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保険料値下げを実現せよ【戦略提言】2020年の保険業界(4)
2010.07.08(Thu)JBプレス 旬保会
銀行窓販の全面解禁、郵便局による保険販売、インターネット通販や来店型店舗・・・。保険商品の販売形態に劇的な変化が生じている。
巨大チャネルあるいは新規チャネルの登場は、全国25万人の生保レディーを抱える生命保険業界の伝統的な営業方式に深刻な影響を及ぼす。その再構築に失敗すれば、巨大生保といえども存亡の危機に直面しかねない。
「安い」保険を求める消費者、通販チャネルが急拡大
民間生命保険への加入理由を見ると、「保険料の安さ」を理由に挙げる人が全体の2割を占める。山一証券の自主廃業など金融危機が発生した1997年以降、その増加が顕著になった。デフレに歯止めが掛からず、所得の減少が進んだため、保険市場でも低価格志向が強まっている。
また、代理店(金融機関を含む)やインターネット経由といった通信販売など、営業職員以外のチャネルが新契約に占めるシェアを拡大している。とりわけ通信販売チャネル経由で加入した人の割合は、1988年の0.1%から2009年には8.7%まで急発展を遂げた。医療保障ニーズの高まりやインターネットの爆発的な普及、可処分所得・時間の減少などを背景に、通信販売や来店型店舗などへのニーズが増大している。
その一方で、大手生保の主力チャネルである営業職員は1990年度をピークに減少の一途をたどり、このチャネルでは保険料収入が減少している。
銀行窓販」頼みの保険決算、10年後は50兆円市場に拡大?
2001年9月、銀行窓口での保険商品の販売(銀行窓販)が金融ビッグバンによる規制緩和の一環として解禁された。
当初は住宅ローン関連の保険や海外旅行傷害保険などに限られていたが、2002年10月に個人年金保険や年金払積立傷害保険、2005年12月には一時払い終身及び養老保険、積立傷害保険が加えられた。2007年12月には全面解禁されると、窓販チャネルは急成長を遂げている。
当初、銀行側は手数料ビジネスの拡大好機ととらえ、保険会社からの手数料が厚い変額年金保険などリスク性商品を中心に預金者へ売り込んだ。その後、元本保証やステップアップ型商品が投入されたほか、外資系保険会社は外貨建て変額年金保険を発売するなどこのチャネルは活況を呈している。
今では保険会社の決算上、トップラインの増収に寄与する商品となり、「決算は銀行窓販頼み」の傾向が強まっている。年間3兆~4兆円ものフローがあり、あるシンクタンクの試算によると、現在28兆円の市場が向こう10年間で50兆円規模にまで拡大するという。一時払い終身のほか、死亡保障・医療保障商品も取り扱いが始まり、今後も成長が期待されるチャネルだ。
共済保険の脅威 高コストの民保は生き残れるか?
一方、3共済(全労済、県民共済、CO-OP=生協=共済)の加入者数や保有契約高・収入保険料は着実に増加している。商品内容を改め、若年層や主婦を中心とした女性層の取り込みが功を奏した。それに加え、少子高齢化で男女とも50代を中心に加入率が上昇している。
2000~01年、各共済は相次いで医療保障を重視する商品改定を実施。また、60歳以降の層に照準を合わせ、「熟年型」と通称される共済商品の保障を強化した。その結果、生命・入院型と一本化されて自動更新商品になり、販売に一段と拍車が掛かっている。
また、「こども型」と言われる共済商品には当初、入院保障6000円が付帯されていたが、2001年にはそれを1万円に引き上げた。このため、こども型から一般の生命・入院型への移行率が上昇し、若年層の取り込みにも成功している。
剰余金の割戻率の高さ(県民共済で2~4割)も、共済人気の秘密である。支払い事務のスピードが速いこともあり、年平均で14%もの成長を遂げた。医療ニーズ対応が50代と女性を中心に加入率を引き上げ、民保離れの激しい若年層でも3共済は加入率が上昇している。
生保レディーは「GNP」(義理、人情、プレゼント)営業を止めよう
通販系・ネット系生保の台頭や、銀行窓販の拡大、共済の成長といった環境の激変は全て、既存生保の伝統的な営業職員チャネルにとって「脅威」になる。高いコスト、コンサルティング能力の欠如、商品知識の乏しさ・・・。様々な批判を浴びている営業職員チャネルは一体、2020年にどうなっているのか。
我々からの回答は、条件付きながら「十分生き残っている」になる。
何のために保険に入るのか。万一の時のための、「お守り」のためである。それは今も昔も変わらず、永遠に変わらないだろう。
それではなぜ営業職員チャネルだけ、「危機」が叫ばれているのか。今までのやり方が誤っていたからであろう。「GNP(義理、人情、プレゼント)」営業と揶揄されてきたやり方、これを止める。それができれば、営業職員チャネルはまだまだメインチャネルとして十分にやっていける。
保険に入りたい人にとって、現在の自分のニーズに合う保険商品であれば、どのチャネルだろうが関係ない。営業職員チャネルの強みは面倒見の良さだから、生保レディーが商品内容をきっちりと理解し、顧客に説明できるプレゼンテーション力を身に付ければよいのである。
しかし、営業職員だけで解決できない「壁」が存在する。それは価格である。これだけは通販・ネット系にかなわない。既存保険会社の構造問題でもあり、営業職員だけでなく、内勤職員の人件費も減らすといった「痛み」を伴う改革を避けられない。
コストを抑えた商品の開発とともに、内勤職員のコストまで含めた構造改革を行う。それでギリギリまで保険料を下げる。経営構造上、通販系・ネット系生保の水準まで下げられなくても、顧客の許容範囲までは値下げするしかない。
他のチャネルにはない「プレゼンテーション付き面倒見の良さ」で、保険料の格差をカバーするのである。すなわち、消費者が「まあ少し高くても仕方ないよね、ここまでやってくれるなら」というレベルを目指さなくてはならない。
消費者の嗜好が多様化、ネットに進出せざるを得ないが・・・
大手保険会社はこれからも営業職員を主力チャネルとしながらも、併せてチャネル多様化の推進が求められる。ダイレクト系保険会社のポジションが今後も高まっていくことは止められない。現在の若年層が中高年になる際にその傾向はさらに強まるため、応戦するには大手保険会社もネットへ進出せざるを得ない。
米国では10年前に参入したネット系生保が未だ数%のシェアにとどまっている現実を見ると、日本でもメインチャネルには恐らくなり得ないだろう。
ただ、消費者の嗜好は急速に多様化している。それだけに、インターネットなども補完的・有機的に連携させながら、顧客との接触機会を拡大して緊密な関係を構築できれば、成長力は押し上げられるだろう。既存チャネルと共存、いや既存チャネルの危機感をいたずらに煽り立てることなく、いかにチャネルを多様化していくかが至上命題になる。来店型店舗の設置も、同じ文脈で推進していくことになるだろう。
また、「シンプルな商品の提供」も不可欠だ。その代表例として挙げられるのが、先に紹介した共済の各種商品。シンプルな商品を低コストのチャネルで販売拡大するのが、共済のビジネスモデルである。
だから、大手保険会社が共済への対抗商品を投入するには、事業構造を抜本的に変革した上で新たなビジネスモデルの設計が必要である。事業費を戦略的に低めに設定することが最大の課題となる。
共済が消費者に受けているのは、「保険商品内容が簡単で保険金の支払いも速い」という、保険の「基本」とも言うべき理由。基本に立ち返ることができれば、大手保険会社にもまだまだ対抗していく余地はある。保険商品の分かり易さと支払いの迅速化にはどの保険会社も必死に取り組んでおり、成功すれば共済の勢いを止めることも夢ではない。
今すぐ改革に着手しないと、巨大生保に未来はない
今回は「どうなる生保レディー25万人=多様化する販売チャネル」という視点から、保険業界の未来を考察した。10年後の2020年には保険業界の構造が根本的に変わってしまう劇的な変化は起きていないと予測される。営業職員チャネルもまだまだ十分生き残っているはずだし、通販系・ネット系生保は成長を続けても大ブレークは起こしていないだろう。
しかしながら、20年後になるとそんな予測は当てはまらなくなる。
「これからも営業職員チャネルはわが社の根幹」――。そのように保険会社が考え、2030年の時点でも営業職員チャネルが生き残るには、今すぐ改革に着手しなくてはならない。
それは、本社の経費構造や内勤職員のコストにまで踏み込んだ抜本的な経営構造改革になる。保険商品の正確な知識や顧客へのプレゼン能力、トラブル対処力など、営業職員が自らの能力を磨くことは大前提とはいえ、保険料値下げなどを実現するには経営陣・内勤職員のかつてない努力が求められよう。
「今の態勢でまだまだ十分やっていける」――。内心そう高をくくる保険会社の社員がいるとしたら、その会社は2020年を待たずして見る影もないかもしれない。なぜなら、社員一人ひとりの意識改革に成功しない限り、巨艦のような生保の転針は極めて難しいからだ。一人ひとりのコスト意識改革なくして、巨大生保に未来はない。
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