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中国人研修生が姿を消す日は近い !
 
2011年3月3日DIAMOND online  莫邦富
 
 日本の外国人研修制度は、アジアの国々に日本の進んだ技術を勉強させるという大義名分のもとで進められる。先進国の日本のアジアに対する貢献の一環のように見せているが、実は外国人の労働力の導入を拒絶しながら、生身の外国人に労働者としての権利を与えず、ただその労働価値を労基法に決められた最低賃金を大きく下回る形で貪っている。これが1998年、取材の関係で偶然に知った日本の外国人研修生の現場の実態である。
 いまや外国人研修生たちは日本の農業、アパレル、製造業などの産業で中小企業の日常運営を支える労働力の重要な構成要素となり、その中で中国人研修生が大半をなしている。1998年外国人研修生問題の報道に携わった関係で、外国人研修生現場の目を覆いたくなるような人権侵害問題、搾取問題にジャーナリストとしてずっと関心をもってきた。しかし数年前から、この問題に対する関心の度合いが次第に下がってきた。日本が外国人研修生制度の問題点を改善するかどうかとは関係なく、数年のうちに中国人研修生は日本に来なくなるだろうと思ったからだ。
 1990年代に日本を震撼させた中国人の相次ぐ密航事件を思い起こしてほしい。当時、ベトナム難民を装って日本にやってくる輩がいたし、貨物船のコンテナに身を隠して日本への入国を企む集団もいた。おかげで中国人密航現場の実情を描いた拙著『蛇頭』は売れた。多い時は、私のところに取材に来たテレビ局が1日で9局あった。朝から夕方まで取材に追われ、お昼を食べる時間はもちろん、トイレに行く暇もなかった。蛇頭はこうして日本語として定着した。
 だが今では、あれほど売れた『蛇頭』はすでに絶版となった。日本に大群をなして押しかけてくるのは、密航者ではなく、大金を日本に落としに来る観光客に変わった。
 中国人研修生もまた、90年代の密航者と同じようにやがて日本に来なくなる。その日が訪れるのはおそらく今から3、4年後の2014年、15年頃になるだろうと思う。
 
今年の春節(旧正月)を挟んで中国各地で起きた労働者争奪戦を見て、私は自分の予測にさらに自信をもった。
 中国各地で繰り広げられる労働力争奪戦の過激ぶりを報道したニュースを先週読んだ。労働力争奪戦のいっそうの過激化を暗示するその内容に驚きを覚えた。
 
 天津市西青区は春節がまだ終わらぬうちに「24時間就職マンション」を設け、入居を申し込んだ地方の労働者に対して、気に入った仕事が見つかるまで無料での居住を許可し、そればかりではなく食事も仕事のあっせんも就職に必要なトレーニングも無料で提供するとした。
 広告を見てマンションに入居した若者はチェックインを済ませると、すぐに求職登録の手続きをして、翌日朝から企業の面接を受ける。ただで食べた朝食は結局1回だけという人がほとんどだそうだ。仕事を探し求める労働者がこのマンションに集まってくることを知り、企業もこのマンションに求人担当者を派遣し、我先にと労働者を確保する。
 この人々の意表をつく「24時間就職マンション」はまさに日を追って激しさを増してきた労働力争奪戦の落とし子だと見ていいだろう。実は、労働力の確保の困難さを見て、天津市西青区が仕事を探し求める労働者と求人に焦る企業側に交流のプラットホームを提供しようとして、就職トレーニングセンターを臨時に「24時間就職マンション」に仕立てたのである。
 
やる以上は、目立つようにすれば効果的だと思い、食事の無料提供にも踏み切った。こうしてメディアの注目を浴び、狙い通り24時間就職マンションが広告塔となって、毎日多くの労働者が訪れ、多い日には200人が入居の申し込みをした。こうして地元の企業の労働者確保に一助を提供したこととなった。
 この24時間就職マンションは中国版の派遣村と見ていいのでは、とも思ったが、一番の大きな違いは24時間就職マンションの方では仕事が入居者を待っていることであろう。日本の派遣村に漂うあの悲壮感や絶望感は24時間就職マンションにはない。
 ただ、天津市西青区のやり方はすぐにほかの地方にも真似されてしまうだろう。西青区も今の成功にあぐらをかくことはできない。他の競争相手を制する労働者確保の奇策をこれからも練らなければならない。中国の労働力市場はこれからますますドラマチックになっていく。その競争劇はいろいろなヒントをくれる。
 目を日本国内に移すと、外国人研修生制度がいつまで続くかは分からないが、中国人研修生に限って言えば、そう遠くない将来に、引き潮のように消えてしまったあの密航者の大群と同じように日本から引いていくだろう。
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