人々は中国がいかに世界を形作っているか理解し始めている。石油、鉄鉱石、石炭、銅、ボーキサイト、その他無数の鉱物資源に対する中国の飽くなき需要は、オーストラリアからチリに至るまで多くの国の経済を活気づかせている。
中国の膨大な炭素排出量は、に関する議論を一変させている。いよいよ輝きを増す軍事装備の収集は、台北やハノイ、ワシントンの軍幹部を心配させている。だが、それほど理解されていないのは、世界経済にしっかり組み込まれた中国自身が、いかに世界の影響を受けているか、だ。
世界経済に組み込まれ、大きな影響を受ける中国
それが今週、リビアで明らかになった。中国政府はこれまでに、石油、鉄道、通信、建設業界で働く3万5000人の中国人労働者のうち、3万2000人をリビアから避難させた。足止めを食らった数千人の労働者を救出するために、政府は民間機20機に加えて空軍輸送機を4機派遣した。上海日報によると、こうした活動に空軍が派遣されるのは初めてだという。
また、4000トン級のミサイルフリゲート艦「徐州」を首都・北京から約8800キロ離れたリビア沖へ送り込んだ。
ストックホルム国際平和研究所で中国・世界安全保障問題を担当するリンダ・ヤコブソン氏は、リビアへの軍派遣は重大な変化を記す動きだと言う。
これによって中国は、自国から遠く離れた場所で国民を守れる国として、米国、英国、その他の先進国と肩を並べることになるからだ。
中国政府による今回の救出活動は、隆々たる力の誇示と見なすこともできる。だが、その一方で、中国が遠く離れた場所(また時に不安定な地域)での出来事に深く巻き込まれていくにつれ、トラブルを避ける力が日に日に衰えている証拠でもある。
中国の外交政策の専門家は長らく、急増する在外中国人の危険性について懸念してきた。2007年には、ナイジェリアの石油関連施設で働く中国人労働者16人が誘拐されたほか、9人の中国人作業員がエチオピアで武装グループに殺害された。
アフリカ大陸などで急増する在外中国人
2004年に起きたインド洋大津波の後は、中国政府は、スウェーデンを含む多くの国の政府が救助活動を巡って非難されるのを不安げに見つめていた。この危機対応に当たって中国が送り込んだのは貨物船1隻で、米国は海軍第7艦隊を派遣していたからだ。
海外の中国国民をいかにして守るかという問題は、リビアにとどまらず広範に及ぶ。
フランス人ジャーナリスト、セルジュ・ミッシェル、ミッシェル・ブーレ両氏の著書『La Chinafrique(邦題:
アフリカを食い荒らす中国)』によると、ナイジェリアには5万人の中国人労働者がおり、このほか、スーダンに2万~5万人、ザンビアに4万人、アンゴラに3万人、アルジェリアに2万人、さらに数千人がアフリカ全土に散らばっているという。
そして今、中国の国営企業は南米に押し寄せている。やはり自国から遠く離れた、天然資源に富んだ地域である。
中国は領事館の安全保障体制を強化しており、情報収集能力を高め、軍に避難訓練の演習をさせてきた。だが、ブリュッセル現代中国研究所の研究主任、ジョナサン・ホルスラグ氏によれば、大きな問題は、中国政府が果たして、自国企業が活動する国々の政治情勢に影響力を振るわざるを得ない気になるかどうか、だ。
不干渉主義を貫けるのか?
中国がそのような道に進むだけの軍事力を持つまで、あるいは、その意思を持つまでには何年もかかるかもしれない。あからさまな行動を取ろうものなら、自ら掲げる不干渉主義に反することになるし、平和的な台頭というストーリーを汚すことになる。
北京の中国人民大学で国際関係を教える時殷弘教授は、その可能性は低いと考えており、「中国には、遠く離れた場所の独裁政権を支えるような知識もリソースもない」と言う。
リビアでの出来事は、中国政府には実際、全世界に手を伸ばす力があることを示している。だが一方で、中国が一連の出来事に揺さぶられていることも示唆している。
先週末、中国政府は国際刑事裁判所(ICC)にムアマル・カダフィ大佐の捜査を付託する国連安保理決議に賛成票を投じるという前例のない行動を(恐らく嫌々ながら)取った。
米国と同様に、中国もICCの管轄権を認めていない。「この決断は中国政府にとって極めて難しいものだったに違いない。中国が国際社会の完全な参加国になる道のりの一里塚とも言える決断だ」と、アジアソサエティの米中関係センター所長を務めるオービル・シェル氏は語っている。
中国政府の脆い脇腹
しかし、英エコノミスト誌の前編集長、ビル・エモット氏がタイムズ紙への寄稿で指摘したように、どれだけ不本意であれ、ICCを支持したことは、脆い脇腹を露呈させる。国家の指導者が国際基準によって裁かれるべきだという考えは、中国の外交政策の聖域である不干渉主義を損ねるからだ。
さらに悪いことに、これは自国での武力行使について厄介な疑問を投げかける。「中国は事実上、同国が1989年に天安門広場での反乱に対して行ったのとほぼ同じやり方で反政府勢力を押さえ込んだことについて、カダフィ大佐をICCに付託することに票を投じたわけだ」とエモット氏は書いている。
近くオーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所に転身するヤコブソン氏は、リビアの出来事と1989年の中国の出来事の類似点こそが、中国政府を国際的なコンセンサスに従うよう仕向けたのだと指摘する。
「中国は出る杭になりたくない。注意をそらし、目立たない存在でいたいと考えている」と彼女は言う。だが、もし今週の出来事が何かを示しているのだとすれば、中国が鳴りを潜めている時代は終わったということだ。