが新たな需要を創出していることだ。牛丼の値下げにより牛丼業界は、ファストフード、ファミリーレストラン、持ち帰り弁当などの他業界から、顧客を奪うことに成功した。これに対して居酒屋業界の客数は増加していない。居酒屋業界は身を削って、既存顧客を取り合っているにすぎないのだ。
深刻な構造不況に突入!
居酒屋業界の苦境の背景には、居酒屋市場の大幅な縮小がある。財団法人食の安全・安心財団のデータによると、1990年代に1.4兆円程度あった居酒屋、ビアホールなどの市場規模が、2009年には約1兆円にまで縮小している。居酒屋業界は深刻な構造不況のただ中にあるのだ。
居酒屋ビジネスに対する逆風は、いくつも指摘できる。
(1)主要客層である若年層の人口減少
(2)消費者の所得減少(特に若年層で著しい)
(3)消費者の酒離れ(特に若年層で著しい)
(4)飲酒運転に対する罰則強化
などである。
20歳代の若年層の人口は、2000年の約1800万人から2010年の約1400万人へと、この10年間で20%以上も減少した。加えて若年層の所得減少の傾向も著しい。国税庁のデータによると、20~34歳の若年層の給与所得は、1999年から2009年の10年間で10%以上も減少している。若者市場の衰退傾向は明らかだ(詳しくは「消える若者市場」を参照されたい)。
ただしここまでの要因は、牛丼市場でも同様だ。おそらく居酒屋市場の衰退に最も大きな影響を与えているのは、消費者(特に若年層)の酒離れであろう。価格.comが実施したアンケート調査によると、「週に4、5回以上飲酒する人」の割合は、60歳以上が68%であるのに対して、30歳代は44%、20歳代は25%にとどまっている。
過去の常識では若年層ほど飲酒機会が多く、中高年になると飲酒機会は減ると考えられていた。「俺が若いころは、毎日のように飲み屋に繰り出していたものだ」と、嘆息している読者諸氏も少なくないであろう。だが、近年における若者の趣向変化は著しい。今や多くの若者はあまり酒が好きではないし、おそらく居酒屋もあまり好きではないのだ。
それだけでなく現時点で飲酒習慣の乏しい若者が、年齢を重ねるにつれ酒を飲むようになるとは考えにくい。むしろ酒を飲まない若者が年を取るにつれ、今後は酒を飲まない中年層も増加すると考えるのが順当であろう。居酒屋市場の衰退傾向は、容易に止まりそうもない。
過当競争の結末!
消費者の酒離れを背景に、居酒屋の市場規模は減少し続けてきた。にもかかわらず、居酒屋業界では出店競争が止まらなかった。日本フードサービス協会のデータを見ると、居酒屋の市場規模が急減する中でも、店舗数は5%以上のペースで伸び続けていたことが分かる。居酒屋の店舗数が減少に転じたのは、2008年以降のことだ。
このため居酒屋業界は構造的なオーバーストア状態となり、価格競争が激化したのである。従ってこの過当競争は、相当数の店舗、企業が淘汰されるまで続くと考えざるを得ない。
成熟市場における価格破壊戦略の有効性は、ある程度実証できている。かつてマクドナルドはハンバーガーの価格を劇的に下げることで、業界からライバル企業を駆逐してしまった。そして現在は独占的シェアのもとで、高い収益を享受している。同様にユニクロや「すき家」も価格破壊によって、市場シェアを大幅に高めた。
ただし価格破壊戦略が成功するのは、圧倒的な価格競争力を武器に寡占的シェアを獲得できる場合に限られる。言い換えると競合企業や新規参入企業が「この価格にはとてもかなわない」と、白旗を上げるくらいの価格競争力が必要である。ライバルの追随があるうちはシェアを高めることができず、価格破壊は自社の利益を破壊してしまう。
マクドナルドの世界的な原料調達力やスケールメリットを背景とする“100円バーガー”や“65円バーガー”は、他社の追随を許さなかった。またユニクロは競合企業を1けたから2けた上回る生産ロットを確立し、低価格と高品質を両立することで、商品の競争力を大幅に高めた。
牛丼業界では、「すき家」の価格に「松屋」と吉野家は何とか追随している。だが実質的に競合する他業態(ファストフード、ファミレス、持ち帰り弁当など)の企業が、この価格に対抗することは相当に難しい。
翻って居酒屋業界では、価格競争はヒートアップしているものの、“他社の追随を許さない”価格競争力を持つ企業は見当たらない。「290円均一」、「270円均一」、「250円均一」などと、均一価格を売り物とする居酒屋が乱立しており、どれも“ドングリの背比べ”の域を出ない。
そして居酒屋は値下げしてもなお、他業態企業に対して価格競争力で劣勢だ。例えばイタリアンレストランチェーンのサイゼリヤは、グラスワインを100円で提供している。またラーメンチェーン「日高屋」のおつまみメニューは、おおむね100~200円だ。特に「日高屋」は夜の飲酒需要の取り込みにも力を入れており、居酒屋から需要を奪って成長している。
また居酒屋業界では市場の寡占化も進んでいない。「すき家」、「なか卯」を展開するゼンショーと吉野家、松屋フーズの3社で事実上市場を独占する牛丼業界に対して、居酒屋業界では中堅から零細までの企業が市場に乱立しているのが実態だ。積極的に価格破壊を仕掛けている三光マーケティングフーズの売上高も300億円たらずであり、居酒屋市場において数%のシェアを占めるにすぎない。
従って居酒屋業界では、価格破壊戦略によって、他社を圧倒する勝ち組企業が出現する可能性は少ないと考えられる。つまり居酒屋業界の過当競争が終結するまでには、「ノーガードの打ち合い→負け組企業の淘汰→上位企業による寡占化」というステップを経る必要がありそうだ。
“破壊”だけではなく“創造”を進めよ!
居酒屋業界におけるオーバーストア状態は当面解消しないし、消費者の低価格志向が弱まることも想定しにくい。従って居酒屋業界の価格競争は続くと見込まれる。業界企業にとって価格破壊の取り組みは引き続き重要だ。だが居酒屋業界で進んでいる価格破壊は、サービスや品質や利益を削って値下げしている面が強い。このように付加価値を削っているだけでは、未来は開けない。
企業の成長にとって最も重要なことは、新たな需要や付加価値を創出することにあるはずだ。かつての居酒屋業界における成長の原動力は、客層を拡大することにあった。産業化された居酒屋チェーンが出現する前の居酒屋は、薄汚れた安酒場であり、“酔うことを目的とする客”を主たる客層にしていた。だが居酒屋チェーンが明るく清潔な店舗を展開したことで、居酒屋の客層は“食べることを目的にする客”や“語らうことを目的とする客”や“デートする客”などにも広がった。
現在の居酒屋の過当競争の原因は、かつて急速に拡大した市場の器が反転し、急速に縮小したことにある。若者市場の縮小傾向は明らかだし、それに抗する企業努力には限界がある。このため居酒屋業界が再び市場の器を広げるためには、若者以外のシニア層などへのアプローチが不可欠なのである。
現在の居酒屋業界の競争は横並び的性格が強すぎて、新たな需要の創造につながっていない。居酒屋業界には、単純な模倣が横行している。数年前に“個室居酒屋”が流行ったときは、業界各社がいっせいに個室居酒屋を出店した。そして今回は、いっせいに均一価格の低価格居酒屋である。その結果、店舗の差別性が乏しくなると、価格競争はますます激しくならざるを得ない。
居酒屋業界では業界企業がいっせいに同じターゲットを追いかけることで、自ら土俵(=市場フィールド)を狭くしてしまっている。そして狭い土俵に対して店舗が多すぎるので、不毛な過当競争を招いてしまうのだ。しかも業界企業の多くが追いかけている若者市場は、急速な衰退途上にある。
居酒屋業界が現在の苦境を乗り越えるためには、新たなコンセプト、新たなサービス、新たな価値を形成し、新たな需要を創出することが不可欠なのである。
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