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韓国の不動産市況は依然、低迷が続いており、建設会社や金融機関はプロジェクトファイナンスという時限爆弾を抱えたままだ。17日に政府が公表した「BIS基準未達リスト」の金融機関はほかにもあり、事態はなお流動的だ。

韓国経済の時限爆弾

 厄介なのは、こうした金融機関だけでなく、個人の負債も急増していること。長年続いた「不動産神話」で、韓国では高値でマンションなどを買ったが、その後の価格下落で売るに売れない個人が急増している。もちろん、購入時の借金はそのままだ。
 個人負債の問題も「いつはじけてもおかしくない時限爆弾」と言える。
 最近になって韓国経済全体への懸念も急に高まってきた。つい1年前まで韓国経済は、「米国発金融危機を真っ先に乗り越えた優等生」と言われていた。マクロ経済も企業業績も絶好調だった。
 ところが、最近の対ドルでのウォン高進行で輸出企業の業績が徐々に悪化してきた。原油高に加え、輸入食料品などの上昇で物価上昇が止まらない。1月の物価上昇率は4.1%で、2月も4%を超える高い水準だったと見られる。
 インフレ懸念も急速に出てきた。それでも不動産の売買価格は上昇せず、賃貸料は逆に急騰するという庶民層を直撃する事態があちこちで発生している。株価もじりじり下げ始めた。

李明博政権に追い討ちをかける口蹄疫の蔓延

韓国で口蹄疫の感染拡大、8頭目が内陸でみつかる
 
韓国・忠州特別市の農場の入り口に立って警戒する保健当局者〔AFPBB News
 金融機関の相次ぐ営業停止は、絶好調だった韓国経済に急な変調が見え始めた時に起きただけに不気味でもある。
 こうした経済環境の悪化に加えて、さらに気になることもある。
 李明博政権の政策実行力についての懸念だ。一連の貯蓄銀行営業停止劇の一因に、政府対応の未熟さがあったことは指摘した。
 最近、これに似たような例をよく見かけるようになった。例えば、口蹄疫の急激な拡散。政府の初動に問題があったことは明らかで、あっという間に全国に広がってしまった。
 
 口蹄疫が初めて見つかったのは2010年11月末。韓国南東部だった。しかしその後、爆発的な勢いで全国に拡散した。これまで殺処分になった家畜は345万頭以上と言われる。

宮崎県の実に10倍の家畜が殺処分に

口蹄疫拡大の韓国、家畜大量殺処分の担当者に精神的ケア
韓国・京畿道高陽の農園で、牛にワクチンを接種する獣医〔AFPBB News
 日本でも宮崎県で大きな被害が出たが、幸いに全国への急速な拡散はなかった。殺処分になった家畜も30万頭と言われている。
 あれだけ大騒ぎになった宮崎の10倍もの家畜が殺処分になったということからも、韓国での被害の拡散がいかにすさまじかったか分かるはずだ。
 今、韓国では、口蹄疫発生後の行政の対応に強い批判がある。それだけではない。これだけの家畜を殺処分した際、生き埋めにするというずさんな対応が続出。
 土壌汚染が起き、悪臭が出たり飲料水が汚染されるなど、2次被害があちこちで発生しているのだ。
 大量の殺処分で、今もソウルのスーパーなどでは「牛乳不足」も続いている。

レームダックの初期症状か

 金融機関を監督する金融委員会の金錫東(キム・ソクドン)委員長は、2月17日の会見で「口蹄疫の事態を見て初動措置が重要だと判断した」と語り、2つの金融機関を営業停止にしたことが「政府による迅速な措置」と言わんばかりの説明をした。
 ところが、それからの措置は後手続き。5つもの金融機関を追加で営業停止にしたのは、口蹄疫騒動なみの「どたばた劇」と言われても仕方がないだろう。
 2月末で李明博政権は発足から4年目を迎えた。韓国の憲法では大統領の任期は1期5年となっており、政権は残り任期2年と終盤に差しかかった。
 韓国では政権発足から3年が経つと、政治家や公務員の間で「次の政権」を見越した動きが本格化する。どうしても気が緩みがちで、対応が後手に回る恐れが増えてくる。こういう「レームダック化」の初期症状が出てきたのかもしれない。
 
政権末期になるとスキャンダルも発覚して、政権への信頼度も急速に低下するのが一般的なパターンで、警戒する声は強まっている。

韓国経済人の頭をよぎるIMF危機

 韓国のある経済人はこう嘆く。
 「政府が大丈夫と言い続けている間に8つの金融機関が営業停止になるなど、これ以上の失態はない。口蹄疫の一件もあって、国民の間に政府不信が急速に高まっている」
 「IMF危機の時も、最初に総合金融会社という金融機関がばたばた倒れた。不動産市場は冷え込み、ウォン高は進み、物価は上昇しているなど経済の先行きは心配だ。政府の舵取りが重要だが、政界では次期大統領候補の話ばかりしている」
 韓国がIMF危機の直撃を受けた1997年も、金泳三政権の任期切れ間近のことだった。
 韓国経済全体に危機のシグナルが出てきたとまでは、まだ言えない。大手企業の業績が伸び悩みだしたとはいえ、絶対的な利益額はなお巨額だ。
 それでも、韓国経済を取り巻く潮目がはっきり変わってきたことだけは確かだ。
 

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韓国経済に黄信号、銀行が次々営業停止に!

大規模な口蹄疫禍も襲い、踏んだり蹴ったりの李明博政権

2011.03.04(Fri) JBプレス  野口透
 
 韓 国でわずか1週間もたたない間に7つの金融機関が営業停止に追い込まれた。一部金融機関では取り付け騒ぎも起きた。問題が起きたのは大半が地方の小規模の金融機関で、韓国政府は「事態は収束した」と繰り返すが、果たしてそうか。

これ以上ないはず・・・、しかし営業停止の連鎖はやまず

 絶好調だった韓国経済の風向きが変わってきたことと、任期後半に入った李明博政権の政策実行にもたつき感が出てきたことは注目すべきだろう。
 「営業停止はこれ以上ないと政府が発表したから信じたのに・・・」
 2011年2月21日。週明け月曜日の営業時間になっても、釜山にある釜山2貯蓄銀行の扉は開かなかった。
 その代わり、営業停止のお知らせという大きな紙が何枚も貼られ、詰めかけた顧客が「5000万ウォンまでの預金・利子は保護されます」という内容を食い入るように読んでいた。
 それでも納得できない一部顧客は、詳細な説明と謝罪を求め、ドアを叩き続けていた。
 前週末の19日、韓国の金融当局は、釜山2、中央釜山、全州、宝海の4つの貯蓄銀行を営業停止にすると発表した。

政府の対応に問題あり

 1日で4つの金融機関が営業停止になるのは異例だが、2日前の17日木曜日にも、釜山貯蓄銀行と大田貯蓄銀行の2つの金融機関が営業停止になっていた。
 韓国政府は、17日に2つの金融機関の営業停止を発表した際、「これ以上の営業停止はない」と強調していた。そのわずか2日後に、さらに4つの金融機関が営業停止になってしまったのだ。
 連鎖営業停止が起きたのは政府の対応に問題があったからだと言わざるを得ない。
 17日に2つの金融機関を営業停止にした際、政府は「これ以上の営業停止はない」と言いながら、BIS(国際決済銀行)基準の自己資本比率が5%に達していない金融機関などを公表した。
 
心配するな」と言いながら「ブラックリスト」を公表するようなもので、これでは預金者が狼狽するのは当たり前だ。

ブラックリストの金融機関に預金者が殺到

 発表直後から預金者は、「ブラックリスト」に名前が載った金融機関に殺到した。預金をすべて引き出すためだ。こうして19日に、4つの金融機関が追加で営業停止になったのだ。
 もちろん政府の狙いは、実態を公表したうえで「これらの金融機関は大丈夫だ」とお墨付きを与えることだった。だが、この狙いは完全に裏目に出てしまった。しかも、これだけでは終わらなかった。
 22日の火曜日には、韓国東部の江原道に本拠を置く道民貯蓄銀行が、「取り付け騒ぎが起きる可能性がある」として営業時間になっても窓口を開かない、前代未聞の「自主的営業停止」に踏み切った。
 政府は「金融機関が勝手に営業を中断することなど許されない」と営業再開を指示したが、道民貯蓄銀行は頑としてこれを拒否。
 この金融機関も、政府が公表した「BIS基準未達リスト」に入っていた。

1カ月に8金融機関が営業停止になる異常

 結局、韓国政府はこれを追認する形でこの金融機関を営業停止とし、わずか1週間もたたない間に7つの金融機関が営業停止になった。
 実は1月14日にもソウルの三和貯蓄銀行が営業停止になっており、1カ月の間に8つの金融機関が営業停止になるという異常事態になってしまった。
 政府は三和貯蓄銀行が営業停止になった時も「これ以上の営業停止はない」と表明していた。このため、釜山貯蓄銀行の預金者23人が「政府の説明を信じて損害が生じた」として金融委員長を検察に告発する騒ぎにもなった。
 なぜ、こんなことになったのか。
 
営業停止になったのは、いずれも日本の信用金庫などに相当する「相互貯蓄銀行」だ。中小企業や商店主、個人向けの、地域に根付いた金融機関として一定の役割を担ってきた。

都市銀行より1~2%も利子が高い貯蓄銀行

 貯蓄銀行は、何よりも利子が高いことで有名だ。1年物定期預金で都市銀行より1~2%高い利子を約束して、個人預金を獲得してきた。これを中小企業や商店主などに貸し付けるというのが、当初のビジネスモデルだった。
 しかし、「地域に根付いた」金融機関は一方で、地域の有力者や企業に買収されるようになり、こうしたオーナーの「私銀行化」が進んでいた。
 さらに、ここ10年ほどは不動産開発ブームに乗って、プロジェクトファイナンス事業を急拡大させ、資金量も急増させてきた。
 韓国はもともと日本以上に一般国民の間に「不動産神話」が根強く、財テクといえば、まず、マンションなど不動産投資のことを指すと言ってよかった。
 特にここ10年間は、ソウル周辺地域と地方の格差縮小を狙った「地域均衡発展策」もあって、地方都市で大規模宅地開発、マンション建設ラッシュが続いていた。

政府の格差縮小策が裏目に

 これが地方の貯蓄銀行にとっては絶好の事業機会となり、プロジェクトファイナンスにどんどん資金をつぎ込んだ。ところが、2008年の米国発金融危機以降、韓国での不動産価格の上昇にストップがかかり、特に地方の大型開発案件で、中止、凍結、縮小が相次いだ。
 このあおりで、一部の貯蓄銀行の業績が一気に悪化したのだ。
 韓国では、他の金融機関での取り付け騒ぎなどは起きていない。営業停止になった8つの金融機関はいずれも都市銀行に比べて規模が小さく、韓国の金融システムや経済全体への影響は当面は限定的だろう。
 ただ、これで一件落着かといえば、そう簡単でもない。
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