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櫻井よしこ
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国家基本問題研究所
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三井田孝欧
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新潟中国総領事館の万代小学校跡地移転問題
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『週刊新潮』2010年11月11日号 日本ルネッサンス 第435回 櫻井よしこ
いま、中国に最も狙われている県は新潟県だといってよいだろう。
5年前、中国は北朝鮮の日本海側最北の港、羅津(ラジン)の50年間の租借権を得た。租借は単なる貸与ではない。その地に行政権も及ぶ、まさに植民地時代の遺物のような契約である。
羅津港から中朝国境まで約60キロ、中国はここに幹線道路を作り、これも租借した。歴史上初めて、中国は自国から日本海に直接出入りする道路と港を確保したのだ。
東シナ海はすべて自国の海だと主張する中国は、日本の富も技術も、人材も自然も、すべて中国のために活用するのが国益だと考える。日本海に直接、出入り出来るいま、羅津の真向かいの新潟が日本における中国の重要拠点と位置づけられるのは当然だろう。中国の異常な拡大路線の前に日本が、とりわけ新潟県が、国土や富を奪われないよう最大限警戒しなければならないゆえんである。にも拘らず、新潟市で起きつつあることは異常である。
中国政府が市中心部の万代小学校の跡地約5,000坪を購入し総領事館を設置し、同時に最近閉店した百貨店の跡地に中華街を作りたいと表明、同構想が篠田昭市長らの支持を得て実現しつつあるのだ。中国による日本の土地や山林の購入実態は把握出来ていないが、想像以上の規模だと見られている。そうした中で、市中心部の広大な市有地の中国への売却を、篠田市長も新潟市議会も問題だとはとらえていないのだ。
経過を振り返れば、沖縄に総領事館をとの中国外務省の要望を日本外務省が拒否したのは昨年3月だった。代わりに浮上したのが新潟だった。中国総領 事館は市中心部の、ロシア及び韓国の総領事館も入っている「朱鷺(とき)メッセ」で、業務を開始した。そして、早くも今年7月24日、「新潟日報」紙上での泉田裕彦新潟県知事らとの鼎談で、王華中国総領事が中華街構想等を知事にもちかけた。知事は賛同し、8月11日には 地元の新潟中心商店街協議会が中華街設置への協力を求める要望書を市長に手渡した。市は9月16日には万代小学校跡地売却を前提とする土地の測量 を開始した。
「街の活性化」という美名
トントン拍子に進む市と中国側の交渉とは対照的に、市の地元住民への説明は遅く、不十分だ。1回目の説明会は9月10日だったが、広報が不十分だった所為か、午後1時半の会には3名、3時の会には10名しか集まらなかったと地元市議が語る。16日、21日と説明会は行われたが、このと き、市はすでに測量に踏み切っていた。
篠田市長は、今月14日の選挙での3選が確実とされており、その場合、計画はどんどん進むだろう。無所属の山田洋子市議は数少ない反対派の一人だが、市長にも市議会にも住民の懸念や不満はおろか、国家の一員として、中国に市中心部を与え中国マネーに期待することの負の意味合いを考える姿勢 は見られないと批判する。新潟市議会の余りの問題意識の欠如に、なんと、柏崎市の三井田孝欧市議が憤りの声をあげた。
「私は100キロも離れた柏崎の市議ですが、事は県の、そして日本の問題だと考え、敢えて発言します。尖閣諸島における中国の蛮行について、王華総領事は『尖閣諸島の事件は小さな事』と言いましたが、総領事館のウェブサイトには『中国の領土』だと明記しています。なのに、新潟市議らは総領事に反論もしない。土地売却は慎重にと考える市議も殆どいない。8月1日には新潟市議団が4泊5日で中国を訪問していますが、そんな場合ではないのです」
新潟の保守派は一体どうしたのだ。地元商店街は経済の活性化につながると期待するが、経済の表面だけ見ていてよいのか。新潟市は大きな間違いを犯そうとしている。
通産省キャリア官僚だった梅原克彦氏は2005年、仙台市長に転身、全国に先駆けて小学校全校舎の耐震化を完成させ、歴史的町名の復活や拉致問題に積極的に取り組んだ。同時に中華街建設構想をとめた。それが大きな要因となって氏は建設推進派と対立し、市長再選への出馬を見送った経緯がある。氏はなぜ、中華街構想をとめたのか。疲弊する地方都市では誰も反対出来ない「街の再活性化」という美名の構想が、実は地元のためにも日本のためにもならないと考えたからだと氏は語る。
「中国側は仙台駅近くの旧国鉄跡地などの1・5ヘクタール、東京でいえば汐留のような大規模再開発用地に目をつけました。その一角に地上9階、地下1階の『空中中華街』を作る構想が前任市長と中瑞財団という中国の投資ファンド、日本人ブローカーの三者間で合意されていたのです」
反対理由の第一は、横浜や神戸とは全く異なる形の中華街が出来る可能性だった。
「横浜では華僑の人々が地域自治体と長年かけて信頼を築き上げ、中華街が生まれました。しかし、新たに作ろうとする中華街は広大な土地を中国がまず買い取って、必ずしも地元の意思と関係なく彼らの思い通りに街を作ろうというものです」
乱舞した五星紅旗の群れ
宮城県警の2005年の統計で、検挙された外国人122人中、70%超の87人が中国人という犯罪率の高さも、反対の理由だったとして、梅原氏は さらに語った。
「地元に馴染んだ横浜中華街でさえ深刻な問題が起きました。数年前の海上自衛隊イージス艦の機密情報漏洩事件で、情報を漏洩した元自衛官の中国人妻は国外追放されましたが、その後、再入国し、横浜中華街に潜伏していたのです」
世界各地への中国の進出は往々にして中華街の建設から始まる。アジア最貧のラオスの首都ビエンチャンでは、この62万人の町に、2009年、突然、中国政府が広大な土地を入手し、5万人の中華街を作った。人の好いラオス人は、目から鼻へ抜ける中国人に席巻され、ラオス全体が中国の強い影響下に組み入れられつつある。住民虐殺で悪名高いアフリカのスーダンで、中国は武器と経済援助の見返りに石油資源と土地を手に入れ、大中国人街を作った。町はいま20万人規模に膨張した。
わが国においても、中国人登録者は68万人、国内最大の外国人勢力となった。日本に住む彼らは、場合によっては日本への敵対行動を取らされる可能性もある。在外中国人は、有事の際、中国政府の指示に従うことを定めた国防動員法が、今年7月1日に施行されたのだ。
彼らがどんな働きをするかは、2008年のオリンピックの聖火リレーのときに、長野市に集結、乱舞した五星紅旗の群れを想い出せばよい。
売った土地は二度と戻ってこない。だから、外国、とりわけ中華帝国的覇権主義で他国を恫喝する中国には、出来るだけ、土地も山林も渡さないことだ。篠田市長をはじめ、新潟市議会の猛省を促すものである。
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