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今週のコラムニスト:李小牧
http://newsweekjapan.jp/column/tokyoeye/2010/05/post-178.php

 日本の外務省はこの7月1日から、中国人個人観光客向けのビザ発給条件を緩和する、と発表した。現在は年収25万元(約340万円)以上としている発給条件を大幅に引き下げ、富裕層だけでなく中間層も日本に呼び込もう、という狙いだ。

 去年、中国本土から日本に来た個人・団体観光客は101万人。条件の緩和で、これまで160万だったビザ発給の対象世帯数は10倍の1600万世帯になる。単純に考えて中国人の個人観光客も10倍になる――と、岡田克也外相は考えているのかもしれない。

 だが、そう簡単に行かないだろう。それは、中国人観光客が日本でどんな「観光」をしているかを知ればすぐ分かる。

 中国人観光客の多くは、東京〜大阪を5日間ないし6日間で駆け抜ける「弾丸ツアー」に参加する。富裕層のはずなのに、なぜか旅費は航空券や宿泊費を含めて5000元(約6万5000円)程度と格安だ。

 彼らが泊まるのはビジネスホテルや古ぼけた安宿。あるツアーでは、東京・大井埠頭にあるコンテナトラック運転手が定宿にしているビジネスホテルが宿泊先にあてがわれた。彼らの多くは買い物を目的に、それぞれ200万円から300万円を財布に入れて日本にやって来るが、決してヤマダ電機や伊勢丹には行かない――。

■「ぼったくりツアー」の真犯人

 この奇妙なツアーのからくりを解くカギは、ツアーガイドが最後に案内する免税店にある。

 ガイドはツアーの最後に観光客を丸抱えして、自分が関係する秋葉原の免税店に連れて行く。店はツアー客に電気街の存在を気づかれると困るから、電気街から少し離れたところある。「ここでしか買い物ができない」と中国人観光客を追い込み、持って来たカネを散在させる。免税店からガイドへのバックチャージとして、1つのツアーだけで数百万円が支払われる。

 ガイドがツアー1つを丸ごと「買い取る」ケースもある。宿泊費や食費を安くすればするほど儲けが増えるのだから、彼らはできるだけ中国人観光客を安宿に押し込もうとする。

 最後に電気街を案内する「良心的な」ガイドもいるが、その頃にはツアー客は免税店でほぼカネを使い果たしている。ガイドが朝8時に銀座に連れて行くので、中国人観光客はまだ開いていない店の前で記念写真を撮るしかない――という話を聞くと、もはや泣いていいのか笑っていいのか分からなくなる。

 ツアーガイドをしているのは在日中国人だ。中には学生や主婦がアルバイトでやっているケースもある。彼らに日本文化を中国人観光客に説明する深い知識はないが、金儲けの知恵はある。あるツアーでは、ガイドが3000円の寿司を出前で取って中国人観光客に1万2000円を支払わせた。差額の9000円の行き先はもちろん自分の財布の中だ。

■悪徳ガイドが広める負のイメージ

 中国人が中国人の無知につけ込むこの悲劇に、日本人はまったく気づいていない。私の知る範囲では、すでに2、3年前から中国人の日本ツアーはこんな状況になっている。

 中国人同士の話と思ってはいけない。歌舞伎町の飲食店主がよく「中国人が街にあふれているのに店に客が来ない」と首をかしげているが、ガイドはバックチャージのもらえない店でツアー客がカネを使うと困るから、「日本一安い」ヤマダ電機にも、歌舞伎町の飲食店にも客を寄り付かせないようにしている。

 これまでの経過を見ていると、日本政府は観光客の数さえ増えれば何とかなる、と考えているフシがある。だが、悪徳ガイドにぼったくられた中国人によって、日本の悪いイメージが中国に広がりつつある。このままでは団体客だけでなく、個人客も「ぼったくり日本」に尻込みしかねない。

 何より必要なのは、中国に正確な日本の情報を発信すること。正しい情報が広がれば、悪徳ガイドはやがて淘汰される。以前、わが新宿の湖南菜館に「中国人ガイドとケンカした」という中国人観光客が駆け込んできた。劣悪な食事内容に怒った客がわが店に来たのは、私の著書を読んで新宿に歌舞伎町案内人がやっている湖南菜館という店がある、と知っていたからだ。

 聞けば、事業仕分けの嵐が吹き荒れる中、日本の観光庁の今年の予算は去年の倍の127億円に達したという。だが日本政府がこういった現状を正しく認識しなければ、127億円をドブに捨てることになりかねない。

 私はこれまで、著書を通じて「正確な」日本の情報を中国に提供してきた。今も日本の観光情報を中国に向けて発信するポータルサイトの開設に協力している。127億円を捨てるぐらいなら、「日本案内人」の李小牧にいくらかバックチャージを回したほうが有効だと言っておこう(笑)。


*【主張】中国人ビザ緩和 治安を悪化させぬ対策も!

2010.7.5 03:16 産経ニュース

日本を訪れる中国人向け個人観光ビザ(査証)の発給要件が7月から大幅に緩和された。「観光立国」を目指す日本として、成長著しい中国人の旅行者を大幅に増やす狙いがあるという。

 だが、発給要件の安易な緩和は不法就労などを増す要因ともなり得る。観光振興は経済波及効果が大きい。政府が力を入れるのは当然だが、査証の制度変更は国民生活の安全にも影響を与えかねない。実際の査証発給にあたってはこれまで以上の慎重な対応が求められる。今後の推移次第では、躊躇(ちゅうちょ)なく見直す判断も必要だ。

 中国人の個人観光客への査証発給は昨年7月に始まったが、不法滞在などへの懸念から、対象は年収25万元(約340万円)以上の富裕層に限定してきた。

 新制度は、これを一気に中間層にまで広げ、官公庁や大企業の幹部で、年収6万元(約80万円)以上かクレジットカードのゴールドカードを持っていれば査証を発給する。1人が条件を満たせばその家族も発給を受けられる。

 外務省によると、旧制度による個人の観光査証発給は今年5月末までの10カ月で約2万件だった。制度変更により、対象となる中国人の世帯は従来の約10倍にあたる1600万世帯に増える。

 訪日旅行客数3千万人を目指す観光庁も、中国を最大のターゲットにしている。団体客を含め昨年の101万人から3年後は390万人、6年後には600万人とする目標を掲げている。

 中国人富裕層の旺盛な購買力も要件緩和の大きな理由だ。日本政府観光局の調査によると、中国人旅行客が日本国内で落とすお金は1人平均約11万6000円(平成19年)で国別のトップクラスだという。首都圏のデパートでも、来店する外国人観光客の8割は中国本土からで、利幅の大きい高額品などを購入している。

 とはいえ、添乗員もつかない個人旅行の拡大は、不法滞在をもくろむ者には願ってもない合法的入国手段になり得る。査証申請にからんで、中国側の文書偽造がしばしば発覚する現実もある。

 法務省によれば、一昨年、不法滞在などで日本から強制退去処分を受けた外国人約4万人のうち、3割近くが中国人で6年連続の1位だった。本紙6月25日付のeアンケートでは、9割以上が治安の悪化を心配している。こうしたことを忘れてはなるまい。
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